「傷口には塩を揉みこめ?」


 これは一体どういう状況なのか。
 アスナと一緒に女子寮の廊下を歩いていたはずなのに、気が付けば寮に設置された大浴場に運び込まれ、挙句水着姿の教え子達に囲まれている自分に困惑し、ネギ・スプリングフィールドは叫んだ。

「こ、これはいったい何の騒ぎですかぁーーーー!?」

 歩いていたら突然、頭に袋を被せられて担ぎ上げられ、拉致された先に待っているのは水着の生徒で皆、我も我もと自分の服を脱がそうと手を伸ばしてくるのだ。少年が状況の説明を求めて叫んだのも無理なかろう。

「そんなに怖がらなくていいよ~」
「そうそう! ネギ君、元気なかったからみんなで元気づけてあげよう、って思っただけだから!!」
「愛するネギ先生のため、僭越ながらネギ先生を元気づける会など催させていただいたのです」
「え? え――――」

 要領は得ないものの、次から次に飛び出す生徒達の自分の為であるとの言葉に目を丸くする。と同時に、生徒達に己が励まされることになった原因に思い至り、焦燥に似た感情を胸の内に覚えた。
 エヴァンジェリンとの一件で塞ぎ込み、精神的に余裕がないことを周囲の人間に知られていたという事実がネギの心を揺さぶる。見習いとはいえ、一端の魔法使い気取りでいたところに冷水を浴びせられた気がした。
 生徒を守るはずの立場にいるはずの自分が、逆に生徒達に慰められている。この事が、未熟な身にしては大きい魔法使いの自信をいたく傷つけたのだ。

(僕、先生なのにっ……!)

 騒がしすぎるのはさて置き、純粋な善意から励ましてくれている生徒達の優しさに感謝する反面、情けなさと不甲斐なさに身を潰されそうとも思う。
 先に生まれ、経験を積んできたからこその『先生』。特殊な生い立ちだからといって、数えで十歳でしかない子供が人に教えを説き、導くのだと意気込んでいる姿のおかしさを少年は理解していないし、また指摘したところで理解できぬのだろうが。

「よーし、それじゃネギ君を脱がすよー!!」
「お風呂だしね、ほ~ら脱ぎ脱ぎしよーね~」
「ちょっと、みなさんヤメ……ウワーン! 誰か助けてー!?」

 胸中で分不相応な嘆きを続けていたネギだが、そんな彼も生徒達が行ってくる過剰なスキンシップに思考を中断せざるを得なかった。
 どんなに大人ぶろうとしても、子供は子供。ネギに対して3Aの少女達が過剰なまでにちょっかいをかけるのは、彼女らがネギの背伸びをしたがる部分に本来の子供らしい部分を無意識に嗅ぎつけ、引き出そうとしているのかもしれない。

「――――いや~ん、ネギ君のちっちゃくてカワイイ~!」
「へー、こんな形になってるんだー」
「う~ん? でも漫画とか雑誌で見たのと違うよね。やっぱ子供だからかな」

 もとい、引き出そうとしているのだと思いたい。

「相変わらずアホなテンションですね……。のどかは参加しないですか?」
「ええ~!? わ、私は恥ずかしいからいいよ~」
「およよ? 恥ずかしいってことは一応、参加したくはあるのかな~、のどかってば!」
「う、うわ~~~~ん、誰か助けてーーーーー!?」

 三途の川の奪衣婆か、はたまた河に落ちた獲物に群がるピラニアか。容赦なくネギの服をはぎ取り、放り捨てて品評会という名の励ましが行われている大浴槽から少し離れた場所。
 他のクラスメイトと同様、水着に身を包んだ少女達が話に興じていた。
 何がとまでは明言せぬが、矮小・微小・大の順に並んだ少女達――綾瀬夕映、宮崎のどか、早乙女ハルナの三人は、床に散らばったネギの服を回収しながらネギの様子を窺う。

「あ~、ありゃ本気でトラウマもんだ。まあ、ネギ君がみんなに愛されてるって証拠だからいいよね!」
「玩具ということですね、分かります。まったく……一時は自殺でもしそうなほど暗い表情をしていたですが、あの様子だと本当にそうなりそうで怖いですよ」

 無責任にサムズアップして言うハルナへ、男の子としての尊厳を辱められているネギに同情する夕映が突っ込みを入れた。

「そうなりそうな時はほら、のどかが優しく慰めてあげて好感度アップだし? ね、の~どか!」
「え、ええ~!? 私、そんなことできないよ~!」
「ハルナの考えている展開はともかく、落ち込んでいる時に慰めるというのはポイント高いですから。頑張るですよ、のどか」
「ゆ、ゆえまでおかしなこと言わないでよ~!」

 一度、階段から転げ落ちそうになったところをネギに助けられて以来、赤毛の少年に好意を寄せていることを知る友人二人の言葉に、のどかが畳もうとしていたネギの服を放り出すほど慌てふためく。

