―――2003年2月25日 午後12:35 麻帆良学園女子中等部 屋上

本日早朝、女子寮で女生徒のかなり大きな悲鳴が女子寮中に響き渡った
変質者が寮内に侵入しイタズラや下着泥棒の可能性があったので俺は朝の5時前あたりから一人で寮の敷地全部を見回る事になった
結局は変質者のへの字も見つからず、そして俺には早朝ムリヤリ起こされたムカツキと疲労が蓄積するだけだった
そして朝にも嫌な事…と言うか事件と言うか……なんつうか……
とにかくそんなモヤモヤとした気分は美味な昼食でキレイに洗い流そうと思いたった俺は、購買部で男女問わず一番人気のカツサンドと
パックの牛乳を持って中等部校舎の屋上で昼飯を食っていた

「牛乳を飲むタイミングを計りながら食うこのカツサンドの味……この微妙なソースがこの上なく芳醇かつまろやか
 そして某コンビニより大きいこのサイズ……これで1パック(2個入り)210円は安い、やるな麻帆良購買部」
「お前はこんな場所で何を一人で喋っている?」
「お昼ご飯中失礼します」

人がカツサンドを感動しながら食っている最中、後ろから感動をぶち壊してくれたロリババア吸血鬼と茶々丸
因みに俺は早朝からのムカツキでほんの「少し」だけ容赦が無い

「なんだよエヴァ?……なんも用事が無かったら暫く一人にさせてくれ、このカツサンドを感動しながら味わってんだ」
「朝のアレの事ならお前が気にする事では無い、ぼーやや他の小娘達には良い薬だ」
「……皆マジでドン引きだったじゃねーか」





―――2003年2月25日 午前8:40 麻帆良学園女子中等部 2−A

「The fall of japan the fiower. Spring came. Jason the flower was born on a branch of a tall tree.……
 ―――今の所、誰かに訳してもらおうかなあ?えーと………」

今はネギの英語の時間。ネギが教科書の英文を読んで、それを生徒の誰かに訳させようとクラス中を見渡していたが
流石と言うべきかどうなのかは分からんが、自信の無い生徒は自然な動きでネギと視線を合わそうはしなかった

「………」
「ぅっ………」

だがネギの方で標的(クラス的には生贄)を見つけたようだ

「じゃあアスナさん」
「なっ…何で私に当てるのようっ!?」
「え…だって」
「フツーは日付けとか出席番号で当てるでしょ!」

当たってしまった神楽坂は往生際が悪かった……が、結局最後は抵抗するのを諦めて英文を訳し始めた

「ジェイソンが…花の上に…落ち…春が来た?ジェイソンとその花は……えと……高い木で食べたブランチで…骨が百本?
 えーと…骨が…木の………」
「―――アスナさん、英語ダメなんですねぇ」
「なっ…!?」

ネギがくすりと笑ったのを皮切りにクラス中でも笑い声が上がってきた

「アスナは英語だけじゃなくて数学もダメですけど」
「国語も…」
「理科、社会もネ」
「要するにバカなんですわ、良いのは保健体育…専ら運動だけで…」

ガァン!!!!!

気が付くと俺は副担用に宛がわれてた机を右の拳で全力でぶん殴っていた、殴られた机はまぁ…聞くな

「テメェら……ここが何処で今が何やってる時間か分かってんのか!?あぁっ!?
 学校だろうが!授業中だろうが!!分からんくても当たり前じゃねえか、これから覚えるんだから!!!」
「………」
「それと今神楽坂の事笑っていたヤツ、一度でも体育の時間に神楽坂からバカにされたり笑われたりされたか?
 されたってならともかく、されてないんなら笑う資格なんぞ欠片も無え!!……それとネギ先生!!」
「はいっ!?」
「お前はこのクラスの担任だ、それなのに自分の生徒をバカにしてどうすんだ!?ああっ!?」
「ご…ごめんなさい……」
「………はぁ、もういい授業に戻りな。邪魔して悪かった」

