『魔法都市麻帆良』
The 2nd Story/槍撃の侍女



巨大な学園都市……麻帆良学園
その郊外に広がるこれまた巨大な森の中に在る開けた場所
そこでは一般の人間が見たら目を疑うような現象が発生していた

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け!『魔法の射手・連弾・氷の17矢』!」

金髪の少女が呪文を唱えると背後の空間より17本の氷の矢が出現し
右腕の部分に巨大な義腕をつけた軍服の青年に襲い掛かる

―――アルベルト・回避技能・連続発動・回避・成功!

青年はそれを背後へ飛びながら避けることで対処
矢は地面へとぶつかり地面を凍らせるが、青年には1本たりとも命中しない

「(はぁ、―――何故こうなったのだろうな?)」

バク転を終え、エヴァンジェリンを油断無く見ながら
アルベルトはその言葉を胸中で呟く

「考え事などしている暇は無いぞ!?」

エヴァンジェリンは手に持っていた試験管をアルベルト目掛けて投じ

「『―――氷爆!!』」

―――アルベルト・回避/脚術技能・跳躍・連続発動・成功!

自分の周りで起こる氷の爆発を不規則にジャンプする事で回避する

「私達から逃れる事はできんぞ!?さっさと諦めて私に血を寄越せっ!」
「断らせてもらうと言っただろうが馬鹿か貴様!
(ああそうだった、あの吸血鬼―――確かエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと名乗っていたな
 何を血迷ったか『とりあえずお前の血を私に寄越せ』と言い出したのだったか
 断ったら襲ってくるとは……喧嘩っ早いにも程があるぞ?)」

考え事を行ないながらも回避を続けるアルベルトだが……
その懐へ緑色の髪をした少女が潜り込みパンチを繰り出してくる
アルベルトは地を蹴り、背後へ跳ぶ事で避けるが
絡繰茶々丸と名乗ったその自動人形がさらに追撃を仕掛けてくる

「―――失礼します」
「ぐっ!?」

そうアルベルトに思わせるだけの速度を有し
更には攻撃も的確な茶々丸に、アルベルトは内心舌を巻く

「むぅ、中々のスペックだ、――良い技師に造られたようだな」
「お褒めに預かり光栄です」

彼の世界で数々の自動人形を見てきたアルベルトを感嘆させる程の性能を茶々丸は有していた
しかしアルベルトの声に応えながらも攻撃の手を一切緩めない茶々丸だが

「―――はっ!」
「――!?」

―――アルベルト・脚術技能・発動・足払い・成功!

アルベルトは姿勢を落とし突撃してきた茶々丸の足を払い

「おぉっ!」
「!」

―――アルベルト・義体/腕術技能・重複発動・掴み・成功!

更に姿勢を崩した茶々丸の胴を竜帝で掴み、その勢いのまま一回転

「――――だぁっ!」

―――アルベルト・防御/体術技能・重複発動・投げ飛ばし・成功!

その勢いを殺さぬままエヴァンジェリン目掛けて投げ飛ばす

「む!」
「マスター!」

茶々丸はかなりの速度で宙を飛び
その延長上に居たエヴァンジェリンに激突する
衝突の直前エヴァンジェリンが張った障壁のような物が茶々丸を受け止め
茶々丸は静かに着地する

「―――やれやれ、随分と個人の力が高い世界のようだなここは……」

アルベルトの視線の先には損傷どころか汚れさえ無い2人の少女が居る
アルベルトにも怪我は無いがこの場において不利なのが彼である事はもはや明確だろう
ふぅ、と内心で溜息をつき、アルベルトは口を開く

「―――おい、確か……エヴァンジェリン?少しいいか」
「何だ?」

警戒こそ解いてはいないが返事を返すエヴァンジェリン
とりあえず話を聞いてはくれるか、そう判断したアルベルトは重ねて口を開く

「―――諦めてくれないかと言いたいのだがどうだろうか」
「却下だ」
「……即答か貴様」

少々不満そうな顔をしながらもアルベルトは言葉を重ねる

「無理か?」
「無理だ」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ」
「何を言ってもか?」
「何を言ってもだ……ってしつこいぞ貴様!」

流石に鬱陶しかったのか怒鳴りだすエヴァンジェリン
対するアルベルトは苦笑を浮かべつつ頭をかくと

「いや俺としては血を吸われると言うのは勘弁願いたいわけだがどうにかならんだろうか」
「――なあに安心しろ、お前には個人的な興味があるからな、殺しはせんさ」
「いやそういう問題ではないと抗議してみるがどうだろうか」

