「第三幕・」


「ちょっとちょっと、ジローの奴もあんなの撃てたの!?」
「……凄まじいですね」
「…………ジローさん、無事で」

 ジローの放った広範囲焚焼殲滅魔法に喰われ、陣形を崩した妖怪達の間隙を縫って脱出したネギは、杖に同乗した少女二人の驚きの声を聞きながら呟いた。
 場所がなかったため、肩に乗っていたカモが耳元で叫ぶ。

『いそげ兄貴! 相棒が心配なのはわかるけど、さっきからすげえ魔力を感じる!! 奴ら何かおっ始めたぜ!?』
「……うん!!」

 カモの言葉に頷き、杖のスピードをもう一段上げる。
 虚を突かれてアスナ達が声を上げていたが、胸中で謝っただけでネギは杖の制御に専念した。

(に、人数が多いからかな……それとも焦ってるから?)

 どういう訳か、慣れているはずの杖を使った飛行魔法を維持できない。
 少しでも気を抜くと、大きく揺れて失速してしまいそうになる。その度、高度まで下がって地面へ墜落しそうになり、肝が冷えた。
 ネギの頭を「制限体重オーバー」という単語が掠めたが、古来より女性に重いと言うことは、白人に中指を突き立てるのと同じほどのタブーなので、堅く口を噤んでおいた。
 代わりに負荷を少しでも抑えるため、普段よりも高度を下げて飛行することにした。
 ビュウビュウと耳の横を風が通り過ぎ、眼下を桜色の海が流れていく。
 もし今が非常事態でなければ、夜桜を見下ろしながらの飛行を楽しめたのに、と一瞬だが惜しむ気持ちが生まれた。

『見えた、あそこだぜ兄貴!!』

 ジローと別れて数分ほど飛行を続けた時、ネギの頭上に登って前方を睨みつけていたカモが鋭く叫んだ。
 体が強張るが、すぐに気を取り直して遠方へ視線を送る。
 その先に待っていたのは大きな湖。
 御神体だろうか、中央に注連縄の巻かれた大きな岩が鎮座している。

「あれ……このかさん!!」
「え!?」
「お嬢様!!」

 前方に広がる湖に目を凝らしたネギやアスナ、刹那が声を漏らした。
 湖の大岩から少し離れた場所に、石の台座と奉納神楽を行うためらしい木の舞台が設けられている。
 その舞台の真ん中に寝台が置かれ、裸体に布一枚を掛けただけの姿で横になっている木乃香がいた。
 薬でも嗅がされているのか、時折身動ぎをする程度で抵抗する様子を見せない木乃香に、ネギは唇を噛む。
 同じように頭の上で悔しげに呻いていたカモが、驚いたように体を伸ばした。

『こ、この強力な魔力は……!!』

 視線の先にいる木乃香から、曇天のように暗い夜空に向かって一条の光が伸びている。
 すぐ側で千草が祈りでも上げるように大きく両手を広げ、佇んでいるのも見えた。
 重大なことに気付き、カモが驚愕の声を上げた。

『儀式召喚魔法か!? 奴ら、何かでけえもん呼び出すつもりだぜ!!』
「……いける!! まだ間に合う!! 急いでこのかさんを――」
「!? ネギ先生、避けてください!」
「えっ!?」

このかさんの姿を発見して、もう一度スピードを上げようとした時、杖の一番後ろに乗っていた刹那さんが警告を発しました。後ろを振り返る。
飛んできたのは、影で出来ているような真っ黒い犬。あれは小太郎君の狗神!?

「くっ、『風楯――』」
「きゃああぁぁぁ!!?」
「くっ、ここまで来て!!」

障壁が間に合わずに撃墜された僕達は、下の地面に向かって落下していきます。

「くっ――『杖よ・風よ!』」
「ひゃああ……た、助かった〜」
「とっ……大丈夫ですか、アスナさん?」

何とか地面にぶつかる前に、僕とアスナさんは風の魔法で安全に着地することが出来ました。せ、刹那さんは風の助けもなしに地面に着地していました。スゴイです……

「! 誰だ、出て来い!!」
「えっ?」
「―――よお、ネギ」
「こんばんは〜、刹那センパイ♪」

いきなり、刹那さんが大声で誰かに呼びかけました。木陰から現れたのは小太郎君と、この間、このかさんを攫われた時に会った剣士の女の人。

「へへっ、この変な姉ちゃんと一緒ゆうんは気に入らんけど……こんなに早く再戦の機会が巡ってきて嬉しいぜ。ここは通行止めや!! ネギ!」
「……小太郎君」
「雇い主の千草はんに、こっから先は誰も通すな、言われとるんですけど〜。まあ、そんなん関係なしに、ここでウチと遊んでってください〜、センパイ」
「月詠……!」
「ちょっとネギ、どうすんのよ!? もう少しでこのかのとこに着きそうだったのに!」

