光り輝く大講堂の下。

 5人の魔法生徒が、魔法学院の勉強を終え。新たな世界に旅立とうとしていた。


 俺の隣では桜とネカネさんが涙を浮かべて見送っている。





 「卒業証書授与 ――――――」  




 厳かな雰囲気の中、校長先生が勤勉を労い祝辞を述べる。
 
 ネギ君達が万感の思いを込めて卒業証書を受け取るその表情に皆、目に涙を浮かべて拍手を送った。

 


 これから始まる生活。

 それは、ネギ君が日本で“教師”をするというとんでもないもの。



 ソレを知らされている俺の気は重い。

 ネカネさんと桜は生徒として。(年齢詐称薬というものがあるらしい) 

 俺は、副担任としてネギ君のサポートをしなければならない。




 本来、俺より頭のいい桜かネカネさんに任せたいのだが。
 
 女子校なため、桜とネカネさんは教室内での警護。

 霊体化できるライダーには、彼女しかできないことをしてもらうことにした。


 いわゆる、監視役である。

 姿が見えない故に、誰にも見つかることなく。影ながら生徒を見守る。

 彼女しかできない方法だ。
 




 
 遠い雨4話 
 
 
 

 卒業式が終わり、俺たちはそれぞれ、祝いの言葉をかけていた。
    
 ネギ君は照れながらも喜んでいる。 

 これから始まる新しい生活。

 そして、約束。


 
 魔法の勉強と戦闘訓練。

 いくらネギ君に才能があるとはいえ、この2つ同時進行は難しいと思った。

 故に、剣は基本のみ。

 弓による精神集中と“魔法の射手”の訓練。

 コレだけをやってきた。



 だが、魔法学校を卒業した以上。

 これからは教師の修行と共に、実戦と剣を教えることを約束させられた。


 
 「――――ネギ君」

 


 ニコニコと嬉しそうに笑っているネギ君の目の前に。頼まれたものを出した。




 「コレって、ひょっとして」



 ネギ君に小さく頷く。

 

 「やったー! ありがとうございます」




 受け取るや否や鞘から剣を抜き、俺が鍛えた蒼い光沢の剣を眺めている。

 こういうアンティーク好きだよな、ネギ君って。
 
 まあ、剣が好きな俺に言えることではないが。




 「士郎さん、この剣は桜さんのみたいに特殊な力とかあるんですか?」

 「いや、あくまで剣だよ。でも魔法発動体として杖の代わりにもなるし、風系と雷系のルーンを刻んであるから
 ネギ君の魔法と相性はいいと思う。後はネギ君次第かな?」

 「僕次第、ですか?」

 「ネギ! こんなところで危ないでしょ! しまいなさい」

 


 ネカネさんに怒られて慌てながらも、大切そうに剣をしまうネギ君に顔がほころんでしまう。

 

 「武器を生かすも殺すも持ち主次第だからね。ネギ君が上手く使ってくれるとうれしいかな」

 「―――――はい! 期待に沿えるように頑張ります」
 




 元気一杯に返事をしてくれたその小さな手に、剣をしっかりと握り締めてくれた。

 そのじっと見つめる無垢な瞳を見るぶんだと、なんとか喜んでくれたようだ。

 やっぱり創る者としては作品を喜ばれるのは何より嬉しい。

 

 俺の投影の基本。

 製作に及ぶ技術を模倣、成長に至る経験に共感。

 これによりある程度なら、その技術を剣に籠めることができるようになった。

 だが、所詮は模倣するのが限界であり。

 どんなに低レベルな宝具であろうと。宝具を超える剣は鍛えることができなかった。




 蓄積された年月を再現することは俺には絶対にできない。

 俺が創る剣は、投影したものより切れ味が鈍る。

 その技術を分解し。自分なりに再構成しようとしても。

 完成した絵画に、一筆を入れることが難しいのと同じで。

 かえって、完成度を貶めてしまうのだ。

 

