『魔法都市麻帆良』
The 14th Story/Clown&RedDoll


明け方、麻帆良学園『桜通り』付近
まだうっすらと朝もやが立ち込める通りを歩いているノインだが
ふと何かに気づいたように止まると、訝しげに周囲を見回し

「相坂様?」
『―――はい〜〜、何ですかぁ?』

放たれた声に応えるようにノインのやや後ろから現れる半透明の少女
少女の声にノインは振り向き、軽く頭を下げると

「―――そちらでございましたか。申し訳ございません、少々見失っておりました」

いいんですよ〜、と間延びした笑いを浮かべながら首を振るさよ
その様子を見てノインは軽く首をひねると

「しかし見事な隠密性だと判断できます
失礼ではございますが、―――訓練を積めば優秀な諜報員になれると判断します」
『そうなんですかー?』

疑問符を浮かべるさよにノインは頷くと

「はい、―――見回りはそろそろやめにいたしましょう
 早く帰って朝食を作らねばアルベルト様が飢えると判断します」
『? アルベルトさんってお料理できないんですか?』

その言葉に今度は首を横に振って否定の意を示すと

「いえ、アルベルト様はあれで最低限自活する術は持っておりますが
 調理場には入らないと言う取り決めがございますのであまり遅れると飢えるかと」
『……だ、大丈夫なんですかぁ?』
「仮に遅れても一食程度ならば死なないので大丈夫でございます」
『そ、そうですよねー』

なぜか自身を納得させるように頷くさよ
ノインはその様子を見つつ、ふと道端の街路樹に目を向けると

「あれは……―――相坂様」

はい?と疑問符を浮かべながら首を傾げるさよにノインは意味も無く頷くと

「やはりアルベルト様には一食抜いて頂かねばならないようです」
『ふぇ?』
「申し訳ありませんが少々お待ちを」

意味がわからずに呆然と浮かぶさよをノインは無視して街路樹のほうへ歩いて行く


約3時間後、3−A教室
ネギが新学期の挨拶をして、それを聞いた生徒たちが相も変らぬテンションで騒ぐ中

「―――ふぅ」

ため息をつきつつ窓の外を睨むアルベルト
傍の席に座る朝倉がそれを見てヘラヘラと笑うと

「ん?どーしたのアルベルト先生?朝から何も食ってないような顔してぇー
ぶっちゃけ怖いからどーにかしたほうがいいよ?」
「当たっているが腹立つのは何故だろうな朝倉、――人間は腹減ると凶暴になるのだぞ?」

そう言いながら口元を歪めるアルベルトに朝倉は頬を引きつらせると

「と、遠回しな暴力予告はやめてほしいかなぁ……」
「はは、余計に飢えるからあまり話しかけるなよ?」
「うわぁーナチュラルに職務放棄宣言してるよこの人ー」
「やかましい」

大げさに呟く朝倉にアルベルトは半目を向けるが

「……―――ん?」

ふと視線の先でエヴァンジェリンが教卓に立つネギを冷ややかな視線を向けているのが見える
その様子に軽く眉をひそめるアルベルトだが、ややあってから軽く溜息をつくと

「……まあ、相談してこん限りは知ったことではないか」
「ん?今何か言ったアルベルト先生?」
「ああ、こっちの話だ」

と、そこで教室の前のドアが開きしずなが顔を出す

「源先生、―――何か?」

アルベルトの声にしずなは柔らかく笑うと

「ええ、今日は身体測定なので3−Aの皆さんも準備してくださいね」
「あ――、わかりました!じゃあ皆さんすぐに脱い―――へ?」

変な言葉を言いかけたネギを竜帝で摘みあげる
アルベルトは何かを察したらしいしずなが道をあけるのを確認すると

「この阿呆」

言葉と共にネギを教室の外へ放り出し
一拍を置いて人間が壁にぶつかるような音がするがアルベルトは無視
軽く固まる3−Aの面々に視線を向けると

「いいか貴様ら、――俺が教室を出てから着替えろ」

そう言って出ていくアルベルト
後に残された生徒達は1度顔を見合わせると、とりあえず着替え始めるが

「んーー、アル先生って結構まじめ?」
「真面目というよりは……面倒嫌い?」
「あー、そんな感じはするかもね」
「家でもノインさんに任せっきりみたいな?」
「そーそー!」

