「っ、はっ、はっ、は・・・・・・」

 「もう、疲れてしまったでござるか?」

 「うる、せぇ・・・馬鹿ぁ」

 「ふふ・・・可愛い声でござるな」

 「っ、ぁ!」





ぼくの魔法 第九幕 「期末テスト。とりあえずエレベーター製作者出て来い」





 「あああああああああああああああああああ!!! どうしてこんなことにぃぃいいい!!」


疾走するぼく達。

背後からは、岩石製の巨人さんが追跡してきています。

メルディアナの書だとかいう小難しい本の所為で、なんでこんなことになってるんだ。


 「お疲れのようでござるな」

 「さっきっから、お前の発言が何処か怪しいと感じるのはぼくが馬鹿だからかな?」

 「さぁ、どうでござろうな?」


全力疾走。

とにかく、上へ上へとぼく達は上っていく。

とにかく、逃げろ。

とにかく、とにかく。


 「こんなくだらないところまで来て、収穫無しなんてやってられるか・・・!」


途中で転んでしまった綾瀬をおぶり、ぼくはとにかく走る。

申し訳無さそうな言葉を吐いている綾瀬の息が、首に当たってむず痒い。

・・・・・・いやいや、気にするな。

ぼくは高校生。

紳士でいるべきなのさ。


 「ふぉっふぉっふぉ、待て待てー! その書を置いていくのじゃぁー!」

 「うるぇええ! てめっ、ぜってー後で殺すかんな痴呆爺!!」

 「洒落にならん!」


大人気なく、追ってくる学園長らしきゴーレム。

直死を使おうかと思ったが、媒介貫通して効果付属したら拙いと思うので、止めておこう。

流石に、まだ《人殺》は犯したくない。

今は、まだ。


 「hey! can you help meeeeeeee!?」

 「Sorry,I dont speak English」

 「書持ってるからって英語使うな古菲! 腹立つなぁもう!」

 「これは数学でござるな・・・こちらに渡すでござる」

 「はい」

 「x=6」

 「あぁぁぁぁぁ、あの努力はなんだったんだ!?」


次々と解き放たれる関門。

頂上がとうとう見えてきた。

既に息を荒げている皆も、助かったという表情で安堵の溜息を吐いた。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