 故に、俺が創る剣は宝具に比べれば粗悪品。

 それでも。こんな俺が創った剣でも、ネギ君がこれほど喜んでくれるのは嬉しい。
 
 今までの技術の集大成。

 この剣が、少しでもネギ君の力になって欲しい。
 




 そう感慨に耽っていると。

 傍で見ていたネカネさんの纏っている空気が変わっていく。

 

 ネギ君の剣や桜のブレスレッドを羨ましそうにみて、俺に期待の篭った、それでいて恥ずかしそうな視線を向けてくる。

 …………まさかな。ネカネさんは戦闘系じゃないから必要ないだろうし。
 
 


 「えっと、士郎さん? 私も護身術に剣とか教えて頂きたいなぁとか思うんですけど………」
 
 

 と思っていたんだが、どうやら勘違いのようだ。まあ護身術を教えるくらいなら俺にも異存はないが。



 「それはかまわないけど、生兵法は危険だよ」



  釘をさすことは忘れない方がいいだろう。



 「ええ、ですから逃げ回る事を念頭においた護身術とあと、その。そ、それに適した剣を鍛えて欲しいんですけど」

 


 ………それが本音ですか? 

 まあ剣を鍛えるのはかまわないですけど、そんなにネギ君にあげた剣がネカネさんは気に入ったんだろうか?
  
 ネカネさんは恥ずかしそうに。それでいてこうおねだりされているような視線を向けてくる。

 ふむ、そこまであの剣を気に入ってくれたのは正直嬉しいし、色々とお世話にもなっている。

 

 普段のお礼といってはなんだが、俺なんかでよければ鍛えさせてもらおう。

 ネカネさん専用の補助用の短剣ぐらいなら、今ある材料でもなんとかなるだろうし。と思っていたのだが。

 


 ………だけどごめんね、ネカネさん。

 桜がむこうで凄い目で睨んでるんですよ。しかもブレスレットを両手で抱きながらクスクスと笑って!
  
 ここは俺の安全のためにも。   






 「―――――い、いや。やっぱりネカネさんは無理に戦うより補助魔法品で自分の白魔法を強化できる…………」


 専門家にお願いした方がいいと言おうと思っていたんだが…………。 




 ネカネさん? なんでそんな潤んだ瞳で、すがりつくように此方を見上げているんですか。

 くっ。コレを断るのは男として、いや。人間として許されない。

 女の子を泣かしてはいけない、って親父にも言われたし。



 だが、その後ろでは凄いプレッシャーをかけてくる桜さん。

 
 あちらを立てれば、こちらが立たず。

 これほどの危機、聖杯戦争でバーサーカーに襲われた時以上だ。  






 ―――――そしてさらに強力になる桜からのプレッシャー。ここで断らないと酷い事になりそうだ。




 そう思って援軍を求めて周りを見回しても、ネギ君は剣をみて目をキラキラさせてるし、ライダーはあさっての方向をみてる。

 援軍はいないか。しかたない、心を鬼にして再度ネカネさんを見ると…………。



 …………なんですか? その捨てられた子犬のような表情は? 新手の魔眼ですか? 



 ―――――うぅっ、なぜか罪悪感を感じてしまう。こうなると俺に出来る事は。

 降参しかないわけで。





 「………はあ、わかりました。今度ネカネさんに何か創ります」

  
 
 そのセリフでパッと明るくなって喜ぶ、ネカネさん。
    
 
 
 
  

 ―――――――――――そして対照的に機嫌の悪くなる黒い桜。

 


 

 ………………へえ、先輩って私以外の女の子にもプレゼントするんですねぇ、ふぅん……………。

 



 
 
