―――2003年1月8日 午後1:00 ウルスラ女学院 屋上

やはりあの時私は始さんから離れるべきでは無かった…多少無理矢理ででも一緒に居るべきでした

「―――おかけになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為かかりません」
「はぁ…」

始さんと連絡が取れなくなってもう1週間近く…
「大掃除」が終った後の打ち上げにも殆ど出ていなかったようですし、一体始さんに何があったんでしょうか…?

「…ハッ!?もしかして今度は本当に始さんが私の事を嫌いになってしまったのでしょうか!?
 まだお部屋の件で……でも修繕が終った後に始さんからキチンとお許しの言葉を頂いてますし…」
「葛葉先生?少しよろしいですか?」
「だとすると「大掃除」の準備や打ち合わせで約半月の間、殆ど始さんと居られていなかったから私に飽きてしまった?」
「あの…葛葉先生?」
「ど、どうしましょう?始さんはお優しい方ですから私の事を「飽きた」と言って捨てる様な男性では無いと信じていますが
 もし本当に私の事を飽きてしまったのなら今直ぐにでも私の魅力を余すところ無く下半身の使用も視野に入れて教えて差上げたい!
 いえ!教えてさし上げなければなりません!!!!」
「く…葛葉先生!?何て事をおっしゃっているんですか!?」
「でも肝心の始さんと連絡が取れず仕舞い…どうしたらいいんですか!?私は!?教えてください高音さん!!」
「きゃあ!気付いていたのならおっしゃって下さい!!」





「大掃除」のあの時2度の油断で2度の命の危機が訪れ、それを2度も此花先生に私だけで無く愛衣までも救って頂いたのに
私は命の恩人である此花先生に無意識とはいえ「化け物」と言ってしまいました、その後の大声で気絶してしまった私は
いち早く此花先生にお礼とお詫びを申したいのと、あの時起こった事全てを誰か此花先生の事情を知っている方に相談したかった為に
最近、此花先生と「異常に」仲がよろしいと噂されている葛葉先生と話をする為に来たのですが

「見苦しい所を見せてしまいましたね…」
「いえ…」

先程の妄想らしき物を口に出している所を思いっきり目撃した私をやりきれない雰囲気を出す葛葉先生
どうも最近此花先生の事となると葛葉先生は自分を見失いやすくなりますね…もしかして私地雷踏もうとしてます?

「ところで高音さん、私に何の用事が?」
「あ…はい、その…此花先生の事なのですが…」

今…見間違いでなければ葛葉先生の目の色が白黒反転したのですが…あ、目が合っ…た?

「ヒィッ」
「高音さん!貴女!今始さんが音信不通である事の原因を知っているのですか!?知っているのですね!?早く言いなさい!!」
「あ、あああのですね…葛葉先生、す、少し落ち着いて下さい」
「私は至って冷静です!落ち着いています!クールです!」
「落ち着いていませんし、目の色が反転して怖いです!!」
「話なさい!話なさい!!話なさい!!!」
「わ、解りました!話します!「大掃除」で変身してた此花先生に助けて頂いた時の話です!」

最後の言葉を聞いた葛葉先生が私の制服の胸元を離し、2〜3歩下がった所で先程とは違う真剣な表情で口を開いた

「話してください…その時の事全て」

その雰囲気に私は少し押され気味だったが、直ぐに気を取り直してあの時何が起こったか全てを話しました
私が此花先生を「化け物」と呼んでしまった部分だけを除いて



……

………

「…そうですか」
「はい…私は、私だけでなく愛衣も助けてくださった此花先生に…私はっ…」

事実を伝えなくてはならない筈なのに私はこれ以上此花先生を「化け物」と呼ぶのを躊躇ってしまう
それどころか今の私はこれ以上あの時の事を話す事さえ苦痛になってきている…
その私の様子を見て葛葉先生は私の両肩に手を置いて優しく語りかけてきました

