『魔法都市麻帆良』
The 17th Story/風に映る黒き森



茶々丸がネギと明日菜に襲撃を受け
それをノインと紅華が止めると言う出来事があった日の翌日
近右衛門が学園長室でその日の仕事を片付け、一息ついていると
不意に部屋の扉が開き、見知った義腕の青年が現れる

「邪魔するぞ学園長」
「――アルベルト君?一体なんじゃの?」

近右衛門の疑問にアルベルトはああと頷くと

「エヴァンジェリンとネギ先生のことだ」
「ふぉ……」

アルベルトがため息交じりに放った言葉を聴いて一瞬詰まる近右衛門
その様子を見て重ねて溜息をつき、部屋のやや奥にある近右衛門の仕事机の前に立つと
おもむろに左手の拳を机につき、眼前の老人を軽く睨むと

「貴様は一体どういうつもりだ? エヴァンジェリンがどの程度の力を有しているのかは知らんが
 相当の年月を生き抜いてきたのは俺にだってわかる、そしてその強みは力だけである筈がない
 そのエヴァンジェリンに狙われたネギ先生にサポートを誰も付けんとは一体どういうことだ?」
「い、いやのう……」
「ああ、言っておくが俺とノインは別だぞ?何しろ俺達は魔法使いではない上に本来居る筈がないのだからな」

何か言おうとした近右衛門が重ねて放った言葉で黙り
冷や汗を垂らしつつ頬をかくのを見て数秒思考、ややあってから半目の視線を向けると

「……まさか本気で俺達に頼ってたと言う気か貴様? だとしたら話にならんな」
「い、いや、流石にそれは違うぞい?」
「そうかそうかまあどうでもいい」
「ひどっ……」
「やかましい日頃の行いを思い返して反省しろこの妖怪悪戯爺」

近右衛門が机に伏せて嘘泣きを始めるのをアルベルトは無視
拳を机から離し、その手で軽く頭を掻きつつ溜息をつくと

「ああ、それとネギ先生は1人で何とかしようとしているらしいぞ
 どうも俺を一般人と同じように扱っているようでな、話すらしてこないのだが?」
「う……うむ」

その内容が意外だったのか嘘泣きをやめて考えるそぶりを見せる近右衛門
アルベルトはその様子を見て、やはり意外だったかと声に出さずに呟くと

「ああ、念の為言っておくが俺は助けを求めん奴を自分から助けるほどお人好しではないぞ?」
「ふぉっ……?」

その言葉に首をひねる近右衛門、対するアルベルトはやや大仰に肩をすくめ

「ネギ先生やエヴァンジェリンが何か言ってこない限り俺は何もせんと言うことだ
 それに今ネギ先生に肩入れするのはノインも納得せんだろうしな」

絶対に表にはださんだろうがな、とアルベルトが付け加えると
昨日の出来事を知ってるらしくうむ……と唸ったまま黙ってしまう近右衛門
アルベルトはそれを見て頷き、一歩後ろに下がってから踵を返すと

「そう言う訳だ、ではな」
「う、うむ……」

アルベルトはそのまま部屋から出て歩き出す
しばらく歩いたところでふと廊下の窓に視線を向け

「――ふう、俺はいつからこんなお節介になったのだろうな」

そう呟くと懐から携帯を取り出すと、慣れた手つきでリストの中から1つを選び、かける
数度の呼び出し音が響き、ややあってから聞きなれた少女の声が響く

『はいはいー、こちら超鈴音ネ。誰カ?』
「超か?俺だ。少し頼みたいことがあるのだが」

ん?とその電話の相手である超が首をひねったような声が聞こえ

『あいやー、アルベルトから頼み事とは珍しいナ、―――何かネ?』
「ああ、実はな―――」

何やら妙に機嫌良さそうな様子で話す超
その声にアルベルトは内心で首をかしげつつ話しだす


――約10分後

「―――そう言うわけだ、頼む」
『あいや、了解したネ、調べるだけ調べておくヨ』
「ああ、ではな」

アルベルトが話し終え、対する超は変わらぬ様子で応える
そうしてアルベルトは電話を切ると再び歩き出すが

「――む?」

ふと、懐にしまった携帯が無機質な電子音を奏ではじめ
携帯を取り出すと、アナログのモニタには『長瀬(忍者?)』の表記がある
生徒の電話番号は名前でしか登録してないはずなのだが
誰だ弄ったのは、と考えつつ(近右衛門は自分でやった)通話ボタンを押し、耳に当てる

