第十二話:この剣士、出来る……!

―ホテル嵐山・休憩所―

刹那に助けられたものの、湯船に放置されてしまった木乃香は、自身と刹那の昔話をすることになったのです。ネギ先生や明日菜は、刹那の行動が理解できていないようですが……。私としては、刹那の気持ちも分からないでもありません。
勿論、賛同は出来ないのですけれど。

「せっちゃんは、ウチの最初の友達やってん……」
「最初の……?」
「そうや。後から、もう一人ウチと友達になってくれた子もおるんやけど……どうしてやろか?名前も顔も思い出せないんよ」
「そうなの……」

度々刹那の昔話の時にも登場した第三者の存在。刹那も木乃香同様、名前も顔も思い出せないと言っていましたが……。もしかすると、その第三者がこの関係の鍵を握っているのでは無いでしょうか?

「それで、剣の稽古とかで会わんようになってな……。昔みたいには、話してくれへんようになってな……」
「木乃香さん……」
「もう一人の友達の手がかりも『このちゃんが淋しくないように、私のお嫁さんにしてあげるね!』という、言葉しか残ってへんし……」
「優しい子だったのね……」

まさか刹那は、その人と木乃香が結ばれる為に、身を引いているとかじゃないでしょうね。もしもそうだとしたら、刹那のこと、一度ぶってあげるんだから。
今の木乃香には刹那しかいないということも教えてあげないと……。

「木乃香……、淋しくなったら私の所に来るんだよ?慰めてあげるから……」
「うん、大丈夫や……」

そんな涙を溜めて、淋しそうな表情をしている木乃香を放っておくことなんて出来ないです。しかし、これは木乃香の問題。木乃香が自発的に相談に来てくれない限りは、私からしてあげられることが無いのも、また事実なのです。
木乃香が部屋に戻るのを見届けて、ネギ先生と明日菜と私でロビーに向かうことにしました。刹那に話を聞く為に。

「あ……華琳さん……」
「ねえ、ネギ。桜咲さんはどうして頬を染めてるのよ?」
「あの、それは……」
「私とディープなキスをしたのでも思い出したんじゃないの?」

当の刹那は式神返しの結界を張っていましたが、私が来た瞬間にしどろもどろになる始末。それでは護衛なんて勤まらないのではないでしょうか?
私のような攻撃をしてくる敵もいるでしょうに……。
それはともかく、話を戻しましょう。

「あの……お嬢様には?」
「あぁ、瑞葉がついているから平気よ」
「そうですか……」

やはり考えていることは木乃香のことばかり。私もその辺りは熟知してきていますので、瑞葉に護衛をさせています。もしも何かあれば、直ぐに連絡が来るはずです。

「敵はどんなのがいるんですか?」
「今回の敵は東洋魔術師に、神鳴流剣士……って辺りかな?」
「えぇ、華琳さんの言う通りですね」

仕事の話にもなれば、全員真剣な面持ちです。明日菜はこういうのは初めてのようで、終始無言空間を貫いています。
どうやら今はまだ、ネギ先生に従って動かなければ、明日菜の持ち味は出ないようですね。

「じゃあ、神鳴流って敵なんじゃないですか!?」

ネギ先生の一言に、刹那はこくりと頷く。確かに、木乃香の護衛をするために京都を抜けた刹那以外の剣士は、敵と考えても問題はありません。
それ故、ネギ先生の指摘は分かるのですが……。刹那は味方だと再三言ったはずですが?

「私は……木乃香お嬢様を守れれば、満足なんです」
「あの……それはどうしてですか?」

ネギ先生、生徒のことを良く知っておきたいからのお節介なのでしょうが、人には踏み込まれたくない領域もあるということを、知っておいた方が良いのかもしれません。
幸い、刹那にとって、話しても平気な内容だったようですが。

「私とお嬢様の共通の友人がいまして……名前も顔も思い出せないのですが、ただ少しだけ覚えているんです。『このちゃんもせっちゃんも私のお嫁さんなんだから、私がいない間は親友として守ってあげてね!』。私の、大切な記憶なんですが……年々、薄れてきてしまっているんですよ」
「その子、お嫁さんの言葉の意味、分かっているのかしら……」

