『魔法都市麻帆良』
The 8th Story/飛翔の皇剣・閃光の風槍



麻帆良学園女子中等部2−A教室


生徒達の好奇の視線を浴びながら教卓に立つ義腕の青年……
アルベルトが肩をすくめながら放った言葉にクラスの面々(昨日の4人+α除く)が固まり
眼鏡をかけた赤毛の少年と、銀色の長いケースを持った侍女が青年に並んだ瞬間
静かだった生徒達が爆発した

「「「「「「「――――――えええええ〜〜〜〜〜!!!!?????」」」」」」」
「む?」
「ひゃあ!?」
「――?」

約20人分の叫びが3人を襲い
次の瞬間にはネギへの質問の声が飛ぶ

「ネギ先生――!」
「一体どう言うことですかー!?」
「もしかしてやめちゃうんですかー!?」

口々に騒ぎ立てる少女達
どうやら『アルベルトがネギの代わりに自分達の教師になる』と聞こえたらしく
何人かは席を立ってネギに詰め寄っている

「(『副担任』の一言が聞こえなかったのか……?)」

アルベルトの内心の声も聞こえる筈が無く
生徒達の声は止まらず、ネギも半泣きになってアルベルトを見ている

「(ふう、―――……仕方あるまい)」

アルベルトは周囲を軽く見回し、教室の隅にまで移動する
その行動に何人かの少女が訝しげな視線を向けてくるが無視し
軽く片足を上げると、床を強く踏み鳴らす

「「「「「――――!!!!!!??????」」」」」

その瞬間教室内に鳴り響いたのはシンバルや、寺の鐘、そして雷の音etc……
とにかく様々な響く系統の音が教室の四方八方から響き渡り
流石に騒いでいた生徒もおとなしくなる(何人かは音の直撃を受けて唸っている)
アルベルトはエヴァンジェリンと茶々丸がきっちり耳を塞いでいるのを見て苦笑しつつ

「……ふむ、おとなしくなったな?では席についてネギ先生の話を聞け」

別にネギ先生が辞める訳ではないぞ、そう言いながらつま先で軽く床を叩く
何人かが引きつった顔でそれを見てはいるが、皆自分達の席に戻る
アルベルトはそれを見て頷くと音が直撃したせいか微妙に涙目のネギに視線を向け

「――ではネギ先生」
「―――あ、はい
 えーと、今日からこちらのアルベルトさんが僕の副担任を勤めてくれるそうです」
「そう言う事だ、と言うかさっきそう言ったのだがな?」
「――おそらく聞こえていなかったのだと判断します」

半目で生徒達を見回すアルベルトにノインが答える
アルベルトはやれやれと肩をすくめ

「―――まあ、仕方あるまい
 俺とノインはあくまでネギ先生の補佐で直接何かを教えると言うことは無いぞ?
 ―――まあ、ネギ先生が来れない場合の代役等はするがな」

わかったか?と言いながら再度生徒達を見渡すアルベルト
一部の生徒は竜帝を奇異の目で見ているが
ほとんどの生徒は納得したような、安心したような表情をしている

「(ふむ、随分と好かれているようだなネギ先生は
 それとも俺が嫌なだけか?
 …………まあ、それは良いとして……一部の連中は何だ?
 ……そこまで露骨に睨まれる覚えは無いぞ?)」

視線の先では数人の少女があまり友好的とは言えない視線でこっちを見ている
アルベルトはそれを軽く受け流しつつノインと一緒に窓側へ行くと顎に手を当ててなにやら考え始める

「(―――まさか情報伝達が成されていないのか?
  あの爺め…………やはり抹殺だな?)」

内心で近右衛門にいつ襲撃をかけるか考えているアルベルト
だんだんと思考が物騒になっていく彼に声をかける人物がいる

「あのー、すいませんー」
「(やはり緑獅子・改で襲撃が良いか?いや―――)――む?」

一瞬の間を置いて気付いたアルベルトが声の方へ目を目を向けると
パイナップルのような変わった髪形をした赤毛の少女が手にメモとペンを持って楽しそうな表情で立っている

「確か出席番号3番の……」
「朝倉和美です、えー、アルベルト先生とノインさんにいくつか質問させていただきますがよろしいですよね?」
「それは強制もしくは事後承諾と言うのだ馬鹿者、―――ネギ先生が良いと言うなら構わんが?」

言いながら朝倉の後ろを見ると、ネギが手を合わせながら頭を下げている
それを見てアルベルトは軽く溜息をつくと

「―――まあ良いだろう、で?何が聞きたい?」
「あ、はいはい〜」

そう言うと朝倉は嬉しそうに質問を開始する

「ではまず……年齢は?」
「今年で26になるな」
「21になります(大嘘ですが)」

朝倉は頷きつつ手のメモに2人の名前と年齢を書き込むと

「はいはい、じゃあお2人の出身は?」
「独逸の伯林だな」
「アルベルト様と同じく伯林の出身です」
「はいはい〜〜、え?」

そこまで書き込んだ所で朝倉は妙な顔をし
軽い冷や汗をかきつつノインを見ると

「ええっと……アルベルト“様”って……」
「そう言う関係だ、別に俺の趣味ではない」
「はい、私はアルベルト様に仕える立場ですのでそれ相応の敬称を使うのは当然だと判断します」

きっぱりと言い切ったノインに朝倉は冷や汗を増やしつつも質問を続ける

「そ………そうですか、じゃあその格好も……?」
「そう言うことだ」
「そう言うことでございます」
「……そうですか、じゃあお2人の趣味は何ですか?」
「罠設置……って自分から聞いておいて嫌そうな顔をするな、原因は理解しているが異常に腹が立つ」
「それは仕方ないことだと判断します、――私は家事等でしょうか」

ほかにもまあまあ無難と思われる質問に答えていくアルベルト
途中でノインとの更に詳しい関係も聞かれたが

「少なくともこれ以上発展する事はないだろうな」
「はい、ありえない事だと推測します」

2人がそう答えるとかなり露骨につまらなそうな顔をする朝倉
そんな様子にアルベルトは内心で溜息をつくと

「(どう答えろと?―――まあ確かにノインの格好は変わっているだろうが…………
  しかし……これまで答えた事で変なネタにされるような気もするのだが…………いや、絶対にされるだろうな)」