マジ泣きしそうなネギの顔を見て一気に冷めた俺はネギに授業に戻るよう促して、俺は「元」机を片付け始めた
しかしさっきまでの柔らかい雰囲気など微塵も無く、思いっきり重たい雰囲気のまま授業が進んでいった





―――時は冒頭に戻り 麻帆良学園女子中等部 屋上

「フツーに地出しちまったしなぁ…」
「おや、なに落ち込んでいるんだい先生?」
「龍宮……分かってて聞いてるんだろ?」
「フフッ」

今度は龍宮か……こうなると次は桜咲辺りが顔を出してきそうだな

「刹那なら来ないよ、今は「お嬢様」を警護している最中さ」
「は?「お嬢様」って誰?」

ってか心読まないで下さい

「知らないのかい?……まぁそのうちに誰だか分かるさ」
「何だよそれは…」

しかし桜咲が警護……SPとかガードマンみたいな事している感じには見えなかったけどなぁ
大体俺が見てた限りだと教室の中に居たし、誰かの側にピッタリと付いていた感じも無かったし

「フン、あの程度で警護とは笑わせる」
「それは本人に何度も言ったさ……それでもあのやり方を変えるつもりは無い様子だったよ」

…エヴァも「お嬢様」って誰か知ってるんかい、ってかフツーに教えてくれたって良いだろうよ

「はあ、残りのカツサンド食ってっか…」

イマイチ「お嬢様」が誰なのか掴めない俺はその会話から外れてカツサンドの味わいに浸った………逃避とか言うな





―――2003年2月25日 放課後 麻帆良学園女子中等部 玄関ホール

「あ〜…つっかれたぁ〜…」

放課後近くになれば流石に雰囲気も元に戻ってるだろうと期待していたが、帰りのSHRまでもあの重たい雰囲気だとは……
昼休みにエヴァは「お前が気にする事では無い」とか言ってたが正直無理な相談だ

「さて……何て言うべきk「あいたっ」……おっと」

考えながら歩いてたので誰かとぶつかってしまった

「あ、ハジメ」
「あぁネギか?すまん考え事してた」

ぶつかったのは謎の液体(危険物か?…だったらジジイにかけてやりてえな)が入った太い試験管を持ったネギだった
どうやら朝の件で俺の事を探していたらしい……謎の液体の方は俺と全く関係が無いとの事だった

「朝の事…なんだけど、クラスの皆すっごく反省してて…ボクもハジメとアスナさんに謝ろうと思って…それで……」
「そっか…」

何となく救われた気がした俺は自然とネギの頭を撫でていた……最近マジで癖になってきてないか?俺?

「正直俺も言いすぎた部分もあったし、分かってくれれば良いよ………でネギ、その液体何だ?」
「え゛?」

話の矛先を謎の液体に変えた瞬間ネギの顔が引きつった気がした

「こ…これ?えと……ポ、回復薬(ポーション)だよハジメ」
「………!!」

ポーションとな!?コレが古今東西RPGの回復アイテムの代名詞の一つの!?
ある意味、憧れの象徴でもあるソレをガン見していた俺にネギから更なる感動がサプライズされた

「じゃあ…半分飲んでみる?」
「おおっ!良いのか!?」

差し出された試験管の蓋を外して中身の液体を半分ほどゴクリと飲んだ……味は全く無かった

「……やっぱゲームみたく直ぐに効果が出るってもんじゃないか」

正直飲んですぐに効果があると思っていた俺には拍子抜けな部分もあったが
考えてみりゃ殆どの薬ってのは飲んで少し経ってから効果が出ると相場が決まっているもんだ

「…じゃあボクアスナさんの所に行くね」
「おう、ポーションサンキューなネギ」

そそくさと小走りで階段を上って行くネギを見送った後に俺は一つ思い付いた

「…俺の方も一言くらい言っておいた方が良いな。地出しちゃったし、机一つ亡き物にしちまったからなぁ」

実際、明日の朝のSHRでも良かったのかも知れないが俺は早くこの気持ち(…とでも言うのかな)を伝えたかった
……まるで某3年B組の担任になった気分だな、と思ってたりもする
俺はネギに追いつこうと階段を2段飛ばしで上り折り返しの踊り場の所で長谷川さんとザジさんに出合った
ぼそぼそと「ピエロのコス…」とか「使えねーかな…」とか聞こえたが今はスルーする事にする
俺が近づいた所で2人は気付いたらしく揃って俺の方を向いた
―――だが、その瞬間から世界が変わった

「………ぽっ///」

バッ

「おおぉっ!?」
「………捕まえた」

一瞬何が起こったか全然分からなかったが今の状況はハッキリと分かる
……ザジさんが何時の間にか俺におぶさり更に離そうとしない、何か前にも似たような状況無かったか?

