『魔法都市麻帆良』
The 11th Story/期末テスト騒動/後編



月夜の対話の翌々日の日曜日
麻帆良大学工学部『緑獅子・改』格納庫

薄暗い倉庫の中、緑獅子・改は起動を知らせるように視覚素子を鈍く輝かせている
直立姿勢で佇む緑色の重騎の傍らでは、眼鏡をかけ、黒髪を三つ編みにした少女が何やら楽しげに調べている
その少女は興味深そうにモニターに見入っていたが、ふと顔を上げると

「……えーと、起動には問題は無さそうですね
 しかし本当だったんですねぇ〜、記乗……でしたっけ?
 生命反応がそれそのものからありますよ〜」
『まあ、重騎とはそういうものだからな
 ―――それより図書館島で何か変な反応はあったか?』

緑獅子・改は小さな駆動音を発しながら腕を組み
そのまま放たれた疑問に葉加瀬は何故か嬉しそうな表情で顔で頷くと

「ええ、奥の奥、地底図書館の辺りに誰か居るみたいです
 たぶんネギ先生達だと思いますよ」
『そうか―――……む?』

緑獅子・改は組んでいた腕を解くと
葉加瀬の方へ首だけ向け、更に言葉を放つ

『……地底だと?――……コイツで行けるのか?』
「ええ、座標を転送しますから見てください
 そこからなら楽に進入できますよ」

葉加瀬がそう言いながら目の前のコンソールを操作すると
緑獅子・改の視覚素子に走る光が一瞬強くなり、すぐに元の状態に戻る
少しの間を置いて緑獅子・改は頷くと

『……―――ふむ、確認した、すまんな』
「いえいえ〜、私としてはこんな芸術品みたいな機械いじらせて貰えるだけで十分ですよ〜
 あ、今回はそれも持ってってくれますか?」
『む?』

緑獅子・改が葉加瀬の指差した方、反対側の壁に首を向けると
壁に鋼の色をした筒状の機械が立てかけてある
その機械の片端では杭を思わせるような突起が鈍い光を放っていた
少しの間を置いて緑獅子・改は緩慢な動作で葉加瀬の方へ振り返ると

『…………何だこれは?』
「はいはい、それは試作型の杭打ち機です
 見せていただいた資料にあった『戦乙女の鋼槍』でしたっけ?それを参考に作ってみましたー
 名前は……『獅子の鋼槍』とでもしておきましょうかね〜」

やたらと楽しそうな様子の葉加瀬を見て緑獅子・改は再度腕を組み、軽く首を捻ると

『……1つ問うがいつの間に用意したんだお前は?』
「あはは〜、まあそれはいいじゃないですか、――ただ急造なんもんで一発撃ったら壊れちゃうと思います
 ですけど威力は保障しますよ〜、計算上は5枚重ねの鉄板だってヨユーですよヨユー」

暢気に言う葉加瀬を見て緑獅子・改は軽く頭に手を当て
何故か頭痛を抑えるような声音で言う

『………………もう1つ聞くがそんな物騒な代物が必要だと思うか……?』
「あはは〜、“念の為”ですよー、ていうか皆さんを捜しに行くだけなんでしょう?
 アルベルトさんこそわざわざそれで行く必要あるんですかー?」

緑獅子・改は“鋼槍”を手に取ると葉加瀬の方に首だけ向けて笑い

『ははは、―――こんな物騒な代物を持たせようとする奴に言われたくないわ馬鹿者
 図書館島の奥は色々物騒だと聞いたのでな、お前の言ではないが“念の為”と言う奴だ』
「そうですかー、では扉を開けますね」
『ああ、頼む』

頷いた葉加瀬が壁際の機械を操作すると
少々屈めば出れる程度の大きさに改造された扉が開き
『鋼槍』を持った緑獅子・改がその扉から外に出る
それを追って葉加瀬も表に出ると、両手を口に当てて呼びかける

「撃ったらどうなるか検証したいんでそれは確実に持って帰ってくださいねー!」
『それは何かをブチ貫いてこいと言ってるのか
 まあ、了解した、――では行くとするか』
「はいはい〜」
『――1つ言っておくが…………そこに居ると吹き飛ばされるから逃げたほうが良いぞ?』
「え!?あ、はいはいはい〜〜!!」

