『魔法都市麻帆良』
The 16th Story/Maschinelles Band



朝、麻帆良学園

茶々丸を横に従えたエヴァンジェリンがカモを肩に乗せたネギと会話している
最も、もはやエヴァンジェリンが一方的に喋っているだけの状態となっており

「ああ、そうそう、タカミチや学園長に助けを求めようなどとは思うなよ
―――また生徒を襲われたりしたくはないだろう?」
「うぐっ」

何日か前の夜に自分を襲ったエヴァンジェリンの言葉に固まるネギ

「う、うわあああああーーーん!」
「―――む、あのオコジョは……まあいい
 それにしても情けないものだな……クククッ」

自分の言葉に涙ぐみ、一拍をおいて逃げ出すネギとそれを追っていく明日菜
それを見たエヴァンジェリンは心底楽しそうな表情で笑っているが

「こら」
「ぶっ!?―――だ、誰だ!?」

何の前触れもなく後頭部をドツかれ、頭を押さえつつ振り向くと
そこには竜帝を装備したアルベルト呆れ顔で立っている
アルベルトは睨みつけてくるエヴァンジェリンを無視しつつ溜息をつくと

「――朝っぱらから教師を脅すな、授業にならなくなったらどうする気だ貴様」
「ふ――ふん、そんなもの私には関係ないな!」
「やかましい」
「あだぁっ!」

無意味に偉そうに胸を張るエヴァンジェリン
その様子を見たアルベルトは抜き打ちのデコピンを叩きこみ
間抜けな声を上げつつ額を押さえて悶絶するエヴァンジェリンをアルベルトは無視し
傍らでそれを宥めている茶々丸に視線を向けると

「ああ、そうだ茶々丸」
「――あ、はい、何でしょうかアルベルトさん」

エヴァンジェリンを宥めつつも視線をこっちに向けてくる茶々丸にアルベルトは頷くと

「ああ、―――お前の姉に会ったぞ」
「紅華姉さんにですか?」

驚きの色を浮かべる茶々丸の問いにアルベルトはもう一度頷くと

「ああ、一応お前らの状況も把握した
 何故お前たちがネギ先生を襲うかもな」
「――っうう……で、どうする気だ貴様は、やはりぼーやにつくか?」

何とか復活したエヴァンジェリンの問いに
アルベルトは首を軽く横に振ることで否定の意を示すと

「いや、紅華には言ったが俺とノインはどっちにもつかん
 最も、あまり酷いことになるようなら介入するぞ、覚えておけ」

その言葉にエヴァンジェリンの視線が鋭くなり
軽く睨むような視線でアルベルトを見てからそっぽを向くように横を見ると

「――ふん、散々待ったんだ、そんな事は保証できんな」
「――そうか、―――と待て待てどこへ行く気だ貴様」
「なっ」

忌々しげに吐き捨てると、踵を返して3−Aとは逆の方向へ歩き去ろうとしたエヴァンジェリン
その行動に眉を潜めたアルベルトは大股で一歩踏み出すと無造作に竜帝で掴み上げる
突然の行動に驚きの声を上げるエヴァンジェリンだが、すぐにアルベルトを睨みつけると

「き、貴様何をする!?」
「やかましい、―――貴様の事情がどうあれ堂々とサボろうとする問題児を副担任の俺が見過ごせると思うか?」
「んなっ!」

自分の言葉に固まってから更に騒ぎ出すエヴァンジェリン
それをアルベルトは無視して茶々丸に視線を向けると

「ほら、行くぞ茶々丸」
「は、はい」
「ちゃ、茶々丸っ!さっさと助けんかぁっ!」

自分の主の声を聞いた茶々丸は申し訳なさそうな表情とともに頭を下げると

「申し訳ありませんマスター、――アルベルトさんの言うことにも一理あると思います」
「なぁっ……――このボケロボ!あとで覚えてろよー!!」
「やかましい、さっさと行くぞ」

