十五話・決着


 エヴァンジェリンは、地面に描かれた複雑な紋様から、帯状の光が吹き出すのを見た。

「これは……捕縛結界!?」

 仕組みを看破するのは一瞬。しかし動くより早く、光が縄となりエヴァンジェリンと茶々丸の手足を絡めとる。

「や……ったー! ひっかかりましたねエヴァンジェリンさん!?」

 そんな二人の前を、跳ね回らんばかりの勢いで動くネギが満面の笑みを浮かべた。

「これで僕の勝ちです! もう悪いこともやめてくださいね!?」
「……やるなぁ坊や。感心したよ」

 意外、という思いと共に、偽りない感想が口から零れた。
 保身ばかりの作戦かと思っていたが、

 ……裏ではしっかりと牙を研いでいたか。

 意識するでもなく、自然と口角が持ち上がり、

「フ……アハハハ!」

 笑い声が喉から吐き出された。
 予想外の反応に、ネギが唖然としていたが、すぐに気を取り直し、

「な、何が可笑しいんですか! この結界にハマれば、簡単には抜け出れないんですよっ!?」

 ネギの言葉に、エヴァンジェリンは笑いを落ち着けるために深呼吸を一つ。
 応える表情は、捕らわれる前と変わらぬ悠然としたものだ。

「そうだな。本来ならばここで私の負けだろう。――茶々丸」
「ハイ、マスター。――結界解除プログラム始動」

 言葉と共に、茶々丸の耳に付いているアンテナが展開し、駆動音が響く。
 続いて、自分達を縛しめる光の縄に亀裂が生じた。

「な、……えっ!?」
「15年の苦汁をなめた私が、この類の罠になんの対処もしていなかったと思うか?」

 拘束力が弱まると、エヴァンジェリンは引きちぎるように全身を前へ。
 ガラスが破砕するような音を立て、捕縛結界が消失した。

「――ほら、このとおりだ」
「えっ、……そんな、ずるいッ」
「科学の力って奴さ」

 ……私も詳しくは分からんが。

 内心で呟き、更に一歩踏み出す。

「さあ、……どうする?」
「っ……ラス・テル――あぅっ!!」

 エヴァンジェリンの挑発的な態度に、ネギが再び杖を構えるが、詠唱するより早く茶々丸が杖を取り上げた。
 それをエヴァンジェリンが受け取り、

「フン、……奴の杖か」

 苦虫を噛み潰したような表情で一瞥すると、おもむろに川へ向けて放り投げた。
 あ、と茶々丸が声を上げ、

「ああっ!!」

 ネギが杖を追うように橋の欄干まで走る。
 しかし、欄干を大きく越えた杖は水音を立てて川へと落ちた。

「ひどいー! あれは何よりも大切な杖なのに……!!」

 ネギは大粒の涙をこぼしながらエヴァンジェリンに駆け寄った。
 ただ腕を振り回すだけのネギを、茶々丸がリーチの差を活かして押さえる。

「ひどいですエヴァさん! 本当なら僕が勝ってたのに……、一対一でもう一回勝負してくださいー!!」

 ネギの言動に、エヴァンジェリンは先ほどまでの高揚が急速に冷めていくのを感じた。
 そして高揚が抜け落ちて空いた部分に、代わりに苛立ちが溜まっていく。
 とりあえずのはけ口として、目の前で泣き喚くネギに平手を打ちこんだ。

