ぼくの魔法 第七幕 「紅茶の味」








 「澪さん」


現在、図書館島内部。

地下であろうと予測できるはずのその場所で、唐突にネギくんは勉強しようと言い始めた。

きっといつか脱出できるはずだと。

だから、テストに向けて勉強を頑張ろうと。

必死のネギくんの言葉に心震えたのか、2−Aメンバーは真剣に勉強を開始した。

バカレンジャーとは言わせない、だそうです。

まぁ、そもそもそんな不名誉な仇名、つけられて愉快であるはずがないのだから、そう思うのも当然であろう。

そして、そんな状況で。

勉強を開始してたったの一時間後。

綾瀬夕映はこちらを向いて、挙手をした。

というか、この状況は些か謀られていたような気しかしないのだが。


 「なんだ綾瀬、質問か?」


現在、小テスト中。

挙手をするというのは、まぁおそらく問題に対しての質問であろう。

これでも高校生なのだ。

中学生、しかも二年生の問題ならぼくにだって簡単に解ける。

一応、講師のような感じで、ぼくは本を片手にネギくんと一緒に皆の前に座っていた。


 「この場から立ち去ってください。テストが終わるまで」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


突然、ぼくは綾瀬に消えろ宣言を喰らった。

周りの人達も、驚愕した様子で綾瀬夕映を凝視した。

かくいうぼくも、驚いているのか口をあんぐりと開けていた。

格好良いものではないので、意識して口を閉じる。

そのあと、一呼吸置いて綾瀬に質問をした。


 「・・・・・・なにかぼく、やっちゃったかな?」

 「いえ、特には」

 「じゃあ何でさ」

 「顔、です」


びっと、オーバーだと思うほどに、ぼくの顔面に向かって人差し指を突き出してくる綾瀬。

顔が問題って・・・かなり傷つくのだが。


 「もしくは本を閉じて、じっとしていただけると助かります」

 「ちょ、ちょっと待て。何故ぼくの顔が本に関係してくるんだ。
  それとも、テストに集中している人間の目の前で本を読むなと言いたいのか?
  だったら改善させてもらうが・・・・・・」

 「いえ、普通に読むのだったら全然構わないのです。むしろそのほうが落ち着くのですが・・・・・・」


相も変わらず眠たげな眼でぼくを顔を見つめ、嘆息したあと綾瀬はぽつりと言葉を漏らすようにしてぼくに伝えた。

その発言は、ぼくの心を引き裂いた。


 「先程からちらちらと様子を観察させてもらいましたが、そろそろ限界です。
  頁を捲る度に、本当に年上かと疑うほどにわくわくした様子の顔になったり、
  『次はどうなるのかな? あ、こうなのかー!』といったような感じでまるで汚れを知らぬ幼子のような表情になったり、
  無垢で純情な子供のような顔でにっこりと笑顔を零さないでほしいです。
  先程から写メ撮られまくっているの、気づかなかったですか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


思わず、沈黙。

流石に本に集中しすぎていたのか・・・!

というか、そこまでぼくは情けないことになっていたのかというか気恥ずかしさで爆発しそうだ。

恥ずかしさが、爆発しそうだ!!

今、ぼくの顔は真赤になっていることだろう。

いや、眼は真赤にはなっていないだろうけど。

羞恥心を最大限に表現したような感じになっているのか?

こんな気持ちは初めてだ、屈辱の恥ずかしさとか、そんなちんけなものじゃない。

穴があったら入りたいと、本当に初めて思った。

そしてその穴を再び埋めて欲しい。

そのままぼくごと・・・・・・・あぁぁぁぁぁあああぁぁあ。


 「データは消しておいてぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!!!」


大絶叫のあと、ぼくは何処かも分からぬままその場を立ち去った。

皆の声が聞こえたような気がしたが、五感がどうにかなっていたのでよく分からなかった。




◆ ◇ ◆ ◇







 「絶望したぁぁぁあ!! 現代文明の発達に絶望したぁぁああ!!」


自分でもおかしいと思うぐらいに、ぼくはとにかく走り回っていた。

とにかく恥ずかしい。

息が切れているのも構わず、ぼくは走りつづけていた。

絶叫しながらの走りというものは疲れるものなのだが・・・。

不思議に疲労感は全然感じない。

エヴァの修行の所為だろうか?