やはりこういった事に関しての勘は異常に働くアルベルト
自分が告げた事がどうなるか予想が付いて軽く鬱になりかけている
しかし、そんなアルベルトの内心を知る訳もない朝倉は楽しそうな表情を絶やすことなく

「――んじゃあ最後の質問です」
「ああ、―――…………どうせロクでもない質問なのだろうがな……」
「後半無視して聞きますよ?――――その右腕がロボットみたいなのはコスプレか何かですか?」

その質問が出た瞬間後ろでネギが何か言いたげな表情をするが
大丈夫だと目線で伝え、アルベルトは口を開く

「――いや、これは間違いなく義腕だが?――…………まあ、多少規格外なのは認めるがな」
「本当ですかー?」
「本当だ、ちゃんとした物もあるが今日はこれしか使えなくてな」

アルベルトがきっぱりと言い切ると、流石の朝倉も渋々とだが引き下がる
それっきり質問が来ないのを見てアルベルトはネギに視線を向けると

「―――さて、質問は終わりだな?
 ではネギ先生、授業を」
「あ、はい、分かりました」

ネギが教卓へつくと同時にノインがアルベルトに近づき

「ではアルベルト様、――――くれぐれもお気をつけを」

ノインは一礼し、銀のケースを携えたまま教室の後ろのドアから出て行く
何事か、と言う生徒達の視線を無視して黒のケースを傍の壁に立てかけると

「―――どうしたネギ先生?」

生徒達と似たような視線を送ってきているネギを促す

「――あ、はい!
 じゃあ教科書の31ページを―――」


途中で明日菜と呼ばれた生徒といいんちょと呼ばれた生徒が喧嘩を始めたので
アルベルトが轟音トラップをもう一度お見舞いする羽目になったが
それ以外は特に何事もなく授業は進み……

放課後


現在帰宅途中のアルベルト
人気の無い通路を歩いている途中、何かに気付いたように眉を顰めて
そこから少し歩いたところで立ち止まると……

「ふむ、―――……出てきたらどうだ?」

その声に応えるように前方の木陰から姿を現す人影がある
それは竹刀袋を持ったサイドポニーの少女と
俗に言う忍者服のような物に身を包んだ長身の少女

「……出席番号15番『桜咲刹那』に20番『長瀬楓』か……」
「……良く気付かれましたね、気配は消していたのですが……」
「全くでござるよ」

そう言いながら鋭い視線を向ける刹那とその細い視線をうっすらと開く楓
その対照的な視線を浴びつつもアルベルトは軽く笑い

「はは、急に周りから人の気配が消えたからな、―――まあ、簡単な話だろう?」
「成程……、……私達の用件は分かりますね?」

刹那の言葉にアルベルトは頷くと

「……“力試し”と言う奴だろう?
 しかし長瀬は“こちら側”なのか?見せてもらったリストには居なかったのだが」
「―――楓は魔法生徒として登録はされていませんが
 ある程度は知っていますし、今回も“協力者”として来てもらっています

アルベルトはもう一度頷くと

「成程、―――もう一つ問うがお前らは俺達の状況を知っているのか?」
「ある程度は学園長からお聞きしてます
 ……一つ、こちらからもお聞きしたいのですが……」
「ふむ、何だ?」

アルベルトが問い返すと、刹那は鋭い視線を向け、静かに問う

「アルベルト先生とノインさんに、お嬢様へ危害を加える意思はありますか?」

その質問にアルベルトはやや考え込むと
ふと悪戯を思いついたような笑みを浮かべて口を開く

「―――ははは、……さて、もしかしたらあるかもしれんな?」
「――――っ!」

明るささえ含まれた一声の効果は劇的だった
刹那は手に持った竹刀袋から白木造りの長刀を取り出し
それを構えながらアルベルトを睨む
楓も手に何本かの苦無を持って警戒するような視線を向ける

「おいおい待て待ていくらなんでも性急過ぎるぞ貴様ら」

そう言いつつもアルベルトは嫌味のない笑みを浮かべている、しかし……

「――――…………」

刹那はそれを馬鹿にした笑みと受け取ったらしく
更に態度を硬化させ、手にもかなりの力が篭っている
それを見たアルベルトは笑みを消すと、さっきに比べてかなり低い声音で言う

「桜咲、お前は木乃香嬢の護衛だと聞いているが……――その短絡さは護衛の妨げになるぞ?」
「っ!」

一瞬だけ身を震わせる刹那
アルベルトはそれに気付きつつも無視し
やれやれと言わんばかりに首を振ると

「ふぅ、―――よくもまあ……それで護衛が務まるものだな?」

その一言が引き金となった
刹那は体勢を低くし、無言のまま弾丸のように駆けだす

「刹那っ!?」

楓の声も耳に入れず
居合いの一撃をアルベルトに叩き込もうとするが…………

「ふむ、桜咲……、貴様は少し背後や下を見る癖を付けたほうがいいな、――文字通り足を取られる事になる」

やや後方に飛び退きながら放たれた言葉と同時に刹那が足をついた地面が円形に崩れていく

「落とし穴でござるか!?」
「ははは、昨日探索を兼ねて幾つか掘っておいたが役に立つものだな」

刹那は2人の声を無視
瞬時に足を引くとそのまま穴の端を蹴って跳躍
空中で愛刀である夕凪を抜き放ち
アルベルトを袈裟懸けに斬ろうと飛び掛る刹那だが……

「……――はっはっは、あえて二度言うぞ桜咲、―――貴様はもう少し背後や下を見ろ」

言葉と共に背後へ飛んだアルベルトに刹那が追撃をかけようと姿勢を低くして着地するが
一拍を置いて地面が陥没し、刹那は反応する間も無しに勢い良く落ち込んだ

「…………………………ござ?」

流石の楓もこれは予想外だったのか駆け出そうとする体勢のまま固まってしまった

「――はははははは!いい引っ掛かりっぷりだ桜咲」

アルベルトは楽しそうに笑うと、穴の縁に片膝をついて竜帝を穴に突っ込む
そのまま引き上げると胴の辺りを竜帝に掴まれた刹那が不機嫌な表情で地上に姿を現す

「………………」
「はははどうした不機嫌そうだな桜咲」
「―――――当たり前ですっ!何ですかあれは!!?」
「罠とは避けられる事を前提に仕掛けるものだ」

納得がいったのかいかなかったのかは知らないが押し黙る刹那
アルベルトは苦笑しつつ刹那を地上に下ろすと

「まあ、さっきは悪かったな、許せ」
「いえ、こちらこそ…………申し訳ありませんでした」
「はは、特に気にはしていない、挑発したのは俺だからな」

アルベルトはそこで一息入れると

「先ほどの質問だが……俺にもノインにもお前の言うお嬢様………
 木乃香嬢に手を出すつもりは無いな、どう受け取るかはお前次第だが」
「そうですか…………――わかりました」

