じいちゃん、ばあちゃん、それとヌイ。

 俺は毎日元気にやっています。けど、苦労が絶えません。

 なんでなんだろう。人生って書いて、くろうって読むのか?

 …ネギが、俺のご主人であり弟でもあるネギ・スプリングフィールドが、ウチの生徒達の中でもワーストファイブに入る連中を連れて行方不明になりました。

 期末試験で最下位になると小学生からやり直しなんて噂を聞いて、死ぬ気でやっても間に合わないからと図書館島にある魔法の本をとりにいったらしいです。

 あ〜……あいつらのことは後回しにしよう。学園長が余計なことをやったらしいから。帰ってきたら覚えてろよ。

 とりあえず問題は、クラスの中でも比較的勉強が出来なさそうな……ザジさん、刹那さん、それに茶々丸とエヴァンジェリンさんかな。

 前回の成績だと、かなり酷かったみたいだし。

 今度のテストは波乱がおきそうだ。刹那さんは夜、帰ってから集中勉強させられる、かな? うん、そうしよう。ザジは…明日学校で予定を聞かないと。

 後の二人は、寮じゃなくて別のところにすんでるんだよな。

 ……様子を見に行ってみるか。勉強していてくれたら、ありがたいな。





 使われるもの従うもの〜邂逅編〜





 下手に同情して失敗した経験は多いけど、今回のようにお節介が災いしたのは、珍しい、かな? あれ? いつものこと?

 ごめん、ちょっとこの空間は耐えられない。誰か助けて。

「…こうか?」

「ああ、そうそう。流石だな。勉強が出来ないんじゃなくて、やっぱりやらないだけじゃないか」

 この人、誰? と最初は思った。

 エヴァンジェリンさんに勉強を教えているのは、大学生っぽい人。月見里 秀一さんと言うらしい。どうやら来年から大学に通うそうだ。麻帆良医科大学に。なんと医大生。お医者様の卵だ。

 ううむ…年上。だけど、なんでだろう。見た目かな? 年下にみえてしまう。

 キリッとした眉とある程度切りそろえられた髪の毛。清い感じで、好青年と言うべきだろう。

 ただ、なんと表現すればいいんだろう。真紅の瞳は、少し珍しいと思う。ザジさんも赤っぽいけど、あまり目立たないし。だが、月見里さんの目は……本当に真っ赤だ。

 それ以外は普通。あえて言うなら、黒いコートを着ているといった点だろうか。

 一応自己紹介したけど、現状だと勉強が優先だから、と言うことであまり話してはいない。いい人だとは思うけど…。

 ちなみに俺は茶々丸に教えているんだけど、ねぇ。向こうが向こうだから集中できない。

 なんで膝に乗って勉強しているんだ? そもそもあのエヴァンジェリンさんの嬉しそうな顔は何? 普段は比較的無愛想にしてるのに。

 あ〜、熱い。甘くて熱い空間だ、これは。

 彼女もなく、独り身だった俺には辛い現実。そんな候補も、いないしなぁ。

「ジロー先生。マスターたちのことは気にしないほうが身のためだと思います。ここ最近のことですが、ようやく実ってマスターは喜んでますし」

 エヴァンジェリンさんの方からだったのか。これは余計に意外だ。

 でも…中学生と大学生って。

 ――いけない関係?

「あー、そんなに努力したのか?」

「出会って一年と二ヶ月が過ぎましたけど、そのうちの半分以上、マスターの感情は無視され続けたことになります」

 半年以上、分からなかったのか。

 確かにそれは、可哀想だな。それでようやく気づいてもらえた、のか?

「つい先日のことですので、まだそれほど進展していませんが、着実に、少しずつ進んでます」

 かなったのなら…いいんじゃ、ないかな?

