『魔法都市麻帆良』×『魔法先生!の使い魔?』
EX World/竜風の騎師VS元一般人な使い魔?

原作:コモレビ様&千年竜王(一応)  著:千年竜王



『使い魔?』世界/エヴァンジェリン邸宅内“別荘”

ここは、エヴァンジェリンの家の中に在る“別荘”と呼ばれる魔法空間
ここでの1日が外での1時間と言う時間の概念から逸脱した空間の中
高い塔の上に創られた広場のような場所で数人の人影が思い思いの行動を取っている
そんな中、1人の青年が何やら古めの本を読み開き
更に2人の少女がそれを後ろから覗きこんでいる

「う〜〜む」

本を読みつつ首を捻るのは中肉中背で黒髪の青年
しかし、その視線は本に注がれておらず、微妙な表情で頭を掻いている

「どうしました?ジロー先生」
「何かあったですか?」

彼に声をかけるのはサイドポニーの少女『桜咲刹那』と
少々変わった髪形をした小さめの少女『綾瀬夕映』

「いんや、急にこう嫌なことが起こりそうな予感がふつふつと……」

ジローと呼ばれた青年は少々煩わしそうに首の後ろをかく
背後の2人は心配そうな表情を向けると

「何か嫌な予感……ですか?」
「なんだろうねぇ……ただの気のせいなら、とてもいい一日になるんだけど」

と、ジローは心底ゲンナリしたような表情で明後日の方向を見る
少女2人が構わず明後日の方向を見続けるジローだが
ふと横からお盆に乗ったティーカップが差し出される

「ん?」

ジロー手の方向に視線を送ると緑色の髪をして、耳の辺りに変わった飾り物を付けた少女が
やや頬を赤くしてお盆を差し出している

「ど、どうぞジロー先生……」
「ああ、ありがとうな茶々丸」

機械であるはずの茶々丸の頬が妙に赤くなっているが
それに気付いていないのかジローは笑顔でティーカップを受け取って啜ると

「―――うん美味い、また淹れるのうまくなったんじゃないか?」
「そ……そうですか?ありがとうございます」

背後から恨めしげな視線が2つほど突き刺さるが
それに気付かずに茶々丸を褒めるジローと褒められて嬉しそうな表情の茶々丸
和やかな雰囲気の中(2人例外)、それをブチ壊すような大声が突如響く

「ジ…………ジローさぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「ちょ……ネギ!待ちなさい!っていうか落ち着きなさい!――――でもアレは何なのよぉーーー!!!」
「ええい!貴様も落ち着かんか神楽坂アスナ!」
『………………』
「あ、あわわわわわわわ……」
「のどかも落ち着きや〜、……ほんとに何なんやろな〜、アレ」
「……な、何だろねー……?何となくアレに恐怖を感じるんだけど……私だけかな?」
「―――っていうかジロー!一体何してるアルか!?」

突如4人の所へ雪崩れ込み、次々に騒ぎ出す赤毛の少年と幾人かの少女達
何故か某パパラッチの少女と白イタチな小動物がその“アレ”に恐怖を抱いているようだ
また、褐色肌中華娘がジローを睨んでいるのはお約束である

「―――ん?一体どうしたんだ?」
「ジ……ジジジジジローさん!あ、あああああっちあっちあっち!く……くくくく黒い穴が!穴が!!」
「まあまあ、とりあえず落ち着こうや? ほれ、息吸ってー、吐いてー、吸ってー、吸ってー」
「は、はい―――…………ス〜〜、ハ〜〜、ス〜〜、ス〜〜」

ジローの少々妙な掛け声に合わせて深呼吸する赤毛の少年こと『ネギ・スプリングフィールド』
だが、その掛け声の妙さに気づかないほどネギは慌てていたらしいが、どうにか落ち着いたところで改めてジローが尋ねる

「―――で、一体何があったんだ?」
「――と、とにかく来てくださいジローさん!」

慌てた様子のネギがやれやれといった様子のジローを引っ張って行き、残りの面々もそれに続く

「―――あ、アレです!」

影になっていた屋根のある場所から出て
ネギが指差している方向をジローが見ると

「……―――何だよアレは……」

そこには黒い穴の様な物が放電現象を起こしながら浮かんでいた
直径は目測で約7m程、大きさの割に小さく見えるのはその穴がかなり高い位置に浮いているからだろう

「――……エヴァ?」
「…………私もあんなのは知らんぞ」

思わずこの空間の主に問うがあまり聞きたくない即答が返される
そうやって話している内に穴に変化が起こる

『お……おい見ろよ相棒!?』

白イタチこと『アルベール・カモミール』の声に全員が穴の方を見ると
既に放電現象は収まり、黒一色だった穴の色が大極図のように白と黒の二色へ変化している

「―――魔力反応無し……アレは一体何なんなのでしょうか……」

茶々丸の言うようにその穴はいかにも魔法関係の様に見えるのに反し、魔力が全く感じられない
有り得ないを通り越して不気味ですらあるその穴に再度変化が起こる

「「「「「――――!!!!」」」」」

突如穴が2つにが割れるように開き
中から現れたのは……

「ロ……ロボット!?」

それは全身を翠色の鎧と濃い緑色の布の様な物で包み
白と黒、2色に分かれた一対の翼を背負った10m近い大きさを持つ人型の機械
否、ただの機械ではない
翠色の鎧は金属でありながら肉質のような光沢を見せ
肉質でありながら金属の堅さと強さを持ったような何かでその機械人形は構成されていた
その姿を見た皆が反射的に構えるのに構わず機械人形は皆から20mほど離れた所へ降り立つ
直後、皆に背を向ける機械人形から光が弾け
白と黒の大翼は背に配備されたユニットとそれに接続された緑色の翼に変わり
全身を覆っていた翠色の鎧も光を弾けさせながら緑色の金属鎧へ置き換えられていく

