第七話:従者の従者は受難続き?

―麻帆良学園・女子寮―

「龍宮さん、桜咲さん!」

女子寮の一角、「龍宮真名」「桜咲刹那」と表札に書かれている部屋の前で瑞葉はそう叫んだ。しかし、返ってくるのは無言。何の反応も返ってこない。学園の結界も落ちるとなれば、当然ながらその警備の人員は増やされる。今日に限って部屋にどちらもいない状況に、瑞葉は歯噛みした。

「くっ、それなら長瀬さんは!?」

真名と刹那には頼れないと悟った瑞葉は、中忍という地位を誇る長瀬楓に助けを求めることにした。「長瀬楓」と書かれた表札がかかった部屋は既に真っ暗であり、部屋の主は既に夢の世界に旅立っていることは間違いないだろう。

「どうして今日に限って、皆いないのですか!早くしないと、華琳様が死んでしまうのに……!」

瑞葉には、戦闘のできる知り合いなど数名しかいない。しかし、よく考えれば真名も刹那も楓も、助けを求めるにしては成功率が低すぎた。瑞葉を危険から遠ざける為の華琳の措置であったのだが、瑞葉はそんなことなど露も知らない。ただ、主を助けたい、その一心があるだけである。

「うーん、こんな時間に何の騒ぎですの……?」

時間が時間である。瑞葉が幾度となく大声で騒ぎ立てれば、誰かが気がつくというもの。最初にそれに気がついたのは、3-Aを纏め上げる委員長、雪広あやかであった。
瑞葉にとっては、ある意味天の助けに違いなかった。大浴場での作戦ゆえに携帯電話を持っていない瑞葉にとってみれば、外部への連絡を取る手段を手に入れたのだから。

「あなたは……華琳さんの?」
「華琳様が……、華琳様が……!」
「落ち着いてください!華琳さんがどうしたんですの?」
「電話を貸してください!このままでは、華琳様が死んでしまいます!」

あやかにとってみれば、全くの寝耳に水の話。クラスメイトが死にそうであるという話は、到底信じられる範疇を超えていた。しかし、嘘をついているとは思えないほどの瑞葉の焦燥感に、あやかは無言で携帯電話を手渡す。
瑞葉に手渡した電話越しに聞こえるのは、紛れも無い学園長の声だった。

「学園長先生、西園寺瑞葉です!至急応援を……」
「落ち着くのじゃ、瑞葉ちゃん。何があったのか、今どこなのかを伝えて欲しいのじゃが」
「襲撃地点は女子寮の近辺。華琳様が、複数の侵入者と交戦をしていますが……いずれも高い能力を持った吸血鬼ハンターです」
「敵の陣容も教えてくれるかの?」
「大きな剣を持った剣士、弓を使う魔法使い、あと一人は忍者かと……」
「分かったぞい、そっちに高音君達を応援としてまわそう」

目の前にいるあやかが一般人であることなど、意にも介さず、いや思いっきり失念した状態で話を進めていく瑞葉。その会話は、非常にまずいものである。

(……吸血鬼ハンター?それに、魔法使い……ですか?)

勿論、その話を目の前で聞かされているあやかにとってみれば、耳慣れない単語ばかりを、さも当然であるかのように使用している瑞葉と学園長に興味が湧いても仕方ないこと。
しかし、慕っている華琳が危険であるというのなら、そのような話をしている暇は無いのでは?
あやかはそうも思うが、口には出さない。それを瑞葉に尋ねるのは、例の電話が終ってからでも良いだろう。もしもこれがイタズラであるというのなら、クラスメイトに怪我が無くてよかったと安堵するだけであるし、イタズラでないのなら、クラス委員として駆けつける義務があるはずだ。

