―――午後12:05 麻帆良学園 食堂棟 中華屋台「超包子」

…むぐむぐ…むぐむぐ…ごくん

「…美味い」
「ありがとうございます」

タカミチさんお勧めの中華屋台「超包子」そこの肉まんを1つ平らげて口から出た嘘偽りの無い評価
肉まん1つがここまでの逸品で、他の料理もこの上なく美味い
俺もそれなりに料理は作れるが正直レベルが違う…と言うかここに来て1週間ちょい経つが1回もまともに料理を作ってない
(しようと思ったら辻斬られたし、エヴァん所での修行でボロボロだったし)
俺、麻帆良に来た目的見失って来てないか?正直少し…いやかなり不安になってきた…

「―あの」
「…ん?」
「管理人と指導員のお仕事大変かと思いますが、これを飲んで頑張って下さいね」

どうも悩んでいたのを見て心配してくれたのだろう「わたしのおごりです」と1杯のスープを差し出してくれた

「特製スタミナスープです」

特製と銘打つだけあって味もさることながら、一口飲む度に体から力が湧いて来るのが感じられた
こういう『よく気が利いて料理の上手な女の子』って、マジで嫁に欲しいんだけど…



……

………

スープを飲んだ後残りの肉まんも片付けて食後の散歩でも…と思い立ち上がった時

「んだコラぁ!?もっぺん言ってみろやぁ!!」
「あぁ!?ヤルってんかぁ!?」

…と久方ぶりに癒された気分だったのをものの見事にぶち壊してくれた奴等が居た

「上等だ…少し痛めに取り押さえてや「ドゴッ」…?」

音のした方を見るとさっきスープを奢ってくれた料理人の女の子と武器(名前知らん)を両手に持った
クリーム色の髪の女の子が立っていた、音はあの武器をコンクリの地面にぶつけた音だろう
なにやら急に回りがザワつき、「さっちゃん」とか「菲部長」とか聞こえたが…どっちがどっちなんだ?

「あんたたち、ここでのケンカはご法度だよ」

怒る…と言うより諭す、そんな雰囲気を感じる言葉(何やらバックにコアラが見えた様な…)
それまで一触即発だったグループが一気に和み、拳を収めた

「「「…さっちゃん」」」

そうか、料理人の方がさっちゃんっていうのか…覚えとこう
ケンカも未遂に終わった様だし、こりゃ俺の出番は無いな……と思っていたが
何処にでも空気を読めず、所構わず暴れるって馬鹿は居るようで

「邪魔すんな!!ガキィ!!」

自分の座っていた椅子を片手に2人の方に向かって行った

「あの…バカがっ」

俺は直ぐに『瞬動』を使って2人とKY君の間に立ち

「あっ」
「オオッ」

KY君の着ているシャツの襟を掴み上げて地面から50cm位持ち上げてやった

「お前、あそこで止めてりゃ見逃してたってのに…」

ここでは暴力はご法度だからガン付けるだけにして、そのまま後の2人に声をかけた

「2人とも怪我は無いか?」
「はい、だいじょうです」
「先生速いアルな、何カ武術でもやてるアルか?」

…おい、フェイとやらちゃんと会話しようぜ

「…2人とも無事だな」
「あ〜、ズルいアル〜答えるアル〜」

…お前が言うな
とにかく持ってた武器を下ろして手をバタバタさせている方は置いておくとして、コイツを指導室まで連行せねば
因みに俺は説教と言うより肉体言語で語る方が多いので
その辺は専らガンドルフィーニさん(この間学園長室に居たメガネの1人)に渡す様にしている
まぁ、この間の事を根に持ってるか持ってないかは別として仕事をする分にはかなり頼りになる人だ

「ったく、俺の昼休みを潰しやがって…」

などグチをこぼしながら未だにジタバタ暴れるKY君を掴み上げながら校舎内にある指導室に向かって行った
――後日一部始終を見ていた生徒が俺の事を『音速の指導員』と勝手に二つ名を付け、その日の内に学園内に浸透させられた





オオッ!あのセンセ速いアルな!
一見、活歩のような気がするアルがあのタイミングでは間に合わんアル
今は超とサツキがこち見てるから無理アルが、必ず近いうちに勝負するアルよ!!!

