『魔法都市麻帆良』
The 6th Story/騎師のやるべきこと?



緑獅子・改を格納したアルベルト達は念のため倉庫にも人払いの結界を仕掛け
その後学園長室へ戻り、皆に先立って机に着いた近右衛門が口を開く

「――ではアルベルト君、昨夜も言った通り
 君にはあるクラスの副担任を務めてもらうことになっとる」
「それは承知しているが……、俺のような存在に任せると言う事は……」

そこで顎に手を当て、少し思案すると

「――何か問題が有りそうなクラスだな
 必要ならば即時鎮圧して模範クラスの鏡の様に従順なクラスにして見せるがぐおっ!?」
「冗談でもそういった事はお止めください」

ノインが言葉と共に放った肘鉄が左脇腹に突き刺さり
アルベルトは顔を青くして膝をつく
その横ではノインが静かに一礼し

「失礼しました、お気にせず続きをどうぞ」

後ろのエヴァンジェリンがその光景に昨夜の出来事を思い出したらしく不安そうに己の従者を見るが
茶々丸はその光景と主の視線に首を傾げているだけなので大丈夫だろう

「―――まあ、今見た光景は脳から消去して続きといくかの」
「―――まあ、それがいいでしょう」

アルベルトの方を見ないようにして言う近右衛門とタカミチ
そして言葉通りに話を続ける近右衛門

「―――まあ、確かに君に補佐させようと思っとる先生が担当しとるクラス…………
 麻帆良学園女子中等部2−Aはこの学園でも随一の濃さじゃろうのう」
「―――……――そうか、――ふむ、具体的にはどんな連中がいるんだ?」

どうにか立ち上がったがまだ顔が青いアルベルト
近右衛門はその言葉に楽しむような表情を浮かべ

「――それならば後ろを見てみるといいぞい」

その言葉にアルベルトは素直に従った
振り向いた視線の先には

「にゃはは〜〜」

暢気そうに笑いながら手を上げる超と

「……ふむふむ、どうやら身体のほとんどは陶器に近い物質のようですねー
 動力源は………流体とやらの結晶体ですかね?これは」

そしてなにやら怪しげな機械を持ってノインを解析している葉加瀬

「―――」
「――――フン」

更に不思議そうに首を傾げてから一礼する茶々丸と
何が気に入らなかったのかは知らないが不機嫌そうに鼻を鳴らすエヴァンジェリンの4人が映る
反応に困ったのか一瞬停止したアルベルトに後ろから近右衛門が声をかける

「フォフォ、――4人とも君に任せるクラスに所属しておるわい」
「――――この4人がいるクラスか…………―――…………成程、納得がいった、確かに濃いな」
「オイコラ待て、何故そこで私を見る?この中で一番濃いのが私だと言いたいのか貴様」

アルベルトが再起動し、エヴァンジェリンを見ながら呟いた一言に
エヴァンジェリンが食って掛かるがアルベルトは無視
近右衛門の方へ向き直ると表情を締め、かなり真面目な顔で告げる

「―――了解だ近衛学園長
 確かに承った、確実に職務を果たす事を約束しよう」

急にこれまでと違う雰囲気になった故か
彼を驚きと奇怪な物を見るような感情が混ざり合った視線が5つあるがアルベルトは無視
近右衛門も一瞬面食らったような顔をするがすぐにその表情を笑みへと変え

「フォッフォッフォッ、うむ、任せたぞい
 君が補佐する先生とは明日会わせるからの」

その言葉にアルベルトは頷くと

「承知した、―――そう言えば学園長、……ノインはどうする?」
「フォッフォッフォッ、彼女は君の従者じゃろ?君に任せるわい
 ―――さて……、すまんが超君と葉加瀬君は帰ってくれるかの
 これからちと生徒には聞かせられん話をするのじゃよ」
「ふむ、わかたネ」
「あはは、仕方ないですねー」

頷き、出て行こうとする2人だが
ドアの辺りで超がアルベルトの方へ振り向いて言う

「―――あ、アルベルト」
「む?」
「もしノインが勤める所がない時はワタシ達がやっている屋台に来るといいネ、歓迎するヨ」
「ああ、了解した」
「ありがとうございます」

アルベルトが片手を上げ、ノインが一礼するのを見て超は嬉しそうに頷くと
そのまま葉加瀬と共に出て行く
2人が出て行くと、アルベルトは軽く表情を締め、問う

「―――さて学園長、一応一般生徒であるあの2人に話せない事とは何だ?」

対する近右衛門は微笑を浮かべ、答える

「―――なあに、さほどたいした事ではないのじゃが……
 これは魔法を知る先生、生徒全てにお願いしておるんじゃがのう
 …………――ふむ、まず事情を簡単に説明するかの」
「ああ、頼む」

近右衛門は頷き、話し出す

「まず、この学園には図書館島と呼ばれる巨大な図書館があるんじゃが……
 そこの地下には貴重な文献や魔法書が保管されておるのじゃよ」
「―――成程……、魔法書と言う物の価値は良く分からんが……
 それを狙って進入してくる馬鹿共が居ると言いたいのだな?」
「――話が早くて助かるの
 それで魔法先生や魔法生徒の面々には学園の警備をしてもらっとる訳じゃ」
「ふむ、成程……―――それで?他にもあるのだろう?」

