ぼくの魔法 第六幕 「結局アクシデント」




 「っと、そこ槍降るぞ」

 「余裕余裕アル!」

 「神楽坂、そこ罠ある」

 「いやぁぁぁああ!?」

 「長瀬、そこ強く踏め」

 「あいあい」

 「佐々木、跳べ」

 「危ないです!?」


改めて、常々、思う。

このメンバーなら、ぼくがいなくとも良かったのではないか?

先程から確かにトラップは絶賛作動中ではあるが。

ネギくんは皆に助けられているから無害だとして。

神楽坂、長瀬、佐々木、古菲。

この三人は、天性のものかは知らないけれど、運動神経というレベルじゃ表せない動きで罠を掻い潜っている。

佐々木、声が面白い。


 「やっぱ、澪さんを連れてきて正解やったなぁ」

 「む、どういう意味だ、近衛」

 「そのまんまの意味ですよ、澪さん」


二人が言っている意味が一切分からないのは、ぼくの理解力が足らないからなのか?

あぁ、くそ。

なんだかむしゃくしゃする。

最近、ぼくに冷たいイベントが起きすぎてないか?


 「まぁまぁ澪さん、もう少しで着くことですから」

 「堪忍してなぁー」

 「・・・・・・別に、怒ってるわけじゃないけどさ」


そもそも、これはぼくの意思で参加したものだし。

まぁ、自分からやると認めたもの以外、ぼくは真面目にこなすつもりはないけれど。

例えば、気づいたらそういう状況にされていた、とか。

最悪だね、やる気が失せるって問題ですらない。


 「皆さん、着きました」


そうこう言っている間に、到着。

めなんとかは、此処で手に入るらしい。

・・・正直、こんなところまで来たことがないから実感なんてないんだけれど。

今日は徹夜か・・・朝が辛いな。

この状況でこんなことを考えているのは、きっとぼくぐらいだろう。


 「澪さん澪さん! やったです!!」

 「ウチらでここまで来たことなかったなー」

 「弟のゲームで、こんなところ見たことあるよ!」

 「よっし、これでテストなんか余裕だー!」

 「え、テスト目的かよ!?」


テストに命を懸けられるなんて・・・すごいな、この子達。

なにか特別な事情があるんだろうけど・・・まぁ、ぼくには関係ないだろう。

ともかく、目的地には到着。

後は戻るだけだ。


 「ふぉっふぉっふぉー。そう簡単にはいかんぞー!!」


・・・・・・・・・・・・・と、そう思っていた時期が、ぼくにもありました。











 「どきどき!? ツイスターゲームだってぇ!? まさか、よくパーティーとかでよくやるあれのこと!?
  ラブコメなんかでは、登場すれば必ずエロネタに使われる・・・あの伝説の!!」

 「澪さん、急にどうしたん?」


なんとなく、声を出していないと正気が保てなさそうな感じがしただけさ。

最も、幻覚だろうが。


 「そしてしかも、現在進行形で行われている・・・! 近衛はその体勢でぼくのツッコミなんてよくできるな!」

 「いや・・・でも、結構、疲れる、んよ?」


ぼくは女の子達の勇姿を、黙って見つめていた。

なんでもあのゴーレム(学園長)が、ぼくは倫理的にお約束的に参加しないと駄目だと言い張りやがったんだけど。

でも、ぼくは何処ぞのとらぶってる主人公にはなりたくない。

いちごの下着を巡って一喜一憂したくない。

そもそもぼくは、そういうタイプの主人公の器にはなれないと思う。

あ、とうとう叫んでる人まで出てきた。


 「う・・・ぐぐ。澪さん、交代、してくださ、い」

 「綾瀬、ぼくにその中に入っていけというのか。泣くぞ、全力で泣くぞ。
  そして主に理性と涙腺と感情制御がぶっ壊れるぞ」

 「思春期じゃしの!」

 「黙ってろ!!!」


久しぶりに、全力のツッコミをしたような気がする。

あぁ、どうしようか。

凶器さえあれば、あのゴーレムを通じてあの後頭部さんを殺すことだってできるかもしれないが。

そんなことをすれば、ぼくは全国のまほうつかいさんに追いかけられる羽目になる。

だから、耐えなければなるまい。


 「あ、ちょっと、ネギぃ! 見るなぁ!!」

 「澪くんも体育座りで見つめないでー!」

 「あ、すす、すみません!」


ツイスターゲーム。

ちょうど参加人数が、女子全員分でした。

なので、ぼくとネギが外れることになった。

でも、ネギくんは入るべきだったんじゃないかなぁ、と少し思う。

いや、お約束的に?