一応納得はしたようだが、それでも僅かな不信感を滲ませる刹那
アルベルトは苦笑すると、刹那とその後ろの楓に視線を向け

「さて、色々とゴタつかせて済まないな、―――しかし」
「? 何でござるか?」

アルベルトは楓の言葉に苦笑すると、やや呆れを含んだ声音で言う

「いや、俺の世界で総長連合OBに学生が喧嘩を売ると言うのはある意味自殺行為なんだがな、――と、思ってな」

突如放たれた言葉に訳がわからないといった表情を浮かべる2人
だがアルベルトはそれを無視し、笑みを消した静かな視線で2人を見ると

「まあ、エヴァンジェリンを見る限りではこの世界と俺の世界では強さの基準に差があるようだ
 この世界での俺の強さがどの程度に位置するのかを見るのも悪くないか」

その視線と言葉に一瞬驚いた表情を見せる刹那だが
すぐに背後へ跳躍、楓の隣へ並び夕凪を下段に構えると

「はい、ではいきます、―――『京都神鳴流一刀派・桜咲刹那』」
「では拙者も……―――『甲賀中忍・長瀬楓』」

2人が名乗りを上げるのを見たアルベルトは軽く笑うと

「――ふむ、ではそっちの流儀にならうとするか、―――『独逸G機関空軍部中尉』―――………いや」
「?」
「どうしたでござるか?」

名乗りを途中でやめたアルベルトに2人が声を掛けると
アルベルトは苦笑しつつ額をかき、視線を2人に向けると

「いや、すまん、これは今の俺が上げるべき名乗りでは無くてな
 改めて言おう―――『元名護屋圏総長“竜風騎師”・アルベルト・シュバイツァー』戦種は全方位義体師」

改めて名乗るがアルベルトは構えない
しかし、対峙する2人はその視線に触発されたように体勢を低くし
どちらとも無しに開始の合図を告げる

「――――勝負!!」

その声と同時に駆け出す2人とは対照的にアルベルトは動きを見せず
黒のケースを立て、その上に手を置いたまま2人の挙動を観察するように見ている

「――…………?神鳴流――斬岩剣……っ!」

その行動に一瞬訝しげな表情を見せる刹那だが
迷っている暇は無いと判断し、斜め上からの斬撃をアルベルトに叩きつけるが……

「ああ、こいつを見せるのを忘れていたな」
「!?」

その斬撃はアルベルトが片手で放り投げたケースに食い込み
衝撃によってケースの各部に無数の亀裂を入れるが
中程まで斬り裂いた所で何か金属同士がぶつかり合う音と共に止まり
驚きの表情を浮かべる刹那をアルベルトが放った直蹴りが吹き飛ばす

「――――っ!」

吹き飛ばされる刹那とすれ違う様に走る楓が手に持った風車手裏剣を持って襲い掛かるが――

「紹介しようか、俺の愛剣であるマルドリック工房製剣型神形具―――」
「―――!!」

風車手裏剣をアルベルトは避け、空中で砕けていくケースに左腕を突っ込む
そのままケースの欠片を撒き散らしつつ薙ぐように振るわれた何かを楓は背後に飛ぶ事によって避ける
刹那と楓の目に映ったのは一振りの剣
緑と金の金属で包まれ、楽器にも見えるそれをアルベルトは水平に掲げ
その刀身に刻まれた銘を心底楽しそうな表情で告げる

「“飛皇(フリーゲンケーニッヒ)”だ」

アルベルトは竜帝を軽く払い、その片刃剣を刹那と楓も突きつける
それを見た2人が瞬時に構え直すのを見ると微笑を浮かべ

「さて、―――第四起動」

竜帝に一言告げ、竜帝が風神の音律を生むと、彼の詞たる固有の旋律を紡ぐ

『高き空に稲妻は疾り 共に猛き疾風は吹く
 かつて竜と共に舞い 現在を人と共に歩む
 他者の道を横に置き 己が道の先を見据え
 ただ一つ道を往かん』

―――アルベルト・義体技能・発動・“竜帝”第四起動・成功!
   ―――アルベルト・風神技能・発動・風神発動・成功!

竜帝が砲声を生み、周囲を竜帝から生まれた風が踊り、その風が飛皇を覆う
アルベルトはそれを2人に向け、微笑とも取れる笑みを浮かべると

「――ふむ、1つ教えておこうか
 俺がかつて総長を勤めていた都市は戦国都市、力を重んじ、戦って生き延びることを信条とする」

突如かけられた言葉とその内容に訝しげな表情を浮かべる2人
アルベルトはそれを無視し、2人に突き付けた飛皇を静かに動かしつつ、更に言葉を重ねる

「わかるか?俺はかつて力が物を言う都市の学生治安の最上に居た訳だ」

そのままゆっくりと飛皇を掲げていき、飛皇が空目掛けて突き立った瞬間

「半端な実力で―――その力に敵うと思うな!!」

―――アルベルト・風神/剣術技能・重複発動・真空風刃・成功!

叫びと共に飛皇が振り抜かれ
その剣閃が実体化したかのような無数の風の刃が2人を襲う

「ッ!? 神鳴流――――斬岩剣!!」

刹那が気を纏った剣撃で風刃を撃ち落すも、次々と襲い来る無数の風刃に押されていく
しかし、その後ろから飛び出した楓が手に持った風車手裏剣でアルベルト目掛けて襲いかかる

「む――――!」
「!!」

その一撃をアルベルトはあろうことか竜帝で受け止める
巨大な手裏剣による重量打撃によって身体が僅かに沈むが
アルベルトはそれを腰を落とすことで耐え

「―――はぁっ!」

―――アルベルト・剣術技能・発動・斬撃・成功!

逆袈裟に繰り出された飛皇の一撃を楓は風車手裏剣を離して避けるが
アルベルトは瞬時に手裏剣を投げ捨てるなり跳躍、一瞬で楓との距離を詰め

「――しまっ―――!?」
「―――もらった!」

―――アルベルト・剣術技能・発動・柄頭打撃・成功!

