『魔法都市麻帆良』
The 5th Story/緑風の詩



学園長室を出た来訪者を含む4人は
先刻アルベルトが現れた場所……森の一角に在る緑色の巨人の足元にいる
―――しかしよく見るとその場には3人しかおらず
義腕の青年――アルベルトは巨人の後頭部にある突起に付いた扉の中で何かを探している

「――ふむ、何があるかわからんと思って色々詰め込んでいたのが役に立ったか」

上から聞こえた声にエヴァンジェリン達が上を見ると
2つの黒い大型ケースを竜帝で抱えたアルベルトが目の前に降り立つ
1m前後のかなり長大なケースを見てエヴァンジェリンは眉を潜めると

「……?何だそれは?」
「その内解る、―――それより聞きたい事があるんだろう?」

まだ何か聞きたそうな様子のエヴァンジェリンだが
今は教えてくれないと判断したのか仕方なさそうに口を開く

「―――――…………ああ、確かお前の使う…………リズムだったか」
「ああ、日本語なら神の器と書いて神器だ」
「そう、それだ、―――確かその神器には特別な物があると言っていたな?それを教えろ」

その言葉にアルベルトは困ったような顔をしながら頭を掻くと

「――別に構わんが…………その特殊な神器も俺は持っていない上にほんの一部を知っているだけなのだが―――それでもいいか?」
「ふん、それでかまわん、私は単に知的好奇心を満たしたいだけだからな」

そうか、とアルベルトは頷くと緑獅子・改の右のつま先に腰掛け
ノインが自分の背後に控えるのを横目で見てから話し始める

「―――では教えようか
 俺の使う神器が一般的に右神器と呼ばれる物だと言う事は言ったな?」
「ああ、確かお前らの世界の遺伝詞と呼ばれるものを変調させて
 火や水を生み出す音楽だったな?」

アルベルトはエヴァンジェリンの言にそうだと頷き

「右神器は俺の世界の日本において一般にも広まっている神器だ
 そしてこの右神器以外にも左神器と重神器とそれぞれ呼ばれる神器が存在する」
「左神器に―――重神器か?」

エヴァンジェリンが首を捻りながら放った言葉にアルベルトは頷くと

「ああ、左神器は太古より原盤としての音楽が残っている神器でな
 音楽媒体を使用せずに発動できると言う利点がある
 俺の知っているのは俺が名護屋圏の総長を勤めていた時より少し後の大阪圏総長“難波・総一郎”が使った左神器“草薙”
 ―――神器としての能力は“斬る”と言うことを強く顕現させるらしい」
「――らしい?」

アルベルトはその言葉に軽く肩をすくめ

「―――直接見たわけではないからな、詳しい事はわからん
 とにかく右神器とは全く異なった神器で有ると言う事で間違い無いだろう」

肩をすくめつつ放たれた言葉にエヴァンジェリンはふむと唸ると

「成程…………そう言えば―――重神器と言うのはどんな神器なんだ?」
「重神器か?――俺も詳しい事は知らんのだが……神話の代物の名前を別名として持ち
 右神器と左神器の双方を遥かに凌駕する超強力神器、と聞いた事がある」

ほう?と呟きながら視線を向けてくるエヴァンジェリン
それに対してアルベルトは左手をエヴァンジェリンに見せる形で向け

「俺の知っているのは2つ」

アルベルトは指を1本立て

「1つは『炎神』神話としての別名は『八又』」

そういって一息入れ、更にもう1本立てると

「もう1つは『零神』別名は『叢雲』と言うらしい、まあ、どちらも名しか知らんがな」
「ヤマタノオロチに天叢雲の剣か……
 日本神話最大の化物と神剣を名として持つと言うことは……力もそれ相応と言うことなのだろうな」

興味深そうに呟くエヴァンジェリン
アルベルトは同意するように頷きながら左手を下げて言う

「だが―――、重神器は近畿動乱と言う戦いで失われてしまってな
 その殆どが失われた過去の異物扱いとなっている」
「成程な…………、―――ああそうだ、貴様の他の神器は何だ?
 確か風神の他にいくつか持っていると言っていたな?教えろ」

アルベルトはああと言いつつ竜帝に視線を向けるが
ふとその視線を止めて軽く笑うと

「―――と、言っても俺の物ではないのだがな
 総長時代の部下からの預かり物だ」
「預かり物?」

エヴァンジェリンの問いに軽く頷き、竜帝を撫でると
竜帝はテンポの速く、高い音色の音楽を流しだす

―――アルベルト・光帝技能・発動・光帝発動・成功!

