第八話:修学旅行……の準備は万全?

―麻帆良学園・女子中等部―

「えーと皆さん、来週から僕たちは修学旅行へ行くそーで……もう準備はすみましたか?」

……そうですね、もうそんな時期になったのですね。学園から出られないお嬢様がいますから、私は欠席、ということになるのでしょうけれども。
それにしても、普段から騒がしいクラスだとは思っていましたけれど、この盛り上がりは一体どういうことなのでしょう。一番騒いでいるのはネギ先生なのかもしれませんが。

「お嬢様、私はお嬢様の傍に」

私は、隣で仏頂面のままクラスを眺めているお嬢様にそう話しかける。私の席の前は茶々丸と裕奈。ここでお嬢様と言っても、うるさく騒ぎ立てるものはいないでしょうから。
しかし、お嬢様が返してきた返事は、私の予想とは違うものでした。

「駄目だ、華琳。お前はぼーやについていき手助けしてやれ」
「……ですが、お嬢様」
「茶々丸がいる、心配はいらん。それに、お前にとっても最初で最期のイベントだ。楽しんできた方が良い」
「……ご命令とあらば」

私の抗議の声に耳も貸さず、私は意外な命令を下される。確かに、先日の一件で学園の警備は更に厳重にすると言われていますので、敵など来ることは無いでしょう。
茶々丸がいれば、家事の大半をこなすことが出来るのも、また事実。
……ネギ先生には一度助けられてもいますし、異議は無いのですが。

「ネギ先生、それに月夜さん。学園長がお呼びですよ」

クラスの喧騒などなんのその。教室の前のドアを開けて入ってきたしずな先生は、それだけ言っていった。しかし、HRとはいえこれだけ騒いでいるのですから、そこは注意をしていくのが先生なのではないでしょうか。

「あ……はーい!」
「……どうして、私なのでしょう?」
「知らん。大方、厄介事か何かだろうよ」


ネギ先生と共に連れてこられた学園長室。以前、ここに連れてこられた時は、お嬢様と一緒に暮らすことと学園の編入手続きのときでした。
しかし、ここに私とネギ先生が呼ばれる理由が分かりませんが。

「修学旅行の京都行きは中止!?」
「―関西呪術協会。それが先方の名前じゃな」
「―特使として西へ行き、この親書を渡してもらいたい」
「わかりました、学園長先生!」

私もここに連れてこられているというのに、私のことを普通に無視して話を進めるネギ先生と学園長。……ネギ先生が呼ばれた理由は分かりましたが、私が呼ばれる理由が思い当たらないのですが。

「……学園長、私が呼ばれた理由は?」
「忘れておった……華琳君には、教師としてネギ君をサポートしてもらいたい。特に修学旅行中は大変じゃろうし……」
「そんなことですか。分かりました、ネギ先生のサポートを教師として……。教師として?」

学園長の言葉を鸚鵡返しにしようとして、内容を確認しようとしたところ、おかしな言葉が混じったことに気がつく。私は、一生徒、それも中学生です。それなのに、今学園長が言った言葉は間違いなく、『教師』です。

「私は中等部の生徒なのですけれど……。ボケましたか?」
「む……君には、女子中等部の家庭科の教師をやってもらいたいんじゃよ。それと、3-Aの副担任じゃ」
「ですから、私は中学生なんですが……」

学園長に、労働基準法などという言葉は存在しないのでしょう。もしくは、ばれなければ良いという考えの持ち主なのかもしれませんが。

「裁縫は一級クラスで、料理は……学園内でベストテンだそうじゃな?」
「……超包子の料理人の1人……よく調べていますね」
「……と言うことで、家庭科の教師としては問題ないと思うんじゃが?」

学園長が持っている雑誌には、手料理を食べてみたい女性ランキング、麻帆良の一押し料理人ランキングなるものが掲載されており、そこには私の名前が書かれているわけです。
それにしても、裁縫の話はどこから……って、お嬢様から聞き出したのでしょうね。

