『魔法都市麻帆良』
The 12th Story/人を思い、人に想われるもの



麻帆良学園内、とある公園

時刻は夕方
夕日が照らす公園の一角にあるベンチに軍服姿の義腕の青年と銀髪の侍女は座っていた
いや、よく見るとそこに居るのは青年と侍女だけではなく
かなりアレンジが施されたチャイナ服を着た中華風の少女が巨大義腕の肩部にもたれる様な体勢で気持ちよさそうに寝息を立てていた
軍服の青年は少女に呆れたような視線を向け

「…………超、――貴様いつまでそこ寝ているつもりだ」
「――――…………――zzzz…………」

熟睡している超から返事は当然無く、規則正しい寝息だけが聞こえる

「――――…………ふぅ……」

アルベルトは軽く溜息をつくとノインのほうへ左手を差し出し
当然のようにノインがハリセンを握らせると

「――――起きろ」

自分の義腕にもたれて眠っている超に振り下ろす

「―――ふひゃ!?」

快音と共に超は目を覚まし、やや不機嫌そうな表情でアルベルトを見ると

「むぅ……―――何するネ?」

アルベルトは軽く溜息をつくと超に半目を向け

「互いの情報交換をしようと言って呼び出したのは貴様だろうが
 ―――まあ、俺達から提供できる情報は無いに等しいがな
 なのに貴様は会うなり竜帝にひっつきおって
 ……あの金髪ちびっ子吸血鬼と言い、何故そうひっつきたがるんだ?」

アルベルトの言葉と半目に超は軽くたじろぎながら頭を掻くと

「う…………純粋な風の遺伝詞浴びるなんて3年以上ぶりだからネ……気分を害したなら謝るヨ」
「いや、そこまでされんでもいいが――――…………待て、確か―――」

アルベルトは納得したように頷くと
超とは逆隣に座るノインのほうを向き、超を指指すと

「ノイン、こいつ等仙人はある程度純粋な水や風の遺伝詞に触れてないと身体が弱るんだったか?」
「―――その筈ですが、超様の年齢が外見通りならば仙人としての階級は最下級の道士だと推測します
 ならば長命である事と身体能力以外は人とさして変わらぬ筈だと判断します」
「そうなのか?」

視線を向けられた超は頷くと

「そうネ、階級が上がれば年も取らなくなるガ―――
 ワタシはまだ道士だからネ、普通の人間よりやや遅い速度で老けていくヨ
 一般的な生活を送る分には普通の人間と大して変わりないネ」
「ふむ、―――じゃあ道士でいればある程度は別の都市でも暮らせる訳か」

納得の呟きを洩らすアルベルトを見て
超は再度頭を掻きながら頷くと

「そうなるヨ、―――まあ、仙人に昇格してもその都市から出れなくなる訳ではないがネ
 て言うかワタシもこっち来てしばらくは息苦しさが抜けなかったヨ、――1週間ぐらいで慣れたがネ」
「――それでも風の遺伝詞を発する竜帝に“つい”くっついてしまった訳だな?」
「にゃ、にゃははは…………」

苦笑いを浮かべながら頭を掻く超
それをニヤリとした笑いを浮かべながら眺めるアルベルトだが
ふと表情を元に戻すと

「さて、情報交換といくか―――と言いたいが、さっきも言った通り俺達から提供できる情報はほとんど無いぞ?」
「分かってるネ、――というかそれに関しては最初っから期待してないヨ」
「――はは、だろうな」

2人はどちらとも無く笑みを浮かべると
どちらとも無く真面目な表情をとり

「――まあ、それなば遠慮なく教えて貰うとしよう
 そちらから言ったんだ、文句は無いのだろう?」
「あいや、それはもちろんネ、―――じゃあ、何から聞きたいカ?」
「そうだな――――」

そのままひそひそと話し出す3人

「ああ、やっぱりあいつらは―――なのか?」
「そうネ、――ワタシは余り気に入らんのだがネ」
「………―――とは――物ではないと判断する私は――――――――でしょうか?」
「いや、あいにくだが俺も同意見だな」
「ワタシもネ」
「……と言うか全体的に――――されとらんか?」
「ワタシ――――ば――物ネ」
「超様ならば素でできかねないのでおやめ頂きたいと進言します」
「…………にゃはは、冗談ネ、冗談」
「―――なら何故目を逸らすんだ貴様」


