―――2002年12月31日 午後10:50分 麻帆良学園都市 郊外の森

「ケーッケッケッケッケッケ!!!ドウシタ!?ドウシタ!?ドウシタァ!?」
「張り切ってんなあ、チャチャゼロは―――っと!『マハフブ』!!」
「やらせてやれ、十数年ぶりに『別荘』の外で暴れられるのだからな―――『魔法の射手 連弾・氷の17矢(サギタマギカ セリエス・グラキアーリス)』」

ドドドドドドッ

「始さんとマスターの攻撃の命中を確認、敵第六陣殲滅しました」

あぁもう!刀子さんや桜咲に「キツイ」って教えて貰ったけどさあ7時辺りから来始めて今までどれだけ倒したっての俺!?
この終わりの見えなさにマジでうんざりなんですけど!!

「始さんが102体、マスターが77体、姉さんが191体です」
「…ありがとう茶々丸」

心読まれてるのか?俺?

「ところでさエヴァ」
「なんだ?」
「学園都市の回りには結界が張ってあるんだろ?ああいう奴らが入って来たり、活動とかそういう事(で合ってる?)が出来ない様にさ
 でも、なんで毎年こんな「大掃除」なんてモンをしなきゃなんねーんだ?」

ジジイから結界の役割について聞いた事があった(いつ聞いたか忘れたが…)のを思い出し、ふと思った疑問をエヴァに聞いた

「ふむ…どう説明すれば良いか…」
「そんなに複雑なのか?」
「フッ、『お前の頭が爆発しないように』どう説明しようかと…な」
「ぐっ…」

勝ち誇った表情をしたエヴァに何も言い返せない自分が憎い…

「そうだな、先ずは大晦日と元日について話した方が分かりやすいかもな……
 知ってのとおり大晦日は1年の最後の日で新年は1年の最初の日だ、これは言い換えると一番穢れた日と一番清浄な日という事になる
 …分かり辛ければ使い続けた泥水と汲みたての清水を思い浮かべていろ」
「…了解」
「そして穢れ…人間の負の感情とでも形容しようか、それらはこの麻帆良のような『力』がある土地に集まる」
「力って『魔力』とか『気』か?」
「そうだ、どのような理屈で集まるかの説明は省くぞ……此処までは良いか?」

……OK、まだ大丈夫だ

「良さそうだから続けるぞ。…ところでお前は「大掃除」の目的を理解しているか?」

正直いつもやってる警備の延長上としか理解して無いので、首を横に振った

「…ま、そうだろうな」

「やれやれ」と言っているような表情をしたエヴァに何も言い返せない自分が恨めしい…

「「大掃除」の目的は今年の穢れを来年に持ち越させない事……先程言った泥水と清水は覚えているな
 あれは大晦日にきちんと穢れを祓った場合の例えで、もし穢れを祓わずに新年を迎えた場合は穢れをそのまま持ち越す
 …つまり泥水をそのまま使い続ける事になり、来年の大晦日には更に穢れた状態になってしまう
 当然それは年を重ねる事に酷くなる、それをさせない為に「大掃除」と称してこうして鬼や妖を祓っている」
「ほうほう」
「それと結界で穢れを麻帆良に入らないように防いでも無駄だ、穢れは祓ったり何処かに封じない限りそこから消える事は無い
 問題の先送りにしかならん」
「今ここで相手してやるしかないのか…」
「そうだな、今日に限り結界の式の一部を緩めるか変えるかにしているのだろう…現に私はまだこうして捕らえられているのだからな」
「…捕らえられてる?」
「気にするな、私自身の話だ」

捕らえられているってどういうことだ?「大掃除」終わったらタカミチさんに聞いてみるか?
それともジジイに3〜4発魔法を撃って白状させるか…

「―――っ!マスター、始さん。姉さんが敵の第七陣に接触、戦闘を開始しています」
「分かった、行くぞ!始!!」
「…チャチャゼロ前出過ぎじゃねーか?」



……

………





「『神鳴流奥義 斬岩剣!!』」
「愛衣!一気に蹴散らします!『影よ(ウンブラエ)!!』」
「はい、お姉さま!『メイプル・ネイプル・アラモード―――魔法の射手 連弾・炎の17矢(サギタマギカ セリエス・イグニス)』」

ザンッ―――ドドドドドッッ

「ギャアアアアアアァァァ…」
「見ましたか!これが正義の鉄槌です!!」

祓われ消えていく妖に高音さんが何やら叫んでます…が

「高音さん、今は戦闘中です慎みなさい」
「は…はい、すみません葛葉先生…」

彼女の「人の為に働く」という心構えはとても良い事なのですが…行き過ぎている所がどうも目立ち過ぎてますね
私としては何時も一緒に居る佐倉さんがその事を諌めて、お互いの信頼関係を―――

「く、葛葉先生!侵入者ですっ!!」

佐倉さんが指差した方向を見るとマントの様な何かを着た人物が私達から遠ざかりながら走って行くのが見えた
毎年どさくさに紛れて襲撃して来る侵入者、大体が図書館島の蔵書か木乃香お嬢様を狙った関西呪術協会の輩
前者は兎も角、後者は同じ西の出の者として情け無い限りです

「追います!愛衣!!」
「あ…お姉さま!?」

2人が急に飛び出し侵入者を追って走り出した…陽動の可能性もあるというのに!

「待ちなさ……っ!?」

ガキィィィィッ

「ウッキ――――――!!!」

―――小猿!?いや式神かっ!?…でもこの程度の力ならっ!!

