二十一話『終電は割と乗客が多い』


 JR山陰本線は、嵯峨嵐山駅を通過して、京都駅へと向かっている。
 時刻は終電近くだが、平日にも関わらず乗客は皆無に等しい。
 仕事帰りのサラリーマンもおらず、揺れる吊革だけが車内に動きを生んでいる。
 そんな中、車内に新たに音が追加された。
 足音だ。
 足音は複数あり、高速で先頭車両へと向かっていく。
 先頭を行くのは、2m以上ある巨体だ。
 ただし、巨体は異様に頭部が大きく、大半を茶色の毛皮で覆われた体の後ろには長い尻尾が生えている。

「待て――!」

 後ろからの叫びに、肩越しに振り返れば、いくつか追ってくる影がある。
 影は3人。内の2人は下調べで情報を得ている魔法教師と、“お嬢様”の護衛役を担っている神鳴流の剣士だ。
 残り1人は情報にないが、年の頃からして生徒だろう。

 ……やっぱ、あの優男は魔法教師と違うんか……?

 そう思い浮かべるのは、背後の魔法教師と一緒に生徒を引率していた長身痩躯の男だ。
 以前調べた時点ではいなかった人物だが、ここまでの妨害でも目立った動きはなく、先ほどホテルですれ違った際にも挨拶をしただけで外へと出ていった。

 ……今もおらん所を見ると、ただの一般人かいな?

 それなら障害が一つ減ったと思い、とりあえずは目先の障害の対処にとりかかる。

「ほな、二枚目のお札ちゃん行きますえ」

 言って、天ヶ崎千草が肩に乗った小猿に取り出させたのは梵字の記された札だ。
 呪符は本来、その場に応じて即興で仕上げるタイプの方が汎用性が利き、使い勝手がいい。
 だが、それだと一筆加える手間がある上に、力を込める時間が短いため威力が低く、式神に守ってもらいながら時間をかけた上で少しでも威力の高い術を放つのが一般的だ。
 対して今取り出した符は、既に効果が限定されており、使いどころを選ぶが、

 ……威力はお墨付きですえ!

『お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす――!』

 言葉と共に生まれたのは、水の奔流だ。
 豪、という音を伴って電車の後部車両に向かって水が満たされ、

「うわーっ!」
「く……っ!」
「キャーッ!」

 三者三様の叫びを上げて、追っ手が瀑布に呑まれた。

「ほな、車内で溺れ死なんよーにな」

 水を放出し続ける呪符を捨て置き、千草は前の車両へと移った。










 水の中にいる。
 既に水は天井まで満たされており、身体は濁流に揉まれながら、車両の中ほどに浮いている。
 突発的な事態に満足な呼吸も出来ず、息苦しさが体内を渦巻く。
 ぼやけた視界の中では、自分と同じように水中に浮かんでいるネギと明日菜がいる。
 ネギとはホテルを出てすぐに合流出来たが、

 ……奈留島先生とは連絡がつかなくて……。

 別の方向からこちらを追いかけているかもしれないが、確証はない。
 既に誘拐犯は隣の車両に乗り込んでおり、追おうにも水の中では身体が重く、夕凪も満足に振るえない。

 ……やはり私は、まだ未熟者なのか……!

 自虐ともとれる思考に、一つの記憶がフラッシュバックした。
 それは幼い頃、川で溺れて自分に助けを求めた少女。
 自分はそれに応えようとして、

 ……私も溺れたんですよね。

 その時は屋敷の誰かに助けてもらったはずだが、重要なのはそのあとだ。
 彼女を護ると言った。
 もっと強く。彼女に危険を近付けさせないために強く。そして、

 ……“約束”を守るために強く――!!

 思いはそのまま動きとなる。
 座席の背もたれを足場に、前方へと蹴り込みを入れる。
 反動を推進力に、進行方向に対して全身を棒のように伸ばして抵抗を抑える。

 ……元から抵抗が少ないとかそんな事はありません。えぇ、ありませんよ!