「高音さん、ありがとう」

その葛葉先生の一言に私は混乱しました
自分で言うのもなんですが話の流れや私自身の様子で私が此花先生に言った事など容易に予想できそうなのに
そして葛葉先生が此花先生を「化け物」と言ってしまった私をそんな簡単に許すはずが無いのに
そんな私の混乱をよそに葛葉先生は話を続けました

「貴女があの時此花先生をどう思ったとしても、今此花先生を「人」として見ていてくれている事を私はとても嬉しく思います
 それと……「私の」此花先生ですからぜぇぇぇっっったいに手を出さないようにっ!!いいですねっ!!!」
「は…はい」

葛葉先生の優しかった表情が突然厳しい物になった反動で私は空返事しかできませんでしたが
それと同時に今まで胸の中にあったモヤモヤとした感情も無くなったのを感じました
きっと葛葉先生なりに私に気を利かせて下さったのでしょう………本当にそう思いたいです





―――同日 午後2:00(外の時間) エヴァ宅 『別荘』内

「マスター、ただ今戻りました」
「あぁ…」

ここ数日(外の時間で)始の代わりに女子寮の仕事をしていた茶々丸が帰ってきた

「…ジジイや他の魔法先生の様子はどうだった?」
「はい、学園長は始さんの欠勤に対してまだ何も言ってきてはおられません、高畑先生を含む他の魔法先生も同様であると思われます
 …また数人の魔法先生及び一般教諭は葛葉先生と懇意にしている男性と聞くだけで納得される方もおられました」

フン、ジジイの奴が何もしていない訳がない。おそらく今頃は麻帆良内外の網を水面下で総動員している所だろうな
しかし「懇意にしている男」と聞いただけで納得されるとは……葛葉刀子は今まで一体何をやっていたのだ?

「オー、帰ッタカ妹ヨ」
「姉さん、ただ今戻りました」

『別荘』にある浜辺で「仕事」をさせてきたチャチャゼロが戻ってきた
身体全体に細かいキズが付いており、両手に持っているナイフの片方は刀身が半ばで折れている

「ずいぶん苦戦したようだな?チャチャゼロ?」
「ハッ、突ッ込ンデ来ルダケノ奴ニ遅レヲ取ルカヨ。ないふハ耐エ切レナカッタダケダ」
「フン、どうだかな…茶々丸。あいつが『別荘』に入ってどの位になる?」
「はい1月2日のお昼前から入られましたので今日で6日目となり、『別荘内』では100日を突破しています」
「ケケケ、前ノ「シゴキ」ノ様ニナッテキタカ?」
「…こっちはいい迷惑にしかならん」

そう、ジジイとその部下に無駄な仕事をさせ一部の教職員からは無駄な心配をさせている始は今現在この『別荘』内に居る
6日前に茶々丸からの伝言で「『別荘』を使わせて欲しい」との頼みがあり、他ならぬ始の頼みとの事で二つ返事で了承した
…まあ、了承してしまった私も私なのだが
正直ここまで長く居るとは思わなかった、ついでに言えば未だに使う理由を聞いていない

「オレハ良イ暇ツブシニナッテ…ト言イタイ所ダガ、始ノヤツ何カオカシイゼ」
「ああ…」

チャチャゼロを始の所に送り込む前に『別荘』での始の様子を数日水晶で覗いて見ていた事があるが、その時もおかしかった
なにせ「変身して暴れる」→「疲労がたまって変身が解け気絶」を繰り返していたのだ
恐らくだが入りたての頃は数日通しで暴れていたのではないだろうか?

「シゴイテヤッタ時トハ全然違ッテタダ突ッ込ンデ来テル。アレジャアタダノ獣ダゼ」
「そうか…」

始が『別荘』を使いたい…と茶々丸を通してではあったが私を頼ってきた。それは良い
しかし「なぜ」、「何の為に」私の『別荘』を使いたいのか?自身の仕事をほおってまでの事なのか?
それを何一つ茶々丸やチャチャゼロ、そして私に言わない事に何時からだったのか忘れたが私は腹を立てていた

