―――2003年1月1日 午前1:00分 麻帆良学園都市 郊外の森

「あ―――――――――っもうっ!!数多すぎだってぇのぉっ!!」

多いってもんじゃねえ!12時回って日付変わったってのに何でこんなにまだ沢山居るんだよ!大晦日ってもう終わったんじゃないの!?
…なんてグチを内心こぼしつつ大鬼、子鬼、狐面、烏人間、河童…等々の妖怪大戦争(?)を倒し続けていた

「コイツ等は侵入者の放った式神だな、妖どもと戦って疲弊した所を突こうとでもしたのだろうよ」
「説明セリフありがとさん!」

正直、年末年始くらい襲撃するの止めとけっての!そんなにヒマなのかお前等は!?紅白とかガキ○とか見てろよ!!

「ケッケッケ、ダッタラ2度ト来ル気ガ起キネーヨウ徹底的ニイタブッテヤローゼ」
「フッ、その通りだチャチャゼロ。毎年飽きもせずに襲撃してくる奴等にこの「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」の恐ろしさを
 骨の髄までキッチリと叩き込んでやろうか!!」

この2人は未だこのノリなんだよなぁ……ある意味尊敬するよ、マジで

「―――マスター、始さん。私達の後方にて戦闘音を感知しました」
「何っ!?」
「マジっ!?」

俺達は茶々丸が周囲をずっと探知しているから抜かれたってのは考えにくい…つまりは他の班が抜かれたかやられたって事だよな

「エヴァっ!」
「解っている!茶々丸、反応はどの方向だ!?」
「始さんの後方1km程先から2つ感知されます。一つは未だ継続されていますが、もう一つは戦闘音がロストしました
 反応がロストした方が近い位置にありますのでそちらを先に調べられた方がよろしいかと思われます」

1kmか『スクカジャ』使って行けば3分もしないな

「ここは任せたぜ、エヴァ!茶々丸!チャチャゼロは前に出過ぎるなよっ!!」
「当然だ!」
「お任せください」
「オレダケ何カ違ウゾ!?オイ!!」

いやいや、始まってからずーっとつっ走りってばっかりだったし。当然だろ

「『スクカジャ』!」

俺は速度を高める魔法『スクカジャ』を使って、全力で走り出した

「誰が戦ってるかは知らねえが…待ってろよ!」





「そ…そんな…」
「身体が…動かない…お姉さま…」

油断しました……私と愛衣は先程1人で突出した侵入者に追いつき

「さあ、そこの侵入者!大人しくなさい!」

私の「影」で捕縛しようと近づいた瞬間―――

「シャアアァァァッ!!」

―――男が肌の色が緑色で蠍を背負った様な化け物に変身したのです

「キャア!」
「あうっ!」

私達は動揺した一瞬のスキを付かれ、化け物の尾の付いていた針にやられてしまいうつ伏せに倒れています
身体が動かない所と背中の蠍を見て毒だとは直ぐに解りましたが…このままでは私達は戦えずに侵入者を逃がしてしまいます…

「アァァ…」
「なに…を」

私はまるで人形を持ち上げる様に軽々と両腕で身体を持ち上げられました
そのまま化け物と同じ目線の高さまで持ち上げられ目が合った時、私は思わず声を上げてしまったのです

「ヒッ…」

全身の体毛は全て無く瞳も白黒反転しており意志の光は見えない…おおよそ人とは言えない容姿

「ああ…ぁ…」

そして何故この化け物は私を持ち上げたのか…それは口元からあふれ出る涎を見てはっきり理解ました、そう…

「シャアアアアアアアァァァァァ!!!!」
「嫌あぁぁぁぁぁっっっ!!!」

私を―――『食べる』ため

―――ザシュッ



……

………

「―――?」

どこも…痛くない…?

