―――――――英霊エミヤというサーヴァントがいた。




 俺たちが戦った聖杯戦争で弓兵のクラスに召喚されたサーヴァントだ。


 
 弓兵でありながら弓兵でなく、多くの贋作の宝具を持ち、惜しげもなくそれらを散らした矛盾した存在。

 手にする宝具は全て複製であり、無限に剣を製造する事のみしかできない錬鉄の英霊。


 
 未来の衛宮士郎。

 夢を裏切った俺には、もう決して辿りつけない男。

 未熟な衛宮士郎の能力を完成させ、俺の理想をかなえた男。

 あの聖杯戦争でいないはずの未来の英霊。


 

 だが、奴は全体のステータスでは、

 マスター殺しに特化した暗殺者のサーヴァント、ハサン以下だった。

 対魔力は三騎士の中で最も低く、ライダーにすら劣る。

 弓の英霊にもかかわらず、宝具の有効射程距離ではランサーにすら劣った。

 筋力は魔術師のサーヴァントであるキャスターにしか勝てない。

 洗練された武術を極めた実績はなく、才能にも恵まれなかった。




 その技能の低さをフォローするべきは、その英霊が持つ宝具。

 サーヴァントの持つ武装であり、象徴であり、奥の手である。

 そしてアーチャーのサーヴァントは宝具の強大さが特徴だ。






 にもかかわらず、

 奴の宝具である固有結界<無限の剣製>

 他の英霊に比べて詠唱が以上に長い宝具。



 だが、その詠唱の長さにもかかわらず、

 その宝具は大抵の武器では傷すらつかないサーヴァントにとって、大した脅威にならない。

 相手の宝具や技量を複製しても、それを極限まで使いこなす本来の『担い手』ほどの技量がないためである。




 
 肉体、能力、魔力、宝具の威力。………………そして幸運さえ低い。

 全てにおいて弱いサーヴァント。英霊エミヤ。

 だが奴は自らのマスター、遠坂凛にこういったという。

 


 ――――――――私は最強のサーヴァントだ、と。




 

           遠い雨 14話





 学園長室で事の詳細を聞き、俺たちはネギ君が向かったという図書館島へと向かっていた。

 ネギ君はなんらかの理由で、寮を抜け出し図書館島に向かったらしい。

 だが、今日は俺がいないから桜達と一緒にいるように頼んだのだが。

 なぜ、危険を冒してまでそんな事をしたのだろうか。





 「しかし、何でネギ君はあんな場所にいったんだ?」

 「さあ? しかし桜さんとライダーさんは寮の警護をしていただいてますし」 


 

 冴え渡る月光の下。まだ冬の気配が残る空気は冷たく、

 肺から漏れた熱気すら凍りつき、戦いの熱を急速に冷やす。




 その連絡を受けた俺たち3人は、ネギ君を連れ戻すために、

 戦いの疲れをおして図書館島へと向かっていた。
 
 他の魔法使いはまだ事後処理と残敵がいないか警戒しているらしい。

 学園長はそれらを指揮しなければならず、学園長室を離れられない。

 



 
 
 だから、ネギ君が今、図書館島にいると俺に伝えた後。

 学園長は安全な位置から俺と龍宮に狙撃を依頼した。

 疲れている俺を休ませる為。

 そして、まだ敵を警戒しているため。他の魔法使いを守るため。

 それほど疲れていない手の空いた魔法使いに、ネギ君を迎えに行かせる。

 そう申し出てくれた。

 




 本来ならば他の疲れていない魔法使いが行くべきなのだろうが…………。

 正直、エヴァンジェリンの事件からまだ学園を信じられない。

 ネギ君は大戦の英雄の息子だ。

 傷つける事はないと思うが、何事も警戒して損はないと思う。

 


 
 だから、俺が行くと学園長に頼んだのだが。

 まさか、この2人もついてくるとは思わなかった。




 「それにしても、学園の図書館に龍がいるとはね…………」

 龍宮の呆れたような声に、桜咲と苦笑する。

 

 確かにいくら貴重な蔵書があるとはいえ、学園に龍がいるなど誰も想像しないだろう。

 二度の大戦から戦火で、貴重な書物が焼かれるのを防ぐために創られた、世界最大規模の図書館。




 とはいえ、たかが学園都市にある図書館を守護するものがまさか龍とは。

 この学園のスケールの大きさに少し驚く。

 だが、ネギ君が迷い込んだ場所はどうやら龍が守護している近くらしい。

 よっぽどの事をしない限り、攻撃はしないと言っていたが。



 
 「少し急ぎましょう。何もないと思いますが早く連れ戻した方がいい」



 桜咲の言葉にうなずき、まだ少し痛みの残る足を引きずりながら図書館島へと急いだ。 


 

 
 ◆




 
 学園長に言われた場所にいき、地下直通のエレベーターに乗る。

 静かな駆動音。身体に奇妙な浮遊感が押し寄せる。

 その浮遊感に身を任せながら、なぜネギ君がここにきたのか考えていた。



 先程、桜に連絡が取れなかった。

 その理由は学園長から聞いた。

 敵の各個撃破をしなければならない学園としては、連絡は密に取りたい。だが、

 敵もあの雷電を召喚することを限界まで隠すために、

 認識障害の魔法を広範囲にかけていたようだ。

 

 おかげで、学園との連絡は基本的には専用の携帯でしかとれない。

 また、寮に学園長自ら結界を張っているため外との連絡もつきにくいようだ。

 強力な結界は外界との完全な隔絶を意味する。

 それが僅かでも破れれば、学園長はすぐ気がつく。

 また、孫娘がいるのだ。

 そのぐらいの警戒はするのだろう。

 ということは、結界を張る前にネギ君は家を抜け出したことになる。



 

 なぜ、桜とライダー………それにネカネさんは気がつかなかったのだろうか。

 いや、気がついたが結界のために外と連絡が取れなかったのか?






 だが桜とのパスは閉じていないし、魔力も十分に供給されている。

 第一、ライダーがいる以上、

 無駄な心配だと思う。

 だが、せめて桜のそばにネギ君がいない理由などを聞きたかったのだが。

 

 そんな事を考えていると、僅かな振動の後、エレベーターは停止した。

 目的の階につき、もう一度学園長に連絡を取ろうと電話をかける。

 早くネギ君の現在位置をしり、連れ戻した方がいい。

 だが、その行動は。





 「――――――おや? 珍しいですね、侵入者ですか」




 そんな、なんでもない一言に邪魔をされた。








 ◇




 

 

 まるで、蜃気楼のように現れた男に私は夕凪を抜こうと身構える。

 目深に被ったフード。

 全身をローブですっぽりと覆っているが、何気ない動作に隙がない。






 「―――――――っ」


 背筋に悪寒が走る。

 ………恐ろしい。
 
 目の前に存在し、この目で見ているというのに今にも消えそうな存在感。

 にもかかわらず、その圧倒的な力量は私に凄まじいプレッシャーをかけている。

 桁外れの魔力量。

 幾多の死線をくぐり抜けたものだけが持つ威圧感。

 



 ―――――にもかかわらず、存在感がないのだ。




 この矛盾した存在。

 正直、まだ龍のほうが怖くない。

 学園長から聞いた龍のレベルからすれば、

 専門の装備があれば数日で倒せるし、衛宮先生は魔法武器の転送が得意なようだ。

 装備を集めるのは難しくない。

 だが、目の前にいるこの男に勝てる装備が思い浮かばない。
 
 力量が測れない。

 高畑先生と互角か? もしくはそれ以上か?