このかさんの救出を邪魔されて、イライラしているアスナさんが騒いでいます。

「……僕らは急いでるんだ。どいて、小太郎君」
「……私達は急いでるんだ。そこをどけ、月詠」

アスナさんも怒っていますけど、僕と刹那さんだって、邪魔されて怒っているんです。

「ジローさんは、僕らが今本当にやりたいことを出来るように、一人であの場所に残って戦ってくれてるんだ。悪いけど邪魔しないで、小太郎君」
「お前の相手をするために、ジロー先生にあの場に残ってもらったわけじゃないんだ。さっさと消えろ月詠」
「なっ!? ふざけんなやネギ!!」
「いややわ〜、そんないけずなコト言わんとってください、刹那センパイ」

僕らの頼みなんて関係ないって感じで、小太郎君も月詠さんも構えました。それを見て、僕と刹那さんも構えます。やっぱり説得は無理だったね。

『あ、兄貴! 今ここで戦ったら時間が――!』
「せ、刹那さんも! ジローの奴に言われたでしょ!?」
「大丈夫だよカモ君、アスナさん……一分で終わらせるから」
「ええ。ネギ先生の言う通りです。この程度の相手、それだけあれば十分です」
『うおい!? 兄貴も刹那の姉さんも落ち着いて――!!』
「ああー、もう! こうなったら私もやってやるわよ!」
『あ、姐さんまでー!!?』

一気に場の空気が重たくなる。何かキッカケがあれば、すぐにでも破裂しそうな緊張の中、僕は小さく呪文を詠唱していく。

「――心配しないで、カモ君。ジローさんに言われたこと、ちゃんと覚えているから」
「ええやろ……来いやネギー!!」
「うふふ〜〜楽しみましょ、刹那センパイ♪」
「お前のような戦闘狂には、早々に退場願う!」

遠くに昇る光の柱は、どんどん輝きを増しています。時間が無いんだ。コタロー君には悪いけど、すぐに戦えなくなってもらうよ!!
僕達の間を、桜の花びらを乗せた風が吹きぬけた瞬間、地面に映った僕達の影も同時に飛び出し、桜の立ち並ぶ森で激突しました――





「ワルプルギスの夜・第五幕」
〈side刹那〉

「ほな、始めましょうか〜、センパイ♪」
「……言ったはずだ、時間はないと。悪いが即行で終わらせる」

桜並木の奥。ネギ先生達と離れた場所で、私は月詠を対峙していた。お互い、たった一言交わしただけで、秒の間も入れずに斬り合いを開始する。
初めて刀を交わした時、その小回りの良さや、月詠本人の外見に似合わぬ身体能力に苦戦させられたが、今の私にとって、そんなものは何の障害にもなりはしない。
この先でお嬢様が待っている。そのことだけが私を奮い立たせ、太刀を研ぎ澄ましていく。
二刀での刺突を左右に弾き、真っ向から切り下ろす。何とか身を仰け反らして月詠がかわすが、私の野太刀は彼女の前髪だけでなく、僅かに額を傷つけていた。

「あや〜〜〜♪ 今日の昼間にやった時と全然、太刀筋が違いますえ?」
「時間の無駄だ。話すな」
「ヤン、少しくらい話を聞いてや、センパイ♪」

口ではそんなことを言いつつ、瞳を狂気で黒く染めて、月詠が斬りかかってくる。怒涛の如く薙いでくる太刀をかわしながら、どうすればこの状況をすばやく切り抜けられるかを考える。
単純な力量での対決なら、恐らく一晩かけても勝負はつくまい。認めがたいことではあるが、この月詠という少女は人を斬る快楽に溺れながらも、その技だけは濁ることなく、巧みに相手を翻弄し、斬り倒すだけの『業』があった。

「楽しいですね〜? センパイ〜〜〜♪」
「…………」

突きから逆手小太刀の切り上げを見切り、こちらも掬い上げるように野太刀を振り上げる。月詠の腕にまた一つ、浅い刀傷が刻まれた。そのことに本当に意外そうな顔をして、月詠が尋ねてくる。

「は〜〜〜……ホンマ、別人みたいに冴え渡ってますわ〜〜〜♪ まるでジローさんみたいに……ね、センパイ?」
「……だったらどうだと言うんだ、月詠」
「あ、やっと返してくれましたな〜♪」

月詠が口にした人物の名前に反応して、知らず口が動いていた。『ジロー先生』と聞いただけで、胸の奥に焦燥が沸き起こる。無事に違いないと信じたいのに、最悪の結末だけ描いてしまう。妖怪の群れに、ジロー先生が――考えるな、刹那!

