―――――サーヴァント。俺達の聖杯戦争で呼ばれたモノ達だ。

 

 彼等は大きく分けて、3種類いる。


 一つは英霊。

 生前偉大な功績を上げた英雄が死後信仰の対象となったもの。分類としては精霊に近い。

 基本的に生前は英雄だった者達。

 




 二つめは抑止の守護者。

 召喚された英霊の中でも、特に信仰が薄い者。

 或いは世界と契約し力を得る代償として、

 己の死後を売り渡した元英雄。

 その成り立ちは謎に包まれているが、なにより大切な事。

 それは、死ぬべき定めの者を救うということである。

 この死ぬべき定めの人間を救ったという、事実。

 これこそ、抑止の守護者に選ばれる資格だ。




 英霊エミヤがまさしくこれに当たる。

 自分の命と引き換えに、多くの者を救う。

 それだけの為に、世界と契約した異端の英霊。

 



 そして、もうひとつ。

 俺達の聖杯戦争に召喚を許された存在がある。

 それが反英雄だ。

 人々に憎悪され、その悪行が結果として人々を救うこと、悪を以て善を明確にするモノ。

 呪われる対象でありながら奉られる救世主。原罪を否定するための生贄であり理想。

 綺麗事のために汚れ役を引き受けるもの。強大な悪として小さな悪を打ち消すもの。

 存在が悪とされながらその悪行が人間にとって善行となるもの。


 そして、完全な反英雄ではないが、ここに反英雄と呼ばれる存在がいた。







 ―――――反英雄メドゥーサ。それがライダーの真名である。



 ゴルゴン三姉妹が末女。

 美の女神の嫉妬を買い、地に貶められた怪物。

 絶世の美貌を誇り、海神にさえ寵愛を受けし大地の女神。



 彼女の生涯は悲劇に彩られている。



 元々美しい少女であったメドゥーサは、

 その美貌を嫉妬され、戦女神アテナによって『形なき島』に追放される。

 孤独な生活。

 その寂しさに泣く日々。



 だが、しばらくすると。

 追放された『形なき島』には2人の姉がやってきた。



 【メドゥーサは1人になるとすぐ泣き出すでしょう? 私達の親族として、そんな恥さらしは許しません】 


 【私はメドゥーサなんてどうでもいいんだけど。………まあ、召使いは必要だし】

  


 誰より周囲に愛されていた2人の姉は、そう言って小さな島で姉妹3人で暮らすことをえらんだ。 

 妹の為、彼女を孤独にしないために。

 そして『形なき島』で、姉たちとそれまでどおりの生活をしていたが、

 その生活は長くは続かなかった。




 彼女を殺そうとする人間達が攻めて来るようになったのだ。

 彼女達の平穏な生活をゆるさない、戦女神アテナの姦計である。


 

 名誉、褒美、恩賞。戦女神アテナが与える報酬の数々。

 これに目を奪われた男達が攻めてきたのだ。




 怪物メドゥーサを殺し、女神を奪い去ろうとする人間達。

 彼等はアテナに騙され。

 メドゥーサを殺し、姉達を連れ去って巨大な恩賞を手に入れようとした。

 姉達は戦う事ができる体ではない、戦う事ができるのはメドゥーサ。彼女一人しかいなかった。

 姉達を護る為。自分の身を護る為。なによりこの静かな生活を護るために戦い続けた。



 
 だが彼女は、戦いを続ける為に。負けない為に。より効率よく。より的確に。



 ………人間を殺す。

 そんな事ばかり考えるようになっていった。

 


 ―――――そして、いつからか。


 メドゥーサは形のない島に攻めてくる人間たちを殺すことに【歓喜】を覚えるようになり、怪物として成長してしまった。




 人間を殺す事に喜びを感じるようになった彼女を、姉は懸命に止めようとする。
 
 だが、狂った歯車はもう戻ることは無い。





 人間を殺す事に喜びを覚えてしまった、メドゥーサ。

 人を殺す事に喜びを覚え、本当はなにを護ろうとしていたか忘れてしまった堕ちた女神。 



 


 美しい女神だった彼女は、姉達2人の運命を護ろうとした心も無くなってしまった。
 
 そう、彼女が本当に護りたかったもの。

 それは………姉達の運命を変えたかったという願い。





 姉達2人の運命。

 ステンノ、エウリュアレ。

 誰からも愛されるという女神達。

 だがそれは――――。




 男に愛され、犯される日々を約束されたということだった。

 偽りの偶像(アイドル)として陵辱される存在。ソレが彼女達、ステンノとエウリュアレの神核。

 男達が彼女達を欲し。その欲望が勇者を生む。

 そして、――――その勇者に犯されるのが彼女達の運命だった。



 

 その汚らしい運命から護ろうとした事。

 ただそれだけが、メドゥーサの願いだった。




 
 それが解っていた2人の姉は。

 だからこそ、怪物になったメドゥーサの前に立った。

 もう、理性が残っていない無数の大蛇。

 その塊になった妹。

 自分達を護る為に、姿を変えてしまった優しい妹。   



 その、メドゥーサの生きた意味を消さない為に。……………自分達は綺麗な体のまま、消えていく。

 本来、男に汚されて生きるはずだった自分達を。

 妹は綺麗なまま、死なせてくれる。

 『メドゥーサ、貴女はそれを成し遂げた。だから――――』


 
 メドゥーサ。貴女が生きた意味はあると、小さく伝えて。

 


