第十一話:いざ京都、午前の憂鬱

―麻帆良学園・図書館島・禁書書庫―

学園に在学している、如何なる魔法使いでも、許可がなければ入ることが出来ない禁書書庫。本棚に囲まれたテーブルの上に、タロットカードを広げ、主・アリスは本を片手に呟く。

「京都……波乱は必至ね」

タロットが示したのは、「塔(神の家)」のカード。隠されたる意味は、「不運」、「災難」など。到底、良い意味では捉えられない言葉であった。

「彼女が、隠されたる象徴を見つけることさえ出来れば、楽にはなるのでしょうけど……、きっと無理な話ね」

アリスは堕天使を使って、タロットを片付けると、本を棚に戻して自分の部屋へと戻る。
全ての交信機器を使用不可にした状態で、図書館側の入り口も封鎖する。如何なる魔法をも吸収し、物理攻撃ではびくともしない、堅牢な扉が道をふさいでいる以上、どんな人物でも中に入ることはできない。
更に、転移魔法を阻害する為の魔力障壁を張り巡らせ、アリスは堕天使に命令を下した。

「京都の件にも、これから起こる面倒ごとに関しても、基本的には不干渉でいくわよ?」

自分に助けを求める一報が入ることなど、分かっている。だから、あらゆる方法を用いて、それを阻害するのだ。全ては、麻帆良の力を見極めるため。

「この程度の苦境が乗り越えられないようなら、救うだけ無駄だもの」

アリスが―学園最強クラスの魔法使いが―、傍観に徹した瞬間だった。


―埼玉県・大宮駅―

麻帆良から電車に揺られること、数十分。本日の集合場所、大宮駅に到着した車内アナウンスが、電車内に響き渡る。
朝の5時30分に目を覚ましたというネギ先生は、今も元気に起きているようです。

「華琳さん、大宮に着きましたよ?」
「うー、まだ少し眠いですね……」

かなり早いやつで来たというのに、大宮駅には既に始発組が集合していました。新田先生やしずな先生、瀬流彦先生がいることはおかしくもなんともないのですが、図書館探検部と、武闘四天王、それに裕奈達が既にいるのはどういったわけでしょう。
わざわざ始発で来る必要も無いというのに……。

「亜子と裕奈……宿に着いたら、修行だよ?」
「修学旅行に来たのに、なんで!?」
「色々と厄介事があるのよ。向こうに行ったら、別荘を使うから」

お嬢様の別荘に比べると、その性能は落ちてしまうのですが、持ち運びが便利という一面がある私の別荘を使って、戦力増強を図りましょう。
ネギ先生はお嬢様に勝利するほどですから、安心しても良いでしょう。

「ネギ先生、ちょっとお手洗いに行ってきますので……」
「はい、分かりました」

裕奈と亜子に修行をする旨を伝えた後、私は同業者に会いに行くために、ネギ先生にはトイレに行くと伝えておく。
木乃香の護衛についている刹那とは、修学旅行での連携が必要になってきますから。

「せっちゃん、お仕事の話といこうか?」
「そうですね……華琳さん、私は離れたところからお守りしますので……」
「それなんだけど、一応、木乃香と同じ班に入ってもらうから」

刹那にとってみれば、面倒なことになっているのかもしれませんが、私もネギ先生もいつも木乃香にだけ目を配るわけにはいきません。修学旅行の参加生徒、全員が危険に曝されているわけなのですから。

「しかし……私があまり近付きすぎるのは……」
「同じ班で目を配ってもらいたいのよ。だいたい、お嬢様と茶々丸、それにさよちゃんがいないから、班員は二人でしょう?」
「……分かりました。しかし、できる限りは……」
「分かってる、気は配るようにするし、要望があれば直ぐに駆けつける」

刹那が近距離で木乃香を護衛し、私が周囲に気を配り、ネギ先生にはクラスを見てもらう。ある意味では、これが一番のフォーメーションなはず……です。
この後、新幹線への搭乗時間になった為、話を中断し、新幹線へと乗り込むのでした。
六班のメンバーだった刹那は、明日菜の班に、ザジさんを委員長に任せることにして、一路、京都へ向かうのでした。


―ひかり213号、新大阪行き―

「『恐怖のカエル地獄』……そんなことを実際にやる輩がいたら、相当の馬鹿だと思うんだけれど……」
「そうですね……何のための魔法か理解しかねます」

私の直ぐ隣で浮いているさよちゃんと会話をしつつ、裕奈やまき絵達のカードゲームの試合を眺める。はたから見たら独り言ですが、独り言ですむ内容なので誰も不思議には思わないようです。

「くっそー、憎きカエルめー!」

ハルナが悔しそうに叫びながら、自身のおやつの封を切る。ハルナの持っているものは、チョコレートか何かの箱なのですが……。
このゲコゲコという鳴き声は……、カエルですよね……。

「そんなことをする馬鹿が実在するとは……」

私は頭を抱えながらも、ネギ先生達と協力して、発生したカエルを袋詰めにする。気絶した亜子を介抱しつつ、親書を奪われたネギ先生の帰還を待っていることにしたのですが。

「しかし、関西呪術協会も、もう少し考えて行動できないのかしらね」
「私も、華琳様の言う通りだと思います」
「……瑞葉、どうしてここにいるのか念のために聞いておくわ」
「荷物に紛れていました」