 ライン越しのお言葉が心に痛い。このままチクチクといじめられるのかと冷や汗を流していると。


 
 「とりあえず家に引き上げませんか? これからの事を話さなければなりませんし」


 そう苦笑しながら、ライダーが間に入ってくれた。


 「そ、そうだな、これから忙しくなるんだからな」



 その助け舟にありがたく乗らせてもらい、2人をなだめながら家路につくことにした。  

 
 校長に頼まれた、あのときのことを思い出しながら。 




 
 

 ―――時は遡り、2ヶ月前。  




 俺は校長に頼まれたある仕事をした後、校長室に報告に来ていた。
 



 「失礼します、衛宮士郎はいります」

 「―――ご苦労だったね、衛宮君」


 
 校長は難しい表情で、机の上に腕を乗せ口元で手を組みながらだが、そうねぎらってくれた。

 だが、表情を見る限りではまた厄介事のようだ。




    
 「いえ、それでお話というのはなんでしょうか?」

 「うむ、ネギ君達の進路の事なんじゃが」

 「―――――どういうことでしょうか? 確か進路は卒業証書に浮かび上がるまでわからないはずでは?」

 「それはあくまで建前じゃよ。ネギ君が目指すマギステル・マギになる為に修行先はあらかじめ決めておる」

 


 ………本音と建前か、どこにいっても同じだな。

 


 「では、ネギ君の修行先はどこになるんでしょうか?」

 「うむ、日本の麻帆良という学園都市じゃ。そこには戦闘系の魔法使いも多いし彼らの修行にもなろう」

 


 日本に帰れるのか。俺達がいた日本とは違うとはいえ、やはり懐かしいと思うのは不思議な感じがする。

 

 「そこでの俺達の立場はどうなるんですか?」

 「ふむ、変則的じゃがネギ君が教師、そして君達の―――――」

 「…………すいません、もう一回言っていただけますか?」

 「じゃから、ネギ君が教師で……………」

 「―――何考えてるんですか!!!」

 



 校長が耳を押さえて呻いている。思ったより大声を出してしまったようだ。

 


 「………うぅ………むぅぅ、す、すまんが落ち着いてくれんか? 衛宮君?」

 「落ち着いてられますか! ネギ君が教師ってまだ10歳ですよ? 魔法の教師なんて無理です」

 「いや、魔法ではなく普通の教師じゃが?」

 



 魔法使いの修行に普通の教師をするのか? 慣れたと思ったんだが、並行世界の違う常識にまだついていけないようだ。

 


 「――――」

 「うむ、説明が悪かったの。これから行く場所は魔法の学園都市だが表向きは普通の町として機能しておる」

 「一般人が多いのに、魔法使いが多い此処より戦闘系の魔法使いが多いんですか?」




 俺達の世界では魔術協会の総本山、時計塔がロンドンにあるためか、東洋系の魔術師はあまり多くないらしいんだが。

 こっちは違うのか? それとも向こうみたいに退魔組織とか混血の一族がいるのかも。






 「うむ、認めたくないがの。そのとおりじゃ」

 「――――――」



 まあ、詳しい事は行って見ないと解らないだろう。憶測で判断するのは危険すぎる。

 「話を続けるぞい、そこではネカネ君と桜君にはネギ君の生徒、衛宮君はネギ君の補佐になってもらう」




 …………突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからないが。

 しかし、桜とネカネさんか。

 彼女達が潜入して怪しまれない学生って?

 年齢的にも大学か。

 10歳の男の子に教えてももらう、大学生。優秀な生徒なら、飛び級という制度があるとはいえ。随分シュールな光景だ。



 

  



 「………労働基準法はどうなってるんですか? それに10歳のネギ君に大学の講師がつとまるとは思えないんですが?」

 「衛宮君、教師をネギ君がするというのは決定事項じゃ。それにネギ君には女子中学生の教師になってもらうんじゃが」

 「――――っな、桜とネカネさんは何歳だと思ってるんですか?」

 



 いや、本人前にして口にしたら間違いなく殺されそうなセリフだが、今はそんな場合じゃなさそうだし。
 
 