「私の言いたいこと、わかってくれてはるみたいで嬉しいですわ〜〜〜♪」
「……残念でも何でもないが、ジロー先生はお前のように、歪んだ剣は振らない」
「またまた〜、同じ剣士としてわかります〜♪ 普段は無手みたいですけど……あの人の剣は、完全に『人を斬るため』に特化してますえ〜〜」

うっとりと、まるで陶酔するように太刀に頬擦りする月詠。熱に侵された、まるでジロー先生と自分が、同じ存在であるかのような振る舞い。太刀を握る手が、ギリッと音を立てる。

「センパイだって知ってはるんでしょう? あの人も中々――」
「だったらどうだと言うんだ。ただ楽しみたいがために人を斬る貴様が、何を知った風に」
「それはただ、『方向』が違うだけです〜〜♪ 結局、どんな目的や理想があっても、人を殺してはることに変わりはないでしょう? センパイだって、一度くらいはありませんか〜?」
「…………」

剣を持つと頭の回転まで良くなるのか、月詠は饒舌だ。確かに、彼女の言っていることは正しい。大切なものを守るため、『それ』に近いことで手を汚したことも……何度かある。それがどれほど罪深いことか、それも知っている。

「ジローさんが何のために手を汚すのか……知りたいわ〜〜、センパイ♪」
「……」

小首を傾げる月詠を、ただ睨みつけた。自慢ではないが、私にだって完全には理解できないんだ。こんな戦闘狂に言ったところで、理解できるとも思えない。
最初はジロー先生も私と同様、ネギ先生のために、あえて影を引き受けているのだと思っていた。ある部分でそれは合っている。
事実、初めてその力量を測らせてもらった時、そうしたことも言っていた。だが――

『あー……まあ、ネギを守りたいってーのもあるけど……どう言えばいいのかな? 『殺す』時だけは、ネギのためじゃないと言うか……。『武術を使う者としての心構え』ってのが、一番近い心境かもしれんけど……俺だって好き好んで殺してないし、出来る限り見逃しはするし……うーーん?』

それからすぐにわかった。ジロー先生はネギ先生のために戦いはするが、汚れ役を背負う原因をネギ先生に求めない。あくまで『自分だけ』の罪として、ソレを捉えている。酷くドライ。恐らく、数百年の月日を重ねたエヴァンジェリンさんにさえ近い、その思考。
前の世界での生活が、そうしたものを生んだのかとも思ったが……本人から聞いた限り、いたって普通な世界だった。『こちら』の「表」と同じ様に平和な世界。
そうした場所で、どうしてジロー先生のような『強すぎる』人が生まれたのか。『裏』に関わって生きていたせいでそうなったというのなら、まだ納得はいく。認めたくはないが。
だが、突然『こちら』側に喚ばれて、訳のわからないうちに『人』の範疇から外れて、それでも『自分』でいられる……いてしまう精神的な強度。
何があっても、傍目には『変わらず』。「変われない」ではなく、「変わらない」。正直それは、ある面においてひどく残酷なはずなのに、弱音を吐かない……もっとも、カモさんにだけは、弱みを見せることがあるようですけど。

「……覚悟が足りない半端者には、な」
「どうかしましたか〜、センパイ?」

自虐的な呟き。私はジロー先生のように、自分の半身を受け入れるほどの度量はない。怯えて隠して、逃げて、揺れ続けてしまう。そんな奴に寄りかかってはくれないだろう。
頭を振って、沈み込みそうな考えを隅に追いやる。たとえ逃げだとしても、今考えるべき内容ではない。一秒でも早く、お嬢様を千草から取り返さなくては。

「お前の相手はもう止めだ……」
「へ?」

私は自分の胸ポケットに入っている、パクティオーカードの存在を思い出した。初めてその絵柄を見た時は驚いたが……大丈夫、あの『絵』だけでばれたりはしない……はず。
この状況で、まだ情けないことを考えている自分。本当に、私は『変われない』奴だ。
今この場だけでも自分の迷いを断ち切らなければ、月詠は倒せない。相手はそれだけのものを持っている……『剣士』としては。
だが、『人』を斬り倒すことに執着したこいつに、『神鳴流剣士』の先輩として、一つだけ教えてやる。
ゆっくりと大上段に太刀を構える。月詠までの距離は六足少々。ギリギリ届く……か?

「『神鳴流剣士』・桜咲刹那――参る」
「あやや〜、ホンマ、刹那センパイはせっかちサンや♪」

全身が痺れるような緊張の中、私は大上段に構えた太刀を迷わず振り下ろした――――構えた場所から、一歩も動かずに。

「!!?」
「神鳴流は――――!」

虚を突かれた月詠に構わず、振り下ろした太刀の勢いを殺さないようにしながら、野球のバットの様に振りかぶることで加速を得る。背中が見える程に体を捻り、弓を引き絞るように力を溜める。
私の体勢を見て危険を感じたのか、月詠が動き出そうとするが、もう遅い!!

「――剣だけの流派ではない!!」
「! ひゃあぁぁぁっ!?」

振りかぶった勢いに体の捻りも加えて、私は夕凪を、月詠に向かって発射した。月詠の胴体に向かって、一直線に飛翔する夕凪。だが、月詠も一流の剣士だけに、服を裂かれながらも回避に成功する。もっとも、避けるとわかっていたからこそ、夕凪を投げたのだが。

「…………あや?」
「――『刀で』倒すことに固執するから、『こう』なるんだ」

懐に潜り込まれていたことに、呆気にとられた声を出した月詠の鳩尾に、私の本気の拳がめり込んでいた。間髪入れずに、顎を横から打ち砕くように掌底で打つ。

「は、はららぁぁぁ〜?」
「お前の得物を借りるぞ。神鳴流奥義・雷鳴剣!!」

桜吹雪の中に、一条の閃光が落ちる。こいつの刀は、出来れば使いたくなかったが……『邪道の剣』を使った罰だろう。
ブスブスと煙を上げる月詠を見ながら、もう少し、自分の習得した流派を見直せと思った。

