『次は―――麻帆良学園中央駅』




 車内アナウンスがして、降車口の扉がエアーが抜けるような音を発して開く。
 
 と、同時に学生達が、一斉に飛び降りるようにしてホームへと駆け出していく。

 


 「学園生徒のみなさん、こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間、始業ベルまで10分を切りました。急ぎましょう――――」

 

 等というアナウンスが駅構内はおろか、町中のあちらこちらで流れた。




 「今週遅刻した人に当委員会より、イエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を……」
 
 「……さすが日本は違いますね。こんなに人が多いなんて!」

 

 感心したように、辺りを見回すネギ君。だが、




 「―――――いや、なんでさ」



 随分使っていない口癖が、口をついて出た。

 どうみてもここ、日本じゃないだろ。

 


 見渡す限り数え切れない人が、足でローラーブレードで走っている。



 まあ、これはいい。よくはないがいいことにする。だが、人がいっぱいに乗った路面電車。

 それにスケボに乗りながらぶら下がる学生。(交通法規はどうなってるんだ?)



 『移動購買部』と、旗を立てているバイクに乗っているおばちゃんから焼きそばパンを買う学生。(移動購買部ってなにさ)

 並行世界とはいえ、あまりにも常識のない姿。

 それにココまででかい学園都市が、なぜ狭い日本にある? 

 


 そして、最大の突っ込みどころは。

 駅でてすぐ路面電車が2両走ってて、その間を生徒が走ってるってどうよ?

 危険だとか思わないのか? 

 


 この学園都市の設計者にとりあえず心の中で文句を言いつつ、

 俺達を案内してくれるであろう、人物を探した。




 「確か、前に会ったタカミチさんと、護衛対象の一人とその友人だったな」

 「そうですね。僕達の受け持つクラスの生徒らしいですよ」





 独り言に律儀に返答してくれるネギ君。

 しかし、本当に3週間で日本語覚えるとは。


 日本語がいくら入り口が容易いとはいえ、凄い能力だ。



 音をたくさん持っている人種は、ソレより少ない音の言語を覚えやすいと言われている。

 英語は250音あるといわれ。日本語は濁音、半濁音あわせて100音程度。


 半分以下だ。

 発音さえ間違えなければ、後は文法。 



 逆に日本語は音が少ないため、他国語を覚えるのが難しいらしい。

 だからといって、中学、高校あわせて、6年学んでも英語一つ喋れなかった理由にはならないが。


 海外にでてから発音の難しさがよく解ったものだ。




 ソノ点、ネギ君は発音だけじゃなく文法も完璧に近い。




 
 ネギ君の才能を羨ましく思っていると。

 向こうに人影がみえた。







 「久しぶりだね、ネギ君、士郎君」

 「お久しぶりです、タカミチさん」

 「久しぶり、タカミチ…………………さん」

 



 俺の目線の意味に気がつき慌てて言い直すネギ君。

 うむ、親しき間にも礼儀あり。最低限の礼節は守りなさい。



 「あはは、タカミチでいいって言っただろう? ネギ君、士郎君」

 「駄目です。お言葉は嬉しいですが目上に向かって礼節を欠くような育て方は、ネギ君の為になりません」

 

 仮にも、まだ師匠だからな。最低限の礼儀ぐらいは教えなければ。

 それに30代のおじさんより、同年代の友達を増やした方がいい。

 ただでさえ、10歳の少年に厳しい修行を課しているのだ。

 大人の中で教師という職につき、更に大人と年上の女性としか喋らない。

 そんな状況で、年上とだけ友達関係になるより。

 一線を引いて、同年代の友達を探してほしいものだ。



 

 「士郎さんが……………………イイエナンデモナイデス」



 何かいいたそうなネギ君だったが、俺を見ると態度を硬くした。

 

 うん、ネギ君にも理解が得られたようだな。

 多少震えているようだが気のせいだろう。



 タカミチさんの後ろでは、2人の少女がクスクスと笑っている。



 一人は黒髪の映える純日本風の女の子。まさしく大和撫子、といったかんじか。

 確か護衛対象の近衛木乃香嬢だったな。

 もう一人は腰までありそうな明るい茶色の髪を鈴付のリボンで2つに纏めている、活発そうな子だ。

 よく見えれば右目が空色で、左目が紺色になっている。

 金銀妖眼(ヘテロクロミア)と呼ばれるものか?





 「ウチは近衛木乃香です。で、こっちが」

 「神楽坂明日菜です。よろしく衛宮先生」

 


 なぜもう俺の事を知ってるんだろうか? とはいえ。




 「此方こそよろしく、衛宮士郎です。で、こっちが」

 「ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」




 そして、相変わらずニヤニヤと笑っている2人。

 俺達、どこかおかしなところがあるんだろうか?



 「じゃあ、ご案内しますね」


 
 そういいながら、元気に歩いていく神楽坂さんと近衛さん。

 その後ろを苦笑いしながらついていく、タカミチさん。




 「? すいませんタカミチさん。俺達なんか変ですか?」

 「ごめん士郎君。とりあえず教室まで内緒って事で頼むよ」

 

 あはは、とごまかした笑いを浮かべるタカミチさんを不審に思いながら。

 俺たちは学園長室に向かって歩き出した。







 遠い雨6話 







 
 「ネギ・スプリングフィールド君と衛宮士郎君じゃな。ようこそ麻帆良学園へワシは近衛近右衛門。この学園の学園長をしている」




 学園長室で、丁寧な挨拶をしてくれる学園長。

 しかし写真で知っていたとはいえ。実物を見ると不思議な頭だ。

 いや、あんまり凝視するのも失礼だな。





 「よろしくお願いします、ネギ・スプリングフィールドです」

 「衛宮士郎です。よろしくお願いします」




 なんだか後ろで、神楽坂と近衛が不思議そうな顔をしているな。

 まあ、普通は年長者から挨拶するんだろうが、

 仮にもネギ君は担任で俺は副担任なんだから、この順番の挨拶でいいと思うんだが。




 「ああ、明日菜君に木乃香ご苦労じゃったのう。2人にはもう少し話があるから、先に教室に戻りなさい」





 了承の返事をして下がる、2人。

 なんだか残念そうな面白い物を見逃した、みたいな表情をしているのは気のせいだろうか?