鋼の手に握られたままわめくエヴァンジェリンとそれを宥める茶々丸
そしてその様子を呆れ顔で見つつ歩くアルベルトと言う奇妙な3人組はそのまま校舎へ消えて行く

余談だが、ネギがエヴァンジェリンにビビりまくってロクな授業にならず、
その日の3−Aの英語の授業はアルベルトが溜め息付きで代行することになった


その日の午後、人々が賑わう通りをノインは歩いている
この数週間で顔見知りになった人が手を振ればそれに会釈で応え
この街に馴染んでいることを感じつつもそれを表に出さずに歩いていると

「あら、ノインさんじゃありませんの」

自分を呼ぶ声に振り向くと
道の反対側、袋を手に提げた紅華が微笑を浮かべながら手を振っていた
ノインは紅華の近くまで歩き、一礼すると

「これはどうも紅華様、お散歩でございますか?」
「ふふ、少し違うけど似たような物ですわ」
「そうでございますか」

頷くノインに紅華は逆の手の袋を掲げて見せると

「お暇ならご一緒しません?
 茶々丸に猫の餌を頼まれましたのよ」

ノインは袋の中に数個の缶を認めると
少し思案してから頷き

「では、ご一緒させていただきます」
「はい♪」

そのまま歩きだす2人
道中は専ら紅華が喋り、ノインがそれに頷きつつも歩いて行くが
数分ほど歩いたところで紅華が弾かれるように前を見る
そして彼女はこれまでに無い焦った表情でノインを見ると

「――すいませんが急ぎますわね!」
「――はい」

そう言うなり駆け出す紅華、続いてノインも同じように駆けだす
そのまま、時折道路を歩く人が驚いて飛び退くような速度で走り続ける2人だが
だんだんと視界に写ってきた光景に紅華が叫ぶ

「――――っ!茶々丸っ!!」
「―――」

その視線の先では茶々丸と戦う2人の人影―――ネギと明日菜が見える
ネギの杖の先が光り、そこから放たれた11の光球が茶々丸へ襲い掛かろうとしていた
ちょうど3人の横側に繋がる道から駆け出そうとする紅華に
懐から神形具を引き抜いたノインが言う

「お任せ下さい、紅華様は茶々丸様をお願いいたします」
「すいませんですわっ!」

紅華が頷くのを見てノインも頷くと
2人は凄まじい速度で戦いの中へ飛び込んで行く

一方、茶々丸は従者の契約によって力を得た明日菜に動きを制限され
そこに襲い掛かって来たネギの魔法への反応が遅れていた

「追尾型魔法至近弾多数……よけきれません」

茶々丸はそう呟き、俯くと

「すいませんマスター……―」

そこまで呟いた所で突如眼前に紅華が滑り込む
目を見開く茶々丸と背後の魔法の矢も紅華は無視すると
茶々丸の胴を抱えるようにホールドする

「――っ!ねえさ……」
「黙ってなさいなっ!」

呆然と声を上げる茶々丸に一喝し、一気に駆け抜けるが
背後のネギ達を警戒するように身を捩じりながらブレーキをかける
そしてその直後、紅華と茶々丸の眼前で11の魔法の矢が前触れ無く爆発した

「―――え!?」

一方、ネギ達も驚愕していた
元々生徒である茶々丸を倒すことに抵抗を感じていたネギが目を伏せた茶々丸を見て魔法を戻そうとした瞬間
何か赤い影が茶々丸を掻っ攫い、ほぼ同時に自分の魔法が爆発したのだから当然と言えるだろう

「い、一体何よ!?」

傍らの明日菜がそう叫んだ瞬間
空から降ってきた何かが眼前の道路に突き刺さる

「「『っ!!?』」」

明日菜とネギ、そしてネギの方に乗るカモ
2人と一匹の視線に写ったのは白と灰の金属で構成された短い槍とそれを握る―――

「て、手!!?」
「わ、わあぁっ!?」

それは黒っぽい緑色の服の袖か被さった一本の腕
しかしその肩口から先には何もなく、手だけが槍を握っている状態だった
その光景に目を見開くネギ達だが、少々離れた所に突如一人の人影が降り立つと