「――くっ! はぁ、はぁ…………ふぅ」

全身から汗が噴き出し、堪らず膝をつく。手足の震えが止まらない。月詠の太刀をギリギリで見切り、反撃するために浪費した集中力。すぐにでも集中が途切れそうな状態で、狂剣を振るう相手に無手で挑むなんて無謀な真似、二度としたくない。冷静に考えて、夕凪を弾かれていたら、どうなっていたことやら。

「これで徒手空拳まで互角だなんて言われたら……ゾッとしないな」

桜の幹に半分以上刺さった夕凪を引き抜きながら呟いた。愛刀を投げるなんて、剣士として誇れる行動ではないが。許してくれ、夕凪。これもお嬢様を助けるため、そして少しでも早く、ジロー先生も助け出すための苦肉の策だったんだ。

「……もう一分は過ぎてしまったか」

ネギ先生達も無事に切り抜けているといいが。今の状態では私一人がどう足掻いても、千草達からお嬢様を助け出すことができない。体力だけなら、まだ精神力でどうにかなるのだが……

「つくづく厄介な奴だな、貴様は」
「ハラホロヒレハレ〜〜……」

私の精神力をごっそりと奪った神鳴流崩れを睨む。何故だ? 憎みきれない。こんな汚れた剣を振る奴なのに。……口調のせいか?

「……ウフフフゥ♪ ジローさんとの殺し愛、激しすぎるわ〜♪」
「…………どうやら、私は勘違いしていたようだ」

少しは頭に血を巡らして、まともな恋愛を理解できるようになれ!
木に逆さまにして、月詠の刀を使って磔にした月詠に毒づいた後、私は震える足に活を入れて走り出した。何をやっているんだ、私は。
すみません、お嬢様、ジロー先生――――

〈sideネギ〉

「わああぁっ!!」
「おお!!」

コタロー君と僕の距離が一気に縮まる。同い年で、僕のことを「強い」と認めてくれた初めての「ライバル」。僕だって本当は、小太郎君と全力で戦いたいと思う。だけど――

「――『解放・魔法の射手・戒めの風矢』」
「!! な、なんやコレ!?」
『あ、兄貴!!』
「……ゴメンね、小太郎君。このかさんが待ってるから、僕は先に進むよ」
「なっ!!?」

ショックを受けたような小太郎君の顔に、僕も表情が歪むのがわかる。アスナさんが近づいて、早く行こうと促しているのはわかったけど、これだけは聞いておかないと。

「ネギ、早く――」
「……小太郎君、何であのお猿のお姉さんの味方をするの? あの人は僕の友達を攫って、ひどいことしようとしてるんだよ?」
「クソッ、動かれへん!……ふん! 千草の姉ちゃんが何やろうと知らへんわ。俺はただイケ好かん西洋魔術師と戦いたくて手を貸しただけや!」
「なっ!? このガキ、ンな理由でこのかを攫う奴に協力したの!!?」

カッとなるアスナさんに一瞬だけ怯んで、また小太郎君は僕に言う。

「けどその甲斐あったわ。お前に会えたんやからな、ネギ! 嬉しかったで。同い年で、俺と対等に渡り合えたんはお前が初めてやったからな!」
「……試合だったら、これが終わってからいくらでも――」

僕が出した提案に、動きを封じられた小太郎君が、激しく体を揺すって叫んだ。

「ざけんなぁ!! 俺にはわかるで、お前はコトが終わったら本気で戦うような奴やない! 俺は本気のお前と戦いたいんや! 今ここで! この場所で!」
『兄貴、急がねえと儀式はあと数分で……』
「ゴメン、カモ君。もう少しだけ、小太郎君と話をさせて」

しっかりと、僕を睨み続ける小太郎君の目を見て、話を再開する。

「僕だって本当は、小太郎君と全力で戦いたいと思う。けど本当にやりたいこと、やらなきゃいけないことが僕にはあるんだ。「今は」小太郎君と戦いたくない。僕が今、本当にやらなきゃいけないのは、このかさんを助けることなんだ――」

そこで一度、言葉を止める。思い浮かべたのは、笑顔で送り出してくれた人。

「今、僕の我侭で小太郎君と戦って、このかさんを助られずに儀式を完成されちゃったら……僕達のために、一人で何百もいる妖怪を引き付けてくれたジローさんの行動が無駄になっちゃう」
「ネギ……」
『兄貴……』
「なんでや……なんでンな下らん理由で俺と戦わんのや!!? 全力で俺を倒したら間に合うかもしれへんで!? 戦えやネギ! 男やろ!!!」