 「あー、うん。でも心配すんな。ぼくは別に興味ないから」

 「んだとごらぁぁああ!!!」

 「あ、明日菜ぁ! 危ないでしょーが!」

 「でも、軽く乙女のプライドを傷つけられたでござるな・・・」

 「後でしっかり片はつけるとして・・・しかし、もう少しでこちらの勝利ですよ!」


いや、こうでも言わなきゃ自分を誤魔化せないんだって。

高校生は中学生に手を出しちゃいけないんだ。

お偉いさん方がそう決めたんだよ。

まぁ、元々そういう対象としては向こうもこっちも見ていないから無問題なんだろうけど。

ネギくんがなぁ・・・、どうも心配だ。


 「最後の御題!!!」

 「そのテンション恥ずかしくないんですかー?」

 「全然!」


元気一杯、フレッシュ全開学園長。

元気なのは良いことですよ・・・ね?


 「ネギくん、後で話し合おう」

 「?」

 「君にはもうちょい・・・自覚持ってもらいたい。だから、後で」


そもそも今回の発端だって、魔法が云々って話なんだろ?

指導者としてそれを止めるのは、当たり前以前の問題でしょうに。

いや、十歳だからっつったって、そんなことぼくからしたらあんまり関係ないわけで。

少なくともぼくは、《英雄の息子》だろうとこの子に色眼鏡をかけるつもりはない。

ネギ・スプリングフィールドという一人の少年としか、見ない。

それは当たり前のことなんだろうけど・・・。

どうでもいいことか。

っていうか、大人気なくないか? ぼく。


 「お!!」


どうやら、最後のステージらしい。

御題はおさら。

意味が分からないが、終われば帰れるんだ。

無問題。


 「さ!!」


あと一文字。

ぼくは振り返った。


 「る!!」


ヱ?


 「えええええええええええええええええぇぇぇぇぇええええええ!?」

 「不正解ー!!!」


学園長INゴーレムの、やけに楽しそうな声がぼくの耳に届いた。

やろう、狙ってやがったな!?

そしてゴーレムは手に持っていた武器のようなものを、床に思い切り叩きつけた。

鈍くも、強い音が部屋中に響き渡る。

その衝撃は下の地面に強く影響し。

それは力の波となって。

ぼく達が乗っている床を容易く破壊した。


 「うわあああああああああああああああああああああああ!!?」
 
 「急展開ー!!!」

 「明日菜のおさるぅぅううう!!!」

 「ごめんー!!」

 「わーわーわー! しがみつくな神楽坂に綾瀬ぇぇ!!」

 「ネギくーん!! 助けてぇぇぇええ!!!」

 「んー、よからぬ展開でござるなー」

 「てめっ、ごーれむぅぅぅう!! 覚えてろよおおおお!!!」

 「いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 「封印しなければよかったぁぁああああ!!!」


そのままぼく達は、落ちていった。

意識もいつの間にか、黒く堕ちていた。








◇ ◆ ◇ ◆ ◇









ぴちょん。

水滴が弾ける音がした。

小さく、意味のないような。

でも、ぼくはそんな些細な出来事で意識を現実に戻す事ができた。

くだらないかもしれないが、それは確かな事実である。


 「お、眼が覚めたでござるな?」

 「・・・・・・長瀬?」

 「にんにん」


目が覚めれば現実で。

目の前で微笑んでいる長瀬もきっと本物だ。

でも、そのニヤけ方が邪悪に感じてしまえたのは、きっとぼくの心が汚いからだろう。


 「拙者も、つい先程眼を覚ましたところなのでござる」

 「はぁ・・・さいですか」

 「このままでは、皆ズブ濡れのままになってしまうでござるなぁ・・・。
  澪殿、運ぶのを手伝ってくれるでござるか?」

 「あぁ、別にいいよ」


思えばこの水。

温水プールのような温度だ。

ただの湖かと思えば、そうでもないらしい。

まぁ、そんなことを、今考えたって仕方がないんだけれど。

そんなことを考えつつも、隣で眠っている神楽坂を運ぼうとしたのだが。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


――――運べない。

これは、ぼくには運べない。

いや、持てないとか、そういう問題ではなく。


 「ぅ・・・・・・」


着水すれば、濡れる。

濡れれば、服は肌にはりつく。

そうすれば、自然と・・・。


 「長瀬? ぼくはネギくんを・・・・・・」

 「今、拙者が運んでいる最中でござるよー」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・えぇい、構うもんか!