「ちょ…降りれって」
「………イヤ」

ヤバい、この状況は非常にヤバい……もしこの状況を刀子さんに見られたりしたら確実に首と胴が離れ離れになる!!

「…先生」

そうだ長谷川さんが居たんだ、長谷川さんにも説得して貰って何とかザジさんを俺の背中から下ろしたい

「頼む長谷川さん、ザジさんに降りるy「ちうは先生の事誤解してたぴょーん」…ぴょーん!?」

何だ!?何が起こった!?

「こんな身近に最高の素材が居たなんて……」
「あのー…長谷川さん?」
「先生!ちうと2人でネットアイドル界を牛耳るぴょん!!」
「なんですとっ!?」
「大丈夫っ!先生の銀髪に似合うコスも沢山用意出来ますから大丈夫っ!!」

…何が大丈夫なのか全く理解できないがこの場に留まることはこの上なく危険だという事は本能的に理解できた
理解できた瞬間俺は回れ右をして逃げ出そうとしたと同時に

「逃がさないぴょーん!!」
「うおっ!」

腰に恐ろしい速度で腕を回され、左脇腹辺りに長谷川さんの顔が当たった………簡単に言えば抱きつかれたんだよ
つかどうすんだ俺!?ザジさんだけでも十二分手に余ってるってのに長谷川さんも追加されてるこの状況

「チッ、とりあえずどっか人目の無い場所に行こう。こんなの他の生徒や先生に見られたら絶対只じゃ済まねえ……特に刀子さん」
「始先生っ!!お嬢様がネギ先生を追いかけて行って、そのまま行方が分からなくな…って……」

後上から桜咲の声が近づいて来たのでそっちを向くと……軽く目がイッている桜咲が居た
因みに今俺の頭を「2度ある事は3度ある」ということわざが過ぎった

「せんせぇ……ウチ…ウチ…」
「頼む桜咲、気を確かに持ってくれ。お前まで正気を無くしたら正直俺は誰に頼ったらいいか分からん」
「イヤやぁ!せんせぇ〜ウチのこと捨てんといてぇ〜」
「誤解を招く発言をすんじゃねぇ―――――!!!!!」

爆弾発言をかましてくれた桜咲はそのまま長谷川さんの反対側に抱き付いて来た……その上更に

「「はーちゃんせんせー!!大好きー(ですー)!!!」」
「誰がはーちゃんだ―――――!!!!!」

何時の間にか近くに居た鳴滝姉妹がそれぞれ俺の腕に抱き付いて来た、右にツインテールで左にお団子といった感じ
一体何が原因でこうなったか何一つわかんねぇ、神は俺にこれ以上何をしろと言うんだ?何を期待しているんだ?

「は…早くここから逃げ出さないと……更に泥沼化するk「始ぇっ!!」…ハイ、泥沼化確定」

今度は下からエヴァが魔法薬の入った試験管やフラスコを両手に持てるだけ持って仁王立ちしていた
因みに茶々丸はビデオカメラで俺とエヴァを交互に録画していた

「お前といいナギのヤツといい……私の気持ちを弄んでそんなに楽しいかぁっ!?」
「お前も爆弾発言かっ!!!!!」

今更だがもう駄目だ、四の五の言っている場合じゃない……逃げるっ!!
俺は未だ5人引っ付いたまま『気』で全身を強化し、踊り場からエヴァの頭上を飛び越え1階に降りたが

ガチャッ
ジャキッ
ゴキリッ

聞きたくない音が聞こえた、感じたくない気配を感じた、居て欲しくない人影を確認してしまった

「先生……是非聞いて欲しい話があるんだ」
「拙者もでござる」
「ワタシもアル、哥々(ココ)」
「奇遇だな、俺の方はそんなヒマは欠片も無い」

前門の武道派

「逃がすか始……今日こそ……今こそハッキリさせてやる……」
「何をハッキリさせるか知らんが、今俺にそんなヒマは微塵も無い」
「マスター、頑張って下さい」

後門のエヴァ+撮影係の茶々丸

……命……いや俺という「存在」自体の危機か?コレは?