「な……何よ…………?」

明日菜の言葉を契機としたように
機械人形から拡声器を通したような男の声が響く

『―――試作型凌駕紋章“天地門”・解除完了――緑獅子・改、各部異常無し……か』

ジロー達にとっては何だか分からない単語を口にしながら
ノイエ・グリューンと言う呼び名と思われるロボットは辺りを確かめるように睥睨している

『―――む?ここは……確かエヴァンジェリンの“別荘”か
 おかしい……転移先をここに設定した覚えは無いのだが……』

緑獅子・改は周囲が見回しながら呟いた言葉
それは一同にとってかなり衝撃的だった

「エ……エヴァンジェリンさん……?あのロボット……どうやら貴女とここの事を知ってるみたいですよ……?」
「し……知らん!―――600年生きてきてあんな訳の分からん物を見るのは初めてだ!」

夕映の震えながらの問いに思わず大声で答えるエヴァ
それは皆の逆方向の海を見ていた緑獅子・改にも聞こえたらしく
脚部から駆動音を立てつつ皆の方へ向き直る

「ひ…………!」

前髪がやや長めの少女『宮崎のどか』が小さく悲鳴を上げるのにも構わず
緑獅子・改は黄色い光を発する目のような部分で皆を見ると……

『―――エヴァンジェリンに桜咲に綾瀬に絡繰、ネギ先生に神楽坂に近衛に古菲に宮崎に朝倉か
 今日も修行か?ご苦労な事だな、――――む?そう言えばその青年は誰だ?魔法生徒や教師には居なかったと思うのだが』

明らかに皆を知っているような口調で緑獅子・改は皆を呼ぶ
しかしジローの方へ視線をやると、今度は一転した風で言う
ますます訳が分からなくなった一同を無視し
緑獅子・改は誰かと話すようにブツブツと呟きだす

『―――何?しかし……む?何だと?
 またか……、だがその可能性は――……そうか、…………――ハァ……』

なにやら喋り終えると、突如緑獅子・改は片膝をつく
何事かと再度身構える一同だが、緑獅子・改の目に灯る光が消え
更に5分ほどしてその後頭部辺りからいきなり誰かが蹴り出される
何事かと見る皆の視線の先にはワイシャツにジーパンをはき、金髪を2つに分けて結った少女が情けない恰好で倒れている
そしてその少女に続くように右腕に緑色の装甲を持つ巨大な義腕を付けた軍服の青年と
白銀のケースを2つ抱え、侍女服を着た銀髪の女性が飛び降りてくる
青年は起きあがった少女が何か騒ぐのを無視しつつジロー達の下へ歩いて来るが……

「……何故構える?」
「だーかー――おぷっ!?」

立ちはだかる様に立ったジローが警戒の表情で青年を睨む
その様子に立ち止まった青年の背に少女がぶつかるがジローはそれを無視し

「いや、何でと聞かれましても……あからさまに怪しいから?」

訝しげな視線で自分を見る青年に軽く肩を竦めつつで話すジロー
その言葉に青年が視線を移せば、ジローの後ろでも刹那やエヴァンジェリンが警戒の体勢を取っている
それを青年は肩を竦めつつ苦笑すると

「―――はは、確かにそうだな、ではこれ以上近づかない事にしよう」
「――アルベルト様?」
「ノイン、黄凪、お前らもそれ以上動くな」
「承知いたしました」
「むー……、うぃーっす」

どうやら義腕の青年の名はアルベルト
侍女服の女性はノイン、そして金髪の少女は黄凪というようだ

「―――さて、まずは名乗ろうか、俺の名はアルベルト・シュバイツァー、そしてこっちが……」
「ベルマルク・ノインツェーンと申します」
「んふふー、あたしは黄凪ちゃんでーす」
「――ご丁寧にどうも、俺は八房ジロー、…………いきなりで悪いがあなた達は何者なんですか?
 ここの事を知ってるって事は………」
「ああ、お前の後ろに居る面子の関係者だ、魔法も知っているぞ?」
「――んあ?」
「「「「「「「???」」」」」」」

ジローが振り向くと、後ろの皆は首を横に振ったり訝しげな表情を見せたりしている
本当か?とジローが聞こうとした時

「最も、この世界では無い―――似て非なる世界での話だがな」
「「「「「「「――っ!!?」」」」」」」

黄凪以外の面々が弾かれたように2人を見るが2人はそれを無視し

「―――全く……まさか同じ事が二度も続くとはな……」
「ま、重要なのは日頃の行いだぁーねぇ」
「貴様は何が言いたい?」
「アルベルト様、言われねば理解できないのですか」

半目のアルベルトとノイン、そして気楽そうな黄凪が会話している中
絶句する皆の中で最初に立ち直ったジローが声をかける

「なんか問い質すのも馬鹿らしい気がせんでもないけど……別世界の麻帆良から来た、というのは本当なんですか?」
「馬鹿らしいなら問うな……と、いいたいがな
――そうだ、ちなみにその前はまた別の世界に居たがな」
「最も、前回の原因はアルベルト様のご友人の起こした事故ですが
 今回の原因は情報不足による事故だと判断できます、――どうして我が主はこう運が悪いのか……理解できないと思考します」
「うけけけけっ、まさかここまで盛大に失敗するたぁ思わんかったけどねぃ
―――やっぱアルッちに何か憑いてんじゃね?」

そう言って無表情に首を振るノインと気楽そうに笑う黄凪にアルベルトは半目を向けると

「黙れ貴様ら」
「「……………………」」
「―――……そこまであからさまに黙らんでいい」
「――――言動が矛盾していると判断しますがいかがでしょうか?」
「だよねぃー、――いしししししっ」
「……わざとか貴様ら」
「? ――何の事でしょうか?」
「―――いしゃしゃしゃしゃっ」

漫才じみた会話を行なうアルベルトとノインと何がおかしいのか奇怪な笑い声を上げる黄凪
話から取り残されたジローが軽く頭を抑えながら再度声をかける

「…………そろそろ話を戻してもいいですかね?」
「ああ、かまわんが?」
「ご随意にどうぞ」
「――っひゃっひゃっひゃっ」

ジローの問いに即答で返すアルベルトとノイン
その様子にジローは軽く頭痛を感じつつ話を黄凪の奇怪な笑い声を無視すると

「では、あなた達も異世界〜、とやらから喚ばれた口ですか?」
「――いや、俺とノインは友人の起した空間転移の実験に巻き込まれてな
 たまたま着いた先が麻帆良だったと言うだけだろう、―――む?」
「んー、あたしはアルッちとノインさんがたどり着いた麻帆良の出身だねぃ
今回は転移の記録と安定化要員なのよさー――……うい?」