ぼくはなるべく身体を見ないようにして、神楽坂の身体を抱きかかえる。

いわゆる、お姫様だっこである。

あー、恥ずい。

顔が真赤だ、あーあー。

ぼくはそのまま長瀬についていく。


 「・・・こんなところ、穂村とかエヴァに見られたら、死ねるな」


最も、この場にあの二人はいないから、全くその懸念要素は存在していないんだけど。

それよりも、手に感じる色々な感覚が、色々とアレだ。

泣きたい、あぁ泣きたい。


 「ん・・・・・・ふぁぁ」


今にも涙を流しそうなぼくの腕の中で、神楽坂は目を覚ました。

とても疲れていそうなのが、よく分かる。

軽くあくびした後に、目をごしごしと擦った。


 「あー、あれ? わたし、浮いてる?」


寝ぼけているのか・・・神楽坂はそんなことを呟いた。

ぼくは思わず、吹き出してしまった。


 「って、うわぁあ!? みみみみ、澪ぉ! なにしてんのよぉおぉお!!」

 「うわ、暴れるな暴れるな!」

 「いいい、いいから早く、早く離しなさいってば!!」

 「うぉ、の、のわぁ!?」


そのまま転倒。

くそ、決して小さい体格じゃないのに暴れやがって。

文句を言おうとしたのだが。

ふと、違和感を感じた。

あれ、何かがおかしい。

五感がおかしい。

具体的にいえば、感触か?

けど、なんだか脳が痺れているような感じがして、何が起きているのかさっぱり分からない。

さっきの転倒で頭でも打ったのか?

そんなこと考えていると。


 「う、うひゃあっぁあああ!!」

 「んなっ!?」


神楽坂はぼくの目の前から急に飛び跳ねて、ぼくからずざざざぁ、と離れた。

距離を置いておくにしても、異常なほどに。

向こうの顔は真赤で、なんだかとっても恥ずかしそうだった。

赤面で、胸の辺りを両腕で隠しながらぜぇぜぇと息をしている姿は、なんというか。

神楽坂らしいと、ちょっとだけ思った。


 「ばばばばば、馬鹿ぁぁぁあ!!」

 「は? あ、いや。ちょっと落ち着けよ神楽坂」

 「さては確信犯なのね!? あんた・・・あんたって・・・!!」

 「誤解も甚だしい。そもそも、何が起きたかもぼくは分かってないぞ」

 「わたしが《分かっちゃってる》のよ!」

 「だから、なにいってんだお前」

 「うっさい、この馬鹿!!」


意味不明な言葉を残し、神楽坂はダッシュでこの場から逃走していった。

・・・・・・不思議なやつだ。

それにしても、不可解すぎる。

それと、くらくらする。

あぁくそ、さっき思い切り頭でも打ったか? 本当に。

平衡感覚とかなんか、色々とぐらぐらしてるような気がする。

思考もなんだか色々とおかしい。


 「お・・・っとっと?」


あぁ、これはやばい。

ぼくはへたりと、そこに座り込んだ。

まともに立ってられない。

そこまで、深刻なダメージでも受けたのか?

・・・あ、鼻血が出ている。

・・・・・・本格的にやばそうだ。


 「澪殿ー。どうしたでござるか?」

 「あー、なんかさっき転んだ時、頭打ったみたいだ。くらくらする」

 「それは色々な意味で拙いと思うのでござるが・・・・・・」

 「大丈夫ー。五日寝なくても、ぼくは動ける自信があるから」

 「それは駄目でござるよ!?」


ちなみにこのあと、ぼくがようやく立ち上がれるようになった時、皆は既に目を覚ましていた。

あのまま放置しておいても、別に問題はなかったのでは?

そう考えても、今ではもう遅い。

誰にも気づかれないように、ぼくは小さく溜息をした。

・・・・・・やっぱ、来なければよかった。








アトガキ


問題です。

このエヴァに五日間寝なくても大丈夫な感じにしごかれてしまった澪くん。

神楽坂明日菜の何処をどうしたのでしょうか?

アクシデント的にはベタでおいしいです。

でも、唇ではないのでご安心を。

・・・・・・できねぇよな。

〈続く〉

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