 それにこの男に、龍宮も衛宮先生も気がつかなかったようだ。

 危険になにより敏感なはずの2人がである。





 私もお嬢様を護る為に鍛えてきた。

 だが、実戦。それも自分よりはるかに強い者と戦うという経験がない。

 あくまで稽古でなら自分より強い者と戦った事はある。

 だが、自分より強い者と生死をかけた戦いは経験がない。

 

 


 この2人、龍宮と衛宮先生は違う。

 各地の紛争地帯を綱渡りのように戦い続けた龍宮。

 彼女の戦闘における嗅覚は異常だ。
 
 その龍宮が同じ匂いがするといっていた衛宮先生。
 
 危険に誰より敏感な2人。

 戦闘経験と勘から、敵や危険を嗅ぎ分ける第六勘が発達した2人。

 この2人が気がつかないなんて。 


 



 初めての経験に戦慄が走る。

 いくら強くとも、まだ14歳の少女。桜咲刹那が初めての経験に全身を強張らせても不思議ではない。

  




 その不気味な圧迫感が3人を覆ったとき。




 目深に被ったフードの男から、むしろとても優しい声で囁かれた。

 「まだ質問に答えて頂いてないのですが、貴方達は侵入者ですか?」

 


 ―――――違う。



 そう言うだけでいいのに、舌が喉に張り付いて答えられない。

 この圧迫感にもかかわらず、その優しい声音。

 それがよりいっそう恐ろしい。



 このまま戦うのだけは避けなければならない。
 
 ここにいるなら私達と同じ学園の人間のはず。



 だが、そんな事は関係なく……………この【モノ】と戦ってはいけない。

 私の本能がそう告げる。

 戦ってはならない。

 戦えば必ず負ける。

 お嬢様を守る戦いでもないのに、こんな【モノ】と戦ってはいけない。

 

 

 「いや、私達はこの学園の人間だ。あなたこそ誰なのか教えてくれないか」  



 衛宮先生の言葉に、フードの男はニッコリと笑い。



 「その言葉を証明できますか?」



 と聞いた。






 ◇



 

 衛宮先生は携帯を取ると、学園長に連絡を取ろうとしている。

 私と刹那は奴に隙をみせないように身構えた。

 魔眼を発動し、どんな状況でも対処できるように奴を観察し続ける。

 

 

 刹那も気がついているだろうが、コイツの存在はおかしい。

 魔力の量、圧倒的な力量を感じるプレッシャー。

 歴戦の戦士にふさわしい隙のない動き。




 にもかかわらず、存在感がない。

 分身体かとも思うが、ここまで密度の濃い分身体など聞いた事がない。

 楓なら密度の濃さだけなら同様の能力があるかもしれん。

 だが、分身体にここまで魔力量があるだろうか?

 存在感を消し、魔力量を押さえているのにこの圧迫感だとしたら…………。

 



 「おや、どうされました?」

 「ここは圏外のようだ。連絡がとれない」

 「ふむ、困りましたね。ではあなた方を通すわけには行きません」

 「なぜだ?」

 「これでも、この図書館の警備員みたいなものですから」

 「では、ここに赤毛の少年が来なかったか? それだけでも教えて欲しいんだが」

 


 衛宮先生も相手を警戒しているのか、相手と一定の距離を保とうとしている。

 いつものぶっきらぼうだが、どこか優しい喋り方ではなく。

 冷たい喋り方だ。

 だが、この男が侵入者とは少し考えられない。

 魔法使い、それもこの学園最強の魔法使いが張った結界を破り、

 更に誰にも見つからずに此処に進入する。

 そんな事が出来るなら、あの雷電を召喚する必要がない。

 単独で此処を攻められるはずだ。


 

 そしてそんな事ができるなら、私達を影から暗殺することも簡単なはず。

 第一、もし私達でなくここに高畑先生がきたら…………。

 高畑先生なら当然、学園の魔法使いを知っている。

 嘘ならすぐ解るはずだ。

 侵入者がそんな危険を犯すとは思えない。



 




 ならば、消去法でいくとこの男は学園側の人間ということになる。

 だが、私達がしらない学園側の魔法使い。

 そして、なぜか私達を知らない魔法使い。

 おかしい。

 なぜ私達のことを知らないのだ?

 私達3人は言ってみればこの学園でもっとも部外者に近い。

 なのに知らない?

 学園側の人間が、外部からのスパイかもしれない人間の情報を知らないなどありえるのか?

 


 …………やはり警戒したほうがいいだろう。

 

  

 「この学園の者でもないかもしれない者に情報を渡すとでも?」

 「では、どうすれば信じてもらえるんだ? それに貴方が学園の関係者だと証明できるのか」

 


 その衛宮先生の言葉に、フードの男はさらに笑みをふかめた。

 


 「あなた達より早く此処にいる時点でこの学園の関係者だとは思えませんか?」

 「―――――」

 「第一、あなた達を殺すのならすでに殺していますよ?」





 …………そうかもしれない。

 私達はエレベーターの扉が開き、声をかけられるまでこの男の存在に気がつかなかった。

 もしあの時。言葉ではなく、呪文だったら。

 私達のうち誰か一人。死んでいた可能性がある。 

 フードの男は私達が渋々その事実を認めると、更に笑みを深めた。






 「では、どうすればいいんだ?」

 「簡単です。私の趣味につき合っていただけませんか?」

 「趣味………。そんな事で俺たちを信用するのか?」  

 「ええ、これは趣味と実益をかねた事ですから」






 そういいながら、その手から現れたのは仮契約カード。

 警戒を強める私達の前で、螺旋を描くように本が現れる。

 


 「申し遅れました。私の名はアルビレオ・イマ。またの名をクウネル・サンダース趣味は………他人の人生の収集」

 


 そう言いながら、アルビレオ・イマと名乗った男は本に紙片を挟むと、

 光と共に、…………衛宮桜になった。

  




 「そしてこれが私のアーティファクト、『イノチノシヘン』です。
 特定人物の身体能力と外見的特長の再生、ただし自分より優れた人物の再生は数分ですがね。
 半生の書を作成した時点での特定人物の全人格の完全再生、まあ再生は一度きりで、再生時間は10分間ですがね。
 この能力を使えば貴方の過去、能力を知る事ができます。同時に貴方が敵かどうかも」


 



 衛宮桜になった男はなにか言っているが、





 ――――――それよりも隣にいる衛宮先生から漏れる殺気で息ができない。

 あまりにも明確な殺意。

 衛宮先生がこれほど怒りをあらわにするのを見たのは初めてだ。

 隣で刹那も驚いたような顔をしている。

 当たり前だ。

 殺意とは深く静かに研ぎ澄ますもの。





 しかも相手は得体の知れない能力。

 冷静にならなければならないはずだ。

 私達より戦闘経験が多い、衛宮先生ならそんな事にはすぐ気がつくはずなのに。

 あまりにも簡単に挑発されている。



 
 「…………。一つ聞く、桜の姿になったという事は俺たちを知っていて、桜の過去を知ったということだな」

 「さて? どうでしょう」
 
 


 衛宮先生を最初から挑発するつもりで、そんな格好をしたのにヌケヌケとよくいう。

 だが、衛宮桜の傍には常にライダーさんがいる筈である。

 ライダーさんを離れさせて、衛宮桜の過去を知る?

 あの人間では決して勝てない。と、おもわせるほどの力を持ったライダーさんを?



 …………無理だ。
 
 この男、アルビレオ・イマがどれほどの力を持っていようと、

 誰にも知られることなく、衛宮桜の過去を知る術を使うなど。

 とても信じられない。











 では。遠距離から衛宮桜の過去を読み取り、情報を得た?

 なおさらありえない。

 アーティファクトにそこまでの能力があるとは思えない。

 あれほどの能力。

 なにかマイナス要因、しなければならない制約などがあるはずだ。

 だとするなら、あれは単なる幻術の可能性がある。

 桜さんの幻影を被っただけ、と考えた方が納得できる。


 



 「そうか、答える気はないということか?」

 「いえいえ。貴方の過去を見せていただければお教えしますよ」






 ―――――ぎしり。
  
 衛宮先生の歯が鳴る。

 奥歯を砕きそうになるほど噛み締めるその姿から、不快を通り越した激しい怒りを感じる。



 まずい。相手が学園関係者なら下手に手を出せばこちらの立場が悪くなる。

 衛宮先生はまだこちらに来たばかり。

 私は元々フリーの傭兵。

 刹那は学園長の孫である近衛木乃香の護衛だが、

 元はといえば関東魔法協会と敵対関係の西の剣術。京都神鳴流出身だ。

 立場が悪すぎる。

 もし何かあった場合、この学園での立場はどこまで悪くなるのか。






 

 衛宮先生を落ち着かせようとするが、もうとまりそうにない。

 衛宮桜を大事にしているのは解るが、ここで戦うのはまずい。

 あのアルビレオ・イマという男、どう考えても衛宮先生を挑発している。



 だが、偶然にしては出来すぎている。
  
 ネギ先生が偶然ここで行方不明というのも変だ。

 しかも、この広い場所でいきなりこのアルビレオ・イマとかいう男に見つかるなど。

 こんな事、誰でもすぐに解るはずなのに。

 衛宮先生だけが気がついていない。

 それほど、怒っているのだろうか?




