ぼくの魔法 第ニ幕 「赤毛のあの子は人生勝ち組」





 「それでさー、その子供、すんごい可愛いの!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


嬉々として話す早乙女の顔は笑顔だ。

対して、宮崎の顔は少し暗い。

一体、どうしたというのだろうか?


 「すみません・・・騙しちゃって」

 「いや、別に構わないよ」


場所は、2−A教室。

図書館探検に行くはずだったが、歓迎会をやるということらしい。

ふむ、それなら怒る理由もない。

ぼくのほうも、噂の子供先生に会ってみたかったしね。


 「騙したっていうか・・・単純に予定だろ? ぼくのほうも子供先生とやらを見てみたいしね。
  宮崎が気にすることじゃない。それに、今日は疲れてたから、丁度いいよ」

 「・・・・・・・・・・・・はい」


しょんぼりと落ち込んでいる宮崎の肩を、ぽんと叩く。

宮崎は、少し周りを気にしすぎる傾向がある。

自分勝手になれとはいわないが、もう少し自分のことを考えてほしいものだ。

結局困るのは、周りも一緒なのだから。

 
 「・・・・・・イチャイチャするのもいいですが、教室に着いたです」

 「い、イチャイチャなんて、し、してないよっ!」

 「・・・いや、そこまで焦られても困るんだが・・・別にいいか」


少しむっとした表情の綾瀬に、にやにやとこちらを見つめてきている早乙女。

綾瀬のほうはなんとなく分かるが、早乙女の表情はとても嫌な気分だ。

そういうのは、自分が彼氏をつくってからやってほしい。

ぼくと宮崎は、全然そういう関係ではないのだから。


 「遅いよー、三人共と、後宮くん」

 「ごめんごめん」


教室の中に入ると、そこにはどんちゃん騒ぎが待っていた。

各々が騒ぎ、各々は食べ、各々は酔っている。

少し五月蝿いとも思ったが、呼ばれた立場で文句を言うのもアレだろう。

ぼくは苦笑気味に、皆に挨拶をした。


 「呼んでくれて有難う。というか、何でぼくはここにいるの?」

 「普段本屋ちゃんとかと一緒にいるでしょ? 木乃香とかの推薦もあったからだよ」

 「そうか、でもその録音機は要らないな、朝倉」


用意された席にぼくは座った。

噂の子供先生を視線で探す。

・・・・・・・・・あの子、かな?