 2人が下がった後、急にまじめな顔をしネギ君を直視する。





 「改めて自己紹介しようかの。ワシの名は近衛近右衛門。関東魔法協会の理事じゃ。ネギ君、この修行はおそらく大変じゃぞ?
 ダメだったら国へ帰らねばならん……2度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

 「――――はい、やります。やらせてください」




 ネギ君は力強く断言した。その意思が伝わったのだろう学園長は、



 「……うむ、分かった! だが、まずは教育実習という事になるかの。君の補佐する人物と指導教員を紹介しよう。しずな君」

 「はい」

 


 綺麗な声と共に、ガチャリとドアのノブが回り、眼鏡をかけた妙齢の女性が入ってくる。

 


 「はじめましてネギ先生、衛宮先生。指導教員の源しずなです。よろしくね」

 


 そういいながら手を差し出してくれる、しずな先生。

 桜を遥かに超える圧倒的な質量に、半ば呆然とする。

 いや、凄いなこの世界。

 何時から日本は巨乳の国になったんだ?


 さっきの神楽坂といい、遠坂が見たら怒り狂いそうだ。



 

 「よろしくお願いします。ネギ・スプリングフィールドです」

 「衛宮士郎です。よろしくお願いします」 



 遠坂本人に聞かれたら、それこそ怒り狂いそうなコトを考えながら握手をする俺。

 いくら遠坂でも、並行世界までは来れないだろう。 



 ………来れない、よな?

 なんだろう寒気がする。

 遠坂なら並行世界であろうと、自分に対する悪口にだけは反応しそうで恐い。


 
 


 「ふむ、あと士郎君。後で学園長室に来てもらえるかの。少々話したい事があるんじゃ」

 「何時頃くればよろしいでしょうか?」

 「とりあえず、放課後になったらまた来てくれるかの?」

 「解りました」




 裏のコトだろうか?

 仮にもマギステル・マギの息子。そして、世界樹のあるココ。

 狙われる場所であり、俺のような異端者をこの場所は受け入れてくれるのだろうか。
 





 「――――では、教室までご案内しますわ」




 クスクス笑いながらしずな先生はそういってくれた。


 
 見知らぬ所に来たせいか、過敏になっているようだ。

 邪気のない、しずな先生の微笑みに毒気を抜かれると俺たちは教室に向かって歩き出した。





 しかし、さっきの2人といい。しずな先生といい。

 俺達はどこかおかしいのだろうか?  






 「―――――ここがあなた達が担当するクラスよ。私は職員室にいるから、わからないことがあったら言って頂戴ね」

 

 そういって、しずな先生は綺麗な微笑を浮かべて歩いていってしまった。

 なんとなく彼女を見送ってしまう。

 

 ………綺麗な人だったな。


 そして、振り返るとナゼカいる無精髭のダンディーおじさん。







 「―――なんで、タカミチさんがいるのかな?」

 「元担任として最初ぐらいは、ネギ君を生徒に紹介しようと思ってね。なんといっても、年齢が年齢だからね」

 


 懸念は正しいと思う。

 わずか10歳の子供。

 いくら勉強ができるとはいえ、生徒を教え導けるかといえば疑問符がつく。

 
 “教師とは教える者じゃない、生徒から教えてもらう者だ”



 とは、誰が言った言葉だったか。

 生徒から教わるものとしてなら、ネギ君も彼女たちから教えてもらうこともあるだろう。


 だからこそ、フォローが必要だということもわかる。



 だが、そんな正論とは別のところで。………その目がなにか怪しい。

 これからなにかが起こることを、期待しているようなその目が。

 

 とりあえず、ネギ君と顔を見合わせて教室をのぞいた。

 本来褒められた行為ではないが、これから初めての授業だ。

 どんな生徒がいて、休み時間にどんなことをやっているのか気になってしまう。



 教室の中で彼女達はそれぞれ、授業前の休み時間を楽しんでいた。

 懐かしいな、俺もこんなふうに授業を受けていたんだ。



 教室ではたくさんの女生徒がいる。

 肉まんらしき物を売っている生徒。

 ……休み時間にも、バイトとは感心、感心。




 木刀に見せかけた野太刀を持った生徒。

 ……剣道部かな? 竹刀だけではなく真剣にも慣れようなんて熱心なんだな。




 授業の予習なのか、複雑な絵を描き。トーンを貼っている子。

 プロの漫画家みたいだな。感心感心。



 その他にも個性的な人が多そうなクラスだ。

 

 ………………って、マテ。そんな中学生いないだろ?







 慌てて解析をかけると、

 木刀に見せかけた真剣にクナイに短剣、デザートイーグルなんて銃まで持っている子がいる。

 そして………ロボット? 




 警護と監視って意味が今、なんとなくわかった気がします学園長。そして校長。

 

 っていうか何人かは明らかに中学生じゃない。

 どう見ても20歳過ぎにしかみえん。

 桜とネカネさん、年齢詐称薬を飲む必要なかったんじゃないか? 