本当にイライラした様子で小太郎君が叫んで、僕のことを挑発した。「男やろ」、か。違うと思うんだ、それは。

「絶対に下らなくなんてないよ、小太郎君! ジローさんが今やっているのは、命を賭けなきゃいけないことなんだ。小太郎君は誰かのために、一人で何百もいる妖怪と戦うことが出来るの!? ケガした体で!」
「ぐっ……」
「一分でも……一秒でも急がないと、命懸けで道を作ってくれた人を「僕」が殺すことになっちゃう。「男」だからこそ、どんなに苦しくても、ここで「戦わない」ことを選ばなきゃいけないんだ!…………だから、僕はもう行くよ」
「……」
「信じてくれないかもしれないけど……何かのついでに小太郎君と戦うんじゃなくて、僕が小太郎君と本気で戦いたいと思った時に、僕と勝負してくれないかな? その、僕も初めてだったから……「ライバル」なんて思える友達って」

僕の正直な喜びと、本気で勝負したいという気持ちだけ伝えて頭を下げた。答えは……聞くのが怖くてできなかった。本当に酷いし、めちゃくちゃなことを言っていると思う。
結局、僕が言っていることも、ただ僕のやりたいことを小太郎君に押し付けているだけだから。それでも、ここで止まっちゃいけないんだ。

「……行きましょうアスナさん、カモ君」
「え、ええ、わかったわネギ」
『お、おう』

黙り込んでしまった小太郎君の横を通り抜けて、僕達は湖を目指して走り出した。謝っても許してくれないだろうけど。ゴメンね、小太郎君―――
走っていると、すぐに後ろから刹那さんが追いついてきた。

「終わりましたか、ネギ先生」
「刹那さん……月詠さんは?」
「……宣言通りにはいきませんでした。多少、手荒にもなりましたが……たぶん大丈夫です」
「そ、そうですか……」

刹那さんの頬に付いた血の跡。こ、これで向こうは、おサルのお姉さんと白髪の少年の二人だけ。

『兄貴、このか姉さんを助け出す作戦なんだけどよ、まずは―――』

走りながら、カモ君が立ててくれた作戦の内容を聞きます。

「うん、あの少年を出し抜くにはそれがよさそうだね! それじゃお願いします、アスナさん、刹那さん!」
「わかった!」
「はい! ネギ先生もご武運を!」

先に、湖に設置された祭壇へ向かうアスナさん達を見送って、僕は自分が動きだすタイミングを見計らいます。
上手くいくかはわからないけど、自分にできる最良の手段と最大の努力で。
待っていてください、このかさん、ジローさん。すぐに行きます!





「ワルプルギスの夜・第六幕」
〈sideジロー〉

「せえいっ!」
『ぐぼえぇっ』

斬り捨てた妖怪に構わず、次の標的に向かう。

『ごおおぉ!』
「っ! 力任せに振っても意味ないわぁ!!」

こちらを叩き潰すつもりで振られた鬼の金棒を、角度を付けて下へ流す。
体勢を乱したところで、頭上で円を描くように鬼殺しを振って首を斬り飛ばした。そこで動きを止めることなく、腰の廻り・膝・手の握り……ありとあらゆる、刀を繰るために必要な部位を意識しながら、目に付いた連中を切り上げ、薙ぎ、突き、切り落とす。
風も雷も炎も無くただ純粋に、鬼殺しで九つの剣筋をなぞり続ける。

「せえぁっ!!」
『しゃあぁぁぁ!!』
「っ! 固っ!」

突き出した鬼殺しが、甲羅みたいな楯に防がれる。俺の動きを止めて満足したのか、坊さんの格好したのが笑う。甘い。柄から片手を離し、掌打を柄尻へと叩き込む。
木の板に釘を打ち込むように、鬼殺しが刺し込まれた。

『ぎぐっ!!!?』
「『楔(くさび)』。人が何百年も伝えてきた武芸を舐めすぎだぞ、お前ら」
『おいおい、ほんまかいな。楯ごと貫きよったで……』

鬼殺しに団子よろしく突き刺さった坊主?を振り飛ばす。さっきので大体、何匹目だ?

『に、二百四十体の兵が三分足らずで半ばまでも……ば、化け物かこの兄ちゃん!?』
『いや、あんたが言うなや』
「あー、ご親切にどうも……」

本当に妖怪かこいつら? ウソ臭いまでにひょうきんなんだが。力が抜ける。

『ぐぁっはー……天敵の神鳴流でもないのに、なんですかねあのアンチャン。得物だって木刀のくせに、ズバズバ斬ってますし』
『ぐわははは! 元気があってええやないか!!』
「……「死ぬよりも辛い目に合う覚悟があるのか?」、なんて聞いた俺がアホに見えてきた」
『さあさあアンチャン、ワシらもあと半分ぐらいになってもうたわ。気張っていきや』
「応援ありがと――なっ!!」

