―――2002年11月30日 午後7時過ぎ 某繁華街
「―――了解です、お疲れ様でした………ふう」
本日の指導員の仕事終了…と、明日休みで気ぃ使ってくれたのかねガンドルさんは
思いっきり繁華街のド真ん中で仕事終わらせてくれちゃって…まだこの辺殆ど知らないっての!開拓しろってか!?
まぁ…またエヴァか桜咲のどちらかか両方が朝っぱらから押しかけて来るだろうから、早めに帰った方が良いかもしれないな
まったく、何が楽しくて毎週俺の部屋に襲撃かけてくるんだろうなぁ…明日はポークソテー作ってやるか
…と明日訪れるであろう危機(と楽しみ)にため息を交えながらグチっていると
「おーい、始君」
と、向かいの信号からタカミチさんがやって来た
「あ、お疲れ様ですタカミチさん。…どうしたんスか?」
「いや、これから僕等夕食を食べに行くんだけれども君も一緒にどうかと思ってね」
正直、微笑みながら誘ってくるタカミチさんに断りを入れらる訳も無く
「いいッスねぇ、お邪魔します」
そう言って「じゃあ行こうか」と踵を返したタカミチさんの後ろに付いて行く…と
結構な人数が集まっていた…11人、俺入れて12人か…どうやらタカミチさんが頭で集めたみたいだな
…
……
………
5分後、店に到着
雰囲気の良い居酒屋だ、タカミチさん馴染みの店の様で店のオヤジさんとも仲が良いみたい
「大人数なんだけど、奥大丈夫かい?」
「よろしいですよ、どうぞー!」
恰幅の良いオヤジさんが元気良く応える、良い雰囲気の店だねぇ
「じゃあ始君はそこに座ってくれ」
タカミチさんの左隣りに座るように指示され、席の向いの男の人2人と左隣の女の人に挨拶をしておく
「此花始です、突然お邪魔してすいません」
と軽く頭を下げる
「瀬流彦です、そんな気にしなくていいよ」
…と向いの男の人A
糸目の人の良さそうな…いや、恋愛でかなり損している位の良い人に見える
「僕は弐集院、美味い物の事ならまかせてくれ」
…と向かいの男の人B
なるほど、見た目通りのキャラですか…今度オススメの店を聞いておこう
「初めまして、葛葉刀子です」
…と向いの女の人
ピシっとした姿勢の良さ、真っ直ぐ見据えた目線、綺麗なストレートの髪
美人…じゃなくて麗人って言うんだろうなぁ……キツそうだけど
「3人とも『僕等側』だからね
始君ってまだ他の先生達と顔合わせした事無かっただろう?今日はそれも含めての集まりだよ」
なるほど、何時か一緒に「仕事」をする時が来るから少しでも親交を深めれる様に気を使ってくれたのか…
この気遣いは普通に嬉しいねぇ、うん
「―――じゃあ、乾杯!」
タカミチさんの音頭で夕食(飲み会)がスタートした
テーブルには、焼き魚(ホッケ)、シーザーサラダ、漬物、おにぎり……etc
今俺が食べてるのは鳥串。やはり鳥串は塩コショウに限りますなぁ、鳥串ウマー
…
……
………
酒も程よく回った中盤戦、このくらいになってくると殆どが酒+雑談がメインになってくる
「えぇ!?マジっすか!?瀬流彦さん!?勿体無いですって!」
…とか
「そうか!キミも美味い物には目が無いのか!!
では、僕が製作、監修をした『麻帆良グルメマップ(オールラウンダー編)』をあげよう!!」
…とか
「いいっ!?あの時学園長室に居たんですか!?いやぁ〜…その時はどうもご迷惑を…」
…とタカミチさんの気遣いを十分に活用していた
…までは良かったんだよなぁ
「聞ぃ〜〜〜〜てますかぁ〜〜〜〜〜!?は〜〜〜じ〜〜〜め〜〜〜君!?」
終盤に差し掛かった頃からこんな感じで絡まれてます
最初は「色々と鬱憤溜まってるんだなぁ」なんて思ったりもしました…
「私はねぇ〜〜〜〜ダメダメなんですよぉ〜〜〜〜」
今じゃ目線で必死にSOS送ってる最中だよ………片っ端から逸らされてるけどな
タカミチさん、弐集院さん、瀬流彦さん困ってる人を助けるのが「立派な魔法使い(マギステル・マギ)」じゃあなかったのかい?
「始く〜〜ん、注〜ぎ〜な〜さ〜い〜」
「葛葉先生、呑み過ぎですって…」
「だぁ〜いじょうぶですぅ〜〜い〜から早く注〜ぎ〜な〜さ〜い〜」
…
……
………
―――30分後
ついに俺達以外誰も(店員除く)居なくなった
タカミチさん、弐集院さん、瀬流彦さんをはじめ皆「ごめんねー」とか「頑張ってー」と申し訳なさそうにしてたが
…そう思うなら助けてくれ!!いやマジで!!