 そして。怪物になってしまったメドゥーサにステンノとエウリュアレは自ら身を捧げ、命を絶った。
 

 

 戦女神アテナに逆らってまで、

 2人の姉は『形なき島』にメドゥーサと共に怪物と蔑まれて生きる事を選び。

 そして、そのメドゥーサによって殺されることを選んだ。

 メドゥーサの生きた意味を残す為に、綺麗な体のまま死ぬ事を選んだ女神達。




 

 そして、その行動がまた新たな罪をつくる。




 自分の姉を殺し、神を殺した大罪を犯した怪物。

 怪物メドゥーサの誕生だった。



 


 もう。いくら後悔しようとこの歴史は変える事ができない事実である。

 彼女は永遠に化け物として、歴史に存在しなければならない。

 神々によって。他のモノ達によって自分の存在を歪められた【化け物】

 人間を殺し、肉親を殺めたのが罪だというなら。

 なぜ、そうせざるをえなかったのか?

 なぜ、そこまで追い込んだ神々は罪を償わないのだ?

 そんな事を、今さら言っても仕方が無いのかもしれない。
 
 もう終わった事であり、メドゥーサは化け物として歴史に存在している。

 



 その後。

 彼女、メドゥーサは化け物として勇者ペルセウスに退治された。



 ――――そして。

 戦女神アテナは自分の権力の象徴として、メドゥーサの首をアイギスの盾に飾った。

 人々は、アテナの盾に飾られたメドゥーサを恐れ、戦女神アテナを崇拝するようになった。

 それが、歴史だ。



 


 もう2度と………。

 失ったものは取り戻せない。

 彼女が守ろうとしたものは守れなかった。

 大事だったもの。最後まで笑いながら彼女を愛してくれたもの。

 ソレを飲み込んだ彼女は、永遠に己を許さない。

 





 だから――――。










 遠い雨  15話



 
 戦いが終わり、砂埃が自然と床に落ちていく。

 歪んだ石畳、壊れたオブジェ。

 修理費用は誰が出すんだろう? 思わずそんな場違いな感想が思い浮かんだ。



 定まらない視線の先に、見慣れた姿が見える。

 霊体化を解いたのだろうか。 

 いつのまにか現れた、ライダーの姿に苦笑してしまう。


 
 我ながら、呆れる。

 冷静に考えれば、ライダーを簡単に倒せる存在がこの世にいるはずが無い。

 そしてノーリスクで、ライダーの能力をコピーできるなんてあるわけが無いのに。

 だが、だとすれば。





 「ライダー。幾つか質問をしていいか?」




 思ったより冷静な声が出せた事に、ほっとする。

 俺の言葉をうけて、ライダーは無表情に頷いた。

 だが、もう長い付き合いだ。

 どんなに冷静でいようとしても、その心の動きぐらいは多少解るつもりだ。

 いつも自分を出さずに桜のことだけを考えていたライダー。

 聖杯戦争でも、桜のことだけを考えていた。

 だからこそ解る。

 彼女だけは、………桜を裏切らない。




 そして、俺に対して今、罪悪感を感じているんだろう。

 表情が少し強張っている。
 
 馬鹿だな。気にする必要なんて無い。






 「一つ目。ネギ君と桜は無事なのか?」
 
 「――はい」

 「二つ目。今回の事は桜にとって必要なことか?」
 
 「――はい」








 そうか………。

 それだけ聞ければ、十分だ。

 ―――――ブツン。

 まるで、テレビのブラウン管が切れるような音と共に目の前が暗くなる。






 「!?」  





 桜咲と龍宮の驚いた声がする。
 
 慌ててこっちに走ってくるのはライダーか。

 どうやら、血が本格的に足りなくなったようだ。

 気がぬけて、立っているかどうか。

 

 ――――――もう目の前にあるのは、壁………いや床か。ああ、当たると痛いんだろうな。

 


 どこか、人事のように考えていたが、来るべき痛みは無く。

 柔らかい感触に包まれていた。
 


 「すいません………士郎」


 ライダーの声が近くから聞こえる。

 『馬鹿だな。そんなこと気にしなくていいのに』

 そう声をかけようとしたが、声にならなかった。

 目蓋が重く、意識が消えようとしている。

 だが、安心した。





 ライダーは決して【桜】を見捨てない。

 あの聖杯戦争で、どんなに傷つけられようと。

 桜がどんなに変わろうと。

 ライダーは令呪があろうとなかろうと、桜を裏切らなかった。

 そんなライダーがしたことなら信じられる。






 俺より、はるかに頭のいいライダー。

 彼女が選んだことなら間違いは無い。





 その結果、………【俺】を切り捨てる事になろうと。

 今回の事。推論は幾つもできる。

 その中で最悪なのは、桜のために何らかの理由で俺をライダーが邪魔だと思ったこと。
 



 だが、それは。

 俺にとって最悪であって、桜にとって最悪ではない。

 俺達にとって、何より大事な事。

 桜を守る。これが大前提だ。

 だから、ライダーがどんな判断をしようが。

 桜を護る為に必要だというなら。 




 俺より頭がいいライダーが、判断したなら。

 それはきっと、桜にとって必要な事なんだろう。

 だから。桜が幸せになる為に必要だというなら。
 





 『――――――俺を切り捨てるぐらい、気にしなくていいんだぞ………』





 そう、口にしようとしてできない自分に少し苦笑しながら。

 俺は意識をなくしていった。 






 ◇


 