一瞬怯んだ楓の鳩尾へ飛皇の柄頭が叩きこまれる
長身の身体は吹き飛ばされ、地面に転がる

「楓!?」
「――余所見をしている暇はあるのか桜咲!」
「!」

―――アルベルト・脚術/体術技能・重複発動・跳躍・成功!
   ―――アルベルト・体術/剣術技能・重複発動・構え・成功!

一瞬楓の方へ気を取られた刹那の隙を突き
アルベルトは下段に飛皇を構えながら刹那との距離を縮め
飛皇を持つ手を締めると

「―――だぁぁっ!!」

―――アルベルト・腕術/剣術/風神技能・重複発動・風神斬撃・成功!

烈風を纏った逆袈裟の一撃を叫びと共に振り上げる

「くっ!神鳴流―――雷鳴剣!!」

刹那が対抗するように放った雷鳴の剣撃と風神の斬撃がぶつかり合い
その風と雷は渦を巻き、一瞬の後爆発、2人は弾かれるように飛び退く

「――――くぅっ…………!」
「―――……っ!」

―――アルベルト・体術技能・発動・姿勢制御・成功!

アルベルトは空中で姿勢を立て直し、いち早く着地すると
着地した直後で未だ身動きに制限のある刹那へ突撃する

「―――うっ……!?」

―――アルベルト・体術/義体技能・重複発動・構え・成功!

刹那の方へ走りつつ鋼の拳を引き絞るアルベルトだが

「――っ!」

―――アルベルト・視覚技能・自動発動・発見・成功!
   ―――アルベルト・回避/義体技能・重複発動・叩き落とし・成功!

視界の片隅に何かを捉えるなり急停止し、身体を捻りつつ竜帝を振るってそれを叩き落す
3つの金属音が響き、それと同じ数の短刀に似たような物が地面に落ちる

「は!―――もう復活したか!」

笑みを含んだ声の先では先ほど気絶させたはずの長身の少女が立ち上がり
両手に苦無を構えたままこちらへ走ってくる
そしてアルベルトが楓に気をとられた瞬間

「神鳴流―――斬空閃!!」

刹那が放った真空の刃が一直線にアルベルトへ向かう
瞬間的に視線を戻したアルベルトの後方からは楓が迫るが
アルベルトはむしろ笑みとも取れる表情うを浮かべ

「甘いっ!」

―――アルベルト・風神/剣術技能・重複発動・地走空刃・成功!


叫びと共に飛皇が二連続で弧をかき、その剣閃から生じた風刃が斬空閃と激突、2つの衝撃波は弾けて消え
激突の余波で生まれた砂煙の中からもう1枚の風刃が刹那目掛けて襲い掛かる

「っ!」

刹那が風刃を避けるのを見もせずアルベルトは後ろを睨み

「貴様もだ長瀬っ!」
「っ!?」

―――アルベルト・脚術技能・発動・ハイキック・成功!

振り向きながら薙ぎ払うように放った上段回し蹴りが楓を掠め
出鼻を挫かれた楓は弾かれた様に後ろに跳躍
一瞬だけバランスを取ると再度突撃し、更に背後では刹那も向かってくるが
アルベルトは微笑を消し、叫ぶ

「――甘いと言っているだろうが!」

―――アルベルト・義体/風神技能・重複発動・風神蓄積・成功!

その声と共に竜帝を覆う風が薄い緑色の光を纏いつつその勢いを増し
アルベルトはその義腕を大きく振りかぶると

「―――だぁっ!!」

―――アルベルト・義体/風神技能・重複発動・竜巻風壁・成功!

「「!!??」」

竜帝の拳が道路を砕いた瞬間、そこから発生した巨大な竜巻が2人の視界を奪う
周囲の木すら吹き飛ばすような勢いを持った豪風とそれによる土煙で視界を塞がれる刹那と楓
更に勢いを増す風に思わず腕で顔を覆ってしまう刹那だが

「――――うっ!!?」
「楓っ!?……――――っ!!?」

やや離れた地点から聞こえた同級生の声に気を取られるが
次の瞬間、風の壁を突き破って現れた剣が彼女の喉元に突き付けられる
刹那が動きを止めた瞬間風は晴れ
視界の先ではアルベルトが手の飛皇を突き付けているのが見え、そして右手の巨大義腕では

「楓……?」

長身の少女が鋼の腕に身体を掴まれ、身動きの取れないまま後頭部に漫画汗を浮かべていた

「今のは…………」
「はは、風は単なる目晦ましだ、これぐらい意表を突ないと勝てんと思ってな」
「はぁ……」

刹那はいまいち状況が飲み込めていないらしく呆然と呟く
アルベルトはそれを見て微笑すると

「さて、一応これは俺の勝ちだな?――意見があれば聞くぞ?抗議は却下するが」
「それは意味がないと思います…………確かに私たちの負けですね」
「そうでござるな……」

刹那は未だ理解できていないような顔で手に持った夕凪を鞘に収め
アルベルトがそれを見て苦笑を浮かべつつ飛皇を下げると

「――と言うか拙者はいつまで掴まれていればいいのでござるか?」
「ん?――ああ、すまん」

アルベルトは冷や汗付きの楓の言に振り向くと
飛皇を腰に提げつつ楓を地面に下ろす

「―――やれやれ、どうすればその年でそんなに強くなれるのか疑問だな
 簡単に済むとは思わなかったが、まさかここまで苦戦するとは思わなかったぞ?」
「私も…………まさか私と楓が負けるとは思いもしませんでした」
「うう、以下同文でござる」

アルベルトは落ち込む2人を見てニヤリと笑うと

「はは、どうやら俺達はお互いに見縊り合っていたようだな」
「―――そのようです、……情け無い話ですが…………」
「そうでござるなぁ……」

自分を戒めるように言う刹那と似たような雰囲気で頭を掻く楓
対するアルベルトは憮然とした顔で頭をかくと

「ふむ、――元総長の俺にお前らの年でアレだけやれれば充分を通り越して異常なんだがなぁ」
「は、はぁ……」
「ござ……」

2人のやや呆けたような反応を見てアルベルトは笑うと

「―――はは!ま、お前らがどう思うかはお前らしだいか
 ……さて、と、俺に対する“力試し”の結果はどうだった?」
「あ、はい!私達2人に勝つ位ですし……これならクラスの護衛も十分以上に任せられると思います」
「あいあい、拙者も同意見でござる」