刹那の告白にも出てきた、第三者の友人。その人物が、刹那と木乃香を繋ぐ、大事な存在なのかもしれません。刹那は刹那で、木乃香との大事な思い出を手放したくないように思っているようですし。
しかし、刹那が変なことを考えていないでよかったです。
『木乃香お嬢様が幸せなら、私は不幸でもかまいません』とか、そんな考えだったら、往復ビンタでしたよ。

「それでは、3-A防衛隊結成ですよ!」
「……なんですか、その名前は」

ネギ先生も明日菜も、刹那が木乃香を大事に思っていることを再確認したようで、これ以後共同戦線を張ることに決定しました。その名前に多少の不満は残りますが、そんなことを言っても詮無き事でしょう。

「それじゃあ、私とネギ先生で周囲の見回りをしてくるね」
「分かりました。私は館内の見回りをするので、明日菜さんはお嬢様についていてください」

それぞれの役割分担を決め、木乃香を守る為に動き出した、3-A防衛隊です。


―京都府・京都駅―


「木乃香を奪われた挙句、電車で逃亡を許し、水攻めに遭い……最悪ですね」

京都駅のホームに着いた電車から、河のような水の勢いに任されホームに投げ出されることになった私とネギ先生一行。頼りにしていた瑞葉は、「音羽の滝の水」を飲んで泥酔。役に立ちませんでした。裕奈と亜子は宿でお留守番……というより声をかけてこなかっただけですが。

「今度は炎……ですか」

階段で追いついた折に飛び出していた刹那を狙ってか、敵の符術士の放った符から炎が飛び出る。有名な大文字焼きでも冠したつもりなのでしょう。
その炎をネギ先生の風の魔法で吹き飛ばしたところで、驚いたような表情をする符術士の女。その隙にネギ先生は契約を執行して、こちらの準備は万端ですね。

「アスナさん!パートナーだけが仕える専用アイテムを出します!」
「武器!?頂戴、ネギ!」

ネギ先生が明日菜のアーティファクトを出したところ、明日菜の仮契約カードが変化して武器が現れます。……武器が、現れるはずなんです。

「ハリセン……ですね」
「ハリセン……ですよね」
「ハマノツルギなのに、ハリセンじゃないの!」

そう、明日菜の下に現れたのはハマノツルギ……という名のハリセン。何故ハリセンかは分かりませんが、明日菜が開き直って飛び出てしまったので、笑っているわけにも行きません。

「刹那、私達も出るよ!」
「はい、華琳さん!」

符術士女に対してハリセンを振り下ろす明日菜と、夕凪を振り下ろす刹那。しかし、相手が符術士である以上、善鬼・護鬼がいるものでしょう。

『クマーッ!』
『ウキッ!』

案の定現れたのは、熊と猿の善鬼・護鬼。取り敢えず、熊の鳴き声は『クマーッ!』では無いと思いますよ。
……そんな話をしている場合ではありませんね。刹那と明日菜が猿鬼・熊鬼を相手している隙に、余った私が誘拐犯に奇襲をかけることにしましょう。

「……もらいました。木乃香は返してもらいますわ!」

ナイフを指に挟み、敵を切り裂くべく私は踏み出しました。最も、後ろでは明日菜が一撃で猿鬼を押し返していましたので、奇襲はいらなかったのかもしれませんが。
しかし、ナイフが届く距離になったので投げようとしたところ、誘拐犯の後ろから別の人物が割って入ってきたのです。

「くっ……神鳴流剣士が護衛について……可愛い娘じゃないですか!」
「真面目に戦ってください!」

その護衛の神鳴流剣士の姿を見た私は、愕然としました。少し、頭にノイズが走りました。何せ、目の前にいるのはゴスロリに身を包んだ私好みの女の子……戦闘中だというのに、ついつい叫んでしまうほどです。……刹那に怒られましたが。

「どうも〜。神鳴流です〜。おはつに〜」
「……嫁にしたい」
「お久しぶりです〜。覚えておいでですか〜?貴女の月詠です〜」
「ううっ……、はっ……!?」
「どうしたんですか〜!」

目の前の剣士、月詠に顔を覗かれると、突然頭を打ったかのような衝撃に襲われる。その痛みは瞬く間に全身を駆け巡り、月詠の目の前で跪き、頭を押さえて蹲ってしまうことに。

「月詠……、京都……?」
「先輩さん、どうしましょう〜?」
「いや、どうしましょうと聞かれてもな……」

目の前でぶつぶつと単語を発する私に驚いたのか、敵である月詠と、それに対抗するべき刹那は、互いに顔を見合わせて困惑する。寧ろ、刹那こそ戦いに集中するべきだと思うんですが。しかし、きっと……。
取り敢えず、頭の痛みがひいてきたため、立ち上がった私は迷わず月詠に向き合い、ナイフを構える。