近右衛門は再度頷き

「そうじゃな、侵入者の中にはワシの孫である木乃香を狙ってくる者もおるんじゃよ」
「――貴方の孫だと?」
「そうじゃ」

アルベルトは顎に手を当てると
数秒ほど思案し、呟くように言う

「学園長の孫の誘拐か……
 狙いは人質にとしてか?それとも貴方の孫が持つ何らかの特異性か?」
「両方……と答えておこうかの
 ―――しかし君は随分と察しがいいんじゃのぅ」

その言葉に何故かアルベルトで無くノインが答える

「はい、ですがその察しの良さをもっと特定の状況で発揮して欲しいと常々進言しておりますが効果はありません
 それが何かを告げる事はアルベルト様の名誉と精神の安定に関わるのでお教えできませんが」
「―――そう、それが分からんのだ……、――勘は良い方だと自認しているのだがな……」

首を捻るアルベルト
しかしその『状況』がどんな時かは上手く伝わらなかったらしく
全員が首を捻るがアルベルトとノインはそれを無視
―――少しして近右衛門が咳払いをし、話を続ける

「――――簡単に言うと、木乃香は潜在的な魔力の総量が凄まじくての
 木乃香自身は魔法の事を知らんが、その魔力を利用されれば確実に厄介な事となる訳じゃ」
「成程」
「ちなみに木乃香も2−Aじゃからの、有事の際の護衛は頼むぞい」

その言葉にアルベルトは頷くと

「ああ、了解した」
「――あ、そうじゃ、ノイン君にも警備の手伝いを頼めるかの?
 何分人手不足なんじゃよ」
「私は構いませんが……」

ノインがアルベルトに視線を送ると
アルベルトは構わないとばかりに

「―――好きにしろ、俺は何も言わん」
「はい、――では貴方達に任せます」
「フォッフォッフォッ、分かったわい
 ではこれから頼むの、アルベルト先生、ノイン君」

己の呼称が“君”付けから“先生”に変わっているのを聞いて苦笑しつつ
アルベルトも応じるように答える

「ああ、これからよろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」

2人が返事をするのを見て
これまで静かだったタカミチが嬉しそうに言う

「じゃあこれからは同僚ということになるのかな?
 まあ、よろしく頼むよ」
「ああ」

アルベルトは笑みを浮かべながら頷く
そしてエヴァンジェリンと茶々丸の方を向き

「―――ではエヴァンジェリン、絡繰、教師としても警備員としてもよろしく頼むぞ
 ああ、教師としては厳しくいくつもりなので覚悟しておけ?」
「――フン、大した期待はしとらんがな」
「よろしくお願いします」

言葉の内容とは裏腹に楽しそうな表情のエヴァンジェリン
そしてやや嬉しそうに一礼する茶々丸
それを見たアルベルトは頷きつつ近右衛門へ向き直り

「―――で、話はこれで終わりか?」
「うむ、細かい話はまたおいおいと言う事になるかの」
「それは構わんが情報伝達はしっかりとしておけ?
 不審者と間違えられて襲撃など洒落にならんからな」
「―――わ、わかっとるわい」

半目で放たれた言葉を聞いて近右衛門は何故か微妙に焦りつつ答えるが
そこで少々困ったような表情を作ると

「ただの、先生達はともかく生徒の方には少々気性の激しい子も居るのじゃよ
 君達の力試しと称して戦闘を挑まれることもあるかもしれんが―――いいかの?」

アルベルトはその言葉にやれやれと首を振り

「――――まあ、その程度なら仕方あるまい、言っておくが相手が怪我をしても責任は取れんぞ?
 それともう1ついいか?」
「ん?なんじゃ?」

近右衛門があげた疑問の声にアルベルトは軽く思案してから言う

「そのクラスの場所と……、そうだな、クラスの名簿などを見せてくれ
 エヴァンジェリン達のクラスメイトがどういった連中なのか知っておきたいのでな」
「かまわんよ、―――高畑君」
「はい」

近右衛門の声に応じ
タカミチがクラス名簿を取り出してアルベルトへ手渡す
アルベルトはすまんと言って受け取り、名簿を開く

「―――ふむ、随分と容姿のスペックが高いのが多い…………と言うよりはスペック高いのしかおらんな
 ―――む?学園長、この子が貴方の孫か?」

名簿を近右衛門へ向け“出席番号13番『近衛木乃香』”の欄を指す
近右衛門はそれを見て頷くと

「ああ、そうじゃよ」
「……貴方の孫とは思えん……と、言うよりこの娘が貴方の血を継いでるとは信じられんな」
「フォッフォッフォッ、信じられんと来たかの、じゃが間違いなく木乃香はワシの孫じゃよ」

それを聞いたアルベルトはかなり嫌そうに首を捻ると

「それはわかっている、……生命の神秘に感謝するのだな近衛学園長」
「それはそれで酷いのぅ……あ、そうじゃアルベルト君」
「何だ?」
「どうじゃの、ウチの木乃香を嫁に――」
「そう言うことは木乃香嬢が成人してから言えこの人外爺」

―――アルベルト・義体/風神技能・重複発動・風圧連打・成功!