アルベルトと黄凪はジローの言葉に固まり
ややあってから揃って首を傾げると

「『あなた達“も”』だと?どういう事だ?」
「そそ、“も”って何さ、さっさと答えんと凄いことするかもよ?」

訝しげな視線をジローに向けつつ詰問するアルベルトと黄凪
対するジローは苦笑を浮かべながら頬を掻くと

「まあ、細かいことは脇に放るとして。ここにいるのが原因、それで私が結果と」

原因の時にネギ、そして結果の時に自分を指差すジロー
それを見たううー、と唸りながら首をすくめるのを見てアルベルトは少々思案すると

「成程……―――ネギ先生、何が出てくるかも知らんのによくやる気になったな
 どうせ簡単な何かを召還するつもりがくしゃみでもして暴走したんだろうが」
「え……――何でそれを知ってるんですか!?」

アルベルトが言い切った言葉に驚きの表情を浮かべるネギ
その言にアルベルトは軽く溜息をつくと

「―――はぁ…………知ってるも何もカマをかけただけに決まってるだろうが阿呆」

その言葉に眼前のジローが少々疲れたような苦笑を浮かべるのをアルベルトは無視
額に手を当て、やれやれとでも言いたげに首を振ると

「――向こうでもそうだが先生はもう少し脳を使ってから会話したほうがいいな
 いくら頭が良かろうと搦手に掛かっては意味が無いのだぞ?
 (…………世界が違うとは言えこの小僧にこの手の注意をするのは何度目だったか……?)」
「あううう」

アルベルトは内心で呆れつつもそれを表には出さず
ヘコむネギを無視して再びジローに声をかける

「――で、その後は?」
「別にどうも。しばらくネギの家で世話になって、何やかやで麻帆良に来て副担任やら先生やらを少々」
「長いな……、ちなみに向こうで俺は3−A副担任兼麻帆良学園女子中等部警備員をやっている」
「何を張り合っているのですかアルベルト様」
「そそ、そんな意味の無い張り合いはやめんしゃい、てか勝負の主旨が意味不明よん?」
「―――む、そうか」

張り合っている事を何故か否定しないアルベルト
後方で半目になっている2人を無視すると、顎に左手を当てながら口を開く

「―――俺があっちに来たのは2年最後の期末テストの1〜2週間前か
 テスト前に担任と1部の生徒が行方不明になって軽く苦労したな
 ―――後で学園長の陰謀と判明して制裁を加えたが」

後半の一文を皆は無視したが
アルベルトは特に気にするでもなく言葉を重ねる

「後は着任早々生徒に“力試し”と称して喧嘩を売られたな、勝ったが」
「―――あー、俺は七福神の成りそこないの遊び心で試練を受けましたね」
「そうなのか?――やれやれ、あの老人の悪戯癖は世界を違えても変わらん様だな」

後ろで刹那が「う……」と唸ったが2人には聞こえなかったらしく
最初よりは幾分和やかな雰囲気で会話を続ける

「ええ、―――その様子だとそっちの学園長もこっちと大して変わんないみたいですね
 ―――やっぱあれですか、あなたも3−Aの面々とかには苦労しちゃってたりします?」
「ああ、最も一部の生徒は無害な俺を何故か恐れておとなしいが――「およ」――ぐおっ!?」

アルベルトが妙なことを言いかけた瞬間背後のノインが突如垂直に飛び
ほぼ真横に立っていた黄凪の頭に手をつく
軽い驚きの声を上げる黄凪を無視すると、その手を支点に高速旋回
凄まじい勢いの回し蹴りをアルベルトの後頭部に叩きこみ、アルベルトは前のめりに倒れこむ

「おー、とても痛そうアルなー」
「あははははー…………大丈夫かなあの人?」
「早っ……!?」
「申し訳ありません、聞き捨てならない単語が聞こえたものでして半ば反射的に」

ノインは軽い動きで地面に降りると黄凪や他の皆に一礼し
地面に倒れるアルベルトを見て首を傾げると

「アルベルト様、何を寝ているのですか、起きてくださいませ」
「…………とりあえず主の後頭部を強打した事に謝罪を寄越せ馬鹿者」
「アルベルト様、良い台詞があります、―――いつもの事です」
「……―――全く貴様は」

呆れつつも再び堪えていない様子で立ち上がるアルベルト
その視線の先ではジローや他の面々がやや心配そうにしている

「あーー……、大丈夫ですか?」
「まあな」

何でもなさそうに言うアルベルトを見て安心したのか皆が軽く息を吐く
それを見たアルベルトはふむと唸ると

「―――さて、話を続けよう
 喧嘩を売られて勝ったと言ったな?」
「ええ」

ジローの返答にアルベルトはうむ、と頷くと頭をかきつつ言う

「しかしあれだな、あいつは忍者ではないと自分で言いつつアレでは本末転倒だと思う俺は間違っているだろうか?」

そう言いながら真顔で自分を見るアルベルトにジローは意味もなく冷や汗をかくと

「いや意味がわかりませんが……――と言うかあなたに喧嘩売ったのは楓ですか」
「いや、桜咲とコンビだったが?」
「「「「「「「え……?」」」」」」」
「う……」

全員の視線が一斉に刹那に向き、思わずたじろぐ刹那
それを無視しておもむろに虚空を見上げると、再度話し始めるアルベルト

「―――と言うか反則過ぎるだろう桜咲はと言うよりこの学園の連中は何だ気や魔力による能力強化の度合いはノインのアレの存在価値が微妙に下がるだろうが長瀬も分身の術など初見で防げるか馬鹿者と言うか勉強せんか龍宮も龍宮だ何だあの狙撃の正確性はと言うかあんなごつい拳銃で二丁拳銃とは何を考えている阿呆かと言うか何故平気なのだ古菲も震脚でコンクリートを踏み砕くな脚が砕けんのか何故何も感じとらんのだと言うか頼むから勉強してくれしかし俺の世界のぶっ飛び連中とすら互角以上に戦り合えそうな連中ばっかりに見えるとは何事だと言うかこの世界に位階の概念を持ち込んだら絶対に王位や聖位がポンポン出るぞ特に神鳴流―――」
「アルベルト様、考えが纏まらないままタレ流しになっております
 そのままでは意味不明だと判断します」
「―――む?すまんな」