 「ああ、落ち着きなさい。まずネカネ君と桜君には改造した年齢詐称薬を飲んでもらう。
 まほネットで売っているものより強い効き目での一ヶ月はもつ筈じゃ。
 そのぶん見た目の若返り効果が薄く、16歳前後にしかなれんがそのへんは上手くごまかしてくれんかの」

 


 ――――そんな無茶なだいたい。

 


 「そんな事しなくても桜が教師として、ネギ君のフォローにつけばいいのでは?」

 「それはできん。先方からの依頼でな、ネギ君の修行をひきうける条件なんじゃよ」

 「条件?」

 「うむ、これから行く学園都市の警備および担当クラスの2−Aの警護と監視が君達の仕事じゃ」




 基本は戦闘任務という事か?




 「――――」

 「つまり、教師としてネギ君と士郎君。生徒として桜君とネカネ君に外部と内部、両方から守ってほしいのじゃ」

 「その中学生達にそこまでする必要があるんですか? 特に警護だけでなく監視とは穏やかじゃありませんが」

 「ふむ、このクラスはある意味で天才児の集まりでの。それぞれ特化した才能があるんじゃ、その才能を守って欲しい」

 「才能? ですか」

 「うむ、そして特化した才能は時として余計な軋轢を呼ぶ。じゃから即戦力以外の偵察専門の術者が欲しいわけじゃ」

 「――――なるほど、護る対象と警戒すべき対象は一箇所にまとめておいた方がなにかとやりやすい。と言うわけですか」




 そしてその問題児をまとめるのがネギ君の修行か。 俺達みたいな異端者をいれるって事は、それなりの事情もあるんだろう。




 
 「話がはやくて助かるの」 

 「ですが即戦力といい、頭脳といい俺よりライダーの方が教師として適任だと思います。俺は外で待機した方がいいのでは?」

 「霊体化できるライダー君が偵察には適任じゃ。彼女以上の斥候など存在せぬよ」

 



 確かに、姿が見えないライダーなら斥候やスパイとしてこの上なく頼りになる。だがそれは、 

 

 「先程言ったとうり、その天才児クラスの数名が妙な動きをしているらしい。その動きを知るには霊体化できる
 ライダー君は隠密としては最高じゃと思う、故に時間が縛られる教師などさせるわけにはいかんのじゃよ。
 そもそも、ライダー君がおるからこの話も引き受けてもらえたようなもんじゃしの」 

 


 ライダーの能力を校長以外が知ってるということだ。そして校長の言うとうり特化した能力は余計な軋轢を生む。



 「校長、わかっているとは思いますが」




 この人は信頼してるが、



 「わかっとるよ、ライダー君を実験体になどさせん。それは約束しよう」 

 「ありがとうございます。では、学園全体の偵察はライダーにと言う事ですか」 

 



 しかし、こちらの魔法使いは人がいい。ライダーが裏切るとは思わないんだろうか? 

 外部の人間で完璧な穏形を使えるなんて、もしスパイなら大変な事になるのに。

 それとも、この数年で俺達も信用されるようになったと喜ぶべきなんだろうか?





 「うむ、そして桜君には内部から情報収集してもらいたい。生徒同士でしか分からない事もあるとおもうしの、
 さりげなく生徒を守って欲しいんじゃ。ネカネ君もクラスにいれば守るのも容易かろう?
 そして士郎君は警護担当ということで、いざというときのためネギ君の傍に控えて欲しい」

 「随分きつそうな任務ですね」

 「いや、あちらに頼んだのはナギ・スプリングフィールドの血縁の保護と彼等の修行じゃ。だが、むこうもなにかと大変らしいからの。
 これらの交換条件として君達に学園の雑事をお願いしたいという事じゃ。君達はよっぽどの事がない限り手を出す必要はないんじゃよ。
 あくまで基本は補助と学園の警備じゃ。――――とりあえず準備もあろう、今から用意だけはしていてくれんかの」