「あー…菲(フェイ)ちょといいカ?」

ワタシと同じで中国から来た超(チャオ)が話かけて来た

「どしたアル?」
「なに、さっきの事とあの此花先生の事ネ」
「あのセンセ此花いうアルか?」
「…先週自己紹介してたヨ」

…覚えてないアル

「話を戻すヨ…あの先生、先週桜咲サンと戦ってほぼ無傷で勝ったらしいヨ」
「ホントアルか!?」

あの刹那と戦ってほぼ無傷アルか〜…これは期待出来るアルよ!!

「それとナ、菲」
「…ン?まだあるのかアル?」
「あるヨ…寧ろこっちが本題ネ…」

…な、なんか急に黒くなってないカ?超?

「細かい事は省いテ、本題だけ言うネ…
 さっき錘(武器の名前)で砕いタ道路の修理代金、給料から引いておくヨ」
「ナッ…それは…」
「別に騒ぎを収めた事は無問題ネ、問題なのは止め方ヨ」
「ま、待つアルよチャ…「異議は認めないヨ」……ハイアル」

…うう、痛い出費アル





―――午後17:00 麻帆良学園女子中等部 タビデ像前

「桜咲から呼び出しか―――お礼参りとかじゃねえだろうなぁ?」

教会前の階段を下りながらふと頭に浮かんだ事を呟いた
因みに桜咲とはあの辻斬りの一件以来一度も会ってなく、連絡も今さっき来たのが始めてだった

「ってか何で俺の番号知ってたんだろ?…ジジイかタカミチさんかな?」

初日の朝に『連絡先』として学園長室で2人にも教えてたから、多分どちらかから聞いたんだろうな

「ダビデ像……ってのは……アレか」

今立っている地面から更に下る階段があり、それを降りきった所に像が建っていた
そしてその前には竹刀袋を担いだ桜咲が立っていて、こちらに気づいたらしく会釈をしてきた

「悪い、待たせたか?」

俺は会釈されてから階段を小走りで降りて桜咲に近づく

「…いえ、突然お呼び出しして申し訳ありませんでした」
「んや、気にすんな
 …でどんな用だ桜咲、相談事か?でも「勉強教えてください」ってのはちょいと勘弁な」

はっはっは…とマッチョな妖精さんの如く軽く笑っていると…

「此花先生はどうしてそんなに気楽に笑っていられるのですか!?」
「おぉっ!?」

突然、桜咲が声を張り上げた…周りに人が居たら確実に目立っていただろうな

「この辺一体に人払いの札を貼ってありますので多少の大声は大丈夫です…それと此花先生に見てもらいたい物があります」

そう言うと竹刀袋(多分中は刀)を立て掛け、ベストを脱いだ桜咲が…って脱いだ!?
ちょっ!お前!いきなりなにを仕出かすんよ!?

「…いきます」

俺の葛藤を他所に桜咲は意を決したかの様に呟き…

バサッ……!!

桜咲の背中から1対の純白の翼が飛び出してきた
…俺の『悪魔化』とはまた別の変身みたいだったがまず頭に浮かんだ言葉が「綺麗」の一言
吸い寄せられるかと錯覚するような深い純白の翼と開いた時に抜けたのであろう舞いながら地面に落ちていく羽根
それが桜咲の名前の通りの「桜の花弁」に見えて…俺は生涯初めて『言葉を失う』を体験していた

「これが私の…桜咲刹那という『化け物』の正体です
 先生から比べればこんな白い翼なんて大した事ないいでしょうけど…それでも私は
 この翼を先生の様に自分として受け入れること出来ないんです!…知られたく…ないんです…」

知られたくない…か、俺もそうだった…
親父や母さんに自分が『化け物』だという事を知られたく無かった、恐らく桜咲もそうなんだろう
それでも俺を呼び出して、自分のトラウマな部分を見せてくれた桜咲に対して俺は…俺の出来る事は…受け入れてやる事だけ
俺は俯いて震えている(恐らく泣きそうなのだろう)桜咲を出来るだけ優しく抱いて

「よく頑張ったな…」

…と一言だけ伝えた、すると

「う、うう…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ………」

やっぱり堪えてたんだろう、桜咲は堰を切ったように泣き出した

「なんで!?なんでウチはダメなん!?仲間に入れてくれんの!?どうして!?
 ウチの目!?ウチの髪!?それともこの翼があかんの!?白いから!?皆と違うから!?
 なぁ!教えて!!なんで!?なんでウチはあかんのぉ―――――!?」
「………。」