ストレスが溜まっているのかは知らないが
とにかく凄まじい勢いで喋っていたアルベルトをノインが落ち着かせる

「――――ちなみに、こちらは刹那と真名でした。当たり前ですけど見事に負けました、ハイ」
「――ほう、そうなのか」

ジロー先生が途中で降参したんじゃないですかー、と後ろで刹那が抗議しているが
2人はそれを無視すると、ジローがふと何かに気付いたように声を上げる

「―――ええっと……今気付いたんですが、…………帰る手段はあるんですかね?」

自分のように使い魔として縛られてはいないとは言え
目の前の青年が元の世界に帰る手段は有るのだろうか?
その問いに、アルベルトは割合あっさりと答える

「ふむ、――――有ると言えば有る、無いと言えば無い」
「「「「「??」」」」」
「――アルッちアルッち、それじゃ流石に理解できんとあたしは思うよ?」
「そうだな……俺が本来居た世界に帰る手段は無いが、俺の知るお前達が居る世界に帰る手段は有ると言うことだ」

疑問符を浮かべる皆を笑いながら見つつ義腕で後方の人型機械を指すと

「アレは緑獅子・改と言う名の重騎……まあロボットのような物だがな
 俺の戦種は本来アレに騎乗――乗り込んで戦う重騎師なのだが……
 ――ふむ、蛇足だな?続けよう、アレには実験用凌駕紋章……空間転移装置のようなものが積まれている
 それを“向こう”……俺の知るお前達が居る世界で改良した結果
 どの次元に居ようと“向こう”には戻れるようになっているのでな」
「な、成程…………」
「何だそのトンデモ兵器は……」
「「「「「…………????」」」」」

アルベルトの説明をジローやエヴァンジェリンは理解できたようだが
ほとんどの面々は良く分かっていないらしく頭を捻っている
アルベルトはエヴァンジェリンに半目の視線を向けると

「ところでエヴァンジェリン、貴様に“トンデモ”とか言われると非常に納得がいかんのだがどう思う?」
「――知るか」
「ふむ、そうか」

即答するエヴァンジェリンだがアルベルトは特に気にした様子もない
その様子を横目で見ていた黄凪がま、と声を上げると

「―――空間転移機能は一度使うと安全を満たすために30分は使えなくなるのよねん」
「――そんな訳だ、悪いがあと30分ほど我慢してくれ」

すまんな、と付け足しながらそう言うアルベルトだが
唐突に何かを思いついたように、何やら楽しそうな表情をする

「ああ、――確か八房だったか?――少し頼みがあるのだがいいか?」
「あ、俺の事はジローって呼んでもらえるとありがたいんですが」
「ふむ、ならば俺もアルベルトと呼べ、それと敬語も使わんでいい」
「……そうですか?―――じゃあお言葉に甘えて
 ――で、頼みとは?」

ジローの問いにアルベルトは口元を歪ませると
楽しそうな声色で告げる

「何、簡単な事だ、―――俺と一戦交えてみないか?」
「…………言っていいですか? いきなり何を言い出してんですか、っつーかどういう思考をしてらっしゃるので?」

思わず疑問の声と半目をアルベルトに向けるジロー
アルベルトはそんなジローの反応を無視し、左の親指で自分の頭を軽く突くと更に言葉を重ねる

「――ははっ、こういう思考に決まってるだろう……――と、冗談だ
 何、俺が“向こう”で護るべき対象を護っているのだ
 その実力を測っておきたいと思っても悪くあるまい?」
「護るって……そんな面倒なこと、頼まれてもやりませんて」
「はは、貴様の思考はこのさい問題でない、結果として守れるか否かを知りたくてな」
「さいですか……」

そう言いながらジローがちらりと後ろをを見ると
皆はむしろ楽しそうな風情で

「面白い、やってみろ
 ――無様な負け方したら承知せんぞ?」
「ジローさん頑張ってくださいー」
「負けたら承知しないわよー」
「……頑張るです…」
「え?ええっと…………頑張ってください」
『頑張れ相棒ー』
「あー……負けるなアルジロー……」
「あはは、がんばってねー」
「ジロー君がんばってなー」
「あわわわわわ」
「――頑張ってくださいジローさん」

満場一致(1人例外)で賛成(むしろ応援)され
微妙な表情で振り返ったジローの視線の先では
アルベルトが予想通りとでも言いたげな笑みを浮かべていた

「はは、随分と懐かれているなジロー」
「そうですかね?」
「――ははは、まあ、少なくとも一部はお前を好いているようだな?」
「その様に見て取れると判断します」

それはアルベルトからすれば軽い問いだったのだろう
恋愛経験が全くないアルベルトでさえジローを頑張れと応援する少女達の中に間違いなくジローに対する好意の感情が聞いて取れ、見て取れる
彼だろうとアレほどの好意を向けられれば何かしら思う筈だ
しかしジローの返答は彼の予想の上を行った

「ハハハ、思わず笑ってしまいますね。何ですか、嫌味ですか? まずないですね、そーいう対象で『好かれる』なんてぇのは」
「―――何?」
「は――?」
「はい?」
「「「「………………」」」」
「「「「「『――――…………』」」」」」

はっきりとした否定の言葉にノインすら言葉を失い
後ろでは一部の少女が石化し、残りが頭を抱えている

「「「…………」」」
「それじゃ、ちいっとばかし戦りますかぁ…………って、何やってるんですか?」
「少し待て、…………で?どう思う?」
「…………アルベルト様のVerUP形態と言ったものだと判断します」
「おいおい酷い従者も居た物だな、―――しかしアレは救いようが無くないか?」
「自覚が無いと言うか存在しないところがまた何ともねぇー」
「――哀れだよなぁ」
「そうですがむしろ怒りの感情が湧き上がってくる私は間違っておりましょうか?」
「いや、全然間違ってないとあたし思うのよさ」
「―――これはいっその事人生終わらせてやったほうが幸せではないか?」
「その場合アルベルト様も同じ道を高確率で辿る事になるかと」
「そうか?」
「聞こえる声で内緒話って、考えてる以上に人の神経逆撫でするんですけどー? そこんとこ理解していますかー、そこの御三方!」