「――もしもし」
『あ、アルベルト殿?拙者でござる』

携帯から聞こえるのは比較的付き合いのある少女の声
しかし、普段は落ち着いたイメージのあるその声は何故か困っているような調子を帯びている
アルベルトはそれに内心で首を傾げつつ話を続ける

「ああ、何だ?」
『あー、何というかでござるな、今山で修行していたのでござるが』
「ああ」

楓の言葉に頷くアルベルト
無論その様子が楓に見えるわけはないが
そこで何故か言葉に詰まると、やや会ってから楓の溜息が聞こえ

『――……森でネギ坊主を拾ったでござる』
「……――は?」

その言葉を聞いた瞬間アルベルトの表情が嫌そうな物になる
今は休ませてるでござるが、と付け足す楓が気づく訳はないが
それを無視しつつアルベルトは軽く頭を掻くと

「―――で、何でネギ先生が山に居る、具体的な理由を吐け長瀬」
『そ、そんなもの拙者にわかる訳ないでござろう!』

言い掛かりも甚だしいアルベルトの発言に慌てた様子の楓だが
すぐに落ち着いたのか、少々思案した風に答える

『――拙者も詳しいことはよくわからんでござるが
 妙に思いつめた様子だと見受けたでござる』
「ふむ」

アルベルトは少々思案し、ややあってから異様に嫌そうに頷くと

「―――わかった、今からそっちに行く、少し面倒を見ていてくれ」
『わ、わかったでござる』

その声の調子に何か感じたのかやや慌てて楓が電話を切ると
アルベルトは面倒な……と呟きつつ歩いて行く


約40分後、山の中
今朝家出をしたネギを拾った長身の少女『長瀬楓』とネギ
妙に元気の無いネギを見かねた楓は
自身の修行の一環として行っている食料調達にネギをつき合わせていたが……

「く、くまーーーー!!?」
「ござ〜〜」

今現在楓の持つ蜂の巣を狙った野生の熊に追いかけられて山道を絶賛激走中であった
逃げようと思えばいつでも逃げられるのだが、傍らで走るネギが妙に騒ぐせいか中々逃げられず
引っ張りあげるタイミングがつかみづらいでござるなぁ、と楓が考えていると

「――ふん」
「―――!??」

突如道の横側から飛び出してきた緑色の何かが熊の側頭部をしたたかに打ち
もんどりうって豪快に倒れ、すぐに起き上がるも脅えた様子で辺りを見回す熊
ネギと楓も呆気にとられたようにそれを見ていると、獣道の端からG機関制服に着替えて腰に飛皇を差し
更には小振りのバックを下げたアルベルトが唐突に現れる

「「!!?」」

アルベルトは驚きの表情を浮かべるネギと楓を無視し
熊に竜帝の握り拳を向けると、やや面倒くさそうに言う

「ま、何だ。――失せろ」

しかし、何故か竜帝を凝視したまま完全に固まる熊
その様子に首を傾げたアルベルトが熊の後ろに回り、そらと言いながら軽く熊の尻を叩くと
熊はその瞬間弾かれたように逃げだし、そしてそれをふむと唸りながら見送るアルベルト
そこで、ネギが初めて気づいたように目を見開き

