第一話:忠誠心は鼻から出る?

―麻帆良学園・桜通り―

「出席番号27番、宮崎のどかか……。悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ」
「そういうことなの。ごめんね、のどか」

満月の夜の桜通り。つい先日もまき絵から血を分けてもらったお嬢様は、今日も今日とて血を求めてこの場所に出没します。それにしても、まき絵の一件でネギ先生にばれてしまったようですが……大丈夫でしょう。お嬢様のことですから。

「ふぇ……か、華琳?」
「えぇ、私は月夜華琳よ。今日は、図書館探検部のではなく、お嬢様の僕として……だけどね」
「お嬢様って……?」
「のどかは知らないでいいのよ。さ、お嬢様に血をよこしなさい」

いつもの制服ではなく、メイド服を着込んでいる私にびっくりしているのか。それとも目の前に、桜通りの吸血鬼一行がいることに恐怖しているのかは分かりませんが、少なくとものどかが動くことが出来ないのは間違いないようです。

「お嬢様、獲物は動けないようですので、どうぞ心行くまでご堪能下さい」
「……私は女、子供は殺さない主義だと忘れたのか?」
「覚えておりますよ、えぇ」

近付いてくる『吸血鬼』に恐怖し、ただ悲鳴を上げるだけとなったのどかの首筋に、お嬢様の牙が近付く。しかし、もう少しで血を吸える距離になったところで、思わぬ邪魔が入ってしまいました。

「僕の生徒に、何をするんですかーっ!」

その声とともに、魔法の矢が何本か飛んでくる。お嬢様とのどかに傷があっては困りますので、私はふらりと二人の目の前に立ち、同種の魔法でそれを相殺します。

「ネギ先生、夜分遅くまでお勤めご苦労様です」
「いえいえ、そんなことないですよ……って、何をしているんですか月夜さん!」
「見て分かりませんか?お嬢様のお食事を用意したところなんですけれども……」

私は言葉とともに、視線で私の後ろを指し示す。その先には、今にも血を吸おうとしているお嬢様と、恐怖で気絶してしまったのどかが映っています。

「ふん……遅かったじゃないか」
「あなたは、エヴァンジェリンさん!」
「餌に釣られて、大きな獲物がかかりましたが、お嬢様。こちらから料理するといたしますか?」
「いや、私が相手をする。華琳、手は出すなよ」
「かしこまりました」

私は、お嬢様の言葉どおり、一歩お嬢様より後ろに下がります。ネギ先生、お嬢様を敵に回したお父上を恨んでいただけたら、と思います。

「新学期に入ったことだし、改めて歓迎のご挨拶といこうか、先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。10歳にしてこの魔法……流石は奴の息子だけある」
「な……何者なんですか、あなた達は!?僕と同じ魔法使いなのに……」
「この世には、悪い魔法使いもいるんですわ、先生」

『氷結・武装解除』

お嬢様の魔法が、ネギ先生に命中しますが、流石は英雄の息子。それをきちんとレジストしてきました。しかし、この魔力で10歳とは計り知れませんわね。

「お嬢様、神楽坂明日菜と近衛木乃香が近付いていますわ」
「ふん、一端退くか……」
「かしこまりました」

一般人の前で、しかも学園長の孫の前で魔法を使えば、私達の行動が筒抜けになってしまう……というより、学園長との契約を反故にするわけにはいきませんからね。
案の定といいますか、その場をなんとかして取り繕いで来たであろうネギ先生を尻目に、お嬢様と私は、ホウキなどの空を飛ぶ道具を用いずに、闇夜へと飛び立ちます。

「待ちなさーい!仕方ありません……ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『風精召喚!剣を執る戦友』!」
「実力行使か、先生?生徒に手を出すとは先生失格だな」
「お嬢様、辛そうですけれど、本当に手を出す必要は無いのですか?」
「あぁ、大丈夫だろう……」

右から左から、上から下から、様々な角度から迫ってくるネギ先生の召喚した『風精』。魔力の戻らないお嬢様が相手をするのには、少々辛いでしょう。結局、私がお嬢様と対峙した時も、茶々丸がいなければ私が勝っていたでしょうから、呪いの効果は絶大、ということなのでしょう。