 

 「――――凄い殺気ですね。このままでは負けそうです…………」

 

 

 衛宮先生の冷たい殺気に、アルビレオ・イマは余裕の笑みを浮かべ、

 その体が再度光に包まれる。

 そして、現れたその姿は…………。




 ◇



 光が消えた瞬間―――




 ―――どくん。




 心臓が跳ねた。





 目の前にいるのは美しい女性。

 顔の半分が隠れていても、それだけはなぜか解る。

 目も奪われる微笑を零し、風に靡きながら輝いている紫紺の髪はまるで生きている蛇のようだ。

 自身の足元まで届く、見事な紫紺の髪。

 
 
 大人の女性特有のしなやかで豊満な肢体は、見事なまでのボディラインを描き、

 その身体の線をそのまま現すような漆黒のワンピースに身を包んでいた。

 龍宮ほどではないが女性にしては身長は高いほうだろう。
 




 その目元には、濃い紫色をしたアイマスク。

 だが、ただのアイマスクには見えない。

 それ自体から発する魔力。

 見るものに嫌悪感すら抱かせる禍々しさ。

  



 だが、何より驚いたのは。

 そう、いつもと違う装いをしていようと、目元が隠れていようと。

 見間違うはずがない。

 なにより、この高い魔力。存在感。



 「…………ライダーさん?」




 桜さんの従者、使い魔であるはずのライダーさんであった。





 ◆




 

 「さて、少々お手合わせを願えますか? と言ってもこの体でいられるのは十分程度なんですが」

 

 何かいっている。

 ライダーの姿になった奴が、何かを言っている。

 何を?

 なぜ、こいつはライダーの姿になったのだ?


 

 「ああ、拒否権は無しです。………赤毛の少年がどうなったか知りたいのでしょう?」




 なぜ、学園側の魔法使いが?

 ネギ君に危害をくわえる気なのか?

 ライダーの能力を簡単になぜコピーできる?

 この魔力と圧迫感。

 間違いなく、ライダーのものだ。


 


  「早くしましょう。貴方が終わったら………桜さんの人生も収集したいのですから」 









 ――――ドクン。

 心臓が跳ねる。

 憎しみがあふれようとする。


 ダメだ。落ち着け。冷静になれ。こんな挑発に乗るな。

 




 だが、思考はとまらない。

 思い出すのはあの時。あの戦争。
 

 



 あの冷たい雨の感触。

 凍えた桜。

 俺の日常の象徴だった桜。

 俺を必死に拒絶し、雨の冷たさと罪悪感から震え続けていた。

 あの時、桜をより苦しめたのは、俺自身。

 

 

 これから生きる為には多くのものを殺し、吸収しなければいけなかった桜。
 
 その事実に誰よりも恐怖し、死を選ぼうと必死になった桜。

 だが、自分で命を絶つことができず苦しみ続けた。





 日に日に記憶がバラバラになり、自我がなくなる恐怖。

 死を受け入れながら、それでも希望に縋る醜さに桜は自分自身を嫌悪し続けていた。






 もうすぐ消える。何時死んでもおかしくない。

 だからこそ、少しの間でいい。

 今を、日常を楽しみたい。

 もう、死ぬから。

 私が死ねば、先輩は自由になるから。

 だからもう少しだけ、ソバにイサセテ。





 そんな小さな願い。

 



 そしてあの時。 

 桜がまだ人であり続けていたいなら。
  
 ――――――俺はあの時、桜を殺すべきだったのかもしれない。





 そうすれば、桜は現在も罪に苦しむ事はなかったかもしれない。

 あの後、多くのものを殺さずにいられたかもしれない。

 最後に己の姉を傷つける事もなかったのに。
 
 そして、その罪に懺悔し続ける桜を俺は…………。

 生かした。





 俺は桜の命を救ったが、結局誰も救えなかったのかもしれない。

 多くの人の命を犠牲にし、それでも救った桜は未だ過去の罪に怯えている。

 

 



 長い間、桜にはあきらめる事しかなかった。痛みも苦しみも感じられず、ただ受け入れる日々。

 俺と知り合ったことによって、桜はあきらめる以外の感情を取り戻した。

 その多くは痛みと苦しみ。

 俺は自分を守る【あきらめる】という術を得た桜にまた痛みを思い出させてしまった。

 




 目の前にいるライダーに言われた言葉だ。

 「貴方はあきらめる事しか知らない桜に、痛みと苦しみ、そして………幸せを思い出させた」
 




 あの聖杯戦争で初めて知った、桜の過去。

 虐待の日々。何時死んでもおかしくない狂った日常。




 後に遠坂は語った。「―――――私なら一日持たないかもしれない」
 
 あの、遠坂にすらそういわせた、虐待の日々。
 
 だが、それを耐えた桜はヒトとして大事なモノを幾つも失った。

 笑い、喜び、悲しみ。

 そんなモノを感じては生きていけない日常。



 それでも俺と過ごしたなんでもない日常が、とても大切だった桜。 





 贖いを求め、黒い聖杯の前で自ら死ぬことを望んだ少女。

 俺にこの場から逃げろと言い、もう誰にも迷惑をかけない。

 この場で死なせてくれと願った少女。



 そしてその桜を、俺は自分のエゴで…………救い出した。

 贖いを求め最後に、死を選んだ少女を俺は助けた。

 それを“罪”だと言うなら、俺は“罪”を贖い続ける。

 

 この身が………いつか滅ぶまで。





 だが俺を守る為に自ら黒い聖杯に踏み込んだ………イリヤ義姉さん。
 
 あの戦争で己の罪に震えた少女。桜。

 この2人を侮辱する行為だけは許さない。





 ―――――その悲しい過去を、趣味だというだけで覗く。そんなことはさせない。 





 絶対にさせない。 

 贖いを求める桜を、侮辱する事も。

 これ以上傷つける事も。

    

 イリヤ義姉さんの優しさを嘲笑う事も。

 そんなことは誰にも許しはしない。


 



 ◆








 ――――――相当に怒っていますね。

 憎まれ役は慣れているとはいえ、恨みますよ近衛。ライダーさん。


 

 衛宮君の魔法の秘密を探る為。

 そして、ライダーさんからの依頼…………というより、脅迫。

 あのままでは、図書館島自体が壊されそうでしたから。

   

 

 この姿で衛宮君との戦闘を頼まれたあの時、ライダーさんはかなり必死だった。

 なぜか、この体での戦い。

 ライダーさんとして、衛宮士郎と戦う事。
 



 衛宮君の実力と隠された秘密もわかるし、こちらとしても異論はないのですが。

 ただ、こんな事でイノチノシヘンを使うのは、少しもったいない気がした。



 それでも。ライダーさんの記憶は私は読めませんでした。

 その理由、ソレはおそらく。魔法の種類が違うから。

 魔法の種類。基盤が違う故に、アーティファクトの能力が中途半端にしか効かなかった。

 更には、ライダーさんがもう死んでいる。というのが大きい。
 
 生きているものから記憶を読むことはできても、もう死んでいるライダーさんから記憶を読むことはできないのだろう。



 

 はあ、龍宮さんは魔眼を持ってるのでクウネルと名乗ってもすぐ解ってしまいますし。
 
 仮契約カードは便利ですが、本名が解ってしまうのが難点ですね。

 この文字が消せれば、クウネルと呼んでもらえたのかもしれませんが。



 仕方ありません。少しお相手しましょう。





 ◇





 目の前にいるライダーさんの姿をしたアルビレオ・イマが釘剣を構える。

 解らない。

 先程聞いたアーティファクトの能力は本当だろうか?

 だが、その存在感。魔力の量。

 本物のライダーさんとほぼ同じに見える。

 


 「―――――衛宮先生」

 「桜咲と龍宮は離れていてくれ」

 「しかし………」

 「頼む」



 

 確かにこのアルビレオ・イマと名乗る男が、学園の魔法使いだった場合。

 私達が争えば立場が悪くなる可能性がある。

 だが、それは衛宮先生も一緒だ。

 どう考えても、ここで衛宮先生が争う必要はない。

 アルビレオ・イマと名乗るこの男に全て押しつけて、ネギ先生の捜索を任せればいいのだ。

 なのに戦おうとしている。

 なぜだ。



 そんなに、過去を………いや、衛宮桜の過去を知られたくないのか?

 その可能性がある人間を、――――殺したいのか?






