―――午前8:00 麻帆良学園 女子寮管理人室前

「ここか?茶々丸?」
「はい、こちらが管理人室…始さんのお部屋です」
「うむ」

…着いてしまったな
こう…私の方から人を尋ねるというのは滅多にない機会だが…始は起きているだろうか…?

「では、呼び鈴を…」
「いい、私が押す」

フッ、私が他人の都合を気にするとはな…まあいい、これはこれで良い経験だ

ピンポーン

む…返事が無いな、もしや気付いていないのか…

ピンポンピンポンピンポーン

まだ返事が無い…もしやまだ寝ているのか?



……

………

けしからん!!この私が直々に出向いて、こうして呼び鈴まで押していると言うのに返事すら無いだと!!
ええい!!起きろ、起きんか始ぇ!!!

ピポピポピポピポピポピポピポピポピポ―――

「あの…マs「うるっっっっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!誰だ!?鳴滝姉妹か!?春日美空か!?
 それともあのパパラッチの奴かぁ!?」」

あの時学園長室で見せたのとは違う怒り顔で始が出てきた…が

「…客に対して怒鳴り声で出迎えるとは礼儀がなってないな、始」
「…おはようございます、始さん」
「おはよう茶々丸、…エヴァお前は帰れ」

中にすら入っていないのに帰れだと!?

「どういうことだ!?始!?」
「呼び鈴連打する奴を客として認めねぇだけだ!!」
「こんな時間まで起きていないのが悪い!!」
「んなモン俺の都合だろうが!!」
「あの…マスター、始さん…」
「「何っ!?」」
「此処で騒がれますと他の皆さんのご迷惑かと……それに始さんの服装にも問題があります
 これを朝倉さんや早乙女さんに目撃されると、マスターと始さんにとって非常に大きな問題になるかと思われます」
「む…」
「げ…」

そう言われれば…今の始の格好はあのガキ共が見れば確実に騒ぎの種になるだろう

足…裸足+サンダル
下半身…右膝部が1箇所破けているジーンズ
上半身…裸(所々修行で付けた小さな傷跡有)

それに私自身としても今の始の格好をガキ共に見せるつもりは毛頭無い、これは始を鍛えた私だけの特権だ

「ま…とりあえず入れ2人共、茶くらいは出すから」
「邪魔するぞ」
「お邪魔します」
「あいよー……それとエヴァ」
「何だ?」
「人の裸ジロジロ見てんなよ、スケベ」
「なっ///」
「図星だったんかよ…ったく別荘の風呂場で襲撃かけたといい今といい男の子の裸に興味のあるお年頃ってか?」
「別に…貴様の裸など…!」
「顔真っ赤にして言ったって説得力0なんだけども…とにかく上何か着てくるから
 エヴァ、茶々丸その辺で大人しく座ってろ」

そう言って始は奥の部屋に入っていくのを見届けた私は直ぐ顔に手を当てた
すると私の顔がハッキリと分かるほど熱くなっており、意識すると更に熱くなった気がした

「フッ…こんな小娘のような反応を私がするとはな…」
「…マスター?」

どうにも恥ずかしい……が悪くは無い気分だな





…なんで急にエヴァと茶々丸が来たんだ?
今日は日曜でなおかつ1日休み(広域指導員の仕事)だったから昼まで寝ていようと思っていたのに
どうしてチャイム連打っつー最悪な起こされ方で起きなきゃならねーんだよ

「…ま、とりあえず居間行くか。茶々丸はともかくエヴァは何するか分かったもんじゃない」

『近いうちに泣かす』…と心に決め俺はタンスに入っていたランニングシャツを着て、寝室からリビングに向かった

「お待たせ」
「うむ」
「お帰りなさいませ」

…なんでヒトん家に来てるのにこんなにもエラそうにしてるんだろう?ってか何時の間に茶淹れたんだよ?俺の分無いし

「始さんもお飲みになりますか?」
「…濃いめで」

ズズズ…

あぁ…相変わらず淹れ方上手いよなぁ…俺の部屋にあった安物の茶葉でさえこんなに美味く感じるんだからなぁ…

「…で?ヒトん家のチャイム連打してまで押しかけて何の用なんだ?」
「あぁ、これを見てくれ…」

そういってエヴァは机の上に一つの携帯を置いた…コレ、俺と同じ機種だな

「コレがどうしたんだ?」
「先日私が手に入れたものだが…正直使い方が分からん、教えて貰いに来た」

…あ?って事はナニかい?
携帯の使い方が分からんって事だけで休日に爆睡してた俺をムリヤリ起こしったってかい?