「ところでマスター、桜咲さんと龍宮さんと葛葉先生が見えられてます」
「追い返せ」

客?そんな者今は知らん。どうせ「始は何処だ?」とかその辺の事だろう

「客人に対して随分な良い方ですね?エヴァンジェリン?」
「フン、呼んでもいない奴を客としてもてなす理由など無いだろう」

葛葉刀子を先頭にゾロゾロと『別荘』に入って来おって…

「それはそうと始さんは何処に居るのですか?茶々丸さんは何も言わなかったのですが今貴女方の会話を聞いて
 この亜空間の中に居ることは確信していますので誤魔化しは効きません」
「何?ちょっと待て!何時から此処に居る?」
「いつって…最初からに決まってるでしょう。茶々丸さんと一緒に入って来たのですから」

近いうちに本気で茶々丸をハカセの所に連れて行こう……そう誓った瞬間だった

「…確かに始はこの『別荘』に居るが、何処に居るという事を貴様等に言うつもりは毛頭無い」
「何故ですか!?エヴァンジェリンさん!?」
「貴様等が今の始の元に行って何が出来る?ハッキリ言おう、今の始はただ暴れまわるしか出来ない獣だ
 それでも貴様等は始がああなった原因を知っていたり、始を止める手段が有るとでも言うのか?」

近くにある物をただ無作為に壊し、チャチャゼロや私にも全く気付かずに暴れまわる今の始を止める手段など有る訳が無いだろう…
私のその考えを肯定するかの様に葛葉刀子や桜咲刹那の顔から血の気が失せたかの様に静かになった
龍宮真名はあまり表情を変えていないが反論が無いところを見る限りは先の2人と同様だろう

「………」
「………」

沈黙が続く、恐らくあの2人にはこの沈黙は耐え難いだろう。自分では何も出来ないという現実を突きつけられたのだから
…これ以上は酷だろう何よりこの2人を見ていると自分を見ている様な錯覚を感じる…正直私も何も出来ずに手を拱いているのだからな

「…茶々丸」

3人をこの場から離そうと茶々丸に声をかけた時、私の声をきっかけにしたかの様に葛葉刀子が声を上げた

「待って下さいエヴァンジェリン!」
「…何だ?これ以上話すことなど無い筈だが?」

最初はただの悪足掻きだと思っていたが、葛葉刀子の「何か」を決意した眼を見ると自然に私は話しの続きを促した

「貴女の言う通り、私達は今の始さんを止める具体的な方法は持っていません…ですが今の貴女が言ったようになった原因は
 人づてではありますが私は知っています」
「何だと!?」
「本当ですか!?刀子さん!?」
「オイオイ、まじカ?」

私やチャチャゼロ、桜咲刹那は葛葉刀子の発言に声を出して驚いた
龍宮真名は声こそ出さなかったが、その表情を見る限り十分に驚いている

「はい、ですがこの事は絶対に他言無用にと誓って頂きます…宜しいですね?」
「…分かった、我が名において誓おう」
「私もこの夕凪に掛けて」
「最重要の項目として厳重にメモリー内に記憶します」
「了解だ葛葉先生、誰にどれだけの金を積まれても言わないよ」
「オウ、黙ッテイルゼ」
「では……お話致します」



……

………

「そうか…そんな事が…」

人づてとの事なので若干のニュアンスが違うだろうが大まかな話は理解した
侵入者である蠍の化け物と戦い、そいつが言った言葉で始が動揺し…そして蠍の化け物を殺し赤い光の塊になった所を始が「喰った」
その動揺した時に始の中で「何か」があったと見て間違いは無いな、恐らくは始の失っている記憶に関係あるのだろう
…だがその前にどうしても許せん事がある

「葛葉刀子…一つ答えろ」
「高音さんの事ですか?」
「そうだ、2度も助けられながら始に対し「化け物」とほざいた愚か者は今どうしている?」
「私も気になります、エヴァンジェリンさん迄とは言いませんが私もその方の事は…」
「…彼女はその事をとても後悔しています。ですが今やる事は始さんを探し止める事です、違いますか?」