 それに、現状で勉強してくれているなら、いい方向に進んでいるってことだろうし。

 ただし、手を出さなきゃ、だけどね。手を出したら犯罪ですよ。それは先生として、見過ごせないな。

「どうにかこうにか、ってところなのかな?」

「ええ。ですから、勉強が終わるまでは、この調子かと」

 それはちょっと、きついな。

 目に毒だし…ホントに、タイミングが悪かった。





「あ〜、すいませんね。エヴァって過去があれだったから、一度ああなると、なかなか止まらないんですよ」

 抽象的な表現ばかりだが、なんとなく分かる。

 えっと、確か六百年生きた吸血鬼、だったよな。その大半を一人で生活してきたとか。

 ……まぁ、そうなっても仕方ないか。

 って、やっぱり月見里さんは裏の関係者だったんだ。

「あそこまで引っ付かれると困るんですけど、俺も大概甘いと言うか、なんというか……すいません」

「言わなくても分かります。ええ、分かりますとも」

 この人がどれくらいエヴァンジェリンさんを思っているのか、って言うのは理解できるさ。

 それに、事情は色々あるだろうし。

「ただ、中学生に手を出すのはよくないかと思いますよ」

 ええ、俺が言えるのはこれだけです。

「…はい、分かってます。エヴァの見た目が十歳だと言うことも、世間的にペドフェリア…というかチャイルド・マレスターと思われてもおかしくないって」

 それはいいすぎじゃ。

 ペドフェリアは幼女趣味の人を言うんだったよな。チャイルド・マレスターは、性犯罪者? だったっけ。

 でも、月見里さんは十八歳、エヴァンジェリンさんは中学二年。建前の上だと、四歳違いだから、そんなにひどいものじゃないと思う。

 二十歳以上にしたら、二十四と二十八。普通に結婚もありえる年だ。

「まぁまぁ、落ち着いて。恋愛は自由ですよ?」

「自由だからってやっていいこととやっちゃいけないことがあります。ええ、そうですよ。あんなこと……やるべきじゃなかった」

 月見里さんは顔を赤くして頭を抱える。目も耳も真っ赤とはなんともシュールな。

 なんかものすごい自己嫌悪しているようだ。

 チラリと休憩のためにお茶を飲んでいるエヴァンジェリンさんを見ると、そちらも顔を赤くして目を逸らしていた。それを隠すためにお茶を飲む。

 …まさか、ねぇ。

「数ヵ月後にお目出度とかやらないでくださいよ」

 ポツリと呟くと、月見里さんが咳き込み、エヴァンジェリンさんが顔を真っ赤にして固まった。

 そして、手に持っていた湯飲みを落とす。

「わっ!? あ、あつっ!!」

「ああ、エヴァ!? 茶々丸、濡れタオル!」

「はい、かしこまりました」

 パッと切り替え、月見里さんは的確に指示する。

 流石、来年医大生。じゃ、なかった! 俺も何かしないと。

「俺に出来ることは?」

「大丈夫です。吸血鬼の皮膚は熱湯程度じゃ焼けませんし。熱いでしょうけど」

「当たり前だ!」

 月見里さんはエヴァンジェリンさんのスカートを持ち上げる。

 うわぁ。

「な、何を…」

「馬鹿。熱湯を被った布をそのままにしていたら皮膚へのダメージが大きい。空気に触れる面積が多ければ布はすぐ冷めるんだ。後は…」

 茶々丸が濡れタオルを持ってきた。

 それを月見里さんが受け取り、お茶が掛かった部分に押し当てる。

「軽く冷やせばいい。人間ならここで氷水の入った袋でも用意してハンカチに包んで押し当てるといいんだけど、エヴァなら大丈夫だろう?」

「ああ。しかし…気持ちいいな」

「んなことを言ってる暇があったら、立って。きちんと深けないから」

「…すまない」

 もうお腹一杯です。だからその空間は作らないでください。

 若干惚気が混じっているのは仕方ないかもしれないけど、もっと周りのことを考えてください。

「ふぅ…ジロー先生、あまり脅かすようなことを言わないでくさい」

「すいません」

 実際、いつかそうなりそうな予感がするけど。

 茶々丸、君は聖母のような目で見つめないで、少しは止めてください。マスターの思いが実って嬉しいのかもしれないが。

 六百年間の思いを全てぶつけてるんだから、仕方ないのかな。そんな長い間、ずっと一人で過ごしてきたのであれば、俺は耐え切れないだろう。

「あ〜、一つ言っておきますと……いや、ごめんなさい、言わない方がいい気がしました。ええ。言わない方がいいです。言っちゃ駄目な気がします」

 月見里さん、相当混乱しているな。

 余計なことを口走るところだったし。流石にそれを聞いたら、俺は黙っていられませんよ?