アルベルトの問いに刹那が慌てた動きで頷き
楓も追随するように笑いつつ頷く

「ならば結構、―――では、これからよろしく頼むぞ?」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いするでござるよ〜」

アルベルトの笑いを含んだ挨拶に
刹那は真面目に、楓はのんびりと笑いながら応える

「―――さて、俺はそろそろ帰るが……、お前達はどうするんだ?」
「私は夜の警備がありますので……」
「拙者は用事があるでござるよ」
「―――そうか…………1つ聞きたいのだが」
「何ですか?」
「ござ?」
「俺やノイン相手に力試ししたいとか言う奴はお前ら以外にも居るのか?」
「あ、はい……確か……………………あ!」
「? どうしたでござるか刹那?」

突如何かに気付いたように声を上げる刹那だが、アルベルトはその一言で大体察したらしく
額に手を当てつつ呟く

「ふう、その様子だとノインに何か仕掛けている奴がいるようだな…………心配だな?」
「ノインさんがですか……?」
「いや、むしろその仕掛けた奴を心配するな俺は」
「え?」
「ござ?」

アルベルトは2人の訝しげな視線を受け、苦笑しつつ軽く肩を竦めると

「あいつは戦う相手に対して容赦が微塵も無い上に技量も相当でな
 誰かは知らんが、もしそいつがノインに仕掛けたら軽く後悔する羽目になるだろうな
 ま、少なくとも負けんだろうさ、あいつはそれ故に俺の侍女兼戦闘補佐役であるのだからな」

さも当然とばかりに放たれる言葉に思わず頷いてしまう刹那と楓
そんな2人を見つつ軽く笑うと楽しそうに口を開く

「はは、――まあ、待っていれば来るだろうからな、少し休ませてもらおうか」

アルベルトは口元に微苦笑を浮かべながら夜空を見上げ始め

「は、はぁ…………」
「ござ……」

いまいち状況が掴めていない様子の2人もそれに習う様に夜空を見上げる



アルベルトが戦闘開始したのとほぼ同時刻
さほど遠くない街路を銀のケースを携え、駅への道を歩く銀髪の侍女
彼女は時折立ち止まって周囲を見回しつつも、終始変わらぬペースで歩き続ける

「あそことあそことあそこですか、……一体いつの間に仕掛けたのかと小一時間問い詰めるべきだと判断します」

何やら不穏な独り言を呟きながら歩き続けるノインだが
唐突に立ち止まり、手のケースを立てると左右に視線をやる

「――――?」

相変わらず表情を変えないまま、しかし訝しげに周囲を見回しだす
そこへ……

「―――見つけましたわ、機械人形!」

いきなり道の端から飛び出してきた人影がノインを指差して叫んだが

「―――――――」
「――――あら?」

ノインは無視して歩き出した
“機械人形”と言うのは、ある意味彼女の種族名ではあるが名ではない
人間が「―――見つけたぞ人間!」と言われるような物である

「――――夜分遅くお疲れ様です、お気をつけてお帰りください」
「―――あ、はい、そちらこそお疲れ様です」
「いえ、―――それでは失礼いたします」

近くに居た何故か箒を持った女生徒にすれ違いざまに頭を下げ
そのまま立ち去ろうとするが

「ちょ…………お待ちなさい!」

背後から聞こえた怒鳴り声に振り向くと
眉を顰めつつ問う

「…………何か御用でございましょうか?」

振り向いた先では見方によっては修道女にも見える制服に身を包んだ金髪の少女が背後に先ほどの女生徒を従えてこちらを睨んでいた
その女生徒は片手を腰に置いたままもう片方の手でノインを指差すと

「――何故無視するのですか!」
「…………私の名はベルマルク・ノインツェーンであり、機械人形と言う名ではございません
 ――――貴女はいきなり“人間”呼ばわりされて返事をするのかとお聞きしたいのですがいかがでございましょうか?」
「――――う……」

微妙に白けた視線と共に返された即答に少女はややたじろぐが
ややあってから腕を組みながら横を向き、横目でノインを睨みながら言う

「――フ、フンッ、名前だけは立派なことですわねっ」
「いえ、――独逸語に造詣が無いのなら致し方ない事ですが“ノインツェーン”と言うのは“19”と言う意味を示します
 よって、我が名はベルマルクシリーズの19番目と言う意味になります、―――立派な名とは言い難いと判断します」
「―――…むむむ…お黙りなさい!」

その女学生は返答に指を刺しながら怒鳴るという無礼で返すと
更にやれやれといわんばかりの表情で額に手を当て

「―――全く……主人が主人なら、従者も従者ということですわねっ、礼儀がなっていませんわ!」
「…………――――」
「(お姉さま……それはいくら何でも失礼ですよ〜……)」

半目のノインと微妙に涙目の少女の視線に気付かず
もう1人の少女は言葉を止めない

「大体、突然この麻帆良学園に現れた怪しさ満点の義腕男なんて信用できるものですか!
 おまけに巨大ロボットを所有している? まったく、冗談にも程があります
 それだけではなく、要注意生徒の超鈴音とも同郷の出身という話……まったく、類は友を呼ぶという奴ですわ!」
「――アルベルト様が怪しいという事は否定いたしませんが……物事を確認もせずに否定する事はあまりよろしい事ではないと推察します
 それに超様が何をなさったかは知りませんがそう言う言い方をされるのはお控えください、まがりなりにも主の友人とお呼び出来る方だと判断できますので」
「え、えっと…………主への悪口はOKでそのお友達へのはだめって何か変じゃないですか?」

ノインは無視し、軽く溜息をつくと

「しかし、信用できないと仰られるのは原因が有るので納得できないこともございません」
「――――ならいいですわね!?
 さあ!私たちと勝負なさ「―――ですがお帰り下さい」!?」
「名乗りもせずに主を無礼者呼ばわりする様な方に付き合う道理も義理もございません
 さっさと帰って寝るのがよろしいと推測します」
「なっ……!――貴女、自分の立場がわかってますの!?」