そうだな、今最も考えるべきは始の事だ。始を「化け物」等と呼ぶ有象無象の奴等なぞ二の次にしていれば良い
問題はどうやって止めるかだ…葛葉刀子の話を聞いた上で考えて、始は恐らくあの時のトランス状態が続いているのだろう
最後に葛葉刀子と離していた時や茶々丸に『別荘』を借りたいと言っていた時はギリギリの状態で自我を保っていたのだろうな

「それで始さんを止める手段なのですが…正直私には物理的な手しか」
「わ、私もです」

確かに殆ど神鳴流1本しか修めていない無い貴様等には物理的な手しか無いな、龍宮真名も殆ど同様だろう
そうなると私…魔法の領分だが

「茶々丸、ここ2〜3日始は暴れた後に気絶している時間が延びてきていると話していたな」
「はいマスター、前回は11時間43分22秒の間気絶していました」
「気絶している時間が延びている!?それってまさか!?」
「始の体力も無尽蔵では無い、全くと言って良い程休息を取らずに限界まで暴れていれば…分かるだろう」

正直このままもう2〜3日続いていれば無理矢理にでも止めるつもりだったが
先程の葛葉刀子の話と茶々丸の報告を聞き私は具体的な案を思い浮かんだ……その案を伝えようとが椅子から立ち上がった瞬間
正にタッチの差で桜咲刹那が声を上げた

「分かるだろう…って、そんな悠長な事を言っている前にエヴァンジェリンさんの魔法で止められなかったのですか!?」
「生憎私と始が得意とする属性が同じでな、今『別荘』に居る状態での中途半端な魔力では太刀打ちできんのだ」
「落ち着きなさい刹那…でエヴァンジェリン、貴女が今動こうとしているという事は手段があると見て良いのですね?」

……貴様もギリギリの所の筈なのによく落ち着いて聞いてこれるな。葛葉刀子
良いだろう、その冷静さに免じて貴様等にも手伝わせてやろう

「当然だ…そして葛葉刀子、貴様の話で手段が見つかったと言っておかんとならんな」
「えっ!?」
「私の予想だが、今の始は恐らくトランス状態に陥っている」
「トランス状態…?」
「そうだ、掻い摘んで言えば意識が無い状態だ」
「それと始先生を止めるのと一体どんな関係が?」
「話は最後まで聞け桜咲刹那。若干荒療治だが簡単な事だ…意識が無いなら引き上げてやれば良い」
「「ええっ!?」」
「2人揃って大声をだすな。それと始は此処の下にある浜辺に居るから探す必要は無いぞ」

無理矢理だが魔法で意識をシンクロさせて始の精神世界に入り
始の意識を表層に引っ張り上げるか自分から上がる様にしてやれば良い…もしかすると始の過去も見てしまうかもしれんがな

「私一人でやろうかとも考えたが人手は多い方が今回は都合が良い葛葉刀子、桜咲刹那貴様等も手伝え」
「私に出来る事が有るなら協力は惜しみません」
「私も始先生に出来る事があるなら!」

せいぜい働いて貰おう、精神世界では何があるか分からんからな

「茶々丸、チャチャゼロ、龍宮真名は私達や始の身体に異常が有った時に備え待機していろ」
「了解しました」
「オウヨ」
「分かった」
「良し、では行くぞ!」

そうして私は始が暴れ荒した海岸に私達は向かった。友である始のとは言え自分以外の人間の精神世界、下手に干渉をしようとすれば
自らの精神が死んでしまう事が起こってしまうというのに移動している間は不思議と不安や迷いといった物は何一つ感じなかった
逆に私が始の元に辿り着く迄に頭に過ぎった事と言えば、始が起きた時に何と言ってやろうか…といった事位だった





あとがき

3月25日現在、龍が如く4をまったりとプレイ中
数々の技に「コレはヤバいだろう」とツッコミ、キャバ嬢を落とし、真島の兄さんが○○された事にショックを受けているS’です
北斗無双も良いな〜…と思いましたが、金欠なものでww

でわ ノシ

〈続く〉

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