後ろにいたザコA〜K辺りを切り刻み、片手で鬼殺しを逆手に掴む。『一歩』で一つ目鬼の懐に潜り込み、魔力を溜めた拳を打ち込んだ。

「『閃花・紅蓮!』」
『『『ぎゃああぁぁっ!!?』』』

爆炎を貫通させて、後ろにいた集団も吹き飛ばす。側に鴉天狗が突っ立ていたので、柄尻を水月に入れる。正確には、肋骨の一番下の継ぎ目に当てたんだけどね。

「『衝月(しょうげつ)』……なんでもこの技、開祖が天狗に教えてもらったらしいぞ?」
『〜〜!!? がふっ、かはっ!』

人間ならショック死することもあるしな。苦しいみたいだし、楽にしてやるか。
頭を掴んで、顔面に膝を叩き込む。魔力を込めた膝が、相手の頭を破砕した。

『ぎゃああっ!!?』
「下手に人の形しているだけに殺りやすいな――とっ!!?」

危険を感じ、逆手に握ったままだった鬼殺しの柄を、突き上げるように掲げる。
妖怪の集団から飛び出してきた烏族の大剣が、鈍い音を立てて停止した。

『ほう、受けたか。なかなかやるな、青年……しかし、某は今までの奴等とはちと出来が違うぞ!?』
「――っ、上等!!」

同時に飛び退る。順手に持ち替え、お互いの得物を繰り出す。袈裟と袈裟の衝突、相手の切り落としからの突きは払い流し、脛切りは跳んでかわす。空中からの切り下ろしは、掲げた烏族の剣に防がれ、互いに脇構えからの薙ぎをぶつけ合う。

『くはははっ、呼ばれた甲斐があるわ! 存分に剣を打ち合える相手がいようとは!!』
「ええい、笑いながら殺しにくるんじゃねえ!――しっ!!」
『!? うおっ!』

興奮が剣筋を鈍らせたのか、僅か一寸、頚動脈から遠かった烏族の大剣をかわし、入り身と同時に首へ貫手。そのまま首を引っつかんで投げ飛ばし、群れに戻す。

「こいつも喰らっとけ!!! 『魔法の射手・火の17柱!』」

始動キーなしで出せる、最大数の『魔法の射手』を発射。見せ場なしで消滅していく妖怪に多少は同情しつつ、もう一度『魔法の射手』を撃つ。出し惜しみできる身分じゃない。魔法の矢が一本飛んでいくごとに、朝礼でムダ話を聞いている状態に近付いていく。唇を噛み破って、意識を保たせた。気を抜けば、立ったまま眠れそうだ。睡眠の方だぞ?
視界の端にはここからでも確認できる、魔力でできた巨大な柱。

「――間に合わなかったのか、ネギ?」

ネギの側にいない俺は、この場でひたすら妖怪達を斬り捨て、叩き潰し、抉って、貫いてを続けることしかできない。いい加減、面倒くさくなってきた。体力の温存なんて考えるから、こんな状況一つ突破できねぇんだ。じいちゃんが言ってただろ? 「やるならどこまでも、走るなら、ゲロ吐くまで走れ!」って。代わりに血と大言を吐いてやる。

「だぁー心配になってきた!! お前らとっととかかって来い! 雑魚は失せろ! 引き付けは止めだ止め! 全滅させてやる!!」
『調子に乗りや――うげえっ!!?』

喋るな、聞くだけ『残り時間』が無駄になる。性に合わんことをするんじゃなかった。こいつら全滅させれば、俺もネギ達の所に行けるじゃねーか。
数も当初の三分の一ぐらいだ。こっからは、さっきの烏族みたいな別格が出てくるんだろうけど、どうでもいいや。
一秒でも早くネギ達の所へ向かうべく、俺は鬼殺しを振るう速度を上げ始めた――

〈同時刻・麻帆良学園・学園長室〉

「学園から出れると言っただろうぉが!?」
「うう〜〜〜む、修学旅行も学業の一環じゃし、短時間なら呪いの精霊もだまくらかせると思ったんじゃがの〜。ナギの奴め、力まかせに術をかけよってからに……正直、無理かも、てへ♪」
「てへ♪じゃない!! 何とかしろ、じじィ!!! 殺るぞ!?」
「マスター、そんなに熱心になって……よほどネギ先生達が心配なのですね」
「誰・が・あのガキどものことを心配してるって〜〜〜?」
「あああ、いけません、そんなに巻いては――」
「ふぅ……あの馬鹿使い魔が不甲斐ないから、私がこんな面倒くさいことをしなければならんのだ」
「――ジロー先生に何ら責任はないかと」
「うん? 何か言ったか、茶々丸?」
「いいえ、何も」
「クククッ、まあいい。京都に行ったらまずは清水寺に行って、それから―――♪」
「楽しそうですねマスター。――美味しいお茶も探しに行きたいですね」
「うう〜、このかや〜〜〜」

この場でただ一人、事の重大さに焦っている老人が、孫娘を思って泣いていた。

「ワルプルギスの夜・第五幕」
〈sideジロー〉

くるぶし辺りまでしかない小川の水を跳ね上げ、星と月の明かりの下、三つの影が何度も交差する。影に対して俺は両足を踏ん張り、八双に構えた鬼殺しを叩きつけた。

「おおおおおぉぉっ!!」
『がはははは!』
『ふっ!!』
『はあぁっ!』
「ちっ!」

当たれば、確実に影の一つを粉砕する自信のあった閃撃は空を切り、逆に身を削るような三つの攻撃が、俺の体に赤い線を残していく。旋回するように水煙を上げながら、三つの影が引き返してきた。今度は俺も前に飛び出し、敵の数と同じだけ鬼殺しを振る。
とっとと妖怪どもを全滅させようと考え、順調に殲滅していた俺だったが―――

