『魔法都市麻帆良』
The 13th Story/人、其々、日々、混沌


3学期最終日、麻帆良学園通学路大通り

時刻はもうすぐ終業式の開始と言った具合で、ゆっくり歩いていると確実に遅刻になるだろう
そんな状況の中、大通りを走る学生達の間を縫って疾走する2つの影があった

「一応教師が学期最終日に遅刻とはロクな事ではないと判断します」
『あ、あううう〜〜〜〜』
「――まだ遅刻しとらんわ馬鹿者、それと相坂は少し落ち着け」

かなりの速度で走りながらも相変わらずの従者と目を回しながらも自分達に追いついてくる幽霊の少女
それにツッコミを入れつつ走るアルベルトも自らの巨大義腕で生徒を薙ぎ払わないように気をつけつつ疾駆する

「――――む?」

ふと前方に視線を向けると、自分達のかなり先をどこかで見た後姿が2つ走っているのが見える
かなり慌てた様子でダッシュしているようだが
大股で走るアルベルトと足の運びが速いノインの方が早いのは当然で
距離を詰めていくと前方の2人が走りながら騒いでいるのが耳に入る

「あー!このままじゃ遅刻ですよおねえちゃんーーー!!!」
「わ、わかってるよー!!」

髪をそれぞれお下げとシニヨンにした同じ背格好の少女2人を見てアルベルトは首を捻ると

「――鳴滝姉妹か?」
「そのようです」
『は、はわわ〜』
「なぜこんな所に……ふう、まあ仕方あるまい」

―――アルベルト・脚術技能・発動・ダッシュ・成功!

アルベルトは姿勢を下げて加速
ノインとさよを後方に置き、鳴滝姉妹に追い付くと

「――っと」
「「ひゃあっ!?」」

2人を猫のように持ち上げ、竜帝の手の平の上に乗せる
突然の事に目を白黒させる2人だが、1拍を置いてアルベルトに気付くと

「「あーーーー!!!!「やかましい」あうっ」」

自分を指差して大声を上げる双子をアルベルトはデコピンで黙らせると
額を押さえて唸る2人に訝しげな表情を向け

「―――で、長瀬はどうした?」

その言葉に双子は頭を抑えながら涙目で言う

「か、かえでねえは修行してるところから直接行くって言ってて……」
「そ、それを忘れてて寝坊しちゃったんです〜〜」

アルベルトはその言葉に成程と頷き

「まあそれは仕方ない、ついでだ、一緒に送って行ってやろう」
「あ、サンキューアルベルトー!」
「ありがとうですー!」
「教師を素で呼び捨てか鳴滝風香、それはまあいい、――さて」

アルベルトは風香に半目を向けつつ
左腕を史伽の方へ伸ばし、無造作に摘み上げる

「!?」
「史伽!?」

そのまま史伽を持った手を左方向へ伸ばし
横目で1度だけ後ろを見ると、何気無い様子で手を離す

「―――ひゃっ……え?」

落ちた史伽をいつの間にか追い付いていたノインが受け止め
そのまま史伽を肩車したノインはアルベルトに半目を向けると

「……せめて一言言って頂きたいと進言します」

対するアルベルトは左手で頭を掻きながら笑うと

「はは、すまんなノイン、―――っとあまり喋る時間は無いか、――急ぐぞ」
「承知いたしました」
「うむ」

2人は頷き合うと、これまでを遥かに凌ぐスピードで走り出す

「わ!はやーーーーー!!」
「ひゃああああっーー!?」
『あ、ま、待ってください〜〜〜!』

突然の事に対応できない双子の声がドップラー効果を残し
その後ろをさよが慌てて追っていった


約20分後、2−A教室内

やたらと嬉しそうに騒ぐ皆をアルベルトが教室の窓際(さよの席の近く)見ていると
嬉しそうな表情で教壇に立ったネギがぺこりと頭を下げ

「と言うわけで2−Aの皆さん、3年生になってからもよろしくお願いしまーす!!」
「――ふむ」

その声にますます騒ぐ皆を顎に手を当てつつ眺めるアルベルト
ネギの写真を取っていた朝倉がそれに気付いてアルベルトへ近づき

「あー、アルベルト先生も何か一言っ!」
「む、俺か?……ふむ、短いか長いかは俺にもわからんが改めてよろしく頼む」

アルベルトの言葉に何故かさらに沸き立つ皆
それを相変わらずの様子で眺めるアルベルトだが
ふと教室の後方に目を向けると

「(ちっげーだろが!あのガキは何もしてねー上に授業1日サボってただろーがっ!
 ま、まああの外人はそこそこ真面目だったけどよ…………ああでも納得いかねぇー!!)」

そこでは髪を後ろで縛り、眼鏡をかけた少女『長谷川千雨』が
ネギを褒める皆や、何故か唐突にパーティの提案をしだす風香を睨みながら頭を抱えている

「(何故か知らんが妙に疲れているな長谷川は……)」

アルベルトは未だに頭を抱えている千雨を見て軽く目を細めると

―――アルベルト・視覚技能・発動・表情読解・成功!