「帰れ」

俺はバッサリと言い切った
正直『良い』『悪い』を決め付けるのは好きでは無いんだが、コレに関して俺の言い分は間違いなく『良い』はずだ!

バンッ!

「何故だ!?」

テーブルを叩いて俺に問い詰めるエヴァ
倒れそうになった湯のみを茶々丸が見事にキャッチ………お見事

「あ?別に聞きに来るのは別に構わないけどよ!
 どうして朝っぱら、しかもたたき起こされた上で教えなきゃならねえんだ!?」
「本来ならお昼過ぎに伺う予定だったのですが…
 …マスターがお待ちになられる事が出来なかった為にこの時間になりました」
「―――茶々丸ぅ!!!巻いて!やる!巻いて!やるぞ!この!ボケ!ロボォ!」
「あぁ……そんなに巻かれては…」

いつの間にか持っていたゼンマイを茶々丸の後頭部にさして「!」が付く度に半回転づつ巻いていっている
…って茶々丸の動力ってゼンマイだったのか

「このっ!このっ!このっ!」
「ああああああ……」

これ、何時まで続くのかなぁ?誰か止めてくれる人居ないのかなぁ?





―――同時刻 麻帆良学園 女子寮 桜咲刹那(龍宮真名)の部屋

身だしなみ―――よし
チリカミ、ハンカチ―――よし
夕凪―――よし
お弁当―――よしっ!
時間―――まだ寝ているかも知れないが、いざとなれば始先生の携帯に連絡すればいい!!

「―――よし!」
「何が『よし』なんだい?刹那?」
「うわあぁっ!?龍宮!?」
「人の顔を見ていきなり叫ぶとはご挨拶だね?」

いきなり後ろから声をかけられれば誰だってこうなる!

「…で、話を戻すが何が『よし』なんだい?」
「…出掛ける前に確認をしていただけだ」
「そういえば、さっきおにぎりを作っていたな」
「今日は…少し離れた場所で鍛錬するからな…その為だ」
「鍛錬…ね」
「話は終わりか?そういう事だから今日私は昼はいらないからな」
「あぁ、わかったよ刹那」

―――バタン

はぁ、先日の件以来龍宮が妙に絡んで来るな…特に始先生関係で
…だが別にやましい考えなど無い、1人で鍛錬するよりも2人の方が効率も良いし
お弁当だって変にこった物にすると鍛錬の妨げになるから中の具を色々と変えただけにしたし
でも、突然押しかけてご迷惑ではないだろうか…?
いやいや始先生が「俺を頼れ」と仰ったんだし、ここは問題ないはずだ

※始が言ったのは「『大人を頼る』って事も覚えな」で「俺を頼れ」とはカケラも言ってない

「…もう着いてしまった」

同じ建物内の中にあるから当たり前なんだが…

「まずは呼び鈴を…」

ピンポーン

「誰だ!?」
「何でお前が反応すんだよ!?エヴァ!?…今行きまーす!」

始先生は起きている様で安心したが、何故エヴァンジェリンさんが始め先生の部屋に居る?