「いいかげん! お前らも! 失せろぉぉぉ!!」
『悪いなアンチャン。ワシらも呼ばれただけやから、勝手に帰るわけにいかんのや』
『はははっ、連れないことを言うな! 某は今、最高に楽しんでいると言うのに!』
『そうそう♪ 人生、寄り道は大事よ』

……俺もだけど、お前ら人じゃねえだろが!? 思わずツッコミを入れたくなるのを堪え、さっきから、むかつく位すばらしい連携で襲ってくる妖怪達を見据えて構えなおす。
目眩程度ならガマンできるが、視界に黒いベールがかけられるのはいただけない。

『なんや息切れか? 情けないのぉ、ワシらまだまだ余裕やで』
『はっはっはっ! オヤビン殿、某達と違って青年は、あの軍勢とたった一人で戦っていたのだ。そんなことを言っては酷ではござらんか?』
『そうよオヤビン。使い魔らしいけど、あまり私たちみたいな匂いもしないのよ、あの子?
逆に褒めてあげなきゃ。戦るまえからケガもしていたみたいだし、ねえ?』
「はぁっ! はっ、はあぁ……(クソッ、あんの白髪頭……人の体に穴あけやがって)」

さっきから脇腹が痛くて仕方がない。チアノーゼが起こっていないのも奇跡だし。
目の前の三体は、俺的妖怪漫画のバイブルに登場したカマイタチ三人衆並に強いし、思わず和んじまうぐらい気さくだし……殺りにくい。
あとは目の前の三体と、オヤビンに「ワシらの戦いを見物しとけ、このダボどもが」って言われた、雑魚連中だけなのに―――

「!!?」
『ほっほ〜〜、こいつは見物やなあ』
『わー』
「すまん……ちょっと振り向かせてくれ」
『ふむ。某、後ろから斬りかかるようなことはせん。後ろを見るがいい』

空気が急激に震え、同時に、足が竦むほどの魔力が後方から噴き出した。
目の前にいたオヤビン達に断って後ろを見る。そこにあったのは、先ほどまでとは比べものにならない太さの、天を貫くように伸びる魔力の柱。遠くにある森のせいで見えにくいが、その柱の下から徐々に這い出てくる『ナニモノ』かの『手』が見えた。

「……最悪だ。ゲームなら最後の大ボス登場ってとこか」
『そうやな〜。さしずめワシらは前座ってとこやな』
『うわーすごい、大妖の力を感じるなんて久しぶりね、オヤビン』
『某など相手にもならんな〜、これは』

ここにきて『封印』を解かれたか。ネギ達は……大丈夫、ネギの魔力は途絶えてない。刹那達も無事なはず。しかし、このまま放っておいたら確実に―――

『ほれ、アンチャン。余所見しすぎはアカンで』
「! が……あ゛あああぁ!!?」
『うわ、痛そー……』

オヤビンの金棒がフルスイングされ、魔力の練り云々関係なしに、楯として正面に構えた鬼殺しをへし折り、俺の頭まで打ち据えた。素で頭を打たれていたら、凄惨な光景になっていたな。てか、あの巨体で10メートルを一歩ですか……ヒデエ。
とっさに体の力を抜いて、金棒に「叩き飛ばされる」のではなく「放り投げられる」。
それでも、冗談みたいな膂力と得物で生まれた威力を消しきることは出来ず、割れた額から血を撒き散らして空中遊泳を体験する。アスナのハリセンより痛かった。
バシャバシャと額を押さえて川面を叩き、のた打ち回る。

「ぐぅぅっ、ぎ……あっ!!!」
『はよ起きな、そのまま餅みたいに搗いてまうで』

打たれた部分が熱い。今すぐにでも駆けつけてやりたいのに、こんなところで転がっている自分に殺意を抱いてしまう。歯を食いしばれ、コレよりも痛い体験はある―――!
真っ二つになったのに、まだ掴んでいた鬼殺しを投げ捨てながら跳ね起きた。体が勝手によろめくが……元人間様を舐めんじゃねぇ。

「――っ、――ああぁぁぁっ!! こんなモン、丁度いい『目覚まし』だ!!!」
『さようか――では、そろそろ戦いを再開しようぞ』
『もうちょっと楽しませてね』

手詰まり……どうする? 「とにかく早く」という想いと、「冷静に、確実にいけ」という想いが混じり合って脳を焦がす。
こうなったら腕の一本二本、骨の十本は覚悟して……さすがに死ぬな、ソレは。

「心配しすぎて、頭がこんがらがってきたか……」
『アンチャンも大変やの、使い魔なんぞやっとると』
「ああ。目を離すと、勝手にボロボロになりながら走っていきそうな奴なんでな」

