『魔法都市麻帆良』
The 4th Story/仙人都市の少女


深夜の麻帆良学園学園長室

その中では軍服を着た青年が右腕の巨大義腕で1人の少女をぶら下げている
少女は額を抑えながら唸り、更には抗議の声を上げるが
それを周囲の人間にことごとく無視されて目の幅涙を流している
―――哀れである

「―――さて聞こう、貴様は
万景街都(オールフォースシティ)――北京の出身か?」
「――そ、それより降ろして欲しいネ……」
「ふむ」

少女の声を聞いて
割合素直に、青年――アルベルトは少女――超鈴音を床に降ろす
超が立ち上がるのを見て、再度問う

「では――改めて聞くが貴様は万景街都――北京の出身で間違い無いな?」
「疑問が確認になってるヨ……?――まあその通りだがネ
 そう言うアナタはダレ……、!!―――独逸G機関の人間が何でこんな所に居るネ!?」

アルベルトの疑問をあっさりと肯定し、逆にアルベルトの素性を聞こうとした超だが
竜と獅子の描かれた腕章に目が行った所でアルベルトの正体を看破したらしく指を突きつけながら叫ぶ
対するアルベルトは軽く笑うと

「――はは、まあ居るのだから仕方あるまい?
 居る理由を言えと言われれば『空間転移の実験に巻き込まれた』と言わせてもらうがな」
「―――……原因はワタシと同じかネ……」

アルベルトの言葉を聞いて呆然とした様子で呟く超

「―――何だ、貴様もか」
「ま、まあ…………ってもう事情を話してるのカ!?」

その呟きを聞いて話しかけてきたエヴァンジェリンの言葉の内容に驚き
アルベルトへ怒鳴るように問う

「―――? ああ、割とあっさり受け入れられたが?」

アルベルトの返答に、がっくりと膝をついてブツブツと何か呟きだす超
これまでのワタシの苦労は…………?とか呟く超をアルベルト達はやはり無視

「しかし……随分と濃いキャラクターばかり現れるなこの世界は
 それなりに常識を持つ身としては付いて行けなくて心苦しいが」
「一度鏡見て失せろ馬鹿者」
「そうじゃのう、君はもう少し自分自身を見つめなおしたほうがいいぞい」

その言にアルベルトは不機嫌そうな表情を見せると

「む―――何だ、随分と酷い事を言う人間が居たものだな」
「後で胸に手を当てて自問自答したらどうだい
 ――あ、今はやらなくていいよなんか無意味に被害広がりそうだし」
「もう少し周りの状況を見て話されたらいいのではないでしょうか?」
「皆様の言う通りと断定します、アルベルト様はもう少し考えた上で口を開いて欲しいと進言します」
「満場一致で俺の人格否定か貴様ら」

皆は順当に無視したが
さして堪えてなさそうなアルベルトは超の方へ向き直ると

「―――とりあえずそれは置いておいて
 まあ、お前の気持ちも分からんでもない
 ―――いきなり『異世界に来た』なんて言える訳は無いな?」
「…………いきなりバラしたヒトに言われたく無いネ……」

これまで散々無視されたせいか超の機嫌は悪い
床に体育座りで座りながら、顔だけを傾けてアルベルトをジト目で睨んでいる
しかしアルベルトは全く動じずに

「ははははまあ気にするな」
「………………気にするに決まってるネ」

超はアルベルトの言葉に即答し、そのまま俯こうとするが
やはりそれでは話が進まないのだと思ったのだろう
嫌そうな表情で立ち上がり、話し始める

「ワタシは向こうの世界で時空間転移の研究…………他時間、他次元への“門”の研究の手伝いをしていたネ
 ある時試験的にその“門”を開こうとしたのヨ、でも………」
「失敗したのか?」

