―――2003年2月24日 放課後 麻帆良学園女子中等部 ダビデ像前

嵐、台風、暴風……そんなモノでは表現しきれない程騒がしかった授業が終り
今俺とネギ君はダビデ像の側にある階段を椅子がわりに座って、揃って大きくため息をついていた

「「……はぁ」」

俺は疲れからの、ネギ君は落ち込みからのため息だった

「初めての授業失敗しちゃったな……ボク、これから先生としてやっていけるんでしょうか?此花先生?」
「いやぁ…あのクラスを相手に最初っから失敗しない先生ってまず居ないんじゃないの?」

オックスフォード大学を出た天才少年だか何だか知らんけどさ、コレってレベル高すぎじゃね?
EX HARDとか地獄モードとか……そんなレベルだろ?あのクラスの相手ってさぁ?

「それにしてもなんだよなー…あの子の態度…ひどいよまったくもー…」

「あの子」とは朝っぱらからの騒動の中心人物にして本日一番の厄を背負っていると思われる少女「神楽坂明日菜」の事だ
ネギ君を襲ったトラップの一つで俺が蹴飛ばした黒板消しに俺と同じ疑問を持ったようで、それを追求しようとネギ君に掴みかかったり
黒板消しにやった事(多分魔法の事)を確かめようとして消しゴムの欠片を何回も飛ばしたりしていた
因みに神楽坂がネギ君にちょっかいをかけるとほぼ100%で雪広との取っ組み合いに発展し、俺が2人を引っぺがし仲裁した
…今日の俺の疲労の主な原因はコレだったりする、アイツらが元気良過ぎなおかげで「視線」の事なんぞ全然考えられんかったわ

「そういえば、今日はこの子の所に泊まれって言われたけど…絶対泊めてくれないと思うな……どーしよ今夜?」

「そん時はウチに来い」と言おうとしてネギ君の方を向くと―――ネギ君が出席簿のアスナの写真に悪戯書きをしているのが見えて

「ブッ…アーッハッハッハ!」

頭に角を生やしたり「いじわる」や「BOO!」って少し汚い字で書いた子供っぽい(書いたの子供だしな)落書きに全力で笑った
神楽坂には悪いと思ったが、頭から生えた角は俺の笑いのツボに見事入ったのだ

「あ…ご、ごめんなさい…出席簿にイタズラ書きしちゃって…」

そんな大爆笑している俺をネギ君は俺を不安げな表情で見つめていた、例えるなら「悪いことを見つかってしまった子供の表情」って感じ
まあ確かにメモ書きならともかく悪戯書きは褒められたもんじゃないけども、今日のネギ君と神楽坂のやり取りを全部見た俺としては
この位なら「別にいいんじゃね?」…なんて思ったので、右手で無造作にネギ君の頭をクシャクシャに撫でてやった

「うわっ」
「今日神楽坂に色々やられてたし、その位ならいいんじゃねえか?……ま、本人には見られないようにしないとなぁ」
「え……でもボク先生だし…」
「そんな24時間ずっと肩張っていようとすんじゃないよ、今は放課後なんだぜ別にちょっとふざけててもいいじゃないか
 ……そうだ、これから放課後やプライベートの時は俺のこと始って呼ぶこと。因みに俺もネギって呼ぶからさ」

いきなりな俺の提案にネギ君…もといネギは両目を限界まで大きく開いて驚いていた

「あのっ…そんな…ダメですよ、ボクより此花先生の方がずっと年上だし、今朝だってすごく立派だったし…」
「年上ってのは兎も角としても…別に俺なんて全然立派じゃ無いよ、今朝の事なんてそれなりに生きてりゃ誰でも言えるさ」

立派って言うならネギだって正直立派だろうよ、「修行」だか「課題」だか知らねえけどイギリスから一人でこっちに来て
自分より年上達に対して「先生」なんて大役をしなきゃならないんだから
俺がネギ位の頃なんざ、転入した先のクラスで浮いて一人ぼっちになってて……やばいテンション下がってきた

「でも……」
「なら友達になるか?友達同士なら別にふざけてても大丈夫だろ?」

そう言って俺は右手をネギに差し出す、出した直後は戸惑ったもののネギはすぐに笑顔になり差し出した手を握り返してきて

「うんっ!よろしくねハジメ!」

と元気良く返事を返してくれた



……

………

「あれ…」
「ん?どした?」

ネギからイギリスに居るというお姉さんと友達のアーニャって子の事を聞いている途中でネギが突然俺とは違う方向を見て声をあげた
俺もネギが見ている方を見ると、そこには両手で本を15〜6冊程担いで階段をヨロヨロと降りる宮崎さんが居た

