―――始の精神世界内 ある記憶の中

「行くぞ!2人共!!」

掛け声と共に飛び出した私達はすぐさま始の身体に抱き付いた

「「「始(先生)(さん)!」」」

私達はそれぞれ始に呼びかけたが言葉ではなく叫び声が返ってきた

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
「チィッ」

なんとなく予想はしていたのだが「大掃除」あの時聞いた咆哮が始のモノだったとはな
しかも『別荘』で以前始があげた雄叫びよりも声の大きさ、込められている『魔力』が遥かに違う
近くに居た高音とやらは『魔力』にあてられ気絶している、今現在精神体である私達には直接的な影響は無いが
もし最弱状態である今の私が近くに居た場合、気絶とまではいかないが何らかのダメージはあっただろう

「怯むな!一気に始を引き上げるぞ!!」

私は2人に激を飛ばしつつ指示を出す……正直激は半分自分に言い聞かせた意味もあったが

「分かりました!」
「はいっ!」

2人も気を入れ直しこのまま始を引き上げて「記憶」の外、現実世界に戻るだけ……だったのだが

「エヴァンジェリンさん!動きません!」
「何だと!?」
「離れるどころか腕ひとつ動かせません!」
「バカな……そんなはずは……」

だが2人の桜咲刹那の言う通り始の身体は私達では何一つ動かせないまま始は雄叫びを続けていた

「このままでは…何か他に無いのですか?エヴァンジェリン!?」

葛葉刀子が始を持ち上げようとしつつ私に代案を求めてくる……しかし聞いていた話では今以上のタイミングなど無い
あの娘が気絶した後に他の何かがあったのか?……葛葉刀子が変身を解除した始と会うまでの間に

「―――!!エヴァンジェリンさん!見てください!!」

桜咲刹那が急に何も無い空間を指差したので私はその方向を見た

「これは……」

何もないはずの空間にヒビが入っていた…しかもそのヒビは今も段々と大きく広がっている
……他の誰かが結界を展開させた?いや違うここは始の「記憶」の世界だ、雄叫びをあげた後に始本人が見た夢なのだと思う
その証拠に高音ともう一人の子娘にまでヒビが入っていく、そして私達3人と始本人以外の全てにヒビが入り終わった途端……

パキィィィィィン………

今迄見ていた景色が一気に割れ、砕け散った
だがその後に現れた景色は私…いや私達の想像を遥かに超えている景色だった





廃墟……この景色を表現するのに一番適した表現だと私は思います
大小様々な大きさの廃材が無造作に散りばめられ、すり鉢状の地面の中心部分には大きなクレーターがあり
そして空は一面分厚い雲が覆っており絶え間なく雨が降り注いでいます
ここは一体何処の景色なのでしょうか?…最初に頭に過ぎった場所は『魔法世界』にある廃都オスティア
20数年前までは『魔法世界』を代表する都市の一つでしたがあの戦争以降は廃墟となっているとの事
ですが私はその考えを否定しました……理由は散りばめられている廃材がコンクリートや鉄骨といった私達側の世界の物
学園長や高畑先生の話でしか『魔法世界』の事を知らない私ですが断言できます「ここは『魔法世界』ではない」…と

「「………」」

隣のエヴァンジェリンも恐らく同じようなことを考えているのでしょう
ですが刹那は…『魔法世界』の事は全くと言って良い程知らない筈ですから違う事を考えていると思います

「ガァァァアァ……」
「2人共!始さんが!」
「待て!葛葉刀子、桜咲刹那周りを見ろ!」

先程迄殆ど動いて居なかった始さんが唸り声を出したのに応じるかの様にまた景色が変わっていきました
今回は空間にヒビが入るような変化ではなく空の色や周りに何かが現れ……て……