「ギャアァァァァ―――ッ!!」

何かの叫び声が聞こえて私は先程とは違う浮遊感を感じました

「セーフ…だな」
「あ…あぁ…」
「あー…っと大丈夫、大丈夫。此花だよ高音さん」
「こ…此花先生?」

どうやら別の化け物…いえ、此花先生が蠍の化け物から私を助けて頂いた様です…が
あの蠍の化け物からの毒と今上げた悲鳴のせいで…

「アレって蠍?蠍人間?………って高音さん?大丈夫か!?おい!?」
「せ…先生…め…ぃ…」

あまり喋れなくなってきて…正直目も霞んできています…

「上手く効いてくれよ…『ポムズディ』」

…え?此花先生の呪文?と同時に私の身体を薄い『魔力』が包み込み、私の身体から「何か」が抜けた感覚がありました

「なんとか効いたみたいだな。身体のダルさとかは…今は勘弁しておいてくれ」

さっきまで身体を蝕んでいた痛みや苦しみが消えなんとか喋れる位までには回復したようです
確かにまだダルさは残っていますがこの程度なら全然問題ありません

「ありがとうございます…此花先生…これで…私も戦えます」
「無茶すんじゃねえよ、そっちのツインテールの子ん所まで下がって「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」なっ!?」

突然の奇声を上げたのは私を『食べよう』としていたあの蠍の化け物でした…そして

「俺の…俺の腕があぁぁぁぁ!!!!」

先程までは「叫び声」や「唸り声」しか出していなかったのが今はっきりと人の「言葉」を喋ったのです






「んだよ、喋れんじゃねえか」

高音さん(…で合ってるよな)を助けるのにアイツの右腕を切り落とし、そのまま後ろに数歩下がったから
俺も高音さんを抱えてツインテールの子(名前忘れた)の方に向かって下がったんだ
正直何もしてこなかったし、殺気とかも何も感じなかったからほっといたんだよ、2人とも毒にやられてたからそれ所でなかったし
だが、あの叫び声(だか奇声だか知らねえけども)が聞こえてからは別だ
「本当に同一人物か?」って思うくらいに雰囲気が変わりやがったし、殺気もビンビンに感じる

「お前…お前ぇぇぇっ!!」
「悪く思うなよ、こちとら仮にも『広域指導員』なんて肩書き持ってる教師サマだからな、女生徒に手ぇ上げる様な不審者は
 とっ捕まえなきゃならないんだよ」
「お前!?よくも俺のエサを横取りしようとしやがったな!?お前になんかやらせねえぞ!アレは俺のエサだ!!」

…あ?今何つったコラァ!!

「『鉄死拳』っ!!」
「―――――――アアァッ!!」

考えが先で動くのが後だったか動くのが先で考えるのが後だったか正直全然分からんかったが
俺は目の前の蠍野郎を思いっきりブン殴っていた

「―――上司の先生から「侵入者は無力化の上捕縛しろ」って言われてさぁ、マヒらせたり眠らそうかって考えてたんだが
 テメーは別だ、無事な所が無い位ボコってから鎖で雁字搦めにしてやるから、覚悟しやがれ!!」
「うるさいっ!お前を喰らってからあの2人を喰ってやるっ!!」

アイツが言い終わる前に尻尾が俺に向かってきたが『別荘』で手加減無しでぶっ放してくる
エヴァの『魔法の射手(サギタ・マギカ)』に比べたら余裕でかわせる早さだ

「遅え!!」

避けざまに右腕の剣で針の付いてる節と1つ手前の節の繋ぎ目辺りを狙って…斬るっ!!
他の魔法先生や魔法生徒だったら手加減したかもしれないが俺はする気は全く無い!
…ってか女生徒に喰らい付こうとした奴に手加減なんぞ必要無いだろうよ!いるはずが無いっ!!

「ぎゃああああぁぁぁ!!俺の尻尾が!!尻尾がああぁぁぁ!!」
「よく叫ぶ野郎だな…ちったぁ黙れよ『テラ』!」

叫び声にちょっとイラついたので地面から石を10何個かぶつけて黙らそうとしたんだが

「あああ…ああ…」

コイツ今ので完全に怯えちまったな、なんか俺悪役になってきてんじゃねーか……もういいや『ブブ』で凍らせて終わりにする!

「これで仕舞いにするぜ、フ…」

このまま『フブ』と唱えればアイツは氷漬けになって終るはずだったが

「やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!頼む!やめてくれ!!喰わないでくれ!!
 あの2人を喰うのは止めるし直ぐに消えるから喰わないでくれぇ!!!」

コイツが急に命乞いを始めてしまった…ってか「喰う」って、俺はお前なんかと同類じゃないっての

「止めないし、逃がさないし、食わねえよ。このままお前を凍らせて上に突き出す…ってのが仕事だからな」
「う…嘘だっ!」
「嘘なんてついてどーすんだよ?」
「分かる…俺には分かるぞ…お前は俺と同じだ…」
「はぁ?お前何言ってんだ?」

何で俺がお前と一緒なんだよ?…そりゃあ見た目は思いっきり人間離れしてるけども、人喰いなんぞしないっての

「お前は聞こえないのか?あの声が?」
「声?」
「そうだよ!声だよ!「敵を引き裂き、屠り、喰らえ」ってずっと言ってくる女の声だよ!!」

コイツ…何言ってる?