 衛宮先生がライダーさんに抱えられたまま、気絶してしまった。

 当たり前だ。

 あれだけ血を流したあと、この戦闘。

 今まで動いていたのが不思議なくらいだ。

 神に近いモノ。2人(2柱)との戦い。

 体がどれだけのダメージを受けたか。




 「さて、それでは士郎の治療の為に帰らせて貰いま「いえいえ。私が治療しますよ」………」

 「――――」

 「後の2人も貴女に聞きたい事があるようですし」



 ライダーさんはこちらをチラリと見た後、アルビレオ・イマに視線を戻した。

 何時の間に近づいたのか、アルビレオ・イマは衛宮先生の治療をはじめていた。


 

 「それに私も聞きたいことがありますしね」

 「そうです。なんでこんな危険な事をしたんですか?」

 



 刹那が少し厳しい口調で聞く。

 人間よりはるかに強い存在。

 その2人と戦った衛宮先生。
 
 だが、その代償は大きいはずだ。

 最初の雷電はともかく、後のライダーさんとの戦いはしなくてよかったはず。

 第一、今の戦いで瀕死の重傷を負ってもおかしくなかった。

 そんな危険な真似をする意味が解らない。

 仲間であるはずのライダーさんが、なんでそんな事をする必要がある。



 正直、わたしも少し苛立っている。

 こんな茶番につき合わされた事に。 


 

 そして、なぜこんな事をしたのかライダーさんとアルビレオ・イマは話し出した。





 ◇







 「―――――と、いう事です」









 信じられない。

 最初に思った事はソレしかなかった。

 アルビレオ・イマの理由。

 衛宮先生の本当の力、魔法が知りたかっただと?



 ふざけているとしか思えない。

 確かに、学園外の人間を警戒するのは当然だろう。
 
 だが、これは明らかにやりすぎだ。
 
 下手をしたら死んでいたかもしれない。

 

 しかも、ライダーさんの能力を使うなんて。

 こんな危険な力、衛宮先生どころか下手をしたら私達も死んでいた。


 


 そして、もっと信じられないのがライダーさんの理由だ。

 【自分の姿をコピーされたままでいたくないから】

 だから、その能力をアルビレオ・イマから無くすためにこの戦いを仕組んだ?

 龍宮も呆れた顔をしている。

 能力をコピーされ、不快になるのは解る。

 だが、他に方法はいくらでもあったはずだ。

 自分の身内を危険にしてまで、することじゃない。 





 まだ、アルビレオ・イマと学園長の理由はわかる。

 学園の新入り。

 衛宮先生の能力を把握する。

 転送魔法かそれとも、他の秘密があるのか。

 そして、その検分役に私達2人が選ばれたのも解る。




 ………まあ、私達は知らないうちに組み込まれたのだが。





 アルビレオ・イマは魔法使いとして、トップクラスの実力者だ。

 この圧迫感、魔力量。おそらく間違いない。

 当然、魔法に関する知識は並大抵のものではないだろう。

 そして、龍宮真名は魔眼保持者だ。
 
 アルビレオ・イマが見逃した事実を視る可能性がある。

 そして、私は氣を使う神鳴流剣士だ。

 もし衛宮先生の能力が氣を使ったものの場合、私が気がつくこともあるだろう。

 本来、神鳴流剣士として上である刀子さんのほうがこの役には適任だろうが、

 彼女がこの斑につくと、学園を護るパワーバランスが崩れる。

 そのため私がこの班に回されたのだろう。

 魔法、魔眼、氣。この三つで衛宮先生の秘密を探ろうとしたという事か。

 いつの間にか、悪巧みに組み込まれた事は気にいらないが、それより問題は。

 

 なぜ、こんな危険な事をライダーさんがしたかということである。

 こんな危険な事をして、衛宮先生を追い詰める必要があったのか?

 だが、この疑問に答えたのは、あまりに不思議な言葉だった。




 「そして、学園と無用なトラブルを避けるためです」

  
 

 それは、あの小さな短剣のことだろうか?

 確かに恐ろしい剣だと思う。

 ざっと見たところ、あの剣の能力は切り札をキャンセルすること。

 どんな威力の奥儀だろうと、キャンセルできるなら衛宮先生は最強ということになる。

 下手に攻撃すれば、死ぬ。

 確かに強い能力。学園としては衛宮先生の切り札が解り、

 ライダーさんとしては無駄な争いを減らすということだろうか?

 切り札を知りたかったのは、学園側。

 そしてソレを教える事によって、学園にある程度の誠意をみせる。
 
 さらに、無駄な争いが減る。 





 ………確かにお互いに利がある取引なのかもしれない。

 だが、それでも。

 衛宮先生をここまで傷つけていいとは、思えない。

 第一、切り札は隠すものだ。

 こんな事で、だしていいわけがない。

 衛宮先生にとって、あまりに不利な取引ではないだろうか?

