―――2002年12月 4日 午後 1時過ぎ 麻帆良学園都市内 コーヒーショップ

「はぁ…」

葛葉先生の暴走とジジイの悪ふざけが組み合わさった悪夢から桜咲の必死の説得によりなんとか戻ってこれたはいいが
待っていたのは「大穴が開いている自室の壁」という現実だった
10時位に何故か全身に包帯を巻いたジジイがやってきて「部屋はジジイ持ちで直す」という旨を聞いて
その後に人気の無い所にジジイを連れ込んで『アギラオ』をブチ込んでやって少しは落ち着いてきたが…
何故か修理中の5日間…つまり12月10日にならないと部屋の中には入れないとの事
どうやら刀子さんがぶっ放した神鳴流(とやら)の技が柱にまでダメージを与えていたらしく、柱の補強を兼ねての工事らしい

「はぁ…5日間ホテルにでも泊まるか…」

必要最低限の荷物はバイクに積んであるから良いとしても5日もホテルに泊まるってのは金銭的に痛い
領収書を切って、後でジジイに請求するのもいいが…どっちみち一度は俺の財布から金が飛んでいく

「チッ…せめてホテル代をもぎ取ってからヤればよかったか…?」
「はは…その言葉だともう既に学園長と会った後だね?始君?」

へ?

「タカミチさん!?……と、どちら様ですか?」
「あれ?覚えて無いかな?君が学園長室に来た時に会ってると思ったんだけどねー…そう言えばあの時は挨拶とかしていなかったね」

ん?ジジイの部屋で会ってる…?でも挨拶はしていない…ってことは葛葉先生と同じで…

「あの時ガンドルフィーニさんと一緒にいた方ですか?」
「そう、ガンドルフィーニ先生は覚えているんだねーハハハ…」
「いやあ、直の上司がタカミチさんとガンドルフィーニさんって事だけですから」
「ハハ、そうかい?…と自己紹介がまだだったね?僕の名前は明石、麻帆良大学部で一応教授をやらせてもらってるよ」
「あ…スイマセン、此花始です」

名前聞いて何となく思い出した、確かジジイが一度だけそんな名前を言っていたような……

「そういえば一度聞いて見たかったんだけどもね、始君?」
「はい?何スか?タカミチさん?」
「いや、始君って昔眼鏡でも掛けていたのかい?」
「え?全然掛けて無いっスけど?……どうしたんスか?」
「ん?そうなのかい?始君が考えている時に何時も右の人差し指を眉間に当てているから眼鏡を掛けていた時の癖かな?
 …って思ってたんだけどね、僕の考え過ぎかな?」

え?眉間に指?

「俺そんな事してました?毎回?」
「無意識でやっていたのかい?アレ?」
「高畑先生、僕は彼と…「始で良いっス」始君を今まで接点が無かったから分からないけども、そんなに何回もやってたのかな?」
「そうですね教授、ああやって考えた後に学園長の企みを暴いてましたよ」
「誰かの真似でもしてたんじゃないかな?友達とか、TVで見たとか」

…誰かの…真似?…誰の?…友達…じゃない…アイツは…

―――大層な口をきくじゃねぇか、お前はどうなんだ?
―――俺は、変わらない…俺は俺だ

―――ッ!?

「―――始君!?」
「はいっ!?」
「…どうしたんだい?急にぼうっとして?」
「あ…っと、スイマセン昨日殆ど寝て無いからボーっとしてたんですかね?」

…はて?今俺は誰を思い出したんだ?

「そうそう、僕達が来たのはその件の事で来たのさ」
「はい?」

なんか今日俺疑問系で返してばっかだねぇ

「今日から始君泊まる場所が無いだろうから僕の所に泊まってもらおうと思ってね」
「へ?明石教授の家にですか?」
「家と言っても教職員の宿舎なんだけどもね、一つ使っていない部屋があるからそこでどうかなって思ったのさ
 もちろん始君の都合次第だけども…」

おぉ…「渡りに船」とはまさにこの事を言うんだろうなぁ…都合?んなもん聞くまでも無い!