 一度は止めた以上、私にも刹那にもこれ以上かかわる必要はない。

 元々、私はフリーの傭兵だし、刹那は近衛木乃香の護衛しか考えていない。

 無理に何かをして無用な面倒はごめんだ。

 

 だが、どこか仕組まれた茶番に見えるのが止めない本当の理由かもしれない。










 私達が下がるのを確認した後、「―――――――」衛宮先生は小さく何かを呟いた。

 

 そしてその身に纏われたのは、赤の外套に黒い軽鎧。それに少し大きめの手甲。

 転送の魔法だろうか?

 はじめて見る衛宮先生の武装に、違和感を感じる。

 今まで、それに先程の雷電にすら身につけなかった武装。

 それほどライダーさんの力が恐ろしいという事だろうか?

 



 確かに魔眼で視ても、かなりの魔力を秘めた魔法の品だということは解る。

 だが、その魔法の武具である赤の外套や黒い軽鎧も、ライダーさんの前では霞んでしまう。

   
 

 彼女の魔力量は異常だ。

 人間以上の存在。

 見ただけで解るその異常な魔力の塊。

 夢か幻と見紛うほどの美しさと、濃密な殺気。 




 その瞬間。


 ――――――消えた!?


 目の前から黒い影が消失する。

 次の瞬間、衛宮先生の頭上で甲高い金属音と共に双剣が振るわれていた。

 弾き返したのは、鎖つきの釘剣。

 ライダーさんは更に右後方へと移動している。 




 馬鹿な!?

 瞬動? いや違う。

 氣、もしくは魔力を足に集め爆発的な推進力を得る瞬動術。

 だが、そんなそぶりは少しも見えなかった。

 足に魔力が集中するその一瞬。
 
 魔眼で見極められないはずがない。

 ならば、今の移動はあくまでライダーさん自身のスピードということになる。

 ただ、走る。

 それ自体がすでに瞬動レベルのスピードという事か。

 

 
 身の寒くなるような殺気が辺りを覆い尽す。

 ライダーさんが持っている武器。

 釘というにはあまりにも鉄塊すぎるその釘剣は、

 鎖に繋がれ変幻自在の蛇と化す。

 ジャラジャラと響き、鳴り続ける鎖の音色は途切れる事はなく。

 衛宮先生の回りに纏わりつくように、私達の耳を汚す。

 
 

 そこから更に始まる連撃。




 
 紫の髪を靡かせ、闇を切り裂く紫電の火花。




 変幻自在の動き。
 
 死神の鎌を持って荒れ狂う、蛇。
 
 背中、首、腹部、眉間。

 体を食い破ろうと襲いかかる。
 
 その軌跡に火花を散らして、守り続ける黒と白の双剣。


 
 紫電が闇を疾走し続ける。
 
 だが、その雷にも似た一撃を衛宮先生は弾き続ける。

 早いわけではない。

 力が強いわけではない。

 まるで剣自体に意志があるかのように動き続ける、その剣舞。

 
 
 だが、ライダーさんの釘剣は容易く衛宮先生の領域を侵犯する。

 変幻自在の釘剣は回をますごとに、

 衛宮先生の守りを崩す。




 それも当然。

 どうみても人間以上の存在。

 力、スピード。武器の射程距離。

 この3つはどうみてもライダーさんのほうが上だ。
 
  

 「ちぃ―――――!」



 しかも、衛宮先生は先程の戦いでかなりの深手を負っている。

 いくら表面を塞いだとはいえ。

 血の量は足りず、体力も回復していない。

 
 

 点にすぎない釘剣の軌跡。

 視認すら難しいその閃光にも似た一撃は、手元で微妙に変化する。

 

 鎖や紐でつながれた武器。

 万力鎖、七節棍、流星捶。

 これらは、手元の鎖を操る事によって幾つもの軌道に変化する。

 ライダーさんの鎖つきの釘剣も同じだ。

 第一、ライダーさんの動き自体、目にもとまらぬほどのスピードなのだ。

 故にライダーさんの釘剣は変幻自在の蛇と化す。

 その一撃は閃光のごとく。

 人間がかわせるとは思えない。





 だがそれを防ぐほどの剣舞を衛宮先生は…………。  




 ◆





 そう、本来。衛宮士郎にこれらをかわせる才能はない。

 だが、長年共に戦い、時にはライダーの釘剣を投影する事によって得られた憑依経験。

 それによって、士郎はある程度先読みができるようになっていた。

 だが、所詮人間。
 
 力、スピード。そして射程距離。

 この三つで負けている――――――だが、この事実のみを武器にして猛攻を捌いていた。





 いうなれば攻撃箇所の調整である。

 長年共に戦い続けた戦友。

 その武器を何度も投影したことにより得た憑依経験。

 この2つにより、ライダーのくせを読み取り。
 
 致命的な隙を作ることにより、ライダーの攻撃を限定させる。

 今まで鍛え続けた能力と、培ってきた戦闘経験による状況打破。

 未だ赤い弓兵には届かない技術。

 【心眼】である。



 非凡なものではない。

 彼がもつ唯一のスキル。


 
 セイバーの【直感】のような先天的な物ではなく、愚直なまでに修練を重ねれば誰にでも手が届く。

 凡人ゆえの武器。

 


 その武器だけで、攻撃を防ぎ続ける。




 ◇



  


 なるほど。衛宮先生の自信も頷ける。

 どういうカラクリかわからないが、ライダーさんの攻撃を完全に防いでいる。

 このまま戦いが続けば、あのアーティファクトの制限時間がきてアルビレオ・イマの負けだ。


 


 それに、武器が違う。

 ライダーさんの釘剣は相当に頑丈そうだが、あくまでそのレベル。

 衛宮先生の持っている双剣ほどの魔法の品にはみえない。

 事実、僅かながら欠けているようだ。




 ――――所詮、竹刀で木刀は折れない。

 神秘の少ない武器で神秘の高い武器を壊せない。

 圧倒的な技術差があればそれも可能だろうが、この2人にはそこまでの差はない。

 あの釘剣がもっと大質量なら話も違うのだろうが………。






 ◆




 この龍宮が視ていることは正しい。

 士郎が使っている干将・莫耶は仮にも宝具。ランクこそ低いが一級の魔術品である。

 対してライダーが使っている釘剣。

 頑丈なだけであくまで宝具ではない。

 故に、武器を使った戦い。

 これに限定した場合、修羅場を共にくぐり抜け、ライダーのくせを知っている士郎を傷つけるのは難しい。



 ライダーが騎乗兵のサーヴァントであるためというのもある。

 ライダーとは、何らかの乗り物に騎乗して騎乗槍を使いこなせる者が該当する。

 ライダー自身の能力は軒並み低く設定されており、サーヴァント自身よりも所有する武器が強力なクラスだからだ。



 


 そう。ライダーがもっとも恐ろしいのは。

 ライダー自身の能力ではなく、英霊の武装【宝具】である。





 ◆





 ………血が逆流する。

 桁違いの一撃に塞いだばかりの傷口がひらく。

 耳鳴りが加速し鼓膜を麻痺させ、鉄の味と匂いが呼吸を乱す。



 早い。桁違いだ。

 それでもライダーの言う事が事実なら、俺はこの攻撃をさばける。

 「もし、あの時。士郎が一人でセイバーに立ち向かったとしたら、勝利寸前までいけるかもしれません」

 

 あの時、セイバーとの最後の決戦。
 
 もし一人で戦っても、あのときの俺はそこまでの力があったという。 

 ならば、あのときより鍛えた俺なら。

 桜からの無限の魔力供給を得た今なら。

 ライダーの動きについていけるはず。



 だが、先程の戦闘で血を流しすぎたようだ。
 
 視界は白濁し、視界のはじに黒い影しか見えない。

 数ミリ先を物体が通り過ぎる感覚。
 
 焼けた匂いは自分の肉だろうか?




 だが、さばける。

 体が動く。

 あの赤い弓兵の戦闘技術、ライダーの憑依経験。

 全てで先読みできる。
 


 アト、モウスコシ―――――。





 ◇










 もう勝負はついた。

 ライダーさんの攻撃手段があの釘剣だけである以上、衛宮先生に致命傷は与えられない。

 あとは、ライダーさん自身の力であの釘剣が壊れるのを待つばかりだ。

 

 だから問題はあのアーティファクトが解けた後。

 アルビレオ・イマがどう動くか?