慌てて逃げる葉加瀬を見て緑獅子・改は頷くと
背部の飛行ユニットに流体の光を充填、一拍を置いて一気に飛び立つ
そのまま空中数十mまで僅か数秒と言う凄まじい速度を持って飛び上がると
図書館島の位置を確認し、葉加瀬に転送してもらった座標の上まで飛ぶ
上から見ると分かるのだがそこは集光穴らしく
緑獅子・改でも十分入れそうな大きさの穴が空いている

『よくもまあ―――…………む?』

見ると、穴の底で何かが光を反射しているのが見える
その光景に緑獅子・改は首を捻ると

『何だアレは?――ふむ、良く見えんな……
 ………………しかし地底図書館か、また訳の分からん物を
 ……まあいい―――行くか』

緑獅子・改は手の『鋼槍』を持ち直し
翼の出力をカット、自由落下に任せて穴の中へ突入する


同刻、地底図書館

「「「きゃああああああぁぁぁ!!!???」」」
『フォーッフォッフォッ!!』

約3日前に『頭の良くなる魔法の本』を探してやってきたネギ+バカレンジャー+木乃香の7人
上のエリアでその『魔法の本』こと『メルキセデクの書』を見つけるも
突如現れたゴーレム(IN近右衛門)によってここに落とされた7人は、今日までの3日間を使い勉強に励んだ
そして3日間近く風呂に入ってなかった事に気付いたバカレンジャーの内の1人、バカピンクこと『佐々木まき絵』と
同じバカレンジャーのバカブルー『長瀬楓』、バカイエロー『古菲』がそれについて行って水浴びをしていた所に
皆をここへ落としたゴーレム(近右衛門)が現れ、今に至る

「ゴ、ゴーレム!? もしかして僕たちと一緒に落ちてきたの!?」

音に驚き走ってきたネギが一歩踏み出し
手に持った杖の布を解いてまき絵を捕まえているゴーレムに突きつけると

「まき絵さんを離せ!『光の精霊11柱! 集い来たりて 敵を射て!』」
『ふぉ…………っ!?』
「ちょっ……待ちなさいネギ!!」

周りの面々がほとんど全員魔法を知らない上
さらに自ら魔法を封じているにも拘らず魔法を使おうとするネギ
明日菜が止めようとするが間に合わずに呪文が完成するが……

「くらえ『魔法の射手!!』」

やはり魔法を封じているために杖からは何も出ず
その場をやや痛い雰囲気が支配する

『(ほっ……)――フォッフォッフォッ、ここから逃げる手段は無いぞ、諦めるんじゃな』

内心で思いっきり安堵の溜息をつきつつ
出口が無いと告げるゴーレム(近右衛門)
その言に流石の面々も顔を青くしかけるが、その時……

「―――ござ!?」
「長瀬さん?どうしたん――――――!?」

ふと上を見上げた楓が何かに気付き
そばに居た木乃香が何かと問おうとした瞬間
ゴーレムの背後に轟音と共に何かが落下
高く上がった水飛沫により皆の視界が一瞬塞がる

「な……何……!!?」

明日菜の叫びが全員の気持ちを代弁していたが
それに答えられる者は無いまま飛沫が収まると……

『…………』
『ふぉっ……?』
「「「「「「「え…………」」」」」」」

そこにはゴーレム(近右衛門)にとっては意外であり
それ以外の面々とっては予想外すぎる乱入者がいた

『…………』
「え、えっと……」
「ロボット…………ですよね……?」

皆の視線の先には10mを超える身長を持つ緑色の巨人が膝を突いていた
手に鋼色の巨槍を下げたその巨人はゆっくりと立ち上がると、辺りを睥睨しだす
正体は勿論緑獅子・改=アルベルトであるが
ネギ達はその大きさと新手のゴーレムにも見える外見の所為で身動きがとれず
近右衛門は手に持つ鋼槍の凶悪さに内心で火や汗を流したまま動けなくなっていた

『………………』

緑獅子・改はゴーレム、その手の中のまき絵、ネギ達の順に視線をやり
ヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、自然な動作でゴーレムの真横に移動し

「ふひゃっ!?」
『フォッ!!?』
「「「「「「まき絵ちゃん(さん、殿)!!?」」」」」」

緑獅子・改はゴーレムの手に捕らわれたまき絵を無造作に摘み上げて楓の傍に降ろすと
視線を楓に向け「あっちへ行け」と言わんばかりに手を振る

「ござ……? …………離れていろと言いたいのでござるか?」

疑問符を浮かべる楓に緑獅子・改は頷く事で肯定する
楓は細い目を薄らと開き、少し思案するように緑獅子・改を見ると

「…………わかったでござる、皆!この場はこの御仁にまかせるでござるよ!」
「ちょ……長瀬さん!大丈夫なんですか!?」

流石に緑獅子・改がゴーレムである可能性もあると考えているネギが止めるが……

「いや、おそらく大丈夫でござるよ」
「―――で、でも……」
「この御仁があの石人形の仲間ならまき絵殿を助けたりはしないはずでござる」
「あ…………わかりました!皆さん、行きましょう!」
「「「「「(わかったわ、ええ、わかったアル、わかったえ、わかったよ〜)!!」」」」」