 エヴァンジェリンさんの思いがようやくかなったところだから、邪魔することはしたくないし、月見里さんもいい人みたいだしね。

「ええっと、ところで、ジローさんはエヴァ達の勉強を見に来たのでは?」

 処置を終えた月見里さんがこちらに歩み寄ってきた。

「ん〜、そう思ったのですが、必要ないみたいですし。貴方がいれば、大丈夫でしょう?」

「それは、まぁ。ある程度は出来ますけど」

 医大に合格するくらいだ。中学生の勉強程度、教えるのは苦ではないはず。

 俺にはまだ教えなければいけない奴がいるんだよなぁ。刹那さんとか。

 ネギ達が戻ってきてくれればなんとかなるかもしれないけど、現状だとかなりきついし。

「フッ、私とて小学生に逆戻りなどしたくないからな」

「そもそも、ありえなくない? ホントに小学生へ逆戻りさせるんですか? ジロー先生。それってちょっと」

「いや、多分ないんじゃないかな。うん、多分」

 俺にだって分かりませんよ。

 学園長はやりかねないし、それに生徒達は信じているし。

 ないとは思うけど。日本の義務教育の関係上、きっと。――希望的観測にしか思えないのは気のせいだろう。

「なんにしても、私は勉強をしてみる。なかなか悲惨な結果になっているからな。闇の福音ならばなんでもこなせなければなるまい?」

「そうだな、エヴァ。俺もいるし、出来ると思うぞ。無論、茶々丸もそういう応用が出来るようにならないとな」

「はい。しかし、私はジロー先生に教えてもらおうと思うのですが」

 どうして俺?

 ああ、遠慮してるのか。確かに、エヴァンジェリンさんと月見里さんの二人だけの空間を作れば、効率はいいかもしれない。

「そうか?」

「はい。秀一さんも二人以上を一片に教えるのは、難しいのでは?」

「確かに」

 慣れてない人が勉強を教えるのは、難しいと思う。

 俺も慣れてないからよく分かるけど、習うのと教えるのじゃ、全然違うんだよねぇ。

「あー、俺も一応教師だし、教えられるところはきちんと教えるつもりだぞ」

 断る道理はない。

 元々、勉強をおしえるつもりできたし、茶々丸は応用さえ出来れば優秀だ。

 エヴァンジェリンさんと秀一さんが、変なことばかりして勉強に集中できない、なんてことにならなければ、問題ないだろう。

「じゃあ、任せていいですか? 俺だと二人を完全に見ることはできそうにないので〜」

「はい、任されました」

 できることは、全部やるのが大人の仕事…だと思うよ?