 しかも逆に小学生にしか見えない子達もいるし。






 「タカミチさん。この中に桜とネカネさん以外に何人、年齢偽っている人いるんですか?」

 

 あはは、と笑って目を逸らす、無精髭のダンディーおじさん。

 とっても眼が泳いでます。

 ……ということは何人かはいるんだな、年齢を誤魔化しているの。


 






 「タカミ「ネギ君忘れていたよ、このクラスのクラス名簿だ。少しでも役立ててくれ」」




 誤魔化したな。とりあえず、ネギ君とクラス名簿を見る。

 人数は31人(桜とネカネさん入れたら33人だろうけど)所々、書き込みがしてある。

 おそらく、ネギ君の為にタカミチさんが書き込んでくれたんだろう。



 
 「ありがとう、タカミチさん」 

 

 そういいながらタカミチさんに頭を下げた後。

 ネギ君は教室に入っていく。

 


 「失礼し………」



 
 そして、その頭上から落ちてくる異物。その気配にネギ君の眼が変わる。



 
 「なっ」

 

 それは、教室の誰が漏らした言葉かわからない。
 
 
 だが、基本動作だけとはいえ。剣を習ったネギ君の動きに迷いはなかった。

 運動能力において最も延びる時期である、ゴールデンエイジ。



 技術の習得とは新たな神経回路の形成である。
 
 簡単に言えば、剣を振る。これに使う神経は脳・神経系の可塑性が高いほど修得しやすい。


 頭が柔らかく、新たな神経回路ができやすい時期。

 ネギ君はまさに今がそのときだ。




 俺と違い、修行を楽しむ事を知っているネギ君は。

 練習の動きどおり行動することで、極端に動きがよくなった。


 神経回路が形成された彼にとって。

 足りないものは『力』それを魔力で底上げするだけで、彼は強くなれる。

 


 

 落ちてくる黒板消しを、右手に持つ出席簿に魔力を通して受け流し、己は体裁きをもって斜めに進む。

 落ちてきた異物を、確認しようと体を変えようとして、足元のロープを踏んでしまう。




 またも頭上から落ちてくる、水の入ったバケツを今度は杖で受け、払い、黒板に水をぶちまける。

 と、同時に、ネギ君に飛来する三本のおもちゃの矢、それを今度は出席簿で叩き落とす。



 綺麗な型だ。

 技が完全に体に入っている。

 だが、同時に実戦経験が少ないことが解る。

 あからさまな罠を見抜くことができず、次々と罠にひっかかる。

 実戦なら確実に命取りだ。






 「あっ………」

 


 俺の目線の意味に気がつき、慌てて顔を赤くしながら、ネギ君はパニックになる。



 
 「―――――――」

 


 そして、より凍りつく教室。

 妙な動きをする少年に、防がれた罠。


 間違いなく不審人物だ。



 そして、そんなネギ君の動きに凄く嬉しそうなタカミチさん。

 ………まだ、ネギ君と戦いたいのだろうか?


 NGOの仕事さえなければ。

 ネギ君を教え、導くのはタカミチさんだったかもしれない。

 
 
 だが、結果的にネギ君を鍛えたのは俺だった。

 そこに、彼がどんなコトを思ったのか。知る術はない。

 

 だが、タカミチさんは何も言わず。
 
 冷えた教室の空気を暖めるようにとりなしてくれた。 
 




 「うん、なんだか凄い事になったけど、自己紹介してもらえるかな? ネギ君、士郎君」

 「は、はい。これからこちらで、担任をする事になりました、ネギ・スプリングフィールドです」

 「同じく、副担任になる事になりました、衛宮士郎です」

 




 そして更に固まる、生徒達。

 やっぱり、驚くよな。

 10歳の子供が先生なんだから。





 「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ」」」」」





 予想通り叫び声をあげる生徒達。

 まあ、それが普通の反応だろう。

 問題は約一名。まったく違ったコトをやっている生徒がいるだけで。





 「高畑先生、衛宮先生が副担任になるのは聞いてましたけど。担任の先生が変わるなんて聞いてません!」

 「あ、いや、最初からそういう予定だったんだよ。明日菜君。
 僕は出張が多くて、担任としての業務が滞りがちだったからね。代わりに担任になってくれる人を探してたんだ」

 「そんな。てっきり、衛宮先生の知り合いか弟だと思ったのに―――!」



 愕然とする神楽坂さん。そんなにショックなのか。

 まあ、エスカレーター式とはいえ彼女達も思春期の女の子。

 頼りない子供より、大人の先生に習いたいと思うのは当然かもしれない。





 それに、俺の弟と思ったなんておかしくないか?

 人種が違うでしょ。見るからに。確かに髪の色は似ているかもしれないけど、

 それでも、ネギ君と同じ人種にはみえないだろ。

 しかも、苗字違うし。………っていうか、突っ込みどころはそこじゃなくて。





 なにか話がおかしい。普通、副担任が就任するのを知っているのに、

 担任が変わる事を知らないなんて、ありえるだろうか?

 そんな事を考えていると興奮した生徒達が、ネギ君に群がり始めた。











 「さっきの凄かったけど、なにか武術やってるの?」

 「は、はい。士郎さんに護身術を、教えてもらってます」

 「どこから来たの?」

 「イギリスのウェールズから………」

 「何歳?」

 「えっと、10歳です」

 「今度私と勝負するアル!」 

 「――――はい!?」




 もみくちゃにされながらも丁寧に応対してる、英国紳士。

 小さいながらも立派な対応だ。




 などと思ってる俺と目線があう。
 
 助けて欲しい、という顔だが。

 ………これも修行のうちということで、今は意図的に無視させてもらう。

 


 そして、困っているネギ君から眼を逸らし。

 先に来ているはずの2人を探す。



 ………のだが、なぜか全力で眼を逸らす2人の女性。 


 俺は彼女達に何かしたのだろうか?


