第三話:ロボは良い人、メイドはヤバイ人

―麻帆良学園・中等部―

「おはよう、ネギ先生」

中等部の昇降口、登校したてのネギ先生に、お嬢様が挨拶を投げかける。それに対してネギ先生は、恐怖心が入り混じった顔で声のする方向を向きます。何ですか、お嬢様が折角挨拶をしてくださったというのに、恐怖で挨拶も返せないんですか?

「今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ……ネギ先生が担任になってからいろいろ楽になった」

こちらを確認して、敵とでも認識したのか、ネギ先生は背中に背負っていた杖に手をかける。……つい先日忠告したはずですけれどもね。『動き出すまでは敵対しない』って。どうしてこう、戦闘にはやりだすのでしょうか。

「……タカミチ達に助けを求めようなんてするなよ?また生徒を襲われたくないだろ?」
「と、いうことですので、お嬢様の出席簿だけとっていればいいんですわ、ネギ先生」

お嬢様からの脅迫に対して、まだ子供であるネギ先生が気の利いた台詞回しが出来るはずもなく、一目散に階上へと走り去っていきます。その後ろを明日菜が追うのを確認しながら、私はお嬢様と茶々丸を見送り、明日菜の後ろをつけるように階上へと歩を進めました。

「あの四人が問題児なんすね!?」
「……エヴァンジェリンさんは吸血鬼なんだ。しかも真祖……。それに、月夜さんは変態だし……」
「誰が変態ですって、ネギ先生?」
「あぐっ!?」

妙な情報を使い魔であるアルベール・カモミールに伝えようとしていたネギ先生に、自己保身の為に跳び蹴りを浴びせ、倒れこんだネギ先生の顔を踏みつける。あれですよ、上履き履いてたら痛いと思って態々脱いであげたんですよ?

「止めてください、月夜さん……」
「そうです、華琳様!私ならいつでも準備OKですから!」
「何故にそこで横になる、瑞葉。……私が変態なんじゃなく、瑞葉が変態なんです。分かりました、ネギ先生?」

私の足元でもがいているネギ先生に視線を下ろし、そう尋ねる。隣で明日菜が危ない人を見るような目で私を眺めていたのは、私の錯覚だと自己分析し、ネギ先生の顔の感触を数分ほど足で楽しんでから解放してあげます。脱出しようともがいている人を踏みつけるなんて、素晴らしいものだと思いません?後は、これが少女だったら良かったんですけど。

「取り敢えず、下手に私達に挑むのは止めた方が良いと思いますよ、ネギ先生。今はこれだけで済ませていますが、勝負になったら、何をするかわかりませんよ?」
「そうですよ、私のときなんか華琳様のおし……きゃん!?」
「瑞葉、黙ってなさい……それでは、ネギ先生。良いパートナーが見つかることを祈っていますわ」

ある意味での宣戦布告を済ませ、階上に上りきった私は、ネギ先生達にばれないように階下の様子を眺めます。どうやら、どうやって私達を倒すのかを協議しているようですね。
……しかも、パートナーを明日菜に決めたようですし……近い内に襲撃してくるかもしれませんが……茶々丸は町中の人気者ですので、ネギ先生も情に流されてしまうでしょうから……ターゲットは私でしょうか。

「行くよ、瑞葉。……何、呆けているのよ?」
「華琳様の大人なパンツ……」

瑞葉の視線の先にあるもの、それは私のスカートの中で……。って、人が真面目に話を聞いているときに、この娘はなにをしているんでしょうか、全く……。

「はぁ……取り敢えず、教室に戻りなさい」
「えー、華琳様〜!チャイムが鳴るまで一緒に……」
「もう、チャイムなら直ぐに鳴るわよ」

私の言葉とともにチャイムが始業のチャイムが鳴り響く。やや残念そうにしている瑞葉が教室に戻るのを見届け、私はネギ先生に見つからないように、早々に教室へと退散することにしたのでした。


―麻帆良学園都市・郊外―

階段に座って瑞葉の部活が終るのを待っている私の目の前に現れたのは、見間違えることもない、担任のネギ先生とクラスメイトの明日菜。大方各個撃破のつもりで茶々丸の後を追ったところ、親切すぎて襲うに襲えなかったのでしょう。

「こんにちは、ネギ先生と明日菜」

先ほどまで読んでいた本を投げ捨て、私は一歩前に出る。それと同時に武器を構えるネギ先生と、前に出ようとする明日菜。間違いなく、ターゲットを私にしたんでしょう。

「ちょっとストップ、ネギ先生。一端、人払いの魔法をかけますから」
「へ……、あ、はい」

私の申し出がいたく予想外だったのか、ネギ先生も明日菜も、使い魔であるフェレットか何かも口をあんぐりと開けています。いや、衆人環視の中で私を攻めるつもりだったんですか?

