「澪、お前は人殺しが正しいと思うか?」
目の前の少女。
エヴァンジェリンは、唐突にそんな質問をぼくにぶつけてきた。
此処は図書館。
本来なら、そんな内容の会話は慎むべきなのだが・・・。
ぼくは手に持っている分厚い文庫本を閉じ、そっと問いに答えを返した。
「思わないな。そんなこと、思っちゃいけないことだろ」
考えてもみれば。
そんな質問、ぼくはされるまでもなく即答できる。
人殺しは最低だ。
人を殺したいなんて感情、人間は抱いてはいけない。
「ふむ、例えばだ」
エヴァンジェリンは、かけていた黒斑の眼鏡を気だるそうに外した。
そしてそれを、そっとぼくの眼球に近づける。
あともう少しで刺さるかという位置で、エヴァンジェリンは腕の動きを止めた。
下手をすれば、失明しかねない距離でもある。
「私がこのまま腕を思い切り前へ動かせば、どうなる?」
「冗談でも考えたくないな」
ぼくは左手で、少し強めにエヴァンジェリンの眼鏡を弾く。
冗談じゃない。こんなことで失明してしまったら、首を吊りかねない。
ぼくはまだ死にたくはない。
よって、少しでも危険性のある事柄は排除しておく。
エヴァンジェリンは、ぼくのノリが悪いとでも思ったのか、先ほど以上に目が細くなっている。
ひょっとしたらこいつは、眠いだけなのかもしれない。
「じゃあ、お前は今からホテルに泊まることにしよう」
弾かれた眼鏡を再び装着し、エヴァンジェリンはにやにやとぼくを見つめてくる。
正直、寒気がした。
「貴方と同じ部屋に、飛びっきりの殺人鬼が一晩泊まりました。さて、部屋から出てきたのは誰だった?」
「最初にぼくが出てきて、後からその殺人鬼が出てきた」
「へぇ、それは何故?」
「ぼくは血塗れで、殺人鬼は死体で部屋から出てきたってこと」
ぼくの答えは意外だったのか、エヴァンジェリンはおかしそうに笑った。
正直その声は五月蝿くて黙らせてやりたくもなったけれど。
ぼくはぼく自身の答えに呆れていたので、そんなことをする気力が沸かなかった。
先ほど人殺しは最低だと言い張っておいて、どんな答えを導いているんだ、ぼくは。
「アレほど私を罵っておいて、その答えはないだろう」
「実際にぼくは人を殺さないから良いんだよ」
「私が殺してるっていうのか?」
「ご想像はご自由に」
エヴァンジェリンはきょとん、とした後、もう一度笑った。
高笑いは少しだけ図書館中に響いて。
そして。
「嘘をつくなよ、偽善者」
「キミがいうのか、吸血鬼」
ぼく等は互いに、互いを嘲笑った。
図書館には、人っ子一人いなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「相変わらず、ぼくの意思は関係ないんだね」
「澪さんは貴重な戦力ですから」
前を歩く少女達を追いかけるように、ぼくはとぼとぼと歩いていた。
望まない散歩というものは、このことを表しているのではないだろうか。
そんな錯覚さえ感じてしまうような気分だ。
まぁ、もう慣れっこだと諦めてしまえば容易いなのだが。
しかしそこまで堕落しきってしまっても、全く良いことはないだろう。
だから一応、表向きは反対しているように見せている。
早乙女辺りは気づいていそうだが。
「まぁ、どうでもいいことだよな・・・」
小声でそっと、そう呟いた。
「・・・何か言いましたか?」
「いえ何も」
綾瀬夕映は、どうでもいいところで第六感を発揮する。
この前も、綾瀬が買っていたジュースを隠していたらあっさりと見破られた。
人間、中々侮れないものである。
「・・・・・・ふぅ、今日はこれぐらいにしておきましょうか」
「何がこれくらいだ。もう軽く三時間は越してるだろ」
「八倍しないと、一日にはなりませんよ。」
「いや、それ関係ないから」
そもそもこういう風・・・つまり、男一人だけで女子四人というおかしい比率なのは何故なんだろうか。
どうせなら穂村なども誘えばいいのに。
ぼくなんかよりも、遥かに役に立つと思うのだが・・・。
というか、そもそものきっかけというものは、何だったのだろうか。
くだらないことのようで、重要なことだったような気もする。
まぁつまり、覚えていないだけなのだけれど。
「時刻は九時・・・良い子は寝る時間ですね」
「じゃあのどかと木乃香は寝ないとな」
「どういう意味ですか」
「聞き捨てならないんだけどぉ?」
ははは、と笑いあう声。
ぼく等は互いに、笑いあった。
図書館島には、ぼく達五人だけがいた。
アトガキ
どうも、幹です。
今回初めて、二次創作に挑戦してみました。
至らぬところも沢山あるでしょうが、何卒よろしくお願い致します。
最後に、読んでくれた皆さま、投稿させてくださったコモレビ様に、感謝の言葉で締めくくらせたいと思います。
本当に、ありがとうございます。
〈続く〉