 余計な思考を走らせながらも、刹那は既に鞘から引き抜いてある夕凪を構える。
 構えは抵抗の大きい斬りかかるものではなく、右手で胸の前に掲げ、柄尻を左手で包むようにすれば、

 ……突き――っ!

 最初に、刃がガラスを貫いた。
 中ほどまで刺さった刀身はガラスに蜘蛛の巣状のひびを生み、

「…………っ!」

 引き戻す動きで下に押せば、扉の構造材ごと縦に断ち割った。
 後は水圧に押されるがまま、扉が大量の水と共に隣の車両へと雪崩れ込む。

「あれーっ!」

 女性の悲鳴を聞きながら、刹那はようやく水中から逃れ、酸素を求めて息を吸う。
 それと同時、京都駅へと到着した電車のドアが開かれた。
 全員が転がり出るようにホームへ降り、刹那が正面でずぶ濡れになっている女へ言い放つ。

「見たか、デカザル女。嫌がらせは諦めて、おとなしくお嬢様を返すがいい」

 それに対して猿の着ぐるみを纏った女性、千草は、は、と息を吐き、

「――なかなかやりますな。……しかし、木乃香お嬢様は返しませんえ」

 再び逃走を開始した。










 京都駅前にて、明日菜はネギ達と共に誘拐犯と対峙していた。
 駅前は京都駅に対して半円状のホールとなっており、外側へいくほど階段で高くなっていく。
 猿の着ぐるみを脱ぎ、何かの制服姿となった誘拐犯はこちらから見て階段の上におり、木ノ香は腰に腕を回されて肩に担がれている。

「逃がしませんよ!! このかさんは僕の生徒で、……大事な友達です!」

 ネギが叫びながら取り出したのは、大剣を手にした明日菜が描かれた、タロットに似たカード。

『契約執行180秒間!! ネギの従者・神楽坂明日菜!!』

 呪文と同時、ネギからこちらへと光が流れ込み、

「――ん」

 と明日菜は口の中で声を漏らす。

 ……相変わらず慣れないなぁ。

 頭の芯が痺れるような感覚を振り払うように、力任せに前方へ跳躍する。
 それを契機に、横にいた刹那も疾走を開始する。

「そこのバカ猿女――ッ! このかを返しなさーい!!」

 階段を3段とばしで駆け上がり、誘拐犯との距離がぐんぐんと詰まる。
 そこで、一つの事に思い当たる。

 ……そういえば、どうやって助ければいいんだろう……?

 相手は当然迎撃を行うだろうし、それもネギの魔法みたいなトンデモ技を使うだろう。
 ちらりと横を見れば、刹那が身の丈程もある日本刀を振りかぶっている。
 対して自分は身体能力が上がっているだけで、まったくの手ぶらだ。

 ……こ、これは拳一つで勝ち抜けっていうこと!?

 それはよくない。ただでさえ日頃から口より手が出るイメージを持たれているのに、その上このまま戦えば、

 ……グラップラーキャラとして確立間違いなし!?

 そのように懊悩としている間に、誘拐犯との距離は半分ほど縮まっている。

『兄貴、アレだっ!』

「アスナさん! パートナーが使える専用アイテムを出します! アスナさんの
は“ハマノツルギ”、武器だと思います!」

「武器!? ――頂戴、ネギ!!」

 渡りに船とばかりに求めれば、ネギが再びカードを掲げ、

  ――能力発動・神楽坂明日菜!!