「ア、 アルベルトさん!?」
「遅かったでござるなアルベルト殿」

思いっきり慌てるネギと対照的に落ち着いた様子で片手をあげて挨拶する楓
アルベルトは2人を見て軽く笑いつつ肩をすくめ

「ああ、すまん。ノインに連絡してたのに加えて少々迷ってな」
「あい、まあ、とりあえず戻るでござるよネギ坊主」

とりあえず楓がキャンプをしている河辺まで戻る3人
そこで楓が先ほどの出来事を思い出したのか改めて感嘆のため息をつくと

「しかし凄いでござるな、あんな大熊をあっさりと追っ払うとは」

対するアルベルトは何でもないと言わんばかりに軽く肩をすくめると

「何、俺の学生時代の先輩にはもっと凄い女がいたぞ」
「ござ?」

疑問符を浮かべる楓に過去を思い返したのか妙な顔をするアルベルト

「俺が学生の時には卒業してたんだがな、――素手で熊殺してたらしいぞ」
「……ござ?またまたアルベルト殿はたちの悪い冗談を……」
「そう言うが本当の話だぞ長瀬」

そういうアルベルト自身いまいち信じきれていないのか微妙な顔で頬をかく

「ござ……」
「まあそれはいい、で、さっきから黙ってるそこの小僧」

アルベルトは呆然とする楓から視線を外し
傍らで目を丸くしていた赤毛の少年に視線と言葉を送る

「は、はい!?」

その言葉で我に返ったのか慌てて返事をするネギ
アルベルトはそれを見つつ呆れた様に頭を掻くと

「何故こんなとこに居るのかは知らんがせめて相談してくれんか?
 そうやって連絡も取らずに迷子になられては非常に疲れる」
「あ、あううう〜〜〜」

真顔で割りと無茶苦茶な事を言うアルベルトだが
ネギは申し訳なさそうな顔で俯いてしまう
その様子を見たアルベルトは少し思案してから溜息をつくと

「――……まあいい」

え?と顔を上げるネギと首を傾げる楓に肩を竦めて見せると

「どうせ今戻っても大した意味はないだろう、一晩だけなら気晴らしとして許可してやる」
「は、はい」

慌てて首を縦に振るネギとそれござござと頷きながら見る楓
アルベルトはそれを見て楓のほうに半目の視線を向けると

「長瀬、お前も修業はいいのだが昨日の課題は真面目にやってるだろうな?」
「ご、ござ……」

固まる楓に無言の視線が突き刺さると、ややあってから急に慌てだし

「や、やってるでござるよ?」
「白々しいウソをつくな阿呆」
「ござっ!?」

冷や汗つきで放たれた一言を容赦無い言葉とデコピンで潰し
頭を抑えてしゃがみこむ楓を無視して軽く笑うと

「ま、期限は来週だから今焦る必要は無いがな」
「ひ、酷いでござる〜」
「やかましい、ほら、食料が足らんのなら少し持ってきたから使え」
「―――……おお、これはありがたいでござるな」

アルベルトが腰のハードポイントに下げていたバッグを楓に放ると
楓は途端に機嫌を直し、にこやかに笑いながらそれを受け取った


約3時間後
あの後もアルベルトも加えた3人で森を巡って食料を集め
今は楓のキャンプからいくらか離れた崖に座って眼上の蒼く光る三日月を眺めている
少し前はキャンプの方から水音と何故かネギの驚きの声が聞こえていたが
それも聞こえなくなり、アルベルトは特に何をするでもなく座っている

「神楽坂にはノインが言っているだろうが……大丈夫だろうな?」

乱暴に見えるが情に厚い少女に
先日の出来事で少なくとも警戒はされているであろう従者の事を考えるが

「――ま、大丈夫だろう」

あの小喧しい白いイタチのようなネズミのような生き物は煩いかもしれないが
今心配してどうにかなる問題でもないと考えたアルベルトは独り言をやめ、再び森を見る

『――……』

ふとその口が動き、一つの言葉の流れを作り出していく
それは彼の故郷――独逸の言葉で紡がれる一つの詞

『―――黒き森の暗き闇 深淵にて生まれ 深淵より転輪す
 疾風を巻きて竜と語り 風を読みては詩を朗じ 手には力を抱いて逡巡―――』

その詞――独逸創始記『起臥の第三節』を呟く意味は無い
ただ、夜のこの森が自分の故郷にある黒き森と僅かに重なった
アルベルトにとってはその程度の問題だ
少なくとも本人はそう思っているはずだが……

「……いかんなぁ」

誰に聞かせるでもなく呟くアルベルトだが
ふと背後に気配を感じて振り向くと、風呂にでも入ったのか頭から湯気を立ち上らせたネギが居た
ネギは座って何やら呟いていたアルベルトの姿に疑問を覚えたらしく頭を傾げると

「あ、アルベルトさん……どうしたんですか?」
「ああ、少し考え事をな」

そうですか?と首を傾げるネギ
アルベルトは首肯すると、おもむろにネギのほうに向き

「さてネギ先生」
「――は、はい?」

何故か身構えるネギをアルベルトは無視して頭を下げると

「昨日はうちの従者がすまなかったな、話を聞く限り手を出したのは紅華のようだが……
 ノインが君を怯えさせたのは事実だろう、あいつの主として謝罪しよう」
「い、いえ!元はと言えば僕が……」