「それでぇ〜〜彼は何て言ったと思いますぅ〜〜〜?」
こちらでは先日別れた(らしい)元彼の話をし始めた
「君はぁ〜強いからぁ〜一人でもやっていける、大丈夫だぁ〜〜〜ですってぇ!!私は志○けんかぁ〜〜〜!?」
話半分に聞いていると店員(微妙に目を合せてこない)からタカミチさんからの手紙を受け取った
「なになに…『お金は僕の方でなんとかするから安心してゆっくりしていきなよ』…って」
…死刑宣告書じゃねえのか?コレ?『ゆっくりしていきなよ』?最後まで面倒見ろって事だろ?オイ!?
「どぉせぇ〜〜〜私はぁ〜〜〜2×歳でバツイチになったぁダメダメ女なんですぅ〜〜〜〜女の魅力も甲斐性もぉ〜〜
まったく無いんですよぉ〜〜〜〜だぁ!」
…あれ?甲斐性って女の人に当てはまる言葉だったか?……そうじゃじゃなくて
「そんな自分をそんなに酷く言っちゃダメですよ、俺から見れば葛葉先生は凄く魅力的な女性ですって」
ガシッ!
突然グラスから両手が離れ(俺がいくらやっても離れなかったのに…)俺の顔をガッチリと葛葉先生の顔の真ん前に固定する
「同情なんかぁ、いらないんですよぉ〜〜は〜じ〜め〜君っ!」
ホールドされて目の前を意識した瞬間、顔が熱くなった
顔にあたっている手の心地良い冷たさと、赤みがさした頬、そして潤った唇に…
…座りまくった目を見た途端、現実に引き戻されたがな
「同情なんかじゃないですよ、だから―「じゃ〜あ〜…証明してくださぁい〜〜〜」はぃ?―――むぅっ!?」
正直、最初何が起こったか分からなかった
座った目が一瞬妖しく光った(様に見えた)と思ったら、俺はホールドされたままの頭をグイっと葛葉先生の側に寄せられて…
ただ今現在進行形葛葉先生とキスをしている…つーかもう少し雰囲気とか、シチュエーションとか、ムードとかさぁ……
葛葉先生みたいな綺麗な人とするのは正直嬉しい…って、そうじゃなくて!このままじゃ普通にヤバいって!!主に俺の理性が!!
―――クチュ
「うむぅ!?」
や、柔らかい何かが口の中に…って舌しかねぇよな!?コレ!?
「ふぅっ……ちゅう……んんっ……はぁっ……」
ヤバい…かなりヤバい…口ん中がトロトロに解けそうな感じが…
「ちゅる……れるっ……ふぁぅ……くふぁ♪」
口が離れても2人の唾液が架け橋になって名残惜しそうに繋がっていた
「んん…始君キス上手…」
妖しい微笑で語りかけてくる葛葉先生…ってか上手も何も俺の口ん中蹂躙しまくったのは貴女ですよ
「じゃあ…次はぁ…」
おいおいおいおいおいおいおい
ココ何処か忘れてません?2時間程前迄楽しく健全に飲み会やってた居酒屋さんですよ!ってか店員いい加減止めに入れ!
…いや、入って下さい!!お願いします!!
幾ら奥の座敷だからってココまで長く居座ってたら様子位見に来いよ!
コレは第3者が介入しないと止まらないつーか止められないってのぉ!!
「うふふふ…」
「!!!」
今度は俺の胸に寄り添って来られましたか貴女!?うっ…その上目遣いは…反則だっての…
「………」
で、そのまま俺の胸に顔を埋めると!?ヤバい、ほんっっっとにヤバい……このままだと理性が飛ぶ…
とにかくミリ単位でも理性が残っているうちに離れないと……理性が野性に…
「葛葉先生…このままは…マジヤバいですって」
そう言って肩を掴んで離そうとするが、さっきの顔と同じく葛葉先生の腕がガッチリとロックされていて離れない…
ヤバい葛葉先生の胸の感触、ほのかに薫るシャンプーか香水かの匂いが…ミリ単位しか残ってない俺の理性をガシガシ削っていく
「先生…」
「………。」
…ん?反応無し?
「…先生?」
「………。」
返事が無い…?