ジローの微妙にいらついた声にアルベルトと黄凪は生暖かい微笑を、そしてノインは無表情を向けると

「ははは、理解してるからやっているに決まってるだろうがこの阿呆」
「うっわ最悪」
「最悪はどちらでございますか」
「そそ、鏡見ろって感じー?」
「だーかーらー、自覚が存在するしない云々の前に、そうした認識を持つ必要のある相手がいないと言っとるでしょうが」

ジローがそう言い放った瞬間
その場にいる皆は周囲の空気がいきなりどんよりと重くなったように感じた
そしてジローがふと振り向くと、後ろの皆の中央辺りで固まっている刹那達が
痛みに慣れきってしまったような、そんな虚ろな愛想笑いを浮かべつつ
更にダメージを受けたような雰囲気を浮かべていた

「ほう…………」

そして、少々の怒りと多量の呆れを含んだアルベルトの声にジローが振り向くと
ノインは何事もなかったかのように佇み、黄凪も頭の後ろで手を組みつつ明後日の方を向いて口笛を吹いている
その様子をアルベルトは無視しつつジローに半目を向けると

「……それは本気で言っているのか?」
「え? あー、まあ本心からですけど」
「……そうか……(俺以上かこいつは……)じゃあ始めるとするか
 悪いがネギ先生達は向こうへ行ってくれ、巻き込まれるぞ」
「……あ、はい」

アルベルトの言にネギが慌てて頷くと
ネギ達は高台の外れの方へ走っていくが……

「……あー……綾瀬?古菲?」
「桜咲様?」
「あー……茶々……丸さん?」
「「「「………………」」」」

先ほど重苦しい雰囲気の原因である4人の少女は
その様子を見ていたアルベルト達の言葉を切欠としたように俯いていた頭を上げ
まず夕映がジローに視線を向けると

「……ジローさん……」
「な……なに、夕映ちゃん……?」
「……もう適当でいいんで適当に頑張ってくださいです……」
「……はい?」
「……そうですね、何かもうどーでもよくなりました
 あー、一応応援しときます、頑張ってくださいー……」
「せ……刹那?」
「もう、負けるなり勝つなり好きにすると良いアルよー……」
「く……古菲?」
「………………」
「え……ええっと……茶々丸……?」

夕映、刹那、古菲の順にジローに対して全く心のこもってない言葉を投げかけ
最後に茶々丸が心持ち虚ろな視線でジローを見ると、そのまま去っていく
流石に利いたのか、ゲンナリとした表情でアルベルト達の方へ振り返るジロー

「ハァ……山の天気みたいだなぁ。難しいさね、あの年頃は」
「何故そうなるんだ馬鹿か貴様、―――ふぅ、まあいい、ノイン、黄凪」
「はい」
「あいさー」

アルベルトの声に黄凪が気楽に手を挙げ、軽い足取りでネギ達の方へ向かう
広場の端の方で固まっているネギ達の方へたどり着くと、未だに不機嫌そうな顔の茶々丸の顔を覗き込み

「――ふうん、やっぱ違うねぃ」
「――?」
「んやんや、こっちの話だよん」

と、黄凪がウィンクしながら茶々丸だけに見えるように自身の耳の辺りを指差す
そこには髪に隠れて目立たないようになっているが、茶々丸と同じような、しかし幾分か小型のアンテナが見える
軽く目を見開く茶々丸に黄凪は笑うと、楽しげな表情で中央のジローとアルベルトに視線を向ける
一方、中央ではノインが2人に一礼して歩き去る、それを見送ったジローはアルベルトの方へ向き直ると

「――じゃあやりますか―――ってうおあっ!?」

ジローが憮然とした表情で構えようとした瞬間
首筋付近を緑と金色の何かが通過し、その何かはアルベルトが挙げた左手に収まる
それは幾つもの金属を組み合わせて創られた一振りの剣
飛皇と言う銘を持つそれの持ち具合を確かめるように振るアルベルトに
怒りのためかやや顔を赤くしたジローが首筋を押さえつつ問う

「って何すんですかいきなり?……今首筋思いっきりかすめたんですけどー?」
「ははは、――――貴様の自業自得だ馬鹿者反省するが良い」
「はぁ…………」

ジローが首筋をさすりつつ振り返ると
剣を投擲したと張本人と思われる侍女服の女性が再度一礼し、再び踵を返して歩き去る
ジローは溜息をついてから振り返ると

「………―――で、自業自得って何ですか?」
「…………貴様は―――これまでに自分の言った事を思い出してみろ」

そう言われて素直に自分の言動を思い返すジローだが
思い返し終わると首を傾げ……

「――――少なくとも、後ろから首を狙われるに足る心当たりはありませんけど?」
「――――ほう、まあ確かにそうだろうな?だが……」

―――アルベルト・心理技能・発動・感情抑制・失敗!!
   ―――アルベルト・心理技能・発動・闘気放射・成功!
      ―――アルベルト・義体技能・発動・『竜帝』第四駆動・成功!

義腕から低い唸り声のようなものが響き
同時に放たれた闘気にジローが身構えるのを尻目に
アルベルトは己の詞を、風の竜を御する詞を口ずさむ

「『高き空に稲妻は疾り 共に猛き疾風は吹く
 かつて竜と共に舞い 現在を人と共に歩む
 他者の道を横に置き 己が道の先を見据え
 ただ一つ道を往かん』」

竜帝が発する唸りをとらえた瞬間
アルベルトは竜帝の出力段階を一気に上げる

―――アルベルト・義体技能・発動・『竜帝』第六駆動・成功!
   ―――アルベルト・義体/風神技能・重複発動・風神発動・成功!
       ―――アルベルト・体術/腕術/脚術/義体技能・重複発動・戦闘姿勢・成功!