エヴァンジェリンの言に超は苦笑を浮かべながら頷くと

「そうヨ、―――あくまで実験で、危険は無い筈だたネ
 でも何故か“門”は暴走を開始したネ、ワタシはたまたま門の一番近くに居て……」
「巻き込まれたのかい?」

超はタカミチの言葉にも頷き

「―――目が覚めたらここから少し離れた町に居たヨ
 仕方ないから…………」

超は何故か言いよどみ
やや蒼い顔で明後日の方向を見る

「どうした?」
「……………」
「「「??」」」

アルベルト達が首を傾げるのも構わず
超は蒼い顔のまま一言だけ搾り出すように答える

「………すまないがこれ以上は聞かないで欲しいネ……」
「「「「「??」」」」」
「(戸籍偽造して入学したなんて知れたら絶対ロクな事にならないネ!
 ―――…………ま、まあ電詞都市 D.T.に1年滞在して獲得した技術だからばれないとは思うがネ…………)」

内心では冷や汗を大量にかきながら勤めてそれを表に出さないようにしている超にアルベルトが声をかける

「―――おい、……――確か超鈴音だったな?1つ聞きたいのだが」
「なんネ?確か『竜風騎師』の…………―――何だったかネ?」
「アルベルト・シュバイツァーだ
 ――と言うか貴様、何故字名を知っていて本名を知らんのだ……?」

アルベルトの半目を受けてややたじろぐ超だが
苦笑いを浮かべて頭を掻くと

「いやあ、転移用の実験紋章を積んだ重騎の操者がそう言う字名で
 更には第五竜帝を装備していると聞いた事があるだけヨ
 で、聞きたい事は何ネ?」
「貴様は……―――、まあいいか、さっきは何故ここに飛び込んできたんだ?流体反応がどうとか言っていたようだが」

疑問の視線を受けた超は苦笑いを濃くしつつ言う

「あ、そうだったネ、――――実は元の世界に帰る手掛かりを探すために流体の反応を調べる装置や
 魔力を流体に変換する装置とか色々作ったのだガ……
 ――実は使い所があまり無いのヨ
 最近ではスペースの無駄と思って捨てようかとさえ考えていた所なのだがネ……
 いきなり流体の反応を感知した物だからビックリして来てしまた訳ヨ」

いつの間に……というアルベルトとノイン以外の面々の視線を無視し
にゃはは〜、と笑いながら手を振る超
それを聞いたアルベルトはふむと唸り

「流石と言うべき技術と知識だな
 ―――仙人の流れを汲む都市の出身だけはある」
「仙人だと?」

アルベルトはエヴァンジェリンの声に頷き

「一部の中国系都市は特性として住民全員に身体能力の強化が施されていてな
 更に万景街都―北京はその身体能力に加えて仙人としての知識まで加わっている超人都市だ
 その反面俺の使う神器や風水五行との相性は悪いらしいがな」
「ほう……」
「ふむ……」
「へぇ……」

三者三様の視線に超はややたじろぐと
不服そうな顔をアルベルトに向け

「ちょ……超人都市は酷く無いかネ?」
「やかましい、神器や風水五行を使わずに重騎と同等戦力扱いされる連中の呼び名なぞ超人で決定済だ阿呆」
「う…………、ま、まあ確かに……ってそっちのヒト達はいくらなんでも引きすぎじゃ無いかネ……?」

エヴァ、タカミチ、近右衛門の3人は壁にぶつかるほどの勢いで超から遠ざかっていたが
不満全開の超の言葉とジト目の視線から目を逸らしつつ元の場所に戻ると
近右衛門が漫画汗をたらしながら口を開く

「ま、まあとりあえず、超君はこれまで通り一般生徒として扱う事にしておくかの」

その言に頷くのは超でなくアルベルト
彼は顎に手を当てて頷くと

「ああ、それが利口だ
 こいつ自身のスペックがどの程度かは知らんが、俺の知る万景街都の出身者と同様ならば……
 ……今暴れられたら止める事はできないだろうな、緑獅子・改を使えるならばまだわからんが」
「そこまでの力があるのかの……」

近右衛門達の驚愕の視線にアルベルトはああと頷き

「――まあそう言う事だ
(流石にあの能力はバラさん方がいいだろう、仮にも同じ世界の出身だしな)――な?」

内心で何かを考えつつ、アルベルトは超に確認を取る

「(あの能力は流石に黙っててくれるみたいネ……感謝するネ)
 ま、まあ、これまで通りにしてくれるならありがたいネ」

こちらも内心で何かを考えつつ、アルベルトの言葉に同意する
そんな超をタカミチは驚きの視線、エヴァンジェリンは驚きと興味が半々な視線で見る
そして近右衛門は―――

「―――ふうむ、…………超君、確か君が私的に使っとる施設に倉庫があったの?」
「?、確かに超包子の食材置き場に幾つか借りてるガ……それがどうしたネ?」
「いや、アルベルト君の重騎……確か緑獅子・改じゃな、それを置くスペースとして君の倉庫を貸してくれんかの?」