「そこまで焦る必要はないでしょう? のどかがネギ先生に好意を寄せているのは、既に分かりきったことですし……おや、何か鳴っているですよ」

 顔を真っ赤にしている親友に苦笑しつつ、再び浴室のタイル床に散らばったネギの服装を拾い上げようとした夕映が、どこかから届く携帯電話の着信音に気が付いた。

「携帯でしょ。私達、こんな格好だから持ってきてないし。ネギ君のじゃない?」
「道理ですね――――ありました」
「だ、駄目だよゆえ~、勝手にネギ先生の携帯に触ったりしちゃ……」
「連絡相手を確認するだけですよ。もし緊急そうなら、ネギ先生に伝えた方がいいでしょうし」

 当然、伝えるのはのどかの役目ですが。悪戯っぽく笑い、小さな背広の内ポケットからネギの携帯電話を取り出した夕映だったが、画面に表示された相手の名前に眉根を寄せた。

「だれだれ、もしかして知らない女の人?」
「そんなわけないでしょう。私達も知っている人ですよ」

 眉間に皺を寄せた反応に気付き、興味深そうに手元を覗きこんできたハルナに、夕映は手に持ったネギの携帯を見せた。
 折りたたみ機構も付いていないシンプルな作りの携帯。その液晶画面の部分に表示されていたのは、彼女らとも一応の面識がある青年の名であった。

「なんだ、ジロー先生じゃん」
「ネギ先生に用事でもあるんでしょう。見ての通り、あちらは出られる状態ではないですが」
「ど、どうしようか~?」
「どうするもなにも、このまま放置するしかないのでは? まさか、勝手に出るわけにもいきませんし。後で電話があったと伝えるですよ」
「うーーーーん……」

 クラスメイト達にもみくちゃにされて悲鳴を上げ続けているネギと、呆れを隠さぬ半眼を向けている夕映を交互に見やった後、ハルナは携帯電話を凝視して唸りを上げた。
 夕映の言っていることは、実に常識的で真っ当な言葉なのだが、どうにも物足りなく感じる。
 歳の割に豊満な胸を強調するように腕を組み、触角とも形容される二本の長いアホ毛を揺らす。その様子は、まるで微弱な電波か何かを探る昆虫のようでもあった。

「何を考えてるですか、ハルナ?」
「う~ん、ちょっちねー。夕映ってさあ、ジロー先生と仲良かったよね?」
「ハア? ……まあ、雑談の一つ二つを交わす程度ではありますが。それがどうかしましたか?」

 仲が良いかと聞かれると微妙なところだ。つい先日、オコジョ片手の青年と桜通りで交わした会話は楽しくはあったが、いざ思い返せば中途半端な形で会話を切り上げられ、有耶無耶のうちに話を終わらされた気さえする。
 それに気付かず、あまつさえ興味深い人とさえ感じた自分が、何とはなしに腹立たしい。憮然とした表情で答えた夕映を見た瞬間、ハルナの頭上で忙しなく揺れていたアホ毛が、ピンッと力強く引っ張られるように伸びあがった。

「――――見えた、そこぉっ!!」
「ちょっ、いきなり何をするですか!?」
「ハ、ハルナ~?」

 目を光らせたハルナが残像を生む速度で手を動かして、夕映の手からネギの携帯電話を奪い取る。
 突然の友人の暴挙に驚いて声を荒げる夕映と、困惑して問い掛けるのどかに構わず、ハルナは携帯電話の通話ボタンに向かって、力強く伸ばした逆の手の人差し指を突き込んだ。

「繋がれええぇぇぇぇっ!!」
「なんですか、その無駄に力強い掛け声は!? というか、勝手に人の電話に出てどうするです!!」
「掛け声はなんとなく!! ホイ、てなわけで夕映~、ネギ君の代わりに出て」
「はあ!?」
「だって、緊急の電話だったら色々と困るじゃん? まさか、水着の生徒達に囲まれて励まされてました、なんて言えないだろうし」
「む……」

 乱心したかと思った友人のまともな一言に、抗議しようとしていた夕映も口を噤まされる。
 実際問題、教師であるネギが裸で水着の生徒達に囲まれているのだ。もし、ジロー以外の先生もネギを捜していて、運悪くこの状況を知ってしまったら。

「どう考えても首でしょうね。仕方ないですね、とりあえず事情の説明するですから、静かにしてるですよハルナ」
「アイアイ、マム!」
「本当に分かってるですか? ――――はい、もしもし。こちら、ネギ先生の携帯です」

 調子のいい返事とともに敬礼するハルナを疑わしげに見た後、夕映が背を向けて電話に出る。
 そんな夕映の様子を窺いながら、のどかが電話の邪魔にならぬよう声を潜めてハルナに話しかけた。

「きゅ、急にどうしたのハルナ~? なんだか顔が悪い人みたいだよ~」
「ぐふふ、分かる? やっぱ分かっちゃうか~」
「分かるっていうか……すごくアピールしてるっていうか~」