ノインはその言を無視し、溜めるように息を吸ってから口を開く

「存じませんお帰り下さい正直鬱陶しいと判断出来ます邪魔です第一実力を測りたいのならばアルベルト様と一緒に居る時に来るべきではないでしょうか私はその範疇に含まれませんがこの世界の“従者”とはそう言う物でしょうこれはアレですか2人がかりで私を一方的に攻撃する事で自分達の優位を示しておこうというせせこましい考えを実行しているのでしょうかだとしたら貴女達の脳のレベルを疑いますそう言う闇討ち染みた真似は敵に行ってくださいそれとも私共は敵ですか第一“力試し”されるのは私ではなくアルベルト様の筈ですがその辺りについて詳しい説明を頂きたいと希望しますがいかがでしょう?」

無表情のまま機関銃の様に放たれた言葉の羅列に数瞬言葉を失う2人
ノインはそんな2人を見つつ軽く溜息をつくと

「―――とりあえずお名乗りください、話はそれからだと断言します」

その言葉に少女2人は顔を見合わせると、ややあってから箒を持った女生徒が口を開く

「―――……えっと……私は佐倉愛衣と申します、こっちが……」
「――…………高音・D・グッドマンですわ」

礼儀正しく一礼する愛衣とは対照的に腕を組んだまま不満そうな態度の高音
そんな2人を無表情に見つめるノインに対し
不満そうな空気を全身から漂わせた高音が口を開く

「―――さあ、名乗りも上げて差し上げたことですし―――私たちと戦ってもらいますわよ!」
「…………―――」
「―――学園長達は信用しているようですが、私はあなた方を信用できません!
 裏で何を考えているのかわかったものではありませんし…………この高音・D・グッドマンが直々に見極めて差し上げますわ!!」

ノインは言葉と共に再度突き付けられた指を無視
一度目を伏せて首を振ると、視線を2人に向けなおし

「―――…………お1つ申し上げさせていただきますが学園長様はアレでもこの学園で最上の階級に位置する方だとお聞きしております
 貴女方は見た所通常の生徒であると判断しますが……
 ……――上が信じるといっているのに下が堂々とそれを否定するのはよろしくないと判断します」
「う……あうあう――」

ノインの半目に傍らの愛衣がたじろぐが高音はそれを無視し

「――ああもう一々うるさいですわ!
 闇の福音の自称・従者もそうですが、どうして機械人形というのは、そう口が達者なのですか!」
「―――否定する要素があります、茶々丸様は間違いなくエヴァンジェリン様の従者であると断言いたしますし
 さほど長いお付き合いではありませんが、茶々丸様の従者としての心構えは感服に値すると判断します
 更に訂正を加えさせて頂ければ茶々丸様はあまり口達者ではないと判断します
 それに、私は機械人形でなく自動人形であり、茶々丸様はガイノイドと言う区分となります
 我らは確かに人形なれど、それぞれにそれぞれの個性と自我がありますのでそれを尊重して頂きたいと要請します」

アルベルトがここに居たら驚くほどにノインの口調には有無を言わせぬものがある
しかし高音はどうでもいいとばかりに言い放つ

「フンッ、そんな物どうせ創った人間から与えられた仮初の自我にすぎません! あなたも『闇の福音』の従者もっ!」
「………………」

その言葉を聴いたノインの視線が2人に気付かれない程度に細まるが
それに気づかない高音は得意そうに笑うと

「フフッ、図星のようですわね!所詮人形はにん――「………―――お黙りください」――……!」

響くのは相変わらず淡々とした調子の声だが
その声音の温度はこれまでと比べ物にならない程冷たい
それを感じた愛衣が不安そうに高音を見るが、高音はそれに気付かないらしく
自分の言葉を遮られた事から来る不機嫌を隠しもしない表情を見せ

「何ですって?―――いい度胸ですわね、もう一度言って御覧なさい!」

対するノインもその声音に僅かな不機嫌を滲ませながら言う

「お黙りください、と申したのです
 ―――貴女は一体何様のおつもりだとお尋ねします
 ……『人形ごとき』? ふざけた言葉だと判断します」

それだけ言うと、これまでに無く鋭い視線で2人を射抜き

「――教えて差し上げましょう
 我らには人形故に出来ることがあると言う事を
 そして人形は人をただ真似ている訳ではないとここでお知りになるがよろしいでしょう
 ―――覚悟なさるのがよろしいと判断します」

言葉と共に向けられた強い視線に思わずあとずさる高音と愛衣
ややあってから威圧されたことを振り払うように高音が余裕ぶった声を上げる

「―――…………フフッ、――知っていますわよ、あなたの武器は何の能力も持たないただの槍!
 気や魔力を使えない機械人形のあなたが使う武器なんて、例え六本だろうと七本だろうと、魔法使いである私には通用しません!」

その言葉と同時に1体の影人形が出現、ノインと対峙するが
ノインはそれを無視し、ケースを道路に置くと懐から短剣状の神形具を引く抜くように取り出し
ゆっくりと引き伸ばしながら言う

「確かに、私が主に扱うのはこの神形具です
 数も6本、その情報に間違いはございません」

伸ばしきり、槍状となった神形具を軽く振ると
柄の中ほどの位置を持ち直すと軽く引き、再度言葉を紡ぐ

「ですが―――」
「「?」」
「その程度で私を止めるのは不可能だと申し上げさせて頂きましょう」
「「―――!!」」

言葉と同時に放たれた神形具の一撃はあっさりと影人形の頭部―――仮面のような顔を貫く
ノインは影から神形具を引き抜こうとするが、引き抜けぬまま影が左腕を振り上げる
しかし瞬時に新たな神形具が引き抜かれ、そのまま放たれた右薙の一撃が影を両断した
影の上半身が地に落ち、言葉を失う高音と愛衣にノインは神形具の先を向けると、変わらぬ無表情で告げる

「この程度でどうにかしようとお考えですか、……舐められたものだと判断します」
「―――…………ふ……ふふふ……、――ただの槍にしては、なかなかの威力です! しかし、これならどうです?」

高音が両手を振ると同時に3体の影が出現、ノインと対峙する

「――――かかりなさい!」

その声と同時にノイン目掛けて襲いかかる影達
対するノインは懐からもう1本神形具を引き抜き、それを手首の振りのみで伸ばし
冷静に影達を見据えると、突如何かに気付いたように口を開く

「私とした事が……名乗り返すのを忘れていました、迂闊と判断します
 では、―――アルベルト・シュバイツァーが侍女“絃槍人形(シュピーアブッペ)”ベルマルク・ノインツェーン――――参ります」