近右衛門の言葉に超を首を捻り

「う〜〜ん…………それはハカセに相談してみないと分からんネ」
「そうかの?」
「そうネ」

頷いた超を見て近右衛門はふむと唸りながら髭を撫でると

「ならばその件も保留じゃな
 ではアルベルト君、詳しい事は明日話すでの、今日はこの辺で終わりとするぞい」
「ああ、わかった」
「―――超君も帰っていいよ、細かい明日じっくりと話した方が良さそうだしね」
「わかたネ、では失礼するヨ」

超はアルベルト達に軽く手を上げ、いそいそと部屋から出て行く

「―――では私達も行くぞ」
「ん?―――ああ、済まんがエヴァンジェリン」
「何だ?」
「緑獅子・改から回収しておきたい物があるのでな
 先に寄っても構わんか?」
「―――ふん、まあいいだろう、――茶々丸、行くぞ!」
「ノイン、俺達も行くぞ」
「イエス、マスター」
「承知いたしました」

アルベルトとエヴァンジェリンがそれぞれの従者へ声をかけ
4人は連れ立って扉へ向かう
扉の辺りでアルベルトが振り向き

「では、―――これから世話になるな、近右衛門学園長、タカミチ教諭」
「うむ、それではのうアルベルト君」
「ああ、ではまた明日」

アルベルトはああと頷き、エヴァンジェリンと茶々丸に続いて部屋から出る
最後にノインが2人へ一礼し、扉を閉めて出て行く

「ふうむ……」
「どうしたんですか?」

4人が居なくなった部屋で
何かを思案するように呟いた近右衛門にタカミチが問う

「……あの竜帝と呼ばれとった義腕じゃがの」
「ああ、下手したらkm単位の消滅を引き起こすと言っていたアレですか、それがどうしたんです?」

その言葉にタカミチが視線を鋭くしながら言うと
近右衛門は自身の頭を軽く撫で

「いや、アルベルト君の言っとる事が本当かどうか確かめるために心を読もうとしたんじゃが……
 その瞬間、あの義腕からなにやら妙な気配と殺気がしてのぅ……」
「―――殺気ですか?僕は何も感じませんでしたし……エヴァも気付かなかったようですが?」
「うむ、刃のような殺気をワシだけにぶつけてきおったよ
 それに気配も単なる妖怪や式神の類とは違うようじゃった
 明らかにあの義腕には何か宿っておる、それも相当に特異な何かがの」
「そうですか?」

疑問の声を上げるタカミチ
対する近右衛門は重々しい表情で頷くと

「うむ…………高畑君
 君には少しの間彼等の監視を頼む、少しでも変わった事があれば逐次報告してくれるかの」
「わかりました、では僕も失礼します」

そう言ってタカミチも部屋から出て行き
1人残った近右衛門は誰ともなしに呟く

「全く……アルベルト君とノイン君、そして超君
 色々と予想外な事ばかり起こるのぅ
 ま、それはそれでおもしろそうではあるがの、フォフォフォ」

楽しそうにひとしきり笑うと、近右衛門も部屋から立ち去る



さあ、まだまだ話は続く
人より強き力を持つ少女
風や雷、光や力を生み出す音楽
この世界の物とは全く違う物達
それらが参加し、物語は紡がれていく

とくとお楽しみあれ




4th Story後書き

「魔法都市麻帆良」第4話更新です
ちなみにアルベルト本人は常識云々言えないの理解した上で言ってます
つまりアルベルトは『非常識人の自覚があり、それでもわざと常識人ぶっている非常識人』な訳です
…………改めて考えてみるとコイツ人間として最悪の部類なんじゃないだろうか……
まあ、かなり主人公らしくない主人公なのは間違いないでしょう

ともかく、これからもよろしくお願いします

それでは


〈続く〉

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