現代人大好き、エレベーターである。

これで地上までひとっとびなのだろう。

釈然としないし、純粋に不愉快だが、気にしない。


 「さぁ、乗り込めぇー!」


神楽坂の声に合わせて、全員が全員、一斉にエレベーターに乗り込む。

全員収納完了。

とうとう帰れるぅと思ったが。


 <ぶーぶー、重量OVERですよ>


クウネルサンダースの声で、その言葉が伝えられた。


 「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 「ここまで来てこれか・・・・・・」


ぼくは降りて、正面から迫ってきているゴーレムと対峙する。

予想だにしていなかったのか、神楽坂達は驚愕の声を上げた。

・・・・・・いや、別に。

ぼく一人が取り残される程度のこと、ピンチでもなんでもないし。


 <ぶーぶー、重量オーバーですよー>

 「・・・・・・お前等」

 「見るなぁ、わたし達をそんな眼で見るなぁ!」

 「べ、別に、皆さん太ってませんよ! 僕が降りれば・・・・・・!」


ネギくんはとことことぼくの横まで歩いてきた。

正直疲れたと言わんばかりのスピードでこちらに接近してくる学園長ゴーレム。

・・・・・・いちいち、しまらない。

が、ネギくんも魔法関係者だ。

少なくとも、あいつ等が先に上がっても問題は・・・。


 <あの・・・・・・重量オーバーです。いい加減にしてもらえませんか?>

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う、あれよ。きっとこれは子供用で」

 「ふ、服でござる!! 服でござるよ!」

 「そ、そうだね! 実は皆何か隠し持ってるなぁ!?」

 「あんなぁ明日菜? このエレベーター、まだまだスペース余ってる・・・・・・」

 「木乃香ぁ!? 黙ってようか!」

 「じじ、実はわたし、本を数冊持ってまして・・・」

 「それよそれぇ!」


最早半狂乱になりつつ、服を脱ぎだす中学生御一行。

見ちゃいけないと分かっていても視線は変わらず・・・。

血液が巡っていく感覚が身体を支配した。

・・・・・・綾瀬、ぼくはまだまだ現役のようです。


 「あははぁ! ここまでしたんだから・・・・・・」

 <・・・・・・・・・大ヒント。その書は持っていってはいけないものです>

 「脱ぎ損かよ!」


男言葉を使いつつ、神楽坂明日菜は楓が持っているメルディアナの書を、ゴーレムに投げつけた。

いいから服を着ろ・・・。

その言葉を発せなかった自分が、堪らなく恥ずかしい。


 「ほら乗って!」


首根っこ掴まれてエレベーターに引きずり込まれる。

ぐぇ、と蛙のような声を上げてぼくはエレベーターの中に入った。

そこでぼくとネギくんが見たものは。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、ぼく悪くないよね?」


下着姿の、少女達でした。












 「っていうか、なんで前屈みになってるわけ?」

 「は、はぁ? 疲れてるだけだ」


男の子としては非常に重要視するべき問題をさらっと聞く神楽坂を小一時間程説教したい。

ついでに説教したい。

でも結局は自己満足なのでやりません。

ともかく、先程の出来事は鮮明に頭の中に残っているわけで。

ロリコンだと罵られても仕方はないと思う。


 「あ、地上に着いた」


ちーん、という無機質な機械の音が鳴り響く。

外の景色が広がっていく。

見慣れているわけではない、女子寮の景色。


 「・・・・・・ぼくは此処で帰るぞ」


ぽつりと言い残し、ぼくはエレベーターの中から出た。

しかし、再び後ろから猫よろしく襟元をむんずと掴まれた。

急な圧迫感の所為か、思い切りぐぇ、と鳴いた。


 「てめぇ、なにしやがる!」


後ろを振り向く。

掴んだのは、今度は古菲だった。


 「逃さないアルよ・・・・・・」

 「はぁ?」

 「わたし達はこれから勉強をする・・・でも、澪は帰る。
  そんなのは認めないアル。勉強会に付き合うことを推奨する!」

 「何を訳の分からんことを・・・・・・」


無視して、ぼくは男子寮に戻ろうとした。

しかし、どうやら。

どうしてもぼくを付き合わせたいらしく。

長瀬が耳打ちをしてきた。


 「綾瀬殿が言っていたように・・・枯れていたと思っていたでござるが・・・。
  ふふ、そういうわけもでないようでござるなぁ?」

 「よっし、勉強すっか」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 「はーい、寝るなぁ」

 「いたっ!?」


うつらうつらと舟を漕いでいた佐々木の頭を教科書を丸めて叩く。

正直、付き合わせておいて先に寝るなんてこと、ぼくは許すつもりはない。

とはいえ、やはり皆の疲労は結構深いところまで来ているらしく。

今にも全滅しそうな勢いだ。

ネギくんに至っては、テープで眼を固定している。

涙がぽろぽろと流れている辺り、そうとう我慢しているのだろう。

・・・・・・。

ほんの一日寝ない程度のこと、人間ってのはやれないものなのだろうか?


