―――2003年3月3日 午後12:50 麻帆良学園女子中等部 クラブ棟内広場

―――アハハ
―――キャアッ……もおっ

「よくもまあ飯食った後にも関わらずあそこまで動けるもんだな……これが若さか?」

昼飯後の腹ごなしに学園内をブラブラと散歩をしていた俺はふと縄跳びやバレーで遊んでいる生徒を見て思わず呟いた

「いやいや始君、その言葉はどうかと思うよ…」
「ん?……あ、タカミチさん。お疲れ様です」

何時の間にか後ろに居たタカミチさんにツッコミを入れられてしまった

「お疲れ。どうだい始君、副担任の仕事は?」
「どうも何も……エヴァん所でシゴかれてた方がまだマシっすよ。……アイツ等元気良過ぎ」
「あっはっは、確かにあの子達の元気の良さには僕もまいっちゃうなあ」

いや…アレを笑って流せるなんてまず無理だっての。特に神楽坂と雪広さん

―――コラ―――!!君たち待ちなさ―――い!!!

「あ?……ネギか?」
「どうやら何か騒ぎがあった様だね」

タカミチさんが広場の方に指を向けると女子中等部とは違う制服の一団が居た、確かアレはウルスラの制服だったな
その集団に向かってネギが両手をバタバタさせて何か喋っている……説教のつもりかアレ?

「アイツ…」

絶対揉みくちゃにされるって思ってるの俺だけじゃ無いと思う…タカミチさんとか

―――キャ―――ッ!かわいい―――ん!!
―――10歳の先生だって―――!!
―――ウソ―――!?この子が噂の子供先生か―――!!

5日前2−Aの教室で見たのと同じ人だかりが黄色い声が上がると同時に出来上がった
一応ネギも拒否…みたいな事はしているが「暖簾に腕押し」ってな感じだ

「……行きます?」
「いや、もう少し待とう」

そう言ってタカミチさんは俺を制した……なるほど神楽坂と雪広さんか
この騒ぎを収めるのに来て貰ったって所だな……まあ、俺の位置からだと連れてきたのが誰だかイマイチ良く分からんが

「でもあの2人ってケンカっ早いですよね?取っ組み合いとかにならないですか?」
「そこは大丈夫だろう、彼女たちだって分かってるはずさ」

そう思いたいのは山々だが……

「もう取っ組み合い始めてますよ…」

あの2人は俺の想像よりはるかに早く、タカミチさんの期待をあっさり裏切ってウルスラの生徒に掴みかかっていた
更に2−A側から2人が参加して……あ、1人は止めに入ったのか

「……向こうの方を頼めるかい?」
「了解です」

少し疲れた感じの声で呼びかけられた後、俺とタカミチさんは『瞬動』を使って取っ組み合い現場に急行し
タカミチさんは神楽坂と雪広の後ろ襟を、俺はウルスラ側のリーダー格とショートヘアの後ろ襟を掴んだ

「―――相変わらず元気だな2人とも」
「―――元気なのは良いんだけどさ、使い道をもうちょっと考えね?」
「「「た…高畑先生!?」」」

………アレ?

「で、でも高畑先生。悪いのはアイツらなんですよー」
「それでも手を出したら君の負けさ、アスナ君」
「は―――………」

伊達に長年広域指導員やっているだけあるようでタカミチさんは2−Aとウルスラのケンカをあっという間に収めた
ネギも尊敬の眼差しでタカミチ見ている、2−Aとウルスラの面々もすっかり大人しくなったが
………俺は?今この場にいる皆さんに俺は認識されているのか?

「さあ皆もう直ぐ予鈴が鳴るよ、教室に戻って次の授業の準備をした方が良いんじゃないかな?」

タカミチさんの鶴の一言で当事者ならびにギャラリーが無言のうちに解散していく

「あ、あの…タカミチ…ありがとう」
「ハハハ。まあ、こういうこともあるさ」

恐る恐るタカミチさんに謝るネギにネギの頭を撫でながら励ますタカミチさん
心なしかさっきよりもネギの瞳に宿る尊敬の色が濃くなったように見えたのは気のせいだと思いたい