「これは……?」
「なん…だと……」
「なんてこと…」

最初に現れたのは無数の屍、一面見渡す限りの地面や廃材の上に隙間無く並べられたかの様に…
しかもそれは人間ではなく殆どが見たことも無い異形の者達の屍…傷跡も爪跡や引き裂かれた物や喰い千切られた等様々
空は相変わらず雨が降り続けていますが景色が紅く染まっており、まるで血の雨が降り注いでいる様に見え
地面に溜まった雨水は血と見間違うようにも見えます……いえ実際には血も混ざっているのではないでしょうか?
私や刹那そしてエヴァンジェリンすらもこの景色には驚きを隠せなかった様子です……いえまともな全てのヒトはこの景色に驚き、嫌悪し、そして恐怖するでしょう

「これが……始先生の「記憶」…過去なのですか…?こんな地獄みたいな場所が……?」

刹那が呟いたように小さな声で言った言葉に私は否定する事は出来ませんでした
私達を連れてきてくれたエヴァンジェリンが刹那に何も言い返す事無くただ俯いただけしか出来なかったのですから

「そんな……これでは始先生が…本当に…」

「本当に」の後は流石に刹那は言わなかったのですが私やエヴァンジェリンには十分伝わりました
これが今見ている景色が始さんの「記憶」であることは間違いありません
ですが…信じたくありません始さんが本当に「悪魔」だったなんて!嘘と言って欲しい!!
嘘と言って欲しい、刹那でもエヴァンジェリンでもなく始さん本人から一言――「嘘だ」……と

「嘘と言って下さい!!始さん!!!」
「ア……アァァァアァ…」
「「「!!」」」

まさか…通じた?私の声が!?
ならば何度でも呼びかけます!!始さんに通じるなら私の愛している始さんが戻るなら何度でも!!!





「とっとと起きんか!始!」
「始さん!戻って来て下さい!」
「始先生!お願いします!起きて下さい!」

先程の葛葉刀子の呼びかけに応えた始を見た私達はそれぞれ始に呼びかけたが

「ウアァ…アァァァ……」

呼びかけに応えたのは最初の1度目のみで、今は呻き声しかあげたまま紅い空を見続けている

「くそっ…!」

私…いや私達は焦りだしていた、進展が無いこの状況といつこの「記憶」の世界から私達が異物として扱われるかの2つに
…そしてその心配が今現実になった

「―――ゥウアアアアアアアアッッッ!!!!!」

ズバァッ!!!

「キャアッ!」
「あうっ!」
「ああっ!」

急に叫びを上げた始から衝撃波は飛び出し私達3人は5〜6m程弾かれた

「エヴァンジェリンさん!今のは!?」
「……私達が異物として扱われ始めたのだ」
「そんなっ!?まだ何か出来る事は無いのですか!?」

葛葉刀子が叫びながら問いかける、当然だ私達はまだ始を取り戻してはいない……いないのだが…

「私達が異物として認識された以上、このままこの場所に留まるのは危険だ………脱出するぞ」
「そんな!?まだ始先生が!」
「始さんを置いて脱出するのですか!?私は反対ですこのまま残って始さんに呼びかけます!」
「ふざけるなっ!!このまま残って私達が死ぬことを始が望んでいるとでも言うのかっ!?」

確かに始の身体は衰弱している為時間は無いだろう、だがまだ終わった訳ではない
始の意識はただこの「記憶」の世界に留まっているだけ…正直2回以降も無事にこの「記憶」に入れるという保障は無いが
私達がここで死んでしまえばその機会すら無い
そうだ……始はアイツの様に死んだ訳ではない、まだ生きているまだチャンスは有るのだ!

「……わかりました、ここは一旦引きます」
「刀子さん…」

葛葉刀子が落ち着きを取り戻したので私は現実世界に戻る為に一度集まり精神を集中させた途端……

「ガァッ!」
「―――っ!?始さん?」

始が私達に向かって両腕の剣を出し飛び掛ってきた

「アアッ!ガッ!」
「止めて下さい!始先生っ!」
「始さんっ!」

始の振るった剣が私達をバラバラに分散させた、今は桜咲刹那を標的にしているが恐らく誰一人として無事に帰す気は無いのだろう
葛葉刀子はその始を必死に制しようと呼びかけているが始には届いていない様子だ