 頭に手をやり、苦笑するハルナの頭頂では依然として二本のアホ毛が屈伸を続けていた。それを盗み見して、言いにくそうにのどかが苦笑する。
 それから、まさかとの思いでネギの携帯電話を使い、ジローと何事か話している夕映を見やった。

「えーっと……ハルナ~、もしかしてだけど……」
「う~ん、どうだろうねー。夕映が男の人と話す姿なんて、部活でも滅多に見なかったし……ひょっとしたらひょっとするかも、ぐらい?」

 でも、意識してるのは間違いないはずだよ。妙な自信とともに断言するハルナに、のどかもそうなのか、と思い始めていた。
 考えてみれば、珍しいことなのだ。親友の評価としては間違っているが、夕映は非常に気難しく、偏屈な少女である。切っ掛けが特殊だからという理由だけで、皮肉など交えて会話するようになるとは思いにくかった。

「馬は合ってるみたいだよね。どっちかっていうと、ジロー先生が合わせてるって感じはするけど」
「え?」
「いやー、上手くは言えないんだけど。誰に対してもそんな感じはするしさ」

 そう言って、漫画家になるにはまだまだ人間観察が足りないと笑うハルナに、のどかはそんなことはないと首を振る。言われてみれば、頷ける部分があると感じながら。

「まっ、私があれこれ考えてもしかたがないし。ジロー先生には頑張ってもらって、ぜひとも夕映と仲良くなってもらいたいのさ!」
「そ、それって何のために?」

 ある程度の予想が付いていたが、親友がこれを切っ掛けにジローとより良好な関係になれるよう願っているのでは、と少しばかり期待を込めて尋ねたのどかに、ハルナは音がしそうな勢いでウインクし、サムズアップと共に断言した。

「もちっ、漫画のネタに使うためだよ!!」
「や、やっぱり~……」

 悪気はないのだ。ただ、野次馬根性と他人の迷惑を顧みないだけで。
 出会った当初は誰に対しても心を開かなかった夕映を、有無を言わさず自分達のグループに巻き込んで今の親友という関係にまで持っていた少女に、のどかは苦笑を浮かべるしかなかった。
 内心、自分がネギに向けている好意も、ハルナからすれば良い漫画の題材なのだろうと、軽い諦めの気持ちを抱きながら。




 シャークティが南楓荘を後にしてから、二刻ほど経った頃。
 湯呑みと急須の回収と称してあれこれ聞きにきた熊子から逃げだしたジローは、日の落ちた麻帆良の街をぶらりぶらりと歩いていた。
 行き先がないわけではなかったが、久方ぶりに一人で出歩いたせいだろう、足取りは非常にゆったりとしている。遠目にその姿が、ほろ酔い加減に散歩を楽しんでいる風にも見えるのは、着古したシャツにジャージズボン、足には草履というくたびれた服装のせいだろう。
 ニャジダスのロゴに猫のシルエットが刺繍された、所謂パチモノブランドのジャージズボン。着こなしに拘る同年代の学生なら、まず見向きもしないはずだ。
 そんなジャージのポケットに片手を突っ込み、首元を掻きながらジローが呟く。

「あー、今から女子寮に行くのは問題ありそうだし……さて、どうやってネギにエヴァンジェリンの話をしたもんか」

 シャークティからエヴァンジェリンの情報を聞いたことを、ネギと今後の行動を話し合う良い切っ掛けとするために、少年が寄宿している女子寮の近くまで来たところで、その倫理的面での問題に気が付いたのだった。
 数えで十歳ということを配慮すれば、ネギが女子寮で寝起きするのは頷けないこともない。内心、近右衛門の言葉があったせいで、少年少女の情操教育に現在進行形で問題が発生している気もしないでもないが。
 それはともかく、仮にも立場上は教師――麻帆良に赴く数日前に、ドネットやメルディアナ魔法学校の教員達による形ばかりの試験と面接を受け、その日に教員免許という名の身分証明書をそっと渡された――であるジローが、とっぷり日も暮れた時刻に女子寮を尋ねる訳にはいかなかったのだ。

「電話で呼び出すか。この時間なら飯もまだだろうし、一緒に晩飯食うのも悪かないだろ」

 立ち止まり、宙を眺めること暫し。ポケットから携帯電話を取り出して、独り言を呟きながら番号を押していく。
 数回のコール音が繰り返され、受話器から電話に出たことを知らせる声が届く。予想していた少年のものとは違う、聞き覚えのある少女の声で。

『はい、もしもし。こちら、ネギ先生の携帯です』
「――――しれっと他人の携帯だって主張するなら、最初から電話に出なきゃいいと思うんだけど?」
『ええ。私もそう思ったのですが、ハルナが勝手に通話ボタンを押して携帯を押しつけてきたので、こちらとしても仕方なく』