エヴァンジェリンは無視した
その間にもアルベルトの視線は逃げ口を探して動き回るが
エヴァンジェリンと茶々丸に隙は無く、逃げることは難しいだろう

「そう言えば貴様避けるばかりだな、さっきの風は使わんのか……?」

彼女の視線はアルベルトの右腕……竜帝に注がれている
自分の魔法を打ち消したあの風を使わない事に疑問を覚えているのだろう
その言にアルベルトは軽く溜息をつき

「仕方あるまい?貴様の使う『魔法』だったか、それと違って俺の神器は発動にややタイムラグがあるんでな
 それに貴様は600歳のババアだろう?老人は労わらんとな」
「誰がババアだ!」

怒鳴るエヴァンジェリンに対してアルベルトはニヤリとした笑みを浮かべると

「くくっ、さあ誰だろうな?」
「貴様……っ」
「…………っと、んな事言っている場合では無いな
 ふむ、そうだな……」

凄まじい視線を向けてくるエヴァンジェリン
アルベルトはそれを無視し、顎に手を当てて思案すると
ややあってから仕方無さそうな表情で

「―――血を吸わせない変わりに俺の話せる事は全て話す、と言うのはどうだ?」
「―――貴様は……、―――……ふん、まあいざとなったら闇討ちでもして無理矢理吸えば良いか」

物騒な事を隠しもせず言うエヴァンジェリンだがアルベルトは無視した
かなり不服そうなエヴァンジェリンだが仕方なさそうに踵を返すと
後ろ向きのままアルベルトに声をかける

「ついて来い、ジジイに会わせてやる」
「ジジイ?」
「近衛近右衛門学園長、この学園都市―――麻帆良学園の理事長です」

アルベルトの何気ない疑問に茶々丸が答える
アルベルトはその素早い反応に感心しつつふと上を見て何かに気付くと
楽しそうな笑みを浮かべ、その表情のまま顎に手を当てると

「それはありがたいのだが…………
 エヴァンジェリン、一つ忠告をくれてやろう」
「何だ」

こちらに振り向かぬまま声を発すエヴァンジェリンに苦笑するアルベルト
しかしその苦笑を意地の悪い笑いに変えて言う

「うむ、―――頭上注意だエヴァンジェリン」
「はあ?……一体何………」

告げられた言葉にエヴァンジェリンが怪訝そうな表情で振り向こうとすると
突如エヴァンジェリンの四方を囲むように4本の槍が垂直に突き刺さる

「………――なぁ――――!」

茶々丸が突然の事に反応のとれないエヴァンジェリンを守るように立つのと同時に
片手に降ってきた物と同型の槍を持った侍女がアルベルトの前へ降り立ち、一礼する

「――アルベルト様、遅くなりまして申し訳ありません」
「ノイン、――何か分かったか?」
「はい、――現時点で分かった情報を報告いたします
 この地点から東に約7km程離れた所に都市が在るのを確認いたしました
 その都市に合致する情報が私の記憶に存在しない事と
 流体、そして遺伝詞が存在しない事からここは異世界だと推測します」
「そうか、――この短時間で調べたにしては上々だ、ご苦労だったなノイン」
「光栄だと判断します」

ノインが一礼して下がり
アルベルトはエヴァンジェリンのほうへ向き直る

「さて――大丈夫かエヴァンジェリン」

やや怯えたような表情のエヴァンジェリンだがすぐに持ちなおすと
アルベルトから一歩引いた位置に立つノインを睨みながら問う(四方を槍に囲まれているので威厳も何も無いが)

「――いきなり何をする!?」
「申し訳ありませんが僅かながら害意を感じたので威嚇の意味を込めた一撃を送らせて頂きました」
「む……」

押し黙るエヴァンジェリン
実際害意に近い感情を持っていたのは間違い無いので反論はできなかった
そしてノインはアルベルトの方へ向き直ると

「それでアルベルト様、こちらの方々は一体何なのですか
 またろくでもない事をしでかしたのですかご自重くださいと前々から言っているのをお忘れになりましたか」
「おいおい流れ作業的に俺が悪いことになってるぞ、何時もの事だが
 こいつ等はこの世界の魔法使い―――神術師のようなものか、それとその従者だそうだ」