アルベルトは半目で言い捨てるなり風圧による打撃を3連射で叩きこむ

「ブフォッ!?」

風が弾ける音が3連続で響くと同時に近右衛門が仰け反り
そのままゆっくりと倒れるがアルベルトは無視
そして、同じように近右衛門の事を無視しているタカミチに言う

「―――では、この辺りで失礼するぞ?
 俺達の住居等が決まったら呼んでくれ」
「ああ、わかったよ、―――っと、そうだった」

タカミチは懐から茶封筒を取り出し

「―――個人的に必要な物が有ったらこれを使ってくれるかい?
 学園長曰く契約金みたいな物らしいよ?」
「わかった、ありがたく頂戴しよう、―――ノイン」
「はい」

タカミチから茶封筒を受け取りノインに渡すアルベルト
ノインは一礼してから受け取り、それを懐に収める
それを確認し、タカミチに軽く手を上げて挨拶しドアへ向かう
ふと気配を感じて後ろを見ると
エヴァンジェリンと茶々丸がこちらへ向かってくるのが見える

「どうした?」

その言葉にエヴァンジェリンは楽しそうな笑みを浮かべると
普段の彼女を知る者からすれば意外な一言を言う

「なあに、――お前達はこの町を全く知らんだろう?
 私と茶々丸が案内してやろうと思ってな」

アルベルトはその言葉を聞いて頷くと

「成程、では頼む」
「よろしくお願いいたします」
「ああ、では行くぞ」
「ああ」
「はい」
「イエス」

そのまま4人は扉から出て行く
後に残されたタカミチは……

「――さて、……学園長、痛いのはわかりますが自業自得なので起きてください」
「―――フォッ!!??」

特技である居合い拳(弱)を近右衛門に叩きこんでいた
――近右衛門、哀れなり


麻帆良学園女子中等部、2−A教室前


「ここが私とマスター、そして超とハカセのクラスです」
「―――で、明日から貴様が副担任を勤めるクラスでもある訳だ」
「ふむ…………」

2人の言葉に、アルベルトは顎に手を当てて教室の中を覗く
今日が日曜である所為か中には誰もおらず
何人かの生徒が置いた荷物がある程度だった

「―――随分と広い教室だな、それに備品も良い物を使っている
 この学園の教室はどこもこんな感じなのか?」
「はい、基本的にこの学園内の教室は全てこの様な仕様となっております」
「ほぅ(今の内に仕掛けておくか……備え有れば憂いは無いと言うしな)
 …………―――――む?」

茶々丸の返答に感心しつつ
何やら不穏な事を考えているアルベルトだが
突如彼の右腕である竜帝が唸り声を上げ始める

「……どうした竜帝?」

その様子を見て返事は無いと知りつつも聞いてしまうが当然反応は無い

「…………一体どうしたんだ?
 ―――ふむ、別段危険は無さそうだが……」
「アルベルト様、この唸り方のパターンは危険感知では無さそうです
 別の何かがこの教室内に有る、もしくは居ると判断したのだろうと推測します」

頭を捻りながら教室内を見回すアルベルト
そして、竜帝の唸り方から危険を感知して唸っているのではないと進言するノイン

「…………なあアルベルト……貴様の義腕には何か宿っていると言っていたな?
 ………一体何が宿ってるんだ?」

ノインの言葉の中に疑問を覚えたエヴァンジェリンがやや憮然とした表情で問う
対するアルベルトは軽く肩をすくめると

「ああ、詳しくは教えられんが……まあ、ある特殊な物が埋め込まれた故だと言っておこう」
「―――貴様は……まあいい、それとその魔力の波動は何だ?」
「これか?俺もよくわからんが……おそらく流体の原料として取り込んだ魔力の余剰分を放出しているのだろうな
 ―――っと、収まったか」

エヴァンジェリンの疑問に答えるのとほぼ同時に竜帝が唸るのをやめる
それを確認したアルベルトは何かを思いついたように手を打つと
ノインに何やら耳打ちする

「―――と―――だから――――――って来い、いいな?」
「了解いたしました」

その言葉を聞いたノインは一礼すると踵を返し
先ほど通りかかった事務室の方向へ歩いて行く

「ふむ……」
「「?」」

後には楽しそうな表情で周囲を見回すアルベルトと
状況が良く読み取れず、頭の上に疑問符を浮かべたエヴァンジェリンと茶々丸が残った




6thStory後書き

ども、「魔法都市麻帆良」6th更新です
えーと、本来は次の話とあわせて1つの話だったんですが
分けたほうが纏まりがいいと思ったので分けました
あと近右衛門の扱いが微妙(?)に悪いですがこの物語ではアレがデフォです

そんな感じですがこれからもよろしくお願いします

それでは


〈続く〉

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