―――2003年1月8日 午後9:00(外の時間) エヴァ宅 『別荘』内広場

「あの―――この状況を是非説明して頂きたいのですが」

暴走騒ぎからのダメージがほぼ完全に無くなった頃、部屋で寛いでいた俺に茶々丸から「広場に来て欲しい」との伝言を伝えられて
広場に出た俺が見た風景は軽く常軌を逸していた

「見て分からんか?始?武器だ。古今東西、打撃射撃問わずのな」
「いや、それは見れば十ニ分に分かるっての」

今エヴァが言った通り目の前には日本刀、メリケンサック、釘バット、サバイバルナイフを始めとする馴染みの有る武器から
ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガン等の拳銃類
更にはヌンチャクやらトンファーやら手裏剣やら大斧やら弓やら「何処から持ってきた!」とツッコミを入れたくなる武器に
止めに白と黒の中華風の双剣、刃も柄も握りも全部紅い槍、刀身ギザギザの形状のナイフ、刀身が宝石で出来ているナイフ等
近づくのもイヤのなりそうな物まで山盛りで置いてあった

「この山盛りの武器はどういう訳で此処にあるんだ…と聞いている」
「一言で言えばお前の特訓用だ」
「何いっ!?」

今度はこの山盛りの武器で襲われるのか?俺!?ヤバいって!!助かったばっかりでまた命の危険に晒されるのか俺!?

「エヴァンジェリン、その説明では全然伝わりませんよ」
「あの…始先生が固まったまま動かないのですが…」
「まあ刹那、今はそっとしておこうじゃないか。残り僅かな無事で居られる時間を満喫しているんだから」
「ケケケッ腕ガナルゼ!」
「トレーニング用プログラム…バージョンアップ完了」

上から刀子さん、桜咲、龍宮、チャチャゼロ、茶々丸の順で広場に入場
ご丁寧に皆さんキチンと武装していらっしゃいます、決まりです某虎道場に入門決定です

「分かっている葛葉刀子。全員揃ってから説明するつもりだったが、その前に始が固まってしまってな…いい加減目を覚ませ始」

エヴァが裏拳でド突いて来たので半ば無理矢理に覚醒してしまった

「痛い」
「これからそんな事を言う暇すら無くなるんだ、気にするな」

言ってる事は殆ど訳わかんねーけど、何となくヤバいって事はもう十五分に分かった気がした

「確かに今回は1対6で、その上そこの山盛りの武器がプラスされるんだから……ヒマなんぞミクロン単位ですら無いな
 ってかお前等俺殺す気だろう?バカだろ1対6って?この状況で俺に何を期待しているんだお前等?」
「は…始さん落ち着いて下さい。何も私達全員で掛かる訳では無いですし、そこの武器も全て始さんがお使いになるのですよ」
「……ほえ?」

突然の事で変な声でしか返事が出来なかった俺に刀子さんは続けて話し続けた

「この度の特訓……発案は刹那なのですが、『悪魔化』していない始さん自身の更なる強化を目的としてまして
 後ろの武器類は始さんが使う…と言いますか徒手空拳以外に得意な物を探す目的で集めたものです」
「俺自身の強化…ねえ………にしても山盛りは無いんでないですかね?山盛りは?」
「それは…その、各人がそれぞれ得意な武器や秘蔵の品を出し合っていたら何時の間にか……」

あーなるほど、引っ込みがつかなくなったのね………引っ込まして下さい、お願いです

「まあそういう事だ始、分かったらそこの山から好きなのを選べ」
「相変わらず上から目線だな……じゃあこのサバイバルナイフから」

拒否権とか色々な権利は既に無くなっている事を前回の特訓から学んだ俺は足元にあったサバイバルナイフを右手に取った

「でさ、構え方とかあるんだろ?どうやるんだ?」

そう聞いた俺に何故か目を光らせたエヴァが答えた

「言葉で教える事など何も無いし何も身に付かん、何の為に私達が準備していると思っているんだ?実戦で学べ実戦で」
「何いっっっ!!!!!」
「茶々丸、チャチャゼロ先ずはお前達からだ揉んでやれ」
「アイサー!ゴ主人!」
「了解しました、マスター」

相変わらず禍々しいナイフと鉈を持ったチャチャゼロといつものメイド服でなく動きやすそうな服装をしている茶々丸が前に出た

「ちょ…待てって!実戦って何よ!?ってか1対2って!?」
「葛葉刀子は「全員では掛からない」と言っただけだ複数でやらないとは誰も言ってない!行けっ!!」
「ケーッケッケッケ!!!」
「参ります」
「おおおおおおおおいぃぃぃぃぃぃ―――――!!!」

手前!エヴァ!!俺は『悪魔化』しなかったらチャチャコンビに勝てないの知ってるだろ!!

「当然だが『悪魔化』は禁止だ、変身した瞬間6人全員で相手をするからな」

ぜってえ覚えてろよコノヤロウぉぉぉぉぉぉ―――――――!!!!!!!