 あくまで敵対するか。

 それとも…………。

 

 衛宮先生の双剣が空を切り、ライダーさんは長い髪を靡かせ剣を避ける。

 もう釘剣がもたないのか。

 肉弾戦に持ち込もうとしたライダーさんの蹴りは衛宮先生の双剣に防がれる。






 「ぎっ────、クッ!!」

 怒号を発し、迫る一撃を耐え凌ぐ。

 いくら双剣で耐えようと、その威力は人間が耐えるにはあまりも大きすぎる。

 双剣は砕けなくても、肉体は別だ。

 雷電との戦いで塞がりきっていない傷口が開き、鮮血が床を汚す。




 絶え間のない斬撃。

 間合いが違う。

 速度が違う。

 力が、存在が違いすぎる。



 
 それでも、衛宮先生は守り続ける。

 威力は段違い、その剣風に蹴撃に剣をうち立て威力を相殺し続ける。

 だが、ライダーさんの肉体もダメージを受ける。

 肉体で真剣を蹴るなどすれば、当然ある程度の裂傷が体に刻まれる。






 ――――、一進一退。

 故に、ライダーさんの武装はどんどん傷ついていく。

 釘剣はボロボロになり、剣を蹴った足も傷ついている。

 圧倒的な力。

 それ故にライダーさん自身が傷ついてしまう。

 まるでハリネズミに自分からぶつかる猫のようだ。

 体が大きく、強いのに。

 針に対抗する武器がない。






 ライダーさんにせめて、衛宮先生の剣と同じ程度の魔法の品があればいいのだろうが――――。

 だが、次の攻撃が始まるときに。






 くすり………。小さく笑ったその顔は、ライダーさんの笑顔にはとても見えなかった。


 

 衛宮先生との間合いは6メートル。

 その距離をとったライダーさんは、いや。

 ライダーさんの能力を被ったアルビレオ・イマは自らの顔に手をかけ、



 「―――――惜しかったですね。衛宮君」



 その黒い封印を排除した。




 その次の瞬間。




 ――――――全てが凝固した。






 ライダーさんの裸眼。

 それは数ある魔眼の中でも最高位に属する、ヒトならざる【魔眼】だった。









 「―――――はっ!!!!」

 灰色の眼。

 水晶細工とさえ取れるソレは、眼球というには異質すぎた。

 光を宿さない角膜。

 四角く外界を繋ぐ瞳孔。

 虹彩は凝固し、眼を閉ざす事を許さず。

 視覚情報を伝える網膜の細胞は、億にいたるその悉くが第六架空要素で出来ている。





 ―――――神が愛でた芸術か、神が妬った天性か。

 ライダーさんの灰色の眼はこの上なく異質で、

 同時に、ヒトが持つにはあまりにも…………美しすぎた。




「なっ―――――」

 まさか石化の魔眼か?





 ◆







 ―――――魔眼。

 魔術師が持つ、一工程の魔術行使。

 本来、外界からの情報を得る受動機能である眼球を、自身から外界に働きかけて能動機能に変えたもの。

 視界にいるものに問答無用で魔術をかける代物で、

 標的にされた対象が魔眼をみれば効力は飛躍的に増大する。

 決して見てはいけないモノ。
 
 見るだけで相手の術中に嵌るという恐ろしい魔術特性だ。

 

 その隠匿性と能力から、元いた世界の魔術師の間で魔眼は一流の証とされる。

 自身の目を魔術回路に作り変える技法は、魔術刻印と呼ばれるものに近い。


 もっとも、人工的な魔眼では魅惑や暗示程度の力しか持ちえない。

 強力な魔眼保持者は、決まって【生まれつき持っていたもの】に限られる。





 ―――――束縛。強制。契約。炎焼。幻覚、凶運。






 そういった他者の運命そのものに介入する魔眼は特例とされ、

 その中でも最高位とされるものが【石化】の魔眼だ。




 俺たちの世界でこの魔眼を持つ魔術師はいない。

 こちらの世界と違い。

 石化の魔術だけでも可能とする魔術師は少ないのだ。

 それを問答無用で。【見る】だけで可能とすることがどれほどの神秘か。





 …………自己封印・暗黒神殿。

 それは神域の力によって封じられた神の呪い。

 神代の魔獣、聖霊しか持ち得なかったとされる魔の瞳。



 視線だけでヒトを石にする、英霊メドゥーサの証たる魔術宝具である。





 ◇





 石化の魔眼。

 まさかこれがライダーさんの切り札とは。



 では、彼女の正体は。

 ただのゴーストライナーなどではなく。




 ────ゴルゴン三姉妹が末女……メドゥーサなのか。

 美の女神の嫉妬を買い、地に貶められた怪物。

 絶世の美貌を誇り、海神にさえ寵愛を受けし大地の女神。

 ならば、この魔力量も頷ける。

 だが、この状況では………。





 「―――――――く」

 

 ごとりと心臓が止まる。身体が冷たく硬直する。

 体が動かない。せめて刹那だけでも逃げろ、と。

 伝えたいが、もう言葉が間に合わない。

 油断した。

 このままでは、私は………。

 体が動かない。手足は糸の切れた人形のようだ。

 逃げ切れない。

 あの視線から逃れるために。

 なんとか体を動かさなければ。

 その私の思いは、一瞬の後。




 「…………な、なに?」

 簡単に体が動く事に気がついた。

 刹那も不思議そうな顔をしている。

 目の前にいるのは、先程まで戦っていた衛宮先生。

 その右手甲が消え、周囲には焦げた臭い。




 …………そして、目の前にいるのは外したはずのアイマスクを【つけたまま】倒れているライダーさんがいた。






 ◆



 


 ……………刻がとまる。

 ライダーの動きが見える。この一瞬。
 
 これを待っていた。

 右の手甲。これが今、一番近い。

 見極めろ、どっちだ。

 ライダーの宝具。

 ベルレフォーンなら首を切る。
 
 石化の魔眼なら眼帯をとる。

 

 回路に魔力を叩き込め。この一瞬のために剣の射出はしなかった。

 全てまわせ。この一瞬。撃鉄をおこせ。見極めろ。引き金を引け。



 難しい筈はない。

 不可能な事でもない。

 もとよりこの身は、

 ただの贋作者【フェイカー】なのだから。
  



 帯電させる。
 
 右の手甲に仕込んだ宝具。

 奴の手は顔にいった。
 
 ならば。次に来るのは石化の魔眼。

 後の2人まで巻き込む、恐るべき宝具。




 その美しき灰色の魔眼。



 女神すら嫉妬したその美貌。

 その力が俺にくる刹那。





                           「“後より出でて先に断つもの(アンサラー)”―――――――――」

 



 囁くように右の武装に息吹をかけた。

 

 見るもの全てを石化させる呪われし魔眼。
 
 その先制に、僅かに遅れるカタチで、






                           「“斬り抉る戦神の剣(フラガラック)―――――――!!”」






 宝具を発動させた。

 






 死を告げる一筋の光の軌線。

 唸りを上げて、ライダーの胸に吸い込まれる。


 

 ライダーの胸には一点の穴。
 
 最小の致命傷。小石ほどの傷、フィルムに焼きついたような黒点。

 それが、この宝具の力だった。




 「っ、ぢ―――――」

 今の一撃で右手の甲は焼け爛れ、手甲は魔力にと還った。

 ライダーの近くに落ちている球体は鉛の色を失い砕けようとしている。

 魔術回路は悲鳴をあげ、

 急に動かされた筋肉は悲鳴をあげている。



 そしてライダーの顔には。

 外したはずの眼帯があった…………。





 ――――フラガラック。

 それはケルト神話に伝わる、戦いの神ルーが持つとされた短剣。

 伝説によれば、その剣は持ち主が手をかけるまでもなく鞘から放たれ、

 敵が抜刀する前にこれを斬り伏せたという。





 先制したライダーの魔眼と遅れて撃ち出したフラガラック。

 勝利すべきは間違いなくライダーだった。

 だが、フラガラックは魔眼を上回る速度で射出され、

 ライダーを破っただけでなく、石化の魔眼による攻撃自体も消滅―――キャンセル―――させた。





 ――――逆光剣フラガラック。

 この剣が斬り抉るのは敵の心臓にあらず。

 両者相討つという運命こそ両断する、必勝の魔剣である。

 フラガラックの特性上、この宝具が先に撃たれるという事はあり得ない。

 対峙した敵が切り札を使う事。

 それこそがフラガラックの発動条件だからである。





 そして、これは俺とライダーでもいえる。

 ライダーの敏捷はA。

 サーヴァントでも1、2を争う俊足である。

 故にいくら俺が先読みしようと僅かに遅れる。

 それゆえこの宝具、フラガラックの発動条件が整うのである。


 