「一度闘いを挑んだ男がキャンキャン泣き喚くんじゃない!! この程度でもう負けを認めるのか!? ――お前の親父ならこの程度の苦境、笑って乗り越えたものだぞ!!」

「う……」

 エヴァンジェリンの喝に、ネギが目に見えて萎縮する。
 それを見て、エヴァンジェリンは僅かに笑みを浮かべ、

「――だが、今日はよくやったよぼーや」

 一人で来たのは無謀だったがな、と付け加え、エヴァンジェリンは牙となっている犬歯をむき出しにする。

「さて、……血を吸わせてもらおうか」
「あの、マスター。ネギ先生はまだ10歳です。……ですから、あの」
「心配するな。……あまりひどいことはせん」

 少しならするんですか!? という疑問がネギの顔にありありと浮かぶが、エヴァンジェリンは無視。
 その首筋に歯を突き立てようとするが、割り込む声があった。

「コラーッ! 待ちなさいーっ!!」

 アスナだ。










 アスナは、正面から茶々丸が接近してくるのを確認した。
 技量の違いは先日の一件で自覚している。ましてや今回は魔力供給もない。

 ……このままじゃネギの所まで行けないわね……。

 思い、アスナが叫ぶ。

「――カモ!!」

『合点、姐さん!』

 叫びに、肩の上に乗るオコジョ妖精が応えた。
 その手には100円ライターと、ロール状に巻かれた銀色の物体がある。
 ロールの側面には、マグネシウムと記されており、

『オコジョフラッシュ!!』

 引き出したマグネシウムに火を灯すと、科学反応による閃光が発生した。
 照度の極端な変化に、茶々丸が一瞬硬直する。
 ごめん、とアスナは茶々丸の横を抜け、前へ伸びた自分の影を踏むように疾走。
 影の先にいるのは、橋の欄干に押し付けられたネギと、それに覆い被さるような姿勢のエヴァンジェリンだ。
 走る勢いをそのままに、アスナは右の跳び蹴りを放った。
 それを見たエヴァンジェリンは、光を宿した右手をかざし、

「フン、たかが人間じゃ私に触れることすら――」

 ご、と鈍い蹴音が響いた。
 綺麗に左頬へ入った左脚で、アスナは地面を削るように円を描く。
 コマのようなスピンターンで、座り込んだままのネギを視界に捉えた。

「あぷろぱぁっ!?」

 背後でバウンドする音と共にエヴァンジェリンが奇声を上げるが、無視して疾走を再開。
 レスリングのタックルのような動きでネギを掬い上げ、肩に担いだまま橋の中央に立つ支柱の影へ身を隠した。
 どこだ!? という叫びが、柱越しに橋の上から聞こえた所で、