 「でも五日寝なかった時・・・軽く幻覚見えたんだよな」

 「人は三日寝ないだけでも結構やばいと聞いたことがあるです」

 「あ、そう。でも寝るなよ」


期末試験は明日、とぅもろーだ。

当然、気合が入っている皆は、明日に備えて勉強だと意気込んでいたのだが・・・。

ここで高校生であるぼくからワンポイントで経験上のアドバイスを。

ぶっちゃけ、前日に多くの勉強をするのは止めておいたほうがいい。

最終日は軽く内容の復習等、頭の中を整理するのが一番良いのだ。

それを朝、最低でも昼にやる。

夜中にやるのは愚の骨頂だ。


 「形振り構ってられないだけ・・・なのかもな。はい、どうする? もう寝るか?」

 「う・・・も、もう少し。もう少しだけ・・・」

 「無理にやったって疲れるだけかもしれないぞ?」

 「み、みなさん。すごくお疲れのようですし・・・此処らへんで切り上げたほうがいいと思います。
  図書館島で皆さん、沢山勉強していましたし。それに、あまり無理はしてほしくないですから」

 「ネギくんがこう言ってるんだ。ぶっちゃけ、これ以上は頭を混乱させるだけ。
  疲れてるだろうし、寝て明日に備えろ」

 「あ、あと三十分だけ!」


・・・・・・・・・普段勉強嫌い(だと聞いている)こいつらを、此処まで必死にさせるものとはなんだろう。

ネギくんには、それだけの何かがあるのだろうか?

ぼくにはまるっきし関係のないことなのかもしれないけれど。


 「澪さん、えっと、此処は・・・・・・」

 「綾瀬。これはねぇ」


夜は更けていく。

努力が報われるのか、それとも報われないのか。

努力したということは、結果として認識されるのか。

そんなことを考えつつ、ぼくは三十分後、女子寮から出た。

皆もう満身創痍だったらしく、まるで気絶するかのように眠りに入ってしまった。

ぼくはそんな皆に、毛布をかけてから外に出る。

・・・・・・久方ぶりなのかもしれない、月を見るのも。

茶々丸は勉強、捗っているのかな?

エヴァは・・・暇すぎて、勉強を熱心にやっていた時期もあったらしく、ぶっちゃけ心配はないらしい。

元々心配はしていない。

むしろ、問題はぼくのほうなのか?

勉強・・・勉強か。

正直、平均以上はなんとか取れる自信があるので、今更やろうとも思わないが・・・。

でも問題は、学校生活のほうじゃないんだよなぁ。


 「・・・・・・」


なんとなく。

なにとはなしに。

ぼくは、眼を起こした。

途端に広がる死が内包されている世界。

歪に、極端に、何処にでも。

それこそ、今自分で立っている地面でさえも《死期》というものは存在する。

エヴァは言った。

ぼくに殺せないものなどないと。

それほどに、ぼくの眼は驚愕に値するものらしい。

だが。

何気なく言ったエヴァの台詞が、頭の中にいつまでも残っている。


 おまえの眼は、世界の価値を《軽く》する。


価値とはなんだろう。

需要があること?

少ないということ?

計れるということ?

では、世界とはなんだ。

ぼくの中にある《二つの世界》とはなんだ。

皆が見ている世界と。

ぼくが見えてしまう世界。

違うことは、一体なんだというのか。


 「・・・・・・・・・ともかく」


明日は、良い結果を残せるといいな、皆。

柄にもなく月に願って、ぼくは自分の部屋に戻った。






アトガキ


迷走中、幹です。

柄にもなく、没になったネタ投下してみます。





「こんなくだらないところまで来て、収穫無しなんてやってられるか・・・!」


ぼくは瞬時に眼を起こし、ゴーレムの足元を見た。

そして、《点》に目掛けてナイフを投擲。

見事に命中。

強度を失った階段は、学園長の足元からどんどん崩れていく。

ぼくは転んで足を挫いていていた綾瀬をその場に一旦降ろす。

おぶる、という行為も、中々恥ずかしいものだ。


 「これは、ぼくだけの分だー!!」


体勢を崩している学園長に飛び蹴りを喰らわせる。

そして、ぼくは瞬歩で綾瀬の位置まで退却した。

ゴーレムは見事な悲鳴を上げて、下へ下へと堕ちていった・・・。


 「悪は滅びる」

 「外道ですね、澪さん」






ネタが広がらないので、没にしました。

そんなこんなで、幹でしたー。

〈続く〉

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