『竜』と大きく書かれた装甲板から蒸気が噴出し
それと同時にアルベルトの周囲を囲むような風の流れが生まれる
更に義腕の三つの爪が握りこまれ、1つの巨大な金属拳を容易く形成する
アルベルトはそれを引き絞ると、飛皇をジローに突き付け

「……ああ、すまんなジロー、最初は強さを確かめるために全力を出すのは控えるつもりだったが……
 ―――気が変わった、可能な限りの力を持って叩きのめしてくれる」
「あー……テンション上げるのは結構なんですがさっきの「だが……」の後が気になるんですけど?」
「はっ、それぐらい悟れ馬鹿」

ジローはアルベルトの返答が期待できないと思ったらしく
自前の武器倉庫から特別製の木刀を召喚してまた構える
アルベルトはそれを確認すると

「―――では行くぞ“元名護屋圏総長”『竜風騎師』アルベルト・シュバイツァー」
「あー、もう不幸だ……。ネギ・スプリングフィールドの使い魔(仮)・八房ジロー…………」
「「――いざ」」
「「―――勝負!!」」

2人が駆け出す為の第一歩を踏み込むのはほぼ同時
そのままお互いを結ぶ40mほどの直線を2人は駆ける
速度はほぼ互角だが、機先を制したのはアルベルトだ
引き絞った鉄拳を構えると

「ふ―――!」

―――アルベルト・腕術/義体技能・発動・正拳・成功!

気合いの声と共に放たれた竜帝の拳はその大きさに見合わぬ速度で風を切り――

「――うおっ―――!!」

繰り出された金属の拳はジローがとっさに張った障壁に阻まれるが
2m近くあるアルベルトの身長の4分の3近い大きさを誇る義腕である
その拳に魔力強化も気による強化も施されてはいないとは言え
その凄まじい威力はジローを障壁ごと殴り飛ばすという結果をもたらし
無傷ながらもジローは思いっきり吹き飛ばされる

「くっ……『魔法の射手連弾・火の17矢』!」

吹き飛ばされながら無詠唱の『魔法の射手』を放つジロー
そのまま着地し、再び突撃する

「む…………!」

―――アルベルト・防御/義体/剣術技能・重複発動・打ち払い・成功!

アルベルトは立て続けに襲い来る炎矢を飛皇と竜帝で打ち払い
炎矢が途切れると同時に、ジローと同じように突撃する

「うおお―――!」
「ふ―――!」

ジローは突撃しながら木刀を腰に差し、構えた両腕付近に魔法の射手を出現させる

―――アルベルト・風神技能・発動・風神蓄積・成功!

アルベルトも同じように構え、竜帝に風神の力を収束させる

「閃花・紅蓮――!!」
「――おおっ―――!」

―――アルベルト・風神/義体/腕術技能・重複発動・風神鉄拳・成功!

燃える拳打と風を纏った鉄拳がぶつかり合うが
ややあってジローの炎拳が竜帝の風拳に打ち勝ち
竜帝を後方へ弾く

「―――らぁっ!」
「ぐぅっ!?」

竜帝を弾かれ
その勢いで空いた胸部へジローの蹴りが食い込み、顔を歪めるアルベルト
そこへジローは間髪いれずに再度抜き放った木刀を叩き込もうとするが

「―――……おおおっ!」

―――アルベルト・防御/義体技能・重複発動・防御・成功!

「んなっ!?」

かなりの鋭さを持って放たれたそれをアルベルトは竜帝で掴み取る
驚きの声を上げるジローを無視し、ジローごと木刀を振り上げると

「――はっ!」

―――アルベルト・腕術/義体技能・重複発動・叩きつけ・成功!

「のおっ!?――とあっ!」

凄まじい勢いで地面に叩き付けられたジロー
とっさに木刀を捻って拘束から逃れるが、叩きつける勢いのまま振り下ろされた拳をアクロバット染みたバク転で避ける
それとほぼ同時に背後から凄まじい音が響き、反射的に降り向くと竜帝の拳が石の床に小型のクレーターを作り出していた

「……うお」
「――はあっ!!」
「のあああ!?」

思わず気の抜けた声を漏らすジローだが
アルベルトはそれに構わず風神を纏った閃風で斬りかかる
さらに妙な声を上げるジローだがなんとか木刀で受け止める
そのまま2人は鍔迫り合いに移行
ギリギリと音を立てつつ互いに押し合う

「ぐぐぐぐぐぐぐ…………」
「むぅ……―――はぁぁぁっ!」

―――アルベルト・風神/腕術/義体技能・重複発動・風神昇拳・成功!

「――ぐおぁっ!?」

アルベルトは鍔迫り合いの体勢のまま竜帝の拳を引き
ジローの胴体に竜帝による風を纏ったアッパーカットを叩きこみ、吹き飛ばす
空中で体勢を立て直すジローから目を離さず、叫ぶ

「――竜帝!」

アルベルトの叫びをが響いた瞬間
竜帝の唸りのテンポがゆったりとした物から速い物へ変わり、風ではなく光が竜帝を覆う
そのままアルベルトは竜帝を腰だめに引くと

―――アルベルト・光帝技能・発動・光帝発動・成功!
   ―――アルベルト・光帝技能・発動・光帝蓄積・成功!
      ―――アルベルト・義体/腕術/射撃技能・重複発動・射撃姿勢・成功!
         ―――アルベルト・射撃/光帝/義体技能・重複発動・矢弾射撃・成功!

竜帝を覆う青白い光が一瞬で収束し
空中のジローへ向けて突き出されたそれから青白い光の弾丸が放たれる
矢にも似たその光は金属をこするような音を立てジローを襲う

「っとお!!」

反射的に木刀で弾くジローだが
直後、火とも爆発とも違う純粋な光が弾け、木刀を吹き飛ばす

「っとっ……そんなのアリか……?」

木刀は早々取りに行けない所まで飛び
ジローは腹部の痛みを無視しながら大分離れた所に立つアルベルトへ視線を向ける
アルベルトはニヤリとした笑みをジローへ向けると

「―――はははは、やるなジロー
 これほどダメージを喰らったのは随分と久しぶりだ」
「いや、そんな風に褒められても毛ほども嬉しくないんですけど
つーか、何ですか変な風やら光やら……魔法ですか、それ?」
「はは、それは企業秘密と言う奴だ」

双方とも結構なダメージを喰らっている筈なのだが
互いに顔色すら変えずに話を続ける

「……さて、ジロー、お前の実力は大体分かった
 違う世界とは言え……お前ほどの実力者があいつらの傍にいるとは……、十分に安心できる」

―――アルベルト・体術/脚術技能・重複発動・大跳躍・成功!