 そんな俺の様子を見て、なんだかとっても嬉しそうな顔をする2−A女生徒達。
 
 さっきから、いやな汗がとまりません。 




 「はいはーい、では皆さん。お待ちかねの衛宮先生の質問タイムにいきまーす」

 

 その声で、嬉しそうにネギ君から離れる生徒達。

 いやな予感は段々増していきます。







 「えっと君は、朝倉和美さんだったね」

 「おっもう、名前おぼえてくれたの?」 

 「まあ、これでも副担任だからね」

 「へー。じゃあ、早速質問。先生には教え子に手を出した、という淫行疑惑が持ち上がっていますがどう釈明しますか?」

 「―――――は?」

 


 なんですか? それは。



 「しかも、教え子を二股かけていたとか? 男としてどう責任をとるんでしょうか?」

 「いや、なんのことですか?」

 


 そしてもう一度、桜とネカネさんを見るとあからさまにぷいっと、しらばっくれて視線を合わせない。

 


 …………なるほど、君達か。

 そしてヒートアップする、2−A野次馬ガールズ。




 「衛宮先生ってロリコンなんですか?」

 「教師として、生徒に手をだしていいと思っているんですか?」

 「どちらが本命なんですか?」

 「淫行教師なのになんで、就職出来たんですか?」

 



 ……………君達、絶対わかっててからかっているね。

 そしてタカミチさん? なんで誤解を解いてくれなかったんですか?

 


 “―――――ごめん、士郎君。学園長の指示で”
 



 口の動きで、そう伝えるタカミチさん。

 あのくそ爺。俺で遊ぶ気だったのか。

 まあ、とりあえず。今、俺が言うことは、一つしかあるまい。




 「桜、ネカネさん。説明しなさい」

 



 俺の言葉に2人はシブシブと話し始めた。

 

 

 



 <一週間前>

 



 私は緊張しながら、教室の前に立っていた。

 ネカネさんと何度もお互いに制服をチェックし、そのたびに不安になってしまう。

 なにしろ、実際の年齢は中学生より遥かに上で、年齢詐称薬を飲んでも16,17歳ぐらいにしか見えない。

 そんな私達に中学生の真似なんてできるのか、凄く不安だ。





 「はい、今日は皆に新しい友達を紹介します。桜君、ネカネ君、入ってきて、自己紹介をしてもらえるかな」

 

 高畑先生に呼ばれて、緊張しながらネカネさんと教室に入る。


 「はじめまして、今日からこのクラスに入る事になった衛宮桜といいます。これから来ることになる此方の副担任になる
 衛宮士郎の従兄妹です。よろしくお願いします」


 学園長に頼まれたとおり、偽の身分を話す。

 
 「衛宮君と2人っきりで、仕事の話をすることもあるじゃろう。変な噂が立たないようにそう名乗ってくれんかの」 




 理由が理由だからしょうがない。

 今の私は中学生。

 身分を隠すのはしょうがないのだろう。



 よろしくー、とクラスの皆さんから、暖かいというより親しみのある返事が返ってきた。

 そして、ネカネさんの自己紹介が始まる。





 「はじめまして、今日からこのクラスに入る事になりました…………」





 そこでなぜかニヤリと笑う、ネカネさん。

 うん? なんだろう? 確かネギ君と同じ苗字だと、何かと都合が悪い。

 だから私と同じように、先輩の従兄妹って名乗る予定だったような?






 「―――――――衛宮ネカネと申します。今度此方でお世話になる衛宮士郎の婚約者です」

 

 教室の空気が、固まる。そして。

 


 『『『『『『ええええぇぇぇぇええええええ』』』』』』




  絶叫。 

 



 「って、何言ってるんですか! ネカネさん!」

 「あら、ただ事実を言っただけですよ」

 「そんな、事実はありません。先輩は私のものです」

 「今はそうでも、将来は私の婚約者になるんですから。ほら日本でも、女房と畳は新しいほうがいい。って言うじゃありませんか」

 「そんな事は認めません! それに先輩に限ってそんな事はしません」
 
 「―――ふふ、どうでしょうかね」

 「なんですか?」

 「いえ、士郎さんが来ればわかる事です」

 


 徐々に熱くなっていく私達。

 なんだか、周りでクラスの皆さんが囃し立てていたようですが。

 気がついたときには、授業の終わりのチャイムがなっていました。



 

 ◇


 



 「なるほど。ネカネさんの悪ふざけに桜が乗っかってしまって。クラス中が、それに悪乗りしたってわけだな」

 

 神楽坂や近衛のにやけていた意味が解った。それにタカミチさんやしずな先生の妙な態度も。

 まったく、なにをやってるんだか。



 「―――でも、先輩」

 「でもじゃない、桜。悪ふざけにしてもやりすぎだ」

 


 なんだー、つまんなーい。などと、2−Aクラスメイトはもう関心がなくなったようだ。

 よし、これでヤマは超えたな。後は事態を収拾すれば終わりだ。




 「ネカネさんも、冗談にしても悪趣味すぎますよ」

 


 そう釘をさすと、

 


 「―――――――酷い、士郎さん。あの夜の事は遊びだったんですね?」

 

 と、目に涙を浮かべながら、俺の腕にすがりついてきた。



 「いや、あの夜もなにも、なんのことですか?」

 

 うん、本当に身に覚えがない。

 そしてまた面白いネタを見つけた、とばかりに俺達の周りに群がる。“ボンクラーズ・2−A”






 「―――――酷い。一ヶ月前のあの夜、桜さんとライダーさんが仕事で遅くなったあの日です」

 


 一ヶ月前? ああ、確か桜がこっちの魔法の勉強で帰りが午前様になった日か。

 確か、リビングで帰りを待っている俺に「一人で、待っているのは退屈でしょう」って、ネカネさんがカードに誘ってくれたんだっけ。



 ………って。
 



 「………………いや、本当に『遊び』じゃないですか? しかも誘ってきたのネカネさんだし!」

 「――――――――」

 
 なぜか、急に静かになる2−A。





 あれ? なんか俺、変な事言ったか?





 「――――先輩?」

 

 そして、なんだか凄く綺麗な微笑みを浮かべる桜。

 うん、凄く綺麗でかわいいぞ。だからその黒い殺気を抑えてくれないかな?