 直後、自分の右手に向かって風が生まれた。
 風には光が伴い、それが徐々に質感を持ち出す。

「き、来たわよっ。何かスゴそ……う?」

 風と光が収まり、手元に残ったのは、名前の通りの剣ではなく、白い板状の物を何層にも折り重ね、片側を縛って柄にしたいわゆる、

「――ハリセンじゃないのー!」

 あれー!? と、ネギの疑問の声が上がるが、それはこちらの台詞だ。

「ええーい、行っちまえ姐さん!」

「もーっ、しょうがないわね!!」

 もはややけっぱちな勢いで、ハリセンを大上段に、高く跳躍して振り下ろした。
 破裂音に似た快音が響き、振り下ろした先を見るが、

「うわ……! な、何コレ!?」

 さきほど誘拐犯が着込んでいたものより一回り大きい猿のぬいぐるみが、白羽取りをするように正面で両手を合わせている。
 もっとも、タイミングが合っておらず、ハリセンは額にめり込んでいるが。

「さっき言った、呪符使いの善鬼護鬼です!!」

 刹那の言葉に横を見れば、そちらでは熊のぬいぐるみのようなものが前足の爪で日本刀を受け止めている。

「ウチの猿鬼と熊鬼はなかなか強力ですえ。――ほなな!」

 そう言って、誘拐犯は木乃香を肩に担いだまま後退を始めた。

「ま、待ちなさいよ!! ……このぉ――っ!」

 制止の声を上げながら、手にしたハリセンに力を込める。
 直後、スポンジに針を刺すような手応えと共に、猿の頭部が破裂した。

「なっ……!?」
「……へ?」

 予想外の出来事に、誘拐犯と明日菜がそれぞれ疑問の声を上げる。
 猿は頭を起点に煙のように散り、数秒と待たずに消え失せた。
 その場にいた全員が沈黙をもたらし、一呼吸分の間を空けてから明日菜が口を開いた。

「……な、何かよくわかんないけど行けそーよ! そのクマは任せて、このかを!!」

 その言葉に身体を強張らせる熊と、頷きを返す刹那。

「すみません、お願いします!」

 言うが早いか、刹那は熊を回り込むよう水平に跳躍し、一息で階段を飛び上がる。
 それを背中から襲おうとする熊には、明日菜がハリセンを振り上げながら割り込んだ。

「このかお嬢さまを返せ――っ!」

「――はんっ。ナメるんやないで」

 裂帛の気合いを伴って、刹那が駆ける。
 対する千草は、猿鬼がやられた事に驚きつつもすぐに態勢を立て直し、懐から一枚の札を取り出した。

『お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす。――京都大文字焼き!!』

 札から生まれたのは、朱の光。
 轟、と音を立てながら、炎が蛇のようにうねり、広がった。
 階段を舐めるような炎に、刹那は正面から飛び込んでしまう形となる。

「うあっ――!」

「桜咲さん!?」

 明日菜が叫びを上げるが、加速のついた身体は易々とは止まらない。
 一瞬先の光景を予想して思わず目を逸らしてしまう。が、

『――来れ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を。――こおる大地!!』

 空から届いた声と同時、刹那の上半身がつんのめるように前へ傾いだ。
 しかし、全体を見れば刹那は炎の手前で急停止しており、

「これは……!」

 刹那の腰から下が、地面から発生した氷塊に呑まれていた。
 氷塊は階段を上るように広がり、迫る炎と衝突する。
 爆発的に発生した水蒸気は温い熱を持って広がり、辺りを白に染め上げた。
 その中に、一つの影が降り立った。
 影は着地した足ですぐさま跳躍、階段を低く飛び越える。
 迫ってくる何かに気付いた千草は、即座に動いた。

「今度はなん……」
『――魔法の射手・戒めの11矢!!』
「……やこれぇ――!?」

 しかし、呪苻を取り出した腕に、ネギの放った魔法の射手が蛇のように絡み付く。
 痛みはないが、圧迫感を持つそれは確実にこちらの動きを束縛している。
 そんな中、千草は目の前の水蒸気を割って現れる人物を見た。
 最初に見えたのは黒。
 少し湿り気を帯びたそれが髪の毛だと理解する前に、浴衣姿のその人物は、今
まで自分が肩に担いでいた“お嬢様”を抱き抱えていた。









 奈留島は木乃香を背と膝裏を支点に抱え、目の前の女性を見据える。
 年は20代後半といったところだろうか。外見の雰囲気だけを見るならば京美人
と評して差し支えないが、丸眼鏡の奥にある視線は嫌悪に染まっている。