楓の言に納得したネギの言葉を皮切りに
木乃香が持ってきた服を着ながらゴーレムと反対方向にある滝の方へ一斉に走り出す面々

『フォ!?待た――――』

一瞬遅れてゴーレムが止めようとするが―――

『……』

そう言おうとしたゴーレムの視界を覆うように飛び込んできたのは緑獅子・改の掌
気付いた時には遅く、ゴーレムは緑獅子・改に無言のまま掴み上げられ

『フォ!?ちょっま……』
『……』
「「「「「「「…………あっ?」」」」」」」

緑獅子・改はまるで石ころでも放るような動きで空中へゴーレムを放り投げ、片手の鋼槍を軽く捻る
その光景に嫌なものを感じた近右衛門がゴーレムとの感覚リンクを切るのと同時に緑獅子・改は鋼槍を思い切り引き絞り

『ブフォッ!!!?』
「「「「「「「!!?」」」」」」」

一直線に突き出された鋼槍の杭がゴーレムを貫通
その光景に思わず逃げる足を止める一同を緑獅子・改は無視し
鋼槍のトリガーを躊躇い無く握りこむ

鋼槍一撃

鋼槍から放たれた衝撃がゴーレムを撃ち抜き、一瞬を置いてゴーレムの背が轟音と共に砕け散る
そして、胸部に巨大な空洞を造ったゴーレムはゆっくりと落下する

『――――……?』
「「「「「「「あ」」」」」」」

それと同時に手に持った鋼槍から鈍い音がし
緑獅子・改の手元に皆が目を向けると、各部が砕けて亀裂が入った鋼槍が視界に映る

『………』

緑獅子・改は軽く首を振ってから振り返ると
未だにネギ達が逃げていないのに気付き、追い払うかのような動きで手を振る

「「「「「「「――――!」」」」」」」

慌ててネギ達が走り出し、少ししてから滝の裏にある扉を見つけ
騒ぎながら中に入っていくのを確認するとゴーレムのほうへ向きなおり
地面に転がるゴーレムの目に光が灯っているのを確認すると

『…………さて、試験とは言え俺が担当している生徒を危険な目に合わせた事に謝罪はあるか学園長?』
『…………とりあえずワシを殺しかけた事に謝罪はあるかのアルベルト君?』

緑獅子・改は視覚素子の光を軽く細め
片手に持った鋼槍で自身の肩を軽く叩くと

『ははは、不死の妖怪のくせして何を今更
 ――木乃香嬢が貴様の血を微塵も引かなくて良かったな?』
『――まだそれを言うか君はっ!!リンクを切るのが遅れとったら痛みの反動で死んどったぞい!!』
『ははは、まあそれは良いだろう』
『良くないわい!!』

緑獅子・改は騒ぐゴーレムを無視し
ネギ達が入って行った滝の裏の扉を鋼槍で差すと

『―――あのバカレンジャー+αは大丈夫なのか?』
『……うむ、ここに居る間見ておったがの
 皆しっかり勉強しておったよ』

無視されて不服そうなゴーレムの発した言葉に緑獅子・改は軽く笑うと

『ふむ、ならばバカレンジャーの勉強に貢献したと言う事で皆を危険な目に遭わせたのは勘弁してやろう』
『…………初めて会った時から思っとたんじゃが』
『何だ?』

不思議そうな声を発する緑獅子・改にゴーレムは転がったまま半目を向けると

『君は…………ワシの事を低く見ておらんかの?』
『はははは、――――何をわかりきった事を言うか貴様』
『き――君はなぁ!!』
『ははははははは、―――――さて』

騒ぐゴーレムを見て笑っていた緑獅子・改だが
唐突に笑うのをやめて腰の剣を引き抜き、ゴーレムの首筋に突きつける

『――な、何じゃ?』
『詳しい話は後日聞く、…………逃げるなよ?』
『――……うっ……』

ニヤリと黒く笑ったような雰囲気を見せ(勿論緑獅子・改に表情は無い)
ゴーレムがたじろぐのを見て剣を鞘に収めると
再び飛行体勢を取ってから飛び立ち、先ほどの集光穴から外へ飛び出す