今は何も言わないでおいた方が良いだろうと思い、俺は泣いている桜咲の頭をゆっくりと撫で続けた
今までずっと我慢してきたらしく、来た時に見えていた夕日がほぼ沈んだ頃に泣き止み
更に落ち着くまで10〜15分位経った
…つまり今現在夕日は完全に沈み、辺りは暗くなっていた



……

………

「どーだ?落ち着いたか?」
「はい、ご迷惑をおかけしました…」
「気にすんなって」
「ですが…上着が…」
「ンなもんコレ一着しか無いって訳じゃないんだ、大丈夫だって」

…やれやれ、気にすんなって言ってるのになぁ

「桜咲、責任感が強いのは結構だが…あんまり強すぎるのもいただけないなぁ」
「う…」
「それにさっき翼を見せてくれた時、自分で『化け物』だって言ってたが、それはお前が決める事じゃないし、決めちゃいけない」
「え……?」
「あん時も言ったけど俺は『人間』だの『化け物』だのとは拘らない、拘るのは『此花始』であるかどうかだけ
 …それはお前にも言えるんだぜ、桜咲」
「私にもですか?」
「そ、噛み砕いて言うなら…
 お前が何をやりたいかは知らんけどもやりたい様にして後悔やらなんやらするな…って事さ」
「私の…したい事………それは…」
「別に今此処で言わなくても良いけどな、でもあれだけ泣く様な事が今まであったんだ
 実際の所したい事の2〜3はあるんだろ?それと…」

ツン…と右の人差し指で桜咲の眉間を突く

「あんまり眉間に皺寄せてっと可愛い顔も台無しになんぞ〜…綺麗の方が合ってるかな?顔立ち良いし」
「…………えええっ!!??」





う…ウチは今なんて言われたん?可愛い?綺麗?な、何を言ってるんや///

「ふ…ふざけないで下さい!」
「はっはっは、顔真っ赤にしても説得力無いって」

…確かに、今ウチは顔中が熱い
恐らく耳の先まで真っ赤になっているだろう…しかし突然あんな事言われて平気でいられる訳が…///



……

………

あれから3回ほどからかわれた後、私は何とか落ち着きを取り戻した
…いや、落ち着かなかったらまだ続いていたかもしれん

「…完全に落ち着いたみたいだから最後にするけども」

何か色んな意味で此花先生の表情が残念そうに見えるんですが…

「あの翼、桜咲は良く思っていないようだけれど…俺は好きだぞ、綺麗だった」
「―――ええっ!?」
「なんで白いのがダメなのかは分からんけどなぁ…アレでピンク――とかだったら何か違う気がするし」

それはそれでダメな気が…

「それに翼開いた時に抜けてた羽根は桜の花弁みたいで「ピリリリリ…」……電話?」

誰だ?こんな時に……って龍宮!?

「刹那!今何処にいる!?もうすぐ警備の時間だぞ!!」
「あっ…!!」

しまった…今何時なんだ?

「此花先生もまだ来ていないし…何処かで見かけたか?」

「実は目の前に居る」なんて龍宮に言ったら確実にいつも持っている銃で蜂の巣にされるだろう…
此花先生も「やべ…」と呟きながら額に手を当てていた、多分聞こえていたんだと思う

「今ダビデ像の所にいる…それと此花先生も今そっちに向かっている!」
「遅れたら覚悟して貰うぞ刹那、此花先生にもそう伝えておいてくれ!」

…龍宮の事だ本当に遅れたら情け容赦無いだろう

「…急ぎましょう」
「…おう」

此花先生も私の雰囲気を見て察したのか、かなり必死に見える
私は立て掛けておいた夕凪を取り、翼を戻して龍宮との集合場所に『全速力』で向かった…
結果、何とか間に合ったものの龍宮からの非難する目線が非常に痛かった、隣にいた此花先生も同様にかなり疲れた表情だ
私が呼び出したせいで申し訳ありませんでした…



……

………

それと…本当にありがとうございました「始」先生…




あとがき

人生アダ名なんて知らないうちに勝手に付いているもんだという話と刹那が翼の事を軽くカミングアウトするという話でした
正直もうちょっと引っ張った方が良かったんかな…と思ってたり、しなかったり
因みに古が持っていた武器の名前は「三国無双」で似たような武器が合ったので独断と偏見で当ててみました
間違ってたら生暖かくスルーしておいてください m(_ _)m

〈続く〉

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