「追い詰めた!これで終わりです! 『風花・武装解除』!」

周囲を浮かぶダミーに気をとられすぎたのか、お嬢様はネギ先生の放つ魔法を正面から受けることになってしまいました。勿論、レジストも無し……です。
あぁ……お嬢様のマントが吹き飛ばされ、綺麗な素肌が現れましたね。

「ネギ先生、そのままお嬢様の下着まで吹き飛ばして下さい!」
「止めんか、華琳!取り敢えず、鼻血を拭け!」
「もっ、申し訳ありません!お嬢様を辱めたいと思いましたら、つい……」
「……そうだった、お前はそんな性格だったな」
「と、取り敢えず僕の勝ちですよね!」

話の流れに、完全においていかれてしまったネギ先生。お嬢様の素肌の露出に、危うく出血多量で倒れそうになった私と、元気のない顔をするお嬢様。この状態で、ネギ先生が私達の話を理解できるはずもありませんね。と、言うよりも、10歳でこんな話についてこられたら私が困ります。年端も行かない子供に『月夜さんって、こんな性癖があったんですね』なんて言われたら、とても恥ずかしいじゃないですか。

「……これで勝ったつもりなのか?」

お嬢様の言葉を合図に、屋根の上から茶々丸が降りてくる。いや、ここも屋根の上ですけれども。……さて、私も召喚するとしましょう。いつまでも茶番を演じる必要はありません。
ネギ先生には恨みはありませんけれども、私、男性には興味がありませんから、助命の嘆願なんてしませんよ?もし、目の前にいるのが美少女だったらしているかもしれませんが。

「では、私も……。 『召喚・西園寺瑞葉』!」

私が呼び出したのは、勿論むさ苦しい男ではなく、可憐な美少女。やっぱり、パートナーは美少女なきゃやっていけません!この前の一件で捕らえておいて正解でしたね。この娘、実力不足でしたけれど、鍛えれば相当化けるはずですから。

「紹介しよう。私のパートナー、3-A出席番号10番の絡繰茶々丸と、3-A出席番号32番の月夜華琳だ」

律儀にぺこりと頷く茶々丸と私。茶々丸は、いつでも動けるようにスタンバイしていますし、私は私でナイフを取り出せる体制ではあるんですが。

「そして、私のパートナーの二年生の西園寺瑞葉ですわ、ネギ先生」
「華琳様のパートナー、西園寺瑞葉です」

私の紹介に合わせてきちんと礼をする瑞葉。符術士の格好からメイド服に変えてから、もう暫くたちますので、それにも慣れてきたのでしょう。最初の内は抵抗していたのに、今ではメイド業をきっちりとこなせています。

「華琳様、完璧にこなせましたよ!」
「偉いわね、瑞葉。今日は、いつもよりも可愛がってあげるわ」
「あぁん、華琳様〜!」

つい一月ほど前までは敵だったはずの少女は、いまや私に懐いてくる……というか、寧ろ服従でもしてしまったかのように従順です。私も嬉しいですよ、瑞葉みたいな少女に懐かれているのは。

「申し訳ありません、ネギ先生。マスターの命令ですから」
「ネギ先生、お嬢様の命令ですから、諦めてくださいませ」
「私と華琳様の幸せな一時の為に、その血を分けてもらいます!」

三者三様に(瑞葉だけ明らかに間違った方向に気合を入れている気がしますが)宣言して、ネギ先生を羽交い絞めにします……茶々丸が。こうでもしないと、お嬢様が落ち着いて食事をすることが出来ませんものね。

「……悪いが、死ぬまで吸わせてもらう」
「うわ〜ん、誰か助けて〜!」
「ふふふ、そうですわ!もっと悲鳴をあげるのです!」
「華琳様、華琳様!あんな男の悲鳴ではなくて、私の声を聴いてください!」
「……そうでしたわ、今はネギ先生とお嬢様に集中しなくては……」