「はい、完了です。いつでもよろしいですよ、先生」
「では、行きます!契約執行10秒間!ネギの従者・『神楽坂明日菜』!」

私めがけて明日菜が突進してくる。大方、明日菜が私を押さえ込んでいる間に、ネギ先生が魔法を詠唱するというフォーメーションなのでしょう。まぁ、私が並の術者か何かなら、これだけしとめられるのでしょうけど、そうはいきません。何せ、あの『闇の福音』の従者なのですから。

「天国を見せてもらうわ、明日菜」
「へ……?天国?地獄でしょ、普通は……って、見せてもらう……?」
「『来れ!』」

手にした仮契約カードから、私用の武器を取り出す。お嬢様に歯向かう輩は、早めの内にその芽を摘んだほうがよろしいでしょうから、本気で参ります。

「華琳ちゃん……その格好は?」

先ほどまで着ていた制服はどこへやら、呼び出したアーティファクトのおかげで、普段のメイド服(動きやすさ二百倍)に身を包んだ私に、明日菜が一歩後ずさりする。私が手にしているアーティファクトは鞭。アーティファクトは本人に作用されるとは言え、いくらなんでも私にぴったりすぎるでしょう、これは。お嬢様と契約を結んで良かったですわ。

「隙ありよ、明日菜」
「えっ、きゃあ!?」

折角動きが止まったところを、私が逃す必要も無いですからね。私のアーティファクト『お仕置き用の鞭』は、それで打ったものを捕える効果があるのですわ。

「……痛くない」
「私の鞭が効かない!?良いわ、一瞬止まっただけでも十分よ!」
「ぐっ……華琳ちゃん、重いんだけど……」
「誰が重いって……?」

アーティファクトの効果で捕えて無力化しようと思っていたのですが、アーティファクトが効かない以上、力でねじ伏せるしかありません。クラスメイトの誼として、手荒な真似はしたくなかったのですが……仕方の無いことです。

「本当は仰向けに倒した方が楽しめるんだけどね」
「それって、何か危ない感じの華琳ちゃんの趣味の話だよね……?」
「趣味じゃないよ!取り敢えず、楽しませてね、ア・ス・ナ?」

うつぶせに倒れこんだ明日菜に馬乗りになった私は、アスナの顎に手をかけてそのまま海老反りでもさせるかのように明日菜の上体を起こしあげる。プロレスの技で言うと……確かキャメルクラッチとかいう技でしょうか。前に瑞葉が『華琳様、この技をかけてください!』と頼んできた技の内の一つです。

「痛いって、華琳ちゃん!そんなに引っ張らないで!」
「ほらほらほら、もっと悲鳴を聞かせてちょうだい!明日菜みたいに元気で明るい少女の悲鳴なんて滅多に聞けないんだから!」
「あうっ、んっ!」
「うふふ、悶えちゃって可愛いんだから……。さて、そろそろ胸でも弄っちゃおうかな?」
「いやっ、止めて!」

私の言葉に、途端に暴れだす明日菜。痛いのは契約執行の時間が切れたからでしょうか。とはいえ、明日菜の馬鹿力を片手で抑えながらでは、無理があるようなので、明日菜の胸を弄るのは諦めますが、その代わりに更に上体を反らせて明日菜の悲鳴を誘う。
恐怖の混じった表情で私を見つめる明日菜。そうよ、その怯えきった表情が一番だわ。

「うう……華琳ちゃん、そろそろ放してくれないと腰が痛いんだけど……」
「それなら、泣いて許しでも請いなさい?裏の世界で生きていくなら、『許して』『ゴメンナサイ』は通用しないんだけど、クラスメイトの誼で助けてあげるから」
「華琳ちゃんの意地悪……本当に痛いんだって……」
「そう?じゃあ、解放してあげるから私の足を舐めて、絶対の忠誠を誓いなさい?そうすれば、今後明日菜に危害を及ぼすことはしないから」

今まで明日菜の顎を掴んでいた手を乱暴に離し、明日菜を解放する。腰を痛めたのか何か知りませんが、直ぐには立ち上がれない明日菜の顔の目の前に、靴を脱いで黒のソックスに包んだ足を晒します。案の定、目の前に差し出された私の足を見て、明日菜は顔を歪める。
拒んでいる相手を服従させるなんて、なんて楽しいのかしら。