―――2003年3月3日 午後2:00 麻帆良学園女子中等部 屋上に通じる階段

「また俺が授業を見るんかよ……まあ体育だし、ネギも先に行ってるから何とかなるかな?」

事を遡ること大体20分前、体育の先生が奥さんのおめでたとかで急に早退した為に急遽ネギが代わりに行くことになった……が
しずな先生の「大丈夫かしら…」の一言でなし崩し的に俺も行く事になった
まあ職員室で寛いでいたからヒマそうに見えたんだろうけど………実際ヒマだったけどさぁ

「しかし何やるんだろうな、最近の中学生の体育って?」

自慢じゃないが学生……特に高校ん時は結構授業サボってたから何やってたとか全然分からんのだよ

「やる場所は屋上だしな……バレーとかドッジボールか?」

我ながら「何繋がり?」と聞かれたら「使ってるボールが似ている」としか答えられんチョイスだな
まあ実際自習みたいなモンだし……好き勝手にやらせるのもアリかな

―――何ですって―――っ!?

「なんだ?また神楽坂と雪広さんのケンカか?……飽きないな、まったく」

俺は残りの階段を一気に駆け上がり、勢い良くドアを開けると……そこには2−Aの他に昼休みにいたウルスラの生徒達も居た
因みに先に行っていた筈のネギは何処に居るかと言うと、またウルスラの生徒に捕まっていたりする
………お前はス○パーマ○オのピ○チ姫か!?何度も捕まりやがって!!

「お前等全員静かにしろぉっ!!」

俺はこの間教室でブチ切れた時位の大きな声で叫んだ、正直女子生徒相手にここまで大きな声を出さなくても良いかと思ったが
昼間の一件があったので若干の自己主張も入っていたりする

「この騒ぎを発端から説明してくれ雪h……じゃない絡繰」
「はい、始先生」

クラス委員長の雪広さんに聞くのが筋なのかも知れないが、状況を見てネギ絡みなのは簡単に分かったので茶々丸に聞くことにした
因みに学校及び授業中には茶々丸に俺のことを「先生」付けで呼ぶように言っておいた

「…2−Aが来る前に既にウルスラが居た、か」

コイツら授業サボってお礼参りに来たのか?

「ね、ねえハジメ」
「ん?どうした?…つか今は「此花先生」だろうが」

何時の間にか開放されたネギが上着の裾を引っ張ってきた

「ここはボクに任せて……ボクは2−Aの担任なんだからボクが解決する」
「お前…」

意外なネギの言葉に目頭が熱くなるのを感じ……る訳なんぞ無いが、任せてみようと思わせる何かを俺は感じた
ネギに俺は無言で頷くとネギは2−Aとウルスラの間に立った

「あ、あのっ!どんな争い事でも暴力だけはダメだと思います!!」

…耳が痛いセリフだな。俺学生の頃基本暴力

「それでですね、今から両クラス対抗でスポーツで争って勝負を決めて下さい!
 さわやかに汗を流せばつまらないいがみ合いも無くなると思うんです!」

なるほどこの場をムリヤリ収めるんじゃ無くて別の事に矛先を向けたか、それに白黒付ければ両方とも一応納得はいくだろうしな
んで少しモメたものの両方共に承諾、競技はドッジボールで決まった(バレーだと体格に差があるとの事で2−Aが却下した)
更に高等部から通常11人対11人の所をハンデとして22人対11人で勝負する事となった



……

………

ボンッ!ボボンッ!ボンッ!

「ゴー!ゴー!レッツゴー!2−A!!」

話が決まった直後、バレーのネットとポールを片付け「ねぎチーム」「女子高生チーム」と書いたスコアボードを「俺が」用意した
高等部は始めっから期待はしてなかったが2−A側も手伝わなかったのは少しショックだ
期待していた桜咲は壁際で龍宮と何か話しているし、茶々丸は花火を打ち上げている………どっから出した?ソレ?

「副担任って何なんだろうなぁ……」

チア3人組の華やかさとは裏腹に俺は軽く落ち込んでいたりした

ゴッ

「あいたっ!」
「足引っ張ってんじゃないわよ!ネギ坊主ーッ!」

ビシュッ

「あたっ」
「ナイスアスナ―――!!」

何やらニヤついていたネギの後頭部にボールが当たったが、空中で神楽坂がキャッチしそのまま着地と同時に投げて一人アウトを取った
相変わらず運動能力は高いな神楽坂は……今のジャンプも1m50位飛んだんじゃねえか?