……

………





―――十日後(『別荘』内で)

「これで決まりだな」
「決まりですね」
「はい」
「決まったね」
「決マッチマッタカ…マダ殺リタカッタガナァ」
「姉さん、字が物騒です」

始は今広場の隅の方でボロ雑巾の様になって寝ている(気絶か?)……流石にやりすぎた感が拭えないな、暫くはそっとしておこう
そしてその手には始が得意とする(無理矢理得意とした)武器が握られているのだが

「あの…エヴァンジェリンさん?どうしてこうなったのでしょうか?」
「始さんは元々徒手空拳で戦っておられたんですよね?エヴァンジェリン?」
「まあ決まった物はしょうがないですよ、葛葉先生」
「気にするな、始には予想や常識というものは殆ど通用しない。目の前の現実を受け入れろ」

久々に始のデタラメな所を見た気がする…普通素手が得意な者は元々の動きと似たような獲物を好んだり選んだりする
例えるならガントレット等の様な拳を保護する武器や、小刀やナイフ等の小型の刃物だ
だが今現在ボロ雑巾状態になった始が握っている武器は………ハンドガンだった

「しかし意外だね、此花先生が「私の」ハンドガンを選ぶとはね」
「「くぅううう……」」

龍宮真名が桜咲刹那と葛葉刀子の前でわざわざ「私の」の部分を強調して喋っている
ほぼ間違いなく反応をみて遊んでいるのだろう

45口径(フオーテイフアイブ)のM1911A1……1911年にアメリカ陸軍に制式採用されて以来70年以上にわたって
 使われた傑作銃、しかも今なお一部の特殊部隊には改造されつつ使用され続けているガンドガンさ」
「く…詳しいな龍宮」
「なに、あれほどの逸品を目にすれば嫌でも言葉が止まらなくなるさ」
「ですが…拳銃1挺じゃ幾ら逸品とは言え、戦力としてはいささか頼りないのではないですか?」
「そんなことは無いよ葛葉先生。狭い場所での近接戦闘…つまり此花先生が得意な格闘の間合いだとライフルよりも
 ハンドガンの方が頼りになる場合もある。出来ることなら先生にはナイフも同時に装備して欲しい所なのだが…」

龍宮真名が急に今まで見たことも無い程の熱弁を振るっている…葛葉刀子がどうやら踏んではいけない地雷を踏んだようだ

「それにアレは只の逸品じゃない。様々な改造が施してあるんだ……いいか?説明するぞ?
 まずフィーディングランプが鏡のように磨き上げてある、給弾不良を起こすことはまず無いだろう
 スライドは強化スライドに交換してある、スライドとフレームの噛み合わせにも全くガタつきが無い
 フレームに鉄を溶接しては削るという作業を繰り返して徹底的に精度を上げているんだ
 フレームのフロントストラップ部分にはチェッカリングが施してある、手に食いつくようだ。これなら滑る事も無い
 サイトシステムもオリジナルの3ドットタイプにしてある。フロントサイトは大型で視認性が非常に高い
 ハンマーもリングハンマーに替えてある。コッキングの操作性を上げ、ハンマーダウンの速度も確保する為だ
 グリップセイフティもリングハンマーに合わせて加工してある。グリップセイフティの機能はキャンセルしてあるようだ
 サムセイフティ、スライドストップも延長してある確実な操作が可能だ
 トリガーガードの付け根と削り込んであるからハイグリップで握り込める。トリガーは指をかけ易いロングタイプだ
 トリガープルは3.5ポンド程度だな、通常より1.5ポンドほど軽いし、マガジン導入部もマガジンが入れ易いよう広げられている
 マガジンキャッチボタンも低く切り落としてあるから誤動作も起こしにくいだろう
 メインスプリングハウジングも、より握り込む為にハイグリップにしてある。更に射撃時の反動で滑らないように
 ステッピングが施してある。その上スライド前部にコッキングセレーションを追加してある
 緊急時の装弾、排莢をより確実に行うことが出来るはずだ。
 これ等はすべて熟練した職人の仕事に他ならない。たった1挺の拳銃に掛ける情熱………素晴らしい」

自分の説明に満足いったのかそれとも自己の世界に入ったのか分からんが
龍宮真名は胸の前で腕を組んで深く何度も頷いている……迂闊に話しかけて葛葉刀子の二の舞にならないよう注意しよう

「……まあ兎に角だ、無事(?)に得物も決まったわけだし、始が目を覚まし次第解散するとしようか」

私の提案に龍宮真名を除く全員が賛同し、散ろうとした瞬間……

「まあ待つんだ皆、この銃にはまだまだ逸話があってね……まずはこの銃の持ち主である「裸の蛇」の話でもしようじゃないか」

この龍宮真名の一言に本人を除く全員が凍りついた

「お待ち下さい龍宮さん」

話し始めようとした龍宮真名を茶々丸が制した。良くやったぞ茶々丸っ!それでこそ私の従者だ!!

「私は始さんのお世話をしなければならないのでここは失礼させて頂きたいのですが」
「ああそうだね、お願いするよ」
「はい、失礼します」

なっっっっにぃぃぃぃぃぃっっっ!!!???
あのボケロボぉ!始をダシにしてこの場所から離れるつもりか!?そうはさせんぞっ!!

「おい!茶々m「マスターのお手を煩わせる事ではありません」……むっ」
「あの茶々丸s「桜咲さんと葛葉先生はマスターと始さんのお客様です、お客様を働かせる訳にはいきません」……ええっ?」
「オイ妹y「姉さんはマスターの側に居てください」……オォ」

主である私にですら有無を言わせない雰囲気で淡々と言葉を紡いだ後、茶々丸は始を担ぎ建物の中に消えていった……そして
「さて…ギャラリーが減ったのは寂しい限りだが話を始めさせてもらうよ―――始まりは第二次世界大戦終結後、冷戦の最中で……」

力が抜けただ呆然としている私達の前で龍宮真名が颯爽とうんちくの第2部を語り始めた……




あとがき

龍宮ガンマニアの一面を持つ……の巻でしたS’です
元ネタはMGS3です、もうすぐMGSPWが発売になるのが嬉しくて、ついやってしまいましたww
前半はフェイト系のネタを入れてみました、武器の描写が上手く出来ていればいいなぁ…と思います

〈続く〉

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