「葛葉先生?」
肩を掴んで揺すってみる…と
「すー…すー…」
…寝てらっしゃるよ
「…なんだか安心して良いのかガッカリして良いのか分かんねぇ」
とりあえずこれ以上迫られる事も無くなった…と安心する事にしよう―――そう自分に言い聞かせた
…
……
………
「電話出ねぇのかよ…」
さっきまでいた居酒屋を出て、近くにあったバス停のベンチに座って携帯でタカミチさんに連絡を取ろうとしているが
…全くもって出ない
「瀬流彦さんも出なかったし…どーすんだよ、もう」
あの人は2回目以降電源切ったみたいだ、いつかこの借りはキッチリと返してやる…と堅く心に決めた
「弐集院さんは子供が居るって話だからさすがに電話出来ねぇしなぁ」
「ん〜…ふふふふふ…」
因みに居酒屋からずっと葛葉先生の腕はたすき状(左肩側が上)にロックされたまま離れません
幸せそうな顔をして寝言を言ってらっしゃいます
「このままおいて行くって訳にも行かないが葛葉先生ん家知らねぇんだよなぁ…はぁ、どーするよ…」
…
……
………
結局、女子寮の管理人室に連れて帰りました
ず〜〜〜〜〜〜〜っとロックが外れなかったので変形のお姫様抱っこで帰りました
見られたり、絡まれたりするのが嫌だったのでタクシーを呼び、きちんと領収書を切りました
タカミチさんと弐集院さんと瀬流彦さんにそれぞれタクシー代金5730円(深夜割増)を請求するつもりです
「まずは…ベッドに寝かせて…っと」
と、寝かせた所で大きな変化があった
「…腕、上にずらしたら抜けたやん」
思わず関西弁になってしまった…
いくらやっても外れなかったのに…ひどい時は俺の服掴んでたのに…ってまさか起きているんじゃないだろうな?この人?
「………はぁ。」
とりあえず葛葉先生に掛け布団と掛けて、自分の分の掛け布団を持って居間へ
「今日の寝床はソファーかよ…自分の部屋なのになぁ」
だからと言って一緒に寝たり、葛葉先生をソファーに寝かせる訳にも行かないから、俺が涙を飲むしか無い訳で…
「…はぁ、寝るか」
諦めて寝ました。
―――夜が明けての午前7時35分
…
……
………
「やれ、茶々丸」
「はいマスター」
バキィッ!!
「あぷろぱぁ!!!」
な、何だ!?何が起こった!?思いっきり右頬痛いんですけど!?
「痛てぇ!何事だ!?」
どうやら何かがあって(多分殴られた)床に落とされたみたいだが…
「…やっと起きたか、始」
「おはようございます、始さん」
「………」
目の前には黒いオーラを纏っているエヴァといつも以上に無表情な茶々丸と俯いてこっちに顔を向けてくれない葛葉先生がいた
…ってかなんで俺ベッドで寝てる?確かに俺はソファーで寝ていたはずなんだけどな
とりあえず服着させて欲しいな、俺今思いっきり上半身裸なんですけど…
「…どしたの?ってか服着させて下さい」
―ピキィッ
一瞬で空気が凍りました、重苦しい空気でいっぱいです…
「ほぅ…貴様…なかなか面白い事を言ったなぁ…」
ガシッ
いつの間にか茶々丸に後ろを取られて羽交い絞めにされた
「ちょっ…何!?どしたの!?ねぇ!?」
「…ッこの期に及んでまだ白を切るか!?始ぇ!?」
「シラってなに!?分からんって!葛葉先生も見てないで助けて下さいって!」
訳も分からず拘束されたので必死に葛葉先生に助けを求めたら
「――ッ!!///あ、朝ご飯の仕度はしてあるから食べて下さいね!それじゃ!!」
…ダッシュで帰られました、俺に何一つ弁護をせずに…
「さて、そろそろ始めるか…」
「だからなんなのさエヴァ!?茶々丸も黙ってないで助けてくれ!」
「………………マスターの命令ですので」
「今の間何ぃーーーーー!?」
せめて寮の皆が気付くように大声を上げる……が
「安心しろ、この部屋には人払いと防音の結界を張ってある…2〜3時間しか効果はないがな」
…OK、十分死ねる時間だ
「さぁ、その性根を叩き直してやるっ!!!!!!」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
結局、全てを込めたこの叫びも俺の部屋内にしか響かず、俺は結界の効果が切れる約3時間後迄
そんじょそこらの破壊神、邪神、魔神が可愛く見える様な恐怖の化身を見た気がした…が事態はこれで終わりではなかった
はぁはぁはぁ…こ、此花先生って上半身脱いでいたんですね
先程私がソファーからベッドに運んだ時はかけ布団ごと担いでいましたし…全然気付きませんでした…
しかし、私はどうしたんでしょうか…運んでいた時からどうしても此花先生の顔がはっきりと見れません…
確かに昨日親身になって相談に乗って頂きましたし…それに…キ、キスもしてしまいましたが…
殆ど接点が無い男の方に、あの様に急に迫ってしまうなんて…そんなはしたない女でしたでしょうか?私は?