小さな駆動音を立てつつ握られた竜帝の拳が淡く、白い光を纏う
エヴァンジェリンと茶々丸が驚いたような表情をするのを見て苦笑すると

「1つはこの光帝神器……今見た通り光を生み出す神器だ」

溜まった光を払うように竜帝を振ると
球体状になった光はふわりと飛び、空中で四散する

「慣れていれば簡単に光熱の一撃を見舞えるが―――俺では集中しないと難しいな」

暗がりを照らすのには便利だがな
そう言うと、エヴァンジェリンはさらに興味を引かれたようで続きを促してくる、
アルベルトが再び竜帝を撫でると
応じるように竜帝から流れる音楽がテンポのかなり速い――テクノ系に似た音楽へ変わり
竜帝を今度は赤い光が覆う

アルベルトは立ち上がり、手近な石を拾って放り上げると

―――アルベルト・義体/裂帝技能・重複発動・裂帝打撃・成功!

竜帝の拳が石へ繰り出され、鋼の豪腕による打撃力が1個の石に叩き込まれる
本来それによって砕けなければいけないはずの石は拳の先端で真っ二つに断たれ、落下する

「――……ほう――」
「これは裂帝神器――“裂く”事を主眼とした神器だな」

アルベルトがそう呟いて再度竜帝を撫でると
竜帝の唸りが途絶え、赤い光も四散する
アルベルトは視線をエヴァンジェリンに向け

「―――さて、俺が使う風神以外の神器は主にこの2つだ、―――どうだ?」
「成程な……―――クククク、―――面白いな」
「そうか?」

アルベルトからすれば10年近く使っている物なのでそう言う感覚は無い
振り返ってノインに視線を向けるとノインは首をかしげ

「そういうものだと推測します」
「そういうものか」
「はい」

2人で頷き合っていると
エヴァンジェリンが心底楽しそうな顔で再度問うてくる

「―――貴様の持っている神器はその3つのみなのか?」

問われたアルベルトは軽く苦笑すると

「―――いや、もう1つ……あまり戦闘向けとは言えんのがある…………しかし」
「しかし――……何だ?」
「今この場で使っても何も起きんな、せいぜい音楽が流れる程度だろう」
「そうなのか?」
「ああ」

意外そうな視線を見せるエヴァンジェリンに対しアルベルトは頷く事で肯定する

「――そうか……まあわかった、更に詳しい事は明日聞かせてもらおうか」
「ふむ――俺はかまわんが?」

その言を聞いたエヴァンジェリンは踵を返し、背を向けたまま言葉を放つ

「もう帰るとするか……―――2人ともついて来い、さっき言った通り私の家に泊めてやる」
「――すまんな」
「ありがとうございます」

率直に頭を下げるアルベルトとノイン
それを聞いたエヴァンジェリンはふんと鼻を鳴らし

「まだまだ貴様らには聞きたいことが山ほどあるからな、―――行くぞ茶々丸」
「イエス、マスター」

そのまま4人は再びその場から立ち去る
向かうのは金髪の吸血鬼と緑髪の自動人形がすむ一軒のログハウス
それを見て義腕の青年と銀髪の自動人形がどう思ったかはまた別の話だろう

そして夜はふけ……


翌朝、麻帆良学園学園長室内


アルベルト、ノイン、エヴァンジェリン、茶々丸の4人が再びそこを訪れると
部屋では近右衛門、タカミチ、超、そしてもう1人、眼鏡に三つ編みの少女が4人を待っていた
彼女は4人を視界に納めると、楽しそうに片手を上げ

「あ、エヴァンジェリンさんに茶々丸、おはよーございますー」

彼女がいることが少々意外だったのか、エヴァンジェリンは軽い驚きの表情を作ると

「何だハカセ、来ていたのか」
「ええ、超に聞きまして、あ、そちらの方が……」

ハカセと呼ばれたその少女がエヴァンジェリンと茶々丸の後ろに居た2人に視線を向ける
アルベルトとノインは一度顔を見合わせてからハカセに頭を下げる

「アルベルト・シュバイツァーだ、こっちは俺の侍女の…………」
「ベルマルク・ノインツェーンと申します」
「あ、ご丁寧にどうもー、私は葉加瀬聡美と申します
 一応異世界の事とかは超から聞いてますのでご安心をー」

