ぼくの魔法 第五幕 「期末テストと妄想ブレイカー」





 「・・・・・・期末テストぉ?」

 「あぁ、もうすぐだろ」


エヴァの家で特訓(拷問)を終了したぼくは、へとへとのままエヴァの話に付き合っていた。

・・・正直、最近多忙すぎて全然意識していなかった。

つまり穂村がやっていたことは・・・。

 
 「ま、いいや別に」


諦めることにした。

そもそもこの学校はエスカレーター式だ。

どんなに勉強ができなかろうが、大学までは安泰だぜ。

・・・麻帆良の肩書きさえ持っていれば、就職なんて余裕だしね。


 「正式に《魔法生徒》にもなったお前が、就職のことなんて考えるかね?」

 「マスター。澪さんの性格上、魔法使いとして生きていこうとはしないでしょう」

 「正解。よく予想できたね、茶々丸」

 「ありがとうございます」


そもそも、魔法を使えないぼくが《魔法生徒》になったこと自体、特例中の特例なんだそうだ。

この《眼》があるから、今のぼくがある。

それは幸せなことだろうか?

それとも不幸だろうか?

・・・まぁどちらにせよ、ぼくは今のままで生きていく以外、選択肢なんてないのだけれど。


 「・・・・・・と、いうわけで」


エヴァンジェリンは唐突に、中学校の教科書を手にとり、にやりと笑った。

その微笑は、なんだかとっても薄っぺらいような気がする。


 「お前は茶々丸に勉強を教えてやってくれ」

 「・・・・・・はぁ!?」


エヴァが呟いた言葉は、ぼくの想像を軽くぶち壊した。

仮にもガイノイドである茶々丸に勉強を教えるだって?

馬鹿馬鹿しい。

そんなもの、電卓に数字を教えているようなものじゃないか。


 「・・・よろしくお願いします」

 「いや、逆だろ逆。ぼくが教えてもらう立場じゃないのか」

 「・・・・・・いや、とりあえず、国語だ。このドリルをやれ」


疑問符で頭が一杯になっているぼくに向けて、エヴァは一冊のドリルを投げてきた。

タイトルは「君にも出来る! 国語どりる」だった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、初め」

 「はい、先生」

 「ここからここまでやって。それをぼくが丸つけして。出来ないのをぼくが教えるから」


そういって、勉強開始。

黙々とペンを走らせている茶々丸の姿に和みつつ、ぼくは珈琲を口にした。

うん、いい豆使ってるんじゃないかな?

よくは分からないけれど。


 「あ、そうだ澪」

 「なんだよ」

 「お前、自分の勉強はいいのか?」

 「別に」

 「そうか」


お前はどうなんだと声を大にして言いたいが、どうせ無駄なことだろう。

エヴァは既に、真剣にゲームをしている。

・・・・・・おいおい。

しかもメガ○ンやってるし。


 「できました」


エヴァのプレイを呆然と眺めていると、隣から茶々丸の声がした。

早いな、まだ二十分経っていないのに。

どれどれとばかりに見てみると。


 「・・・漢字と古文は完璧だ」

 「ありがとうございます」

 「でも、作文と表現がちょっと難しいみたいだね」


まず最初に。

先程言った通り、古文と漢字は完璧なのだ。

しかし、どうにも。

機械故の、劣っている部分なのか。

どうしても、作文は論文のような形になってしまうし、表現のほうは白紙になってしまう。

作者の気持ちになって、自分の意見を、といったところが茶々丸は決定的に苦手なのだ。

それも仕方がないことのような気もするが。


 「ちっ、即死系はショックがでかいぞ・・・・・・!」


あぁ、今だけは無邪気にはしゃぐエヴァが鬱陶しい。

なんだあいつ。

勉強してる時に隣でゲームされることが、どれだけ苦痛なのか分かっているのか。


 「・・・どのようにすればいいのでしょうか」

 「・・・・・・というと?」

 「どうしても、分からないんです。この時、この人はどう思うのか。
  自分は、どのような意見を述べればいいのか。やはり私は、データの中でしか答えを見つけられません」