と、運動部4人組が騒いでいたり

「そーいや楓ちゃん、最近アルベルトん家良く行ってるみたいだけど……あの2人ってどうなの?」
「ふむ、とりあえず……」
「とりあえず?」
「――ノイン殿の料理は絶品でござる」
「おいしいよねー!」
「ですー!」
「い、いや、そーいうことじゃなくてね?」

自分の問いに真顔で頷く楓と楽しそうに頷く双子を見た明日菜が冷や汗をかきつつ話している
それは廊下にいるアルベルトとネギの耳にも聞こえ、アルベルトは軽く溜息をつくと

「……全く好き勝手言っているなあいつ等は、――しかしネギ先生……ノインの説教をもう忘れたのか君は」

その言葉に何故か身を震わせるネギをアルベルトは無視して言葉を重ねる

「―――いいか、あいつらは女で俺達は男だぞ?
 君だけならからかわれて終わりだろうが俺はどうなる俺は」
「あ、あううー……す、すいません……」
「……ふぅ、またノインの説教を食らいたくないのなら今後気をつけてくれ、」

呆れたようなアルベルトの口調にネギは慌てたように頷き

「は、はいぃぃ〜〜〜……」
「怯えすぎだと言うかそこまでトラウマかノインの説教は」

とアルベルトがため息をつくのとほぼ同時に
廊下の方から慌ただしい足音が響き渡りだす

「む?」

アルベルトがその方向へ視線を向けると
遠目に走ってくる人影が見え、それがだんだんと近づいてくる

「ネギ先生アル先生大変やぁーー!」

慌てたように手を振りながら走ってくる薄い青の髪色をしたショートカットの少女『和泉亜子』だが

「まき絵が!まき絵があああぁぁぁぁぁ!!!?」

いきなり廊下の真ん中部分が消え、亜子は空いた穴に叫びと共に落ち込む
一瞬あって3−Aの教室から他の面々が顔を出すが

「何!?まき絵がどうしたのって亜子ーーー!!?」
「わあああああぁぁぁぁぁ〜〜〜!」

着替え途中だったのか未だに下着姿の面々とそれを見て顔を真っ赤にして騒ぐネギ
アルベルトはそれを無視して、トラップ――強い衝撃で発動する落とし穴から亜子を引っ張り上げると

「………………とりあえず服着てから出て来い貴様ら」

と、非常に嫌そうに呟くのだった

10分後、中等部保健室

アルベルトとネギ、そして何人かの生徒が入ると
いくつかあるベットにピンク色の髪をした少女『佐々木まき絵』が横たわり
その横でノインが丸椅子に腰かけている
ノインはアルベルトに気づくと、立ち上がると生徒達に場所を譲りアルベルトの傍に近づくと

「―――アルベルト様」
「ここに居たのかノイン、とすると俺が朝飯を食い損ねた原因は佐々木か」

軽い溜息と共に放たれた言葉にノインは頷くと

「はい、見回り途中に桜通りで発見いたしましたのでお運びしたのですが
 保険医の方が席を外していたため私が診ておりました」
「そうか、―――症状は?」

その言葉を聞いて軽く目を細めたアルベルトの問いにノインは眠るまき絵に視線を向けると

「症状は軽い貧血のみと判断できます、今日1日休めば問題は無いかと
 ですが小さなものですが傷跡がありました」
「傷跡?」
「はい、この辺りに」

ノインは頷き、自身の首筋を指差すと

「―――吸血鬼の吸血痕と判断できるものが」
「…………そうか」
「アルベルト様、今後の対応としてどうされますか?」

まき絵を見たネギも傷跡に気づいたのか神妙な顔をしているが明日菜の声に慌てるのが見える
それを見て軽く呆れ顔をするアルベルトだが、すぐに表情を元に戻すと

「……とりあえず今夜から見回りを強化するぞ」
「承知いたしました」


その夜、桜通り付近の林

「……さて、そういう訳で見回りをしているわけだが」
「誰に言っているのかとお尋ねしてもよろしいでしょうかアルベルト様」
「気にするな、しかし何で武器を装備しているのだろうなぁ俺達は」