約20分後


「――ふひ〜、ま、こんなもんかネ」
「ふむ、………疑う訳ではないが―――今回もらった情報の内容は本当なのか?」
「にゃはは、誤情報をワザワザ伝えに来るほどワタシは暇じゃないネ、ホントの事ヨ」
「私に戦闘を仕掛けてきた方の言動と照らし合わせれば―――信じられる情報もいくつかあると判断できます」
「ふむ」

アルベルトは立ち上がり、顎に手を当てて思案すると
真面目な表情で超を見据えると

「――超」
「なんネ?」
「色々ぶっちゃけると俺はこの学園に雇われている身だ、――尤も、俺が真の意味で仕えるのは我が祖国のみだがな
 まあそれはいい、――しかしお前の言葉を完全に鵜呑みにすることはできんと言う事を頭に置いておけ」
「あいやー」

苦笑しながら頭をかく超を見てアルベルトも苦笑すると
何を思ったか超の頭に左手を置く

「ひゃ―――」

唐突に頭に置かれた手に驚く超
しかしアルベルトはそれに気付かず言葉を重ねる

「しかし―――それ以上にお前は俺達と同じ世界の出身だ
 ―――お前が何かしようとした時、俺達が協力するに値すると判断すれば迷い無く協力してやる
 その時は遠慮なく頼れ、いいな?」
「――わ、わかたネ」
「うむ、―――どうした?心持ち顔が赤いようだが」
「き――気のせいネ!」

微妙に頬を赤くしつつ(超の頬は普段からやや赤いが)
慌てる超とそれを見て首を捻るアルベルト
そんな2人をノインが半目で見ているが2人は気付かず

「――じ、じゃあワタシはここで失礼するネ」
「ああ」
「わざわざ有難うございました」

超が手を振って立ち去るのを2人は見送ると
アルベルトは不思議そうな表情で超が去った方を見ると

「ふむ、…………一体どうしたんだあいつは?」
「控えめに申し上げさせて頂きますがアルベルト様の所為です」

その言葉にアルベルトは憮然とした表情を作ると

「またそれか…………、―――洒落抜きに原因がわからんのだが」
「原因を言っても理解しないか認めないかの二択確定済みですので言っても意味が無いと断定します」
「おいおい酷い奴だな貴様」
「それもいつもの事だと判断します」
「む…………そうだな」

横目でノインを見つつ凄まじく嫌そうな声音で呟くアルベルト
そのまま己の従者を横目で睨むが、諦めたように視線を元に戻すと

「……ふう…………今日は帰るとするか…………」
「――この後は校内警備だったと記憶しておりますが」
「……そうだったか?」
「間違いございません……――お忘れですか?」

アルベルトは疲れたように溜息をつくと

「ああ、少し疲れたからかも知れんな原因はお前だが
 ……しかたない、――行くぞ」
「はい」

踵を返して歩き出すアルベルトとそれに従うノイン
そのまま2人は学園のほうへ歩いていく


約2時間後、学園校舎内廊下

すでに日は陰り、夜の静かな月明かりが外を照らす中
とある教室の前でノインが無表情に立っている
ふと背後の扉が開き、ノインがそちらを見ると心持ち晴々とした表情のアルベルトが歩いてくる

「どうされました?――嬉しそうな表情だと認識しますが」

その言葉にアルベルトは笑みを浮かべると

「何、俺の罠を中々上手く解除した奴がいてな
 褒美としてより強力な物を仕掛けておいた、――――どうするのか非常に楽しみだ」

ノインは最後の一言を無視して溜息をつくと

「警備時間が終わったと思ったらご自分の罠の点検ですか…………もっと他にする事はないのかと進言します」
「はは、―――まあ趣味くらいは良いだろう?」
「趣味に興じる事自体は良い事と判断します
 しかしアルベルト様の場合趣味の内容が問題だとも申し上げさせて頂きますがいかがでございましょう?」
「――む」

唸るアルベルトを尻目にノインは歩き出す

「―――ノイン?」
「何を申し上げてもお直しにならないのはこれまでの経験で良く理解しております
 ―――さっさと済ませて帰るのが一番早いと判断します」
「――ああ、解った」