 争いをしたくないなら、話し合いで解決すればいい。

 敵同士ならともかく、同じ学園の仲間なのだから。







 だが、ライダーさんは。

 説明は終わったとばかりに、

 衛宮先生をかついで歩いていってしまった。
 
 

 そんな彼女の様子に、まだ少し違和感を感じていた。

 他になにか理由があるのではないかと。

  






 ◆





 ライダーさんの目的とは、なんだったのだろうか。

 わざわざ自分と同じ存在を衛宮君と戦わせるなど。

 どんな意味があったのか。





 龍宮君と桜咲君に寮に戻るように頼み、近衛が来るのを待つ。

 だが、これで2つの情報が手に入った。
 
 


 ライダーさんの戦闘能力、そして衛宮君の切り札。

 だが。それでも…………。



 「なにかわかったかの?」 
  
 「ええ、多少は。そちらはどうだったんですか?」

 「うむ。どうにか護れたようじゃ」

 「………そうですか」



 学園の危機は去り、また平穏な日常がはじまる。

 日常を楽しむ生徒達。

 そして、戦いの合間。

 束の間の休息を楽しむ戦士達。

 

 平穏と殺戮。

 歪んだ学園都市。

 だが、その歪みこそ私にとっては心地いい。



 「………なるほどのう」

 

 近衛に衛宮君との戦闘を簡単に説明した。

 後は撮影機器とにらめっこするのは近衛の仕事だ。

 彼等の能力の詳細。

 この学園にとって、ネギ君にとってどのような人材か。

 彼の、長い眉に隠された瞳が小さく光った。

 

 

 「つまり、ライダー君より全体の能力としては弱いが、それに勝る技と切り札があると?」  

 「ええ、アンサラー・フラガラックといってるように聞こえましたが」

 「フラガラック………。確か」

 「ケルト神話における光の主神・ルーが使っていたと言われる短剣ですね」
 
 「ふむ。どんな能力なんじゃ?」

 「切り札を出した瞬間に、相手の体を貫き。その切り札自体を無かった事にすることでしょうか」 

 「ライダー君は、それが衛宮君の切り札じゃと?」 
 
 「ええ、嘘は言ってはいませんが本当の事も言っていない。そんな感じでしたね」

 「ふむ………」



 近衛が不満そうにしている。

 納得できないのだろう。



 衛宮君の能力に。

 そう、それだけでは説明できない。

 あのフラガラックがアーティファクトであるはずがない。

 あの双剣がある限り。 


 あの短剣、フラガラックの名を持つ魔法具を衛宮君が創ったのだとしても。

 ここに転送できるはずが無い。

 

 衛宮君の能力が武器の転送だとするなら、彼があのように双剣やら鎧などを転送できた事。

 それ自体が異常だ。



 なぜなら、ここには【転送を阻害する結界】が張られている。




 近衛からこの作戦を聞いたときは、正気を疑った。

 彼の唯一の魔法。転送を封じるというのだ。

 だが、結果的には正しかったといえる。

 転送を妨害する結界を破壊して【転送】する。

 これならおかしくない。



 私が分身体でライダーさんの姿を真似るため、魔力を強化する結界を張った。

 そして、この図書館島には複数の結界が張られている。
 
 それらに隠すように極弱く、ライダーさんが気がつかない結界を創る事は難しくない。

 木を隠すなら森の中。

 結界を隠すなら結界の中だ。

 それでも、ライダーさんの目をごまかす為には、とても弱く結界を張るしかなかった。 

 妨害というより、感知結界に近い。  




 そして、とても弱い結界である以上。

 少し強く術をかければ転送は可能だ。

 


 ―――――だが。


 
 「結界は破れておらん」

 「ええ」




 そう。

 結界はどこにも壊された箇所がないのだ。

 ということは。

 あの双剣や鎧、短剣は転送の魔法で運ばれたわけではない。
 
 同時に、このどれもがアーティファクトではない。

 どれも能力が違いすぎる。

 ならば………。




 
 「彼のアーティファクトの能力かのう」

 「まだ、だれも知らないといわれてるそうですが」

 「見えない蔵とか、かもしれんの」

 「もしくは」
 
 「考えたくは無いがの。エヴァンジェリンと同じく剣を作ることができる、という事かもしれんのう」
  
 


 そう、これだけ様々な情報が乱れ飛ぶ世の中。
 
 自分の情報だけは隠しているモノは大勢いる。
 
 だが、彼のアーティファクトだけは見た人間すらいないのだ。

 その謎の能力が、あの無限にでるかとも思われる魔剣の数々なのか。
 
 

 見えない蔵。

 これなら、考えられる。

 自分が作っておいた剣を蔵に入れておき、好きなときに取り出せる。

 それが、衛宮君のアーティファクトだとすれば、壊れていない結界の謎も解ける。

 蔵から取り出しているのだから、結界が壊れるはずが無い。

 断定は危険だが、これでほぼ間違いないだろう。

 