にこにこと嬉しそうにに告げる葉加瀬
その後ろで近右衛門がやれやれと言わんばかりに肩をすくめながら

「――まさか葉加瀬君まで魔法や君達の世界の事を知っとるとは思いもせんかったわい」

呆れたように呟く近右衛門に超は苦笑を浮かべて言う

「―――魔法を知らなければ茶々丸を完成させる事はできなかったヨ
 世界の事は……まあ、成り行きで……ネ」
「あははー、何言ってるの超ー
 割と前に超の部屋にある機械について聞いたら勢いで答えてくれたでしょ?
 『これは流体を感知する装置だネ』って、あとは芋蔓式でしたねー」

最後の部分だけ歯切れ悪そうに言った超だが、葉加瀬が笑いながら言った即答に固まり
次の瞬間には電光石火の勢いで葉加瀬に掴みかかる

「ハ、ハカセ!何でそう言う事をさらりとバラすネ!?」

叫びながら葉加瀬の襟首を掴み、ガクガクと猛烈な勢いで揺さぶりだす

「ひああああああ超〜!く、苦しいってー!」
「いいからさっさと忘れるネー!」
「む、無理だってばー!」

多少加減しているようではあるが超は超人とさえ呼べる身体能力を持つ者達の集う都市、万景街都――北京の出身である
そんな人物に高速で揺さぶられている内に葉加瀬の顔色はどんどん悪くなっていく
流石に危険と判断したタカミチが止めようとした時、顎に手を当ててそれを見ていたアルベルトは横に居るノインに視線を向けると

「―――ふむ、あのままでは少し危ないな、ノイン」
「はい」

アルベルトの言葉にノインは一礼して懐から何かを取り出し、アルベルトに手渡す
アルベルトはそれを持って2人に近づき

「―――いい加減にしておけ」

快音が2度響き
後には頭を軽く抑えてアルベルトを見る少女2人と
左手で先ほどノインから受け取った物…………
一般的にハリセンと呼ばれる紙製の鈍器を携え、軽く溜息をつくアルベルトがいた

「……何故ハリセンなんだ貴様……」
「――あれはアルベルト様のご友人鎮圧用最終兵器です、と言ってもただのハリセンですが
 ………その場合あのハリセンが強いのでしょうか?それともアルベルト様のご友人が弱いのでしょうか?」
「私が知るか」

首を傾げながら聞いてくるノインに、どうでも良いとばかりに答えるエヴァンジェリン

「あれで鎮圧される友人……、興味が有るような無いような……」
「タカミチ君、世の中には知らんほうが良い事も有ると思うぞい……」

一方ではタカミチが興味深そうに呟き
後頭部に漫画汗を垂らしている近右衛門が呆れたように言う
そんな2人を尻目にアルベルトはそのまま超と葉加瀬の説教に突入する

「俺の目の前で初っ端から人死にを出す気か馬鹿者」
「うう〜、す、すまないネ……」
「あはは〜〜…………むしろ私被害者なんですけどー」

アルベルトは無視するとハリセンをノインに放って渡し

「―――まあ良い、それで……、……確か葉加瀬聡美だったな?何故お前はここにいるんだ?」
「いえですね、その義腕とか重騎とか言うロボットとか……
 超の話では聞いていたんですけど―――やっぱり実物を見てみたくなっちゃいまして」

やや締りの無い笑顔を浮かべながら言う葉加瀬
対するアルベルトは軽く首を捻り

「ふむ、あいにく緑獅子・改……、まあ、お前の言うロボットだな?
 それはこの学園都市の近くの森の中に有るのだが……」
「そーなんですか?」
「ああ、………それに内臓燃料を補充する手段が無いからな……
 流体さえあればどうにかなるのだが…………?――む……」

そこまで言いかけた所で、何かを思い出すように考え込み
ふと何かを思いついたように手を打つ

「ふむ、そうだな…………、少しいいか超?」
「何ネ?」

不思議そうな表情で見る超
対するアルベルトは顎に手を当てながら問う

「―――昨夜、確かお前は『流体の反応を調べる装置や“魔力を流体に変換する装置”』を作ったと言ったな?」
「? 確かに言ったヨ…………それがどうしたネ?」

疑問符を浮かべる超
対するアルベルトは自分の額を軽く指で叩くと

「それで、『場所を取るから破棄しようと思っていた』……とも言ったな?」
「ああ、確かに言ったネ…………―――ああ、なるほどネ」

そこまで言いかけたところでアルベルトの意図を理解したらしく
にこやかに笑いながら言う

「にゃははは、―――ワタシは別に構わないヨ?どうせ処分しようと思っていた物だしネ」
「――助かる」

笑いながら言う超と
微笑を浮かべながら頭を下げるアルベルト
そんな2人を見つつ、まだ状況の掴めていないエヴァンジェリンが声をかける

「おい、一体何が言いたいんだ貴様らは」
「マスター……、おそらくですが
 アルベルトさんは『緑獅子・改のエネルギーである流体を魔力より作り出せる機能を持った機械を譲ってくれ』
 そして超は『別に捨てる予定だったから構わない』と言いたいのでは?」
「――正解だ絡繰」