「ほら、早く舐めなさいって言ってるのよ!」

私がアーティファクトの鞭で明日菜の脇の地面を叩くと、明日菜はもう一度びくっとしてうつむきます。ようやく、自分が誰を敵にしたかが分かったようですね。

「ゴメン、ネギ。私じゃ、華琳ちゃんと対等には渡り合えないし……許して……」
「そう、それでいいのよ明日菜。ほら、早く舐めるのよ!」

明日菜が私の責めに屈服し(身体強化魔法を使って上体を反らしていたんですし、持った方ですね)、私の足へと顔を近づけようとした丁度その瞬間でした。
私に向かって魔法の矢が飛んできたことに気がついたのは。

「明日菜さん、今助けます!『戒めの風矢』!!」
「あー、明日菜を責めるのに夢中になって、ネギ先生の存在を忘れてました」

誰に弁解をするわけでもなく、独り言のようにそう呟く。私としたことが、責めることに夢中になって戦いの流れを見失うとは……不覚ですわ。
とは言っても、戒めの風矢をレジスト出来なかった以上、この捕縛状態から抜け出すことが出来ません。これで、明日菜が復活したら……。

「さぁて、華琳ちゃん?よくも、恥ずかしい目にあわせてくれたわね?」
「明日菜、いきなり元気よくなるなんて、調子良すぎない?」
「へぇ……私の足にキスしたら、許してあげようかと思っていたのに、そういう口の利き方するんだ?」

意趣返しのつもりなのか、明日菜は動けない私の顔の前に、足を差し出す。ふん、私がそんな要求に載るわけ無いじゃないですか。私が服従を誓ったのはお嬢様ただ一人。それ以外の人間の足にキスするなど、もってのほかですから。

「明日菜、なんだかんだ言って変態だよね……動けない私に、『足を舐めたら許してやる』なんて」
「華琳ちゃんには言われたくないわよ!!」
「えー、私が言った時、明日菜は束縛されてなかったじゃない?動けない私じゃ、選択肢が無いと思うんだけど?」
「うっ……」

明日菜が怯み、ネギ先生の集中が切れた、その一瞬。私は、ただ一人の従者をここに召喚する。この束縛を破り、無事にこの局面を切り抜けるためには、彼女の力が必要だからです。……私の失敗なんですけどね、どう考えても。

「『召喚・西園寺瑞葉』!!」
「あっ、しまった!」

ネギ先生が叫ぶも時既に遅し。束縛された私の傍らには、体操服に身を包んだ瑞葉が召喚されました。最初の内は、状況が把握できていなかったのでしょうが、私の姿を見て直ぐに状況を把握したのか、瑞葉は、何か黒いオーラを見にまとってネギ先生と対峙します。

「華琳様を辱めたその罪、近い内に裁いてやります!ネギ・スプリングフィールド、神楽坂明日菜。楽しみに待ってなさい」
「瑞葉、一端退かせて……」
「はい、華琳様!」

召喚したての瑞葉に、移動用の呪符を使用させて、私達はお嬢様の家へと瞬間的にテレポートをすることになりました。
それにしても、明日菜。私に、『足を舐めろ』ですって……?
その言葉をはいたこと、後悔させてあげるわ……。



後書き

どうも、家の中で電化製品をフル稼働していると、暑さも寒さも分からなくなることに気がついたルミナスでございます。今回も読んでいただけて、非常に嬉しく思います。

原作で言えば20話の話になりますが、襲撃対象を茶々丸から華琳に変更した為、かなりのオリジナルストーリーになっています。ある種、明日菜にはトラウマが埋め込まれたのではないでしょうか。最後の最後には強がって見せていますが。

そして、遂に華琳の本領発揮……といったところでしょうか。明日菜を責めている最中、きっと恍惚の表情を浮かべていることでしょう。どう考えても、エヴァよりもヤバイ思考の持ち主です。
それと、瑞葉が『かけてください』と頼んだ技シリーズは今後も続くかもしれませんし、続かないかもしれません。全ては、華琳次第……といったところでしょうか。
……このままいくと、華琳、逮捕されるんじゃなかろうか。

さてさて、次回もまた読んでいただけることを願い、この場の別れの挨拶にしましょう。
それでは、また次回もよろしくお願いしますね。

〈続く〉

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