 
 「なぁ宮崎」

 「はい、なんでしょう?」

 「子供先生って・・・あの赤毛の子か?」


まるで七五三を連想させるかのように、不釣合いなスーツ。

まだ子供であることを証明しているが、将来を約束されているかのような顔立ち。

屈託のない笑顔は、母性本能を擽られること間違いなしであろう。


 「ふーん・・・・・・・・・・・・・・・」

 「とっても頭が良い子なんですよ。とても優しいし」

 「完璧だな」


宮崎によると、十歳にして大学レベルの頭脳を持ち、思いやりのある優しい子らしい。

それはもう、なんというか。

今の時点で人生の勝ち組決定というのも、珍しいものだ。

少し不平等な気もしたが、よくよく考えてみればその分努力したのだろうと思う。

ならば、それは努力によって勝ち取ったものだ。

文句を言えること等、何一つない。


 「・・・・・・・・・・・・それと、さ」

 「はい?」

 「この周りのねっとりとした視線は、なにかな?」


気がつけば、四方八方から視線が集中しているような気がする。

とりあえず、早乙女のにやにやを例外にするとしても。

なんだこの空気。

今にもふわふわした泡が浮きそうだ。


 「まぁ、それはいい。よくはないがいいことにしておこう。で、先程からあの子供先生はなにをしているんだ?」

 「えー・・・・・・っと。神楽坂さんと高畑先生を行ったり来たりしていますね」

 「まぁ、どうでもいいけどさ」


だったら聞くなよと言われそうだが、心底どうでもいい。

ただ会話のネタに使えそうだったから言っただけだ。


 「とりあえず、これをどうぞ」

 「ん、ありがと・・・って、古菲か」


健康的な小麦色の肌が、彼女を証明している。

正解アル、なんてポーズをつけながら言われたって、こっちは全然嬉しくない。

・・・古菲を知っているのは、よくぼくは「超包子」で食事をするからだ。

お客の入りも上々といったところで、よく穂村と一緒に食べにいく。

味は保証できるもので、友達に紹介したいお店の一つである。


 「あっつあつのお二人には、あっつあつの肉まんがピッタリ!」

 「・・・・・・なに、そういう認識で見られてるのか、ぼく。だからこの視線と・・・そういうこと?」

 「え、違うアルか?」

 「宮崎に失礼だろ。皆にも言っておいて」

 「あいやー、これは失敗だったよー」


そういって、古菲は近くにあった椅子をこちらまで持ってきて、腰かける。

手で持っている皿の上に置いてある肉まんは、なんだかとても美味しそうだ。

ちょうど空腹だったこともあり、ぼくは一ついただくことにした。

当然、味は美味。

来て良かったな、なんて少しだけ思った。


 「あれ、宮崎。食べないの?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・いえ、大丈夫です」

 「ふーん」


折角だから、二個目もいただくことにした。


 「今後も「超包子」を御贔屓にー」


フレッシュ百%の笑顔を振り撒き、古菲は元いた超のところに戻っていった。

言われなくても、贔屓にするさ。










◇ ◆ ◇ ◆









 「改めて初めまして、子供先生」

 「初めまして、えーと・・・・・・」

 「後宮澪。澪でいいよ」

 「初めまして澪さん。ぼくはネギ・スプリングフィールドです。ネギと呼んでください」


目の前でこちらに手を差し伸べる少年は、本当に十歳なのか。

そのことについて疑っているのは、果たして本当にぼくだけなのか。

そんな立証すら必要のないことは、まぁ置いておくとして。

整っている顔立ちに、ちょこんとある眼鏡。

聡明そうな印象を一心に纏っているその姿。

これがエヴァンジェリンの求めているなのだろうか。


 「あぁ、初めましてネギくん」

 「初めまして!」


初めましてを二回したのは初めてだ。

どうでもいいが。


 「ネギくんは、何処から来たのかな?」

 「イギリスです」

 「へー」


イギリスといったら、ぼくはコーンウォールを連想してしまう。

それはとあるストロベリーでましまろな影響の所為なのだが・・・。

うん、正直に謝りたいと思う。


 「・・・・・・・・・このクラス」


ぼくは振り向かず、扉の向こうから発生している騒音にも近い部屋を指差す。

プレートには、2−Aという文字が印刷されていた。


 「五月蝿くて、騒がしくて、いちいちテンションがハイを通り越してるけど」

 「つまり・・・騒がしいんですね?」

 「うん、そうなんだ」

 「でもそれは、元気があるってことじゃないですか。良いことですよ」


元気がある。

それは良いことなのだろうか。


 「うん、そうだね」


ぼくは同意する。

きっと、元気なのは素晴らしいことだ。

少なくとも、根暗で卑屈で陰険なクラスよりはマシであろう。

ぼくのように少しばかり落ち着きすぎているやつよりはマシであろう。


 「とにかく、悪い奴等じゃないことだけは保証できるよ。誰にしろそうだろう?」

 「・・・・・・・・・・・・はい」


え、なんでちょっとばかし空白の時間があったの?


 「・・・・・・・・・・・・神楽坂と、何かあったの、かな?」

 「あ、いえ、決して嫌っているとかそういうわけでは」

 「・・・・・・まぁ、深くは聞かないでおこう」


ぶっちゃけ、なにかあったところでぼくには関係ないし。


 「大変だろうけど、頑張ってね」


そういって、ぼくはその場を後にしようと思ったのだが。

急に後ろからぐっ、と服を掴まれた。

この場にぼくとネギくん以外、人はいない。

つまり、掴んだのはネギくんなわけなのだが・・・。


 「・・・・・・なにかな?」

 「・・・・・・・・・・・・えっと」


先程からネギくんはちらちらとぼくの顔を見つめている。

詳しくいうなら目元。

つまり、まぁ。

そういうことなのだ。


 「ぼくに男色系の趣味はないんだけど・・・」

 「だんしょく?」

 「いや、なんでもない」


十歳児にぼくは何を聞いているのか。

思考が腐っている自分に失望しつつ、ぼくは溜息をついた。


 「・・・・・・・・・・・・いえ、なんでもありませんでした」

 「そう。じゃあ、ぼくは戻ってるから」


扉を閉める前に、強めの視線が背中に注がれた。

先程もいったが。

この視線は、ネギくん以外には有り得ない。

その視線を遮るかのように、ぼくは扉を閉めた。


さて、挨拶だけして帰ろうかな。

〈続く〉

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