「西園寺さん、その……魔法使いというのはどういうことなんですの?」

一般人に魔法がばれた。一瞬だけ瑞葉は困惑する。それは問題ではあるが、記憶を消す暇も説明する暇も無い。今は一分一秒でも時間がおしい。仕方無しに瑞葉は。

「一緒に来てくだされば、分かるかと思います」

一般人を戦場に連れ出すことを決意したのだった。
下手に後を付けられるよりも、最初から場所を把握した方がよいのだから。


―麻帆良学園・女子寮前―

「ちっ!『黒百合』にここまで仲間がいたなど、聞いていないぞ!」
「それは私もよ。魔法使いにロボット、更には従者までも……」

ネギ先生が加勢に現れたことで、私と組織との戦線は、一気に逆転しました。茶々丸が弓使いを抑え、素人とは思えない裕奈の魔法銃が剣士を威嚇する。ネギ先生の魔法と交互に放つことによって、剣士の動きをほぼ完全にコントロールしています。

「霞、今度は本気で行くよ?」
「忍法……!?」
「私の能力は植物を操る……忘れてた?」

忍術を使い始める前に、私は霞を根で捕える。しかし、捕えた霞に対してナイフを数本投げてみるものの、やはり忍者であるからか、拘束を解かれてしまう。

「目を覚ましてください、華琳様!」
「私はもう、お嬢様以外には仕える気は無い!」

霞のクナイが私の左頬を掠るのと同時に、私のナイフが霞の頬を掠る。互いに頬から血を流しつつ、私たちは対峙します。
こんなに動いたのは、実に何ヶ月ぶりでしょう。

「忍法・分身の術!」
「楓の方が精度は上か……。見よう見まねで習得させられたメイド秘技・殺人ドールを受けて見なさい!」

お嬢様が良くプレイしているゲームのメイドの技を、昔無理矢理習得させられた苦い記憶が蘇ります。あのメイドのように、時を止めることはできませんが、風の魔法を用いることで、一時的ながら全てのナイフを空中に静止させることが出来ますので。

私の放ったナイフが、霞の分身を全て消し去り、霞自身にも相当の深手を負わせることに成功する。これで、霞は戦闘不能ですから……残りは、大剣男と弓女のみ。
そうなったところで、間が良いのか悪いのか、応援が駆けつけてきました。

「華琳様、ご無事でしょうか!?」

女子寮から駆け出してきたのが瑞葉。傍らに委員長がいますけれども……。まぁ、敵が去ってからゆっくりと聞くことにしましょう。

「華琳さん、無事ですか?」
「華琳先輩、助けに来ました!」

森の奥から来たのが高音さんと愛衣ちゃん。出来れば、もう少し早く来てくれれば、こんな怪我をしなくても済んだのに……と頬をさする。未だに出欠が途切れないのはちょっとやばいですよね?

「貴様ら、私の従者に手を出しておいてただで済むと思うなよ?」

連絡橋の方面からは、明日菜が走ってくるのが見えます。なんていうか、明日菜の全力疾走はもはや化け物レベルだと思うのですが……。
そんな明日菜の背中から、お嬢様が宣言する。
そんな少女みたいにすごまれても……。お嬢様、カリスマが足りません……。

「僕の生徒に手を出したあなたたちを、僕は絶対に許しません!」

極め付けには杖を構えたネギ先生と、退路をふさぐように立っている明日菜。戦闘不能状態の霞を含めての三人では勝ち目もありません。
それは向こうも分かっているのでしょう。三人集まった挙句、転移魔法で逃げていきました。
それにしても……そろそろ血が止まらないと……。

「おい、華琳、無事か……?」
「あかん、血を止めな……!ウチのアーティファクトのこれで……」

亜子の血液を見ただけで倒れるあれはどこにいったのでしょう。戦場だからと割り切っているのでしょうか?
しかし、亜子と仮契約を結んだのは結果的に正解だったようです。亜子のアーティファクトは『魔法薬品一式』。出すたびに補充されるという代物で、頬の傷を止血することぐらい、わけありません。他にも、毒薬から魔力回復薬まで、本当に良く揃っていますね。
裕奈の銃捌きも見事なものでしたし、これは私、大分得しましたね。

「華琳……お前が無事ならそれでいい。頼む、私を残して死なないでくれ……。誰かを失う悲しみは、もう経験したくないんだよ」
「お嬢様……。私、月夜華琳はお嬢様の命令とあらば、いつまでもお傍に。ですから……私を捨てないで下さいね」
「なんだかんだ言っても、良い主従よね……」