言葉通り、アルベルトは鞘のような物に収めた飛皇を腰に下げている
対するノインは閃風を携えながら首をかしげると

「「念には念を入れて持って行くぞ」と言っていたのはアルベルト様であったと記憶しております」
「ああ、そう言えばそうだな、……しかし俺の朝飯抜きの原因があいつだとしたら非常に腹が立つがどうすればいいと思う?」
「とりあえず根に持ちすぎだと進言させていただきます」

半目でそう言うノインにアルベルトは軽く肩をすくめると

「まあ、それもそうだがな」
「おわかりになられたのならばよろしいかと判断します」
「そうか、―――むっ」

―――アルベルト・視覚技能・自動発動・発見・成功!

視覚の先の道路には、どうやら気絶しているらしいのどかを抱えたネギと
黒衣を纏った金髪の少女―――エヴァンジェリンの姿がある
その手に何か液体のはいったフラスコがあるのを見たアルベルトは呆れたように首を振ると

「やはりあいつだったか……」
「どうされますか?」
「どうするも何も……」

アルベルトはノインの問いに応えながら飛皇を引き抜いて逆手に持ち
腕を引いてそれを振りかぶると―――

「―――止めるしかあるまいっ!」

―――アルベルト・剣術/投擲技能・重複発動・剣投擲・成功!

緑と金色の剣は一直線にエヴァンジェリンへと飛び
アルベルトとノインもそれを追って走り出す


「流石は奴の息子だけは……―――っ!!?」

そう言いながら笑うエヴァンジェリンだが
その耳に何かが風を切るような音が響く

「!?」

エヴァンジェリンは本能的な動きでフラスコを横に投げて障壁を張り、飛んできた物体を弾き飛ばす
森へと回転しながら飛んで行く緑と金色の剣を視界に収め、忌々しそうに舌打ちすると

「―――ふん!私の正体を知りたければ追ってくるんだなネギ・スプリングフィールド!」

そう言って浮かび上がり、かなりの速度で飛んでいくエヴァンジェリン
それを追おうとするネギと後ろからやってきた明日菜と木乃香
ネギが2人にのどかを任せて走り出すのを見たアルベルトは林の地面に刺さった飛皇を引き抜いて頷くと

「さて、俺達も行くぞ。宮崎は神楽坂と木乃香嬢に任せておけばいい」
「それはそれで問題があると推測できますが承知いたしました」

頷くノインを見てアルベルトも軽く頷き
2人は林の中、エヴァンジェリンとネギを追って走り出す
途中で空中戦を開始した2人を技能による感覚強化で追跡するアルベルトとノインだが
唐突にノインが鋭い視線で近くの山の方へ視線を向けると

「―――アルベルト様」
「なんだノイン」
「ここから北東1km辺りから警報が、――侵入者だと判断します」

その声にアルベルトはブレーキをかけて止まると

「そうか……その辺りの担当は誰だ?」
「エヴァンジェリン様の筈だと記憶しております」
「……あの馬鹿吸血鬼は……、仕方ない、行くぞ」
「承知いたしました」

2人は軽く頷き合い、それぞれの武器を構えなおして走り出し
その影はすぐに夜の森の中へ消えていく


約5分後、山の中

夜の森の中を褐色肌の少女――『ザジ・レイニーディ』が駆けている
―――迂闊だった、とザジは無表情の中で考える
山に住む友人の様子を見に来たところで襲われるとは思いもしていなかったし
それがあれほどの数だとは―――