「しかし、私が教師をやる理由にはなりませんよね?」

頑なに拒む私に、学園長は持っている最大の切り札を切ることにしたようです。いや、最大で切り札なのかは知りませんけれども。

「実は、女子中等部の一部の面々のたっての希望でのう」
「……分かりました。これから私は、教師としてここに勤めましょう」

女子中等部の一部の面々……巷で噂の非公認ファンクラブでしょう。以前、『百合の女王にインタビューを!』とか言ってきた女性記者がいましたからね……。彼女は今、私のファンクラブのメンバーだそうで……。
予め私の答えを予想して……いたのでしょう。学園長の渡してきた書類には、証明写真、捺印、個人情報が書き記されていました。大方、責任ぐらい自分で取れ、とそういうことでしょう。暴徒となるのは困るからの……とでも言うところですか。仕方ありません、私のせいで学園崩壊とか、いやですからね。
しかし、教師ということは……修学旅行も引率側ということですよね?

「それではネギ先生、これからは副担任としてお手伝いしますので」
「はい!よろしくお願いしますね、月夜さん!」
「そっ、その……私のことは『華琳』と呼んでくれませんか?」
「ほう……華琳君、男性に興味が無いのではなかったのかの?」
「別に、恋愛感情などではありませんが?三途の川でも見てみますか、妖怪ジジイ」

後ろで変なことを呟く学園長の頭にナイフを突き刺し、それだけ宣言する。あの学園長のことですから、ナイフの一本や二本では怪我すらしないでしょう。

「……わかりました。これからは華琳さんと呼ばせてもらいますね!」
「はい、よろしくお願いしますね、ネギ先生」
「儂、ナイフで血が出とるんじゃが……」

ネギ先生と私が部屋を出て行ってから、数十分後に、学園長の頭から血が出ているのを、しずな先生が発見したようですね。まぁ、私には関係のないことですが。


―麻帆良学園・学園生協―

さてさて、これから生徒ではなく教師として動く理由は、端的に言えば、修学旅行では教師のほうが動きやすいから、だそうです。道中の妨害その他にも、班別行動で離れる可能性などを考えれば、学園長の言う通りですか。
と、言うわけで、今まで着ていた制服から、スーツでの登校になるので、学園長にもらった支度金でスーツを買う為に、生協へと足を運んでいます。

「おーい、ネギー!」
「ア……アスナさん!?」

隣にいるネギ先生は明日菜が描かれた仮契約カードを眺めつつ、赤くなっていましたが……。その本人の登場に、びっくりしているといったところでしょうか。

「うぐっ、華琳ちゃんもいるのか……」
「露骨に嫌がらないで欲しいんだけど?」
「そうやで、アスナ!華琳は悪い人じゃないで?」
(まぁ、明日菜には悪いことしたんだけどねー)

木乃香はそんなことを知らないから、仕方ないんですけれど。
しかし、私と深く関わった女生徒は皆ファンクラブ行きが確定するそうですよ?そこからついたあだ名が『麻帆良のサキュバス(女性専用)』。(女性専用)までがあだ名ですよ、間違えませんように。
ですからきっと、明日菜とも仲良くなれます!

「ところで、ネギ君。なんや、それー?」

木乃香が目を付けたのは明日菜がネギ先生と契約したことを示す仮契約カード。そう言えば、木乃香は占いに関してはマニアを通り越すぐらいの意気込みでしたっけ……。

「木乃香、そのカードだったら、私も持ってるけど?」

取り合えず、下手なことを口走る前に、ネギ先生に向かった興味をこちらに連れ戻す。一枚に対して四枚では、こちらに興味を示してくるでしょう。

「おー、四枚もー!どうしたら手に入るん!?」
「え゛!?」

木乃香なら、欲しいって言い出すことを考えていませんでしたね。ネギ先生よりは対応できると思っていたんですが、この質問に対する上手い応答は持ち合わせていませんし。

「はいはい、さっさと行くわよ!」

明日菜の号令に、今回ばかりは救われましたね。しかし、私の制服の胸ポケットの中にいるカモミールさんは、何か良からぬことを企んでいるようです……。


生協内に入店した私達は、三人でネギ先生の私服を選んでいく。……と言っても、明日菜と木乃香が殆ど選んでいるので、私は口出ししていませんが。
正直、メイド服と制服しか着ない私にはファッションはよく分かりませんし。

