「カラオケ……ですか?」

 人気の少なくなった教室の中、赤毛を頂いた少年、ネギが問う。
 答えるのは長髪を左右で縛り、腰まで垂らしているアスナだ。

「そ。一学期の打ち上げでね」

「でも、僕これから師匠の所で修行が――」

 ネギの言葉に、アスナは溜め息を吐き、

「あの別荘ならいつ行っても同じでしょ? ほら、いいからいいから」

 うわぁ、という声を伴って、ネギの首を抱え込んだアスナが教室を出ていく。
 その後を着いていくのは、黒髪の二人だ。
 一人は肩にかかる程度の長さで、サイドポニーにまとめている。

「私、カラオケ初めてです」

 そうなん? と京都訛りで笑みを向けるのは絹のような黒髪を持つ木乃香だ。
 一行は校舎を出ると、日差しという夏の洗礼を浴びた。

「しかし、ええ天気やなぁ」

 木乃香は空いてる手を目の上にかざしながら呟くと、もう一方でカバンを真上へ放り投げ、

「――夏休み日和やっ」










 夏休みに突入した学園都市内はどこも喧騒に満たされていた。
 その中でも、カラオケ大会と称して集まった3年A組のメンバーは一際賑わっている。
 集まったメンバーはみんな私服に着替えており、

「じゃあお店入るよー。受付は……誰にしてもらおっか?」

 赤茶の髪をアップにまとめた少女、朝倉が全員を促すように声を上げる。

「あぁ。この店なら私がドリンクの引換券持ってるよ」

 そう一歩前へ出たのは、褐色の肌をした長身の女性だ。

「あ、そう? じゃあ龍宮さんお願い」

 あぁ、と龍宮が受付に向かい、その後ろを他のクラスメイト達が店の奥へと入っていく。
 部屋は15人用の大部屋を2部屋あてがわれた。
 その内の一つ、担任のネギが入った部屋にはネギ達四人に加え、図書館探検部の三人、麻帆良祭で活躍したでこぴんロケットの四人などがテーブルを囲んでいた。

「ドリンクお持ちしましたー」

 そこに店員が入り、トレイに載せた飲み物を配っていく。
 飲み物は鮮やかな青色をしており、炭酸特有の泡が立っている。
 あれ? と首を傾げたのは刹那だ。

「これって――」

「それじゃー皆さん一学期お疲れ様でした! 乾ぱーい!!」

「乾ぱーい!!」

 刹那が疑問を口にするより早く、みんなが一斉にグラスを煽った。










 3年A組のみんながカラオケに入り、一時間が経過しようとしていた。

「イェー!」

 頬を朱に染めた柿崎が頭上に掲げたマラカスを振り回し、

「マグロ一本釣りイィィ!!」

 オーバーアクションと共にハルナがシャウトを上げる。
 その横では夕映とのどかが赤くした顔を左右にゆらゆらと揺らしている。
 ただ一人、刹那が眉根を寄せてグラスを見つめ、再度疑問を零す。

「……やっぱりこれっておさ――」

「んー? せっちゃん、どうしたん?」

 そこへ、間延びした調子で木乃香が肩へ寄りかかってきた。

「お、お嬢様!?」

「なぁせっちゃん、うちら次これ歌わへん?」

 そう言って木乃香が指し示したのは、前に学生寮で聴かせてもらったCDの曲だった。
 元はアニメの曲らしいが、歌詞が気に入ったので何度か聴いて覚えている。

「――は、はい! お嬢様」

 刹那の返答に木乃香は笑みを濃くし、リモコンに手を伸ばす。が、

「よし! じゃあ次私『君は〇の為に死ねるか?』で!」

「ならこっちは『君の青春は〇いているか?』で行きましょう!」

「何々? 説教系ソング!? そしたら『〇ガサターンしろ!』も忘れたらダメでしょう!!」

 刹那達の前に、立て続けで3曲が入った。

 ……なんとも歌いにくい流れに……!