 「んー、こればっかしはなぁ」


作文のほうは、まだ何とかなると思う。

しかし、考えのほうは自分でなんとかするしかないのだ。

文法は完璧だから、後はネタをつくってあげればいいんだけど・・・。

うん、まぁ今後頑張っていくってことで。


 「作者の考えはまぁ後にしておくとして・・・茶々丸」

 「はい」

 「まず自分のことを考えてみてくれ」


自分がどう感じたのか。

自分はどう思っているのか。

口に出すのは簡単でも、いざそれを文で述べるとなると、案外難しいものなのだ。

だからまずは、考える。

どうすれば伝わるか。

そういったことが、茶々丸の場合は重要になる。


 「私は・・・マスターの従者で」

 「そういったことじゃない」

 「?」

 「例えば茶々丸」


ぴこぴことゲームをやっているエヴァを、指差す。

あぁ、やっぱ今は腹立つ。


 「あいつのこと、好きだろ?」

 「はい、私は従者であるということ以前に、マスターに・・・その」


茶々丸は視線を下に向けて、言葉を選びながらも、答えた。


 「好意をもっている、と思います」

 「うん、それじゃあ、エヴァのことなら作文に書けるんじゃないか?」

 「マスターのこと・・・とは?」

 「これ」


ぼくはドリルに載っている、作文の御題集の一つを指差した。

そこには、「私の大切な人」という文字が描かれている。

ぼくは茶々丸に、少しだけ微笑んだ。


 「あ、ちなみにマスターなんて書くなよ? エヴァさんって書け」

 「し、しかしそれは・・・・・・」

 「いいんだよ。今だけは」

 「しかし・・・・・・」

 「茶々丸。別に構わんぞ。作文に限りな」


埒があかないと思っていたが、思わぬ助け舟がエヴァから出航する。

納得はいっていなさそうだが、茶々丸は再びペンを手にした。

いや、今更だが。

この二人の関係を、従者じゃなくて友達同士で見てみたかったな。




 「なんだ茶々丸か・・・こんな朝早くに」

 「エヴァさん、今日は登校日ですよ」

 「へ・・・って、のわぁ!」

 「早くしないと、遅刻してしまうかもしれません」

 「す、すまん茶々丸! すぐ行くから外で待っててくれ!」

 「はい、分かりました」





・・・・・・・・・・・・全然アリじゃないか?

ぼくがそんな妄想にふけっている間に。

 
 「澪さん、できました」


どうやら茶々丸の作文は完成したらしい。

少しだけ緊張しているのか、茶々丸の、いつもは無機質なはずの眼からは動揺の文字が見えた。

・・・うん、最近、少し人間くさくなってきたんじゃないかな?


 「どれどれ・・・・・・」


原稿用紙には、まるで明朝体のような文字がびっしりと書いてあった。

しかし内容は。


 『・・・・・・・だから私は、エヴァさんのことを大切に思っています。』


堅苦しいかもしれないが、確かに気持ちが伝わってくる、温かい文章だった。









◇ ◆ ◇ ◆








 「はぁ、魔法の本ねぇ・・・」

 「そういうことだから、あんたも来てよ」

 「嫌だよ。何でぼくが行かなきゃいけないんだ」

 「お願い! この通り!」


エヴァの家から帰ってきて寮に帰ってきた時。

穂村はその場にいなかった。

そして、ぼくの携帯電話に一つのメールが入っていた。

神楽坂からだ。

内容は「お願い、図書館島まで来て」

何だか大切な用事のような気がしたので、メールでは悪いと思い、電話にしたのだ。


 「・・・そこに、何人ぐらいいる?」

 「えーっと・・・待ってるのが本屋ちゃんとパルも混ぜるとして・・・合計九人かな」

 「充分すぎるじゃねぇか!」


 「あんたも魔法使いなんでしょ?」


どくん、と。

確かに心臓が高鳴った。

・・・・・・何故。

ぼくが《そっち側の人間》だと知っている?