「華琳、これなんかどうや?」
「うーん、取り敢えず着てみようかな……」

暫くして、ネギ先生を着せ替え人形にするのにも飽きてきたのか、木乃香の標的は私に移り変わったようですね。これで、実に四着目なんですが……。

「うーん、どのスーツも大きく変わらないような……」
「姉さん、姉さん!」
「どうしました、カモミールさん?」

四着目になるスーツを試着しながら、ちゃっかりと試着室の中に入ってきているカモミールさんに呼び止められる。……一応私も女性なんですけれど……カモミールさんに肌を見られただけでは何も変化しないので、そこは黙認しています。
一々文句を言うのも、面倒ですから。

「このか姉さんの唇を奪っちまえよ!」
「……はい?」

またこの人は、こんなことを言い出しますし。いや、私と誰か美少女がキスをするシーンに興奮してしまうのかもしれませんけれど、木乃香が対象なのは、流石にまずいです。
主に、私の命が、ですけれども。

「いや、このか姉さんは華琳の姉さんの好みの美少女ですぜ?」
「それでも、それはまずいんですよ……」

相手があの木乃香では、後で刹那や学園長から何をされるか分かりませんし。前に木乃香に手を出そうとしたときは、半分修羅になった刹那に殺されかけましたし。

「華琳、着替え、終わった?」
「あ……木乃香……」
「華琳、このカードどうやったら手に入るん?」

やっぱり諦めていなかった木乃香は、試着室という私が逃げられない状況を作り、再度私に聞いてきます。こういうところ、木乃香は黒いと思いますが……。

「それを手に入れるには、キスをするしかない……かな?」

いくら木乃香でも、私とキスをするのは遠慮したいところでしょう。自分で言うのもあれなんですが。……寧ろ、ここで断ってくれないと困るんですけれども。

「キス?そんだけ?ええよ、それぐらいなら」
「本気で言ってる!?」
「……ん?ってことは、裕奈、亜子、瑞葉ちゃんとはキスしたゆーこと?」
「あはは……」

木乃香の追求に苦笑いで返した私ですが、カモミールさんが既に描いてあった仮契約の魔法陣の中で、木乃香に肩を押さえつけられている状態で、抵抗ができません。

「流石やなー、サキュバスのあだ名は伊達じゃないんやね」
「そのサキュバスを押し倒しているのは誰よ?」
「カードのためやー!」

あぅ……刹那が本気でキレますよ、これは。唇にキスをするなんてことがばれたら、本気で殺されてしまいます……。

「木乃香、唇は駄目……」
「んっ!」

木乃香の柔らかい唇の感触を感じたのは、私の唇ではなく、頬。よかった、頬ならばばれることもないし、特に問題は起きない……仮契約完了?
結局カードは、スカカードということで、直ぐに消えてしまったのですが、その魔力が外に漏れてしまったようで……。
木乃香達と分かれた後の女子寮に、怖い人が立っていました。

「さて、華琳さん。説明を要求します」
「これはね、刹那……私の責任では無くて……」
「華琳さん、説明を要求します」
「刹那、木乃香が積極的に……」
「華琳さん、セ・ツ・メ・イを要求します」

ひぃ、刹那、本気で怒ってますよ……。人払いの結界に、夕凪も所持って……完全武装なんですが?そんな、親の仇みたいな感じで睨みつけられても……。

「刹那、許して?」
「今日は寝かせませんよ、華琳さん?(討伐的な意味で)」

勿論、刹那の怒りが簡単に静まるわけも無く、刹那が私を許してくれたのは、既に日が昇りそうになっていました。
もう、刹那ったら激しいんだから……。



―後書き―

どうも、毎度お馴染み、ルミナスでございます。
金欠です、どうしましょう。

さて、原作の26時間目を主軸にした話になっています。半分以上はオリジナルストーリーですけれども。木乃香と刹那主従は、華琳を凌駕する存在ですね。
華琳が教師になったのは、修学旅行を考えてのことだったりします。班分けで悩んでいたので、それぐらいならば、と。
超包子はエヴァ一家の収入源だったり。これからは、学園からの給料も出るので、裕福になりますね。

それでは、また次回お会いしましょう。

〈続く〉

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