「明石教授!宜しくお願いします!」
「はは、今住んでいるのは僕一人だから気兼ね無しで寛いでいいよ」
「じゃあ始君、案内するから僕の車に付いてきてくれるかな?」
「了解です、タカミチさん!」

救いって本当にやってくるものなんだなぁ…うん





―――12月 4日 放課後 麻帆良学園女子中等部 2−A

「―――それでどうなったの?朝倉」
「―――怪我とかしてないー?」
「―――何が原因なのですか?朝倉さん」

騒がしいな…いや、騒がしいのは何時もの事だが今日のは質が違う気がする、相変わらず朝倉和美が中心になっているようだが…

「気になられますか?マスター?」
「フン、どうせ下らない噂話か何かだろう」
「その可能性もありますが今回は綾瀬さんや長谷川さんなど、普段噂話を気にしていない方々も
 朝倉さんに質問をしているように見受けられます」

正直これと言って知りたい物でもないが、何かが引っかかっている感がある…
私のカンが「今を逃すと大変な事になる」…と言っている気がする

「茶々丸、確認して来い」
「はいマスター」

茶々丸が私の傍から人だかりに向かって行き…待つこと約3分、相変わらず仕事が速い奴だ…が
何故か戻って来る時はかなりの早足だった、別に其処まで急がなくても良いのだがな

「報告します」
「ああ」

高々ウワサ話で其処まで真面目にせんでもいいだろうに…と思っていた私だが、茶々丸の報告を聞いた後態度を改めた

「本日深夜、始さんの部屋…つまり女子寮管理人室から爆音が響き壁に大きな穴が開いていたそうです
 原因は不明、今の所始さんには怪我等の報告はありません」
「なにぃ!?」
「朝倉さんが持っていた新聞に写真が載っておりましたので間違いないかと…それと本件との関連は不明ですが
 学園長が本日の朝から全身に包帯を巻いた姿で目撃されているとの事です」
「始は何処だ!?何処にいる!?」
「今朝方は若干の放心状態で部屋の片付けをしているのを目撃されていますが、それからの足取りは不明です
 原因も「ガス爆発」から「始さんが昔壊滅させた暴走族の仕返し」と様々な憶測が飛び交っております」

どうやら怪我はしていない様だが、足取りは不明か…

「マスター、始さんの携帯電話に連絡を入れてみては如何でしょう?」
「む、そうだなこういう時の為の携帯電話だな」

使い方は始に教わって以来何度も復習しているし大丈夫…と思うが実際に始に電話するとなるとなんとも緊張するものだな
確か…「アドレス帳」を押して、「あかさたな…」の欄で「か」を選び、その欄の中の「此花始」を選んで「通話」ボタンだ!

「お見事です、マスター」

プルルルル……

繋がった!

プルルルル……

早く!早く出ろ!始!!

「…はい、此花です」
「始か!?今何処に居る!?」
「…只今電話に出る事が出来ないので御用のある方はメッセージをどうぞ」

何ぃっ!?

「どうやら留守番電話のようです」

いつの間にか私の携帯に付いていた何かの線を耳のアンテナに付けた茶々丸が説明してきた

「茶々丸、その線は何だ?」
「失礼しました。何かマスターのサポートになれればと思い、会話を聞かせて頂こうと思いました」
「…まぁいい、つまり今始は電話に出れない状態だという事だな」
「その通りですマスター。ですが始さんの携帯に着信履歴が残りますので始さんの方で確認次第連絡が来るかと思われます」

そうか今すぐにでも話をしたかった所だ…それはそうと今の時期だ壁に大穴なぞ開いていればさぞかし寒いだろう
私の部屋に招いて一緒に夕食でも……それにここ最近は始に稽古を付けてやってなかったな
更に「宿代がわりだ」と言えばもしかしたら始の血も飲めるかもしれん
もしかすると人間の時と悪魔の時では血の味も変わるかもしれんしな、フフフ…楽しみだ

「マスター」

…なんだ?いい所なn……いぃっ!?

「エヴァちゃ〜ん、どうして管理人さんの携帯番号知ってるのかな〜?あと「始」って呼び捨てだったけどもどういう関係〜?」

周りを見ればクラスの大半…殆どが私を中心に取り囲み、朝倉和美が何か細長い機械を向けてニヤニヤしている
どうにかして切り抜けなければ……茶々丸!?茶々丸はどうした!?

「…はい、始さんは麻帆良に赴任される少し前にお知り合いになりました
 どの様な関係と聞かれますと…詳細はお答えできませんが先日マスターが始さんを、始さんがマスターを庇われましたので
 お互いがお互いを庇いあう間柄かと思われます」

「「「「「おおおおおっ!!!!!」」」」」

「それって結構進んでるって事!?」
「私の彼も庇ってくれるのかな〜?ってか庇え!」
「千雨ちゃ〜ん、頑張らないと取られちゃうよ〜」
「私はそんなんじゃねぇ!!」
「………バカばっかです」

ちゃ……茶々丸ぅ―――――――――――――――――――っ!!!!!!!!!