「……っ」

軽く息を吐いて身を捩じり、手に挟んだ3本のナイフを背後に投擲する
自分の持っているナイフは本来手品の練習に使うものだ
そのため刃こそ潰してあるものの金属製であることに変わりはない
しかし、背後から聞こえる無数の足音に乱れがないことから足止めにもなっていないのだろう

「……っ!」

前方に見えた崖に思わず足を止める
同じように足音が後ろで止まったのを聞いて振り向くと

『よく逃げたなぁ小娘』

ザジの視界は数にして5〜6体前後の鬼と
鳥の頭と羽をもつ――烏族が3人いるのが見える
身構えるザジに今喋ったと思われるリーダーらしき鬼が笑うと

『生憎だがここまでだ、目撃者はすべて消せと言われてるのでな』
「…………!?」

鬼はそう言いながら手に持った金棒を振り上げ
ザジは反射的に目を覆うが――

『がっ!』
「…………っ」

響いてきたのは鬼の悲鳴ともとれぬ苦悶の声だった
ザジが恐る恐る目を開けると、目の前では鬼が金棒を取り落として周囲を睨みつけている
見ると、鬼の肩口に奇妙なものが生えている
それが剣の柄だと気づくまでに一瞬の間があった、直後

「―――っ!」
『っ!!??』

いきなり上から降ってきた青年の鉄塊のような腕が鬼の頭を一撃で叩き潰した
頭を砕かれ、ゆっくりと倒れつつも消滅していく身体から剣を引き抜くと
青年――アルベルトは飛皇を肩に担いつつ周囲を見渡し

「―――さて、貴様らは一体何をしている?」
『!?』
『な、なんだ貴様は!?』

その言葉に慌てて鬼達が構えなおすが
アルベルトはそれを無視して笑うと背後のザジを竜帝で指し

「貴様らが追いかけていた奴のクラスの副担任だ、ついでに言えば――――この学園の警備員の1人でもあるがな」
『『『『!!!?』』』』

鬼達はその言葉に更に構え直し、アルベルトに視線を向ける
だが、向けられる視線と殺気をアルベルトは無視し、背後のザジに視線を向けると

「大丈夫かレイニーディ、―――早く行け」
「……」
『っ!ま……』

ザジは頷いて駆け出し、その姿はすぐに森へ向かう
それを見た鬼の1体が逃がすまいとするが

「おいおいよそ見するな馬鹿」

軽い動きでアルベルトは跳躍、竜帝から流れ出た赤い光を足に纏うと

―――アルベルト・裂帝/脚術技能・重複発動・裂帝蹴撃・成功!

空中で放った回し蹴りが鬼の首から腰にかけてを斜めに薙ぎ
鬼は声すら上げられずに消滅する
着地したアルベルトの視界には森の中へ消えていくザジの背が見え
頷いたアルベルトは振り返り、鬼達に対して軽く肩をすくめると

「―――何だ一撃か、思ったより柔いな貴様ら」
『『―――っ!』』

―――アルベルト・心理技能・発動・殺気無視・成功!

挑発に殺気の濃度が増すがアルベルトはそれを無視

「さて、貴様らはどの程度やれるのだろうな?
何しろ俺はここの所捕まえるだけでまともに戦ってなくてな
 ―――勘を戻すために相手してもらうぞ」
『―――っ!』

言うなりアルベルトは駆け出し、近くにいた烏族の眼前に飛び込むと

―――アルベルト・腕術/義体技能・重複発動・拳撃・成功!

『がっ!』

鋼の拳の一撃に烏族がよろめくがアルベルトはさらに踏み込むと

―――アルベルト・体術/義体技能・重複発動・掴み・成功!
―――アルベルト・腕術/義体技能・重複発動・叩きつけ・成功!