「よろしいですわ、このケンカ絶対に勝ちますわよ!!」
「OK!!」

雪広さんと神楽坂が気合を入れてる後ろでネギが半泣きで何か言ってるけど……まあ良いか、元気そうだし

「けどなあ……」
「相変わらずの癖だなソレは、何を考えている始?」

完全に観客になっている(俺もだが)エヴァが話しかけてきた、しかも何時もの癖にツッコミを入れて

「ああ、今2−Aってハンデとして人数倍でやってるけども……これって本当にハンデか?」
「ほう、何故そう思う?」
「何故って…陣地はお互い同じ大きさなんだから人数多い分逃げ場が無いつーか」
「ふっ、その通りだ始。向こうを見てみろ」

エヴァが顎で2−Aの皆の方を指したので視線をずらすと

ボンッボコッボン

「あだっ」
「いてっ」
「あうっ」
「2−A、3名アウトです!」

あー……

ボボボンッ

「あっうそっ」
「ひゃっ」
「あ―――」
「あ」
「2−A、更に4名アウトです!」

あららー…

「考えていた通りだな始」
「なあ、コレって向こう利口なのか?それともこっちがバカなのか?………やっぱ答えなくていい」

どっちにしろ惨めなのは変わんないからな、とまたまた軽く落ち込んでいると
向こうのリーダーっぽいのがバカ力の神楽坂のバカ力投球を片手で受け止めていた

「アンタッ!今、失礼な事考えてたでしょっ!?」

神楽坂がイキナリこっち向いて叫んできた……なんで分かった?

「そこッ!私の話を聞きなさいっ!!」
「知るかぁ!」

今の神楽坂とのやり取りで聞き逃していたので茶々丸が教えてくれたのだが
あいつ等高等部の正体はドッジボール関東大会優勝チーム麻帆良ドッジ部「黒百合」と言うらしい
しかしわざわざ「ドッジボール関東大会優勝チーム」って付けんでも良いんじゃないのか?いや、一々言うのめんどくさいだけなんだが

「なるほど、ハンデの件は専門ならではって所かね」
「専門だろうが何だろうが、引っかかった方が悪い」
「…正道邪道はともかくとしても手段としては結構良いな」

それにさっきの「ボールをとる気が無い奴」を狙った手口や、今のフォーメーションを使ってアウトを取ったりと
かなり本格的に攻めて来ているな………ヤバいか?コレ?

「しぃ!!アレ行くわよ!!」
「OK!」
「必殺―――太陽拳!!」

バシィ

「あたっ!」
「もう一撃っ!」

バシンッ

「あんっ」
「なっ…2度も当てて!?」
「何やひきょー者―――っ」

高く飛び上がって太陽を背にしバレーのアタックの様にボールを撃った黒百合リーダー
神楽坂は太陽の光で怯んだ隙を狙われ残念ながらアウトになってしまった
ネギ達が「卑怯」と言っているのは跳ね返ったボールを黒百合のリーダーがキャッチし、もう一度神楽坂にぶつけたので
それへのブーイングなんだと思う

「おだまり!どんな汚い手を使ってでも勝つ!!それが「黒百合」のポリシーなのよっ!!」

ゴオオオォォッ

「な…何!?この風は!?」

突然屋上に強い風が吹いてきたのでネギの方を見ると案の定魔法の詠唱中だった、いくらネギでも今神楽坂にやられた事は許せないらしい
だがその詠唱は神楽坂の軽いゲンコツで中断された

「フン、これで終りか?」

エヴァは他人事の様にきっぱりと言い切った、確かに神楽坂がアウトになった事により2−Aの士気はガタ落ちになった
…が、まだ一人だけ諦めていない人物が居た

「み、みんなあきらめちゃダメですっ!さっきアスナさんが言ってたじゃないですか、後ろ向いていたら狙われるだけだって
 前を向けばボールを取れるかも知れないんです!が、がんばりましょうっ!!」
「そ、そーだね。負けたらネギ君あいつらに取られちゃうんだもんね」
「う、うん。このままなめられて終れないよ」
「よ―――し!」
「そーだファイトー2−A!!」