「「「「私の(拙者の)(ワタシの)想いを受け取って(下され)(アル)!!!!!」」」」

ドゴォッ…

4人の一斉攻撃でホールの床が派手に陥没した…良く見ると弾痕やクナイがチラホラ見えた
俺はと言うと攻撃と同時に5人抱えたり背負って垂直に天井スレスレまで飛んだ

「「「「逃がすかぁっ!!!!!」」」」

第2波が飛んでくる、正直この4人なら反撃かましても何一つ問題は無いと思うんだが、俺の上半身には5人の女生徒が引っ付いている
何度でも言うが5人引っ付いているんだ、フツーに考えてドンパチ出来る訳が無いだろ!!!
そして今空中に浮いていて無防備もいい所の俺が取れる最善にして最上の逃げる手段は……

「練習中のぉ……虚空瞬動―――――!!!!!」

まだ2連しか連続では出来ないが一応1回で7〜8m位の距離までは移動出来る、これであの4人から距離を…

「甘いでござるっ!」

…と思ったら長瀬さんが同じく虚空瞬動で追って、更にクナイを投げて足止めして来た

「なんですとぉ―――――!?」

必死にクナイを避けている最中他の面子が合流……もうこうなったらヤケだ!俺が力尽きるのが先かアイツらが力尽きるのが先か
持久力勝負と行こうじゃねぇかぁ!!!バッチ来いコノヤロウ!!!!!





―――1時間後 麻帆良学園女子中等部 屋上

「……はて?拙者達は何故此処に居るのでござる?」
「……ワタシ達教室に戻ろうとしてたはずアル」
「何でーーー?」
「ですーーー!」

こっちは…ハァッ…deathの方の…ハァッ…デスだってんだ……

「なっ何でアタシは此花に抱き付いてんだ!?」
「…………?」
「わ、わ、私はどうして始先生にっ!だ、だきっ…」

体力が尽きる前に皆が正気に戻ってくれて助かったよ……いやマジで

「私の眼が曇らされるとは…」
「クッ、私としたことが…あんな魔法に…」
「ん?何か……知ってるのか?」

何故か自己嫌悪に陥っている龍宮とエヴァ、殆どフラフラな俺は茶々丸の肩を借りて2人に近づく
…すると2人はこの騒ぎの原因らしき物の話をしてきた
それによるとさっきまで俺にかなり強力な『魅了』の魔法が掛かっていたらしく、俺を一目見た瞬間から術中にハマったとの事
俺もそういう魔法は使えるがそれは『悪魔化』しないと無理な話、となると他に心当たりは………

「ネェェェェェギィィィィィ―――――――!!!!!!!マジで世間体や人生の終わりだと思ったぞコラァァァァァ!!!!!!」

人間ブチ切れると色々な所がぶっ飛ぶらしく、今の今まで体力なぞカツカツの状態だった筈なのに
犯人がネギだと分かるや否や全力疾走で走りぬける自分が居た



……

………

「見つけたぞぉぉぉ……ネギぃ……マジで怖かったんだぞアレは……」
「あぶぶぶぶ……」
「覚悟しろぉお!!!」
「うわぁ〜〜〜〜〜〜ん!!!お姉ちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」

…その後、神楽坂による必死の説得により始からの尻叩き50発で事無き(?)を得たネギだった





あとがき
ホレ薬騒動でしたS’です
もうちょっと修羅場にしてもいいかな〜………なんて思ったりもしましたがこの程度(?)にしました
しかし…↑の面子と予想出来た方はいたかな〜

〈続く〉

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