 受話器の向こうから聞こえる、感情の起伏の小さい声の主――綾瀬夕映に、電話越しの皮肉を送りながらジローは耳を澄ます。
 一体どうして、ネギの携帯電話に夕映が出たのか。その理由の一端を知ることができるかもしれない、と考えながら。
 耳に届くのは、やけに音の籠った嬌声や黄色い悲鳴、それらに混じった小さなネギの悲鳴。
 普通、悲鳴が聞こえた時は血相を変え、どういう状況なのかと声を荒げる場面なのだろうが。携帯電話の受話器に耳を押し当てているジローの顔は、東南アジアの魔よけの面が如き渋面と化していた。

「すっごく電話切りたくなってるんだけど……今、そっちで阿呆な騒ぎが起きてない?」
『お察しの通り。ネギ先生を元気づける会と称して、その……あれです、ネギ先生を裸にして色々と観賞してると言いますか……。ええ、とにかく酷い状況です』
「あー、いや、いいから。無理して状況を詳しく教えてくれなくても。阿呆なことしてる、だけで十分だから」

 電話越しにも恥じらっていると分かる夕映の言葉に、話を聞かされたジローの頬まで赤くなりそうである。自分がセクハラ紛いの行為をしているようで、情けないやら申し訳ないやらだったのだ。

「夕映ちゃん、できればでいいんだけど……ネギの奴、呼び出せる?」

 夕餉でも一緒にどうかと尋ねるつもりしかなかったのだが、よくよく人の隙を見て騒動に巻き込まれてくれる奴である。一応の主人であるネギに胸中で悪態をつき、夕映に希望を伝える。

『正直、あの乱痴気騒ぎする一団に近寄るのは遠慮したいですが。まあ、先生からの用件を伝えないわけにはいかないですし……ちょっと行ってくるですよ』
『あれ、どしたの夕映~?』
『ネギ先生に用件を伝えてくるです。お湯に落とすとあれですし、ちょっとこれ預かっておいてください』

 夕映の声が離れていく。間を置いて、遠ざかる彼女の足音に代わって受話器から飛び出してきたのは、元気に溢れ返った声だった。
 甲高い声が、キンキンと耳を打つ。受話器を耳から外し、しかめっ面をするジローに携帯電話越しにハルナが呼び掛けてきた。

『もしもーし、聞こえる~、ジロー先生? 私、パル様~!』
「あー、聞こえる聞こえる。声がでかい、つーか人の携帯を自然に使うな。ネギが来るまで切っとくぞ」
『ちょっとぉ、夕映の時と対応ちがくない!? お話しよーよ、可愛い生徒と仲良くなるチャンスだよ!!』
「与えられて嬉しくもないチャンスに時間を費やすのは不毛だと、俺は考えているんだけど。そこんとこどう思う?」
『ヒデエッ!?』

 電話越しに騒ぎ立てるハルナを軽くあしらいつつ、時間を潰す。
 程無くして、ハルナが捲し立てる抗議の後ろから電話を代わって欲しいという、本来の携帯電話の持ち主の声が届いた。

『も、もしもしっ、ジローさん!? 助けてくれてありがとう……じゃなかった、用事があるんだよね! 今どこにいるの? 僕がそっちに行こうか!?』
「あー、いや、今忙しいんだろ? 俺の用事はたいしたことないから、お前はみんなと楽しく宴会でもやってていいぞ」
『そ、そんなぁ~!?』

 取り付く島も与えられず、つっけんどんに提案を流されたネギが、受話器の向こうで情けない声を上げる。それを面白そうに聞きながら、ジローは口の片側を吊り上げて話を再開させる。

「半分冗談なんだから、んな死にそうな声出すなよ。宴会終わる時間、分かるか? あんまり遅いようなら諦めるけど、晩飯でもどうよって思ってな」
『半分は本気なんだ……!? け、けど、うん……みんなには急用ができたって言えば、早めに切り上げてもらえるはずだし。一緒にご飯するのは大丈夫なはずだよ!』
「別にそこまでせんでいいけど。まあ、いいや。女子寮の前まで行くから、そこで合流して店に行くか」
『――――うん!』

 提案に弾んだ声を返す少年に、相変わらず気分の上がり下がりの激しい奴だとの感想を抱きながら、女子寮近くに到着するだろう時間など伝えて電話を切った。
 ずったらぺったらと草履の音を鳴らして歩みを再開させる。体を揺らす様に進むジローの顔に、この世の全てを疎んでいるかのような表情が張り付いていた。限界まで口角を下げた、呆れと面倒さを感じずにいられぬ嫌な顔である。

「なんてーか……もうやだこの学園。何故に目を離すごとに、訳わかんねえ騒ぎが起きてんだよ」

 四六時中、目を光らせたところで意味はないだろう。警戒を厳重にすればする分だけ、無駄な巧妙さで人の目を盗むに違いないのだから。
 まだまだ経験の浅い自分はともかく、文武の両方に秀でた魔法先生や新田を筆頭とする優秀な生徒指導の先生達をしても御せない麻帆良学園生徒の溢れる生気、どうすることもできないだろう。
 苛立たしげに頭を掻きつつ、ジローは遠い眼差しを夜の帳へ向ける。