それはネギだった、ネギの一言で2−Aの士気は見事に復活…いや、今が一番高いんじゃないのだろうか?と思う位高まった

「アイツ…立派に先生やってんじゃねえか」

これが今日の昼休みに「黒百合」相手に情け無い説教モドキをやっていたのと同一人物だとは思えなかった

「フン…」

だがエヴァだけは何処となく面白くなさそうだった



……

………

ネギの激励の後の試合展開は「圧倒的」の一言だった
先ず、宮崎さんと綾瀬さんが相手の反則(5秒ルールとか言ってたな)でボールを奪うと、大河内さんが投げて1人アウト
リターンで狙われた和泉さんは飛んできたボールをダイレクトにボレーシュートで返し更に1人アウト
そのリバウンドを明石さんがバスケのダンク(?)の要領でボールを相手にぶつけて、またまた1人アウト
途中佐々木さんが新体操のリボンでボールを掴み(マジで!?)そのまま3人にボールをぶつけた……それは流石に無効だったが
最後古菲と超さんの2人が「ダブルチャイナアタック」なるツープラトンで一気に4人ぶっ飛ばした

キーンコーンカーンコーン…

「時間です!!試合終了―――っ!!」

結果10対3で2−Aの勝利となった

「「「やった―――っ!!勝った―――っ!!!」」」

2−A側は大喜びし「黒百合」側は床に座って落ち込んでいた

「スゲエな…コレは普通に驚いた」

相手は年上、更に相手の土俵&ワナにハメられた戦いだったってのに見事勝利を掴んだネギと2−Aの生徒
俺は参加したメンバー全員に一言声を掛けようと思ってコートに駆け寄ろうとした瞬間「黒百合」のリーダーが
後ろから神楽坂を狙ってボールを投げようとしていた

「まだロスタイムよっ!!」

バシッ

「危ないアスナさんっ!」
「え?」

バチィッッ

「……おい、コレはどういう事だ?」

間一髪…マジでギリギリだったが『瞬動』を使って何とか神楽坂に当たる前に俺がボールを止める事が出来た俺は
そのまま「黒百合」のリーダーをかなり本気で睨んだ

「試合前のブラフや試合中のラフプレーはお前等の信念に基づいた行動だったって理解したが……コレは違うだろ」
「な…」

俺は喋りつつ今さっきキャッチしたボールを両手でゆっくりと「潰し」ていった

「お前等もドッジボールをやる事に多少なりとも誇りを持ってるんなら試合の結果を素直に受け止めろ
 終った後に闇討ちなんぞ大よそ外道のやる事だろうが……それともお前等の誇りはその程度の物だったのか?」

ボールを「潰し」ながら1歩2歩と歩くと向こうも同じように1歩2歩と下がっていった

「そして、もしお前等がそれでも構わないと言うんだったら……」

限界まで潰されたボールを持ちつつ一度半身に構えて……一気に前に押し出すっ!!!

「おぉぉ……らあっっ!!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」

ズバァンッ

ボールはリーダーの横をすり抜けそのまま壁にめり込んだ、引っかかったのか深くめり込んだのか知らんが床には落ちていない

「そん時は俺が相手だ………それ相応の覚悟をするんだな」

そのまま踵を返して職員室に戻っていく俺………「またやり過ぎちまったか?」と自問自答しながら
そういや最後「黒百合」のリーダーが「陸王○馬のパ○ーショット……」なんて呟いていたが、今のアレに名前なんてあったんだ





―――2003年3月4日 午前8:10 麻帆良学園女子中等部 職員室

「此花先生ぜひ私達「黒百合」のコーチになって下さい!そして……あの○ワーショットを教えてください!!」

次の日の朝、「黒百合」のリーダーとビビ(と呼ばれてた)としぃ(と呼ばれてた)3人が中等部の職員室に来て
俺をコーチに勧誘しに来ていた……なんでやねん




あとがき

暑いですね〜><S'です。盆地の暑さ、寒さは異常だと思います><………あぁビール欲しいわぁ
今回の冒頭で「遠くから聞こえる声」というものに挑んでみましたが……イマイチ感がにじみ出てる><

〈続く〉

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