苦笑を浮べたアルベルトも歩き出し
2人はそのまま歩き去る


約20分後、『3−A』書かれたプレートが下がる数日前までの2−A教室
その入り口の扉の辺りでアルベルトは渋い顔で首を捻り、ノインは僅かに眉をひそめて部屋の隅を見ている

「さて、この階の残りはここなわけだが――」
「――ならば何故点検にかからないのかとお尋ねしたいですが今回は原因がハッキリなさってるので何も申しません」
「――お前がそんな反応を返すとは珍しいと言いたいが今回は原因がハッキリしてるしなぁ」

心持ち無感情な目をした2人の視線の先
窓際の先頭の席の上では、陽炎のような空気の歪みが所在無げに揺れている
流石の2人もこれは予想外だったようで、身動ぎせぬままひそひそと小声で話し続ける

「――――なあノイン」
「――――何でございましょうかアルベルト様」
「―――…………あれは性質の悪い幻覚で実際は何もないはず―――「そんな事はございません、お諦め下さい」――そうか……」

即答されて嫌そうな顔をするアルベルト
尤も、ノインに現実逃避への道を潰された事が本当の原因かもしれないが
とにかくその表情のまま再度歪みを見て、しばらく思案すると

「―――…………やっぱりあれは性質の悪い幻覚だ―――「話が進まない上にワンパターンだと判断します」―――ぐおっ!?」

白々しい笑顔を浮かべて踵を返そうとしたアルベルトの後頭部にノインが裏拳を叩き込む
アルベルトは豪快に倒れ
竜帝の角が壁を抉る音が廊下中に鳴り響く
その音に歪みがビクリと震えるがノインはそれに気付かず

「――どう考えてもあれは幻覚ではございません
 面倒を避けたいという気持ちは理解できると判断できますが現実逃避は頂けないとも判断します
 …………2度ネタですが聞いておられますか?」
「―――わかっているならするな馬鹿者」

やはりさして堪えてない風に立ち上がるアルベルト
疲れたような表情で自身の義腕が抉った壁を見ると

「……流石神鉄製の義腕だな……貫通して廊下が見える――「私は現実逃避をおやめくださいと申し上げているのですが」――…………わかった」

歪みの方に視線を向けようとしないアルベルトだが
ノインの半目を受けて嫌そうに振り返る
2人は仕方無さそうに溜息をつくと、どちらとも無く歪みへ近づいて行く
近づいて見ると歪みは思ったほど大きくなく
何故かプルプルと小刻みに震えているが、2人はそれに気付かずに話し始める

「―――で、何だこれは」
「自然現象ではどう考えてもありません、―――何か霊的、魔法的な物だと推測します」
「これが…………か?」
「可能性としては高いと判断します」

ふむ、と顎に手を当てながら向けられたアルベルトの視線に歪みの震えが更に強くなる
それに応じて歪みを通して見える風景も震え、流石に気付いた2人は揃って首をかしげる

「――震えているな」
「そのようです」
「ますますわからんな、――本気で何だこれは」

そのまま数分間無言で歪みを眺める2人
アルベルトは何を思ったか竜帝の爪を一本立てると
何気なく歪みをつつく

『―――!』

つつかれた歪みはビクリと大きく震える
アルベルトはそれを見て眉をひそめると

「―――ふむ、またえらく生物的な反応だな、…………もしや霊や妖怪の類か?」

言いながらも義腕を動かし
何度もつつくアルベルトとそのたびに強く震える歪み
アルベルトは楽しげな表情で軽く思案すると

「ふむ、反応が面白いからもうすこ――「いい加減にお止めください」―――しがごっ!!??」

楽しくなってきたのか過剰につつこうとするアルベルトにノインが肘鉄を入れて中断させると
視線を歪みに向けたまま言う

「―――とりあえずアルベルト様、あの神器をお使いください」
「――――神器?―――……ああ、アレか」

ノインの言葉に心当たりがあるらしいアルベルトだが、何故か嫌そうな表情をノインに向ける
それを見てノインは首をかしげると

「どうかなさいましたか、この時点ではアルベルト様の神器をお使いになられるのが一番速いと推測できるのですが」

アルベルトは軽く溜息をつくと

「貴様は…………俺があの神器を使うのには詞を詠わんと発動せんのを理解した上で…………言ってるんだよなぁ……」
「当然だと断言しますがそれがどうかいたしましたか
 ―――別に損になる事ではないと判断しますが」
「俺の精神が少々削られるという意味では損だ馬鹿者」

