―――2003年1月10日 午前7:30 麻帆良学園女子寮前

「―――釣堀でミサイル〜飛ばしても〜♪」

俺は今本年初の管理人業務を満喫している…いや管理人業務だけでは無くこの平和な時間そのものを満喫している!
高笑いしながら魔法をブッ込まれたり、「ケケケ」なんて笑い声と共に斬撃喰らったり、無表情で拳を撃ち込まれたり
ニヒルな笑いを向けつつ弾丸を浴びせられ、謝りながら神鳴流(名前を教えてもらった)の技やら奥義を放って襲って来るあんな事に比べれば
今この箒の音しかしない時間のなんと素晴らしきことか!!思わずお気に入りの歌を口ずさむなんてのは至極当然のことだろうよ

「……ん?」

そんな静寂を良い意味で破る靴の音が俺の側に近づいた、そして靴の音が止まったと同時に音の主から声をかけられた

「あの、管理人……さん。インフルエンザはもう大丈夫なんですか?」

ジジイに最初に会った日にヤンキーに絡まれ、助けた後に生徒手帳を落とすというベタベタなイベントをサプライズしてくれた少女
長谷川千雨(多分合ってると思う)さんが俺の身体の調子を聞いてきた
因みにインフルエンザってのは俺が暴走の件でエヴァの別荘に篭っていた時に茶々丸が使った嘘で
ご丁寧に病院の診察記録や医者の診断書も偽造していたらしい………大丈夫なのか?

「おう、迷惑かけてすまんね。もうこの通り元気になったよ」

と胸を張って元気なのをアピールする、当然長谷川さんの純粋な厚意に自然と顔が綻んで笑顔になった
しっかし朝早いなぁ……また前の時みたく日直か部活の当番かね?

「そ…それじゃ私は急ぐので失礼します!」

俺の予想が当たっていたらしく長谷川さんは急いで踵を返して駅に向かって歩こうとした時
今度は悪い意味で静寂を破る人物の声が響いた

「あっれ〜!此花先生と……千雨ちゃんじゃ〜ん!!」
「げ……朝倉」
「パパラッチ……」

こんな時に朝倉パパラッチ(仮)に出会うとは……やはり平和ってのは長くは続かないものなのか

「何?何?どうしたの朝早くから2人して?ナンパされた?それともデートのお誘い?」
「………」

この場に刀子さんが居たら確実に斬岩剣あたりが飛んできそうな危険ワードを朝倉パパラッチ(仮)は休み無く長谷川さんにぶつけ
ぶつけられた長谷川さんは何とも言えない……でも確実に困っていそうな表情だ
そりゃそうだろうな、長谷川さんは日直か当番か知らないが学校に急いでいかないといけない状況なんだ、それを邪魔されれば
困るのは当然の話な訳だ……俺は若干強めに朝倉に声をかけて長谷川さんを助けようとした
……が朝倉が最後にぶつけた一言が状況をガラリと変えた

「もしかして千雨ちゃんが此花先生を逆ナンしてたとか!?」
「おい、朝k「違うっ!!!」―――レバァッ!!!???」

「逆ナン」……女が男をナンパする行為の事を指す言葉が長谷川さんの逆鱗に触れたらしく勢い良く身体を朝倉に向かせた
その時偶然にも握っていた拳が俺のボディにクリーンヒットし、俺は今現在痛みに苦しみながら地面に蹲っている
俺の記憶に間違いが無ければ今の一撃は人生最大のボディフックだと思う
……長谷川さんといいフェイとやらといい最近の女子中学生は何か格闘技でもやってんのか?

「朝倉っ!何度も何度も言ってるだろうが!!アタシとコイツは何でも無いって!!!
 毎回毎回毎回……事があれば直ぐにガゼばっかり言ってんじゃねえ!!いいか!?金輪際絶対に聞いてくるんじゃねえぞ!!!」
「えぇ〜……」

日々とは言わないが朝倉の被害に何度も合っていたようで長谷川さんは俺の知る口調とは正反対の口調で言い寄り
大声で釘を刺した後「ドスドス」と効果音が付きそうな勢いでこの場を離れて行った

「あ〜あ……こりゃ暫くはダメだな〜……」

そして元凶である朝倉は大して悪びれた雰囲気も無く「じゃね〜」と軽く俺にアイサツした後この場を離れて行った
………腹部の苦痛にもがく俺を置いて



……

………

―――約10分後

「………酷い目にあった」

何とかダメージが抜けて無事立つ事の出来た俺に安息は訪れること無く俺の携帯が振動と共に鳴った

―――いくぜ駆け抜けろ!覚悟を決めろ!臆病な自分から抜け出して♪

ってこの着うたってタカミチさんじゃねえか、こんな朝早くに何かあったんか?

