―――2003年1月8日 午後6:00(外の時間) エヴァ宅 『別荘』内

「あ―――――………知らない天井だ」

嘘です、エヴァの『別荘』内にある俺が借りてる……ってか借りらされた部屋(家賃はそのうち請求するって言ってた…)の天井だ
まさかこの年でマイホーム購入より先に別荘を借りらされるとは思っても見なかった……って話が逸れたな
俺はベッドの上に寝かされていた、きちんと腹を冷やさないようにシーツまでかけてもらっている

「……俺は「大掃除」以来左肩…ってか全身の疼きがどうしても収まらなくて、油断して気を抜くと『悪魔化』しそうだったから
 茶々丸に頼んでエヴァの『別荘』を借りて『悪魔化』を無理やり抑えようとしてたはずなんだけどな…?」
「フン、そういう事か。因みにお前が一人で片付けようとした結果が今外で見れるが……今すぐ見せてやろうか?」
「始さんお体の具合は宜しいですか?」

奥から7割ほど不機嫌なエヴァとめっちゃ嬉しそうな顔をした刀子さんが入ってきた

「ん……」
「おぉっ?」

何やら左足の方がゴソゴソしたので見てみるとそこには桜咲がベッドに俯いて寝ていた……どうやら様子を見ていてくれてたみたいだ
エヴァの言葉と刀子さんの表情、桜咲の様子を見て俺は『悪魔化』を抑えるのを失敗したのを悟った

「そっか……結局迷惑かけちまったのか…」

自分の事だから自分が一番理解しているつもりだったのだが、本当に「つもり」だったみたいだな。まったく情けねえ話だよ
俺は未だ目が覚めない桜咲の頭に手を置いてそのまま撫でてやった……結構髪の毛ツヤツヤで心地よかったのは秘密だ
流石に頭を撫でられた事で目が覚めた桜咲は数秒フリーズした後、自分が今何をやられているのかを理解して一瞬で顔を真っ赤にした

「えええっ!は…始先生!?な……なぬを!?」
「悪かったな桜咲、迷惑かけちまって。それと看病もサンキューな」
「は…はい///」

撫で続けていると桜咲の顔がどんどん真っ赤になっていくのが少し面白かったのでしばらく撫でていると…

「始っ!!最初の1日目は私が看病していたのだっ!!私も撫でられる権利があるっ!!撫でろっ!!!」
「私は2日目ですっ!!始さんお願いしますっ!!」

…と大型力士もびっくりの勢いでエヴァと刀子さんが迫ってきた
断ったら何されるか正直考えたくも無いので名残惜しがる桜咲に一言謝って2人を撫でた
―――因みにこの後3人が「私より撫でていた時間が長い」という問題で実力行使一歩手前までいったのだがここは割愛しておく



……

………

「なるほど…その黒髪の女の子が『悪魔化』した俺を元に戻した…と」
「そうだ、私達3人は誰一人聞いた事の無い歌でな」
「歌ねぇ…」

歌か…俺の『記憶』の中の話って言うからなぁ……もしかしたらソレって夢で聞こえてくる歌なのか?

「なあ3人共」
「ん?…何だ?始?」
「いやな、その歌ってどんな歌だった?」
「どんなだと?聞いた限りでは英語の歌詞で…」
「いやそうじゃなくて……なんつーかな……」

英語の歌詞って……どんだけあると思ってるんだ

「そうだ歌ってくれ、3人共聞いたんだろ?」
「なっ!?」
「「ええっ!?」」

「歌って欲しい」と言った瞬間、3人がほぼ同時に困った表情になった。そんなに難しい歌詞なんか?ソレ?

「具体的に思い出すにはその歌を聞いた方が良いと思ったんだけど…」
「え…えと、わ、私はあまり英語は…得意な方では無いので……そうだ!刀子さんお願いできますか?」

現役女子中学生の桜咲は英語が苦手(もしかしたら勉強自体苦手かもな)のようで現役女教師である刀子さんに話を振った

「私は…その……国語担当なもので…そうだ!エヴァンジェリン、貴女なら良いのではないですか?
 ほら!魔法の詠唱ってなんだか英語みたいな言葉を喋っていませんか!?」

ひそかに国語担当だった刀子さんもどうやら英語は苦手のようなで現役吸血鬼エヴァにスルーし
ついでに何か若干得意げな表情でウマい事っぽい事を言った

「私かっ!?」

突然振られたエヴァはさ○ぁ〜ずの三○みたいなりアクションだった
でもエヴァの性格からして人前で歌を歌うなんて事があるのだろうか……?

「あ、あー…うん。らら…らー」

エヴァの奴準備してるよ、これまた意外だけど……正直、結構楽しみだったりする

「う、うむ。いくぞ―――Light shines on………ってこの私が人前で歌えるかぁっ!!!『氷爆(ニウイス・カースス)』!!!」

ドッ!!!

「うぉおおっっ!?」
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」

ノリツッコミか照れ隠しか分からんが魔法(小規模)をぶっ放すのはやり過ぎだろうがっ!!

「手前っ!エヴァ!こちとら病み上がりだぞっ!?」
「五月蝿いっ!何故この私が人前で歌わんとならんのだっ!?大体今私が歌って本当に何か思い出すのか!?」

えっ!?



