―――2003年1月8日 午後2:04(外の時間) エヴァ宅 『別荘』内 浜辺

エヴァンジェリンの案内で建物を出て大きならせん階段を降りて行く
途中から漂ってきた焦げ臭い匂いに少し顔を顰めながらも進んで行くと始さんが暴れていたという浜辺に着いた
だがそこで見た光景は私の想像を遥かに超えていた

「これは…」

この『別荘』と呼ばれる空間を私は気温の高さや建物の周りに植えられている椰子の木等を見て「南国のリゾート」と
私は勝手ながらもイメージしていたが今見ているこの場所は大よそリゾートと呼べるモノでは無かった
草地や砂浜関係なく焼け焦げ、静かに波音と立てている筈の海は20m位先迄ぶ厚い氷で覆われ
所々大きな窪みと共に刃物で斬り付けた跡があり始さんがどれだけ、どの様に暴れていたという事が安易に分かった

「刀子さん!あそこに始先生が!!」

そしてその当人である始さんはその中でも特に被害が大きい場所で仰向けになって気を失っていた

「…始さん」
「スキャン完了、身体の方には目立った外傷は無い様です」

始さんの身体を診ていた絡繰さんが立ち上がり始さんを属に言う「お姫様抱っこ」で始さんを持ち上げました
羨ましい、と言うか私が始さんにして頂きたい。ウェディングドレスを着た私を新しい夫である始さんが…

「茶々丸、始をそこの小屋の寝台に寝かせろ」
「了解です、マスター」
「お前達もボサっとするな、とっとと付いて来い」

……!!危ない所でした、こんな所で妄想に耽っている場合ではありません
エヴァンジェリンの声で我に帰った私は刹那と龍宮さんを連れ、エヴァンジェリンの行った小屋に入って行きました



……

………

「さて、時間が余り無いがこれからお前達に有る程度説明と注意をしておかないといかん、まず精神世界の行き方だが…
 (中略)…と言う訳で私は始と精神をリンクさせる為に額を合わせる、お前達は私の手でも握っていろ」

エヴァンジェリンの説明があまりにも大雑把(省略されましたし…)でしたが要約するとこの様な事になります
1、潜る側(エヴァンジェリン)と潜られる側(始さん)とは身体の一部を触れている状態にしなければならない
2、精神世界に付いて行く為には潜る側(エヴァンジェリン)に触れて精神を落ち着かせる事

「そして注意…と言うよりも禁止事項と言った方が良いかも知れん事を伝えておく
 始の…いや全ての人間の精神世界において言える事だ」
「一体何なんですか?エヴァンジェリンさん?」

今の刹那の質問に答える為にエヴァンジェリンは一呼吸置きました、重要な物事を言い洩らさないよう注意するかのように

「むやみやたらに「記憶」に触れようとするな、例えそれがどのような「記憶」であったとしてもな」
「そんなプライバシーに反する事は幾らなんでも致しません」
「まあ葛葉刀子が言った様にプライバシーに関わる事もあるのだが、他にもきちんと理由が有る
 …仮に触れてしまった記憶がその本人にとって辛い、嫌な「記憶」だった場合精神は防衛行動を起こす」
「防衛行動?具体的には何を?」
「簡単な事だよ「異物を排除する」…それだけだ」

その一言をエヴァンジェリンが言った途端、私は彼女が言おうとしている事の意味がなんとなくですが分かってしまいました

「只単に精神が外に押し出されるなら運が良い…だが精神世界で殺されてしまうのが一番厄介だ
 何故なら精神の死は魂の死、抜け殻となり肉体が朽ちる迄現世をさ迷う事になるのだからな」
「……」
「まあ脅すつもりは無かったが、始始と五月蝿いお前達の事だったのでな一応釘は刺しておく
 …では行くぞ、始の精神世界にな」

…彼女の忠告を受けた私は少しばかりうろたえてしまいました、正直な所安易に考えていた部分も持っていましたし
ここは彼女なりの優しさを深く心に刻んでおきましょ……って!?