『『!!』』

アルベルトは烏族の足を掴み、近場にいたもう一体の烏族と鬼に叩きつける
固い物がぶつかり合う音が響き、烏族と鬼が吹き飛ばされ、武器となった烏族は消滅する
が、他の鬼達はそれを無視、手に持つ金棒を振りかざして襲いかかる

「遅い、―――竜帝っ!」

アルベルトの声に竜帝は流す音楽を風神のものへと変え
そこから発生した靄のような光を纏った飛皇を下段に構えると

―――アルベルト・風神/剣術技能・重複発動・真空刃・成功!

振り上げられた剣閃が長大な真空の刃と化し
ちょうど剣閃に突っ込む形となった鬼達は一気に吹き飛ばされ、何体かは消滅する

「―――この程度か?」
『―――貰ったぁっ!』

残った数体を見据えて少々呆れた様に呟くアルベルトだが
その背後にいきなり3体目の烏族が現れ、手にした大刀を振り下ろす

「―――ふむ」

―――アルベルト・風神/体術/義体技能・重複発動・受け止め・成功!

が、全力で振り下ろした筈の一撃は風神を纏った竜帝によって相殺されてしまう

『!?』

鳥そのものと言える顔に驚愕の表情を浮かべる烏族だが
その瞬間

『っ!!?』

いきなり森の中からノインが飛び出してきた
ノインは空中で手の閃風を振りかぶり、着地と同時に烏族を背後から両断する
消える烏族を無視し、アルベルトに対して一礼すると

「アルベルト様、遅くなって申し訳ございません
―――召喚主と思われる術者を確保いたしました」

そう言って自分の現れた方向を指差すノイン
アルベルトが同じ方向を見ると、木の枝に縄で縛られた術者と思しき男が吊るされている
苦悶の表情を浮かべて気絶している男をアルベルトは嫌そうな目で見ると視線を戻し

「しかし……狙った様なタイミングで現れるなお前は」
「偶然かと思われます」
「そうか」

と、頷くとアルベルトは飛皇を振り上げ

「では」

ノインも同じように閃風を振りかざし
2人が互い目掛けて己の武器を突きこむ

『『ッ!?』』

2つの刃は今まさにそれぞれの後ろから襲い掛かろうとしていた2体の鬼を斬り飛ばす
もんどりうって倒れる2体の鬼を見たノインは呆れたように溜息をつくと

「不意打ちをするならば気配くらい消すべきだと判断します」
「まったくだ」

アルベルトが頷きながら最後の烏族が居たほうを見ると
そこに烏族の姿は無く、森の奥へ羽ばたきの音が消えていく
アルベルトは顎に手を当てると

「ふむ、1体逃げたか」
「そのようです、――追われますか?」
「そうするのが当然だな」

2人は頷き合うと、同じように林の中へと消えていく

数分後、森の中を先ほどの烏族が飛んでいる

別に2人に恐れをなして逃げたわけではない、今回の襲撃は戦力調査の目的もあった
先ほど女の方が術者を捕えていたがこの辺りにもう1人待機しているのには流石に気づいていないだろう
そう思いながら後方を見るが、追いかけてくる影は見当たらない

『―――』

そう思って一息つこうとした瞬間
烏族にとってあり得ない事が起こった

「あらあら、どこへ行きますの?」
『っ!!?』

声と共に上から降ってきた影が烏族の胴を寸断した
消える直前に烏族の目に映ったのは、長大な黒い剣と赤い髪だけだった……

一方、走っている2人は前方から向かってくる影を認めて立ち止まる
しかし、歩いてくる影の耳のあたりに見えるアンテナのようなパーツに見覚えがあった

「絡繰か?」
「茶々丸の事を言ってるなら違いますわよ?」

言葉と共に影の姿が露わになる
アルベルトが予測した人物――絡繰茶々丸よりも高い身長を持ち
似たようなラインの入った肌を持つも、肩口で切り揃えられた髪の色は赤い
手には長銃に刃を取り付けたような黒い銃剣を携え
機嫌良さそうに目を細める女性を見てアルベルトは首を捻ると