 「先輩? 詳しく教えていただけますか?」



 うん、詳しく話せば誤解だってすぐわかるぞ。だから、微笑みながら首を絞めるのをやめような?

 喋るに喋れないから。それにな桜。桜の迫力に皆が教室の隅でカタカタとふるえているぞ。



 タカミチさんも笑ってないで助けてください! 
 



 ◆ 






 タカミチさんは黒板にぶちまけた水を拭いた後、そのバケツをかたずけ、職員室に帰っていった。

 その後ろ姿に、恨みの目線を籠めつつ俺は桜をなだめていた。



 
 

 その後、なんとか桜に納得してもらい、席に戻ってもらったが。

 教室は未だに、ざわざわと騒がしい。

 その半分は桜に対する恐怖で、半分は俺に対する蔑みの囁きが聞こえる。

 まさか、転任初日で信用度が底辺まで落ちるとは。

 とりあえず、気にしない方向で話を進めよう。


 

 「さて………静かにしてください、授業をはじめます。では、ネギ先生お願いします」



 パンパンと手を叩き、生徒達を落ち着かせる。

 はーい、という声と共に生徒達は表面上はおとなしくなる。

 それを見て、ネギ君のほうを見ると固まっていた。

 どうやら、先程の出来事で緊張がぶり返してしまったようだ。

 とりあえずネギ君に視線で頑張ってね、と伝えて教室の後ろへと移動する。



 

 「あ……あの、では教科書128ページの……」

 そういって黒板に振り返り、チョークで書こうとする。が、

 


 「と、とどかないぃぃ………」

 


 そういいながら、ネギ君はプルプル震えて背伸びをしている。 

 思わず脱力する俺と桜。そしてそれをみて、生徒達はくすくす笑っている。



 
 「センセ、この踏み台を………」



 そういって一人の生徒が、黒板の前にやけに立派な踏み台を置く。

 たしか委員長の雪広あやか………だったな。




 「あ、ありがとうございます委員長さん」

 「支えて差し上げましょうか? センセ」



 その雪広の言葉を遠慮するネギ君。

 微笑ましい光景に教室で笑い声が響く。
 
 だが、なぜだろう。なにか邪まな感じがするのは?

 


 そして雪広が席に座った後。

 ビシュッという風を切る音がした。


 風を切る魔弾は、吸い込まれるようにネギ君の後頭部めがけて疾走する。




 だが、気配を感じ取ったのか。

 その一撃を教科書で弾くネギ君。天才少年らしい素晴らしい動きだ。




 ………………いや、そうじゃなくて。


 なんだ、今のは?

 
 一瞬動揺しながらも、周りを警戒しながら黒板に英文を書くネギ君。


 鈍い音と共に放たれる第2、第3の魔弾。そして、ネギ君はまたも弾く。

 いい反応だ。さすが天才児。そして飛んできた物体は………消しゴム? 
 
 どうやらさっきからの、消しゴムを使った魔弾の射手は、神楽坂のようだ。





 ―――――しかし凄いな神楽坂、消しゴムであの威力とは。遠坂を超える逸材かもしれん。

 そんな馬鹿な事を考えながらも、これも修行になるかもと、俺は放置して見守っていたのだが。

 神楽坂は最終手段に出てしまった。


 
 






 ◇



 

 ――――気に食わない。なんで高畑先生が、担任辞めなくちゃいけないのよ。

 

 衛宮先生が来るって知った時は、その後のゴタゴタが面白くなる。って期待してたのに。

 まさか、高畑先生の副担任じゃなくて、新しい(しかも子供の)担任の副担任だったなんて。

 10歳の先生なんて聞いた事ない。天国から地獄に落とされた気分よ。
 


 なんとか、高畑先生に担任に戻ってもらわなきゃ。

 さっきは凄かったけど、所詮10歳のガキ。

 

 少し痛い目に合わせれば、他のクラスの担任にかわりたいって学園長に泣きつくに違いない。

 もしかしたら、先生辞めるなんて言い出すかも知れないけど。


 元々10歳の子供が、先生やるっていうのが変なんだから。

 子供は子供らしく、家で遊んでればいいのよ。

 



 ――――別に10歳の子供のほうが、私より頭がいいから妬んでるわけじゃないわ。




 そうこれは妬みじゃないわ。

 さっきの動きがひょっとしたら私より凄いかも、とか唯一の取柄の体力で10歳に負けるのは悔しい。とか

 

 しかも私より頭が良いなんて、10歳の子供に文武両道、両方負けて悔しい!

 とかは関係ない。あくまで10歳の子供は子供らしく生きるべきであるという、私の信念よ。

 いわばこれは愛のムチ! というわけで、まずはベタな嫌がらせ、消しゴムをぶつけるわよ。
  






 

 ………………そう思って、消しゴムを何度か投げてるんだけど。軽々かわすあのガキになんかむかついてきた。

 

 別に真剣に、私が10歳のガキより運動神経がないのが気に食わないわけじゃないわよ。

 

 でも、なんか悔しい。私は10歳のガキに全てで負けてるって言うの?

 
 こうなったら、もう意地よ! 

 そう思って身近な物を探す。教科書なんかじゃ落とせない重みのある物。

 あるじゃない、目の前に。しかも壊しても自分の懐が痛まない物が。





 …………後から考えれば、この時の私はどうかしてたんだろう。

 これからの薔薇色の学校生活、からかいがいのありそうな副担任。

 それが一転して。

 最愛の高畑先生が、私のコンプレックスを刺激する子供先生に担任を奪われるという現実に。






 
 そして私の懐が痛まない学校の備品『机』を持ち上げて振りかぶる。

 
 

 ………まあ、冷静に後で考えたら、学校の備品壊したら弁償しなくちゃいけないんだけど。




 となりで、木乃香がなんか言ってるけど気にならない。

 狙いはあのガキの後頭部! 