まぁ、今はそんなことどうでもいい。


 「・・・・・・・・・・・・うぅ」


ちょっと、泣きかける。

あいつら、データは消しているのか?

消してないだろう、そしてそれを朝倉に売る。

次の日から、朝倉のことだ。

麻帆良中に知れ渡る。

高校生なのに・・・と。

そんな感じでぼくの地位は一変して色モノキャラになってしまう。


 『おいおい、後宮。ポニーテールの次はこれかよ、すっかり人気者ですねー?』


うるせぇぇええ!! 殺すぞ穂村ぁ!


 『ふぉっふぉっふぉ、澪くんにも可愛いところがあるんじゃのぉ』

 
眼使うぞじじい。


 『ほほぅ、我が弟子もこんなに可愛いやつだったのか、いやいや皆まで言うな。
  百も承知の上だ。ところで今日の晩御飯は何がいい? みおくんの大好きなハンバーグかな?』


ロリばばあ、今度殺す。


 「おやおや、高校生ともあろう方が気恥ずかしさで涙を流しますか。情けないですね」

 「うっせぇ馬鹿ぁ!」


膝を抱えたまま、聴こえてきた声を罵倒する。

とはいっても、この流れるような声にそんなこといっても無駄だろうが・・・。

・・・・・・ん?

流れるような、声?


 「・・・・・・・・・・・・誰だ?」


顔を上げると、顔も知らない美青年が立っていました。


 「どうも、私の名前はクウネル・サンダースです。貴方と同じ立場上の人間といえば分かり易いでしょう。以後お見知りおきを」

 「喰う寝る三ダース? ニートじゃないですか」

 「カタカナですよ。カタカナ。ちなみにこの図書館島の司書をやらせてもらっているので、ニートではありません」

 「いや、知らないですけど」


服の裾でぼくは涙を拭った。

そいつ・・・もといクウネルは、やけににやにやした顔でぼくの手をとった。

立てという意味だろうか?

嫌が応にも立つことになる。


 「黒歴史を一つ創作させたところで・・・どうです? 私と一緒に紅茶でも」

 「えぇ、記憶を吹き飛ばすくらい強いやつをお願いします」

 「それはそれは、勇敢で勇壮で勇猛なんですね」


意味が分からなかったが、とりあえずクウネルさんについていくことにした。

個人的にはなんとなく近寄りがたい気がしたが・・・暇潰しには丁度いいだろう。

のこのことついていくぼくを馬鹿にできる人が、何人いるであろうか。

そんな無駄な思考をループしていたところで、クウネルは突然足を止めた。

当然、ぶつかる。

文句の一つでも言おうかと思ったら・・・。


 「■■■■■■■――――――!!!」

 「・・・・・・わーぉ」


そこには、一匹のドラゴンがいました。

多分、ぼく程度の人間だったら三秒で消し炭になるであろう。

エヴァンジェリンは・・・飼い慣らすんだろうなぁと思いつつ。

ぼくは全力で後退した。

 
 「怯える必要はありませんよ、合言葉で敵を判断するんです、ゴンちゃんは」

 「ドラゴンだからゴンちゃんですか? 安直ですね」

 「■■■■■■■■!!」

 「怒ってますか?」

 「いえ、勝手に名づけるなこの糞ニートが、だそうです。飼い主である私を敬う様子が全くありませんね」

 「■■■■■■■■■、■■■■■■■!」

 「名前はまだないんだそうです」

 「そうですか、アン○ルさん」


昔プレイしたゲームに、アン○ルという名前のドラゴンがいたなぁなどと思いつつ。

ぼくは静かに笑った。

記憶が戻ってきた。

あのゲーム、ドラゴンが一番可愛かった。


 「東京タワーで死なれるのは、私が一番困るので、そろそろ中に入りましょうか」

 「あれ、合言葉は?」

 「私がいるんですから、大丈夫に決まっているでしょう。馬鹿ですね貴方。
  それと、合言葉じゃなくて本当は招待状を渡すんですよ」


ドラゴンの発言に苛立っているのか、ストレスをぼくにぶつけてくるクウネルさん。

もちろん遊び半分なんだろうが、やめてほしい

ぼくは何も関係あるまいに。


 「紅茶を淹れるので、座っていてください」


中に入ると、なんだかファンシーな部屋が目の前に広がっていた。

花があったりなんだか白かったりなど、男一人で住むには気色悪いというほどである。

差別かもしれないが、でもこのクウネルさんにはなんだかこの部屋は異常に似合っていた。

やはりなまじ外見が完璧だと、得することばかりなのだろうか?