「――ふぅ」

 アスナは深く一息ついた。
 横では、俯き気味のネギが目に涙を溜めている。

「アスナさん、ゴメンなさい。僕、アスナさんに迷惑かけないように一人でがん
ばったのに……ダメでした」

 その言葉に、アスナは苦笑を浮かべながら、

「――バカ」

 手の甲でネギの頭を小突いた。
 あた、と小さく声を上げ、ネギが頭を押さえる。

「ガキがこんな所で意地張ったってカワイくないのよ」

 いい? と、眉尻を上げた笑みに変えたアスナが言う。

「この場合はね、私が来たくて助けに来たんだから迷惑でも何でもないの! ホラ、協力するからチャッチャと問題児をどうにかするわよ!」
「で、……どーすんの、ネギ?」

 問いに反応したネギの表情には、先ほどまではなかった強い意志が宿っていた。
 ネギは拳を握りしめ、

「……お願いします、アスナさん! 僕、――あの人に勝たなきゃっ」
『そーこなくっちゃ、兄貴!! では姐さん!!』

 ネギの言葉に、足下のカモが待ってましたと言わんばかりに動き出した。
 せわしなく動くカモの後には、チョークで複雑な模様が描かれており、そこから淡い光が生まれる。

「む……まぁ、この場合は仕方ないわよね」

 アスナはこれから行う事を改めて思い直し、

 ……めちゃくちゃ気恥ずかしいわね……。

 自分の顔が熱を持つのが分かるが、それを誤魔化すように言葉を放つ。

「じゃ、ネギ、――いくからね」
「え……?」

 何を、というネギの言葉を、アスナが唇で塞いだ。

「? ……な、ななな何するんですかアスナさんーッ!?」
「あー、いや、ごめん。……あ、でも大丈夫。あんたガキだし、今のはカウントしないから」

 頭を掻きながら軽い謝罪を入れるとネギは、え、と声を出して硬直した。

『兄貴、おでこにキスじゃ力が中途半端なんだよ。でも今回は俺っちが姐さんに頼み込んでちゃんとキスしてもらったからいけるぜ!!』

 行くぜ、とカモが手に持ったチョークで最後の一筆を加え、

『――契約更新!!』

 叫ぶと同時、光が倍加し、視界が白一色に染まった。










 突如発生した光に、空中から探していたエヴァンジェリンは即座に反応した。

「むっ……そこか!?」

 光が収まり、そこにはネギとアスナの二人が立っている。
 先ほどまでの弱気な表情とは一転して、ネギのそれはこちらを真っ直ぐに見据えている。

「ふふっ……。ぼーや、お姉ちゃんが助けに来てくれてホッと一息か?」
「何言ってるのよ! これで2対2、正々堂々互角の勝負でしょ!?」

 そうだな、とエヴァンジェリンが茶々丸を伴い地面に降り立つ。素足に伝わるアスファルトの冷たさが心地よい。

「パートナーも揃って、ようやく正当な決闘という訳だ。――だが、坊やは杖なし。貴様も戦いについては全くの素人だろう」

 ……しかし、神楽坂明日菜。奴は一体……?

 思い、エヴァンジェリンは自分の頬をさする。
 アスナに蹴られた場所に、わずかな鈍痛が響く。

「……茶々丸、神楽坂明日菜を甘く見るな。意外な難敵かも知れん」
「ハイ、マスター」

 茶々丸の回答は簡潔で、それに従者としての頼もしさを覚える。
 改めて、エヴァンジェリンがネギを正面に見て、微笑を浮かべる。

「――行くぞ。私が生徒だということは忘れ、本気で来るがいい。ネギ・スプリングフィールド」
「……はい!」

 力強く応え、ネギが手に持つカードを高く掲げた。

契約執行(シム・メア・パルス)90秒間!! ネギの従者(ミニストラ・ネギイ)、神楽坂明日菜!!』

 アスナに魔力が行き渡ると同時、戦闘が開始された。

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!』
『ラス・テル・マ・スキル・マギステル!』

 エヴァンジェリンとネギが始動キーを唱え、茶々丸とアスナが前へと飛び出す。
 従者二人が交錯する中、ネギが取り出したのは先に星の飾りをつけた、伸縮式の杖だ。

「――ハ。何だそのカワイイ杖は!? ……喰らえ!」

  ――魔法の射手(サギタ・マギカ)氷の17矢(セリエス・グラキアリース)!!

 エヴァンジェリンが放射状に打ち出した氷塊はネギへ向かって軌道修正を行い、

『っ! ――魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)雷の17矢(フルグラーリス)!!』

 それを、ネギが放つ雷光が迎え撃った。

「雷も使えるとはな!! ――だが詠唱に時間がかかり過ぎだぞ!!」

 言って、エヴァンジェリンは再び詠唱を行う。

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!! 闇の精霊29柱(ウンデトリーギンタ・スピリトウス・オブスクーリ)!!』

 跳ね上がった数量に、ネギが驚きを露わにしつつも、応じて詠唱を始めた。

『な――!? ラ、ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 光の精霊29柱(ウンデトリーギンタ・スピリトウス・ルーキス)!!』

『――魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)闇の29矢(オブスクーリー)!!』
『――魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の29矢(ルーキス)!!』

 両者が放つ白と黒の光が激突し、破裂音の重奏と共に豪風が生まれる。

「く――っ!」
「いいぞいいぞ、よくついて来たな!!」

 風圧から逃れるように飛び立つエヴァンジェリンが楽しげに笑い、ネギを見下ろす。
 すると、対するネギから放出される魔力が増大したのを感じ取れた。

 ……とっておきか? ぼーや。

『ラス・テル・マ・スキル・マギステル!! 来れ雷精、風の精(ウエニアント・スピーリトウス・アエリアーレス・フルグリエンテース)!!』

 ネギが唱えたのは、魔法の射手より数段上に位置する魔法のものだ。
 まだ10歳の少年が使える、その才覚に驚きもあるが、自分の脅威となるには程遠い。

 ……だが、まぁ付き合ってみるか。

『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!! 来れ氷精、闇の精(ウエニアント・スピリートウス・グラキアーレス・オブスクーランテース)!!』