 教科書なんかで受けられるものなら、受けてみろ!

 と、その瞬間。






 ―――――――バカンという鈍い音と共に、後頭部に痛みが走った。



 「痛った――い、誰よ!」



 と、後ろを振り返ると。

 腕を組みながら溜息をつく、新任の副担任がいた。



 
 ◆


 

 「なにするんですか? 衛宮先生!」

 
 どの口で言うかな? 君は? 



 「それはこっちのセリフだ。今、何しようとしたんだ? 神楽坂?」

 


 う、っと神楽坂は言葉に詰まっていた。

 まったく、そこまでいくといたずらじゃすまない。



 「消しゴムを当てるくらいなら、よくあるイタズラ。と思って大目にみたがそれはまずいだろう?」

 



 というか、2人で一つの机なんだから相当の重さがあると思うんだけど、その机。

 それを片手で持ち上げるって、相当な筋力だな。

 やはりこの子は遠坂を超える素質があるのかもしれない。








 「でも体罰なんて、酷いと思いますけど」 
  
 「―――――――その机を投げて、怪我人が増える事のほうが酷い事になると思うんだが?」




 うぐっ、とさらに言葉に詰まる神楽坂。




 「それにだ。神楽坂? クラスの皆に言うコトあるんじゃないのか?」

 
 うっ、と言葉に詰まりながらも謝罪を口にしようとした時。




 「………衛宮先生。その女になにを言っても、無駄ですわ」

 そう言いながら、こっちをみるのは先程の雪広だった。




 「その女はバカのくせに、体力は有り余ってて普段から暴虐の限りを尽くす粗暴で乱暴な問題児なんですから」

 「そ、そうなんですか? 委員長さん」

 

 雪広の言葉を鵜呑みにするネギ君。

 純真な子供を洗脳することも立派な犯罪だと思います。

 
 素直なネギ君はすっかり雪広を信じている。

 危ないな。生徒に余計な偏見を持たないように後で言っておこう。



 そう思っていた俺の考えを無視するかのように。



 轟音をたてて飛んでいくナニカがみえた。

 隣には怒りに震える神楽坂の顔。

 視線の先には『ふでばこ』が砕けながら後頭部にぶつかり、よろめく雪広の姿。

 

 いや、こういっては何だが。

 神楽坂。今の君の行動は雪広の言葉を肯定しているようにしか見えないんだが。



 そしてなにより。…………神楽坂? 君、中学生だよね?



 時速何キロ出したら、ふでばこが砕けるんだろうか? 

 そんなことを考えながらも、被害者を助けようとすると。

 鬼気と共にユラリと、立ち上がりそして。

 


 

 ……………雪広までもが、暴れだしてしまった。





 「いきなりなにするんですの! この暴力女!」

 「うっさい! あんたこそ何子供に吹き込んでいるのよ、このショタコン!!」

 「な!? 言いがかりはおやめなさい! あなたなんてオヤジ趣味のくせにぃぃ!」

 

 そして始まる、神楽坂VS雪広。

 教師の前だというのに、賭け事を始める生徒達。

 なんだか凄いクラスだ。

 

 しかしあの神楽坂と互角に戦うとは、雪広の腕力も相当だな。

 まあ、このクラスのほとんどが中学生レベルじゃなさそうだが。


 


 とりあえず、明日菜はオジン趣味で、雪広はショタコンっと。

 覚えておこう。主に、ネギ君の為に。

 そんな事をしていると、
 
 



 ――――――キーンコーンカーンコーン♪



 無常にも、授業終了のチャイムがなってしまった。
 


 「ああ…………終わっちゃった……」



 結局、なにも授業できなかったネギ君は、肩を落とし涙を流していた。

 

 ―――――授業が終わってネギ君と2人で、肩を落として教室を出ると。



 「あ、ネギ君、衛宮君。お疲れ様。初授業はどうでしたか?」

 「あ、タカミチさん! それが大変だっ………うわっ」

 

 そして、それに答えようとするネギ君を押しのける神楽坂。彼女はネギ君を先生だと思ってないに違いない。


 


 「た、高畑先生こんにちは!!」

 「こんにちは、明日菜君。あれからどうだったのかな、ネギ君の授業は?」

 「あたしが、ついてるんだから大丈夫ですよ! 初授業も、大成功だったんですよね! ねっネギ先生」
  
 

 ネギ君の頭を撫でながら、凄い勢いでペラペラと神楽坂が喋りだす。

 なんだろう? 態度が全然違うんだが、…………ひょっとして?


 


 「いや、むしろ明日菜さんが、いたから授業が………グフッ!」

 そして事実を話そうとするネギ君に、肘打ちが綺麗に決まる。

 思わずうずくまるネギ君を、強引にたたせながら話は進んでいく。

 なんだか、ネギ君が可哀そうだ。



 というか、接近戦でネギ君がかわせない肘うちって凄いな。
 
 本当に人間なのか?




 「…………それじゃ、僕はもう行くね。これからもネギ君のことを頼んだよ。明日菜君」



 これからもがんばってねと、神楽坂の肩に手を置くダンディーおじさん。

 神楽坂はタカミチさんに触れられた肩に手を置き、さすりながらうっとりしている。

 


 ―――――なるほど、オジン趣味の神楽坂はタカミチさんが好きなわけか。



 そして、タカミチさんの姿が見えなくなった後。



 「ふん、言っとくけど、あんたの面倒なんてみないわよ。あんたが先生だなんて絶対認めないんだから!!」

 

 ネギ君に舌をだして神楽坂は走り去っていった。


 その走り去る姿に、ネギ君は思わず涙ぐんでいる。

 なんだか神楽坂に翻弄されるネギ君が昔の俺に見えたのは、気のせいだろうか? 