アルベルトはゲンナリとした声で呟き、仕方無さそうに竜帝を撫でる
それに応えるように竜帝が生み出すのは涼やかな響きを持ったホーリーサウンド
そしてそれに合わせるように小さな声で詞を紡ぐ

『騒々と人は行き
 奏々と我は詠う
 水面を歩むは人の影
 水面を舞うは我の声
 人は我を残して歩み
 我は人を想いて詠う』

―――アルベルト・霊帝技能・発動・霊帝発動・成功!
   ―――アルベルト・霊帝技能・発動・霊力蓄積・成功!
      ―――アルベルト・霊帝技能・発動・御霊交信・成功!

アルベルトは何歩か下がると竜帝の掌を歪みに向け
一泊をおいて竜帝の掌から雲のような白い光がゆっくりと飛び出し、歪みを包み込む

『――――っ!!?ひゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!?????』
「―――む?」
「――――?」

それと同時に歪みから少女の悲鳴のような声が響き、思わず身構える2人
数瞬して光が晴れるとそこに歪みは無く

『―――ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………』

白い髪に赤い目、更に一昔前のセーラー服を着て
何故か身体を透けさせた少女が涙目でプカプカと浮かんでいた

「「……………………………………」」

2人は一瞬固まるがすぐに持ち直すと

「…………まあ、“幽霊”と言う予測が外れなかっただけなのだがこれはな………………んん?」

そこまで言いかけた所で何故か言葉を噤み少女の顔を凝視するアルベルト

「―――どうなさいました?」
『―――…………ふぇ?』

ノインと少女が疑問の声を上げるのにもかまわずしばらくの間少女を見つめ続け

「―――!」

何かに気付いたように目を見開くと懐に左手を突っ込み、取り出されたのは『2−Aクラス名簿』と記された手帳
アルベルトはそれの見開き――クラス全員の顔写真が載った頁を開くと

「―――――………………あの爺が……よほど滅されたいようだな?」

―――アルベルト・心理技能・発動・感情抑制・失敗!!

技能でも抑えきれないのか凄まじい怒りを込めた目で学園長室の方向を睨むアルベルト
ノインですら一歩引くようなその目を見ないようにしつつ
おずおずとアルベルトに声をかけるのは先ほどまで歪みであった幽霊の少女

『え、えっとー…………一体どうしたんですか?』

何やら不安そうな少女の言葉にアルベルトは怒り顔を無理矢理笑顔にした歪な表情を作ると

「――……ああ、気にするな相坂、お前が居ることを教えもしなかった妖怪爺に技能でも抑え切れん怒りを募らせているだけでな」
『そ、そうなんですかー………――…ふぇ?…………――――!』

アルベルトの表情にやや怯えつつも
彼が自分を姓で呼んだ事に気付く相坂と呼ばれた少女
言葉が続かないのか一瞬あわあわと手を振った後

『――――ああああああ、あのっ!、い!今相坂って…………』
「ん?――ああ」

―――アルベルト・心理技能・発動・感情抑制・成功!

アルベルトは怒りの表情を消すと、今度は穏やかな笑顔を相坂と呼んだ少女に向け

「『出席番号1番 相坂さよ』――――お前の事だろう?
 今まで気付けなくて悪かった、――――すまん」

それだけ言うと表情を締めて頭を下げるアルベルト
さよはその光景に慌てて

『い……いえいいんです……………はれ?
 ―――っ!?わ、私のこと見えるんですか!?それに声も…………!?ふえええええええええ〜〜〜〜!!!???』

予想も出来ていなかった自体にかなり思いっきり動揺するさよ
その横で様子を見ていたノインは首をかしげると

「アルベルト様、――――相坂様はこのクラスの方なのですか?
 これまでの事から推測するに、時折竜帝が妙な反応を示していたのは相坂様が原因と推測しますが」

その言葉にアルベルトは頷くと

「――ああ、生徒名簿にも名と顔写真…………それに何故かは知らんが享年まで書いてある
 ……――竜帝が反応したのもおそらくこいつだろう
 竜帝が無ければ気づかんところだったし霊帝が無ければ姿を見る事も叶わなかったな」