アルベルトの言葉に慌てて首を振るネギ
その反応に対してアルベルトもうむと頷くが

「うむ、確かに茶々丸を君が襲ったのがノインと紅華の怒りを買った原因なのだろうな」

アルベルトはそこで言葉を切り、だがと付け足すと

「元はエヴァンジェリンが君を襲ったのが原因だし
 更に言えばその原因は君の父親だろう、一々考えていたらキリがないな?」
「は、はい……あ、でも何で父さんの事を……」

アルベルトの言葉を飲み込めずに首を傾げつつも
自分の父親とエヴァンジェリンのことを知っているという事実を不思議に思うネギ
対するアルベルトはハハと笑うと

「それは秘密だ。まあ、気にするなとは言わん、それは無理な話だからな
 まあともかく今は寝ろ、詳しい話はまた今度にでも聞いてやる」
「は、はい……」

ネギがまだ聞き足りなさそうな顔をしているが
アルベルトに答える気は毛頭無いらしく、片手をひらひらと振ると再び月に視線を向ける


同時刻、麻帆良大学工学部個人研究棟の一室
様々な機械や本が並ぶ部屋の中、紅華がせわしなく掃除をしている
自分の親といえる少女はどうにも掃除が苦手だがどうにかならないものか
紅華はそんな事を思いつつも掃除を進めていく

「――あら」

ふと、部屋の隅に設置された電話が鳴り始める
その電話に外線のランプが付いているのをみて首を傾げると
いったい誰ですの、と何気なく呟きつつ電話を取ると

「はい、こちら麻帆良大学工学部個人研究棟B−3室ですわ」
『もしもし紅姉?あたしあたしー、あたしだよん』

紅華の声に応えたのは紅華や茶々丸の似た質の、しかし幾分か高い調子の声
その声を聞いた紅華は微笑を浮かべると、自分の言葉を聴いた相手の反応を考えつつ口を開く

「あいにくですけど『あたし』なんて名前の方に心当たりはありませんの、他を当たってくださいな」
『うっわいきなりそういう対応って酷くない!?可愛い妹からの電話だよー?』
「確かに可愛いですが自分で言ってる時点で駄目駄目ですわよ?」

相手の反応が自分の予想と全く変わらないのに微笑しつつ
同じように最初から決めていた応答で返す紅華
その声に電話の相手は不服そうにむぅ、と唸ると

『いっつも思うんだけどなーんで紅姉はあたしにだけそう言う反応返すのかねぃ』
「それは己に問いなさいな、で、姉さんに何用ですの?」

紅華がそう言うと、相手も声の調子を不満げなものから真面目なものへ変え

『んー、茶々姉は大丈夫かなぁって思ったわけさ
 ほんとはもっと早く聞きたかったけど時間無くてねぃ』
「あらあら、誰から聞きましたの?」
『ん、ゼロ姉だよん。久々に外に出たら茶々姉が襲われたって言ってたんだねぃ
 ゼロ姉とエヴァっちに教えたの紅姉っしょ?』

紅華はなるほど、と胸中で頷き
今は別の場所で部品の総点検を行っている妹のことを一瞬考え
しかしすぐに電話の相手のほうへ思考を戻すと

「そうですわよ、なら教えますがノインさんのおかげで茶々丸に目立った損傷はありませんから安心なさい」
『それは良かったねぃ、―――あ、エヴァっちカンカンだったよー?
『私の従者を襲うとはボウヤのくせにいい度胸だなぁ!?』って自分を棚に上げた言動してたねぃ』

おそらく録音していたのであろう妹の主人の声を自分の声に挟んで再生したらしく
紅華は思った以上に自分の妹を想ってくれる吸血鬼の少女に内心で感謝しつつ微笑すると

「あらあらまあまあ、じゃあ鏡を見せた後で適度に宥めておいてくださいな」
『うぃーっす、―――ハァ、んじゃあまたストレス発散の相手かねぃ』
「あらあら、――大丈夫ですの?」

また、と言うことは何回もしてるんですの、と向こうの情報は断片でしか入ってこない紅華にとって
今の一言は割と衝撃的な発言だったが、相手は何故か楽しそうに笑うと

『あはは、まあ場所借りの代金みたいなもんだと思っておくことにしとくねぃ
 あたしとあの子の2人ならエヴァっち相手でも何とかなるっしょー』
「ですの?―――あまり負傷を増やしては駄目ですわよ?
 ただでさえ部品の開発が追い付いていないのですから」