 とりあえずがんばれ、ネギ君。
 
 


 



 ――――――そして一日が終わり放課後、家路を急ぐ者。部活に精を出す者。おしゃべりをしながら、どこに寄り道をしようか相談する生徒。

 




 そんな中、約束どおり俺は学園長室前に来ていた。

 軽くノックする。



 「誰かのぅ?」
 
 「衛宮です」

 「お、来たか。入ってええぞい」

 「はい、失礼します」



 扉を開けると学園長は、書類の整理をしていた。



 「まず、衛宮君の住む場所なんじゃが。寮の敷地内にある管理人の小屋で、ネギ君と一緒に住んでくれんかの」

 「わかりました。お話はそれだけでしょうか?」

 「それと今夜、君の顔見せをしたいと思うんじゃがいいかな?」

 「顔見せ………だけでしょうか?」

 「鋭いのぅ。君達には少々、試験を受けて貰おうとおもっての」

 「実力が知りたいと?」

 「そういうことじゃ。じゃがネカネ君とネギ君の護衛もあるじゃろうし、今回は君と桜君が来てくれんかの」

 「桜は基本的には偵察要員だと、お伝えしているはずですが?」

 「うむ、わかっておるよ。じゃが実際、どの程度なのか知っておかないとこっちもやりずらいんじゃよ」



 なるほど、まあ戦力がはかれない人間が味方にいるとなにかと不都合が多い。

 ライダーはどう見ても戦力がありすぎる。
 
 下手すると、実力を見せる前に相手が死ぬ。………手加減苦手だし。




 「わかりました。場所はどちらに出向けばいいんでしょうか?」

 「そうか…………では、後で校舎の近くの広場に来てくれんかのう。10時くらいで頼む」

 「わかりました。では失礼します」  
 







 そうして学園長室を出た後、歩きながら考えていた。

 桜に戦闘か。

 本来、そんな事はさせたくない。


 だが、正確な力量が解らないと。管理者として戦術が組みにくい。

 そう考える学園長の気持ちも解る。


 それに。桜に危険が及ばないためには。

 桜が強くなるのが一番いい方法だ。

 
 
 できるなら。危険が及ぶ前に俺が全ての危険を排除できればいいのだが。




 考え込んでいると、階段下から上ってくる人影が見えた。



 「あれ? ネギ君に神楽坂?」
 


 見知った顔だったので、思わず声をかけたんだが、

 あがってくる神楽坂はなんだかすごく不機嫌で、ネギ君は涙目になりながら背中を丸めている。

 



 「2人とも、……………どうしたんだ?」



 声をかけた俺に、気がついた神楽坂が、



 「衛宮先生……………説明してくれますよね?」



  ―――――――――紅蓮の炎を纏って怒り狂っていた。

 そして涙目になったネギ君が、



 「士郎さん…………どうしましょう…………魔法がばれちゃいましたぁ」


 そう、小声で俺に報告してきた。

 …………ネギ君。まだ初日だよ?


 

 


 「――――――っで、どうしてばれたのかな?」

 とりあえず不機嫌そうな神楽坂を放置して、話を聞く。

 「し、仕方なかったんです。宮崎さんを、助けるために魔法を使ったところを明日菜さんに見られてしまって」

 「…………また、なんとも間の悪い。……記憶操作の魔法とかは?」

 「やったんですけど、失敗しちゃって……」

 「………はあ、仕方ない神楽坂。この事は内密に頼む」



 そういう理由じゃ、怒るに怒れないな。

 俺も秘匿すべき魔術を使って人助けをしたことはあるんだし。

 前の世界でも、こっちでも。

 そんな俺に、ネギ君を叱る権利はない。 





 それにしても、ネギ君が魔法を失敗か。

 近衛さんと同室である事といい、彼女にもなにかあるのか?





 「ふぅん、って事はやっぱり衛宮先生も、魔法使いってことなんですね?」

 「ま、まあ似たようなもんかな」




 ―――――ニタリ、って擬音がよく似合う笑顔でこっちを見る神楽坂。

 誰かさんにそっくりだ。  






 「じゃあ、黙っておく代わりに責任とってください!」

 「責任?」

 「ええ、こいつのせいで高畑先生に………パン……」

 


 そうどもりながら、赤くなる神楽坂。ネギ君? なにやったの? 




 「いえそんなことより。とりあえず高畑先生との仲を取り持ってください。衛宮先生もマギステル・マギ目指してるんでしょ!」

 


 …………そんな事まで言ったのかい? 少し鍛錬の量、考えなおそうか?



 「いや、俺はあんまり魔法は使えないんだ」

 えー、と神楽坂は残念そうに頭を垂れる。

 「魔法使いなら、ホレ薬とかお金を作るとか。できるんじゃないんですか?」

 

 ごめん、無理! お金なら、投影出来るかも知れないけど。人として、出来ません。 




 「僕もまだ見習いだし。強いて出来るといったら、読心術くらいしか……………」

 「―――――それよ!!」

 びしいとネギ君を、神楽坂は指さす。



 「いい? 教室に高畑先生がいるから、それとなく聞き出してよね?」

 「え? 何で教室にタカミチさんが?」



 「それはね…………」

 俺の疑問に答えるかのように、2−Aの扉が開かれる。





 「「「「「ネギセンセー、衛宮センセー!! 麻帆良学園にようこそー!!」」」」」
 
 「ってわけ」



 そして神楽坂はウインクをしながら、俺達を歓迎会の会場である教室に招きいれた。

  



 「ほらほら、二人ともボーっとしてないで、入って入って」




 背中を押されながら、俺とネギ君は教室の中央に向かう。

 そして席に座ると、机の上にケーキやポテトチップスが並んでいる。どうやら自分達で作ったお手製のようだ。

 
 
 なかには、本職の菓子職人すら唸らせそうなスゴイものまである。

  



 向こうでは、前髪の長い女の子(確か宮崎のどか、だったな)がネギ君に図書券を渡したり。

 委員長がネギ君の銅像を渡したり………って、銅像!?