「路頭に迷って衣食住に困らないだけ、マシってもんなんだろうけど。仕事任せてもらって、それやり遂げていくのは……充実してないわけじゃないしな」

 躊躇うように現状への呟きを溢す。人並の生活と満足感の魅力にかぶりを振りながら。
 口から勝手にため息が洩れるのは、仕方のないことなのだろうか。諦めても諦めきれない、胸が苦しくなる問いに頭を悩ませるジローの背中は疲れを感じさせた。




「……おお、ネギよ。何か困ったことでも起きたのか」

 女子寮の玄関を前に、渋面のジローが無駄に仰々しく聞いた。
 腕組みで夜風に腰まで届く金髪を揺らす少女と、アンテナ風のイヤーカバーを装備した、これまた腰まで届く緑髪の少女から転げるように逃げてくる少年に。

「う、うわーん!? ジローさん、助けて~!!」
「――――八房ジロー、か。こんな時間に女子寮の前にいるとは、どういうつもりだ? 可愛いご主人様の危機でも察したか」
「ジロー先生、こんばんは」

 ジローの背後に逃げ込んだネギに不快さを隠そうともせず、眉根を寄せて舌打ちしたエヴァンジェリンの皮肉に、慇懃だが感情に乏しい茶々丸の挨拶が続く。

「こ、こんばんは、茶々丸さん……エヴァンジェリンさんも」
「フン。神楽坂明日菜がいないと思ったら、今度は緩いのが取り柄みたいな魔法先生……いや、違うな、使い魔のなり損ないに守ってもらうか。まったく、いい身分だな」

 ジローの背後に体を半分隠し、おどおどと頭だけ覗かせて挨拶を返したネギにエヴァンジェリンは再び、わざとらしい舌打ちの音を鳴らした。斜に構えてネギを見据える瞳に、唾でも吐き捨てそうな蔑みの色を浮かべている。

「ククッ、つまらん奴だな、ぼーや。もう少し骨があってもいいんじゃないか? どんなに足掻いたところで、私に敵わないとしてもな」
「う、うう~っ」
「はいはい、無駄に怖がっても相手を喜ばすだけだから。どーんと構えてりゃいいんよ、どーんと。あっちは満月の日でもなけりゃ、ろくに力も出せないんだから」
「え、そ、そうなの?」
「……チッ、爺の奴か。余計なことをベラベラと洩らしおって。フン、だがそれを知ったところでぼーやには何もできんか。そこの為りそこないの力だって、たかが知れているしな」

 腰の辺りにしがみ付いているネギの頭を軽く叩き、適当に宥めながら胸中にジローは笑った。そんなに気に入らないのなら、ちょっかいなど出さなければいいのにと、この場にいない近右衛門へ愚痴っているエヴァンジェリンを眺めながら。
 軽蔑にしろ、失望にしろ、落胆にしろ。エヴァンジェリンが瞳に浮かべた色は、ネギ・スプリングフィールドに対する希望か、あるいは期待がなければ存在しないのだ。
 目的のために襲い、血を吸うだけの相手。偶然会ったにしても、こうして発破をかけるような事をせず、隙でも窺って手早く済ませればいいものを。
 六百年以上も生きると、目的を達成するまでの過程も困難な方が喜ばしいのか。
 有り余る時間を持て余し、暇を潰せるものを求める様は実に『人外』らしい行動に思える。嘲笑でも失笑でもなく、純粋に興味深いと感じて口の端を緩めたジローに目敏く気付いてか、エヴァンジェリンの眦が吊り上がった。

「なんだ貴様、言いたいことがあるなら遠慮せず言えばいいだろう」
「いやいや、滅相もない。そちらと違って、こちらは実戦経験に乏しい素人に毛が生えた程度の魔法関係者。藪をつついて蛇を出すような真似、しとうございません」

 小馬鹿にされていると感じたのだろう、眉根を寄せて睨上げてくるエヴァンジェリンに対し、ジローは胸の内を馬鹿丁寧な返答に韜晦させる。

「喧嘩売っているのか、貴様」
「マスター?」
「け、喧嘩はダメですよ、エヴァンジェリンさ~ん……」

 今も腰にネギが抱きついていることもあろうが、折り目正しく主人の隣に控える茶々丸の姿が悪い意味で、肩の力を抜いているジローの緩さを強調していた。
 意図した慇懃無礼さに、エヴァンジェリンの機嫌が急勾配に悪くなっていく。
 主人の様子に不審を感じて首を傾げた茶々丸と、場を納めなくてはと義務感から口を挟むネギを余所に、ジローとエヴァンジェリンは互いに視線を送っていた。
 片や、眠たげで緊張感の感じようがない眼差しで。もう片方は、気の弱い子供なら――丁度、視線をぶつけられている青年の背後にいるネギ辺りが半泣きになる、仇敵にでも向けられそうな鋭い眼差しで。