どうでもいい。


 「どうぞ」


そんなことを考えている間に、既に紅茶の準備が出来上がっていたらしく。

席に着いているぼくの前に、コースターとティーカップが置かれた。

・・・・・・珈琲も紅茶も、ぼくは全然詳しくはないが。

なんとなく、良い紅茶なのかな? と思った。

幻覚であるならそれでもいいし、そうでないならそうでもいい。

そもそも、嗜むことすらぼくには出来ないのだろうから。


 「ところで後宮さん・・・でしたか?」

 「はぁ・・・そうですけど」

 「キティとは良い感じのご関係だそうで」

 「・・・・・・エヴァンジェリンを、知ってるんですか?」

 「・・・・・・・・・魔法使いで彼女の名を知らない人間はいませんよ」

 「いえ、そういうことではなく、知り合いとしてです」


少し気になった。

エヴァンジェリンの本名は、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルだ。

大抵の人間は、エヴァもしくはエヴァンジェリンなどと呼ぶので、キティと呼ぶ人間をぼくは見たことがない。

・・・・・・他には、《真祖》や《闇の福音》などとも聞くが。

そんなことは、今は関係ない。


 「知り合い・・・・・・ではありませんよ。ただ多少、面識がある程度です」

 「そう・・・ですか?」


否が応にも、これ以上の追求は不可能だった。

これ以上話させるな、といったような表情を、クウネルさんはしていたからだ。

・・・・・・それに、うん。

ぼくだって、人の過去を追い回して知ろうと思うほど愚かなわけでもない。

なら、これ以上の続行は要らないものであろう。


 「・・・・・・・・・それでは」


クウネルさんは、こちらがぞっとするほどに綺麗な笑顔でこちらに質問をした。


 「その眼と貴方の過去、隠していることを全部、話してもらいましょうか」









◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ドラゴンに怯えつつ、ぼくは無言でその場から立ち去る。

思うことはただ一つ。

・・・・・・。

嵌められた。

完膚無きまでに、呆れてしまうほどに。

自分でも情けないと思ってしまうほどに。


 「自白剤でも仕込んであったのか・・・?」


恐らくは、紅茶の中に。

自分の舌が、口が。

勝手に動いたというのは初めてだった。

ぎり、と知らず知らずの内にぼくは歯を食い縛っている。

何故だ? 悔しいからか?

それとも、まんまと策に嵌った自分に対しての苛立ちか?


 「面白くない・・・!」


全て、全てだ。

ぼくの隠していること、ぼくの秘密が。

全てあのクウネル・サンダースにバレてしまった。

魔力抵抗がほとんどないぼくだ。

魔法薬なんかを仕込まれれば、抗うことすら許されない。

そんな自分が、歯痒い。


 「面白く、ない・・・・・・・・・!」


振り返っても、クウネルの姿は見えない。

少しだけ《眼》で、クウネルがいるであろう家の中を見つめた。

案外、自分は沸点が低いのかもしれない。

線と点。

忌々しいクウネル・サンダース。

くそっ、と一言呟いて、ぼくは皆のところへ戻ることにした。

・・・・・・それまでには、機嫌を直しておこう。










アトガキ



主人公、後宮澪。

まんまとクウネルに謀られるの巻。

残念だったね澪くん。

今日だけで二つもヘマしちゃったね!


まぁそれはいいとして。

上のドラゴン、一応名前伏せましたが。

名前はアンヘルです。

出展、DODことドラッグオンドラグーン。

契約の設定が素晴らしいので、取り入れようかと思考中。

でも既に型月入ってるので、これ以上入れると色々と拙い。

うん、違う作品にでも使ってみようかな!!

違う作品なんて、書いたことないけど!

・・・・・・やけにハイテンションな、幹でしたー。







文章が少なめなのはご愛嬌ですよー?

〈続く〉

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