「エ…エヴァンジェリンさん!?」
「…エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、貴女は一体何をやっているのですか?」
「…今説明しただろう、精神世界に行くにはお互い身体を触れさせていなければならんと」
「その事については何一つ異論はありません…が!貴女のその体勢は何ですかと聞いているのです!!」
「馬乗りだ。そんな事も一々言わないと分からないのか?」
「そういう意味ではありません!身体の一部が触れているだけで良いのでしょう!?別にそこまでする必要なんて無い筈です!!
 それに!!まだ始さんにして頂いてすらいない私にそんな体位を見せ付けるなんて私へのあてつけですか!?」
「と…刀子さん落ち着いて下さい!
 …まだというのならなら私にも機会が(小声)」
「ハッ!葛葉刀子、貴様あれだけ騒がれて未だに何もしていなかったのか?なかなか古風なのだな
 …という事はまだ可能性はあるのだな(小声)」
「貴女達何を言っているのですか?…じゃなくてですね!エヴァンジェリン!!貴女のその体勢g…」



……

………

20分後、無言のまま介入してきた絡繰さんの手によってエヴァンジェリンは馬乗りの体勢から強制的に変えられ
額と額を合わせる体勢(当然互い違いです!)になりエヴァンジェリンの左右に私と刹那が彼女の手を握るという事で騒ぎは収まった

「まったく…無駄な時間を…」
「それは貴女が問題を起こすから!」
「2人共その位にしたらどうだい?時間が無いんだろう?」
「「むっ…」」

龍宮さんに諭された私とエヴァンジェリンは一瞬苦い顔をしたが直ぐに気を取り直した

「フン…では始めるぞ」
「はい!」
「わかりました」

そう言うとエヴァンジェリンは額をあてたまま呪文を唱え始めると同時に私達と始さんが入る大きさの魔法陣が足元に浮かび上がった

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…夢の精霊 女王メイヴよ 扉を開けて 夢へと誘え…(ユニンファ・ソムニー・レーギーナ・メイヴ・ポルタール・アベリエンス・アド・セー・メー・アリキアツト)

呪文の途中から…何やら目の前が暗くなって…きて…意識が遠く…



……

………





―――始の精神世界

「ここは…?」

私はエヴァンジェリンさんの呪文を聞いているうちに意識を失い、いつの間にか変わった世界を見た私はその光景に言葉を失った

「綺麗…」

例えるなら満天の星空…と言うか上下左右、目に映る光景全てが星空だった

「此処は本当に精神世界という所なんだろうか…?見た目だけなら此処は…」
「宇宙空間みたい…とでも言いたいのだろう?桜咲刹那?……因みに此処にある星の様に光っている物は全て始の「記憶」だ
 本人が覚えている、いないに関わらず全ての「記憶」が此処にある」
「エヴァンジェリンさん!?」

声のした方に振り向くとエヴァンジェリンさんと刀子さんが揃っていた……何故か全裸で

「あの…その格好は…?一体?」
「何を言っている貴様もだろう」
「えっ?……キャアッ!!」

は…裸!?何で!?どうしてウチ裸に!?

「ここは精神世界だぞ、物質である衣服など持ち込める訳無いだろうが
 ……まあイメージを固めて作り出すことは可能だが今は一刻を争う、そんなものは後回しにしろ」
「は…はい」
「ところでエヴァンジェリン、この世界の何処に始さんが居るのですか?貴女の言葉を借りるなら今は一刻を争うのでしょう?」
「当然だ、私が考えも無く只飛び込んむ訳が無いだろう……あっちを見ろ」

エヴァンジェリンさんが指で示した方向に目を向けると、そこに人が余裕で入る大きさのシャボン玉のような物の中に入っている
始先生がいた………もちろん…その…は…裸で…
私はすぐさま顔を背けたが、エヴァンジェリンさんは満足げに堂々と見ているし
刀子さんも両手で顔を隠しているように見せかけてしっかりと指の間から見ている

「あ…あの…エヴァンジェリンさん?刀子さん?」
「…はっ!」
「ふぅ…しょうがない、とっとと始めるか。」

…なんで溜息なんですか?エヴァンジェリンさん?