 エヴァンジェリンが唱えたのは、系統こそ違うが、威力がほぼ同程度の魔法だ。
 え、とネギは驚きの声を上げるが、すぐに取り直して詠唱を紡ぐ。

雷を纏いて吹きすさべ、南洋の風(クム・フラグテイオーネ・フレツト・テンペスタース・アウストリーナ)
闇を従え吹雪け、常夜の氷雪(クム・オブスクラテイオーニ・フレツト・テンペスタース・ニウアーリス)

 大きくテイクバックした右腕には、久しく感じてない多量の魔力が宿っている。

 ……来るがいい!!

『――雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)!!』
『――闇の吹雪(ニウイス・テンペスタース・オブスクランス)!!』

 夜の空に、竜が二匹生まれた。
 地面から駆け上る白の竜と、空から逆落としに降る黒の竜だ。
 双方がぶつかると、互いを呑み込まんと高音を立てて軋みを上げ、拮抗した。
 その拮抗を、小さな音が崩した。

「――クシュン!」

 ネギのくしゃみだ。
 その拍子に、風属性の武装解除魔法が放たれた。

「……は?」

 魔法の大部分が相殺される中、上乗せされた武装解除の魔法だけがこちらへ向かう。

「な、……何!?」

 避ける間もなく、エヴァンジェリンが風の球へと飲み込まれた。










 茶々丸とアスナの戦闘は、ど、という重低音に遮られた。

「ネギ!?」
「マスター……!」

 二人が同時に音源へ振り返れば、そこには膝をついたネギと、

「……やりおったな、小僧」

 全裸となったエヴァンジェリンがいた。

「あ、あわっ、脱げッ……!?」
『やったぜ兄貴! あのエヴァンジェリンに打ち勝ったぜ!?』

 ぐ、とエヴァンジェリンが歯噛みしながら睨みつけると、カモはすぐにネギの後ろへと隠れた。

「……だが、まだ決着はついていないぞ」

 あの格好で言われてもなー、と横でアスナが呟くが、茶々丸は戦闘に支障はないと判断。
 再びアスナへ向き直ろうとするが、思考領域に届いた信号に、茶々丸が反射的に叫ぶ。

「――いけない、マスター! 戻って!!」

 直後、橋の頂上部に設置されたライトが光を取り戻した。

「予定より7分27秒も停電の復旧が早い!! ……マスター!!」

 言ってる間に、街の中心部から加速度的に照明が増えていく。

「ちっ! いい加減な仕事を――!」

 悪態を吐くより早く、雷のような白の光がエヴァンジェリンに叩きつけられた。

「――きゃ!」

 短く悲鳴を上げ、エヴァンジェリンが力無く落下を始めた。

「マスター!!」

 茶々丸は即座に各部のバーニアを展開。噴射音と共に前面へGがかかった。
 しかし、エヴァンジェリンの姿は既に手すりの向こう側へと消えていく所だ。

 ……間に合わない!!

 機械としての正確な計算が、数秒先の未来を推測する。
 初動が遅れた自分では、救出が可能な範囲に到達する1.3秒前にエヴァンジェリンが水面へ到達してしまう。
 また、一定以上の高度から水面へ落下した場合、水はコンクリートと同じ硬度を持つ。
 結論として、骨折以上の重傷は免れない。
 救出が可能なのは、既に自分以上の加速を実行している人物のみと判断するが、アスナは状況が飲み込めず立ち止まっており、ネギは走行しているが加速が足りない。

「――マスター!!」

 それでも、計算を否定するように茶々丸は叫んだ。すると、

「お――!」

 背後から、声が聞こえた。
 声はやや高めな男性の物で、位置は茶々丸の斜め上空5mだ。
 その声が、数秒を待たずに自分を追い越した。
 声の主は頭を下に、水泳の飛び込みに似た姿勢でエヴァンジェリンを追い、下へと加速していく。