 


 胡散臭い話だ。不審な点が多すぎる。

 だが、その校長の俺達を案じるような目を見ては。信用するしかない。



 「拒否権は―――――なさそうですね。ですが、皆に相談してから決めるという事でよろしいでしょうか?」

 「すまんの。だがこれから行く場所は君達にとって必ずプラスになる場所じゃよ」

 「………そうですね。今まで校長にはお世話になってきましたし、そのお言葉を信用させていただきます」

 「うむ、信頼してくれ。これからいく場所の学園長はクセは強いが信用に足る人物じゃよ、必ず君達の力になってくれる」




 この人がいうなら信用できる人なんだろう。



 「―――――――今までありがとうございました。ネギ君達は必ず守りぬきます、また会うときまでどうかご壮健で」



 だからせめて、今まで不審者の俺達を信用して匿ってくれたことを感謝したい。 

 そう思いをこめて深く頭をたれた。




 「いや、わしこそ礼を言わせてくれ、5年前の事件そして今までこの街を我々と共に護ってくれた事を心より感謝する。
 ―――――――じゃから顔を上げてくれんか? 衛宮君」

 「はい、ではこれで失礼します」

 



 そういってもう一度頭を下げ、俺は校長室を後にした。



 
 


 
 そして俺は家に帰り、皆に校長の話を伝えた。

 危険があるかもしれない、新しいネギ君の職場。

 その事実を知り。桜は「これからは俺達と共に戦える力が欲しい」

 と静かに心を固め、俺に武器の製作を依頼した。

 


 そして一週間後、必要な鋼材と魔法薬の薬草をそろえ。桜と共に鍛冶場に篭った。

 

 

 

 





 仄暗い鍛冶場にたち、炉に火をいれる。

 何も見えなかった闇に、一筋の光がさす。


 これから桜と共に桜の為の武装を創る、光。



  ――――剣鍛開始(トレース・オン)――――





 ―――――思い出すのは初めて桜に会った日、最初の印象は物静かというより、とても暗い印象だった。

 用意しておいた魔法薬や水に俺と桜の血を落とす。




 ――――最初は俺の看病の為、家事を手伝うと言う理由で家に来た桜。

 何度断っても、意固地になってその場から動かなかった。

 