あんまり損傷が多いと葉加瀬に負担が掛かりますしその皺寄せは私に来ますのよ?
と、親の心配をしてるのか自分の負担が増えるのが嫌なだけなのか良くわからない思考の紅華だが
向こうはそれに気づくことなく能天気に笑いだし

『はっはー、エヴァっち相手にそれは無理と言うものだねぃ』
「楽しそうに言うのおやめなさい、――まあ頑張りなさいな」
『ほーい、ありがとねん』

と、その言葉を最後に通話が切れる
紅華は受話器を置くと、再び掃除を再開するのだった……


翌朝、山
ネギが昨夜、アルベルトと話していた場所から少しキャンプに近い崖に立ち
手に印を組んで何やら呪文を呟き、目を見開いて手を伸ばすと
その他にどこからか飛んできた杖が収まる
よし、と呟いてその杖にまたがろうとするネギだが

「戻るのか?」

いきなり後ろから聞こえてきた声に振り向くと
視線の先で昨夜はテントの外で眠っていたらしいアルベルトが寝起きの頭を掻きつつ立っていた

「あ、――はい、アルベルトさん」

ネギは近づいてきたアルベルトに頭を下げると

「僕、……逃げていたみたいです
 これまで失敗なんか無くて、でもエヴァンジェリンさんには勝てなくて……」
「―――ふむ、それが悪いというわけではないがな」
「え?」

ネギが更に言葉を重ねようとしたところに帰ってきたアルベルトの声
その一言に驚いたネギが顔を上げると、目の前に立つアルベルトは微笑を浮かべ

「失敗が笑って許されるのは子供のうちだけだということだ」

君は子供扱いされるのを好まなさそうだがな、と付け加え

「教師を任されたとはいえ大人に頼らんのは損だぞネギ先生?」
「は、はい」

アルベルトは何か吹っ切った風のあるネギを見て肩を竦めると

「ま、君がやりたいと言うなら止めはせんさ、ただもう少し俺を頼れ
 これでも君の補佐なのでな、職務怠慢と取られては困る」
「アルベルトさん……」

呆然と呟くネギを見てアルベルトは笑うと

「うむ、ではさっさと行くといい、長瀬には俺が言っておく」
「は……はい!」

アルベルトはネギが杖に跨って飛び上がり
あっと言う間にその姿が見えなくなるのを見て目を伏せると

「起きていたか長瀬」
「―――人が悪いでござるなぁ、気づいていたのでござろう?」

振り向くと、背後のかなり近い位置に楓が立っている
自分の声に笑いつつも不満げな声を上げる楓の声に苦笑を受かべると

「まあな。で、何の用だ?」
「あいあい。実を言うと拙者、この前の戦いに不満があるでござるよ」
「ん?」

―――アルベルト・心理技能・自動発動・闘気感知・成功!

アルベルトは楓の様子からこの後の発言を予測すると数秒思考し、仕方なさそうに苦笑すると

「――はは、なるほどな。で?どうして欲しい」
「あいあい」

にこやかに笑う楓の手が動き、懐から瞬時に何本もの苦無を引き出すとそれを構え

「全力を出す出さないはそっちの勝手でござるが……
 ―― 一勝負、相手してもらうでござるよ!」
「――は、いいだろう。なら……行くぞ長瀬っ!」

アルベルトもそう言って笑うなり腰の鞘から飛皇を引き抜き
駆け出した2人は凄まじい勢いでぶつかり合った―――


数十分後
朝靄が射し、肌寒い空気を漂わせる女子寮付近の通りを一人の男性が歩いている
その男性は黒人特有の浅黒い肌をスーツに包み、生真面目そうな顔に眼鏡をかけている
男性が周囲を真面目な顔で見回しつつ歩く中、いきなり道の端に降り立った影がある
前触れ無く現れた影に男性が目を凝らすと……

「あれは……ちょっと待ちたまえ!君!」
「ござ?」

その声に影――楓は振り向き
慌てて走ってくる男性をみておや?と首をかしげると

「おや、これはガンドルフィーニ殿。どうしたでござるか?」
「どうしたじゃない。一体何だね君は、こんな時間に……」

と、楓のそばに立った男性――ガンドルフィーニが言葉を重ねようとした時

「おーい!避けろぉ!」

と言う男の声が上から響いた

「ござっ」

その声の主を知っていた楓はすぐさま前方へ飛んだ
だが、ガンドルフィーニは

「うん?」

と、上を見たのが悪かった
振ってきたのは巨大な義腕と、1人の男だった

「!?」

激突
衝撃の音は金属が肉を殴打する音に等しい

―――アルベルト・体術技能・発動・姿勢制御・成功!