 先を読んでも遅れる。

 故に後から出る。

 【後より出でて先に断つ】この発動条件を満たすのだ。




 本来、いくらフラガラックの一撃が敵を滅ぼそうと、同時に石化の魔眼が俺を石にするはずである。

 必殺の迎撃はその実、己が死を前提にした相撃ちなのだ。

 しかし、このフラガラックはソレを覆す。

 敵が宝具を使用した直後に発動し、

 相手がいかな高速を持とうと更なる高速をもって命中、絶命させる。

 


 針の如く収斂された宝具の一撃は、それ自体確かに誇るべきだが。

 真に恐ろしいのはその特性である。






 【後より出でて先に断つ】

 フラガラックはその二つ名の通り、因果を歪ませ、自らの攻撃を【先になしたもの】に書き換えてしまうのだ。


 



 その結果がどうなるか。

 どれほどの宝具をもってしても、死者にその力は振るえない。

 先に倒された者に、反撃の機会はない。

 フラガラックとはその事実を誇張する魔術礼装。

 運命を歪ませる概念の呪いである。

 それはあらゆる攻撃を無効化する逆光の魔剣。

 


 故に………ライダーの魔眼が俺たちを見るという行為自体をキャンセルした。

 
 

 

 



 ◆
 




 ――――――おかしい。



 こいつ、アルビレオ・イマが言っていた事と矛盾する。

 アーティファクトの能力は、特定人物の身体能力と外見的特長の再生。

 もしくは、全人格の完全再生と言っていたはず。





 だが、なぜなにもしなかった?

 対抗策はあるはずなのに。

 ライダーが俺と正面から戦う。

 これ自体が異常な行動だ。

 なぜ気がつかない?

 こんな簡単なことに。




 俺はライダーに力、スピード、宝具の威力。

 全てにおいて負ける。



 

 だが、それを補うアドバンテージがある。
 
 俺の能力【投影】

 その武器の持ち主の憑依経験を得て、技術を真似る。
 
 だが、基本能力が低い為あくまで猿真似レベル。

 この男………アルビレオ・イマの能力ほど完璧にその人物をコピーできない。


 


 しかし、その持ち主の技を真似ることによって、相手が次になにを行うのか計算できる。

 それが長年背中を任せて戦った仲間なら、なおさらだ。





 ライダーの釘剣を投影した過去、そして共に戦った戦闘経験。最後に磨きぬいた心眼。

 この3つでライダーの攻撃を防ぐ事ぐらいはできる。

 俺が英霊エミヤに唯一、勝てる能力。

 力でも瞬間魔力放出量でも戦闘経験でさえ、英霊エミヤに負ける俺。

 その俺が勝てる唯一の事。




 ――――――それがライダーとの共闘経験の年数だ。

 


 聖杯戦争中、アーチャーはライダーの魔眼を無防備に受けていた。

 ということは、真名を知るほどライダーの事を知らなかったに違いない。

 メドゥーサの真名を知って、魔眼に気をつけないほど愚かではないはずだ。





 故にライダーと奴、英霊エミヤに共闘経験はほとんどないと考えられる。

 戦闘経験があったかさえ怪しい。

 あまりにも、簡単に宝具を受けた英霊エミヤはあの時まで。ライダーの事をほとんど知らなかったはずだ。

 


 だから、奴はこのタイミングを掴む事ができなかった。



 この一点のみ。

 ライダーの宝具を知り、そのタイミングを知っていた。


 ソレだけがおれがアーチャー。エミヤシロウに勝てる部分である。





 ◆





 当たり前だが、英霊で最も恐ろしいのは宝具である。

 俺はランクが高い宝具は投影できても、




 ―――――――真名開放や憑依経験を得る事は難しい。



 これは鍛えても限界があるからだ。

 ランクが高い宝具の投影が難しいという事もある。

 だが、なにより。

 担い手の戦闘経験まで憑依させるのが難しい人物達が多いからだ。





 例えばセイバー。
 
 有名なアーサー王。

 例えばバーサーカー。

 ギリシャの大英雄ヘラクレス。

 その能力にいくら近づこうとも、近づけないものがある。 

 それは…………種族。そして血縁である。





 俺がいくら鍛えようと元々能力のない身。

 そして…………ただの人間だ。


 


 だが、この2人は違う。

 アーサー王はその身に龍の血をもち。ヘラクレスは神の血を半分持つ。

 2人とも元々人間以上の存在であり、人間以外のモノをその身に宿している。

 その技術を完全に模倣しようとすれば、人間でしかないこの身には耐えられない負荷がかかる。

 ならばどうすればいいか。





 
 答えは簡単である。

 【人間が真名開放できる宝具を探せばよい】

 そして、聖杯戦争後出会った女性。

 バゼットの宝具を知った。

 ……………なぜか、じゃんけんで。








 斬り抉る戦神の剣:逆光剣フラガラック。

 バゼット・フラガ・マクレミッツの宝具。
 
 ケルトの光の神ルーが持つとされる短剣で、持ち主が手をかけるまでもなく鞘から放たれ、敵が抜刀する前に斬り伏せるといわれる。
 
 これは何千年もの時を乗り越えてきた数少ない宝具の現物。能力は単純な光弾だが、魔力充填だけでは発動せず、

 相手の切り札が発動しなければ目覚めないというカウンターに特化したもの。

 発動後は必ず相手より早くフラガラックを叩き込む。時を逆光する一撃であり、宝具の打ち合いであればまず負けることはない。
 
 この剣が真に斬り抉るものは敵の心臓ではなく、両者が相討つという運命。

 『後より出でて先に断つもの』という二つ名のとおり、因果を歪ませて自らの攻撃を先にしたものと書き換えてしまう。

 よっていかに威力があろうといかに速かろうと、これが放たれればあらゆる宝具をキャンセルできる、究極の迎撃礼装。 






 そう、人間であるバゼットの一族が伝えてきた宝具である。

 光の神ルーが使うのを見たのなら、俺に使えるはずはない。

 だが、バゼットは人間である。

 フラガラックは“ゴッズホルダー”であるバゼットの一族しか使えない。

 そして、その一族が伝えてきたという事は、何人もの【人間の】担い手を生み出したという事だ。

 ギリシャの英雄そして、半分神のヘラクレス。
 
 星に鍛えられた神造兵装、エクスカリバーをつかうアーサー王。
 

 彼ら1人しか使えない技を投影するより。




 …………数多の人間が使える宝具のほうが負担は少ない。

 特に星に鍛えられた神造兵装、エクスカリバーなんてものを投影するより。

 負担は格段に低い。




 神秘が分散されるからだ。

 神秘が薄れた宝具は投影が容易い。



 


 だから、魔術師は神秘を隠匿するのだが………。まさかあんな事でその神秘を漏らすとは思わなかった。






 そして、俺は剣製に特化した魔術使いだ。

 人間でも使える宝具。切り札に使わないときはC、ないしDランク程度の宝具というのも負担を軽減させてくれる。

 普段、俺がつかう干将・莫耶のランクはC−程度だ。

 投影してもそれほど負担がない。

 なにより、バゼットが一ヶ月程度で創れる使い捨ての宝具だという事もありがたい。

 俺たちの世界で複数ある宝具、フラガラック。 

 最早存在しない、この世に一つしかない剣を投影するより簡単である。

 


 




 だが、問題は幾つかあった。

 バゼット自身もいっていたことだが、

 バゼットですら英霊相手では、相手の切り札を知り。

 さらに一度その身に受けタイミングを体で覚えないと、この宝具の発動は難しいらしい。


 


 当たり前だろう。

 英霊の身体能力は人間からすれば化け物にしかみえない。

 特に真名開放のスピードは半端ではない。

 例えるなら、拳銃で撃たれた瞬間を理解した上でこちらが攻撃しなければならないという矛盾。




 本来フラガラックは空中に浮かび、敵が切り札をだした瞬間を見極め。

 フラガラックを叩く事によって発動させる。
 
 よほどの身体能力がないと無理だ。

 


 人間として限界まで鍛え、フラガラックの担い手にまでなったバゼットですらそうなのだ。

 