「あれは27番宮崎のどかさん……たくさん本持って危ないなあ」

危ないなんてもんじゃねえ、宮崎さんは俺の知る限りでは運動神経ワースト5に入る程の実力者
そんな娘が両手でたくさんの本を抱えながら(多分視界もめっちゃ悪い)ヨロヨロフラフラで階段を降りているのを見て
「安全」なんて言葉なんぞ欠片も出てくるわけが無い……そう思った途端

「きゃああああああ!!」
「「やっぱりっ!!」」

足を挫いたか階段を踏み外したか分からんが、宮崎さんが階段のかなり高い位置から転落した
『瞬動』使ってもギリ届くかどうか微妙な距離……けど、やらねえと宮崎さんが……

「『風よっ!』(ウエンテ)」

ブワッ

!!っネギの魔法か!?宮崎さんが地面にぶつかる瞬間、本数冊と宮崎さんがふわりと宙に浮いた

「ナイスッ!ついでに行って来いネギッ!!」
「へ?……うわあぁぁぁ!!」

刹那、俺はネギのベルトの後ろを掴んでネギを「投げた」

ズシャ―――――

「あでぼっ」

さながら「人間大砲」になったネギは見た目無事に宮崎さんをキャッチしたのだが…

「ネギッ!宮崎さんに怪我はっ!?………あ」
「アタタタ…だ、大丈夫?宮崎さん………あ」

どんな運命の悪戯か、または悪魔の采配か……ネギと宮崎さんと俺の前に神楽坂が立っていた

「………」
「………」
「………」

まるで時間が止まったような沈黙―――そしてそれを破ったのは神楽坂だった

「あ……あんた……」
「……あ…いや、あの…その…」

ババッ―――ドドドドドドドドド……

神楽坂は俺がさっき拾ったネギの杖を奪うとそのまま俺と宮崎さんを置き去りにして
ネギをお姫様だっこで向こうの茂みの奥に連れ去って行った

「お〜い……っと宮崎さん、大丈夫?」
「あ、はい〜…大丈夫みたいです」

神楽坂に連れ去られたネギも心配だが宮崎さんをほおって置く訳にもいかない、小走りで俺は宮崎さんに近づき声をかけた
まあ…なんだネギ……来日1日目で魔法の事バレそうだけどお前なら大丈夫だ……多分
俺ってば記憶を消したりする魔法って使えないからこうやって応援するしか無いんだよね
……あ、『ドルミナー』で寝かせて無理矢理夢オチにするってのは良いかも。今度試してみよう

「しっかし、いっぺんにこんなたくさんの本担いで……危ねえぞ」
「ご…ごめんなさい……」
「ま、これに懲りたら次からは誰かに手伝ってもらいな」

周りに散らばった本を拾い集めながら宮崎さんに注意する、今回は運が良かったものの次からはどうなるか分からんからな
キチンと釘を刺して置かないと……とこれで最後だな

「ああ、そうそう実際にキャッチしたのネギd「いやあ―――――――――――っ!!!」……今度は何だ!?」

神楽坂の悲鳴?……まさか今朝の二の舞か!?

「おい!ネg「待て」……グエッ!」

ネギと神楽坂が居る茂みに行こうと前に出た瞬間、誰かが俺のYシャツの後ろ襟を掴んだ……かなり苦しい

「げほっ……誰だ?」
「私だ」

お前か、また騙された………じゃねえっ!!

「何しやがるエヴァ?」
「お前に用事だ始、今直ぐ私と一緒に教室に来い」
「用事?ちょい待て、これから宮崎さんを手伝って図書室に行こうとしたんだけど……その後じゃ駄目か?」
「それならもう茶々丸にやらせている」

「見ろ」と顎で指示した方向を見ると茶々丸が本を担いで宮崎さんと一緒に歩いているのが見えた……地味に距離が離れていたりする

「じゃああの2人は…」
「そっちにはもう既にタカミチが行っているから問題無いだろう……それとも何だ?お前は私の迎えでは不満か?」

「…」のあたりから不機嫌になっていくエヴァ、このままだと久々に「エヴァ火山」が噴火してしまう
家ん中や『別荘』の中なら面白いが流石に学園のド真ん中ではマズい

「いや、不満なんて無いよ、むしろ光栄の極み……ってヤツ?」
「フン……だったら行くぞ」
「了解「キティ」ちゃん」

俺がタカミチさんから聞いたエヴァのミドルネームの一つを呼ぶとエヴァの動きがピタリと止まり「ギュン」と俺の方を向いた
ついでに言うとエヴァのフルネームは「エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル」だそうだ

「始……その名で私を呼ぶな」
「ん?いいじゃんカワイイんだから………もしかして名前に関して何か辛い事とかあったか?」
「いや、そうではない……だが私には似合わんだろう「キティ」などという名前は……」
「似合うよ」
「なっ!?」
「「名は体を現す」だっけか?アレを地でいっている感じで俺は良いと思うけどな」

そう言いながら俺はエヴァの頭を撫でた……何かもう恒例になってる様な気がする。エヴァの他にも桜咲とか、刀子さんとか…

「……50点だ」
「何がっ!?」
「もっと女を褒める言葉を勉強しておけ始……ほら、行くぞ」

そう言ってエヴァは俺の側から離れて校舎がある方に歩いて行った………そんなに悪いんか?今の?