「―――大した衝撃だと判断します」

その声の方を紅華と茶々丸も含む全員が見ると
そこには銀髪の侍女――ノインが立ち、鋭い視線をネギ達に向けていた

「ノ、ノインさん!?」
「何でございますか?」
「な、何って……」

叫ぶネギに視線の種類を変えぬまま問うノイン
思わず問い返そうとするネギだが

「「!!」」

見るとノインの片腕は無く、侍女服も肩口で無くなっている
そして、その肩口からは金属製のパーツや陶器のような表面装甲が覗いている
その光景に彼女の主である義腕の青年を思い浮かべたネギは呆然と呟く

「ノ、ノインさんも……?」
「質問の意味を判断できかねます」

ノインはネギの言葉を遮断し、さらに鋭い視線をネギと明日菜に向けると

「お2人こそ何をしておいでですか?回答を頂きたいと希望します」
「「う……」」

元々冷たい印象のあるノインに睨むと形容しても差し支えない視線で見られて硬直する2人だが
ネギの肩で固まっていたカモが再起動すると、ノインと紅華を見て騒ぎ出す

『アニキ油断しちゃ駄目だぜ!どうせそいつらもエヴァンジェリンの従者なんだろ!
 さっさとやっちま―――アブバッ!?』

そこまで行ったところでいきなり銃声が響き、カモが前触れ無く吹き飛ぶ

「カモくん!?」

慌ててネギがカモを拾い上げると、カモは腹のあたりを押さえて悶絶している

「――安心なさいな、ゴム弾ですのよ」

その声にネギが振り向くと
茶々丸を降ろした紅華がどこから取り出したのか黒い銃剣を向けていた
ノインが眼前の槍を腕ごと引き抜き、紅華の背後に控えると
紅華はネギ達を見つつ溜息をつき

「貴方達は一体何をしてるんですの?」
「だ――誰よあんた!?」

その凶悪な外見の銃剣に驚きつつも紅華に怒鳴るように問う明日菜
それを聞いた紅華はあらあらと頷くと

「これは失礼、始めまして、私は紅華といいますわ」

紅華はそう言って頭を下げると
未だに目を回しているカモを冷ややかな視線で見つめると

「――しかし失礼なことを言う小動物ですわね
ノインさんにはアルベルトさんと言う立派な主がいますし―――私はそもそも主無しですのよ?」
「で、でも何で―――……」
「『何で茶々丸を助けるのか?』ですか?――ああ、そう言えば申し遅れましたわね」

呆然と呟いた明日菜の声に紅華は軽く頷くと銃剣を腰のラックに提げ
着ていたジャケットの片袖を無造作にまくり上げる

「「――あっ」」

服の下の腕には茶々丸と同じようなラインが無数に走っている
その光景に息をのむ2人を見て紅華は口元をうっすらと歪めると

「私の苗字は絡繰―――絡繰・紅華といいますの
 私は茶々丸は同系機、――人間でいえば姉妹みたいなものなのですわ」

その言葉に完全に固まる2人だが
紅華はそれを無視、さらに言葉を重ねる

「では聞きますが……――あなた方は自分の家族……大切な人でもいいですわね」

もはや紅華の顔には歪みすらなく
無表情に強い視線のみを浮かべると

「その人がもし誰かに襲われていたら助けるのは当然ですわよね?」

違うとは言わせませんわよ、紅華がそう付け足すとネギが何かに気づいたように目を見開く
が、紅華はそれを無視して腰の銃剣をとり、軽く回すと

「貴方達の事情は知っていますが、貴方達が負けようがエヴァンジェリンさんが負けようが私にとってはどうでもよろしいですわ」

回していた銃剣を掴み、銃口を空に向けると
ネギ達を睨みつけながらハッキリとした口調で言う

「―――ですが茶々丸は私の妹…………手を出すというのなら容赦しませんわよ?」
「う……」

その言葉にネギは俯き、ややあってから逃げるように走り去る
後に残された明日菜が一度紅華の方を見てから慌てて追いかける
その後ろ姿が見えなくなるをまで見届けたノインが振り向くと
銃剣を消した紅華が腰をかがめて茶々丸の脚部を点検していた