先ほどの穴から表に出ると既に時刻は夕方頃
山の先に沈む夕日に照らされながら下に目を向けると、無事地上に出たらしいネギ達が見える
緑獅子・改はその光景を見ながら溜息をつくと

『あれなら問題無いな、――さて、俺も帰るか
 ……しかし……あいつらには苦労させられたな、……ふむ』

1人何か呟くと、緑獅子・改はそのまま格納庫へ向かって飛ぶ


約30分後、連絡を受けて駆けつけたのどかとハルナと再会を喜び合い
今は皆で寮への帰り道を歩いている7人+のどか、ハルナ
やがて寮の近くにある管理人宅が見え出すと、その傍に見知った影が居るのが見える

「あ、ノインさんや〜」
「え? あ、ほんとだ」

掃除中だったのだろうか、手に箒を携えた銀髪の侍女は皆の方に振り返ると
出迎えるように一礼する

「皆様御帰りなさいませ
 お怪我はございませんでしょうか?」
「あ……すいませんご迷惑をかけちゃって……」
「あ、…………すいません」
「……すまぬでござる……」
「ごめんアル……」
「ご、ごめんなさい〜」
「申し訳ないです……」
「ご……ごめんなぁノインさん……」

自分が居ないことで迷惑をかけたと感じたネギが慌てて謝り
それに気付いた皆も追随するように謝るが
ノインは軽く首を振ると

「いえ、どうぞお気になさらず
 アルベルト様が皆様に用事があるので、皆様がいらっしゃったら私達の家に来て頂くようにと申しておりました」
「――あ、わかりました、皆さん行きましょう」

ネギの声に皆は頷き
それを聞いて頷き、歩き出したノインに付いて行く

1分後、アルベルト宅内に入って少し歩いた所でノイン以外の面子が罠に引っかかるという出来事が発生したが
その後は発生前にノインが罠を全て潰し、何とかアルベルトの居る客間に辿りついた面々
まき絵や古菲の頭に吸盤矢が張り付いていたり
ネギの太腿に牙の代わりにクッションが付いたトラバサミが食いついていたり
明日菜と楓が落下して来たたらいを持ってたりするが
居間に居たアルベルトはそんな光景を軽く無視し、少なくとも表面上はにこやかに告げる

「さて、とりあえずおかえりと言わせて貰うが問題ないな?」
「――問題ありよってか何なのよあの罠は!?」

いきなり明日菜が食いついてくるがアルベルトはにこやかな笑いを崩さぬまま

「はははは、あれは侵入者撃退用と俺の趣味だ
 今後玄関から居間までは仕掛けんでおくから勘弁しろ」
「と言う事はそれ以外には仕掛けておくと言う事でござるか……」
「アレはもう治りません、一種の病気だと断定します」
「ははは、やかましいぞノイン、……とりあえず皆座れ」

アルベルトが居間に置いてあるちゃぶ台(大)とその周りに置かれている座布団の群を指差すと
皆は不思議そうな表情で自分にくっついた矢等を外し、それを入り口の辺りに置いて座る
そしてノインが壁際に控えたのを確認したアルベルトは口を開く

「―――さて、具体的に何処にいたかは知らんが(知ってるがな)…………この三日間で多少は勉強出来たか?」

多少締められた表情で言われて皆の表情が暗くなるが、アルベルトは軽く首を振ると

「ああ、別に怒っている訳ではない
 ただクラスの連中に会ったら謝っておけ、皆心配していたからな」

怒られる訳ではないと言われて首を傾げながらも頷く面々

「―――さてノイン、アレを取りに行くぞ、お前らは少し待っていろ」
「承知しました」

アルベルトはそんな皆を見つつそう言うと、席を立って隣の部屋へ向かい
それにノインも続こうとするが、襖の辺りで振り返り、ちゃぶ台を指差すと

「皆様、お手数ですがそれを片付けておいて頂くようお願いいたします」
「あ、はい」

ネギが返事するとノインは一礼し、アルベルトと共に部屋から出て行く
皆が何事かと考えながらちゃぶ台を部屋の隅に立て掛けるのとほぼ同時に
何やら板の様な物を合計5つ担いだアルベルトとノインが戻ってくる