 これから創る物の基本骨子を見定める。




 ――――我慢くらべに負けた俺は家の合鍵を桜に渡して、仮の家族になった。

 これから創る物が桜を護ってくれる事を祈って。





 ――――それから数年間、俺は桜に料理を教え、共にすごした。空っぽだった俺に桜は日常の大切さを教えてくれたんだ。
 
 唯の金属の塊をそっと抱きしめるように炉にいれた。 





 ≪I am the bone of my sword≫

 鋼に魔法薬をのせ、俺の魔力を注ぎながら鍛える。

 ――――あの戦争で初めて桜がどんな辛い状況にいるのか知ってしまった。




 ≪Steel is my body, and fire is my blood ≫

 鉄槌に魔力を漲らせ何度も何度も打ち下ろす、不純物を叩き出し、魔法薬との結合を強める。            
 
 ――――日常の暖かな笑顔の裏でどれほどの涙を流したのか。




 ≪I have created over a thousand blades.Unaware of loss.Nor aware of gain ≫

 剣の概念より取り出し、新たな桜の刃となり、盾となる事を祈り、

 素延べ、打ち出し、形を整えながら剣より派生し新たな形とする。

 ――――平凡な日常をなにより大切な物だと願い続け、俺なんかを愛してくれた少女。




                   
 ≪With stood pain to create weapons.waiting for one's arrival≫

 表面に魔法薬を塗りルーンを刻む、桜がこれを持っても違和感が無いように、

 ラインから伝わる暖かい桜の魔力をのせ、少しでも武器ではなく女性の持ち物としておかしくないように、形を整える。

 ――――やっと手に入れた平凡な日常を捨て、俺の忘れかけた夢を共に追いかけようと言ってくれた。


          
 ≪I have no regrets.This is the only path ≫

 表面を磨き、光沢を出す。彼女の肌の色が映えるように、彼女の美しい藍色の髪を輝かせる為に。

 ――――贖罪の意識から俺の夢を追いかけ、世界から追い出されても俺と共にいてくれる。



             
 ≪My whole life was “unlimited blade works”≫

 所定の場所に魔法石を埋め込み魔力線をひく、俺達の血を溶け込ませた水に浸け、しみこませ余分なカスを取り除く。

 ――――俺の前でだけ笑えた少女。あの戦争の中、未来のない体で、俺を守ると言った彼女。

        その彼女が犯した罪、自身を責める罪、桜が思い返す罪、その全てから護れるように願いをこめ――――――





 共に魔力を籠め最後のルーンを刻む。 

 

 ―――――此処に理念は骨子を結び、幻想から現実に鍛え上げられ―――――




 そして桜の武装「破魔の腕輪(サルンガ)」はここに誕生した。


 「―――――――凄く綺麗なブレスレッドですね」



 いくつかのテストをした後、魔力を流し続けて疲れた様子の桜は微笑みながらそんな事をいってくれた。



 「そうか? だがまあこれはあくまで武器だ。プレゼントにしちゃ色気が無いけど、使ってくれ」




 本当に飾り気のない腕輪だ。全体色はシルバーに細かく散りばめられた桜色の魔法石が輝き。

 飾り文字は幸運エオー(Eoh) と防衛のアンスール(Ansur) のルーン。

 そして宝飾は白銀で五芒星を描き魔法石で形作った剣を封じ。桜の余った魔力を流せるようにしてある。


 
 五芒星の縁は鎖に繋がり、藍色の魔法文字と魔力線を描いてキーワードで変化する。

 装飾より実用に重きをおいた魔法品だ。幸運や防衛のルーンを使いながらそれを剣でしか表せない。

 なにかを守り愛するのに家庭や愛ではなく。剣でしかあらわすことが出来ない。


 まるで俺自身のようだ。

 だが、



 「いいえ、このブレスレッドまるで先輩みたいです。とても綺麗で素敵だと思います」  




 そんな俺の作品を桜は心から喜び、穏やかに笑ってくれた。










 『サルンガ』

 その名前はヒンドゥー教のヴィシュヌ神の神話に現れる。 

 ヴィシュヌはシータという女性を妻にして、穏やかな日々を暮らしていた。

 が、この頃ランカー島に住むラーヴァナとその軍勢が各地に被害を及ぼす。

 

 ある日、ヴィシュヌの妻シータはさらわれてしまった。
 
 そこでヴィシュヌは多くの友の力を借りて軍を起こし、愛する妻を救出するためにラーヴァナに立ち向かった。
 
 ここでヴィシュヌ神が敵であるラーヴァナ達に使った武装が「サルンガ」という名の弓である、

 この神話になぞった銘にしたのは理由がある。

 

 あの戦争で戦友である遠坂やライダー。そしてイリヤと共に「この世全ての悪(アンリマユ)」から桜を救い出し。

 これからも護ると決めた俺なりの誓いの証だ。

 その言霊を武装の真名として、桜をこれからも護れるようにと願いをこめて。


 
 つまりなにが言いたいかというと、









 「だから、ネカネさんが武装するならまほネットで探せばいいんです! 無理に先輩が創る事はありません」

 「なんで桜さんがそんな事気にするんですか! より安全に戦う為に良い武器を選ぶのは当然でしょう」

 「白魔法が中心のネカネさんじゃ戦うだけ無駄です。怪我人の治療の為に魔力は温存しといてください」

 「桜さんだって戦闘は苦手なのに、士郎さんからプレゼント貰ってるじゃないですか! しかも武器には見えない可愛らしいのを」

 「私はいいんです。先輩の傍にいるんですから」
  
 「なら、私だって士郎さんの傍にいます」 

 「――――――――っそんな事は許しません!」

 「―――――――」

  
     