「なんなら、この場で格の違いという奴を教えてやってもいいんだぞ? 人を止めた程度の貴様と、真祖の吸血鬼というものが根本から違う存在だとな」

 エヴァンジェリンがあからさまな悪意を向け、嘲りの笑みで口元を歪める。そこに覗くのは、例え呪いや結界で力を封じられていても戦う術を用意しているという、長い年月を生きた者の自信だ。
 それを理解しないまでも、エヴァンジェリンの態度が虚勢ではないと感じられるのだろう。ジローの後ろに隠れたネギの喉が、緊張にごくりと動いた。

「そんな、この場で誰が一番強いかなんて教えて下さらなくて結構でございますが? こちらも己の分というものは弁えておりますし、多少強い程度で何にでも勝てると考えるほど、楽天家でもありませんので」

 春の陽気の中、縁側にでも座って、ふにゃりと擬音でも付きそうな表情でいる老犬。
 彼なりの含む物のない笑みというのが、それなのだろう。毒気を向けるのが阿呆らしくなる顔で、エヴァンジェリンの言葉にジローが答えた。
 馬鹿にしているようでもあり、そうではなく年配者に敬意を払っているようでもあり。聞く者次第でどちらとも取れる曖昧な物言い。

「む、うぐ……理解しているなら、まあいいんだが。私も無駄に疲れなくて済むしな、うむ」

 自慢してくれなくて結構と笑顔で話の腰を折られたと感じるか、凄いですねと自慢話に愛想笑いで相槌を打たれていると感じるか。
 どうやら、エヴァンジェリンは後者として受け取ったらしい。傲岸不遜さを醸し出すため、腕組みで薄い胸を張った姿に僅かな躊躇が生まれていた。
 冷静に先の台詞を振り返り、恥ずかしくなったのだろう。ネギの不甲斐なさに向けたのと違う、自分の大人げなさを誤魔化すための舌打ちを行う。
 そこを機と見て、ジローが話題を転じた。

「ところで、どうしてこんな時間に女子寮へ? 確か、二人は郊外の自宅から通学してたはずだけど」

 自分が最初に質問された事を棚に上げ、話を聞きやすいと踏んだ茶々丸へ話しかける。

「実は家の風呂釜が故障してしまって。修理が終わるまで女子寮の大浴場を利用することになりました」
「あー、そうなんだ……大変だねえ」
「いえ、それほどでは。これまでも、自分一人で入浴するのはつまらないとマスターが申されて、こちらの大浴場まで足を運んだことがありますので」

 表情こそ変えぬままだが、手に持ったお風呂セットを見せた茶々丸が、心なし饒舌にエヴァンジェリンとの暮らしを語り始める。

「やはり、私や姉さん達に背を流させるだけより、皆様のいる賑やかな場所で入浴される方が寂しくないようです。ただ、ここから家まで離れているので……以前のように、マスターが湯冷めして風邪をひいてしまわれないか心配です」

 ロボット――ガイノイドと言うらしいが、小さく眉宇を寄せて主人の心配をする姿は、本当に機械仕掛けの人形なのか、との疑念さえ抱かせる。
 そんなことを考えながら、ふんふんと茶々丸の語りに頷いていたジローの耳に、我に返ったエヴァンジェリンの怒声が押し入った。

「待たんか、誰が寂しいだと!? それよりお前、なに敵と普通に話してるっていうか、どこで風呂に入ろうが私の勝手だろうが余計なこと喋るな! だいたいあれは風邪をひいたんじゃない、花粉症が始まっただけだ!!」

 よほど私生活を晒されたのが恥ずかったのだろう。先までの芝居がかった姿もどこへやら、あたふたと口の軽い従者へ駆け寄り、爪先立ちになって口を抑えている。
 代わりに、真祖の吸血鬼からすれば恥部であろう事情を自分で叫んでいるのだが、ここは聞かなかったふりをすべきだろう。
 しかし、

「花粉症は葉加瀬の伝手で、よく効く薬を用意できるのでなんとかなりますが……マスターはただでさえ力を封じられていて、小等部の少女と同程度の身体能力や免疫力しかないのに、ネグリジェ一枚で寝たり、お腹を出して寝たりと風邪をひく要因はたくさんあります。それでなくても、マスターは食事の好き嫌いが多くて免疫力が落ちていそうなのですから、気を付けてくださいと注意を繰り返さなくては――――」
「アッハハハハッ、どーした急に頭のネジが弛んだのか!? なら巻いてやるから優しい主人に感謝しろ、このアホ従者め!!」
「マスター、私の頭に刺さっているのはネジではなくゼンマイ……アアァァァ」
「いいから喋るな、お前ぇ!!」