「えっと、それは…………?」
「見て分からんか?」

ネギの声に軽く笑いながら答えると
明日菜、古菲、楓、夕映、まき絵らバカレンジャー達の前にそれを置いていく

「え、えっと……アルベルト先生?」
「何だ佐々木」
「……何で机なの?」

まき絵の疑問も尤もで
バカレンジャー達の目の前には
一人用のやや小さい勉強机が置かれている

「ああ、至極簡単な理由だ」

ここでアルベルトはニヤリとした笑顔を浮かべると
懐からプリントの束を取り出すと

「再テストを受けに来なかったバカレンジャーの再テストを今ここで行なうだけだからな?」

笑顔で言われた言葉に反射的に逃げようとする再テスト未履修者だが

「ノイン」
「はい」

先頭(古菲)がたどり着くよりも先にノインによってふすまが閉じられる
退路を閉ざされ、恐る恐る振り返ったバカレンジャー達の視線の先には

「クククク、期限を2日も延ばしてやったんだ
 ――――当然できるだろうな?期待しているぞ?」
「「「「「う……」」」」」

何だかんだで結構疲れていたらしいアルベルトの笑みに皆の表情が引き攣る中
ノインが近くにいた楓と夕映に耳打ちする

「―――ご安心ください
 ああ言っていますし表情もああですがさほど難しい問題ではありませんでしたので」
「―――そうなのですか?」
「ござ?」

疑問符を浮かべる2人にノインは軽く頷くと

「はい、――――尤も、それで出来なければ本気で怒るだろうと判断しますが」
「「う……」」
「――そこ、何を話している、さっさと席に着け」
「「―――あ、はいです(でござる)」」

3人が振り向くと、既に机の上には用紙と筆記用具が置かれており
楓、夕映以外のバカレンジャーも既に席についている
2人があわてて座るのを見てアルベルトは頷き、残りの面子に視線を向けると

「ではテストを受ける者以外は部屋から出ていろ
 ――ノイン、案内してやれ(誘導もな)」
「はい、では皆様、こちらへ(当然と判断します)」
「あ、―――皆さん頑張ってください!」
「皆頑張ってや〜」
「あ……頑張ってね」
「頑張ってね〜」

何かアルベルトと小声で話し合ったノイン、そしてネギ、木乃香、のどか、ハルナが出て行くと
アルベルトは壁に掛けてある時計を確認し

「よし、時間は今から一時間、教科は5科目、問題は各教科5問ずつ1問4点の合計100点だ、――――始め」

アルベルトの号令に合わせて書き始めるバカレンジャー達

そして約1時間後……

「―――よし、やめ、用紙は裏返して置いておけ」
「「「「「はーい(アル、です、ござる)」」」」」
「それと―――ノイン!」
「はい」

アルベルトが呼ぶと、襖が開いてノインが現れる
一礼してから部屋に入るノインを見つつアルベルトは顎に手を当てると

「他の連中は?」
「現在あちらの部屋で夕食を」
「そうか、こいつらの分は?」
「勿論用意してございます」

その言葉に小テストの再テストとは言え結構疲れたらしいバカレンジャー達の表情が明るくなる
それを見てアルベルトは苦笑すると

「―――じゃあ採点している間食ってていいぞ
 ノイン、罠にかからんように誘導してやれ」
「へ!?それどういう事よ!?」

聞き捨てならない言葉を聞いた明日菜が食って掛かるがアルベルトは無視
黙ってプリントを回収していく
そして他の面々はノインに連れられて部屋から出て行く

「―――皆様どうぞこちらへ
 ――佐々木様、そこは足を止めて右に水平移動が2歩必要だと判断します」
「ひゃ!?あ、はい!」
「長瀬様、頭を屈めて下さい、―――そのままだと無くなるかと」
「な――何がでござるか!?」

4〜5m程度しか離れていない所に向かうだけで大騒ぎな面々を無視しつつ
アルベルトは黙々と採点をする

その後、採点を終えたアルベルトが疲れたように
しかしやや嬉しそうに溜息をついたり
自身の夕食を食べようとしたら他の面々のお代わりのしすぎで無くなっていたり
帰ろうとして玄関に向かったまき絵と明日菜とネギが落とし穴に落ちたり
夕映とのどかが滑る床ですっ転んだりと中々に濃い出来事があった
とりあえず危ない罠は外すか、とアルベルトが決めたのは秘密である