アルベルトはそう言い放ちながら一気に10m以上後方へ飛び
飛皇を地に突きたて、竜帝の拳をジローに向ける

「――……そりゃあどーも」

そしてジローもそれに応じる様に構える
一方、それを広場の端で見ていた黄凪は視線を細めつつ額を掻くと―――

「あー、ありゃやばいかも」
「や、やばいって何ですか!?えーーっと」
「黄凪だよん、呼びにくければ黄凪様でも構わんねぃ」

最後の一言を皆は無視した
だがそれを黄凪は気にせずに笑うと

「どーもお互い本気技を出すっぽい雰囲気ってことだよん」
『ほ、本気技って……ヘルマンの時のあれかよ!?』
「にひひ、あのジローって人の本気技をあたしが知るわきゃないじゃん?
 ただ見てると魔力が集中してってるしそんな感じかなーっちゅーだけだよん」
「じ、じゃああのアルベルトって人の本気技って……」
「んー、今止めに入ると確実に巻き込まれるくらい範囲と射程がバカでかい技、だよねぃノインさん?」

その言葉に皆がノインを見るとノインはそれを首肯し

「――はい、さらに申せば威力もそれ相応だと記憶しております」
「ちょ……やばいじゃない!?」
「――とは言え、アルベルト様もこの状況が理解できるほど愚かではございません
 きちんと加減はなさるので心配は御無用と判断できます」
「で……でも……―――!!」

ノインの言葉を聞いてもなお駆け出そうとする明日菜や刹那だが
突如自分達の前に現れた何かにその動きを止められる

「話を聞かない子は黄凪ちゃん嫌いなんだけどなぁ
―――巻き込まるつってんでしょうがー?危ないよん?」

そう言いながら呆れ顔に半目を浮かべる黄凪が持つ剣
それは2mを超える鋼色の刀身に金色の衣装が施され、並の剣ではあり得ない幅を有していた
剣の腹を向け、間違っても明日菜達に傷がつかないようにしている物の
まるで壁のようなそれに皆の動きは完全に封じられた
そして、そんな剣を片手で持つ黄凪は固まった明日菜やネギを見てニッと笑うと

「ま、どっちも死なんだろうから安心しとくといいねぃ」

そして、舞台の中央で睨みあう2人
アルベルトは自分を見ながら構えるジローを見て口の端を吊り上げると

「ははっ…………次の一撃で終わりにする
 全力でこいジロー、でなければ……」
「でなければ……何です?」
「―――命の覚悟がいるかも知れんぞ?」

―――アルベルト・義体技能・発動・『竜帝』最終駆動・成功!

アルベルトの身体が強く震える
それは右肩からの鼓動
意思を持つ義腕は主の意思に応え、竜の皇帝の最終駆動が発動する
竜と文字打たれた肩の装甲板が一瞬で開き
その中にジローはある物を見る
そこにあったのは何かの目、緑色をした、皿のような瞳がそこにあった
その瞳が焦点を結んだ瞬間、その眼を中心としてこれまでとは比べ物にならないほどの豪風が巻き起こる

「うぉっ……!?」

竜帝の肩にある角部が下がり、砲門が突き出す
そこを中心として、風を纏う強き光が収束して行き、更に竜帝が爪を自ら開き、地面に突き立てる
その様子を見たジローは心底疲れたように溜息をつくと

「なんでこう、俺の周りには奇妙奇天烈な実力持ちが来るんだろう……」

ジローはそうぼやきつつ、自身の魔力を静かに集めていくと

「魔パンチの類似品な使い魔パンチ……全力でいかせていただきます、と
何で撃てるんだ、とかいう質問はなしで――――だって自分、使い魔ですから」

ジローがそう言い捨てるとアルベルトは笑みを浮かべ

「―――はっ、その様子ではどこまで本気か解ったものではないな
 ともかくその様子を見るとずいぶん無茶苦茶な体験をしているようだな貴様は!」

その言葉にジローもまた笑みを浮かべるとゆっくりと言い放つ

「まあ―――」
「ん―――?」

アルベルトの疑問の声と同時にジローは右腕を引く、そして……

「滅茶苦茶なのはお互い様で、今に始まったことじゃないでしょう――――閃花・御剣ッ!!」

ジローの叫びと共に突き出され
超圧縮された魔力の彗星がアルベルト目掛けて轟音と共に突き進む

「は!確かにな!ならば―――行けよ竜声の一撃っ!!」

それに応えるアルベルトの叫びと共に砲門から光の束と化した巨獣の咆哮が飛び出す
それは風竜の叫び声、長く響く声と共に風と光の螺旋が地を抉りながら一直線に進む

大気を断ち切りながら飛ぶ魔力の彗星
そして空間を飲み込んで駆け往く風竜の砲声
両者は2人の中間地点でぶつかり合う

「だあああっ!!」
「おおおおおぉぉぉぁぁぁ!!」

しばしの拮抗の後、勝利したのは竜帝の砲声
御剣により大分勢いを削られながらも飲み込み、そのままジローに襲い掛かる

「んなっ……!」

ジローがとっさに張った障壁も大した壁にはならず
風の力を含んだ光の奔流がジローを弾き飛ばす
ジローを弾き飛ばした後も竜の啼き声は止まらない
光の幅は約6m、長さは600mにおよび
この空間の最端に届くか届かない所で消える
砲声が響いた時間は約14秒、その時間を経て、2人の戦いは決着した


そして……

地面に竜帝の爪と竜声による削り跡を刻み
アルベルトは竜帝にもたれる様に座りこんでいた
そこへ誰かの足音を耳にし、その方向へ視線をやると

「ノインと――黄凪か」
「そーだよん、あたし達以外はジロっさんの方に行ってるねぃ」
「アルベルト様、無事でございますか」
「ああ、胸骨にひびくらいは入ってるかも知れんがそれ以外に取り立て大きな怪我は無い」
「そうでございますか」