「……何だ貴様は?」
「初めましてですわねアルベルトさんにノインさん」

その女性は笑みを絶やさぬままに頭を下げ

「私は絡繰式ガイノイド壱号機、名前は紅華と言いますの
―――立場的には茶々丸の姉に当たりますわ」
「……その姉が何をしている?」

アルベルトが少しの警戒を込めた視線を向けると
紅華は手の銃剣を腰のマウントラックに提げ

「戦闘用駆動の試験ですのよ?
今日エヴァンジェリンさんがここの警備をしないのを茶々丸に教えてもらいましたの」
「ほう、それは初耳だ」
「教えてないから当たり前ですのよ?まあ貴方達が居たのでほとんど無意味になってしまいましたけれど
まあそれはいいですわ、――後、ついでに向こうにいた怪しい術者も気絶させておきましたわ」

そう言いながら自分の後方を指差す紅華
それを聞いたノインは深く一礼すると

「それはありがとうございます、お手を煩わせて申し訳ありません」
「いえ、いいんですのよ、―――ではそろそろ失礼しますわね」
「ああ」
「またお会いいたしましょう」

紅華は2人の声に頷くと

「ええ、近いうちに説明に上がりますわ」

と、立ち去ろうとするが、数歩歩いたところでふと振り返り

「―――後、エヴァンジェリンさんの戦いも終わったようですわよ?」
「そうなのか?」
「ええ、さっき茶々丸から通信が来ましたので、―――それでは本当に失礼しますわ」

紅華はそう言うと駆け出し、その姿はあっという間に消える
残されたアルベルトはふと考えるように呟く

「……絡繰の姉か」
「外見はともかく性質はあまり似ていないと見受けられます」
「確かにな」

アルベルトは軽く肩をすくめると
術者を回収するために効果が示した方へ向い
ノインもそれに続く


30分後、アルベルト邸宅前の道路

術者を別の警備担当に引き渡し、家路につく2人
特に話すこともなく、無言のまま歩き続けていると
自分たちが住む家の門の前に誰かが佇んでいるのが見える

「む?」

首をかしげつつも近づいて行くと
そこに居たのは先ほど助けた褐色肌の少女
自分たちに気づいて近づいてくる少女を見たアルベルトは軽く首をかしげると

「どうしたレイニーディ?」
「…………」

対するザジは少し思案するような動作をとると
スッと頭を下げ

「…………ありがとう」
「―――ああ、まあ気にするな……しかしずっと居たのかお前は?」
「………………」

アルベルトの問いに首を横に振って否定するザジ
そうか、とアルベルトが頷くと、もう一度頭を下げてから寮へ帰って行く
それを見送ったアルベルトはふむと唸ると

「……しかし喋れたのかレイニーディは」
「凄まじく無礼な発言だと判断します」

しかしなぁ、と呟くアルベルトにノインが半目をむけていると
門の中から青白く光る少女――さよが現れ

『アルベルトさん〜〜、ノインさん〜〜、お帰りなさい〜』
「相坂か、留守番すまんな」
『いえいえ、大丈夫ですよ〜』

と、笑いながら言うさよに2人は軽く頷くと
3人は家の中へと入って行く




14th Story後書き

どうも『魔法都市麻帆良』14th Story更新です
以前のPCがぶっ飛んでしまったせいで途中まで書き上がっていたのを1から書き直す羽目になってしまいました……

えー……、何というか、やっちまった感全開ですが新しいオリキャラ(と言っていいのか?)登場です
茶々丸の姉こと『絡繰・紅華(こうか)』です
原作だとほんとにちょっとしか出てない(らしい)『魔力』で動く茶々丸の姉の魔法都市Verですね
性格で言うと……「直接的な千鶴さん」でしょうか
茶々丸と性格ぜんっぜん違います(あと口調も)

こういうのが苦手な方には申し訳ありませんが
以前より決めていたことなので今後紅華はちょくちょく出てきます


それでは

〈続く〉

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