そこで言葉を切って竜帝に視線を送ると
やや諦めの入った表情で溜息をつき

「しかし―――、あの爺は何故相坂の事を黙っていたんだ?
 ネギ先生の修行に………………なる訳は無さそうだと言うかもしそう考えていたとしたら地獄送りにするぞ主に俺が」
「その時はご支援いたします、…………しかし何故アルベルト様やスプリングフィールド様は相坂様に気づかなかったのでしょうか」
「ああ、…………この名簿にもかなり露骨に書いてあるよなぁ…………何故だ?」

未だに混乱しているさよを放置して会話に没頭する主従
ややあってからノインが僅かに呆れの入った表情を作ると

「これは推測ですが……この学園に掛けられている“認識阻害”の魔法が
 相坂様の存在も“魔法的”な物として認識の妨害をされてしまったのではないでしょうか
 もしこの推測が当たった場合私のこの学園に対する信頼が5下がると判断します」
「俺も同意見と言いたいがあえて無視するぞ?
 ――――ある意味だが霊帝があって良かったと言う事だな、だが……」

そこで額に手を当てしばらく思案すると
物憂げな表情で溜息をつき

「これだけはあいつの詞を詠わんと発動すらしないのが困り物だな、―――しかし他人の詞を詠うのは気分がノらん」
「――アルベルト様が霊帝を使いたがらない原因はそれでしたか、ですがそれこそ預かり物である由縁だと推測します
 他の2つも、アルベルト様が詞を詠わない故に本来の力の3分の1すら発揮できていないと判断できます」

その言にアルベルトは苦笑を浮かべると

「――俺の詞は風神用だからな、風の詞で光や霊を御する事はできんしさっきも言ったが他人の詞を詠う気にはならんよ
 …………ふぅ、しかしあいつらも何を思って俺に神器を預けたんだかな?」
「―――少なくとも感傷や寂しさによるものでは無いと判断します」

淡々と喋るノインにアルベルトは笑いながら頷くと

「はは、まあそうだろうな
 …………やれやれ、世の中に分からんことは幾つでもあるが……これは百年かけても理解できんだろうなぁ」
「感情とはそういう物だと判断します、――――今更ですが相坂様を放置してよろしいのでしょうか?」
「それもそうか、――さて」

2人がさよに視線を向けると

『―!?―……!?―〜〜!?』

おそらく自分でも何がなんだかわかっていないのだろう
幽霊の少女は目を回しながら先ほどと似た動きで手を振り回している

「…………」

アルベルトが無言のまま竜帝を肩の高さまで上げると
竜帝はその意を汲むかのごとく光帝の音楽を流し始める

―――アルベルト・光帝技能・発動・光帝起動・成功!

「―――む」

アルベルトの軽い唸りと共に竜帝の掌に光が収束
サッカーボール程の大きさの光球を生む
アルベルトは青白く光るそれからさよに視線を移すと

「―――それ」

ゆったりと放り投げるような動きでさよ目掛けて光球を投じる
光球は重さを感じさせないふんわりとした軌道を描いて飛び
さよの眼前で弾け、それと同時に金属を鳴らしたような音が響く

『――――ひゃ!?』

その音と光にさよは正気に戻り、一度だけ頭を振ると
慌ててアルベルトとノインの方向へ向き直り

『―――あ!――え!ええええええええええええっと…………――わ!わわわ私のこと―――見えるんですか!!?』

盛大にどもるさよに苦笑しつつアルベルトは応える

「ああ、会話が成立している事からわかってほしいが声も聞こえている、ノイン、お前は?」
「アルベルト様と同様だと判断します」
『ほ、ほんとうに――――』
「ああ」
「はい」

さよの声に2人は頷くと
そこでアルベルトは顎に手を当て、少々思案すると

「―――さて相坂、これまで気付いてやれなかった事にどんな原因があろうとも非は俺にある
 償いとして―――何か1つ頼みを聞いてやろう、と思うのだがどうだ?」
『へ!?い、いえそんな――』