 だが、エヴァンジェリンのように魔力で【エグゼキューショナーソード】等を創れるとなると話は違ってくる。

 エヴァンジェリンでさえ、魔力で編んだ剣のカタチを整えるのは難しい。

 それに見た目が剣だというだけで、能力は違う。



 固体・液体の物質を無理やり気体に相転移させるのが、【エグゼキューショナーソード】の能力だ。




 エヴァンジェリンほど衛宮君が魔法に長けているようにも見えない。

 それに、エヴァンジェリンの剣【エグゼキューショナーソード】は刃しかない。

 細かい装飾は無く、実用本位の魔力の塊だ。


 

 だが、衛宮君の剣はどれも華美ではないがきちんと装飾されている。

 これは本来、無駄以外の何ものでもない。
 
 そんな装飾をきちんと創るくらいなら、刃に魔力を籠めた方がいい。

 だとするなら、あの剣は魔力で創り出したなどはありえないはずだ。



 「消去法で、あの剣は蔵の魔法かアーティファクトで決まりじゃないでしょうか」 

 「かもしれんのう。じゃが断定は危険じゃろうて」

 「そうですね。ですが、彼は桜さんに危害を加えないかぎり安全な人物のようですし」

 「――――ふむ」 





 今回の事も、私が桜さんの姿をしなければ戦う事はなかった。

 それだけは確かだ。

 どんなに挑発しようと反応しなかったのに、桜さんの姿を真似た。

 ただ、それだけで烈火のごとく怒りだした。

 少なくとも、私は2度と彼を怒らせようとは思わない。





 長い夜がもう明けようとしている。

 もう、これ以上。彼等を敵にまわすような行動は控えた方がいい。
 
 この学園に無駄な危険を増やさない為にも。

 

 だが、彼の歪み。

 桜さんの為なら、どこまでも変わるあの性格。

 中々に私好みだ。

 そして謎に包まれた能力。

 まだまだ、観察対象として楽しめるのかもしれない。

 


 闇の中クスリと笑う、道化の魔法使い。

 彼の目に、彼等はどのように映っているのか。




 ◇





 冷たい夜風の中。

 もう、薄っすらと日がさそうとしている。

 長い夜だった。

 背中に背負った士郎を、もう一度見る。
 


 穏やかな顔をして寝ている士郎に、少し安心してしまう。

 彼はいま、どんな夢を見ているのだろうか?




 本来言ってはならない事だろうが、彼の歪んだ心に救われた。

 

 自分が傷つけられたというのに、心から安堵したその笑顔。

 自身が傷ついた事にかけらも執着しない、その歪んだ善意。

 

 そう、士郎には恐ろしいほど“自分”が無い。

 まず、桜を助ける。

 ソレだけを考えている、歪んだ心。

 桜を救い、そして誰かを救う。

 その為なら、自分がどうなろうとかまわない。



 いや、そもそも【自分を護る】という考えが無い。




 だから、今回も私を疑わずに………。

 気を失う前に、私に笑いかけていた。

 本当にすいません、士郎。ですがどうしても確かめたかったのです。





 近くでアルビレオ・イマが士郎の治療をしていた時。

 ソレを見守る桜咲と龍宮は心配そうにみていた。
 
 短い間とはいえ、共に危険を乗り越えた仲間だ。

 多少、心配してくれたんだろう。

 彼女達にとって私は、仲間を傷つけた極悪人だろうか。 







 だが、確かめねばならなかった。

 士郎が現在、どれほどの強さなのか。




 あれから成長を続け、鍛えた士郎。

 英霊である私を超える能力。

 それは凛が言っていた推論を、証明しようとしていた。

 守護者になるのではないか。
 
 という、凛の推論を。




 英霊の条件。

 それを確かめるのに必要な事。

 英霊である私と戦い、倒せるほどの能力を持つか否か。








 ◇

 



 そう、これこそがライダーが先程の戦いで知りたかったことである。


 こちらに来る前、凛に言われた事。

 士郎と桜は英霊になる可能性があるという推論。
 
 桜は反英雄として。………そして、士郎は抑止の守護者として。





 人が守護者になる条件。

 本来、死ぬべき定めにある命を救うということ。

 真実何を救ったか、どれだけ救ったかではなく。

 死ぬべき定めの命を救った事が人を超えた存在、

 世界が契約を持ちかける資格を持つ、英雄。守護者になる。




 ………英霊エミヤのように。

 僅かな人間の死ぬ運命を変える為に、世界と契約した異端の英霊。

 僅かな人間を救うために、世界に自分を売り渡した守護者。

 それが、英霊エミヤだった。





 そして、あの聖杯戦争。

 士郎は絶対に死ぬといわれた、桜を救った。

 凛に、イリヤに、言峰に。

 全ての人間、そして士郎自身すら救えないと思った。

 死ぬべき運命の桜を、………救ったのだ。 




 死ぬべき運命の人間を救い出した。

 だから、英霊化する危険がある。

 まさしく、今の士郎と英霊エミヤは真逆であり、同一のものだ。

 例えるならコインの裏と表のように。





 多くのものを救うために、自分を犠牲にして少ないものを速やかに殺した英霊エミヤ。

 十を救うために、素早く一を殺した英霊。

 そして、桜を救うために多くを犠牲にし、自分自身すら犠牲にした士郎。
 
 