―――2003年2月24日 放課後 麻帆良学園女子中等部 2−A教室内

さっきエヴァに「教室に来い」なんて言われた時、俺はどんな無理難題を言われるのか…と不安に思っている部分があった
…が、そんな不安は教室に入り黒板を見た途端、それは一気に吹き飛んだ
何故なら黒板には「ネギ先生歓迎会―此花先生も一緒だよ―」と書いてあったからだ
……普通に「ネギ先生と此花先生歓迎会」とかで良いんじゃないだろうか?
更に言えば俺が教室に入って来た時は拍手だったがネギが神楽坂と教室に入ってきた時はクラスの半分がクラッカーを鳴らしていた
もっと言うと今ネギは「主役はまんなか〜」と言われて教室のド真ん中に座ってるが
俺はそこから少し離れた場所にタカミチさんとしずな先生と一緒に座っている……そこそこ傷ついたぞ、俺は
因みに…と言うか当然の事だが飲み物に酒類は一切無い、それを知ったエヴァはかなり不機嫌になっていたがそれには目をつぶろう

「どうだい始君、副担任の仕事は?」
「タカミチさん……俺がこうなる事知ってましたね?」

疑問文に疑問文で答えるのはあまり褒められたもんじゃないが…これはハッキリと聞いておきたい

「アハハ…学園長から口止めされててね……」
「……あのジジイ」

いっその事ダメージを与えるんじゃなくて『ハマオン』辺りで昇天させた方がいいんじゃないだろうか?何か邪悪そうだし…

「うふふ…でも此花先生は十分にネギ先生のサポートをされてますよ、授業中の騒ぎをちゃんと収めたりしてましたし」
「殆どソレしかやってないですけどね……」

それは言わんで下さいよ、しずな先生……俺はあの2人専用のストッパーじゃ無いんですから



……

………

辺りが暗くなったので歓迎会はお開きになる事になった
途中神楽坂と雪広が飽きもせずにケンカしたり、古菲が「早く勝負して欲しいアル〜」なんて言ってきたり
それに便乗してきた長瀬さんも「古がそんなに言う御仁なら拙者も1手お願いしたいでござる」って言ってきたり…ござる?
ネギが神楽坂とタカミチさんの間を何往復もして、神楽坂が何回もコケてたり
四葉さんにテーブルに並んであった料理のコツを教えて貰いつつ意見交換をしたり
階段の方でクラスの半分位がギャーギャー騒いだりとしてたが……無事(なのか?)にお開きになった
片付けも終り、寮に帰る途中校舎の玄関でネギの方から神楽坂と仲直りしたという話を聞いた
…何でも歓迎会中に仲直りしたそうだが、そんなタイミング何処にあったんだ?
それはともかく、晴れてネギは神楽坂と近衛さんの部屋に居候という形で寮に住む事になった
近衛さんは面倒見が良さそうだから食事とかその辺も何とか大丈夫だと思う
そして今朝、神楽坂が言っていた「噂」とやらは残念ながら出元がわからなかったが内容は聞き出せた、聞き出せたが…
誰だよ……俺と刀子さんが毎晩管理人室で「イチャイチャエロエロいやーんばかーん」な事をしてるって言ったヤツは……
もし魔法関係者だったら誰であろうと遠慮無しに魔法か物理スキルを一発打ち込んでやろうと決心した





―――2003年2月24日 午後10:45 麻帆良学園女子中等部 女子寮管理人室

「……何だか今日はドッと疲れたな、早いけど…寝るか」

と呟いてそのままベッドにダイブした俺、携帯のアラームもちゃんとセットしておいたし寝坊する事はまず無いだ…ろう…よ

「ぐー……」





―――2003年2月25日 午前5:20 麻帆良学園女子中等部 女子寮

「キャ――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!」

この日から早朝の女子中等部女子寮内で、ある生徒の悲鳴が頻繁に聞こえるようになったとか……イイ迷惑だよ、チクショウ





あとがき
暑っいわぁ〜……ビールが飲みたいわぁ〜……S'です
これにて原作1話終了、長かったなぁ^^;

〈続く〉

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