 贋作者の俺にフラガラックを使いこなせるはずがない。
 
 ならば、どうすればいいか。

 答えは簡単すぎる。




 アーチャーの武装。

 赤いコートに半円形の手甲。

 これにヒントをもらった。

 バゼットなら宙に浮いているフラガラックを相手の動きに合わせて、殴ることができる。

 なら、俺は。

 最初から…………拳にくっつけておけばいい。

 



 まず中身がスカスカの手甲を投影。
 
 そして、中にフラガラックを投影する。

 真名開放前だから、神秘が漏れる事は少ないが念には念を入れてダミーの鎧と聖骸布を投影。

 こちらの神秘で手甲の中身の神秘を隠す。

 剣以外のモノ。
 
 更に中身をスカスカにして投影したため、ちょっとの衝撃ですぐ壊れ、魔力にかえる。

 威力にもスピードにも影響はない。






 問題は本物のフラガラックは相手の切り札に反応するが、

 俺のフラガラックは投影したもので真の担い手ではない。

 それに俺が宝具を投影した場合ランクが落ちる。

 だから【俺が】相手の切り札として認知しなければ発動しないという制約ができてしまった。

 つまり、俺がフラガラックを使うためには俺自身が相手の切り札を知り、

 相手が発動した瞬間を狙って、真名を開放しなければならない。






 故にこれは、ほとんどの場合。

 俺たちを裏切った仲間にしか使えない。

 切り札をわざわざ教えてくれる敵はいない。

 敵の切り札を知り、相手から逃げられるか解らない。





 俺が相手の切り札を知っていること。

 それが、俺がこのフラガラックをつかう条件だ。

 だから、雷電には使えなかった。

 バゼットなら一度で攻撃を見切れるだろうが、俺にそこまでの身体能力はない。

 切り札を知り、それに反応する訓練をしなければ不可能だ。



 

 これに該当する人物は少ない。

 その数少ない人物がライダーだ。




 聖杯戦争で得た経験。

 セイバーの宝具による真名開放とライダーのベルレフォーンの撃ちあい。

 まずセイバーの宝具だけに俺の“熾天覆う七つの円環”を当て。

 その後、ライダーのベルレフォーンをぶつけるというギリギリのタイミング。

 一つ間違えれば、2人とも消える危険な賭け。



 例えるなら、バズーカーを盾で防ぎ、後方から別のバズーカーで撃たれるという愚かな行動。

 だが、これを俺は成し遂げた。




 


 これを成し遂げた俺は、ライダーの真名解放の瞬間は体で覚えた。

 同じ威力の宝具を出す事は不可能だが、真名解放の後に宝具をあわせるのは体が覚えている。






 石化の魔眼も同じだ。

 聖杯戦争、その後の戦い。

 経験と共に体で覚えた事だ。




 故に殺し合いであるなら、負けない可能性がある。

 スピード、力でライダーに負けていても、

 憑依経験と心眼を使い、更に宝具によってライダーの宝具でない釘剣を防御できる。

 宝具の威力でライダーに負けるが、ライダーの宝具をこの身に受け。

 タイミングを知り。

 能力を知っているために、フラガラックで迎撃できる。

 4キロ以上はなれている場合、俺には攻撃手段があるがライダーにはない。

 遠距離、中距離、近距離。

 全てにおいて対抗できる。





 
 故に殺し合いで負ける事は限りなく少なく、試合では負ける。

 試合とは“相手を殺さないで”相手を倒すこと。

 石化の魔眼を使われた場合。

 俺はソレをキャンセルするにはフラガラックを使うしかない。

 使えば、下手をすればライダーは消える。

 耐久力があまり高くないライダーにとって、宝具の一撃は致命傷になりかねない。

 逆に魔眼で俺を見られても、俺は死なない。

 勝負の後、術を解いてもらえばいいからである。

 故に、試合でライダーに勝てない。




 


 問題はこんなことはライダーは知っているということである。




 ◆

 


 英霊エミヤの能力。
 
 全てが低い能力。

 だが、投影という能力は全ての敵に対して弱点を用意できるという事でもある。

 セイバーの真名が解れば、龍殺しの宝具を投影して遠距離から動きを牽制。

 同時にマスターを殺す。

 このような作戦もある。


 
 

 相手の弱点、真名を知れば圧倒的遠距離から苦手な宝具を当てることが出来る。

 だが、能力が低いため初見では全ての英霊に負ける可能性がある。

 葛木と正反対だ。


 


 初手限定なら英霊さえ打倒できる葛木。

 


 初手なら基本性能が低いため、全ての英霊に負ける可能性が高い英霊エミヤ。

 だが二手目、三手目なら全ての英霊に勝てる可能性がある。

 心眼の能力。

 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、

 その場で残された活路を導き出す【戦闘論理】

 この心眼ととても相性のいい能力と言える。

 投影という敵の弱点をつける能力は。
 





 故に自分を最強だと言ったのだろう。

 自分は相手の弱点を突くことができる、自分の情報を知る英霊はいない。

 確かに聖杯戦争で有利な条件だ。 




 英霊は基本的に嘘をつかない。

 言葉が足らない事は嘘にならない。





 だからこんな言葉でごまかしたのではないだろうか。

 最強であり、最弱の英霊。

 聖杯戦争で宝具を見せたら相手を必ず殺さなくてはならない。

 そしてお互い情報がなければ、地力が強いほうが勝つ。

 だがもし。その場から生き残れたら?






 相手の情報さえ解れば、英霊エミヤは無数の選択肢ができる。

 接近戦で勝てなければ、遠距離戦。

 相手の弱点。そしてマスターだけを殺せる宝具。

 それこそが奴の強み。 

 相手の情報を探り出し、自身の情報を知るものはいない。

 なぜなら、奴は未来の英霊なのだから。

 地力がもっとも弱いかわりに、あらゆる敵の弱点を突くことができる。

 そして己の情報を知られることはない。

 聖杯戦争で十分な有利な状況だ。

  






 ライダーはそう判断した。

 そしてその戦法を俺に教えてくれた。






 だが、なぜアルビレオ・イマに解らない?

 ライダーの記憶があるはずなのに。








 ◆





  
 奴のアーティファクトの能力は、特定人物の身体能力と外見的特長の再生。

 もしくは、全人格の完全再生と言っていたはず。




 だとするなら、おかしい。

 考えられる例は幾つかある。



 
 例えばライダーが俺と戦う場合。

 ライダーは俺を馬鹿だと思った。

 俺が投影を単なる火力勝負に使うと思った。

 エクスカリバーでベルレフォーンを打ち落とすとか?

 “熾天覆う七つの円環”で迎撃する?

 固有結界を作る?






 ―――――ありえない。ライダーは俺の投影をよく知っている。

 第一、魔術理論に関しては俺よりはるかに頭がいい。

 投影の戦闘に使える基本、憑依経験。

 これにライダーが気がつかないはずがない。

 いくらなんでも、投影を単なる火力勝負に使うほど俺は馬鹿じゃない。

 



 幾つかある因果の逆転をおこす宝具。ゲイボルク、フラガラック。

 火力が全てではないわかりやすい例。そして、

 投影の憑依経験。
 
 こんな便利な能力を使わないほうがおかしい。





 ならば、ライダーはもう死んでいる。

 故にアルビレオ・イマは全人格の完全再生はできず、記憶と能力のみ手に入れた?

 そして、俺が火力勝負をすると思った?

 


 ―――――ありえない。ライダーの記憶から俺の投影能力、憑依経験を得る事ができる事を知ったなら。

 俺がこのような行動にでる事が解るはず。

 アルビレオ・イマの魔力と圧迫感。

 相当の実戦をくぐり抜けているはずだ。

 俺の投影という能力の応用性。

 これを単なる火力と考えるほど馬鹿であるはずがない。

 そんな馬鹿が実戦をくぐり抜けられるはずがない。






 では、ライダーが死んでいる為、身体能力と外見特徴までしかコピーできず、

 アルビレオ・イマは投影の能力を知らなかった?

 一番ありえそうだが………。

 
 



 これもおかしい。
 
 敵を知り己を知れば百戦危うからず。





 昔から言う事だが、相手の戦力を知ることはとても重要だ。

 ライダーがいくら高い能力を持っているからといって、いままで共に戦ってきた俺が一つや二つ対抗手段があるくらい解るはず。

 それに俺がライダーの情報を知っている事ぐらい解るはずだ。

 対して俺の能力を知らないなら、もっと不利だ。





 俺だけが敵の情報を知り、相手だけが俺の情報を知らない。

 そんな状況で戦うとしたら余程の馬鹿だ。





 だとすると…………。




 ◇





 衛宮先生が何か考えている間に、ライダーさんの姿が段々消えていく。

 やはり、分身体か。

 だが、ライダーさんほどの能力を分身体がコピーするとは。

 この図書館島自体に魔方陣が描かれているのか?