関西呪術協会の奇行とともに私の頭を悩ませる存在、瑞葉の登場によって、まだ京都に辿り着いてもいないのに疲れてきました。

「超、肉まん一つ……」
「はいネ。華琳、もう少し余裕を持ったほうがいいヨ」

取り敢えず、疲れたときには何かを食べるのが私の慣習なので、肉まんでも食べて、気を取り直すことにしました。これから行く場所が京都、敵の本拠地なのですから。


―京都府・清水寺―

清水寺の舞台といえば、飛び降りるという行為を思い浮かべるところですが、忍者だったら飛び降りても平気なのではないのでしょうか?

「華琳さん、ほら、京の町が一望できますよ」
「えぇ……、私は京都に来るのは初めて……のはずなんですが、どうにも懐かしく感じる町並みですね」
「良いところですね……」

引率対象の3-Aは自由奔放ですから、少しでも早い内に京都の町を堪能しておきたいところです。それはネギ先生も一緒なのか、私達は清水寺の舞台から京都の町を見下ろすことにしました。
後は、これで関西呪術協会の問題がなければ、もう少しゆっくりとこの町並みを堪能することも出来るのですが……。常に周囲に注意を払っていなければならないというのは、楽しさを半減してしまいます。

「ネギ先生、恋占いでもいかがですか?」
「ほら、ネギ君!行こうよ〜!」

京都の町を見下ろすこと、数分。落ち着きのない3-Aだけあって、委員長やまき絵によってネギ先生は恋占いへと拉致されていきました。

「ほら、華琳も行くで?」
「亜子、引っ張らないの……」

亜子に連れられて私も恋占いの石のある地主神社へと足を進めると、委員長とまき絵がカエルの詰まった落とし穴に落ちている場面でした。
……関西呪術協会は、幼稚園か何かですか。

「ネギ先生、これも妨害工作……ですよね?」
「やっぱりそうですよね……」

考えていた妨害工作の予想斜め上をいく相手の妨害には、私もネギ先生も困惑しかありません。そもそも、このようなもの防ぐ方が大変です。
ある意味、私達の神経は磨り減っていきますが。

「気を取り直して、音羽の滝に行こうよ」

明日菜の一言に従い、今度は一行で音羽の滝へと移動します。夕映曰く、右から健康、学業、縁結びだそうです。一目散に縁結びに群がっていますが、私としては学業を優先してもらいたい人が何人かいることが気になります。

「……ネギ先生、ここまで行くと流石に問題ですよね……?」
「どうしたんですか、華琳さん?」
「みんな、酔いつぶれてしまったですが……」

目の前の光景が事実だと信じたくない私の代わりに、夕映が事実を告げてくれる。私の横を離れていなかった亜子に裕奈に瑞葉、明日菜、木乃香、夕映や、遠巻きに眺めていた一部の生徒を除き、全員が酔って倒れてしまいました。
そして、微妙に感じるお酒の匂い。これは……他の教員にばれたら大変ですね。

「ん……何か、お酒臭くないですか?」
「これは……甘酒ですよ、新田先生」

タイミングの悪い時に目の前に現れるのが、この新田という教師。彼にばれたら、修学旅行は中止、さらに停学処分でしょう。それは避けなければなりません。

「ふむ……。月夜先生、甘酒も飲みすぎないように注意してくださいね」
「はい、了解しました。ところで、瀬流彦先生、よろしければ少し休憩しませんか?」
「いや、僕はまだ回らないと……」
「いいじゃないか、瀬流彦君。美しい女性の誘いは断ってはいけないものだよ」

新田先生に背中を押されるようにして、瀬流彦先生が席に着く。勿論、デートのお誘いなどではなく、魔法関係のお話なわけですが。

「どうしたの、突然」
「関西呪術協会の妨害工作で、クラスの半分以上がお酒を飲んでしまいまして……新田先生や他の一般の教員への応対をお願いしたいと思いまして」
「成程ね……それでお酒臭かったわけか……。うん、分かった。一般側のことは、一般の教員である僕に任せてくれ。魔法先生は、二人しかいないことになってるんだからね」

学園長が関西呪術協会に伝えた内容によると、魔法先生は私とネギ先生の二人だけだそうです。つまり、他の魔法先生に助力を請うわけには行きません。故に、彼らには裏方の作業を担当してもらうのです。魔法を知っている以上、融通が利きますから。

「それでは、瀬流彦先生。私達は先に旅館に戻ることにしますので」
「うん、疲れた生徒が多いので先にいったと伝えておくよ」
「はい、お願いしますね」

新田先生などには瀬流彦先生がうまいこと言っておいてくれるでしょうから、この妨害工作への対処法を考えておかなければいけませんね。
少なくとも、旅館に入ればそうそう問題は起きないでしょうし。


―ホテル嵐山・露天風呂―

しずな先生に急かされて、露天風呂に浸かりにきています。今日は色々と疲れたからでしょうか、露天風呂が非常に気持ち良いです。
あぁ、毎日こんな温泉に入浴したい気分です。