 この2人を理解する人間はいない。

 あまりに歪な二人。

 一人は全てを救うために、自分の手を汚し続けた。

 誰に理解される事も無く、ただ争いを止めるだけの剣。

 それが英霊エミヤだというなら、





 出会った全ての人間に嫌われ、殺される事を願われた桜。

 死。ソレのみが彼女の存在を許すといわれた桜。

 悪として生きるしかなかった桜を救ったのが衛宮士郎だ。




 悪を、人の醜い一面を誰より持った彼女を救おうとする衛宮士郎。

 誰に理解される事も無く。醜い罪を犯した桜を救った。






 2人とも、その心は誰にも理解されない。

 人としてあまりに壊れた2人。近くて遠い、種は同じでも違ってしまった存在。  

 英霊エミヤと衛宮士郎。 

 だが、 





 どんなに否定しようと、その根本は同じだ。

 誰にも理解される事は無く。

 自分を考えず、他人を救う。

 誰かを救うために、ただ生きる存在。

 誰かのために生きて、誰かを護るためだけに戦い続ける。

 ただ、その助ける量が多いか少ないか。

 その違いでしかない。




 だが、その違いは矛盾を嫌う世界には受け入れられない。

 だから、向こうの世界で士郎は英霊化できないはずだった。 

 



 そして―――――。

 向こうの世界では、矛盾が生じ英霊化できないとしても。 





 こちらの世界なら違う。

 こちらには士郎ほど壊れた人間はいない。

 自分を考えずに、ただ護り続ける。

 ただ誰かのために生きて、その手に残らないとしても。

 誰に理解される事がないとしても。

 助け続ける歪んだ存在。

 その存在こそ、英霊エミヤの証明。



 本来、ありえるはずがない奇跡の数々。

 

 あの、宝石の翁。弟子を廃人にするといわれた男が、何故か士郎を助けた。

 そして、士郎が聞いたという声。

 全てがありえない。


 

 だが、これが世界によって仕組まれた事なら?
 
 その可能性に唯一人、気がついたのがライダーだった。




 かつて、自分ではないもの。

 世界や女神アテナに自分の存在を歪められた彼女。

 だからこそ、気がついた。




 世界がどれほど無慈悲に人の運命を狂わせるか。

 神々がどれほど自分勝手か知っているからこそ、気がついた推論。




 歪んでいる士郎ほど、世界に目をつけられる存在はいない。

 守護者にしやすい存在はいない。
 
 その事実に。




 こちらに来てから、あらゆる情報を探り。

 図書館島を探索し、その可能性を否定しようとした。

 だが、否定する材料は見つからなかった。

 もう、残る方法は一つだった。  





 …………士郎が英霊化するほどの能力はないと、否定する事。

 そのために、この戦いを仕組んだのだ。

 




 アルビレオ・イマにはあらかじめ、魔眼を使う事を指示した。

 これなら、士郎が死ぬことは無い。

 だが、結局。彼女の願いは…………。

 



 士郎が彼女の姿をしたアルビレオ・イマに勝つことによって、否定された。


  



 ◇







 英霊である私を倒し。

 更に、死ぬべき運命の人間を救った士郎。

 彼は、英霊になる能力を持ってしまった。




 世界が英霊を欲しがるとしたら、強いほうがよい。

 そして、信仰心が無い方が自由に使える。

 強く信仰心が無い【抑止の守護者】これを欲しがる世界。

  



 士郎はこちらの世界で、取り立てて何かをなしたわけではない。

 だが、能力はかなり上がっている。

 そして、英霊になる為に必要な【偉業を成し遂げる力】これを持ってしまった。

 英霊である私を倒すほどの力。

 なにか、偉業を成し遂げるには十分すぎるほどの力だ。

 
 

 そして………。

 同時により、危ういモノになっていく。




 元いた世界ならともかく。

 士郎の今の能力は、こちらの世界では不利になるものばかり。

 フラガラックは一度その身に受けるか、相手の切り札を見て、

 その切り札用の修練をしなければならない。

  

 ということは、一度相手から逃げなくてはならないという事だ。
 
 その逃げる間に桜をまもれるか、かなり難しい。

 更に士郎自身の魔力抵抗値が極端に低い事があげられる。

 士郎はあの赤い弓兵のような武装をもっていない。

 聖骸布も黒い軽鎧も投影したものだ。

 とっさの時に対応できない。

 自分自身の魔力抵抗の低さをカバーできないのだ。





 故に、相手の牽制、フェイントのつもりの魔法の射手でも深刻なダメージを受けかねない。

 干将・莫耶の対魔術能力で補っているが、干将・莫耶を投影できなければ、

 最悪フェイントで倒れてしまう。

 そして、桜の存在だ。

 一対一ならカレンにすら負ける可能性がある桜。

 桜の能力は神秘に対してはかなり有効だが、人間に対しては弱い。

 同時に聖杯戦争の後遺症で、神秘の塊を吸収すると暴走してしまう可能性がある。

 あまりにも、弱い存在。

 偏った強さ。
 



 桜に何かあったとき。

 士郎は世界に契約を持ちかけられないだろうか?