言葉と共に駆け出すノイン
一方高音と愛衣は……

「愛衣!何をしているのです!さっさとなさい!」
「は、はい〜!メイプル・ネイプル・アラモード!炎の精霊6柱 集い来たりて 敵を討て!『魔法の射手・炎の6矢』!!」

愛衣が呪文を唱えながら手の箒をノインに向けるのと同時に
その背後から6つの炎の矢が出現
ノイン目掛けて飛ぶ

「それが魔法というものですか、――しかし当たる訳には参りません」

迫る6つの炎の内、直撃弾となりうる2つを神形具で打ち払い、残りの4つは軽く身体を捻る事で避ける
道路に4つの焦痕が残るが、しかしそれを気にかける間も無く3つの影が時間差を持って襲い掛かる
しかし、ノインが表情を変えぬままに放った一撃は先頭の一体を貫き、ノインは神形具を引き抜こうと軽く体を捻るが――――

「―――――……っ!」

瞬間、ノインは神形具を離して飛び退き
それより一瞬遅れてノインの居た空間を後続の2体の腕が薙ぎ払った
ノインは軽く眉をひそめ

「――地味に腹の立つ連携だと判断します」

言いながらも更に動く
ほぼ同時のタイミングで襲い掛かって来た2体を軽く飛び越えると
振り向きざまの一撃を片方の肩へ叩きこむが、やはり影の半分ほどを斬り裂いた所で刃は止まる
だが、もう1体が振り向くより早く引き抜かれた4本目の神形具が影と地面を縫い付ける
それを一瞥し、懐から最後の2本を引き抜くノインに、軽い愉悦を含んだ高音の声がかけられる

「フフッ、よろしいのですか、私の使い魔一体に槍を一本づつ消費して?
 その『影』達は、私の魔力で作り出したもの。故に、この私を倒さない限り、いくらでも『影』は出てきますのよ!」

言葉の通り、高音の背後では7体の新たな影が出現し始めていた
ノインはそれを見て無表情に頷くと

「―――無駄に偉そうな解説ありがとうございます」

ノインは無表情のまま頷くと
手に持った神形具の内1本を高音に向け

「……では、―――貴女を狙うのは至極当然と判断します」

言葉と共に駆けだす
しかし高音は余裕の表情のまま愛衣に声をかける

「ふふふ、残念でしたわね、――愛衣っ!」
「す、すいません!―――メイプル・ネイプル・アラモード!目醒め現れよ 燃え出づる火蜥蜴 火を以てして 敵を覆わん!『紫炎の捕らえ手』!!」

愛衣が呪文を唱えると蛇の様にうねる紫色の炎が3つ出現、ノイン目掛けて飛ぶ
それをノインはバックステップで避けるが、外れた紫炎は弧を描き再度ノイン目掛けて襲い掛かる

「―――追尾式ですか」

言いながら今度は愛衣の方へ走り出すノイン
眼前を3体の影が塞ぐが、その先頭の肩を蹴り、その勢いで2体目を飛び越え、3体目の頭を踏み台にしてさらに跳躍する
だが、空中で速度の落ちたノインに先行する2つの紫炎が襲い掛かる

「――――っ!」

ノインは両手の神形具をそれぞれぶつける事で紫炎を相殺する
弾かれた神形具がそれぞれ明後日の方向へ飛ぶのを横目で確認しつつ着地し
その眼前に立つ愛衣の肩を掴むと

「―――へ?」
「ご自分でお喰らいなさるのがよろしいと判断します」

――最後の紫炎目掛けて問答無用で投げ飛ばした

「うひゃああああああああああ!!!???」

愛衣の悲鳴をノインと高音は無視し
高音は無手のノインを見ながら余裕の表情で笑うと腕を組み

「さあ、ノインさん……武器を失った状態でどうやってこの状況を切り抜けますか?」

しかしノインはあくまで無表情のまま

「失う?―――これは異な事だと判断します」

一息おくと、静かに言い放つ

「私が武器を失うことなどありえないと断言しましょう」
「……?」

そう言うノインの手に武器はない
しかしノインが視線を横に向けると、そこには先程置いたケースがある
ノインはそれを拾い上げ、高音に視線を向けると

「どうされました?来られないのですか?」
「―――ど、どこまでもふざけた事をいいますわね!ならばこれでお終いにして差し上げます!―――行きなさい!!」

高音の号令に従い、新たに5体の影が生まれ、先ほどの7体と共にノイン目掛けて襲い掛かる
それを視界に納めながらもノインは動かず、ケースの蓋を止める鍵を指の動きのみで外す
高音はそれに気付かず、影がノインの眼前に迫った所で勝利を確信した笑みを浮かべた瞬間

「―――――……!」

影達が襲い掛かる直前、何かが風を切るような音が響き
その直後にノインを覆った12体の影を何かが一閃
一拍を置いて全ての影が真っ二つに両断された

「――――へ?」

思わず呆けたような声を出す高音
突如響いた金属が鳴る音で我に返ると
その視線の先には―――

「ちょ、ちょちょちょちょちょ――――なんですの、そのバカみたいに巨大な槍は!?」

傍らに2つに分けたケースを放り投げ
目を伏せたまま槍を振り抜いた姿勢で立つノイン、その手には高音の言葉通りの物
白と灰、そして銀の三色で構成された金属製の大槍が握られていた
ノインは伏せていた目蓋を開けると静かな視線を高音に向け

「私専用の神形具ですが何か、――銘を“閃風(ブリッツヴィント)”と申します
 槍でありながら斬撃を主としておりますが――それ故に我が武器足りえると判断します」

言いながら再度目を伏せ、大槍――“閃風(ブリッツヴィント)”を振るノイン
その軽い振りとは裏腹にかなりの速度を持った大槍が空気を斬る
ノインが目を開け、再び視線を高音に向けると
彼女は顔を青ざめさせながらノインを指差し

「―――き、聞いてませんわっ! そんな反則的な武器を所持しているなんて!?」

対するノインは表情を変えぬまま、しかし幾分かの呆れを含んだ声音で

「教えておりませんので当たり前だと判断します
 ―――それに魔法使いである貴女に反則云々言われる筋合いはございません
 私を見縊った事を後悔しながら敗北を経験なさるのがよろしいかと」