その表情を細かく読み取り、大まかな感情を察したアルベルトは軽く頷くと

「…………ああ、感性が比較的まともだからついて行けんのか」
「へ?な、何がですかー?」
「―――ああ、独り言だ、気にするな」

思わず口に出た言葉を聞きつけた朝倉にアルベルトが応えていると
何やら我慢していたのかプルプルと震えていた千雨にネギが声をかける

「どーしたんですか長谷川さん?」
「……い、いえ……別に……」

千雨は少し間を置いてから立ち上がると

「……――ちょっと、おなかが痛いので帰宅します」
「え……あ……ちょ……」
「ふむ……」

そういって教室を出て行く千雨を追おうとするネギだが他の生徒達が何時もの事だと止める
それを見たアルベルトは軽く唸ると、皆に断ってから教室を出る


2分後、廊下

「…………ああ、そう言う訳で見かけたら頼む」

どこかへ携帯電話をかけ、教室に戻ろうとするアルベルトだが
そこでネギが教室から出て行こうとするのを見つけ、声をかける

「――む、どこへ行く気だネギ先生?」
「あ、アルベルト先生……、やっぱり長谷川さんが気になるんで……」

心配そうなネギの言葉を聞いてアルベルトは軽く笑うと

「ああ、それは大丈夫だ、安心しろ」
「へ?」

アルベルトは自分の言葉の意味がわかっていないネギの肩をポンと叩くと

「まあそれはともかく、――――皆を置いて消えるのは感心せんぞネギ先生」
「あう……」
「どうせ長谷川も寮に住んでいるんだ、何か聞きたければ帰ってからでもいいだろう?」
「は、はい……」

自身の言葉にようやく納得したのかしていないのかは不明だが頷くネギ
その様子を見たアルベルトは肩をすくめつつ笑うと

「はは、――まあ、とにかく戻るぞ」
「…あ………はい!」

ネギが少しの間を置いてから元気よく頷くのを見てアルベルトも頷くと
2人は扉を開けて再度教室へ戻っていく


約20分後、寮前(仮)駅

「(あーーっ!くそ……大体なんだよあのクラスは……異様に留学生が多いわデカイのやら幼稚園児やらぁ……)」

不機嫌さを隠しもしない表情で1人駅から出てきた千雨
己のクラスの事に内心で毒づきつつズンズンと歩いていく

「―――極めつけはあのロボだよ!何で誰もつっこまねーんだ!?どーみてもロボだぞロボっ!」

考えが声に出ているのに千雨は気付かず
大声で独り言を言いながらどんどん歩いていく

「あの外人は外人で教室内にトラップなんか仕掛けやがってぇ……おまけに何だよあのメイドはぁーー!!!
 ――――――ああああああチクショー私の日常を返せコラァーーー!!!」

立ち止まり、両手を天に突き上げながら叫ぶ千雨だが

「―――先ほどから誰に申しているのかとお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「うおあぁっ!!??」

いきなり背後からかけられた声に驚き
飛びのきつつ振り向いた千雨の視線の先には

「ノ……ノインツェーン……さん?」

いつの間に現れたのか、千雨のすぐ後ろに侍女服に身を包んだ銀髪の女性――ノインが立っていた
手にバッグを提げたノインは予想外の事態に狼狽する千雨に頭を下げると

「はい、後をつけるような真似をして申し訳ございません」
「い、いえ………………い、いつから後ろに?」
「「極めつけは――」辺りからであったと記憶しております」

無表情に頭を下げるノインに千雨は心底嫌そうな表情で頭を掻き毟ると

「あー…………ほぼ始めからかよ……」
「主の趣味に関しては申し訳ございません
 アレは10年間の間ずっと変わらぬ趣味ですので簡単にやめる事は無いと判断できます」
「あ、ああ……そうなんですか……」

絞り出すような千雨の声にノインは頷くと

「はい、……もう1つの疑問ですが……私はアルベルト様に仕える立場でございます
 それ故にそれ相応の格好をしているだけなのですが……ご不快でございましょうか?」
「あっ!いえさっきのもそういう意味じゃ……」
「ではどう言う意味でございますか?」