 何かのスイッチが入ったらしい茶々丸が、無情にも口を抑える主人の手を背伸びして外し、ずらずらと小言を並べ始めた。
 エヴァンジェリンの顔がサッと青褪めた。一瞬、背後にいるジローとネギを見たのは、自分にとって致命的によくない暴露がなされていると思ってだろう。
 最後の手段とばかりに茶々丸の体をよじ登り、肩車の態勢で少女の頭に突き立ったゼンマイを掴み、猛烈な勢いでエヴァンジェリンが回し始めた。
 さながら、人に聞かれたくない恥ずかしい話を身内にばらされた少女の様。
 先日、手痛い敗北を喫してエヴァンジェリンに苦手意識を抱いていたネギだが、さすがにここに来て、闇の福音の二つ名を持つ少女に対する怯えが薄まったらしい。腰にしがみ付いた態勢は変わらなかったが、呆気にとられた面持ちでジローを見上げていた。

「ね、ねえ、本当にエヴァンジェリンさんって吸血鬼なのかな? 湯冷めして風邪とか花粉症とか、すごく普通の人間みたいなんだけど……」
「ネギさんや、いい事を一つ聞かせたいんだけど聞くか?」
「へ? う、うん、教えてジローさん」

 目を丸くしたネギとは対照的にジローの目は細く、そしてどこか冷やかであった。
 それを不思議に思いながら、彼の言ういい事を教えてほしいとネギが乞う。瞳に、八房ジローが『いい事』と言うのだから、それは本当に知っておいて損はない情報なのだという、確かな信頼を滲ませて。
 もしかすると、誰かに縋りたかったのかもしれない。初めて相見えた『敵』と呼べる存在の姿が、一瞬にして漫才師が如く軽くなってしまったから。
 エヴァンジェリンと茶々丸の生む騒音を強制的に耳から弾き、これから出る言葉に意識を集中するネギを見下ろし、ジローは厳かに口を開いた。

「普段、キャラ作ってる奴ほどな、素の自分を知られるのは、なんだ……痛いんだよ。こう、耐えがたいぐらいに」
「ジローさん、口調のわりに顔が怖いぐらい笑ってるよ……?」
「大変なんだろうなあ、『だーく・えばんじぇる』とか『まが・のすふぇらとぅ』とか『どーるますたー』とか『あしきおとずれ』とか『かいんのしと』とか『わらべすがたのやみのまおう』みたいな二つ名持ちってー」
「アアアアァァァァッ!?」
「ヒッ!? エ、エヴァンジェリンさん!?」

 口の端をひくつかせた半笑いのジローが、間延びした口調でいくつかの単語を口にした途端、茶々丸の口を塞ぐことに必死だったエヴァンジェリンが頭を抱え、地面に倒れ伏した。
 街灯しか明りのない夜道でも、はっきりとエヴァンジェリンの耳が真っ赤であると分かるのは、それだけ先の適当に羅列された単語が彼女にとって効果的であった証明だ。
 蹲って身悶えを始めるというエヴァンジェリンのあまりの異常行動に狼狽し、駆け寄ろうとしたネギを押しとどめて笑ったジローが、口の横に手を添えて囁くように言葉を発した。

「夜更かしして寝ねえ悪ぃ子はいねえが~」
「やめろォ!!」
「え? え? なんなのジローさん、それとエヴァンジェリンさんに何か関係があるの?」

 ガバリッ、と音を立てて身を起こしたエヴァンジェリンが怒声を上げる。
 視線だけで人を殺しそうな目つきのエヴァンジェリンと、にたりにたりと薄ら笑いを浮かべているジローの間で視線を泳がせたネギが、訳が分からないと首を傾げた。

「もう少し勉強以外の事も学ばんとなあ」

 何が原因でエヴァンジェリンがダメージを受けているのか分からず、置いてけぼりになっているネギの頭に手を置き、ジローは苦笑いする。
 褒められた事ではないが、魔法学校で杓子定規に魔法の勉強しかしてこなかったネギの勉強不足が、偶然にもエヴァンジェリンを救う形となったらしい。

「さて、あんまり遅くなってもあれだし、約束してた飯に行くか。ネギさんや、何食べたい?」
「え、あ、うん……でも、エヴァンジェリンさんは……」
「あー、いい、いい、そっとしておくさね。少しすれば、落ち着きを取り戻すだろうしな」

 三十六計逃げるにしかず。そうなる前に、ネギと二人さっさと退散するが吉である。
 どうして自分がなまはげ扱いされねばならぬのだ、と頭を抱えて延々不平を垂れ流すエヴァンジェリンと、トラウマ発動中らしい主人の傍でうろたえている茶々丸を尻目に、ジローはネギの手を引いて歩き出した。

「どこか行きたい店はあるか? 一緒に食事すんのも久しぶりだし、今日は好きなもん奢っちゃろう。遠慮せず注文していいぞ」
「ホント!? じゃ、じゃあね――――」




 手を繋ぎ、ほのぼのする会話を交わしながらジロー達が去った後、どうにか冷静さを取り戻したエヴァンジェリンは、まだ熱さの残る頬を擦りながら肩を震わせた。
 ふつふつと湧き上がる怒りと、抑えきれぬ笑いがエヴァンジェリンの体を小刻みに叩き続けている。