 10分ほど経った後、刹那達の順番が回ってきた。
 ポップ調のイントロが流れ始め、刹那は照れと緊張がないまぜになった表情を浮かべている。が、

「せっちゃん、そんな固くならんでも大丈夫やって」

 木乃香の苦笑と共に送られた言葉で、自分の頬が緩んだのがわかった。

 数秒間の前奏の後に始まるのは――

 和訳すると、『決して諦めない』という題名になる歌。

 心を強く持ち、日々を胸の内で大きくなる夢や希望を抱いて、

 幼い頃と同じ、大切な大切な想い出を重ねていこうという誓い――――



「ぬるいわー!!」

 歌が終わると同時、ハルナがグラスでテーブルを強く叩いた。

「うわぁ意外な反応!?」

 予想外の動きに、刹那が思わず身を竦める。

「何だその上等なケーキにハチミツをぶちまけるが如き歌詞は――ッ!!」

「えぇ!? それ私達のせいですか!?」

 理不尽な憤りに困惑する刹那を横に、勢いよく席を立つ者がいた。

「ちょっと! このかと刹那さんの歌が不満なの!?」

「アスナさん!」

 アスナは俯いたまま肩を震わせ、

「――なら私達で考えた歌詞を歌わせちゃえばよかろうなのだぁー!!」

 はっはっは、と朱に染まった顔で高笑いを始めた。

「わーっ! さり気に一番出来上がってますよこの人!!」

「おぉ成る程!」

「じゃあやるか!!」

 アスナの提案に賛同の声が上がり、幾人かが輪になって相談を始める。

「とりあえず出だしに『ゴリラ!ゴリラ!ゴリラ!』を入れてみたら?」

「おぉ、亜空な大作戦ね!」

「途中のコーラスに台詞を加えるのはどう?」

「『一試合……かァァぁん然燃しょォォォォォォオウ!!』とか?」

「『原子力の海よー』なら?」

 いやー、と刹那がのけぞっているのを横に、談義は続く。
 すると、先ほどまで船をこいでいた夕映が口を開いた。

「……さぁ、抜いてみてよ。ボクのエクスカリバー」

「それだ!!」

「それだ、じゃありませんッ!!」

 ハルナが勢いよく指差し、それを刹那が全力で遮る。

「でもこの歌詞じゃ、元のメロディだと無理ねぇ……」

 アスナの困ったような呟きに、なら、と柿崎が頭を掻くように右腕を振り上げた。
 背襟に突っ込まれた手には、

「――作曲もしたらいいじゃない!」

「どこからギターを!?」

 刹那の疑問をよそに、更に釘宮が無言であるものを取り出した。

「ドラムスティックまで!!」

 柿崎がギターを早弾きし始め、釘宮がスティックでテーブルを叩く。

「うわああん、もう……!」

 涙目になる刹那が頭を抱えだした頃、ここまで沈黙を保っていた人物が動き出した。

「や、やめてください! 皆さん落ち着いてください」

「ネギ先生!」

 ネギはわたわたと両腕を振りながら、

「それ以上暴れると、先生も怒りむろれぶるうあ」

 そのまま前のめりにテーブルに突っ伏した。

「キャ――!!」

「うわー! ネギくんがキラキラ光る何かを噴出したー!」

「出崎演出!? これが出崎演出ってやつねー!!」

 更に盛り上がるボックス内。

「……た、助けてください! 助けてください!!」

 刹那の悲痛な叫びが喧騒に飲まれていった。

 教訓、酒は飲むべし飲まるるべからず。










あとがき
 どうも、さかっちです。
 この度はコモレビ様の『木陰の庵』、25万HITをお祝いしたく投稿させていただきました。
 矮小な作品ながら、本サイトにて連載をさせていただいてる身としては嬉しい限りです。



 ……などと真面目な挨拶をしてもこの内容では説得力ゼロですね。



 お酒は二十歳を越えてから! ウルトラ5つの誓い。(ウルトラ?

 というか趣味に走りすぎてネタが通じなそうな気もするのでいくらか解説を。

・君は人の為に死ねるか?
 杉良太郎魂の名曲。『世慣れた囁きや薄ら笑いで幸せを守れるか』その通りであります!押忍!

・君の青春は輝いているか?
『超人機メタルダー』魂の名曲。『愛が欲しければ誤解を恐れずにありのままの自分を太陽に晒すのだ』その通りでありま(略

・セガサターンしろ!
 藤岡弘、魂の名曲。『セガサターンしろ!指が折れるまで!指が折れるまでッ!』その(略

・出崎演出
 アニメ監督の出崎統氏が得意とする演出方法。3回パン、止め絵、光輝くゲロ等演出の技が多い。ハァ!ズンドコズンドコ!(鬼の面をかぶり波打ち際で)

 そんなこんなでお送りしました。お楽しみ頂けたなら幸いです!

 それではまた本編で!!



 補足:作中で刹那と木乃香が歌っていたのは、『NEVER GIVE UP!』。
 二人がコンビで歌っているキャラソンです。歌詞とか知りたい人は――お店へGO!
 あと、今回作中では歌のタイトルに〇を入れさせていただいております。
 歌詞じゃないし、大丈夫っぽくはあるけど……怖いですから、冗談抜きに。
 申し訳ないです コモレビ

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