「刹那……こっちは任せて。月詠……行くよ!」
「はい〜!」

月詠の刀が左右から私に降りかかってくるものの、私はその刀をナイフで受け止めつつ距離を離していきます。刹那が月詠を相手するのは骨が折れるでしょうけれど、私のように大振りでなければ幾分楽にいなすことができるのです。

「神鳴流に飛び道具はききまへんえ〜!」
「その通りだったわね、飛び道具は意味がない……」
「……?」
「私の『魅力』でも効かないのかしら?」
「はうぅ……」

ようやく思い出しました。私の第二の故郷、古都京都。私が……人間だった私がサキュバスに変えられた忌々しい場所。そして、沢山の思い出が詰まっていたはずの場所。
京都にくることがなかったら、二度と覚醒することのない記憶。月詠と対峙しなかったら二度と戻ることがなかった記憶。
一連の記憶が戻った今なら、私自身の力を存分に使うことが出来ます。特に、私に親しい人に効果を発揮する私のフェロモン……。普段は無意識の内に放出するだけでしたが……対象を絞ればそれだけ高い効果を得られるということです。

「あうぅ……華琳……様……」
「……ただいま、月詠」

研究所から助け出された私に勝負を挑んできた月詠。助け出してくれたメンバーを除けば、初めて私に話しかけてきた人物でもありました。その当時は、まだ記憶を失う……いえ封印される前でしたので、軽くあしらったんでしたが。それ以来、私に付き従ってきたのが彼女でした。お互いに、初めての同年代の友人……のようなものだったんですね。
先程の月詠の剣筋で引っかかっていた小骨が取れた、といったところでしょう。

「華琳さん……、木乃香さんは助け出しましたよ」
「そっ、そのようですね……。月詠、取り敢えず捕虜として一緒に来てくれる?」
「はい〜。知っていることはお話します〜」
「ネギ先生、刹那はどこに……?」
「華琳ちゃんが、その子と話している間に帰っちゃったわよ?」

月詠は向こうとの契約を破棄し、こちらに……正確には私に味方してくれるそうです。月詠の剣技は、これからの戦いで欠かすことは出来なくなりそうですし、歓迎です。
この京都にいる間、関西呪術協会の一派の攻撃は続くんですから。
月詠を連れて宿に戻ろうとした時、別の人物が目の前に現れました。見たところ、化学者のような風貌ですけれども……。

「すいません、随分遅れてしまいました……って、もう終わってしまいましたか」
「誘拐犯の仲間……ですか?」
「いえ、終了してしまったのならかまいませんので。それでは、失礼します」

やはり、一筋縄でいきそうにもないです。誘拐犯はともかく、仲間をしている面子が強そうですから。先程の男は、一見白衣に身を包んだ力の弱い男にしか見えませんが、実力者ですね……。
まだまだ気を引き締めなければなりません。

古都・京都。戦いは、まだ前哨戦といったところですね。



―後書き―

どうも、お久しぶりです。ルミナスでございます。春からは新生活が始まりますので、少々準備に手惑いました。久方ぶりに文章を書くわけでして、どうにも違和感が……。
後々、また慣れてくるでしょう。この話と華琳のことを、末永く見守っていただければ幸いです。

原作とは少々(?)異なる京都編(と言っても、戦の舞台は原作とは変わりませんが)が本格的に始動しました。その手始めに、月詠が敵から離脱して、ネギ側につきます。月詠は個人的に好きなキャラです。ネギまの中では、もしかすると一番好きなキャラかもしれません。
ゴスロリは正義!←
あっ、月詠の戦闘狂は殆ど治っていませんよ?
そんなわけで、月詠は主人公・華琳の側近?です。ラブラブキッス大作戦がそろそろ行われますが、それも少々手を加えていきます。理由は、ネギの手札が変わってくるからですね。

京都に華琳の過去をもってきました。華琳は、研究所から助け出された後は、吸血鬼ハンターの組織に所属するまで京都で生活していました。一番長い間一緒にいた月詠の登場で、華琳の記憶がリターンしたのは、そのためです。

では、今回はこの辺でお別れとします。
それでは、また次回お会いしましょう。

〈続く〉

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