「俺たちは常に飢えてる、その飢えから逃れ生き延びるには相手を喰えって!!」

ドクン!と激しく動悸した心臓の音が聞こえた

「そうしなきゃ!逆に俺が喰われちまう!!」

急に視界が暗転して目の前の風景が変わった…
俺は森の中で蠍野郎と対面で話していたのに、後ろの方に高音さんとツインテールの子が居た筈なのに
目の前に広がるのは真っ赤な空と真っ赤な地面、そして数多く横たわる化け物の亡骸
…そして何処からか聞こえてくる「何か」を咀嚼し嚥下する音

「そうなんだろ!?お前も一緒なんだろ!?俺と同じ喰奴(くらうど)なんだろぉ!?」
「あ゛あ゛あ゛…」

痛てぇ…頭が…頭が痛てぇ…
変な景色と音が聞こえなくなったと思ったら次は何かがムリヤリ頭の中に入って来てるような痛みが…

「此花先生?どうなさったのですか?先生?」

何だ…?高音さんか?

Eat them all. Om Mani Padome Hm(喰らい尽くせ オーム 蓮華の中なる宝珠よ フーム)

…ぐあっ!何だよ…これっ!?高音さんじゃねえ、誰だ?誰が言ってるんだよ!?ってか何の事だよ!?

Varna(ヴァルナ)

―――っ!!!



……

………





蠍の化け物が此花先生に命乞いをしてから此花先生の様子がおかしくなってきていました
最初はそう気に止めるものではなかったのですが、突然先生が頭を押さえて何か痛がりながら俯いているのです
私はずっと気絶している愛衣に比べれば平気ですがまだ完全にはしきっていなかったので「影」で使い魔の人形を作り
その肩につかまりながら此花先生に近づいていきました

「此花先生?どうなさったのですか?先生?」

そして失念していました、まだあの蠍の化け物は死んでもいなければ捕縛すらしていなかったのです

「そうだ…隙を見せれば…喰われるんだよぉ!!」
「きゃあああああああっっ!!」

2度目の失態、此花先生は俯いたまま、愛衣も目を覚ましていなかった為今度こそ駄目かと思った瞬間

「ア゛……」

私に襲いかかってきた蠍の侵入者は縦に真っ二つに斬られました

「この…」

1度でなく2度も助けて下さった此花先生にお礼と謝罪を…と思い声をかけようとした途端
真っ二つにされた蠍の侵入者が急に赤い光の塊になったのです

「これは…?」

その光は塊となり真っ直ぐに此花先生の方に向かって飛んで行きました。正確には此花先生の「口」に向かって
そしてそのまま此花先生は何一つ変わった事が無いかのように自然とその塊を「食べた」のです

「こ、此花先生…貴方は一体…」

これを見た私は何がどうなったか全く分からなくなりました
2度も私や愛衣を危機から助けて下さった此花先生が蠍の姿をした侵入者を形を変えたとは言え食べた。その事実に私は…

「ば…化け物」

…そうこぼしてしまったのです。そして私が自分で何を言ってしまったかを気付いた時、もう手遅れでした

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――ッッッ!!!!!!!」

此花先生は身体を少し振るわせた後、上を向いて叫び声とも悲鳴ともつかない叫びを上げました
そして私はその叫びに含まれた『魔力』にあてられて、気を失ってしまいました…




あとがき

前回もそうでしたが叫び声を「■」で表現してみました、イメージ的には某ヘラクレスさん的な表現にしたいなと考えましたもので
ちなみに脱げ…ゲフンゲフン、高音さんはここで気を失って服が無くなったのです……ためになったねーためになったよー
そして「喰らう」事の表現ですが戦闘で見られるエフェクトの方で書こうと思います………生々しい方は殆ど書きません
まあ今回はちょいとグロい部分もありましたが……

でわ ノシ

〈続く〉

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