その夜、午後11時頃、女子寮657号室

期末試験を明日に控え、この女子寮に住む少女達が勉強に励んでいる中
当然この部屋の主である少女達も勉強に勤しんでいる

「―――アキラ、ここわかる?」
「――ん?えっと…………ああ、確かここの文法を使うはずだよ?」
「――そっか、ありがと」

この2人部屋に住むのは
黒髪を右で縛った活発そうな少女『明石裕奈』とポニーテールの物静かな少女『大河内アキラ』
2人とも成績は中の下といった感じで、それ故か必死に勉強している

「えっと……、これのスペルってなんだっけ?」
「…………こう、じゃないかな……多分」
「た、多分って…………―――ん?」

やや適当そうな裕奈の言に漫画汗を浮かべるアキラだが
ドアをノックする音に気付き、腰を上げるとドアの方へ向かう

「はい、どちら様ですか――――」

アキラがドアを開けるとそこには……

「――夜分遅くお邪魔いたします」

手にバスケットを下げたノインが立っていた
その意外な来訪者にアキラの反応が数瞬遅れると

「アキラ、誰がきたの……――ってノインさん?どうしたの?」

裕奈がアキラの背後から顔を出し
ノインに疑問符を浮かべながら問うと

「皆様よく頑張っておられます、しかし栄養補給も必要と判断してお夜食をお持ちいたしました」

そう言いながら手のバスケットを差し出すノイン

「わ♪ありがとございますー♪」
「あ、ありがうとございます、えっと…………こんなにいいんですか?」

見ると、ノインの背後には台車があり
その上には20近い数のバスケットが山積みになっている
手に持つバスケットの重みからして相当な量を作ったのだろうと心配するアキラだが
ノインは無表情のまま軽く首を振ると

「ご心配して頂き恐縮です、しかしこういう仕事は私の本分でございます
 この程度なら全く苦になりませんので心配はご無用だと判断します
 今日と明日、力の限り頑張っていただければ幸いと判断します」
「―――わかりました」
「はいはい〜♪」

そう告げるノインに真面目な顔で頷くアキラと
アキラからバスケットを受け取って嬉しそうに手を上げる裕奈
やや対照的な2人を見てノインは微笑すると

「では、悔いの無い結果を期待いたします」

ノインは言葉と共に再度一礼し、台車を押しながら別の部屋に向かい
裕奈とアキラは顔を見合わせて頷くと、部屋の中へ戻っていく

そして翌々日の『期末テスト成績発表日』

生徒達は結果を見るために巨大な学生食堂「涼風」に集まり
アルベルトとノインも食堂の片隅で生徒達の成績が次々と発表されているのを見ている

『次は下から二番目……ブービー賞です、えーと…これは…』

これまで呼ばれた中に2−Aは無い
これで違えばネギがクビと言う事になるが……

『2−Kですね 平均点69.5点』
「(―――何?)」

告げられた言葉に思わず成績を移している電光板を睨みつけてしまうアルベルト

「(2−Kがあの点数なのは知らんがあのバカ5人集ですら――――――…………ありえん!)―――む?」

見ると、ネギが走り去り
2−Aの面々の1部がそれを追いかけて行くのを見ると
傍らに立つノインに静かな声で呼びかける

「―――ノイン」
「はい」
「俺はあの爺を探す、――お前はあのお子様を足止めしておけ」
「了解いたしました」

ノインが駆けて行くのを横目で見送り
何処かにいる筈の近右衛門を捜すが

「(―――どこに行ったあの妖怪老人は!?)」

―――アルベルト・視覚技能・発動・遠視・成功!

どこにも近右衛門の姿は見えず
反射的に技能を使って近右衛門を捜すアルベルト

―――アルベルト・視覚技能・自動発動・発見・成功!

「(――居たか!)」

アルベルトの視線の先にはネギ達の向かった方向へ歩いて行く頭の長い影が見える

「よし、―――む?」

走り出そうとした所でふと電光板に目を向けると

「『―――ミスにより再集計中』……だと?
 ――――…………ほほう……」

歩いて行く近右衛門の後姿を凄まじい表情で見ながらアルベルトは走り出す

―――アルベルト・脚術/体術技能・重複発動・全力疾走・成功!
   ―――アルベルト・脚術/体術技能・重複発動・回し蹴り・成功!