見ようによっては、下着姿の美少女が、美少年の首筋にキスをしているようにも見えなくもないこの状況。見る人によっては、勘違いを引き起こすかも知れませんね。

「この変質者ども!ウチの居候に何すんのよ!」

恐らく、その勘違いを引き起こしたであろう(勘違いというより、変質者は間違いではありませんか)明日菜が、どこからともなく跳び蹴りをかまそうとしていました。
……と言っても、お嬢様の魔法障壁に弾かれて、到達するはずもありませんが。

「はぶぅっ!」
「お嬢様!?」

そう、一般人の蹴りが入るはずが無かったのですが、入ってしまった以上、仕方ありません。私は、お嬢様の元に駆け寄り、立ち上がるために手をお貸します。

「明日菜、お嬢様に蹴りを入れるとは……私を怒らせたいらしいね!」
「か、華琳ちゃん……?それに、ウチのクラスの……」
「取り敢えず、お嬢様のお顔に傷をつけた明日菜には、相応のお仕置きが必要よね!」

そうです、お嬢様に蹴りを入れるなんて言語道断。キリスト教や仏教、イスラム教の神様が許そうとも、日本国憲法に許可と書いてあったとしても、私が許しません。
明日菜には、泣きたくなるような目に遭ってもらわないと。主に、私の手で。

「華琳ちゃん、鼻血出したまま、そんなこと言われても……」
「こっ、これは忠誠心ですわ。決して、涙目なお嬢様が可愛すぎて苛めたくなったのでも、明日菜にお仕置きをする想像をしていたのでもありませんわ!」
「華琳、主を苛めてどうするんだ……」
「そうです、華琳様!私がいるじゃありませんか!」
「あー、もしかして私、華琳ちゃんの秘密の部分を目の当たりにしてる……?」

隣でアウアウ言いながら茶々丸や私たちと距離をとるネギ先生を尻目に、対峙している敵同士とは全く思えない会話をしている気がします。なんて緊張感の無い……って、私が原因でしたね。

「取り敢えず、一端退きましょう」
「覚えておけよ、神楽坂明日菜!」
「瑞葉、例の符を!」
「はい、華琳様!」

瑞葉の発動させた呪符によって、私たちの姿が水の中に吸い寄せられていきます。簡単な転移魔法で場を退く際に聞こえたのは、明日菜の呆然とした声と、ネギ先生の耳をつんざくような悲鳴だけでした。


「あぁん、華琳様〜!」
「いい加減に離れなさい。眠れないでしょ、瑞葉」
「でもでも……可愛がってくれるって」
「……明日の授業に遅刻しない時間には眠るのよ?」

明日もお嬢様は授業をサボタージュするでしょうけれど……私はきちんと出席しますよ。だって、だって、大勢の美少女が待っているんですもの!



後書き

どうも、初めまして。コモレビ様の「木陰の庵」にて、夜に仕えるメイド長を書かせていただく、ルミナスと申します。以後、お見知りおきを。

吸血鬼であるエヴァンジェリンに仕える華琳。男性には興味ありません、美少女大歓迎をモットーにしている彼女は、エヴァンジェリンには一応の忠誠を誓っております。
裏切るわけではありません。彼女にとって、エヴァンジェリンもまたそういった対象なだけです。そういった感情を抱かなくなれば、本当の意味で忠誠を誓ったとこになるのではないでしょうか。

さてさて、エヴァンジェリンに仕える彼女がネギ一行と親しくなるきっかけは、どう考えてもここら辺からでしょう。男性に興味がない華琳がネギと仮契約するのかは分かりませんが……。少なくとも、エヴァンジェリンvsネギの決戦後は敵に回ることは無いでしょう。きっと。
まだまだ、エヴァンジェリン編は続きますよ〜。

では、女好き・華琳の特徴でも挙げて今回はお別れということにしましょう。

月夜華琳(つきや かりん) (15歳) 

身長:158cm 体重:男性には教えません。
スリーサイズ:87-62-91 
髪:黒色のロング。戦闘中はポニーテールにしている。
服装:制服、メイド服を主に着用。
必需品:ナイフ・パクティオーカード(自らのと、瑞葉の)。
見た目:少々おとなしい感じの少女。
内面:ヤバイ。結構ヤバイ。

それでは、また次回もお目にかかれることを願いつつ、お別れにします。
次回もよろしくお願いいたしますね。

〈続く〉

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