ノインは頷き、エヴァンジェリンと茶々丸のほうへ向き直ると一礼し

「そうですか、では改めて自己紹介させて頂きます
 私はアルベルト様の侍女を勤めております、ベルマルク・ノインツェーンと申します」
「そうか、私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという
 こっちは私の従者の―――」
「絡繰茶々丸です、よろしくお願いします、ノインツェーンさん」
「はい、エヴァンジェリン様に茶々丸様、よろしくお願いいたします
 私の事はノインとお呼び頂ければ幸いと判断します」

腕を組んだまま傲岸不遜に挨拶するエヴァンジェリンと礼儀正しく一礼する茶々丸
ノインはそんな対照的な2人の様子も特に気にすること無く
槍を縮めて懐に収め、一礼を返すと
エヴァンジェリンに近づくと、その周りに刺さった槍を引き抜き、同じように縮めて袋に収める

「こいつは俺の侍女兼戦闘補佐役でな
 まあ、立場で言えば俺の副官か…………いやパートナーか?いやいや……」
「…………アルベルト様、最初に言った侍女兼戦闘補佐役で正しいと判断します」
「そうか?」
「はい」

冷静にツッコミを入れられたアルベルト
特に気にすることなく2人のほうを向き、軽く肩をすくめると

「―――まあ、そんな感じだ」
「―――クククッ、まあ、貴様の従者らしいと言えばらしいな、面白い」

クククと笑うエヴァンジェリン
後ろでは茶々丸がどこかへ連絡を入れていたらしく
軽く頭を下げてから言う

「―――マスター、学園長に連絡が取れました、アルベルトさんとノインさんを連れてこちらへ来て欲しいそうです」
「――緑獅子・改はどうしたらいい?」

エヴァンジェリンに報告する茶々丸にアルベルトが問う
問われた茶々丸は少々困ったような表情を造ると

「流石に学園内では目立つので然るべき準備ができるまではここに置いておいて欲しいそうですが……」
「む―――雨ざらしは避けたいのだがな…………」

苦い表情で緑色の巨人を見上げるアルベルト
それを見たエヴァンジェリンは興味深そうにその巨人を眺め

「―――ふむ、随分と大事な物のようだな?」

エヴァンジェリンの声にアルベルトは振り返ると向けると苦笑を浮かべ

「俺に任された騎体だからな、―――大事に扱うのは当然の事だ」
「ククク……、まあ、そう言う気持ちも全く分からない訳ではないがな」
「はは、そうだろう?」

そう行って再び緑獅子・改を見上げるアルベルトだが
溜息をつきつつ視線を戻し

「まあ、そちらの言う事にも一理ある
 こいつには悪いが一晩我慢してもらうとしよう」

アルベルトの台詞にエヴァンジェリンはそうかと頷き

「―――ではついて来い
 少々癪だがジジイを待たせるわけにもいくまい?―――できるなら一生待たせてやりたいがな」
「後半無視して言うが了解した―――では行くぞノイン」
「はい」
「茶々丸、私達も行くぞ」
「イエス」

4人の人影はそこから歩き去る
後には随所にマントのような布を纏った緑色の巨人が残される


―――道中―――

「―――そう言えばエヴァンジェリン」
「何だ?」
「お前は600年を生きた吸血鬼であっているな?」
「?――そうだが、―――それがどうした?」
「その吸血鬼が何故こんなところにいるんだ?会話から推測するに警備員でもしているようだが」
「―――…………私にも色々あるんだよ……、」
「――そうか……、
 ―――すまない悪かったもう聞かんからそんな恨みがましげな目で俺を見るな何故か知らんが妙に怖いぞ」
「――ふん」

上記のような会話が繰り広げられたとか―――まあどうでも良い事である




義腕の青年と吸血鬼の少女
同じ人ならざる身の従者を持つ2人はこれからいかなる物語を描くだろうか?
そして森の中に佇む緑色の巨人
それを託された青年の居た世界とは?
次からがこの物語の本格的な始まりとなるだろう

まだまだ続く異世界での物語、とくとお楽しみあれ




2nd Story後書き

「魔法都市麻帆良」第2話更新です
茶々丸がノインに気付かなかったのはアルベルトに気を取られていたと言う事で一つ
あとノインが使っていた槍は伸縮が可能です(小説版OSAKAに出てくる崎の槍がモデルです)
さらに言えば常時6本携帯しています
ですがこの槍×6はノインの愛用武器ではありません
本当の武器の登場はかなり先になると思います

遅筆ですが気を長くしてお付き合いいただけると幸いです
それでは


〈続く〉

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