ノインは表情を変えぬままに千雨に問う
千雨より10cmほど高い身長のノインだが千雨を目だけで見下ろすことはなく
しかし千雨の目から視線を外さず、瞬きすらしない

「そ、それは……」
「―――」
「うぅ…………」

口篭る千雨にノインの静かな視線が突き刺さり
完全に何も言えなくなってしまった千雨をみてノインは目を伏せると

「申し訳ございません」
「え……?」

そう言いながら頭を下げるノイン
突然の事に目を白黒させる千雨に今度は深く一礼すると

「出過ぎた真似をいたしました」
「???」
「今のは侍女にあるまじき行為であったと反省します
 どうかお許し頂ければ幸いかと」
「い、いえこっちこそ……」

そう言いながら浅く頭を下げる千雨
その声を聞いたノインは頭を上げ、ふと視界の隅に見えたベンチに目を止めると

「――では、どうぞこちらへ」
「え?あ……はい」

そう言って歩き出したノインに促されるままついて行く千雨
2人はベンチに腰掛けると、ノインはバッグから魔法瓶を取り出し
同時に取り出した紙コップに湯気を立てる乳白色の液体を注ぐと

「どうぞ」
「あ、どうも……」

どうやら魔法瓶に入っていたのはミルクティーだったらしく
甘い香りが千雨の鼻をくすぐる
千雨がおずおずと口を付けると、その表情に驚きが混じる

「……あ、おいしい……」
「そう言って頂けて幸いでございます」

ノインはそう言いながら自分の横にハンカチを敷き
その上にバッグから取り出したものを乗せていく


約20分後

「へー……じゃあノインツェーンさんには兄弟が居るんですか……」
「はい、私を含め20人以上が今も現存しております」

先ほど出された茶菓子――クッキーを齧りながらノインと会話している千雨

「2、20……、て言うか“現存”って……」
「?」

対するノインが頷きながら言った言葉に軽く冷や汗をかく千雨
そんな自分を見て首を傾げるノインをみて内心で首を捻ると

「(が、外人だからなぁ……言葉のアヤって奴だよな……?)――あ」
「どうなされました?」

見ると、駅前の時計の針が自分がここに付いてから30分近く立っている事を示していた
予想以上に美味であった紅茶と茶菓子に時間を忘れていたのだろう
千雨は一度ノインに視線を向け、やや名残惜しそうに立ち上がると

「私はそろそろ……紅茶、ありがとうございました」
「はい、もし良ければ家にもいらして下さればまたお淹れさせて頂きます」
「……あ、どうも……いいんですか?」
「どうぞご遠慮ならさずに」

そう言いながら片付けを始めるノイン
ハンカチを畳み、使用済みの紙コップを別途に取り出したビニール袋に捨て、バックにしまう
その様子を見た千雨が寮の方へ向かおうとした所でノインがふと顔を上げ

「――長谷川様」
「――?何ですか?」
「―――1つ申し忘れておりました――2−Aの皆様が寮前でパーティをなさるそうなのでお暇でしたら是非ご参加下さい」
「…………あー…………考えておきます、それじゃ」
「はい、またお会いいたしましょう」