お嬢様に泣き顔で抱きつかれるとは思ってもいませんでした。お嬢様、私はお嬢様に生涯仕えるつもりです。たとえ死しても、幽霊となってお嬢様をお守りします。
それこそが、私の忠義なのですから。

「……それで、ネギ先生。これは一体どういうことですの?」
「あの……今のは全てCGなんです」
「華琳さんの傷はどうやって説明するんですの!?」
「ですよね〜」

抱擁も終わり、ネギ先生の方へと視線を移してみると、相変わらずの嘘の情報で委員長を騙そうとしていたみたいですが……私が実際に傷を負ってしまった以上、CGは通用しませんよ。隣で、愛衣ちゃんも溜息をついていますし。

「それに華琳さん!魔法使いというのは何ですの!?」
「私達は、魔法使い。それはさっきの戦いを見れば分かると思うけど?これ以上深く首を突っ込むのなら、相応の覚悟が必要になるよ?」
「華琳さん、何を言って……?」

私の言葉に対して、委員長とネギ先生の顔に困惑の表情が浮かぶ。どうせ、今更魔法がばれた人間が一人増えたところで、報告書の枚数に大差は無いですし、やけですわ。

「言葉通り、覚悟があるならば聞けば良いし、ないのならば全て忘れて今までどおりの生活を送るだけ。今、魔法使いについて聞いたら、平穏な生活には戻れないかもしれないし」
「……ネギ先生も、魔法使いなんですの?」
「はい、僕も魔法使いです……」

ネギ先生の言葉を聞いて、委員長は答えが出たらしい。いや、委員長の回答はもう決まっているはずですね。『ネギ先生のいるところ、雪広あやかありですわ!』ですからね……。

「及ばずながら、私もお手伝いしますわ!」
「そう……それでは、その話はまた後日。ちょっと、私も厳しいし……」
「ごめんなさい、僕も少し辛いです……」
「委員長は、ネギ先生に送ってもらいましょうか」


こうして(三人に魔法がばれるなどして)、お嬢様の作戦は終わりました。お嬢様はネギ先生には勝てなかったようですが、お嬢様がネギ先生を気に入ったそうなので、無問題です。
また、私の手元には、『明石裕奈』『和泉亜子』の仮契約カードが未だに残っています。
委員長も魔法に携わると決めた以上、三人には修練を積んでもらわないといけませんが……委員長の場合は戦闘よりも情報処理の方が得意そうですね。バックアップとして活躍してもらいましょう。
後変化があったことといえば、私が正式に運動部四人組のメンバーに加わったこと。私自身は運動部では無いし、既に四人組ではなくなりましたけれども。
これに関しては、裕奈と亜子に「親友」宣言されたからに他ならないんですが、事前に保険をかけられた感がありますね。
そして、もう一つの変化といえば。

「華琳の姉さん、頼りにしてますぜ?」
「うふふ、任せておきなさいな、カモミールさん」

私とカモミールさんが、仲良くなったというところでしょうか。


―後書き―
風邪を引きました。ですが、もう治りかけなルミナスです。

少し話題に挙がっていたので、二つ名メーカーを使ってみたところ、華琳は『リボルバートリック暴風執行』でした。何を、『暴風』の如く『執行』するのかは敢えて語りません。
瑞葉は『イグジット叫喚』でしたね。同様に、何に対して『叫喚』するのかは敢えて語りません。

委員長に魔法がばれましたね。しかし、委員長は戦闘に参加するのは、まだまだ先になりそうです。実際に戦うのかは決めていないんですけれど。
裕奈の銃の腕前は、麻帆良祭の方を参考にしました。が、それ以外はてんで素人ですし、亜子についても同様です。さてさて、これからどのように化けていくのやら。

それと、華琳がエヴァの従者であることが、再認識できる内容かな、と。
エヴァが丸くなりすぎている感もありますが、二年間を寝食共に過してきた相手ですから、家族として扱われていますので、これぐらいは当然なのかな、と。

それでは、次回もまた見てくれることを祈っています。

〈続く〉

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