 不思議な人、だったな。

 八房 ジロー先生、ね。

 なんとなく茶々丸やエヴァが話題に出す理由が分かった。

 あの人はいい人だ。人の痛みも辛みも知って、それでも前に向かう愚直な人だと思う。

 いいね、そういう人は。

「…ふ…んん」

 俺は背伸びする。

 エヴァの変わりようにも驚いたが、意外と勉強に集中すれば出来る才能にも驚いた。

 人って言うのは、ちょっとしたきっかけで変わるもんだな。まぁ、ちょっと、じゃないかもしれないけど。は、はははは………………はぁ。

 大学に受かった喜びでテンションが振り切れていたとは言え、まさか俺が理性を抑えられなくなるとは思わなかったよ。

 これじゃあ若菜にロリコンと言われてもおかしくないなぁ。うん。

 でも、いいや。意外と人間、振りきれると諦めがつくものだよ。

 それよりも俺も勉強しないと。入試でお世話になった小萌教授にお勧めされた雑誌を買ってきたんだよね〜。エヴァの勉強で見れなかったけどさ。

 ……ほほぅ、流石。教授が勧めるだけのことはある。

「おい、秀一、なにやっている」

「俺のほうの勉強。一応、来年大学だよ?」

「…明日でいいではないか。今日くらいは私の勉強に付き合え」

 そう言われてもねぇ、勉強は毎日の積み重ねが大事なんだぞ、エヴァ。

 と言っても、俺がエヴァに逆らえるわけがなく。

「はいはい、了解しました、お姫様。ジロー先生ほど上手くはないかもしれませんが、頑張ってお姫様に勉強を教えて差し上げます」

 雑誌をたたむ。

 本なんていつでも見ることが出来る。だけど、エヴァの勉強は今しか見ることが出来ない。

 ジロー先生が茶々丸の勉強を引き受けてくれているんだ。本来、あの人は滅茶苦茶忙しいはずなんだけど、俺の都合に合わせてもらっている。

 その分の成果は出さないとね。

「さて…国語と英語は問題ないし、数学もやった。次は理科と社会だな」

「ああ。頼むぞ」

 ようし、張り切っていこうか。

 ……でも、その前に。

「なぁ、エヴァ」

「なんだ?」

「ジロー先生ってさ、いくつだったっけ? 相当若いってことは見てわかるけど、正確には知らないから」

 あの人とはお友達になれそうだから、情報は得ておくべきだろう。

 本人に聞けばよかったんだけど、なんか聞く暇がなかったし。…今度、二人きりで出会えないかなぁ。色々と話してみたいことがある。

 エヴァといると、俺も暴走しかけるからね。自重しないと駄目だ。

「十六だそうだ」

「えっ!?」

 わかっ! 俺と同じくらいか、もしくは年上だと思ってたのに。

 じゃあ今度、一緒にゲームセンターにでも誘ってみようかな。若者、なら大丈夫だろうし。俺はゲーム弱いけど、楽しむだけなら大丈夫だ。

 多分、楽しめるはず。

 大丈夫だよね? ジロー先生なら、いくら渋くてもゲームセンターで楽しむことくらい出来るよね?

 刀談義をした方が絶対に華が咲くと思ったのは気のせいだと思う。気のせいだと思いたい。

「ほら、秀一。呆けている暇があったら私に詳しく教えろ」

「了解了解。手取り足取り教えて進ぜます」

「…別の意味に聞こえるぞ」

「……ごめん、俺も」

 あ〜、これは他人から見ると、初々しいってことなのかねぇ。

 ジロー先生、俺はちょっとこの状況で耐え切れるか、不安になってきました。




 後書き

 どうもこんにちは、はじめましての人ははじめまして。星の影です。
 しがないモノカキであります。駄文であります。
 まず、五十万ヒットおめでとうございます。
 木陰の庵、そしてコモレビさんには色々とお世話になり、そしていつも楽しく読ませてもらっているお礼として、心ばかりのものを用意いたしました。
 魔法先生!の使い魔?の三次創作という形で用意させていただきました。お借りできたこと、本当に嬉しく思っております。
 何気に自分の作品、闇に従うものと、魔法先生!の使い魔?のコラボレーションだったりします。
 ……ごめんなさい。頑張りましたが、ジロー先生の性格が変になってます。微妙に口調が違うし、違和感があり…嗚呼、なんかグダグダです。
 バカップルに押されて目立たない上に、一人称なんてあまり書かないこともあり…いえ、言い訳ですね。
 闇に従うものでは、月見里 秀一は副担任をやっていますが、ここではジロー先生がいるので必要ない。ここからの分岐ルートです。
 ジローさん召喚→ネギ来訪決定→副担任はジローさん→じゃあ秀一は要らない
 と、このようになっております。故に秀一は本来の実力を正式に評価され、大学へ行くことが決定しておりました〜。三月だから、決定している…はず?
 ちなみにトップ合格だったり。…こんなところで裏話を話してどうするんだか。
 その関係でエヴァと結ばれ、ハレムではなく固定ルートに。
 こ の ロ リ コ ン め !
 などといわれてもおかしくない状況ですw
 と、まぁ、このようなことは掃き捨てて。
 これからもっと木陰の庵、そして魔法先生!の使い魔?が繁栄することを願って、締めとさせていただきたいと思います。

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