ガチャ

「お、桜咲か。おはようさん」
「お…おはようございます、始先生」

ドアを開けて出てきたのはランニングシャツとGパンの気軽な格好をした始先生だった

「始っ!追い出せ!」
「家主俺だぞ!エヴァ!!」

そして入ってもいないのに追い出そうとするエヴァンジェリンさんの声がした、恐らく茶々丸さんも一緒に居るのだろう
だが何より気になったのはエヴァンジェリンさんが始先生を呼び捨てで呼んだ事

「とりあえず中入りな、先客1人とうっさいの1人居るけどな」
「はい、お邪魔します」

部屋の中に入るとゼンマイを巻かれている茶々丸さんと肩車をしてゼンマイを巻いているエヴァンジェリンさんが居た
…茶々丸さんの動力はゼンマイだったのですか

「始、追い返せ」
「だから何でお前が俺ん家に来た客を追い返そうとしてんだよ?」

――!!
また呼んだ!?エヴァンゼリンさん!貴女は始先生とどういう関係なんですか!?
ウチだって始「先生」じゃなくて始「さん」って呼びたいのに!!

「んで刹那?何の用なんだ?朝から俺の部屋に来て?」
「あ…はい、始先生のご都合が良ければ今日1日私の鍛錬に付き合って頂きたかったのですが…」
「都合ねぇ…今日h「却下だ」…おおぃ!?」
「私が先に此処に来てお前に用事を頼んだだろうが!」
「アレが人に教えを請う態度かよ!?」
「態度だ!!」

……話の内容は見えないがどうやら先を越されたようだった
くっ…もう少し早く起きて準備していれば……

ぐぅぅぅ〜〜〜……

「「え?」」
「…あ」
「……。」

え?今のって?何の音?
そう疑問に思った直後、始先生が苦笑いしながら右手を上げて

「あはは…悪い悪い、今の俺だ。起こされてからまだ茶々丸が淹れたお茶しか飲んでないからなぁ」

―――今だっ!
先程私はエヴァンジェリンさんに先手を取られたが、コレなら遅れを取り戻せる…いや、追い抜ける!

「あの…始先生、良かったらおにぎり食べませんか?」

私が今日の昼の「お弁当」として持ってきたこのおにぎり
始先生と一緒に鍛錬が出来ない可能性が濃いこの状況、食べてもらうなら今しか無い!

「いいのか?それ弁当だろ?」
「いえ、元々多めに作ってありますから大丈夫です……それとも…駄目…ですか?」
「んな事は無い、食べて良いってんなら有りがたく頂くぜ…いただきます!」
「はい、どうぞ」

両手を合わせ、行儀良く「いただきます」と挨拶をした始先生を見ながら横目でエヴァンゲリンさんを見ると

「………。」

悔しそうに此方を睨んできている、先手を取られたお返しですよエヴァンゲリンさん

「むぐむぐむぐむぐ……刹那、このシーチキン美味いな。」
「はい、それにはマヨネーズの他に隠し味としてお醤油を入れているんですよ」
「和風って感じが良いな、コレ気に入ったよ」
「ありがとうございます!」

始先生から褒められてつい大き目の声で返事をしてしまった
だがこれもエヴァンジェリンさんには悔しさをひとしおさせる事になっていた様だった
…が、この後私とエヴァンジェリンさんとの立場が一気に逆転するとは欠片も思っていなかった

「うんうん、コレはかなり美味いな…ほら、エヴァも食ってみ」
「ふむ、貰おう―――む、確かに美味いな」
「お前食い過ぎだって、残りもう無いじゃねえか」

あ―――――っっっ!!!
そ、それはっ!?か、かか間接…キス!?そんな…羨まs……

「ふっ」

私の心の中を読み取ったかのようにエヴァンジェリンさんが私の方を向いて勝ち誇った顔を見せてきた…
な、なんの…まだ私は負けたわけでは……!



……

………





ずずっ……

桜咲から貰ったおにぎりを5つ程平らげて茶々丸が淹れてくれたお茶を啜って一息つき
「美味かった…」…と食後の余韻に浸り……たかった
…どうして浸れなかったかって?

「むむむむむ……」
「むむむむむ……」

…目の前で本気(マジ)のガンの飛ばし合いしてりゃあ浸れるものも浸れないさ

「始さん、お茶のおかわりはいかがですか?」
「……濃いめで」

茶々丸がさっきから何一つ変わらない表情で俺の湯飲みに新しいお茶を淹れてくれた
今俺の部屋にいる4人の中で誰が一番強いと聞かれれば俺は間違いなく茶々丸だと答えるだろう
…俺はこんな重っ苦しい空気の中なんざ1秒でも早く抜け出したい、例え弱虫と言われようとも抜け出したい!