首を捻るエヴァンジェリンに茶々丸が自分の推測を言い
それを聞いたアルベルトが肯定する

「へぇ……、その流体さえあれば、緑獅子・改は動くのかい?」
「はい、間違いなく動くと断定します」

横で興味深そうに呟くタカミチにノインが答える
アルベルトと超の会話を聞いた葉加瀬が嬉しそうに言う

「あ、じゃあさっそく行きません?
 今日は日曜日ですし、アレだったらその緑獅子・改を置ける所を提供しますよー?」

葉加瀬の言に近右衛門が頷き、立ち上がりながら言う

「うむ、まあアルベルト君の仕事の事は戻ってからでもできるからの
 それに緑獅子・改と言うのがどんなのかちと興味があるしのぅ
 アルベルト君、エヴァンジェリン、案内しとくれ」
「了解した」
「ああ」
「あ、ちょっと待ってネ」

頷き、扉へ向かおうとするアルベルトに超が声をかける

「ワタシと葉加瀬は工具とかを持って後から行くヨ?」
「――ああ、わかった」
「んじゃ行くネハカセ」
「はいはいー」

超と葉加瀬がアルベルト達より先に部屋から出て行き
アルベルト達も緑獅子・改の元へと向かう


約30分後、麻帆良郊外の森


緑の色の巨人が膝をつき、その前では超と葉加瀬を除く6人が10m前後の緑色の巨大な影を見上げている

「いや〜〜、しかしでかいのぅ」
「全くです、まさかこれ程とは……」

やや俯き気味に立ち
腰に長剣の収まった鞘を装備した巨躯の影には
自然と威圧感を感じるほどの迫力がある

「全長約11.8ヤード…………メートルに直せば10.7メートル程か
 まあ、大型の竜系妖物や飛行戦艦に比べれば小さいが……単独で動かす機械の中では最大クラスだろう」
「成程」

と、主にエヴァンジェリンがアルベルトが会話していると
木の影から何やら工具類を大量に持った超と葉加瀬が現れる

「おまたせしましたー」
「ああ、――すまんな」
「いいネいいネ、すぐ終わるから少し待ってて欲しいヨ」

ああ、とアルベルトが頷くのを見て超も頷き
右手に何かの機械、左手に工具箱を持って緑獅子・改に近づき
脚力のみでその身体を駆け上がっていき
あっさりと後頭部の出っ張りに付いているドアの前に辿り着く

「ふむ……流石だな」

アルベルトがボソリと呟いた声に応じた訳ではないだろうが
それとほぼ同時に手で『入ってもいいか?』と言うサインを送って来る
そこは本来緑獅子・改の操縦席であり
副座の名の通り別の人物が入ってサポートを行う場所でもある
さらに言えばアルベルトとノインが詰め込んだ非常用(2人の主観)道具置き場となっているが
基本的に昨日会ったばかりの他人を入れるべき場所では無い
アルベルトもそれは分かっているが、仕方の無い事だと考え『OK』のサインを送る
超はそれを見て頷くと、副座の扉を開けて中に入っていく


10分後……


超が副座から出て、アルベルトを手招きする
アルベルトは振り向き……

「では、少し待っていてくれ」

残りのメンバーが頷くのを見ると
緑獅子・改へ近づき、登っていく
副座まで登ると、そこで待っていた超が言う

「これでこの世界にいる限り動力には困らないはずネ」
「そうか、―――すまないな」
「かまわんネ、捨てるよりはよほど有益ヨ♪
 ――あ、もし何か頼みたい事が有ったら……遠慮なく頼んでいいかネ?」

超が頭を掻きながら言った言葉にアルベルトは軽く笑いながら頷くと

「ああ、―――では試してみるか……、下に行っていてくれ」
「わかたネ」

アルベルトは超の問いに答えると
副座の扉を開けて乗り込み、中にある棺桶の様に狭い“書斎”の中へ入る
そして己の肉体を遺伝詞的に分解、緑獅子・改に記乗する
時間にして約3分、緑獅子・改の視覚素子にが点灯し、緑獅子・改が起動した事を知らせる