「――ブォッ!?」

アルベルトは全力疾走によりあっという間に近右衛門を追いつき
さらに追い抜く瞬間後頭部に蹴りを叩き込むと更に速度を上げ
駅の近くでネギが明日菜に後ろから押さえられ、その周りを囲むバカレンジャー+αが居る

「―――スプリングフィールド様はこれでよろしいのですか?
 神楽坂様の申される通り貴方様は良く頑張っておられました
 それをここで諦めてよろしいのですかと質問させて頂きます」
「い、いえでも、最終課題は僕も納得の上でのコトですから……」
「納得してどうにかなる問題ではないと判断できますが?」
「でも……」

そして、何やら暗い表情のネギと話すノインの隣にアルベルトは急停止する

「「「「「アルベルト(さん、先生)!?」」」」」
「ああ、―――とりあえず皆お疲れ様だったな」
「あ…はい、………でも……最下位になっちゃたから……」

肩を落として放たれた言葉にアルベルトは軽く眉をひそめると

「ふむ、――潔く教師を辞めて帰る…………と?」

悲痛な顔で頷くネギに対してアルベルトは溜息を付き
やれやれといわんばかりに額に手を当て

「ネギ先生、どうも君は物事を性急に考える癖があるようだな」
「え?」
「せめて自分のクラスがどのような点を取ったかぐらいは確認してもいいだろうに
 (そうすればあの『再集計中』にも気づいたかもしれんのにな)」
「あ…………でも……
 どっちにしろ最下位なのには……「そう言う意味ではない」え?」

アルベルトがネギの前に立ち、ノインがその後ろに控えると
ネギの頭に今度はアルベルトの左腕が置かれる

「最下位にしろ、トップにしろ、また別の順位だろうと君が教えた生徒の順位だ
 担任として最後まで責任を持って見届けるのが筋と言うものだろう?」

その言葉に驚きの顔でこっちを見上げてくるネギ
アルベルトはその様子を見て意地の悪い笑みを浮かべると

「それに……君の故郷はイギリスだろう?帰るアテはあるのか?
 後2−Aの連中への説明はどうする気だ?俺任せか?」

あ……、と今気付いたような声を上げるネギ
アルベルトはその肩から手を離し、立ち上がってネギへ半目を向けると

「ふぅ、何も考えていなかった訳か
 ―――全く、君はもう少し考えた上で行動したらどうだ?」
「あううう……」

アルベルトの言葉に涙目でヘコむネギ
その様子を見たアルベルトは1度溜息をつくと
意地の悪い笑みを浮かべて言う

「―――と、まあこれはあの成績が正しく表記されていたらの話な訳なのだが」
「ど―――どう言う事よアルベルト!?」

ネギを後ろから抱えたままの明日菜が思わず怒鳴るとアルベルトは半目を向け

「神楽坂……敬語を使えとまでは言わんが俺はお前達の教師だぞ?」
「う……」

アルベルトの言葉に唸りながら引き下がる明日菜
その様子を見たアルベルトは軽く肩をすくめると

「ふむ、まあそれはどうでもいい
 ―――さて学園長、何か言いたい事があるのならさっさ言ってもらおうか」
「「「「「「え?」」」」」」
「フォッフォッフォ、…………呼んだかの?」
「「「「「「ええええええ!!??」」」」」」」

居る筈の無い(と、アルベルトとノイン以外は思っていた)近右衛門が突如現れ
盛大に驚くネギ+バカレンジャー+α
近右衛門は額をさすりながらアルベルトを睨むが当然無視され
憮然とした表情を見せつつもそれを笑みに変え

「いやー、すまんかったのネギ君。実は君達遅刻組の採点はワシがやっとったのじゃがの
 採点が終わった後に2−A全体と合計するのをうっかり忘れとったんじゃよ、――おかげで報道部の生徒にこっぴどく叱られてしもうたわい」
「当たり前だと思わんかノイン」
「はい、叱られて当然だと判断します」

横でぼそぼそと話す2人を近右衛門は無視し

「じゃ、今ここで発表しちゃおうかの――」

と、取り出した用紙の束を横からアルベルトが取る

「―――? アルベルト君?」
「――――これぐらいの華は持たせろ
 ああ、そうそう、この事に関しては後できっちり制裁を加えるから覚えておけ」
「フォッ…………!!」

疑問符を浮かべる近右衛門に壮絶な笑みを浮かべて耳打ちし
しかしすぐにその笑みをにこやかなものに変えると

「では読み上げるぞ? ――まずは佐々木」
「ひゃ、ひゃい!」
「……平均66点、――悪くない出来だ、良く頑張った」
「――へ、ほんと!?」
「ああ、もちろんだ、――だが事前勉強が足りなかったな
 部活をやるのも悪いとは全く思わんがもう少し普段からの勉強量を増やすようにしろ?」
「あ、あははー…………はい……」