ですが…この胸の高鳴りは…
「はぁ…此花先生…」
余談だが、この日学園内を頬を赤らめ、ため息を時折ついてはまた頬を赤らめつつ徘徊する葛葉刀子教諭に
数多くの男子生徒、男性教員そして一部の女子生徒が魅了されていたとか
―――更に翌日 麻帆良学園女子中等部 職員室 朝の打ち合わせ後
「あー…ったく、まだ体痛てぇ…俺が何したってんだよ…」
朝の職員会議が終わり、先生達はそれぞれ受け持ちのクラスへ向かう
一応俺も『広域指導員』って肩書きの『教師』(信じられねえだろ?俺が一番信じられないがな)なので一応朝の打ち合わせ
なんかには参加している…とは言え朝っぱらからの打ち合わせは正直辛いモンがあるよなぁ…って
「葛葉先生?どうしたんですか?」
今、目の前には一昨日の飲み会で俺の唇を奪い昨日の大虐殺(俺限定)の引き金になった葛葉先生が立っていた
しかも俺達(俺、タカミチさんと瀬流彦さん)の道を塞ぐように…
「あ…あの…此花く…先生」
「は、はい」
な、何言われんだ?俺?裁判沙汰とか?慰謝料とか?
今隣にタカミチさんと瀬流彦さんが居るが援護とかしてくれるかどうか…
「あのっ!!」
「はいっ!?」
こうなったら腹括ってやる!!何でも来い!!
「私と結婚を前提にお付き合いして下さいっっ!!」
はい――――――――――――――――っ!?
「え…突然…?…てかどうして俺なんです?」
「それは…一昨日の夜、私の話を親身になって聞いてくださってましたし…介抱までして頂いて…
それに……キス…とてもお上手でしたし///」
いやいや、アレを『親身』って言ったら世界中のカウンセラーとか色々な人々にケンカ売ってると思う
それにキスは思いっきりそっちから一方的だったじゃん…
「それで…お、お返事は…?」
今言えってか!?オイ!2人共!!何!?その期待MAXの瞳は!?
受けろってか?今ここでプロポーズ受けろってか!?
冗談じゃねぇ!もしこれを聞かれたり受けたりしたら確実に何かが終わる気がするし、まだ結婚なんて考えた事も無い
俺にはまだやりたい事が、叶えたい夢がある!…故に!ここは断固断る方向で行く!!
「…葛葉先生、急だったんで驚いたんですがとても嬉しいです「じゃあ!!」…でも」
「「「でも!?」」」
タカミチさん、貴方も食いつくか?瀬流彦さんは予想してたけど
「まだ、お互いの事分かっていないですし…これからって事で『友達』から始めませんか?」
「私では…駄目なんですか…?」
俯かないで!小刻みに震えないでー!
「いやいやいや、そうじゃなくて…いきなり『結婚』ってマズイでしょう?もっとお互いが自然になれる関係になってから
初めてそういう事を話し合った方がお互い良いかと思ってですね…」
何言ってるかわかんねぇって?俺もわかんねぇよ!
「……そんなに私達の事を考えて下さっているなんて、嬉しいです」
貴女にどんなフィルターかかってるか知らんけど…結婚が回避できるならOKです!!
「分かりました、これからよろしくお願いしますね此花先生…式場のキャンセルをしなければならないのは残念ですが」
式場!?準備万端だったのかよ!?王手!?チェックメイト!?
「あと…」
まだあんの!?
「プライベートで…その…『始さん』って呼ばせてもらいますね…わ、私の事も『刀子』で構いませんから」
な…なにぃ!?
「ちょ…葛葉先生なn「では!私これで失礼します!!」」
うわ早っ!!!もうすっげー彼方!?
…
……
………
とりあえず、今すぐ『結婚』は避けられたから…今他にやる事は……あった
「…2人共」
「な、何かな?始君?」
「もし…この事を他の誰かに話したら……」
「は、話したら…?」
ここでワザと『悪魔化』をするぞ…といった感じの素振りを見せて…
「今2人が考えている事の3つは上のコトをしますから…オボエテオイテクダサイネ?」
「ハ…ハイ…(ガタガタガタガタ……)」
「う…うん、誰にも言わないよ」
よし、とりあえずこれでOKだな…瀬流彦さんアンタ震え過ぎだって
…此処にパパラッチやエヴァが居なくて本当に良かった…それだけ…それだけが唯一の救いだよ…マジで…
…あ、葛葉先生本人に口止めするの忘れてた
あとがき
葛葉刀子参上!…な話でした、恐らく原作以上に結婚に力入れてるんじゃなーか?的な感じで書きました
「私は志○けんかぁ〜〜〜!?」…って今の若いにーちゃんねーちゃんに分かるのかな…?
…そういや今回ってR15とかになるんですかね?