『―――ふむ……、問題は無いようだな』

緑獅子・改=アルベルトは、己の状態を確かめるように身体を軽く動かし始める
手足を軽く動かし、さながら準備体操のような動きを繰り返していると

「―――あのー!」

声に気づいて下を見ると、葉加瀬がこちらを見て叫んでいる
それを確認した獅子・改が手を差し出すと
葉加瀬がそれに乗ると、緑獅子・改はその手を胸の前へ持っていき
やや機械音声のようになったアルベルトの声が響く

『で、これからどうすれば良い?』
「とりあえず、麻帆良大学工学部の倉庫を1つ空けておきました
 これから案内しますので、指定された所まで行ってください」
『構わんが……気づかれんのか?』

緑獅子・改は最後の言葉を葉加瀬でなく下に居る近右衛門に向けて放つ
近右衛門はそこで気づいたように慌てて手を打つと

「―――! ああ、ちょっと待ってくれるかの
 今、認識阻害の魔法をかけるわい」
『了解した』

近右衛門がなにやらブツブツと呟き
掌を緑獅子・改に向けると、そこから発生した淡い光が緑獅子・改を包み込み、何事も無かったように消える
近右衛門はそれを見て頷くと

「これで大丈夫じゃ、よほどの事が無い限りバレんぞい」
『そうか』

納得したように頷く緑獅子・改を見てノインは眉をひそめると

「アルベルト様、いくらバレ辛いとは言え、気を抜かないようにと進言します
 アルベルト様のミスで1番迷惑するのは私だと断定できますので」
『わかっている、――さて、お前らは……ふむ、超と葉加瀬とノインとエヴァンジェリンと茶々丸は副座に乗れ』

葉加瀬を副座の辺りに下ろし、彼女が嬉々として副座に乗り込むのを確認すると
残りの4人の方へ手を出し同じように副座に運ぶ
その様子と見た近右衛門は冷や汗を垂らしつつ緑獅子・改を見上げると

「……ワシとタカミチ君はどうするのかの?」
『―――歩きか掌の上だな』
「……何故だい?」
『副座が最大で5人乗りだからに決まっているだろう』

で、どうする?と言わんばかりに手を組む緑獅子・改
その言葉とほぼ同時に緑獅子・改の周りにゆったりとした旋風が巻き起こり
背部に設置された翼に風と光が集まっていく

「! ―――まさか飛んで行く気かの?」
『歩いて行けとか言う気か貴様、――加減はする、だからさっさと決めろ』

その言葉に慌てて緑獅子・改の方へ走る2人
緑獅子・改はそれを見て頷くと片手を差し出し、2人はそこへ飛び乗る
緑獅子・改は2人の位置を確認し、前屈に近い体勢をとってから少し駆け、そのまま一気に飛び上がる
地表から一気に4〜50mほど飛ぶと、副座の中の超に声をかける

『―――さて、どこに向かえば良い?』
「――あの建物ネ」

流石に緑獅子・改は副座の中は見れないのでドアから上半身を出してある一点を指差す超
緑獅子・改一度自分の肩部を見て超の指差す方向を確認すると、その方向へ一直線に飛ぶ

「っ――!―――うわおおおおおお!?」
「――フォッフォッフォッ、これは中々面白いのう」

悲鳴染みた声をあげるタカミチと心持ち楽しそうな近右衛門を無視し
やがて緑獅子・改は麻帆良大学工学部付近の倉庫のような施設の傍へ降り立つ
副座の5人と掌の2人を地面へ降ろし
茶々丸が倉庫の扉を空けるのを確認すると、自身より小さいその扉の中へ体勢を低くして入る
―――正直、少々情け無い光景である
約5分ほどして、再び軍服を着たアルベルトが格納庫から現れる
彼は苦い表情で格納庫を見上げると

「―――はあ、…………しかし迂闊に外に出れないのは困り物だな
 どうにかならないものか……」

その呟きを聞きつけた近右衛門がとりなすように話す

「まあ、もう少し広い場所もあるでの、近い内にそこへ移って貰うとするわい
 ―――では……そろそろ戻って仕事の話をするかの?」




今回語られたのは青年が持つ力の一部
竜の帝の名をもつ鋼の腕とその力を持って進む物語

とくとお楽しみあれ




5th Story改訂版後書き

「魔法都市麻帆良」5th更新です
独逸人のアルベルトが学生時代を日本で過ごしていたのは理由があります
一応アルベルトの元部下達の設定は考えてありますが「魔法都市麻帆良」での出番は無いと思います

ちなみに重神器『零神』=『叢雲』は私のオリジナルです
今回出なかった神器は近い内にちゃんと出します

これからもよろしくお願いします
それでは


〈続く〉

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