「見ての通りあそこに居るのが始の「意識」だ。あれを連れて現実世界に戻れば始は目覚めるが
 私達が「意識」に触れるにはあの球状の膜…「記憶」を抜けなければならん」
「ですが貴女は先程「記憶」には触れるなと…」
「「むやみやたら」…とも言ったぞ葛葉刀子…それとも今更になって怖気付いたか?」
「そんな事ありません!貴女こそいざと言う時につまらないミスを犯さないで下さい!!」
「わ…私もです!私を受け入れて下さった始先生の為なら!」
「「………」」

……え?どうして2人共私を見ているのですか?そんな怖い目で?

「……刹那、先程ウルスラの校舎の外れから一緒に付いて来た時は聞きませんでしたが」
「……そうだな何故貴様が始に其処まで気遣うのか、戻った時にはキッチリと聞いておかないといかんな」

わ…私…何か大変マズい事を言ってしまったのだろうか?

「覚えておけよ、桜咲刹那……では行くぞ!!2人共、あの記憶に飛び込め!!」
「「はいっ!!!」」

待っていて下さい始先生!今参ります!!





―――始の精神世界内 ある記憶の中

「…これが今始が見ている「記憶」……夢か」

此処は先週「大掃除」で私達が戦った森の中か……む、あそこに始が居るな、それと後ろにいる小娘が高音とか言うヤツか
そして進入者の……なっ!アレは!?

「莫迦な…アレはまさかパピルサグ!?いや…それを模した合成獣(キメラ)か?」
「パピルサグ?アレを知っているのですかエヴァンジェリン?」

驚いてつい考えた事を口に出してしまったらしく葛葉刀子が私に問い掛けてきた

「掻い摘んで説明するぞ……パピルサグとはバビロニア神話に出てくる人と蠍の合成獣だ
 一説ではケンタウロスの原型とも言われているな」
「神話…って」
「ああ、恐らくはそれを模したモノだろう……本物の訳が無い」

そうだ、本物であるはずが無い………だがヤツからは「不自然さ」というモノも感じられない
魔法なり化学なりヒトの手が入った物は少なからず「不自然さ」が有る、それが無いのは完成された芸術品や自然物だけだ
……いや考えるのは後回しだ、今は始を連れ戻す事が先決なのだからな!!

「良いか!始を連れ出せるタイミングは1回しか無い!!私の合図と共に一気に現実世界に引きずり出すぞ!!」
「ひ…引きずり出すって?どうするんですかエヴァンジェリンさん?」
「難しい事では無い、私達3人で始に抱き付きそのままこの「記憶」から出るだけだ!分かったな貴様等!」
「「はいっ!!!」」

この夢を始が見続けているという事はかなりの精神的衝撃があったという事
延々目が覚めず、「記憶」の中に閉じ篭っているのが良い証拠だ
そしてこの夢と始の「意識」を切り離すタイミングはあの高音とやらが始に「化け物」と呟いた瞬間しか無いだろうな
葛葉刀子の話を聞いた限りでの想像でしかないが私にも似たような経験が有る、気持ちや考えなど簡単に読める



……

………

「これは…?」

始が真っ二つにした合成獣が赤い光の塊となり…

「こ、此花先生…貴方は一体…」

それを始が喰らう…

「ば…化け物」

―――今だっ!!!

「行くぞ!2人共!!」

話を聞いていて知っていたとは言え、私の目の前で始を愚弄した者を見逃す…いや、見逃さなくてはならないというのは
想像していた以上に苦痛だった……だがそれでも今は始を連れ戻さねばならない
そう自分に言い聞かせ私達は始を連れ戻す為に飛び出して行った





あとがき

始、またまたすっぽんぽんを見られるの巻ww
因みに精神世界のモデルは女神異聞禄ペルソナのあるイベントシーンから引っ張ってきました
こういう小ネタを引っ張ってくるのは大好きなのでこれからもちょくちょく入れてきます

でわ ノシ

〈続く〉

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