 「・・・・・・ちょっと待ってろ」


とにもかくにも、事情を聞かなければいけない。

ぼくは制服の上にコートを着て、穂村に少し遅れるかもしれないとメールを送った。

何でこういうときにあいつはいないんだと、意味もなく舌を打つ。

気分が悪いまま、ぼくは走って図書館島に向かった。






決して遠いわけでもないが、近いわけでもない。

気を使っているわけでもないので、ぜぇぜぇと息切れしているぼくは情けなくはないと思う。

扉の前では、大勢の人間が談笑していた。

その場にいる、神楽坂明日菜の姿を見つけることは容易である。


 「あ、澪ー。こっちだよー」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


無邪気にこちらを見つめる神楽坂とは反比例。

ぼくのテンションはガタ落ちだ。


 「神楽坂、ちょっと来てくれ」

 「へ? でも、もう出発するよ」

 「五分もかからん。いいから来てくれ」


怪訝そうな視線がぼくの身体を包む。

しかし、今はそんなことを気にしている暇はない。

無理やり気味に、神楽坂の手を引いた。

皆とは距離を離した状態で、ぼくは神楽坂の耳元にそっと呟く。

向こうには長瀬やら古菲やらがいるから、油断だけはしてはいけない。


 「神楽坂、事情を説明してくれ」

 「へ、だから魔法の本を」

 「そっちじゃない。何故、ぼくが《魔法生徒》だって知ってるんだ。お前もこっち側の人間なのか?
  だとしたら何故、こんなことに付き合ってる」

 「えっと・・・・・・・・・」


少し話しずらそうな神楽坂の心中等、今のぼくには一切関係がない。

無言で、ぼくはそのまま神楽坂が話し出すのを待った。


 「ネギが魔法使いだってこと、この前知ったのよ。わたし」

 「・・・・・・はぁ!?」


ちょっと待て。

今こいつ、なんていった。


 「は・・・はぁ?」

 「それで、魔法使いがあるんだから《魔法の本》だってあるだろうって確信したのよ」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあ何か? お前、記憶消されてないのか」

 「うん」


・・・・・・あー。

今、十割やっと理解できた。


 「流石スプリングフィールドの血・・・ってことか」


そりゃそうだ。

何故、この考えに至らなかったのか、全くもって分からない。

当たり前だろうが。

一般人とは違いネギくんは《英雄の息子》なんだ。

肩書き、実力。どれを持っても天才。

ならば、このような出来事でネギくんを罰するなんてこと・・・お偉いさん達がするわけもない。

一市民と《英雄の息子》では、全くもって価値が違うのだろう。

・・・その考え方は、殺したくなるほどに不愉快だけれど。

というか、何故神楽坂は記憶が消されていないんだ?

・・・・・・・・・特例?

ネギくんが頼んだからか?

全くもって分からない。


 「いや、もういいよ」


バレたネギくんもネギくんだが・・・。

まぁ、十歳の子供にそんなこと言ったって、酷だろう。

もっとこう、あんな感じでいいんだよ。

これぐらいの年代は。


 
 「とーちゃん! せみとりにいこう! せみだ!」

 「ネギ、雷の暴風撃てるようになったか?」

 「あのなー、こー、なんかあつめて、どかーんってやるんだ」

 「よっしゃ、蝉採りにいくぞー!」

 「わかっぱー!!」



・・・・・・いや、駄目だ。


 「澪?」

 「いや、なんでもない。なんでもないんだよ」


見えてない。

ぼくにはなんにも、見えてない。


 「それじゃあ、出発しましょうか」


結局、ぼくはいつものように、ずるずると事の次第に嵌っていくのであった。










アトガキ






今日は若干、文章の量が少なかったような気がする。

どうも、幹です。

寒かった季節なんてとっくに吹っ飛び、今ではすっかり春でさえ終わりそうな錯覚さえ覚えています。

まぁそんなものはおいておいて。

今回の話、妄想ネタが多かったような気がします。

最初のは俺の勝手な妄想ですが。

・・・ニ発目は、その。

ね?

分かる人は分かると思います。

お勧めの漫画なので、是非、是非読んでみてください。

以上、なんだかアレな、幹でした。



ステータス更新。

後宮澪、妄想癖アリ

〈続く〉

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