「はい始です」
「ああ始君、朝早くからすまないが直ぐに学園長室に来てくれないか?」
「今直ぐっすか?」
「そう、理由は学園長室で話すから直ぐに来てくれ
 ……あぁそうそう、今回はキチンとした格好で来てくれよ。ネクタイ無しなんて駄目だからね」
「うっ……了解です、すっ飛ばして行きますよ」
「ハハハ、事故と捕まるのは勘弁してくれよ……じゃあ待ってるよ始君」

あまり…ってか始めてタカミチさんの切羽詰った声を聞いたような気がする。そこまで急ぎならこっちもマジで急がないとマズいな
ただネクタイって苦手なんだよなぁ俺。首締まるし、上手く結べないしさぁ……って言ってる場合じゃないかっ
俺は気持ちを切り替えて部屋に戻り、スーツに着替え(ちょっとネクタイが不恰好だが勘弁して欲しい)
勢いそのままにゼファーに跨った俺は本気でアクセルを吹かして学園に向かって行った
ちゃんと女子寮の近所から離れる迄は煩くしてないからな………途中サイレン鳴らす白黒の車は3台程振り切ったけど





―――2003年1月10日 午前8:10 麻帆良学園女子中等部 学園長室前

恐らく自己ベストであろう速さで学園に着いた俺はそのまま真っ直ぐ学園長室を目指した
そして毎度毎度無駄に重厚な雰囲気な扉の前に立ちノックをした

コンコン

「此花です」
「うむ、待っておったぞ」

過去幾度と無くフザケた事をしたジジイと言えど『一応』上司、キチンと返事をした後に中に入った

「ああ、始君待ってたよ……本当に早かったね」
「まあ急いで来ましたから」

あの走りが「急いで」というレベルかどうかは置いといて……ってかタカミチさん足元のスーツケースは何?

「うむ、では此花先生にここに急いで来た理由を話させて貰おうかの」
「あ、はい」

普段焦らないタカミチさんが焦るんだ、よっぽどの理由なんだろうな

「まず、ここに居る高畑先生はこの麻帆良学園内の魔法先生でトップクラスの実力を持ちその評価は世界中に認められておる
 此花先生は『魔法使い』の仕事が只の人助け等と考えている節があるかもしれんがそれは間違いで
 実際には世界中の紛争で被害にあt「…学園長、時間がありません」……むぅ」

タカミチさんが両手をポケットに入れ戦闘態勢に入りながらジジイを睨んだ
ってかジジイ!アンタ、タカミチさんが急いでるって言ってるのに急ぐ気無いだろ!?

「掻い摘んで言うとじゃ、高畑先生は今朝方緊急の出張が入ってしまったのじゃ
 幸いにも出張先は国内なのじゃが、何分急な話で学園の方の仕事の対応が殆ど出来ていない状態なのじゃ」
「新田先生や瀬流彦先生をはじめ、複数の先生達が年越し前に言ってた講習に出て行っているから空いている先生が一人も居ないんだ」

あ〜言ってた言ってた、新田先生が俺に指導員のローテーションで迷惑をかけて申し訳ないとかのヤツか………ってチョット待て!

「まさか……俺を呼んだ理由って……」
「おぉ察してくれて話が早いの。そうじゃ此花先生に今日一日高畑先生の代わりをして貰いたいのじゃ」

なんですとぉ――――――――――――っっっ!!!!!!!!

「でも俺って免k「黙ってれば大丈夫じゃ」…じゃなくて俺そんなに頭g「クラスの出席を取ってプリントを配るだけだから」…おぉぅ」

……もう既に準備万端って訳ですか、更に言えばここに来た時点で逃げ場は無い
最悪『気』で強化した脚力でそこの窓を破って逃げるって事も考えたが……今立っている場所は先頭体勢を取ったタカミチさんの間合いの中
……あの「居合い拳」は『悪魔化』した状態じゃないとはっきり言って対処出来ない

「タカミチさんにハメられる日が来るとは思ってもみませんでしたよ」
「いや……ハメたって言うかさ……」

本音を半分ほど含んだ愚痴をタカミチさんに浴びせた

「おうおう本当に右手の人差し指を眉間に当てておるのぅ」

そしてこのジジイは完全に遊んでやがる………この憤りは次回に纏めてぶつけてやると心に決めた途端

キ―――ンコ―――ンカ―――ンコ―――ン……

チャイムが鳴りました、打ち合わせでもしていたかのように

「うむ丁度よいの……では高畑先生に此花先生、頼んだぞ」

その言葉を聞いた俺は現状を受け入れるしか無いと悟ってしまった…

「では学園長行ってきます」
「うむ」
「……失礼します」

「人生諦めが肝心」なんて単語を頭に過ぎらせつつ俺はタカミチさんと一緒に部屋を出た、そしてドアを閉めたと同時に
タカミチさんの表情が一気に焦りの色に変わった。正直ちょっと怖い

「じゃあ始君、本当に申し訳ないけど今日一日頑張って!主席簿とプリントは僕の机の上にあって
 時間割はプリントに付箋を付けてあるからそれを読んでおいて……じゃあっ!!!」

早口かつ一息でタカミチさんは俺に仕事の説明を終らせると、スーツケースを担いで全力で廊下を走って行った

「そこまで時間巻いてたんかよ……」

そんな呟きも誰にも届かず

「まあ…タカミチさんには普段世話になってるし……腹括ってやるしかないのかね」

こんな決意も誰の耳に届くことは無かった



……

………

―――因みに職員室のタカミチさんの机にあった出席簿の中を見て固めた筈の決意に速攻でヒビが入ったのを感じた

「そういや前に言ってたな……」

エヴァ、茶々丸、桜咲、龍宮の4人の顔写真がそこにあったのだから




あとがき

予定は未定……S’です
まあ次回には絡みがありますよ、うん

〈続く〉

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