「葛葉刀子!始を貴様と私でかく乱した後に桜咲刹那と合流して現実世界に戻るぞ!!」

私は別に桜咲刹那の事など大して気にはかけていないが…此処で見捨てるなど始が許さない筈だ
始との付き合いは私が生きた時間に比べれば瞬きにしかならないだろうが何物にも代え難い価値が有る
だから私には分かる、始は決して自分を慕うものを仲間を見捨てないだろうと

「わかりましたエヴァンジェリン!」

返事と同時に飛び出した葛葉刀子と共に私は始の目を桜咲刹那から逸らす為に縦横無尽に飛び回った
しかし私は焦りの為か失念していた、いくら暴れているだけとは言え始を鍛えたのは私、この程度のかく乱は物の数には入らない事を…

「エヴァンジェリン!危ないっ!!」
「何だとっ!?」

その事に気付いたのは始の左の剣が私の首を刈り取る寸前だった

「エヴァンジェリンさん!?」

……すまんな葛葉刀子、桜咲刹那、茶々丸、チャチャゼロ、龍宮真名。そして始、私はお前に殺されるのか



……

………

―――Light shines on the heaven

「ガアッ……」
「……え?歌声?」

―――the earth the spirit light brings glory and grace

「アアアァァァ……」
「何の歌……いや、この声は誰の声だ?」

―――May it open your eyes to the truth Shanti Shanti

「ァァァ……」
「始さんの姿が……元に…」

私達は信じられなかった…いくら呼びかけても殆ど反応が無く今さっきまで私達を殺そうと襲い掛かってきた始が
聞いたことも無い歌詞と誰か分からない歌声を聞いた途端動きを止め変身を解いたのだから

「…もう大丈夫、貴方達で外に連れて行ってあげて」

いつの間にか始の傍らに短い黒髪の小娘が居た、声からして先程の歌はコイツが歌っていたのだろう

「貴様…何者だ?」
「私は……」

そう言って小娘は顔を背けた、私が問い掛けている間に桜咲刹那と葛葉刀子は始の側に寄った

「「始さん(先生)…」」

2人の表情は安心しきっていているが私は目の前の女が気になり安心しきることは出来なかった

「エヴァンジェリン、先ずは始さんを連れて現実世界に戻ることが先決ではないですか?」
「……そうだな」

小娘の表情を見る限りこのまま問い続けても殆ど実益は無いだろう……そう判断した私は始の元に寄った

「あっ…」

急に動いた私に驚いたのか小娘は小さな声で驚いた

「とりあえず貴様に礼を言っておく…だが……」
「エヴァンジェリン」
「私からもお礼を言わせてください、始先生を助けて頂いて有難うございます」

2人共始の暴走を止め、変身を解いた小娘にすっかり懐いてしまっているが
コイツは何者だ?始の「記憶」であるこの世界にいる以上何らかの形で始に関わっているのは間違い無いが
「記憶」の中でどうして自由に動いていられる?私達と同じ精神体?でも何の為に?

「エヴァンジェリン、詮索は後にして早くここから出ましょう」
「そうです、エヴァンジェリンさん早く出ましょう」

こ・い・つ・等は………まあ良い後でもう一度こちら側に来るとするか……

「……分かった」

この小娘に関しては何一つ満足していなかったが私は再度精神を集中した……すると帰ることが分かったのか小娘が喋りだした

「力に力で抗ってはダメなの……本当は私がサーフの側に居られれば良いのだけれど
 ……だからお願いあなた達がサーフの事助けてあげて」

―――なっ!サーフ!?始の事か?貴様っ!始と…始の過去とどういう繋がりがある!?
声を上げて小娘を問いただしたかったが既に遅く私達は始の「意識」を連れて現実世界に向かって飛んでいた





あとがき

新生活の方、はたまたそうでない方いかがお過ごしでしょうか?S’です
暴走した始(悪魔化)は真祖の吸血鬼に勝てる!………と思ってこんなん書きましたww
↑の始はマントラ全部マスターした状態と思って下さい。『メギドラオン』、『物理デストロイア』等装備した状態です

〈続く〉

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