 
 だとすれば、このヒトはやはり学園関係者だ。

 そして―――――。私も刹那も薄々気がついていたことに、衛宮先生も気がついたようだ。





 「…………いるんだろう? ライダー!」




 衛宮先生の問いかけに。






 「――――――やはり、解りましたか?」




 光の届かない闇の中。

 いつからそこにいたのか。
 
 まるで浮かび上がるかのように、

 いつもの黒いタートルネックにジーンズ姿。

 なにより、その優しい瞳と素顔を眼鏡で彩った、
 
 ライダーさんが姿を現した。







 
<続>



感想は感想提示板にお願いしますm(__)m



◆◆◆長い設定集です◆◆◆

◆正確にはアーチャーのセリフは「何を言う。私は君が呼び出したサーヴァントだ。それが最強でない筈がない」
ですが、話の都合と凛の信頼度ということで少し凛が脚色して話しています。


◆ホロウでランサーの槍はマッハ2で飛距離40キロ。地球の裏側まで飛んでいく。また【突き穿つ死翔の槍】は「幾たびかわされよう相手を貫く」という能力を持っている。
と書かれていたので命中率は無茶苦茶高いかと。
アーチャーの弓は飛距離4キロ、目で見える範囲ぐらい。という事でランサーの射程距離はアーチャーより上の設定です。
(新たな情報次第で変動あり)

◆クウネルの存在はタカミチすら学園にいることを知らなかったので、刹那も知らないと設定しました。

◆ライダーの正確なセリフは少し短縮しました。

◆「―――――私なら一日持たないかもしれない」
バッドエンドで一日で根をあげてますので、多分ですがマキリの虐待に凛は耐えられないと思います。 

◆士郎がライダーの釘剣を防げる理由。
バッドエンドで黒セイバーのエクスカリバーを弾いてました。それより成長してるので弾けるはずです。

◆ホロウではナショナルとレジャーなどHF後でないとわからない話が多かったです。
ホロウは士郎が勝利者として終わった聖杯戦争後の話。
HFは一応士郎は勝利者の1人です。
ということは、バゼットとも何らかの形であってるはず。
そして後日談のような話があるはずと思いました。
Fate,UBW は正義の味方を見定めに、HFは正義の味方を諦めた士郎を見に。


◆フラガラックは剣の宝具ですが士郎が投影できるか、本編で語られていません。
ランクはC〜D(真名開放しても相手が切り札を出していない場合)
干将・莫耶はC−だからできるのでは?
そして、ネットで調べたのですが無理という記述も見つからなかったので、できると独自設定しました。

◆神秘が薄れた宝具は投影が容易い。
神秘は隠匿しないと知っている人が増えると、弱まる。
空の境界などで言われているセリフです。これを投影に当てはめました。

◆【バゼットですら英霊相手では、相手の切り札を知り。さらに一度その身に受ける位しないと、この宝具の発動は難しいらしい】
ホロウで実際何度も死んで、セイバーにも負けているようなのでこのような設定にしました。

◆セイバーの真名が解れば、龍殺しの宝具を投影して遠距離から動きを牽制。同時にマスターを殺す。
ホロウで使った戦法です。士郎がこの作戦を知らない限り勝てなかったようなのでこの設定にしました。

◆ライダーの能力を分身体がコピーしたのは図書館島自体に魔方陣が描かれている。
学園祭の超事件後、クウネルは分身でネギの相手をしてました。
学園祭の時は離れた場所からナギの分身体を操作できましたが、
今は学園祭前ですので図書館島内でのみ仮契約カードの力で分身体を変身できると、設定しました。


◆◆◆今回の独自設定、アンサラーの士郎投影ですが、元ネタはHFの鉄の心エンドです。
◇Fateを知らない方の為に。
士郎が桜を殺そうとすると、凛がかわりに殺す選択があります。
そして、ライダーが健在の状況で凛は桜を殺しました。(士郎はみてませんが)

◆凛が桜を殺しましたが、この時ライダーはどうしていたのでしょうか?
Fateルートで慎二を助ける為にベルレフォーンまで使った彼女が、おとなしく殺されたのか?
魔眼だけでアーチャーの動きをとめ、桜と共に逃げられたのでは?

桜が令呪でライダーの動きをとめたのかも? と思いましたがそれができるならその後、
桜を殺しにきた士郎を、ライダーが殺そうとするのを令呪でとめられたはず。
ですが、士郎が桜を殺そうとした時、ライダーは士郎を殺しています。
凛と士郎なら士郎選ぶのでは? と思うので令呪は使わなかったと思います。

そして、アーチャーに魔眼が効かないとも思えません。魔力Bなら、石化できなくても動きのランクは落ちるはずです。敏捷Aのライダーなら桜を背負って逃げられるでしょう。
アーチャーの筋力はD、敏捷はCです。
1ランク下(敏捷はC−かDなのかわかりませんが)が敏捷Aのライダーに追いつけるとも思いません。

でも、アーチャーがライダーを殺せなくてはなりません。逃がすこともなく、周りを壊すこともなく。(教会壊れてません)
ライダーが桜を見捨てない限り、桜を殺すのはもの凄く難しいです。
この場合、ライダーをアーチャーが足止めしている間に、凛が桜を殺す。という行動は無理だと思います。
なぜなら魔眼を使った場合、凛も動けなくなるからです。(いくらなんでもサーヴァントより魔力多いはずないですし)
(教会が壊れていない為ベルレフォーンにローアイアスなどを使っていないはずです)

でもまずこれらの情報から無理じゃないかな?
アーチャーがライダー倒すのって難しくないかな。と思いました。

ですから、トンでも宝具が出ない限りは現在でている宝具の中でアーチャーが鉄の心エンドで、
ライダーを殺せるのはフラガラックではないか。
と、思いこの設定にしました。
(ライダーの首が埋まっているイージス(アイギス)の盾という可能性もありますが、本編にでてきていませんので)
ゲイボルクという可能性もありますが、一応剣製の魔術師ですし。
投影は可能でも真名開放はどうだろう? と思いましたので、まだ槍より剣のフラガラックのほうが投影しやすいと思いました。

◆ちなみにこのエンドはアーチャー無茶苦茶有利です。
なぜなら、ライダーの真名はもうばれていて、ライダーはアーチャーの真名も能力も知りません。
聖杯戦争で真名がばれるのはかなり危険な行為(Fate本編参照)
ホロウのようにお互いの能力と真名がばれていた場合、アーチャーがかなり不利です。
はっきりいって、能力が一番雑魚ですから。
ですが、アーチャーの強みは誰も真名を知らない(未来の英霊だから)事。
唯一の例外は全てを見通す目【全知なるや全能の星】を持ったギルくらいです。
そして、彼の天敵がアーチャー。
基本性能は最も低いですが、情報戦と敵の弱点をつくという事ではかなり有利だと思います。
(あくまでマスターを殺すのも視野に入れた上で)


◆ギルが圧倒的なのはギルの全てを見通す眼。【全知なるや全能の星】コギルが花札で使う宝具ですが、
本編でもギルは士郎の投影がまだ体の中にあるうちに解ったり、桜が聖杯だと知ったり。
言峰の歪な心に気がついています(zero3巻)
アーチャー英霊エミヤが何回か戦わなければ解らない、その英霊の本質。
ギルはこれが解る為、最強の英霊なのかなと思います。


◆ついでにUBWでは固有結界の宝具は原典の宝具と互角で、対消滅しております。
ですが、固有結界の宝具は1ランク低いため、いくら複製しても勝てないはずです。
このため、憑依経験を得た士郎はギルより宝具の能力を引き出した為、何とか対消滅に持ち込んだと設定しました。
士郎が手に持った場合のみ、ギルの原典に能力が近づきますが、
宝具乱射では、手に持っていないためギルほどの威力はありません。


まあ、妄想ですが。
エミヤが宝具(ギルとほぼ互角)をガトリングしない理由として、
(するとしたら相手の真名を知った後)
このSSではその辺の本編の矛盾を解消する為このような設定にしました。

まあ、後は一回の限界投影数もあるのですが、それはまたの機会に。

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