そのまま千雨は寮の方へ向かい
ノインはそれを見送ってからは別方向にある商店街へと歩いていく


その夜、アルベルト邸

鳴滝姉妹と楓の3人がまた食事にやってきており
ノイン以外の面子がちゃぶ台に付いて食事している中
楓は自分の目の前にいるアルベルトの手元を見ると

「―――何と言うか……」
「む?」
「箸使うの上手いでござるなぁアルベルト殿」

そう言う楓の視線はアルベルトの左手に持たれた箸に向けられている
その軽く感心したような視線を受けたアルベルトは軽く肩をすくめると

「まあ、慣れているからな」
「――そうでござるか、あー風香あんまり急ぐと喉に詰まらせるでござるよ」
「大丈夫だよー……むぐぅ!?」

楓の言葉に食べながら答えようとした風香の顔色がいきなり青くなり
風香は慌てて目の前のコップを引っつかみ、中身を勢いよく喉に流し込みだす

「……大丈夫じゃないな」
「で、ござるなぁ」

軽く呆れたように呟いたアルベルトは楓に視線を移し
そのままの視線で今度は姉を心配する史伽を見ると

「しかし……お前ら何度見ても同い年に見えんなぁ」
「ノイン殿ー、ここにナチュラルセクハラ発言する人が居るでござるがどうすればいいでござるかー」

楓が台所の方向へ呼びかけると空の盆を持ったノインが現れ
食卓の横で膝を下ろし、空になった幾つかの皿を片付けながら言う

「放置しておいて結構でございます、後で説教いたしますので」
「……何でそうセメント対応なんだお前ら」

その言葉をノインと楓は無視した
アルベルトは2人の反応に憮然とした表情で黙るが

「ぷはっ、―――ふぃー、そりゃ日ごろの行いだよー」
「ですよー」

茶を飲んで1息ついた風香が無意味に笑いながら放った言葉と
それに同調する史伽の声を聞いたアルベルトは2人に半目を向けると

「やかましい、と言うかお前らが言うな」
「「あう……」」

自分の言葉にヘコむ双子を見たアルベルト
そこで少し溜飲を下げたらしく再び食べ始めようとすると

―――――うおあああぁぁぁぁぁぁっ!!!?

「「「っ!!」」」

寮の方から僅かに聞こえてきた紛れも無い悲鳴
それを聞いたアルベルトとノインは反射的に立ち上がる

「「?」」

鳴滝姉妹が首を傾げるのにも構わず
楓を含む3人は声が聞こえた階、寮の6階の端の窓を見ると

「何だ今の声は……」
「寮の方から聞こえて来たでござるが……」

アルベルトは楓の言葉に頷き、背後のノインに向き直ると

「――行くぞ」
「はい」
「では拙者も……」

アルベルトは同じように立ち上がろうとする楓を手で制すと

「いや、お前は待っていてくれ、悪いが留守番を頼む」
「申し訳ございませんがよろしくお願いいたします」
「――あいあい、わかったでござる」

笑いながら頷く楓にアルベルトも笑みを返し
ノインと共に玄関へ向かう

「「???」」
「――ふふ、さあさ2人とも、そのままだと飯が冷めるでござるよ」
「「――あ、はーい」」

自分の声に頷く双子を見て楓は微笑すると
再び寮の方へ視線を向け、軽く頷き

「まあ、あの2人なら大丈夫でござろう」

楓は1人頷くと、再び料理に視線を戻して楽しそうに食べ始める
一方、家の門から飛び出したアルベルトとノインが寮の方へ向かおうとすると

『あれ、どこに行くんですか〜?』
「む、相坂か」
「――今晩は相坂様」

微妙にエコーが掛かったような声に2人が振り向くと
ここ最近毎日のようにやってくる幽霊の少女がふわふわと浮かんでいた
浮かびながら首を傾げる少女――さよを見ながらアルベルトは寮を指差すと

「――向こうで少し野暮用だ、なるだけ早く戻るから待っていろ」
『わかりました〜』
「はは、ではな相坂」
「また後でお会い致しましょう」

手を振るさよにアルベルトは手を振り返して踵を返し、寮へ駆け出し
ノインが1度頭を下げてから同じように走り出す
アルベルトは寮から視線を外さずに走りながらノインに問う

「――どうする?」
「声の聞こえた位置から察するにあちらの階段から上がるのがよろしいと進言します」
「わかった」

ノインの言葉にアルベルトは頷き、2人は右手の階段に近づくと

「―――ふっ!」

―――アルベルト・体術/脚術技能・重複発動・大跳躍・成功!

アルベルトは技能を用いて一気に跳躍し、瞬時に3階まで飛び上がる
金属製の階段の床を靴が叩くのとほぼ同時に
手すりを足場にして跳び上がってきたノインがすぐ横に着地する
2人は1度視線を交わすと、何事も無かったように階段を駆け上がり始める

「しかしさっきの声は……」
「長谷川様の声に酷似していたと判断できます」
「長谷川の?」

アルベルトの疑問の声にノインは頷くと

「この寮の全ての方の声を聞いた訳ではないので断言はできませんが――」
「可能性は高い……か」
「そう判断できます」

アルベルトがその言葉に頷くと
2人はそれ以降一言も喋らず、黙々と6階への階段を駆け上がっていく


約2分後
2人は6階に辿り着き、辺りを軽く見回すと
静かに、しかし素早く廊下を駆けていく

「――ここか―――」

アルベルトが言葉と共に廊下の角際のドアを開けようとした瞬間
一瞬遅れて追い付いたノインの肘鉄が後頭部に躊躇いなく叩き込まれる

「ぐおっ!?」

もんどりうって倒れたアルベルトに半目を向けると

「女性の部屋に無遠慮に入るとは何事ですか、――まずは私が見て参ります」
「……――……少し加減できんのか貴様」

ノインは無視してドアに手を掛け、静かにドアを開けると中へ入っていく
中からは人の気配が2つ、両方ともなにやら動き回っているらしく
気配からして片方が千雨である事は間違いないので少なくとも千雨の身に危険は無いだろう