 目の前で繰り広げられるこの戦いから現実逃避中だったわけで、

 「ねえねえ、士郎さん。結局桜さんのブレスレッドってどんな事ができるんですか?」



 そして目の前の争いを無視して、俺にじゃれつくネギ君。

 俺も現実から逃げ出すために、説明を始める。 

 

 「簡単にいうと、魔力を込めて魔術回路に負担をかけずに物体を創りだすんだ。弓から発射された物体はあらかじめ決めていた形に変化する。
 矢、剣、槍、剣山状の球、大きくなるほど魔力をこめなくちゃならない、普段はブレスレッドの形状だがキーワードで弓に変化する。
 架空元素を形にする為、魔力消費は相当なもんだがそのぶん威力は……………………」

 
 「士郎、そんな事を喋っている場合ではないように思いますが………」

 


 必死で現実から逃げ出す俺に、冷静に間違いを指摘するライダーさん。
 
 お願いしますから、俺に平穏をください。

 無理ならば、現実から逃避する時間が欲しい。





 「――――先輩! 先輩も何か言ってください」

 「士郎さん。身を護るために必要な武器を持つことは当然ですよね」



 ――――うん、ネカネさんがおっしゃる事はもっともだと思いますよ。

 

 「何言ってるんですか! 戦闘の素人が強力な兵器もつなんて百害あって一利なしです! 下手をすれば同士討ちの可能性もあるんですよ」

 

 ――――うん、桜のいってる事もスジは通っている。

 


 「だったら盾みたいな防具を創って下さい。士郎さん!」

 「だから、先輩の得意なのは剣なんです。私の武装だって基本は剣なんですから! 慣れない武器を創るくらいなら
 まほネットで探したほうが確実です」
 
 「なにいってるんですか! 士郎さんの創った武具はまほネットでかなりの高額で取引されてるじゃないですか。
 ここ数年、かなり話題なんですよ」

 


 そうなんですか? 

 俺としては、理想とするモノには辿り着けてないから全然納得がいてないんですが。






 

 「それは刀鍛冶としてでしょう? ネカネさんは剣や弓なんて扱えないじゃないですか! 
 だったら先輩に出来る事はありません。まほネットで適当なものを探してください」 

 


 で、また話がループするんだな、君達は………。そして桜、俺の魔術特性を大声でばらさないで欲しい。

 ライダーが苦笑しながら、ネギ君を寝室に連れて逃げ出していく。……俺も連れて行って欲しい。

 


 「先輩! 先輩もなにかおっしゃってください」

 「士郎さん! 士郎さんは私達を守ってくださるんですよね。だったら私の身を守るために……………」




 そう詰め寄る2人に、俺は今日何度目かの溜息をつきながら、今は帰れない衛宮家の団欒を思い出していた。

 あの賑やかで、いつも色々なハプニングがあった我が家を。

 藤ねえが暴れ、遠坂がそれを煽り、桜が穏やかに笑ってライダーと話している。

 あれを家族というなら、今はここが俺達の家であり家族なんだろう。





 ――――そうか、今 俺は幸せなんだな。

 
 
 自然にそう思える自分に驚き、そして新たな居場所をくれた彼女に感謝する。

 きっと、彼女が。

 あの人を動かしてくれたと思うから。





 「――――ありがとう姉さん」そう心の中で伝えた彼女は、赤くなって不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
 
 想像の中でさえ、意地っ張りな彼女に苦笑しつつ俺は、新たに得た家族をなだめようと言葉を紡いだ。 
 








 <続>

 

 感想は感想提示版にお願いしますm(__)m



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