「……やっぱりアンタも西洋魔術師やったんか。ずっと知らん顔しとった癖に、コスい真似をしよって」

 魔法の射手に縛られながらも、女性はこちらへと悪態を吐くのを止めない。

「それは今日一日の行いを振り返ってから自分に向けて言ってください。それより、猿を模した式神に“三枚のお札”、……天ヶ崎家と縁の方とお見受けしますが」

「あぁん? なんで西洋魔術師がウチの事知っとんねん」

 怪訝そうにこちらを睨む女性。
 それに苦笑で返し、

「こう見えて、情報のツテは多い方でして。……とにかく、このまま連行させて――」
「ざーんがーんけーん」

 奈留島の言葉を、あどけない少女の声が遮った。
 間延びした口調で放たれた声の源は上から。
 奈留島が見上げれば、フリルなどの装飾が多く付いた白のドレスを纏った少女が手にした二刀を振り上げ、

「――ッ!!」

 奈留島が飛び降りるように階段の下へ身を投げると同時、今まで立っていた地面が炸裂した。

「えっ!?」
「ルナ先生!!」

 状況が掴めていない明日菜とネギが叫びを上げるが、奈留島は木乃香を抱えたまま階段下の広場へ着地、

「――大丈夫ですよ」

 木乃香をゆっくりと床に下ろし、上体を自分の右腕に預けさせ、

「――皮一枚で済みました」

 左こめかみから頬にまで走る赤い線を指でなぞった。
 改めて階段の上を見れば、先の少女に札を貼られた女性が小さく呟き、身体を縛っていた魔法の射手がほつれ、空気に溶けるように消えていくところだ。

「――ふぅ。……遅いで、月詠はん」

 月詠と呼ばれた少女は、邪気のない笑みを浮かべて肩を竦める。

「堪忍なぁ、千草はん。待っとるだけなんも暇やから近くをフラフラしとったらコンビニに“餡蜜とスイカバー”の新刊があってな? 前回ええ所で引きよるからぁ痛っ」

 くねくねさせながら喋る月詠をゲンコツで止め、千草が新しい札を掲げて叫ぶ。

「今日のところはこの辺にしといたるわ。今度こそは“お嬢様”をいただきますさかい、あんじょう覚悟しとき」

「千草はん。それまんま三下の台詞で痛っ」

 月詠にゲンコツを振り下ろすのとは逆の手で、札から猿鬼を呼び出す。
 二人がそれぞれ肩に乗ると、猿鬼は大きく跳躍し、駅ビルの向こうへと姿を消した。
 それを契機に、場の空気が弛緩する。
 奈留島が細く長い息を吐くと、背後から足音が二つ。

「このかー!」
「ルナ先生、大丈夫ですかー!?」

 ネギ達の呼びかけに、安堵の表情で振り返ると、

「……あ」

 腰まで氷づけになった刹那がこちらを睨むような目つきで見ていた。










「……大丈夫、ただ寝てるだけです」

 その言葉に、木乃香の意識がゆっくりと覚醒する。

「――ん」

 むずがるように身をよじらせ、わずかに目を開くと、

「このか!」
「このかさん!」
「お嬢様!」

 聞き知った声がこちらを呼びかけているのが聞こえる。
 胡乱げに視線をさ迷わせると、一番近くにいる、こちらを覗き込むようにいた顔と目が合った。
 ぼやけた視界と意識の中、目の前にいる人物を記憶から引き出す。

