―麻帆良学園郊外―

二月も中盤を過ぎたというのに、まだ寒さが残る夜の闇の奥に、呪符を構えた呪術師や魔法使いが並んでいるのが見える。どうやら、お嬢様に危害を加えるようですね……。

「お嬢様、どうやらお客様が大量にやってきたようですが」
「ふん、麻帆良にいる間でも普通に客が来る……じじいは何をしているんだか」
「……いかがなさいますか、お嬢様」

私は、奥からこちらへと歩み寄ってくるお客様を目の端で捕らえ、胸元からナイフを取り出す。お嬢様が出すであろう命令は、「迎え撃て」であるはずだからです。

「……その『お嬢様』はどうにかならんのか?今年で二年目になるが、未だに慣れんぞ」
「申し訳ありませんが、「マスター』『エヴァンジェリン様』では私が呼びづらいので、ご容赦くださいませ」
「……まぁいい、迎え撃ってやれ」
「かしこまりました、お嬢様」

お嬢様のそばに茶々丸を置いて、私は単身お客様と対峙する。それと同時に、右手にはナイフを構え、左手の指には魔法媒体を装着し、お客様を歓迎する準備を整える。

「ようこそ、長旅お疲れのようですね」
「……メイドが何のようだ?」
「あら、従者の嗜みですわ。私は、皆様方を歓迎しに来たのですから」

佇む私を敵と判断したのか、敵のご一行は各々の武器を構えていますが……もう、遅いです。私は、手に構えたナイフを敵の魔法使いに投げつけると、即座に魔法を発動させます。
発動させたのは、『雷の斧』。魔法は前線を張る剣士たちを薙ぎ払い、五、六人を除いて全滅へと誘います。……事前に張っておいた、転移魔法陣の中に押し込んで関西呪術協会総本山に転移させただけですけれども。

「……他愛もないですわね。この程度の腕で、お嬢様に挑むなんて」
「ちっ!くたばりやがれ!」
「ですから、身の程をしりやがれ、です!」

折角無傷で帰る権利を手に入れたというのに、それを無碍に投げ出すなんて、なんて愚かなんでしょうか。十数人の集団に対しての私の奇襲攻撃で、お嬢様から魔力を供給されている私の力の片鱗は見えたというのに。
取り敢えず、突っ込んできた前衛の1人に膝蹴りを浴びせ、別の1人にそれを投げつけます。それを、私の能力『植物を操る能力』により大樹の根で捕えて残りは4人。

「……再生の徴よ……」
「……一条の光……」
「……闇を従え吹雪け……」
「遅いですわ!」

魔法の詠唱をしている女性西洋魔術師3人に真正面の周囲を疾走し、その間に魔法を完成させます。相手には私がどこにいるのか分からないでしょうから、狙いを設定できないようですね。全員が全員、一直線に放つ魔法を詠唱するからですわ。

「……紫炎の捕え手!」
「「「きゃぁああ!?」」」

西洋魔術師を捕えて、残りは齢14歳くらいに見える関西の呪術師が1人。仲間がやられてあたふたしているようで、どうすれば良いのか分からないのでしょう。……あたふたしている姿、可愛いわ。

「ふぇぇ……私一人じゃどうにもなりませんよぅ……」
「後は、あなたを片付けてお終いですね」

私は、あたふたしているその呪術師に跳び蹴りや膝蹴りを食らわせるわけでも、ナイフを投げつけるわけでも、魔法を発動させるわけでもなく。彼女に対して、ジャンピングヒップアタックを仕掛ける。こんな可愛い子が顔にぶつかった私の体重に耐えられるわけもなく、そのまま地面へと倒れこんでしまいます。

「むぐっ……んっ……!」
「んっ……暴れないでください!」
「むぐっ……くるしっ……!」
「ほら、皆様方!見逃してあげますから、さっさとお逃げなさいませ!」

呪術師の上にいる状態で、私は残りの5人を捕えていた拘束魔法を解除します。すると、彼らはこの呪術師を置いて、一目散に私から逃げていきます。

「片付いたようだな、華琳……って、どうしてそんな格好しているんだ?」
「あれです、捕虜ですわ」
「捕虜なら、そんな捕らえ方しないだろうが。また、可愛い子がいたとかっていつものか」
「この子は、今日から私の従者にするんです」
「……こんなサドで色魔で女好きに、もしも負けていたと想像するとぞっとするぞ」
「く……んっ!」
「あら、気絶しましたわ」
「全く……そいつを従者にしようが構わんが、さっさと戻るぞ」

私は、月夜華琳。吸血鬼、エヴァンジェリンに仕える忠実なるメイド長。……私ひとりしかメイドがいないなんてことはありません。先ほど一人就職が決まりましたから。

しかし、そんなお嬢様との日常は、新しい担任教師であるネギ・スプリングフィールドが現れたことによって、激変したのでした。

〈続く〉

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