ノインは閃風を1回転させ、穂先を高音に向けると

「では再度申しましょう、―――覚悟なさりませ」

言葉と共に閃風を1振りし、駆け出すノイン

「ひ!?―――う…『影よ』!―――……行きなさい!」

高音の声に従い7体の影が出現し、ノインに覆い被さる様に襲い掛かるが――

「壁にもならないと判断します」

3体の影が一撃で両断され
ノインはその勢いで一回転し、そのまま放たれた一撃がその後ろの4体も断つ
その光景を見て流石に顔を蒼白にする高音だが
虚勢を張るように両手を広げると

「こ、こうなったら、私も本気の本気というものを出して差し上げます!
 光栄に思うことです、気や魔力を持たない『機械人形』相手に、この術を使うことを!
 いきますわよっ、操影術 近接戦闘最強奥義!!『黒衣の夜想――』――」

高音が呪文を唱え終わる寸前、その眼前にノインが飛び込む

「――っ!!?」

ノインは驚愕の表情を浮かべる高音を無視し、閃風の峰を高音に叩き込む
高音は魔力によって編まれた鎧のような物を霧散させながら吹き飛び、あっさりと気絶する

「―――いい加減になさるのがよろしいと断言します
 普通そう言う隠し玉は相手の攻撃が届かない位置まで離れた上で使うのが基本かと
 それを何ですか貴女は、―――実戦なら真っ先に死ぬタイプだと判断します、
 …………聞こえておりませんか?」

当然返答は無い
ノインは頷くと閃風を払い、

「―――当然と判断しましょう」

何気なく愛衣の方を向くと

「…………何故服が脱げているのでしょうか?」

視線の先では何故か素っ裸に服を剥かれた愛衣が箒を抱えて目を回している
さっきの紫炎にはそういう効果でもあったのだろうか?

「―――何にせよ避けて良かったと判断します」

1度頷いてから高音の方に振り返ると

「…………何故こちらも脱げているのでしょうか?」

その言葉通り、閃風で殴っただけの筈の高音の服まで綺麗に剥けている
ノインはしばし思案すると、納得したように頷き

「―――おそらく妙なご趣味があるのだと判断します」

一言呟くと懐から縄を取り出し
妙に慣れた手つきで高音と愛衣を縛る
そして周囲に散らばる神形具と2つに割れたケースを回収、縮めた上で懐にしまうと
閃風の先に2人を引っ掛け、そこから歩き去る……


約10分後


再びアルベルト達の居る通り
先程と同じような姿勢で夜空を見上げていたアルベルトだが
ふと何かに気付き、軽く笑いながら声をかける

「遅かったなノイン、――何かあったか?」
「見れば分かると判断しますがどうでしょうか」

その声に振り向いた2人の視線の先には閃風を肩に担ったノインが映る
そして、当然大槍の先にある蓑虫のような影に2人の視線は向く
胴体は過剰なまでにぐるぐる巻きにされ、顔だけ出して気絶しているのは……

「……高音さんと………………?」
「佐倉愛衣様と申されるそうですが」
「……何したのでござるか……?」
「私への無礼、自動人形への侮辱、ついでにアルベルト様への暴言
 ―――主にこちらの方の言動が大変私の怒りを誘う物だと判断しましたので」
「俺はついでか貴様」

ノインは無視し、閃風を垂直に立て、柄尻を地面にめり込ませると
吊るされている高音を無機質な視線で見ながら言う

「おまけに自分の実力もわきまえずに仕掛けてきましたので対応として軽く制裁を」
「ははは、お前がそれを使うとなれば相当だろう、…………絶対に軽くでは無いな」

苦笑を浮かべるアルベルトの視線は閃風に注がれている
穂先にあたる部分には巨大な刃があり
槍と言うよりは薙刀に似たそれを竜の頭を模した白と灰の装甲が覆っている

「いえ、この方の生み出す影人形とやらに通常使っている方をを封じられたので使用いたしました
 何体か纏めて叩き斬ったら呆然としてましたが」
「成程な」

はははと笑いながらアルベルトは慣れた動きで高音と愛衣を下ろすと楓に放り投げ

「桜咲、長瀬、すまんが俺たちはまだ色々とやることがあってな
 どうせあの爺に報告にでも行くのだろう? ついでにこの2人を頼む」
「あ、わかりました…………えっと…………」

刹那の視線は大槍を持つノインに向けられている
ノインの体格では明らかに扱いきれない大槍を軽々と取り回している事が気になるのだろう

「…………」

その視線にノインは少し考えると、何を思ったのか槍を刹那へ放る
槍は放物線を描いて飛び、それを見た刹那が慌てて受け取る

「え!?わわわ…………あ……?」
「お分かり頂けたようで幸いと判断します」

不思議そうに槍を回してみる刹那とそれを見て一礼するノイン

「どうしたでござるか刹那?」
「あ、ああ…………この槍………軽い……?」
「ござ?」

高音と愛衣を両脇に抱え、頭に疑問符を浮かべながら問うてくる楓に
自分の手の中にある物の存在が心底信じられないような声音で言う刹那
槍を構成する物体は間違いなく金属のそれであり
どう見ても“軽い”と言う言葉とは無縁だろう

「はは、まあそう言う事だ」
「はい」

呆けた表情の2人を見て楽しそうに笑うアルベルトと
刹那から槍を受け取り、それを片手で持っていた銀色のケースに収め一礼するノイン

「ではな桜咲、長瀬」
「また明日お会いいたしましょう」
「――あ、はい」
「また明日、でござる」

アルベルトとノインは頷き
そのまま踵を返すと夜の闇の中に消えていく




さて、青年とその侍女の実力の一端は見えただろうか
彼が持つ竜の皇帝の名を持つ義腕と飛翔する皇の名を持つ剣
そして侍女の持つ閃光と旋風の意を持つ大槍
この2つの力を用いこれからも続く異世界での物語

まだまだお楽しみあれ




8th Story後書き

どうも、『魔法都市麻帆良』8thStory更新です

ノインの持つ大槍こと“閃風(ブリッツヴィント)”は量産型と違い完全に彼女専用です
さて、先に言っておきますがノインは女型自動人形です、しかも侍女ですよ?
何でこんなに漢らしくなってしまったんでしょうか?

なお、“閃風”はコモレビさんに字名の“弦槍人形(シュピーアブッペ)”は詠深さんに考えていただきました
お2人とも真にありがとうございます
そして高音の台詞はとある方に協力頂きました
こちらもこの場を借りてお礼申し上げます

では、これからもよろしくお願いします

それでは

〈続く〉

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