オヤビンの言葉に苦笑して答えたが、額からダクダクと血を流している俺の言えたことじゃないかも。

『う〜ん、ご主人様が心配なのもわかるけど!』
『行くのなら、某達を倒してからだ!!』
「ご主人様で! 出来の良すぎる弟だ!!」

再び襲い掛かってきた狐女と烏族2に本音で叫び返し、迎撃しようと魔力で輝く拳を――

『きゃっ!?』
『むおっ!』
「―――はっ?」
『おっとお』

俺が殴り飛ばしたわけでもないのに、二匹は勝手にオヤビンの方へすっ飛んでいった。
オヤビンが飛んできた狐女と烏族2を受け止め、大口を開けて愉快そうに笑う。

『がっはっはっはっはっ!! 元気のええ娘っ子らや!』
「……忘れてた」
「ふう、やっと追いついたでござる」
「アイヤ、ジロー大丈夫アルか!? 血が出てるアル!!」
「な、なにぃ!? ジ、ジロー殿! 死んではだめでござるよ!?」
「はあ……ジロー先生、大丈夫かい?」

敵を吹き飛ばして格好よく登場したのは、俺が夕映ちゃんに頼んで呼んでもらおうと思っていた、クラス切っての猛者達。
俺も怒りやら焦りやらで、かなりテンパっていたみたいだ。まさか、応援を頼んだことも忘れていたなんて。

「こんな夜更けに悪いな」
「なに、この助っ人料は、名店「くまばち」の餡蜜10杯+依頼料で勘弁してあげるよ」
「そりゃまた格安なこって。夕映ちゃん、ケガとかしてなかったか?」
「疲労と混乱はしていたが、負傷はなかったよ。一緒について来ると言って聞かなかったんだが、説得して近衛さんの実家で待ってもらっている」

そっか、安心した。夜の山道は転びやすいから、助け呼ぶ時にケガしなかったか心配だったんだよ。

「もっとも、後からこっそりついて来ていたから、もうすぐここに来るんじゃないかな?」
「おおい!!? なに考えてんだテメエ、夕映ちゃん死なす気か!?」
「い、いや、邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまうからね。何、心配はいらない。ちゃんと彼女の護衛もするさ。ロ、ロハでいいぞ?」

訳のわからんことをほざいて、真名は頬を掻いている。じと目で見続けてやると、ごまかすようにトゥーハンドで銃を構えて、俺を送り出そうとしやがった。

「待たせたね。あの可愛らしい先生のところへ行くんだろう? ここは私達が引き受けた」
「追求できない自分が恨めしいが……ここは任せた。気をつけろよ? あそこの三体は格段に強い――ど、どうしたお前ら?」

夕映ちゃんのことは真名に任せよう。そう考え、光の柱目指して駆け出そうとした俺の肩を掴んだ「鬼」が二人。真剣さを通り越した二人の剣呑な表情に息を呑む。

「楓? クーフェイ?」

恐る恐る聞いた俺に、楓とクーフェイが交互に口を開く。
打ち合わせでもしていたのか、こいつら? 気色悪いまでに会話が繋がってるんだが。

「ジロー殿、リーダーから」「私達に助けを求めるように頼んだ聞いたアル」
「「ここは(拙者)(私)達に任せて行く(でござる)(アル)!」」
「……気をつけろよ? 助っ人頼んだ手前、お前らにケガされると俺が困る」

そう言うと二人ともにっこり笑って、俺の胸板を軽く叩いた。正直、今の俺のオデコ、風が撫でても痛い痛風状態。できれば揺らさないで欲しい。

「拙者達のコトなら心配いらぬ。今は考える時より行動の時でござるよ」
「『考えるな、感じるんだ』アルよ。中国四千年の技なめたらアカンアルよ〜〜♪」
「「さあ、とっとと『義弟』のところへ行く(でござる)(アルよ)!!」」
「……悪い、余計なお世話だったか」

自分達の力を舐めるなよ?ってことか。しかし、妙に『弟』と強調するな?
俺って、そんなにネギの兄貴っぽく見えるのか……ちょっと嬉しい。

「じゃあ楓、クーフェイ、真名! オヤビン達の相手は任せたぞ!」
「「「了解(でござる)(アル)!」」」

走り出そうとした俺に、オヤビンや烏族2、狐女が声をかけてきた。

『なんや、ワシらと戦り合っとる時よりも生き生きしとるな。おもろかったで、今度会う時は酒でも飲もや』
「ははっ、酒はあんま飲めないけど、楽しい宴会なら喜んで」
『青年の流派はわからんかったが、楽しかったぞ! さっきの嬢ちゃん達や坊ちゃんによろしくな』
「じいちゃん直伝だから俺も知らん。わかった、みんなに伝えておくよ」
『じゃーね。私達ほど頑丈じゃないんだから、無理しすぎないようにね〜♪』
「なるべくね。気を遣ってくれてありがとな」

「三人」ともサムズアップや手を振って、俺を送り出してくれた。マジでこいつら妖怪か?
ホントこんな時になんだけど、笑みが浮かぶ。こっちに来て初めての「お仲間」だ。
さあ、せっかく通してもらったんだ。ネギの元へ急げ、八房ジロー!

inserted by FC2 system