見ると、吹き飛ばされて地面に叩き付けられつつも
上体を起こしたジローがネギや明日菜、刹那や夕映や古菲や茶々丸達に囲まれて手当てされている
元々半分以下にまで威力を加減され、さらに御剣との撃ち合いで威力が減少していたためか
見た感じ大した怪我はなさそうだが、万が一があってはいけないと必死さを滲ませて手当てしようとする少女達
それを煩わしげに手を振って追い払うジローには彼女らの胸中にあるものがとんと理解できていないのだろう
その様子を見たアルベルトは深く溜息をつくと

「…………筋金入りだな」
「だぁーねぃ、茶々丸さんも大変だぁー」
「やはり今回アルベルト様が好戦的だったのはジロー様に近親憎悪していたのだと推測します」
「やかましい」
「それよりアルベルト様の胸は大丈夫でしょうか」
「ふむ、――少し待て」

―――アルベルト・医療技能・発動・負傷判断・成功!

アルベルトは傍らの飛皇を引き抜いて立ち上がると
技能を使って己の怪我の状態を確認し

「ふむ、別に折れてはいないな…………ま、向こうに戻ったら誰かに直してもらったほうがいいだろうが」
「それが賢明かと」
「超に任せりゃいいと思うよん」

2人がそんな事を話していると、他の面々を伴ったジローがやってくる
アルベルトはあちこちを包帯でグルグル巻きにされているジローを見ると軽く頭を下げ

「すまんな、―――流石にやりすぎたか」
「いえいえ、――これはこいつらが心配性なだけして、俺自身は全然大丈夫ですよ?」

と、手を動かして見せるジローの顔が微妙に歪んだのをアルベルトはあえて無視する
その横でノインが懐から銀色の懐中時計を取り出すと時間を確認し

「アルベルト様、もう30分が経過しております」
「ん?そうか、――じゃあそろそろ帰るするとするか」
「あ、帰っちゃうんですか?」

ネギの声にアルベルトは頷くと

「俺達の様な異分子が余り長く留まるわけにもいかんからな
 "向こう"とこっちではどう違うのか分からんし……
 ここはさっさとお暇させてもらう」
「で、でも、せっかく出会ったのですし……」
「ここでお別れってのはちょっと寂しくない?」

刹那と明日菜の言にアルベルトは軽く笑うと

「はは、……ま、確かに2度と逢えないと言うのは少々寂しいな?―――黄凪」
「あいよー」

アルベルトの言葉に黄凪は軽く片手をあげ
懐から陰陽風の紋様が彫られた一本の短剣を取り出す

「? それは何ですか?」
「空間転移時に使う目印のような物だよーん
 これをここに突きたてておけば、あたしらがまたここに来ることも不可能では無くなるねぃ」
「あ、じゃあさっき帰る手段があると言っていたのは……」
「感がいいな綾瀬
 “向こう”にもこれと同じ物が突き立てられている、と言う訳だ」
「―――んじゃちょい待ってねぃー」

黄凪はそう言って広場の隅、ネギ達の邪魔にならなさそうな場所に短剣を突き立てる
そしてアルベルトとノインと共に緑獅子・改へ近づき、3人はその緑色の身体を登っていこうとするが
ふとアルベルトが振り向き、自分達を見るジロー達の中のエヴァンジェリンを見ると

「―――そう言えば……、エヴァンジェリン、少しいいか?」
「…………何だ?」

エヴァンジェリンが何事かと思いつつ問うと
アルベルトは顎に手を当てつつ問う

「ふと思ったのだが――こっち”のお前の呪いは解けていないのか?」
「――ふん、当たり前だろ―――…………待て、“こっち”だと?
 ……もしやお前が居た世界の私の呪いは解けているのか!?そうなのか!?」
「ははは、そうかいや解けてないのかいやいやいや―――まあ頑張れ」
「答えんかぁっ!!」

アルベルトはエヴァンジェリンの怒鳴り声を無視すると
先に緑獅子・改の身体に登っていた2人より先に後頭部から乗り込み
残った2人もノインが一礼、黄凪が軽く手を振ってから中に入る
数分後、再び緑獅子・改の視覚素子が点灯すると
アルベルト=緑獅子・改は軽く首を振ってからジロー達の方へ身体を向けると

『―――ではいずれまた会う事を願うとしようか』
「待てと言ってるだろうが貴様ぁーー!!!」
「あー、エヴァ、無駄だからたぶん」

ジローの言うとおりに緑獅子・改はエヴァンジェリンをやはり無視しそのまま皆に背を向けると

『―――緑獅子・改・超過駆動開始
 試作型凌駕紋章“天地門”――――展開』

緑獅子・改を光が包み
光が晴れた中には再び翠色の鎧と白と黒の2枚翼に身を包んだ緑獅子・改が立っている
そのまま緑獅子・改が手をかざすと
緑獅子・改の目の前に渦を巻く黒い穴が現れる

『では―――さらばだ!』

そのまま翠色の巨躯は穴の中に消えていく
再び出会うという約定を残し、異世界から来た3人ははまるで風のごとく消えて行った



―――さあ、異世界より呼び出された青年と
異世界より現れた青年と自動人形との邂逅
楽しんでいただけただろうか?
これからは再び各々の物語を楽しむと良いだろう
再び双方の世界にて紡がれ、語られていく物語
これからもお楽しみあれ




EX World後書き



コモレビさんとの作品『魔法先生!の使い魔?』と
私の作品『魔法都市麻帆良』のクロス作品
『EX World/竜風の騎師VS元一般人な使い魔?』をお送りします
作中に出てきた凌駕紋章“天地門”は、以前『魔法都市』を『投稿図書』に投稿していた時に詠深さんに頂いたアイディアを使用しております
時期的には「使い魔?」の方はヘルマン戦のちょい後
「魔法都市」の方もヘルマン戦は終わってますけど細かくは未定(オイ)

最後に、書く機会を与えてくださり、キャラクターを貸して下さったコモレビさん
凌駕紋章のアイディアを下さった詠深さん
そしてここまで読んで下さった読者の皆様に感謝を捧げます

それでは

〈続く〉

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