 雪広も魔法使いなのか?

 放課後までにネギ君の銅像作るって凄い早業だろ?



 
 「―――――なんでも、凄い財閥のお嬢さんらしいですよ」



 顔に出ていたのか、桜が俺の疑問に答えてくれる。

 それにしたって、僅かな時間でネギ君の写真から銅像つくるって凄い早業なんだが。

 常時、彫刻家を配備させているのだろうか?

 
 
 どちらにしても、凄い人達が多いクラスだということはよく解る。





 ちなみに、教室を騒がせた罰として。

 ネカネさんには全員の給仕係を申しつけてある。


 まあ、そういう意味では桜も同罪なのだが。

 どちらかというと、からかわれただけなのでお咎めは無しにした。






 桜と共に、目の前に置かれた菓子を楽しんでいると。

 ネギ君が、なにやらタカミチさんと神楽坂の間を往復している。


 ネギ君が伝えた言葉で、なぜか強烈な頭突きをして学校の備品を壊す神楽坂。

 飛び散る何かに、彼女の血が混ざっていないのが凄い。

 魔法で強化でもしてるのか?



 そして、神楽坂は泣きながら走り出してしまった。 

 オロオロしながら、後を追いかけるネギ君。



 なんだか、凄い状況だ。

 だが、何か悩んでいる生徒を導くのも先生の役目。

 ここは、ネギ君に任せたほうがいいのだろう。  




 「スイマセン桜さん、士郎さん。ネギと神楽坂さんが2人で教室を出て…………」




 ネカネさんが慌てた様子でコッチに来る。

 まだ幼い子供であるネギ君。彼を心配するのはよく解るのだが。

 


 「――――ココはネギ君に任せたほうがいいのでは?」

 「で、でも」




 ネカネさんは心配そうに、ネギ君が去っていった方向を見ている。
 
 個人的には、ネギ君が乗り越えるべき試練だと思うし。

 生徒を導くのは、彼の仕事だ。




 だが、まだ10歳の少年。

 何かあったときの為に、フォローの準備はしたほうがいいか。


 桜に頷くと、3人でネギ君と神楽坂の後を追いかけた。
 


  

 「ネカネさん! こっち、こっち」



 先に行っていた生徒が唇に人差し指を当てながら、コイコイと片手で手招きしている。

 桜と視線を交わした後。お互い笑って、野次馬に参加する事にした。

 ソロリソロリと向かった先で、ネギ君と神楽坂はなにやら話しているようだ。



 「ナニナニ? 告白中?」

 「まさか? オジン趣味のアスナに限って………」

 「ちょ、これはひょっとするとひょっとするよ!?」

 「あん、そんな後ろから押さんといて〜」

 「教師と生徒の不純異性交遊断固阻止!! 止めますわよ!!」

 「同感です、ネギにはまだ早すぎです」


 

 階段で話す2人を、影から見張る生徒達。

 なにかしら不穏当なセリフが聞こえた気がするが、そこはあえて無視をしたい。
 
 そんな生徒達とネカネさんにはさまれて、桜と笑いながらネギ君と神楽坂を見守っていた。
 
 どうやら、話しているのは神楽坂のようだ。





 「でも、…私…好きです………だめですよね。私なんかじゃ?」
 

 
 告白のような事を言いながら、後ろを向く神楽坂。

 そしてネギ君が手を神楽坂の肩に手を置き、振り返らせる。


 凄いなネギ君。魔性の美少年というコトなんだろうか。

 アレだけ仲の悪かった神楽坂をもう虜にするとは。



 なんだかイイ雰囲気の2人。

 これは、邪魔してはいけないのだろうか。

 まあ、教師と生徒とはいえ。歳も近いしな。 


 などと思っていると、2人の顔がだんだんと近づき。

 あと少しでキスをする。その寸前で。



 「こっここ、こ、こんな小さな子を連れ出して!! あなたは一体!! 何をやっているんですかーーー!!」


 

 ――――雪広が、吼えた!



 近くにいた生徒と魔法で聴覚を強化していた桜とネカネさんを襲う、強烈な咆哮!

 ちょっとした怪音波だ。 



 思わず耳を押さえ、悶絶する2−Aボンクラーズ+2名。 

 虎で慣れていた俺以外は全員、被害にあったようだ。



 雪広はそのまま階段を駆け下り、神楽坂の胸倉を掴む。

 ソレと同時に光るフラッシュ。

 特ダネだとばかりに、写真をとりまくる朝倉。囃し立てる生徒達。

 生徒と教師の淫行疑惑に、皆の悪ふざけもヒートアップする。

 




 「へ〜? アスナはオジン趣味だとは思ってたんやけど、ショタコンでもあったんか〜」

 「違うわよ! 何いってんのよ木乃香!! ちょ、ほら、あんた、じゃなくて………先生からも、何か言ってあげてください!!」




 
 半ばパニックになった神楽坂は、ネギ君に救いを求めたが。

 


 「き、記憶を失えーーーー!!!」





 肝心のネギ君のほうが、もっとパニックになっていた。


 ――――いや、ネギ君? 何を口に出してるのかな? 



 本当に、精神の修行をやり直したほうがいいかもしれない。

 肉体的なことばかりに気をとられ、実生活がこれじゃしょうがない。
  





 「マテー! 全員ノーパンにするつもりかー!?」

 「記憶を失えーー!!」



 神楽坂は神楽坂でなんかわけわかんないことを口走ってるし。 

 その後、生徒達はより激しく騒ぎ出す。

 

 
 
 俺は(聴覚を強化したためだろう)かなりのダメージを負った桜とネカネさんを介抱しながら、その騒がしい様子を見ていた。



 



  <続>


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