「ハアアアアアッッ!」

ドドドッ

「ウキー…」
「ウキャー…」
「ムキッ」

左手から『気』を飛ばして、群れの前衛を数体倒す

「まだですっ!!」

そして群れの体勢が整う前に一気に群れの奥深くに斬り込み…

「『神鳴流奥義 百烈桜華斬』!!」

斬っ!!!

「「「ムッキャーッ!!」」」

これで大まかな数は―――っ!

「ウキ―――ッ!」
「クマ―――ッ!」

大人位の大きさの猿と熊の式神が1体ずつ、数の次は大きさで来ましたか。実力はまだ分かりませんが引くわけにもいきません
……ところで熊の鳴き声は「クマー」で良かったんでしょうか?

「マ゛ッ!!」

ズンッ!

「ご自分でも鳴き声の事を気にしているんですか!?『斬岩剣』!!」

ガギンッ!

「ウキーッ」
「止めたっ!?」
「クマ―――!」

バンッ!!

「ああっ!!」

くっ、一撃もらってしまいましたか。この2体の式神は先程の小猿の群れよりもそれなりに強い様ですね
それになかなか連携も良い、恐らくは先程の侵入者の前鬼と後鬼でしょう

「ホホホ…どうどすか?ウチの猿鬼と熊鬼の力は?」
「なっ…陰陽師!?」
「そないに驚かんでもええでっしゃろ?神鳴流はん。この子らがウチの前鬼と後鬼って気付いてたんやろ?」

何ですかあの格好は!?二の腕辺りは兎も角、肩から胸の上側にかけて布地が全く無い…谷間を隠すどころか見せる気満々じゃないですか!?
それにあのスリットも何処まで切り上がってるんですか?そんなに美脚に自信が有るのですか?
そんなに…そんなに若さを前面に出して!私へのあてつけですかっ!?あてつけなんですね!?あてつけと見なしますっ!!

「…私の足止めですか?それとも…?」
「何や?いきなり話をハショってからに……まぁウチがあんさんの足止めっちゅうのは間違いはあらへんけどな」

良いでしょう…貴女程度で今の私を押さえられると見積もった事を後悔なさいっ!!
そう決めた私は刀の切っ先を侵入者に向けて…

「もうお喋りは十分です、私はこれから先走ったあの子達を追いかけてお説教をしなければなりませんから忙しいのです
 貴女の慎みの無い性根を叩き直して差上げますからさっさとかかって来なさい!」

若干違う意味を持たせた挑発を浴びせる

「なん…やてぇ……こんのエエ年した年増のお局様がぁ!自分の身体に自信が無くてウチに敵わんからって
 イイ気に乗りすぎちゃうかぁ!?―――行ったりぃ!猿鬼!熊鬼!」

激昂した彼女が前鬼と後鬼を私に襲い掛からせようとする…が

「それが慎みが無いと言うのです!―――『神鳴流奥義 雷鳴剣・弐の太刀』!!」

ドガガガガガガァッッッ

「「―――――っ!!」」

『雷鳴剣』を超える雷撃と斬撃が2体の式神を同時に札ごと消滅させた

「私に…断てぬものは在りません…」
「な…何や今の技…見た事無いでそんなん…」
「当然です、貴女程度に神鳴流の真髄は計り知れません―――」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――ッッッ!!!!!!!

っ!!何ですか?今の叫び声は!?

「今やっ!」
「あっ!?待ちなさい!!」
「知らんわ!もう十分仕事は済ませれたし、あないな『魔力』が突き刺さる叫び声上げる奴が居る所の近くに居てたまるかいな!!」

逃げられましたか…ですがあの叫び声は何処から―――まさか高音さんと佐倉さんが!?
私は両足にありったけの『気』で両足を強化して先程2人が向かった方向に向かって走り出した

「2人とも無事でいて下さい!」



……

………

4〜5分走った頃、傾いている細目の木の奥に2人を見つけた私はすぐさまに飛び込んだ

「高音さん!佐倉さん!無事ですか!?」
「くー…くー…」
「zzz…」

2人共気絶しているようですね、見たところ目立った外傷も無いようです……高音さんが男物の上着1枚だけなのが気になりますが

「2人とも侵入者からの毒にやられてました、俺の魔法で治しておきましたが念の為医者に診せておいて下さい」

後ろっ!?私が気配を読み損ねた!?―――って始さん!?

「はじ…此花先生が2人を?」
「ええ、少し遅くなってしまって2人に少し怪我をさせてしまいましたが…」
「そんな事はありません、此花先生のおかげでこの2人は助かりました」
「……ありがとうございます」

………?始さんの様子がおかしい、普段の大らかな雰囲気が感じられません…

「此花先生大丈夫ですか?何処か怪我でも?」
「いや…長く『悪魔化』していたから疲れただけですから大丈夫です」

そうでしょうか?どこか無理をしている様な感じがするのですが…

「それよりも早く2人を…特に高音さんはマズイと思いますから」

そう言って顔を逸らす始さん……確かに此処は始さんには申し訳ないですがお言葉に甘えて2人を優先させてもらいます

「では私はこれで行きます…始さん、無理はしないで下さいね?」
「ええ…一息ついたら俺も一旦下がります」
「分かりました……では」

そう言って私は2人を抱えて此処から一番近い仮設の救護テントに向かい走りだした
正直始さんの事も心配だったが、実際問題としてこの2人を蔑ろにする事もできなった
だが私はこの時もっと始さんの側に居なかった事を、何が起こったかを聞かなかった事を深く後悔する事になる




あとがき

かなりのフライングで原作キャラを出しましたww
まあ名前は出しませんでしたが式神で十分にお分かり頂けたかと思いますので
でわ ノシ

〈続く〉

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