「何か詰まってますわね……、あまり無茶はいけませんわよ茶々丸
 猫に餌をあげるのも大事だというのはわかりますけどね」
「す、すいません姉さん……」

そう言いながら腰に下げていたビニール袋を手渡す紅華と
謝りながらも心配そうにネギ達の去った方を見る茶々丸
そこで2人は自分達を見るノインの視線に気づいたらしく
心配そうな顔でノインの片手を見ると

「ノインさん――――手は大丈夫なんですの?」
「心配は御無用かと」

ノインはそう言うと、槍を握りっぱなしの片手の肩の部分を本体の肩の部分に合わせ

「―――」

軽く息を吐きながら押し込むと、腕は隙間なく肩にはまり
再び動くようになった片手で槍を縮めて懐にしまい、一礼すると

「衝撃を逃がすためにあえて外しただけでございますので」
「あ……すいませんでしたノインさん」
「お気になさらずに」

そう言ってノインは頷いて微笑を浮かべると

「お2人はこの世界では数少ない“同族”だと判断できますので」

と、優しげな視線を2人に向けながら再度一礼すると

「何かあればご連絡を、主の命がありますので深くは介入できませんが可能な限りご協力いたします」
「あ……ありがとうございます」
「はい、――それでは」

そう言って踵を返し、歩き去ろうとするノインだが
少し歩いたところで振り向き、茶々丸に視線を向けると

「――茶々丸様」
「は、はい……なんですか?」

そう言って首を傾げる茶々丸から紅華へ視線を移し

「茶々丸様は良い御姉様をお持ちでございます
私の兄弟機は私を含めて皆融通が利きませんので」
「え……」
「あらあら」

その言葉の意味が分からず呆然とする茶々丸
そして何か思うところがあるのか意味ありげに笑う紅華
対照的な反応を見せる姉妹にノインはもう一度頭を下げると

「それでは私はこれにて」
「――はい」
「ええ」

と、今度は振り向きもせず歩き去る
それを見送りつつノインの言葉の意味を考える茶々丸だが
おもむろに紅華がその身体を持ち上げて、無造作に背負う

「――っ、ね、姉さん?」
「はいはい、何ですの?」

紅華はそう言いながら歩き出し
驚きの声を上げる妹にいつも通りの笑みを見せる
その様子に茶々丸はオロオロと首を振ると

「だ、大丈夫です、飛んで帰りますから……」
「駄目ですわ、ここでまた飛んだりしたら間接にもっと負担がかかりますもの
 無茶はいけないと今言ったでしょう?」
「で、ですが……」

紅華もだが、自分達ガイノイドの体重は人間より遥かに重い
いくらそれに比例するような力を出せるとは言え、自分を背負う紅華にもそれなりの負担はかかるはずだ
だが、紅華はそんな茶々丸の考えを見通したように笑うと

「いいじゃありませんの、どうせ大した距離じゃありませんし
それに――、私も一度こうしてみたかったんですのよ?」

え?と自分の言葉に首をひねる茶々丸
だが、紅華はそれに答えず、クスクスと笑いながら歩みを進めていくのだった―――




16th Story後書き

『魔法都市麻帆良』16th Storyをお送りします
タイトルの「Maschinelles Band」は独逸語です
『機械の絆』とかそう言う意味だと思って頂けるとありがたいです

茶々丸が原作より感情豊かだったり紅華もまた然りだったりする理由はちゃんとあります
だいぶ先になりますがきちんと説明しますので今はご容赦ください

あとノインの片腕がぶっ飛びましたが作中で言っている通りなのでダメージはほとんどないです
ネギも原作どおり魔法を戻そうとしましたが、その直後にノインが魔法を叩き落したのでこういう展開になってしまいました

指摘等ありましたら感想掲示板に書いて頂けると嬉しいです
それでは

〈続く〉

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