「ぬぬぬぬぬ……」
「ぬぬぬぬぬ……」

…何時まで続くんだ?これ?





―――11:30 麻帆良学園 女子寮管理人室

拝啓
さわやかな秋晴れの日が続いております今日、皆様はいかがお過ごしでしょう?
ここ数日で木々もすっかり色が変わり散策をするには良い頃と存じますが夕立に降られて風邪などを引かれないようご注意下さい
此方でも部屋の窓から見える紅葉かとても綺麗です、直ぐにでも外に出かけたい気分ですが
もしかすると雨が降りそうな雰囲気になりそうなので出かけ…と言うか此処から一歩も動けません






………血の雨が降りそうなので





「お茶のおかわりはいかがですか?」
「……濃いめで」

桜咲から貰ったおにぎりを朝飯として貰った辺りから妙に睨み合っていて、お互い微動だにしてねぇ
きっと俺の見えない所で「オラオラオラ」とか「無駄無駄無駄」と叫びながらラッシュの突き速さ比べをしているんだろう
多分エヴァは「無駄無駄無駄」だな、吸血鬼だし…
しっかし、茶々丸は落ち着いてるよなぁ。自分で言うのも何だが、俺みたくトリップしていないし…って

「…お茶のおかわりはいかがですか?……お茶のおかわりはいかがですか?……お茶のおかわりはいかがですか?」

………。

「茶々丸―――――っ!!!???」

頼む!頼むから戻ってきてくれ!!俺をこんな状況の中で1人にしないでくれぇ―――!!!

ガクガクガク…

茶々丸の両肩を掴んで思いっきりシェイク
正直、OSとかが入っているであろう頭部を思いっきりシェイクするのはどうかと思うが
他に元に戻る可能性がある手段が考え付かなかった…

「各部チェック……オールグリーン……システム再起動します」
「おおぉっ!!」

復活する!?復活するのか!?

「おはようございます、始さん………マスターと桜咲さんは終わりましたか?」
「…どういう事?」
「はい、想定外の事態を回避する為に必要最低限の機能を残してスリープモードに入っていました」

…人それを逃避と言う
でも俺もそういう機能が正直欲しいと思った、かなりマジで

「しっかし…何時までもこのままって訳にもいかねえよなぁ……もうすぐ昼だし、飯にするか」
「昼食の準備をされるのですか?」
「ああ、飯食えばこの状況も解決できると思うしな」
「…?」
「美味い物を食った時、人は必ず幸せになれる…俺はそう信じて料理を作ってるんだ」
「幸せ…ですか?」
「俺は頭良く無いし正義の何とかでもない、せいぜい出来て目の前のケンカを納める位さ
 …で一番平和的な方法ってのが、俺の作った料理を食べてもらうって事」
「私もマスターの為にお食事を作っていますが……私はマスターを幸せに出来ているのでしょうか?」
「出来てるさ。あんだけ美味い料理とお茶を淹れれるんだから間違い無いって」
「はい…ありがとうございます」
「気にすんなっての。さーて、何作ろうかな…ってか材料あったか?」

…正直、礼なんてあんまりいわれた事無かったからかなり恥ずかしかった
後、見間違いかもしれないが礼を言っていた時の茶々丸は…ほんの少し微笑んでいた気がする



……

………

―――30分後

テーブルに4人分のオムライス(チキンライス比較的少なめ)が揃い、皆で食べた
現金なもので俺が作ったオムライスを見るや否や、さっきまでのピリピリした空気は綺麗さっぱり消えた
食べ始める時に茶々丸が「私はガイノイドですので食事の必要はありませんが…」なんて言ってたが却下した
ん?理由?そんなモン決まってるじゃないか「飯は皆で食った方が美味いから」だよ




あとがき

JOJOは第3部が一番大好きなS’です
「料理人見習い」…という有ったかどうか微妙な設定を今回なんとか出すことが出来ました
ぼのぼの…ではないですが始は大体こういう日々を麻帆良過ごしていきます

〈続く〉

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