「八房ジロー、か……。人の古傷を抉るだけ抉って、のうのうとぼーやと食事とは……クク、クックククッ、舐めた真似をしてくれるじゃないか」

 キッ、と擬音でも付きそうな勢いで夜空を見上げる。宝石を思わせる碧眼に、半分ほどに欠けた月が映る。
 口の端が獰猛に吊り上がる。顔に浮かぶのは、この恨み晴らさでおくべきかという嗜虐に歪んだ笑みだ。

「だが、いいさ。『満月の夜にはまだ遠い』……ゆっくり食事でもなんでも楽しんでおくがいい」

 そうして吠え面をかくがいい。ネギと、次いで先の会話で己の敵と認定したジローの間の抜けた顔を思い浮かべ、エヴァンジェリンは足早に女子寮の玄関へ向かう。
 半歩後ろに付き従って歩いていた茶々丸が、前屈みに主人の顔色を窺って眉を顰めた。

「マスター、顔が真っ赤ですが、もしや夜風に当たりすぎて風邪をひかれましたか? 本日は入浴を控えて、家で手と顔だけ洗って眠られてはいかがでしょうか」
「お前、今日はもう喋るな!!」

 今度こそ、八つ当たりではない本気の突っ込みが茶々丸の頭に振り落とされる。
 金属の板を渾身の力で殴りつけた音が、女子寮の玄関口に鳴り響いた。

「っ、は……くぅっ……!?」
「…………大丈夫ですか、マスター?」

 怒りのあまり、大切な事を失念していたのだろう。自分の現在の身体能力や強度を考慮せず、本気で鋼鉄の従者を殴りつけた手を抑えて蹲ったエヴァンジェリンの頭上から、不可解そうに小首を傾げた茶々丸が問い掛ける。
 だが、エヴァンジェリンは時折鼻を啜り上げる音を漏らすだけで、茶々丸に言葉を返すことはなかった。
 無視している訳でなく、ただ単純に手が痛すぎて喋ることもできないのだろう。ぶるぶると肩を震わせている様は実に痛々しい。
 早く入浴して体を温めまってもらわないと、本当に風邪をひいてしまいそうだ。身動きとれなくなった主人を見下ろしながら、茶々丸はやや方向のずれた心配をする。
 いっそこのまま、動けないエヴァンジェリンを担いで大浴場まで行ってしまおうか。強引で、いかにもロボット的な選択を実行しかけた時、茶々丸の思考を司る場所にもう一つ別の選択が割り込んだ。
 恐らくは、ついさっきまでこの場にいた人物の行為に感化されての選択。
 ネギの付き添いでホームルームなどに顔を出した際、小言や注意の前後でよく行っている姿が、妙に『人間らしい』と茶々丸は認識していたのだ。
 ふう、と口から出たのはため息というより、ただの吐息であったが。彼女なりに行った初めてのため息はなるほど、どこか気分を和らげてくれるものであった。

「こういう状況で行うため息というのは、どこか情緒に溢れているように感じるのでしょうか、人間は」

 猫や犬もため息に近い行動を取る時があるが、人間のそれと同じ意味や目的があるのだろうか。新たに湧いた疑問だが、それは暇な時に考えようと記憶の隅に留めるだけにおく。

「それではマスター、失礼します」
「ちょなっ、やめろォ!!」
「遠慮なさらずに。心配されずとも、マスター程度の重さでしたら稼働限界時間まで余裕で運べます」

 手に持っていたお風呂セットを頭に乗せ、落とさぬよう器用にバランスを取りながら茶々丸が、地面に蹲ったまま動く気配のないエヴァンジェリンを抱え上げる。
 このまま大浴場まで運ばれては堪らないと、痛みに涙を滲ませたエヴァンジェリンが抗議の声を上げるが、体だけでなく心や思考まで金属製の従者に叫びは通じない。
 強度や素人にはよく分からない、複雑緻密な構造が関わっているのだろう。懇願が混じりそうな叫びは明後日の方向に弾かれる。

「私、ガイノイドですから」
「また必要ない言語データを入れただろ、お前!?」

 暇ができると「人間とは何かについて学んでいます」と称し、人間味に溢れている……と言って譲らない人情や仁義をテーマにした映画やドラマを見ては、何かしら影響を受ける辺り、絡繰茶々丸という機械仕掛けの少女は十分に人間らしいと感じられた。





後書き?) このまま、ジローとネギの食事風景からお山での修業と修行までいこうかと思ったけど、長くなってきたし疲れたので前後篇に分けることにします。
 それにしても終盤、キャラ崩壊。人間味に溢れた映画やドラマが何かは言わずもがな。
 お茶や煎餅傍らに任侠ものとか見る機械少女……シュール、でもないか?

 感想指摘アドバイス、書き込んでいただけると励みになるのでどうか一つ(最近は感想返しや書き込みにちゃんと時間とれないので、反応が遅くなってしまうのですがね……

〈続く〉

〈書棚へ戻る〉

〈感想記帳はこちらへ〉

inserted by FC2 system