 桜は士郎に何かあった時、世界に自分をさしださないだろうか?

 




 わからない。

 だが、今のままでも士郎は世界と契約するには十分な実力がある。

 少なくとも私を倒せるくらい。

 そして、同時に誰からも負ける可能性がある。

 先程だってそうだ。もし、アルビレオ・イマが不意打ちをしたら。
 
 士郎が勝てた可能性は限りなく低い。

 実戦をくぐり抜けたとはいえ、魔力感知が極端に低い士郎は気配のない敵に弱い。

 実体のない影分身、分身体などの魔力の塊。

 世界の異常を見抜ける能力があろうと、こればかりは士郎には難しい。



 

 


 ◇






 そしてもう一つ。

 士郎には悪いが、これも必要だと思った。

 士郎の能力『投影』を隠し、さらに。



 ―――――士郎を敵にまわすのは得策ではないと、学園に思わせること。

 これを学園側に意識させたい。 




 私は嘘が得意ではない。

 士郎の能力と聞かれてとっさに嘘をつけない。

 だが、本当のことを言葉を足らなくして話すことはできる。

 フラガラックが切り札だということ。

 これは、嘘ではないが本当でもない。


 



 本来、フラガラックは“ゴッズ・ホルダー”であるバゼットしか使えない。

 だが、半神でありギリシャの大英雄ヘラクレスの技すら模倣できる士郎にとって。

 光の神ルーではなく、その能力を受け継いだ人間の一族の能力をコピーするのは難しくは無い。

 だが、制限がある。

 “ゴッズ・ホルダー”ではなく、

 バゼットほどの運動能力もない士郎にとって、フラガラックはすぎた宝具。

 使える相手は限られる。

 この学園で使える相手がいるとしたら、タカミチぐらいだろう。

 何度も共に戦い、その切り札を知っている相手。

 だが、もう彼と戦う事はないだろう。

 



 …………よっぽどの事がない限り。




 故に知られても、問題は無い。

 敵に情報が漏れても、敵の警戒を煽り有利に戦いをすすめる事が可能だ。




 そして、士郎の能力【投影】を隠す事ができる。

 普段使えない切り札を切り札として、周りに認知させる。

 そして本当の切り札を隠す。

 単純な方法だが、フラガラックほど強力な宝具なら隠れ蓑として十分役立つ。




 そして士郎を敵にまわすのは得策ではないと、学園に思わせること。

 これこそが重要だ。

 士郎は桜に危害をくわえない限り、決して敵対しない。

 そのことさえ解ってくれれば。





 この前の騒動。

 桜に危険が迫った時。

 士郎はどこまでも冷徹になる。

 ソレを知った学園が、士郎を危険視する可能性は高い。

 だが、あの状態になった士郎を説得するのは不可能。

 


 ………ならば。





 逆にいくしかない。

 士郎の恐怖。

 それを最大限利用させてもらう。

 士郎を敵にまわすと恐ろしいという事。

 桜に危害をくわえなければ、彼はとても頼もしい味方になる事。
 



 そして、私にも必要だった。

 士郎を失う。これが桜をもっとも追い詰めてしまう。

 だから。この戦いを仕組んだ。
 
 士郎が現在、どのくらいの実力か?
 
 



 ―――――士郎が、英霊になる可能性を知るために。





 この状況。広い場所でなら士郎は私に負けるはずが無いと思った。

 だが、この目でみるまでは半信半疑だった。

 だから、士郎が私の姿をしたアルビレオ・イマに負ければよし。

 僅かだが、英霊になる可能性が減る。

 

 それに、学園の士郎に対する警戒も減るだろう。
 
 何かあれば、私が止められると安心するはず。
 
 そして私は桜の従者だ。

 桜に危害が加えられない限り、敵対しない。



 そして、士郎が勝てばこの推論。

 士郎が英霊に勝てる可能性。

 これを見ることができる。

 だが、できれば間違いであって欲しかった。



 
 




 ◇


 


 もう。夜があける。

 眩しい光をともない、太陽が昇ろうとしている。

 その光は大地を照らし、恵みをもたらす。

 万物の流転。その大地を護る事こそ、私が大地の豊穣を願う神であった時にすべき事だった。
  
 もう大地を護る力は私には無い。
 
 それでも。

 


 護るべき神性を無くし、

 2人の姉を殺したからこそ。

 今度こそ、護りたい。



 


 ………もうすぐ、寮につく。

 士郎になんと言えばいいのだろうか。

 本当のことは言えない。

 だが、嘘も言いたくない。

 



 彼はきっと、私が何も聞かないで欲しいといえば頷くだろう。

 彼は信じている。

 桜を。そして桜の事だけを考えている私を。

 




 そして、もうひとつ。

 聞きたい事ができてしまった。

 この問いは、聞く必要などないのかもしれない。



 ………だが。



 「士郎。―――――貴方はどんな事になっても桜を守ってくれますか」




 返事はない。

 気を失った彼に、この声は届かない。

 そして。
 
 士郎なら、笑いながら肯定するに違いない。

 当たり前だと。



 
 きっと、そういってくれるに違いない。

 全てを捨て。神と運命に逆らい、笑いながら愛するもののために死んでいく。

 