「……るー、ちゃん……?」

 そう呟いた瞬間、目の前の人物が息を詰まらせるのを認識した。
 しかし、その緊張はすぐに掻き消え、

「……近衛さん、おはようございます」

 穏やかな声がこちらに向けられた。
 徐々にはっきりとしてきた視界に写るのは、何かに安心したような笑みを浮かべる明日菜達と、

「……はれ? ルナ先生?」

「はい、近衛さん。」
「お嬢様!!」

 そう割り込んでのは、傍らにしゃがみ込んだ刹那だ。
 まだ焦りの残るその顔を見て、木乃香は記憶に新しい体験を紡ぐ。

「せっちゃん。……ウチ、夢見たえ。変なおサルにさらわれてな。……でも、せっちゃんやネギ君達が助けてくれるんや」

 刹那は驚いたように目を見開き、そして、

「……もう大丈夫ですよ、このかお嬢様」

 微笑を浮かべて、そう告げた。
 そこから、いくつかの事実を確信する。
 それは、先ほど見た内容が夢ではないことと、刹那が自分を助けてくれたこと。そして、

「よかったぁ。……せっちゃん、ウチのコト嫌ってる訳やなかったんやなぁ」

「――え。そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し――ッ! し、失礼しました!」

 せっちゃん? と呼び止めるが、バネ仕掛けの人形のように跳ねて距離をとった刹那はその場でしゃがみ込んでしまい、

「私はこのちゃ……お嬢様をお守りできればそれだけで、いやそれもひっそりと
陰からお支えできればそれであの……御免!!」

 まくし立てるようにそれだけ言うと、そのまま翻って走り出してしまう。
 かなりの速さで離れていく刹那に対して、す、と踏み出す人物がいた。
 明日菜だ。

「……桜咲さーん! 明日の班行動、一緒に奈良回ろうねー!!」

 明日菜の声に一旦立ち止まり、しばし躊躇ってから小さく頷きを返し、再び走り去る刹那の後ろ姿を木乃香は見送る。

 ……そっか、明日もせっちゃんと一緒におれるんやね……。

 内心でそう安堵するのもつかの間、

『――眠りの霧』

 奈留島が何かを呟き、直後に木乃香は意識を再び手放した。










 明日菜は再び眠りに落ちた木乃香を、奈留島が俗に言うお姫様だっこで抱き上げるのを見ていた。

「――さて、それじゃあ近衛さんが寝ている間にホテルまで戻りましょう。……もしかしたらみんな夢だったと思うかもしれませんしね?」

 そう言って奈留島が歩きだすと、すぐ後ろにネギが着いていき、明日菜もそれに従った。
 斜め後ろから見る奈留島の横顔には、こめかみから頬にかけて縦の線が走っているが、

 ……もう血が止まってる……?

 見た目の割に傷が浅かったのだろうか。そんな事を思うが、それよりも気になる事柄について尋ねるため、明日菜は口を開いた。

「ねぇ、ルナ先生」

「……なんですか? 神楽坂さん」

 若干、声色が硬く感じるのは自分が立ち入った事を訊こうとしているからだろうか。

「……“るーちゃん”って、ひょっとして先生の事なの?」
「そうですよ」

 やや躊躇ってからの問いに即答で返され、明日菜は一瞬固まってしまう。

「……え?」

「ルナだからるーちゃん、そう呼ばれていた時期が僕にもありました」

 続けられた言葉に、からかわれていると思った明日菜は眉を立て、

「……ちょっと、真面目に答えないと怒るわよ!?」

 怒声を浴びせると、奈留島は横顔に苦笑を浮かべ、

「……その内に話しますよ。その内に、ね」

 その前に、と奈留島が立ち止まると、

「……どうやって帰りましょう?」

「……は?」

 明日菜があげた疑問符に、奈留島は両腕が塞がっているので顎で指し示す。
 そちらを見やれば、改札の前には刹那が立ち尽くしており、その前には看板が立っている。

『車両事故のため、全線運転見合わせ』

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 改めて合流した刹那を含めた4人が、一様に沈黙する。
 あ、と最初に声を上げたのは明日菜だ。

「――んのデカザル女ぁーーっ!!」

 腹の底から放った叫びは、深夜の京都によく響いた。










あとがき
どうも。小学生の頃に猿に噛まれて以来、猿に好印象が持てないさかっちです。
というか、基本動物好きなのに動物達がこちらを嫌うという。ううむ。

とまぁそんなところで。ではまた次回ー。

〈続く〉

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