「失礼いたしま……………………………………」

そう考えながら口を開きかけた所でノインは口を噤んだ
更に部屋の奥へ向かおうとしていた足も完全に止まっていた
眼前の光景のインパクトに稼働率が一気に10%以下にまで下がるが
ノインはその頭を無理矢理動かして考える

「(………………………………こういう時は分かりやすく箇条書きにするのがよろしいでしょうか)」

・私の100年以上の歳月の中でも極めて稀な出来事だと判断できます
・眼前でウサギのような仮装をした長谷川様が慌てているのは何事ですか
・というかその手のクッションといい……そういったご趣味があったとは存じ上げませんでした
・何故スプリングフィールド様が随分と楽しそうに眼前のパソコンを覗き込んでいるのでしょうか
・とりあえず明日の朝食はパン食でよろしいでしょう
・―――あまりの事に思考が逸れました

ノインはそうやって思考を重ねて何とか思考速度を上げ、歩き出すが
普段のノインからすれば考えられない程遅いスピードで2人に近づくと

「…………何をなさっておいでですか?」
「きっ、記憶を失な………………―――ノ、ノインツェーンさんっ!?」
「あ、ノインさん、どうしたんですか?」

いきなり現れたノインに凄まじく驚愕する千雨と
単にノインが居る事を不思議に思っているだけらしいネギ
対照的な2人の反応を見たノインはまずは異様に慌てた様子の千雨に視線を向け
続いてつきっぱなしのパソコンや周囲に飾られた様々な衣装に目をやり
最後に能天気に首を傾げるネギを見て軽く溜息をつくと

「……スプリングフィールド様、それはこちらの台詞だと断言いたしますがよろしいでしょうか?」
「え?な、何でですか?」

状況を全く理解していない様子のネギを見てノインは再度溜息をつくと

「長谷川様の反応を見れば分かると断言させていただきましょう、少々こちらへ来て下さい」
「え?な、なんですかぁー!?」
「……」

展開の速さに付いていけていないのか呆然とする千雨にノインは頭を軽く下げると

「長谷川様、申し訳ありませんが失礼いたします
 それと、もし部屋から出られるのならば着替えた方がよろしいと進言します」
「は、はい、………………あっ!こ、この格好のことはっ!」

自分の格好を見て再度慌てだした千雨をノインは片手で制し、もう1度頭を下げると

「―――ご安心下さい、誰にも話さないと約束いたします」
「あ……………………ど、どうも………………」
「いえ、では失礼を」

安心して気が抜けたのか呆然と手に持っていたクッションを取り落とす千雨
その様子を見たノインは頷いて出口へ歩こうとするが
途中で振り返り、ネギの方へわずかに細めた視線を向けると

「―――スプリングフィールド様、早くいらして頂きたいと進言いたします」
「ひいっ、は、はい〜〜!」
「………どうするんですか?」

その目が怖かったのか半泣きになりながらもノインに続くネギ
見送る千雨が呆然と呟いた言葉にノインは振り向いてネギに視線を向けると

「はい、―――男性が女性の部屋に勝手に入ると言う事について少々説教を」
「あー………、はい」
「え?ええええ?」

ノインはその言葉にとりあえず納得した千雨の溜息混じりの言葉と
理解が追い付かずに慌てまくるネギの声を聞いて軽く目を伏せると

「―――では」
「はい……」

そのままネギを伴って出て行くノイン
後に残された千雨は少しの間考えると、とりあえず着替えを始めるのだった




13th Story後書き

どうも『魔法都市麻帆良』13th Story更新です
千雨は根は良い子なので相手の善意は断れない筈です

というか冒頭の双子との絡みは入れるつもりじゃなかったんですが
以前難斗那区さんに書いて頂いたクロス作品『見知った世界の見知らぬ人々 混沌変』に感化されて書いてしまいました

いくら自動人形のノインとは言え、あまりにも衝撃的な事があれば固まります(今回は衝撃のベクトルが予想と違う所為でしたが)
………………アルベルトはどうだろうか……?

改定も前回でほぼ終了したのでこれからは新しい話を書いていきたいと思います
遅筆ですが見捨てないで頂けると嬉しいです

それでは

〈続く〉

〈書棚へ戻る〉

〈感想記帳はこちらへ〉

inserted by FC2 system