 その姿に。

 私の姉達と同じ行動をした、士郎。 

 だからその存在を、もう無くしたくないと思った。






 …………だから。 




 実力を知りたいと思ったのだ。

 貴方達を世界に取られないために。
 
 


 運命に翻弄され化け物になったからこそ。

 解ることがある。

 世界は、神々は。

 決して優しくない。

 貴方達を世界の奴隷にすることを、戸惑わない。

 そして、運命に翻弄され。

 大事なモノを壊した私。…………だから。



 
 もう、大事なモノを無くさないように。

 





 神々の怒りをかい。多くの人間を殺し。実の姉妹を殺した私だけど。

 ………それでも。

 
 貴方を護る。桜の為に。

 
 

 彼女だけは………桜だけは、私と同じモノにはしない。

 私はもう、どうあっても変わることはできないが、

 私と同じ運命をもつ彼女には、

 かなえて欲しい。贖って欲しい。




 かなえることができなかった私の幸福。

 償えなかった私の罪。

 


 

 

 誰も傷つけたくないと願いながら、己の死を恐れ。

 最後に自分が助かる為に、全てに絶望して他人の魔力(命)を吸収した。

 そのあまりに醜い罪を犯した彼女。





 その罪に恐怖し。逃れようと。


 

 ――――みずから死ぬ事を望んだ少女。





 そして、その罪を贖うために生きろ、と。

 そう伝えて、傷だらけで桜を救った士郎。

 その歪んだ士郎の生き方を、美しいと感じ。

 そうなりたいと願った、汚れた少女。




 
 だからこそ。綺麗なものに憧れたからこそ…………罪を贖い続けると、穢れてしまった彼女は誓った。


 10年以上に渡る陵辱。

 食事に毒を盛られ、息をすることすら許しが必要だった、歪んだ教育という名の拷問。

 苦しいと、泣き叫び。懇願すればするほど喜ぶ外道たち。

 その外道たちに、虐げられ続けた魂と救われない体。




 自分以外のナニカに姿を変えられた少女。

 被害者のまま加害者になる、おぞましい【怪物になるという運命】をもってしまった少女。

 光を失い、憎まれ続ける為に生まれた。

 人に穢されるために生まれ、人を穢さなければ生きられなかった少女。



 

 虐待に逆らう事すらできず。

 全てを恨む事しかできなかった。

 人の弱い一面を、誰よりもっている桜。 
 
 



 だけど………それでも。

 その苦しみから、傷だらけで救い出してくれた士郎を美しいと感じ。

 士郎の強さによって、自分の弱さを感じた少女。

 その弱さと向き合い、


 罪を償うと誓った桜。


 自分自身の弱さを知り。それでも、罪を贖い続けるという………その自分勝手な願いを。

 そう願った、彼女のわがままを。

 贖い続けるという彼女の誓いを。




 穢れた身でありながら、それでも綺麗な者を護りたいと願った、

 

 その、あまりにも身勝手な、………桜の精一杯の強がりを。


 





 ―――――とても愛おしいと思ったのだ。



 



 その私にはできない、愚かな想いを叶えるために。

 


 士郎。貴方が桜を守り続ける限り。

 私は、決して貴方を死なせない。

 守護者になどさせない。




 今日解った。貴方は英霊になる能力はある。

 それでも。

 その歪んだ生き方を、人としてなにか欠落した姿を、

 桜は美しいといった。

 


 だからその道標を、消すわけにはいかないのだ。
 
 桜の為に。




 誰かのために生きるという、歪な道標である士郎。 

 歪な生き方を知り、それでも美しいと感じた、桜の為に。

 その歪な道標を消さない為に、世界から運命から貴方達を護る事を。




 ………もう大切なものは壊さないと。







 ――――――それだけを………私は誓ったのだ。


 

 





 










 
<続>



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◆メドゥーサと共に怪物と蔑まれて生きる事
この辺は微妙です。神話ではアテナに逆らい二人の姉は醜い姿にされたとありますが、ホロウでは3人とも美人です。
ですが、ライダーは人間に嫌われています。
ですから、醜いと認識されるような事をしたんじゃないかと。
このへんは特に描写されてないので、神話をなぞりました。



◆ルーがバロールを倒したのはブリューナクという説があります。一般的にはこちらのほうが有名ですが、異説を採用しました。

◆(2柱)本来、神様は一柱、二柱と数えますが、解りやすくするため1人2人と表記します。

◆メドゥーサは元々、大地の女神だそうです。

◆一対一ならカレンにすら負ける可能性がある桜。雑誌の対談での会話です。

◆反英雄は他にもハサン、メディア等もいますが、省略しました。エミヤも反英雄に近いのですが、抑止の守護者は彼だけです。よって抑止の守護者を説明する為に反英雄ではなく、抑止の守護者として書かせていただきました。

◆フラガですが、もう気がついている方も多いと思いますが、最初の戦闘、その他でもライダーを後方で桜を護らせるもう一つの理由です。
ライダーに一番弱い桜を護らせるというほかに、少しでも士郎に敵味方問わず相手をさせ、相手の切り札を知り、フラガにタイミングを合わせる訓練をさせるためです。本編で書く予定でしたが話が長くなる為、後書きに書きます。

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