頭をかきながら照れ笑いを浮かべるまき絵をやや意地の悪い笑顔で見つつ
今度は古菲と楓の方を向き

「次に古菲、67点、そして長瀬は63点
 ―――2人ともやれば出来るじゃないか、今後も頑張るように」
「わかったアルよ!」
「あいあい、了解したでござる」

手を上げてやたらと元気に頷く古菲と静かに笑いながら頷く楓
それを見ながらアルベルトは頷き

「うむ、次に綾瀬が63点か
 学校の勉強は本を読むにも多少は役に立つ
 やっておいて損は無いぞ?」
「むー……、……考えておくです」

やや仕方なさそうに答える夕映に苦笑を浮かべながら
木乃香、のどか、ハルナの3人の方を見ると

「うむ、それがいい、――早乙女81点、宮崎95点、そして近衛が91点
 お前達には文句の付けようがないな、これからもこの調子で行くといい」
「「「はーい」」」
「―――さて、最後に神楽坂…………」
「「「「「「…………」」」」」」

これまでとは違いかなり締められた表情のアルベルトに近右衛門とノインを除く全員が息を呑むが

「……71点、――ふむ、中々凄いじゃないか
 小テストで点数1割切ってたのが信じられん位だな?」
「え……マジ?」
「ああ、マジもマジ、大マジだ
 ―――さて、お前達の点数を加えると2−Aの平均は82.8になる」
「え……?」
「じゃあ…………」
「ああ、これまでのトップに2.0の差を付けて……」

そこでアルベルトは紙を下げ、微笑しながら告げる

「今回の学期末テストのトップは2−Aだ、―――ふむ、よく頑張ったな」
「「「「――――やったぁ(アル)(ござる)(です)ーーーーーー!!!!!!」」」」

明日菜や古菲達が歓声を上げるのと同時に、結果発表所の方からも歓声が響いてくる

「うむうむ」

それを聞いて笑いつつも頷くアルベルト
そのままおもむろに左腕を伸ばし

「――――さて、コソコソと何処に行くのかな学園長?」
「フォ!?ななななな何じゃなアルベルト君!!?」

皆が騒いでいる隙に消えようとした近右衛門の肩を掴んで引き寄せ、抱え込むように肩を組むと
何故か青ざめた表情の近右衛門を見て首をかしげるが、すぐに表情を真面目なものに変え

「―――さて、今回の事に対する罰だが……
『鋼槍の一撃を生身で』か『後で木乃香嬢に全部(魔法関係以外)ばらす』の二択だ
 ――――どっちが良い?」
「ど……どどどどどっちもワシにとって致死量な気がするのう色々と!
 第三の選択で『お咎め無し』と言うのは……」

アルベルトは無視し、ふと名案を思いついたように笑うと

「ああ、第四の選択で『両方』と言うのもアリというかむしろ俺としてはこれを推奨するがどうだろうか」
「か、勘弁してくれんかの……?」
「―――ふむ……まあ、『今』は勘弁してやろう」
「今!?今ってなんじゃ!!?」
「まあ気にするな、―――ははははは!」

まだ冷たさを含みつつも、どことなく爽やかな風の下
生徒達の歓声とアルベルトの笑い声と近右衛門の悲鳴が響き渡っていた……




―――さて、これにて子供先生は正式な教員となり
異界からの青年もまた少しこの世界に溶け込めた
次は新たな学期に向けた短い休みの間の話

とくとお楽しみあれ




11th Story改訂版後書き

どうも『魔法都市麻帆良』11th Story更新です
メルキセデクの書が出てきませんでしたが
緑獅子・改の起こした水飛沫で見えなくなってしまったのです

原作よりテストの点数が上がっているのは刹那や茶々丸が頑張ったからだと思ってくだされば幸いです
あと、『獅子の鋼槍』ですが、モデルは『ア○マード○アシリーズ』の『射突型○レード(いわゆるパイルバンカー)』です

ちなみに作中に出てきた『戦女神の鋼槍』は都市シリーズの1つ『閉鎖都市 巴里』に出てくるもので
都市シリーズの作者である川上稔氏のサイト『VIRTUALCITY』の
『OFFICE』→『・三章−当出張所商品:(通販)』→『●都市同人誌『都市の歩き方』●』→『都市の歩き方2(PARIS)』→『とりあえず庇護女帝1』の順でリンクを辿って頂くと出てくる重騎(ロボ)の右腕に付いている奴です

それでは

〈続く〉

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