 エヴァンジェリンは、全身を弛緩させた状態で落下していた。
 久しぶりの多量な魔法行使の直後に魔力を封じられ、抗う程の余力はなかった。

 ……前にいたな。こんな状況から私を助けたバカが……。

 思い出すのは、白のローブを身に纏った赤毛の青年だ。
 言動から才能まで全てが破天荒で彩られた青年は、自分を軽くあしらい、この地に縛り付けてどこへともなく行ってしまった。
 たった一言を残して。

 ……光に生きてみろ、そしたら呪いを解いてやる、か。

 最初の3年は過ぎるのが早かった。
 しかし奴は来なかった。
 次の3年は、恨みつらみを叩きつけるために待った。
 長かった。が、奴は来なかった。
 次の次の3年は、怒らないから早く来いと願った。
 とても長かった。それでも奴は来なかった。
 そしてもう、待つのは止めようと思った。

 ……嘘つき。

 ぐっと目を瞑り、来るべき衝撃に備えた。
 根本的な部分で不死者ではあるが、痛みは堪えなければならない。
 長年の経験で、覚悟を決めるのには半秒とかからない。しかし、

「お――!」

 覚悟を邪魔するように、男の声が降ってきた。
 薄く目を開けると、滲んだ視界に近づくように落下する人影がある。

 ……ナギ……?

 影はこちらの右腕を掴み、引き寄せると、こちらの顔を自分の胸に押し当てるように抱きかかえた。
 続いて、男の声が変わった。
 叫びから、詞へと。

『マイ・フォース・トゥ・マイ・プロミス! 氷の精霊31柱、集い来たりて(トライギンター・エト・ウーヌス・スピリトウス・グラキアーレス・コエウンテース)――』

 声は落下で生じる風の中でもよく通る、澄んだ発音をしていた。

『――魔法の射手(サギタ・マギカ)収束(コンウエルゲンテイア)氷の31矢(グラキアリース)!!』

 詞が生み出した氷の群は、水面の一点を目指して落下した。
 出来上がるのは、川に浮かぶ流氷だ。
 影はエヴァンジェリンを抱きかかえたまま、流氷へと降り立つ。
 落下の勢いを膝を曲げて殺し、大きく吐息を漏らし、

「――ケガはないですか? Miss.マクダウェル」

 奈留島 留那がこちらへ微笑を向けた。

「――――!!」

 まずい。
 何がまずいかは分からないが非常にまずい。
 頭に血が上り、顔が朱に染まるのが分かる。まるで、

 ……色恋に狂った小娘じゃないか!!

 待て、と自分の思考に抑制をかける。

「……これはあれだ。立場上敵である人物に助けられた事によってプライドが刺激されているんだそのはずだそうに違いないそうに決まっている」

 頭を抱えてブツブツと喋り始めたエヴァンジェリンを、

「……あのー、Miss.マクダウェル?」

「な、なんだ!?」

 勢いよく問い返すエヴァンジェリンに、奈留島は少し仰け反るが、気まずそうに顔を逸らしながら、

「……凄い格好ですよ、貴女」

 言われて見下ろすと、贔屓目にも豊かとはいえない自分の裸体が、奈留島にだき抱えられている。
 な、という声をあげてエヴァンジェリンは慌てて奈留島の腕を振り払い、膝を閉じ、身体を抱いた。

「み……、見たな!?」

「まあ落ち着いてください。僕は昔から思っていたのですが、どうも世の中というのは急ぎすぎているように思えます。何事も早く安く上手く、と」

 吐息。仰々しく肩をすくめて、

「――そこの所、どう思いますか?」
「知るかぁー!!」

 間髪入れずにエヴァンジェリンは平手をぶちかました。










あとがき

 (更新が)遅くなるのね……自分でも分かる。

 どうも、さかっちです。

 ようやくエヴァンジェリン編が一段落ついた……かな?

 この分だと修学旅行編は何話かかることやら。


 それはそうと。

 奈留島の始動キーが登場致しました。

 韻を踏むためだけに作った「救命阿」並に嘘っぱちな英語ですが。

 とまぁそんなところで。ではまた次回ー。

〈続く〉

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