……

………

「ぐー…「誤魔化すなぁっ!!!」おおっ!?」

いっ痛えなぁ…ボケただけなのにここまで強く叩かなくていいじゃねぇか

「自業自得だ!莫迦者!!」
「まあまあ…とりあえず始さんは『歌』について心当たりは無い。という事ですね」
「まぁ全く無い…って訳じゃないんだ、昔から時々見てる夢の話なんだけども
 見た事無い女の娘が『歌』を歌ってて俺がその娘の所に行こうとしてるって内容なんだ
 だけど3人が会ったって娘と俺のとどうなのかって言われると何とも言えないんだよなぁ、何故か顔が思い出せないから」
「ですがあの人が始先生の『記憶』に居た事は事実ですから、何かかしらの繋がりはあると思います」
「そうだな……始、後で私の記憶を水晶にでも写しておく。それを見て何か分かったら伝えろ」
「ん、了解」

こういう時便利だよな魔法ってさ………ってちょい待て

「その水晶っての最初から出してればこんなにモメなくて良かったんじゃねえの?」
「「「あっ」」」

まぁ俺の看病でいっぱいいっぱいだったんだろうけどさ





「さて」

『歌』とあの小娘については一応だが区切りは付いたな……では

「話を変えるが始、身体の具合はどうだ?」
「あ?身体?……これと言って痛い所とか無いけど?」
「そうじゃない、今現在『悪魔化』の気配は無いかと聞いている」

「あーそういうこと」と気楽に返事をした始は左肩のあたりをペチペチと叩いたり服の襟元から覗き込んで確認(?)している

「うん、今は何とも無いな」
「そうか……だが今後2度と起こらないという保障は無いのだろう?」
「まあ……無いわな」
「今回は内々で治められたが今後その保障が無い限り同じことが繰り返される場合がある
 ……最悪お前は反乱分子、またはそれに類する者として麻帆良やその他の魔法使いに処分されるだろう」
「エヴァンジェリンさん!」

桜咲刹那が言い寄って来たのを私は手で制する、葛葉刀子の方は私が何を言うのか分かっている様子だ

「このままこちら側…『裏』の世界に留まればそう言った確率は格段に増える
 これが最後のチャンスだ…始。『表』と『裏』、お前はどちらの世界を望む?」
「………」

始は押し黙る……そうだろうな、私は始の命を始自身で天秤にかけさせたようなものだから
…もし私達の元を去る事を選択しても私はそれを拒まない、それが始の選択ならば私に拒む権利など無い
まあ少なくとも数年は麻帆良から出る事はジジイが許さないだろうし、監視も厳しく付く事になるだろう
桜咲刹那と葛葉刀子も同じような事を考えているみたいだ…まあこの2人は暫く引きずるだろうがな
さあ始お前はどちらの世界をのぞm…「ペチッ!」…痛ぁっ!?

「な…何をする!?始!?」

何時の間にかベッドから物思いに耽っていた私の元に来ていた始が私にデコピンを食らわした

「あぁ?あまりにもふざけた事言ってるお子様が居たからな……お仕置きだ」
「ふざけてなどいない!それにこれはお前の問題だろう!?分かっているのか!?」
「分かってるも何も「かもしれない」話でアレコレ言うのは意味なんて無いし、俺はあの時こっち側に居るって決めたんだ
 1回命の危険があったからって尻尾巻いて逃げてたまるか」
「な……あの時と今では状況が違うのだぞ!」
「確かに違うけどさ悪い意味だけじゃないだろ?」
「何?」
「お前に桜咲に刀子さん…ここにゃ居ねえけど茶々丸に龍宮とチャチャゼロだって居るんだ。
 また今回みたく暴走してもなんとかなるさ……な?」

そういって始は葛葉刀子と桜咲刹那にそれぞれ声をかけた、かけられた2人はさも嬉しそうに頷き

「はいっ!!始さんが私の事を信じて下さるのなら……私は学園長だって斬り捨てられます!!」
「始先生に受けたご恩、そして私に寄せて下さる信頼…必ずそれに応える働きを致します!!」

……まったく単純な奴等だ、それにしても葛葉刀子は始が「斬れ」と言えば本当に斬り捨てて来るのだろうな
まぁジジイにも年貢の納め時が来たという事にしておこう

「エヴァンジェリン、貴女も嬉しいのではありませんか?始さんにここまでハッキリと信頼されているのですから」

私達に背を向けた始に聞こえないように小声で葛葉刀子が話しかけた

「何を言っている…私は呆れているのだ。せっかく私が『表』に戻れる最後のチャンスをくれてやったというのに…」
「それでも始さんは逃げずに立ち向かう道を選びました、私達と共に進む道を…
 私はこの言葉を聞けて十分満足です―――もっとも「今」はですがね」
「ああ?」
「将来……いえ近い未来、始さんと私はお互いを最高のパートナーとして幸せn…「ペチッ」…痛っ」

妄想で惚気ている葛葉刀子の顔が妙に不快に感じた私は始を見習ってデコピン……は出来なかったので小石のつぶてを
葛葉刀子の額にぶつけた―――当たり所が良かったのか見事に赤くなっている

「何をするのですか!?」
「ムカツクからに決まっている」

「ペチッ」あたりで気付いた始に葛葉刀子は泣きマネをしながら抱きつき桜咲刹那がそれに吠える
いつから私の周りはまた騒がしくなったのだろうな?
始もアイツ……ナギのようにいつの日か私の元を去る時が来てしまうのだろうか?行方不明になったり私の前で死んでしまったり…と



……

………

だが……今度は逃がさない、今度こそ惚れた男を手放したりしない!
目の前でイチャつきながら吠える葛葉刀子と吠えながらイチャつこうとする桜咲刹那とそれに対して笑うだけで何もしない始に
『氷爆』をぶつけつつ、心の底から深く決意した





あとがき

原作やってたら誰なのか普通に分かるんですがとりあえず知らないフリをしておいて下さい……それが優しさと信じてww

〈続く〉

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