おたおたと手を振るさよをアルベルトは左手で制して落ち着かせ

「――ははは、いいか?これは俺のケジメだ、お前が気にする必要は何も無い
 ―――だから安心して頼みを言うがいい、まあ無理にとは言わんがな」
「相坂様の事に関しては私も同意見だと判断します
 何かございましたら存分にどうぞ」

そう言って笑うアルベルトと静かに一礼するノイン
その言葉にさよはしばらくの間悩むように俯いた後
ややあってから意を決したように顔を上げ

『――じゃ――じゃあ…………』
「うむ?」
「はい」
『わ――私と――お友達になっていただけませんか!!』

顔を真っ赤にしながら頭を下げるさよ
アルベルトは一瞬だけ面食らったような表情をするが
すぐにその表情を笑みへと変え、ノインと顔を見合わせて頷き合うと
笑みと共に告げる

「―――ははは、もちろんだ、なぁノイン」
「至極当然かと、断る理由も意味も無いと判断します」
『あ――――………………』
「む?」
「?」

予想外だったのか固まってしまったさよ
アルベルトが首を傾げて顔を覗きこもうとした瞬間

『――――グスッ―――ふぇぇぇぇぇぇぇ………………』
「お、おいどうしたぐおっっ!!?」

いきなりしゃくりあげるさよにアルベルトが声をかけようとした瞬間、ノインが放った回し蹴りがアルベルトを床に沈める
しかしアルベルトはすぐに立ち上がると、蹴られた側頭部をさすりつつノインを半目で睨み

「………………流石に今のは酷くないか」
「アルベルト様のせいでお泣きになられたのではないのですか
 罪の無い女性を泣かす者は基本的に私の敵だと確定しております、応用的にも敵ですが」
「主を敵扱いするな馬鹿者、―――で、どうした相坂、何か嫌な事でも言ったか?そうだったら謝罪するが」

ノインを横目で見ながら頭を掻きつつ言うアルベルトに
さよは目元を擦りながら首を振ると

『ヒック…………ち、違うんです〜
 私、これまで誰にも気付いてもらえなくて……
 ――――気付いてもらえた上に友達になってくれるって言ってくれたのが嬉しいんです〜〜』
「むぅ……」
「…………」

告げられた言葉に思わず押し黙る2人
ややあってからアルベルトがポツリと呟く様に言う

「…………――ノイン、俺はあの妖怪爺を早急に退治する必要性を感じるのだが」
「―――今回は全面的に同意いたします、……どうされますか?」

竜帝の拳を握りながら学園長室の方向を睨むアルベルトと
それに追随するような視線を送りながら懐に手を入れるノイン

「―――よし、では行くか――――…………と、言いたいがな」

だが、アルベルトは拳を解くと穏やかな表情をさよに向け

「……疲れたから今日は帰るとしよう、……――あの爺を滅するのはいつでもできるしな
 ―――相坂、お前も来るか?」
『―――え?
 ―――い……いいんですか……?』

唐突に声をかけられたのとその内容に驚くさよだが
アルベルトは笑みを絶やさぬまま告げる

「別に俺の家で夜を過ごすくらいなら毎日でもかまわんぞ?
 まあ、一晩中話をしてやる事は流石にできんがな、―――で、どうする?」
『―――じゃ、じゃあ――……』

その言葉にさよは慌てて涙を拭うと
両手をぎゅっと握り、ややあってから叫ぶように言う

『……お―――お願いします!』
「ははは、――ああ、わかった」
「はい、――承知いたしました」
『―――』

その様子を見て笑うアルベルトと
何時もの調子で一礼し、微笑を浮かべるノイン
アルベルトは笑みを浮かべたまま踵を返すと

「ふむ、――では行くか」
「はい」
『は、はい〜〜』

3人は連れ立って校舎を出ると夜の月明かりの中、アルベルトの家へと向かっていく
その道中、幽霊の少女の顔には終始楽しげな笑顔があった――――




12th Story後書き

はい『魔法都市麻帆良』12th Storyお送りします
ちなみにアルベルトが霊帝関係で扱えるのは今回使った御霊交信が限界です
なので幽霊操って敵を倒すとかはナシの方向で
光帝と裂帝はかなり頻繁に使っているので霊帝よりは扱えます

それでは

〈続く〉

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