「へぇー、管理人さんて結構人気あるのは知っていたけどエヴァちゃんと長谷川とそんな関係なんてねー」
「うん。毎朝ちゃんと掃除しているし挨拶もちゃんとしてくれるし、良い人だよね」
「寮の自転車置き場に置いてあるオレンジ色のバイクって管理人さんのだよねー?」
「でも怖いなぁ…何が原因なんやろ?」

確かに朝倉の持ってた新聞には「ガス爆発」とか「暴走族の仕返し」とか色々書いてあったけど何が原因なのかな?

「あ、そうだ。ゆーなって今日はお父さんの所に泊まるって言ってたよね?」
「うん、こんな時にアキラ一人にしちゃって…ゴメン」
「大丈夫だよ、亜子とまき絵の部屋にお邪魔するから」
「いいんちょにはもう言ってあるし大丈夫だよー…でも前の土日も行ってなかったっけ?ゆーな?」
「いやぁ…実は一昨日気付いたんだけどおとーさん所に忘れ物しちゃって、それにおとーさんって直ぐ目を離すと直ぐに
 だらしなくなっちゃうんだよ、先週の土日だってさぁ―――」
「ゆーな…早く行かないと電車行っちゃうんじゃない?」
「え?」

アキラに指摘されて私のケータイの時計を見ると……

「げ!ヤバいじゃん!急がないと――!!」
「ほらゆーな、鞄忘れたらあかんよ」

サンキューと亜子から鞄を受け取ってそのままダッシュで廊下に出る…ホントはエヴァちゃんと長谷川を
もーちょっと見ていたかったんだけど……いいや、明日アキラに聞こうっと
そのままの速さで階段を降りて、玄関を出て、駅に向かう
いつもの電車に乗らないでおとーさんが住んでいる教職員の宿舎に向かう電車に乗る

「え〜っと…前は…ナポリタン作ったんだよね〜…」

乗りながら晩御飯の献立を考えたりするのはとっても楽しいしおとーさんに喜んで欲しいから気合が入るんだよね

「次は――××駅――お降りのお客様は――」

おおっと、もう着くじゃない降りる準備しなきゃ

駅を出て途中のスーパーで晩御飯…オムライスの材料を買ってから真っ直ぐにおとーさんの所へ向かう
宿舎が見えてくると駐車場にここ最近で見慣れたオレンジ色のバイクが停めてあった

「あれー?これって管理人さんのバイクじゃない、管理人室からこっちに移ってきたのかなー?」

なんて独り言を言いながらおとーさんの部屋に向かって行くと…何やらおとーさんとは違う人の声が聞こえてきた

「レトルト!?ダメっすよ教授!身体にも悪いし、チンしていないカレーなんてカレーに対して失礼ですよ!」
「いやあ…早くていいんだけどねぇ、それに冷たいのが美味k「却下ぁ!!」…ええ〜?」

これって、おとーさんと…管理人さん!?なんで管理人さんとおとーさんが一緒にいるの!?…カレーに失礼って何?

「今日はちゃんとして、簡単に出来て、レトルトじゃないカレーを食べて貰いますよ!教授!!」

ええっ!?ダメっ!!今日は私が作ったオムライスを食べてもらうんだから!!
それを聞いた私は居ても立ってもいられずに急いでドアを開けた

「おとーさんっ!!!」
「裕奈?どうしたんだい急に?」
「おとーさん?……娘さんですか?教授?」

ボーっとしている2人の前に、私は買ってきたオムライスの材料が入った袋を前に出して

「今日は私がおとーさんの為にオムライスを作るのっ!!!」

さっきの管理人さんの声に負けない位の大きな声で叫んだ!私の元気は誰にも負けないんだからっ!!

「そう?…ではお願いします」
「そんなこと言ったってゆずら…って……え?」

…あれ?

「おお、今日も裕奈の料理が食べれるんだな!楽しみにしてるよ!」
「う…うん!任せておいてよ!ははははは…!」

あれれ!?こういう時って料理対決――とかそんな場面じゃないの!?あれぇ―――――!!!???




あとがき

新年1発目です、あけましておめでとうございます(遅い)
3−A(まだ本作中では2−Aですが)の面々をちょいと出しました…が関わるのはまだまだ先です
未だに本作と合流していないのはそろそろ真面目に考えた方が良いのかな……と思ったり
でわ ノシ

〈続く〉

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