座布団のようにガンドルフィーニを道路へ殴り伏せた直後
アルベルトは側転、倒れたガンドルフィーニの真横に立ち

「……っと危なかったな。――ん?おーい、大丈夫かぁ?」

倒れたまま動かないガンドルフィーニからは返事はない
その様子に真顔になったアルベルトは、眼前で同じように真顔の楓に視線を向けると

「――大体、生徒と教師が2人揃って遅刻しそうになってれば世話ないよなぁ」
「――あれは中々本気出さないアルベルト殿が悪いのでござろう」

2人は楓の言葉を皮切りにいきなり笑い出すと

「ははは、――ふむ、俺は最後で40%くらいか」
「あははは、――拙者は35%でござるよ?」
「そうかそうか、―――で?」
「ご、ござ!?」

会話の流れを不自然な笑顔と言葉で断ち切られた楓が固まるが
アルベルトはそれをやかましいと一蹴すると

「――さて、原因俺だが現実見るか」
「そうでござるなぁ」

2人は地面に倒れ付したままピクリともしないガンドルフィーニに視線を向けると

「で、だれだったかこいつは、見た記憶はあるんだが接点皆無でなぁ」
「ガンドルフィーニ殿でござるよ、しかし盛大に潰れてるでござるな」

アルベルトはおお、と納得の声を上げ

「ああ、隠してるの無視で言うが忍者のお前を追いかけて思いっきり飛んだのがやばかったようだなぁ」

楓はその言葉を聞いて軽く頭を掻いてから第五竜帝を指差し

「どうせその……竜帝でござったか、それの重みでバランスでも崩したんでござろう?」
「いやあ重さはないんだが質量で重心ずれてなぁ」
「なるほど、さっぱり意味が分からんでござるなぁ」
「まあお前じゃわからんだろうなぁ」
「むぅ、それは酷いでござるな」
「まあ気にするな、はははははははは!」
「あはははははは!」
「何がハハハだ君達はぁっ!」

ガンドルフィーニが勢いよく飛び起きた
瞬間、彼の頭髪の間から、額に、すっと細い血の線が流れた
一泊をおいてそれは更に本数を増し

「うおおおっ!血がっ!」
「何か妙にやかましいが本当に教師かこいつは」
「あいあい、妙に血ダルマでござるが間違いなく教師でござるよ」
「そうかそうか」
「き、君達はなぁっ!――おおっ?」

顔面流血のまま叫ぼうとしたガンドルフィーニの体が揺らぐ
そのまま片膝を突いた彼を見てアルベルトはふむと唸ると

「――どうやら血が足りんようだな」
「そのようでござるなぁ」
「な、何をのんきに」

抗議の言葉は最後まで続かなかった

―――アルベルト・体術/脚術技能・重複発動・踏み込み・成功!
   ―――アルベルト・腕術技能・発動・ボディブロウ・成功!

「……ぐふっ!?」

アルベルトが瞬間的にガンドルフィーニの真正面に回り
間髪入れずに放った拳の一撃でガンドルフィーニの意識を刈り取る
アルベルトはそのままガンドルフィーニを担ぎ上げると

「さて、医務室に連れて行くか」
「問答無用で腹殴って気絶させといてよく言うでござるなぁ」

細目をわずかに開き、呆れの視線を向けてくる楓

「やかましい、ともかく長瀬、お前はさっさと戻れ
 そろそろ本当に遅刻しかねんぞ?」
「あいあい、ではこれにて」

楓はそう言って頭を下げると踵を返して走り出し
その姿はあっという間に朝靄の中へ消えていく
アルベルトはそれを見送ると、ガンドルフィーニを一度担ぎ直して学園のほうへ歩いていく




17th Story後書き

『魔法都市麻帆良』17thをお送りします

またもや更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありません
次回はもう少し早くできたらいいなと思っておりますが
あまり期待せずお待ちいただければ幸いです

今回の最後は都市シリーズの『奏/騒楽都市 OSAKA』のネタですね
ガンドル先生のファンの方には真に申し訳ありません
ですがあのネタにぴったりなネギま!キャラは彼しか思いつかなかったので……

何だかいくつかの伏線を解決して新しい伏線を無意味に増やしてしまったような気がします

それでは

〈続く〉

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