「おー、カモ君!これが露天風呂だって……って、すいません!」
「謝っているくせに、視線はそらさないんですね?」
「えうっ!?」
「ふふっ、面白い声ですね、ネギ先生。ほら、一緒に入りましょうよ」

同じようにしずな先生に急かされてきたのであろうネギ先生と露天風呂で出会ってしまいましたが、別にネギ先生には見られてもかまわないので一緒に入ることにします。
ネギ先生には少しばかり刺激が強いかとも思いましたが、以前も同様の催しがありましたし、問題は無いでしょう。

「ネギ先生、顔が真っ赤ですよ?」
「兄貴には刺激が強すぎですぜ……。流石のナイスバディだな!」
「……誰か来ましたよ?」

顔を真っ赤にしながらも、索敵能力は衰えていないのか、誰かが露天風呂に入ってくることが分かったそうです。音の方向から考えるに、女性でしょうね。

「刹那さん……!」
「あの、どうして私達は隠れているのですか……?」

その影が刹那であることが分かった途端、ネギ先生に腕をつかまれ、岩陰に一緒に隠れることになりました。狭いので、ネギ先生の顔が胸に当たるのが少し気になります。

「だって、刹那さんがスパイの可能性が……」
「いや、それはありえませんよ?」
「えっ!?」
「声が大きいぜ、兄貴!」

ネギ先生、いくら刹那にばれて威嚇の攻撃を喰らったからと言って、殺気立てて杖を持つのは感心できませんよ。それに、ネギ先生単体で刹那に勝てるはずがありませんし。

「神鳴流奥義、斬岩剣!」
風花・武装解除(フランス・エクサルマテイオー)!」

刹那の斬岩剣をかろうじて避け、刹那の刀を吹き飛ばすまでは良かったのですが、ネギ先生と刹那に敵対関係を結ばせるわけにもいきません。
誤解を解くことが出来るのは私しかいませんから、私はネギ先生を突き飛ばし、飛んできた刹那から庇うことにします。

「何者だ……答えねば、命の保障はできんぞ……って、華琳さん」
「刹那、木乃香を諦めて、遂に私に手を出すことにしたのね?」
「ちょっと、んむっ!?」

折角刹那から抱きついてくれたので、復讐の意味もかねて、強制的にキスをさせてもらいました。勿論、深く深くのキスですよ。刹那には、反省してもらわないといけませんから。
余談ですが、プロレスの技にはリップロックなどという強制キス固めなる技があるそうで、正にその状態が今の状態ということです。

「はい、ご馳走様でした」
「はぁ……はぁ……。何をするんですか、華琳さん!」
「私は別に、あなたがどんな存在でも拒まないのよー?真っ白なあなたを、私色に染めてあげる!……なんてね」
「……そっ、そうですか」

私の一言に、一瞬だけびっくりしたような表情をする刹那。しかし、それ以上何を言っても無駄だと悟ったのか、追求はしてきませんでした。

「桜咲刹那、やはりてめえ、関西呪術協会のスパイだな?」
「いや、違いますって、カモミールさん」
「私は敵じゃない!出席番号15番、桜咲刹那。一応、先生の味方です」

刹那の一言に呆けるネギ先生とカモミールさん。これは、刹那をいじめるために、もう少し場を乱すことを言ってみましょうか。

「そして、私の恋人なんですよ?ほら、さっきのキスを見ていましたよね?」
「桜咲さん……、あっあの、僕、応援していますから!」

目の前で、ディープキスをしているところを目撃したネギ先生は、私の言うことを信じてくれたようです。刹那があたふたしているのが、非常に可愛い。

「ネギ先生、誤解です!私は、木乃香お嬢様の……」
「ひゃあああ〜っ!?」

最後まで刹那が言い終わる前のことでした。脱衣所のほうから木乃香の悲鳴が聞こえてきたのは。
誤解を解くことなど二の次、頭の片隅にも残っていないのでしょう。木乃香の悲鳴が聞こえてきた途端に、脱衣所へとかけていく刹那。
幸いにも大事に至ることもなく、木乃香を奪還することには成功しましたが……。

「せっちゃん……ありがとう……」
「あ……いや……」

刹那と木乃香が仲良く話をするようになるのは、まだまだ遠い距離の話のようです。
全く、刹那も木乃香が大事なら、心の隙間を埋めるのも護衛の仕事だと思うんですけれども……。



―後書き―

年賀状を書くと、腕が非常に疲れてしまうことが問題です。どうも、ルミナスです。

修学旅行編が開幕しました。これで刹那や木乃香が前面に出てくるストーリーになりますね。どのように原作から変化していくのは……禁則事項ということで。

関西呪術協会のいやがらせは本当に、いじめっ子レベルですね。その上、放置できないのがいやらしい。ある意味での、一番の手だったりするのかもしれません。

そして刹那はやっぱり、華琳の餌食だったり。ある意味、瑞葉にとっては一番のライバルだったりするのかもしれませんね。

それでは、今回はこの辺で。
それでは〜。

〈続く〉

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